説明

塗料

【課題】中性子フルエンスの連続的な位置分布を精度良く把握する。
【解決手段】塗料は、例えば原子力関連の燃料加工施設などにおいて、施設内および施設周辺の道路の路面や、施設の建屋表面や施設の壁面を覆う壁紙の表面や施設の外壁に設けられる外装材の表面や、施設に設置される機器の表面などに塗装される塗料である。塗料は、所定値以上の放射化断面積または中性子相互作用断面積を有する物質を所定重量濃度で含有し、この分析対象物質は、中性子の照射による放射化または前記中性子の照射による核分裂によって放射性物質を生成可能である。分析対象物質の所定重量濃度は、中性子発生源から塗装箇所までの距離および放射性物質の放射能および放射性物質から放射される放射線に対する所定の検出効率などに基づき設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば原子力関連施設などにおける中性子の放出を伴う異常時に中性子線量の位置分布を把握するために、露出した金箔およびカドミウムで包まれた金箔からなる測定用試料を予め複数の箇所に配置しておき、中性子の照射による放射化で生成される198Auから放射される放射線を測定することによって、複数の箇所毎の中性子フルエンスを把握する中性子線量測定方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、従来、例えば原子力関連施設などにおいては、中性子線の空間線量率を連続監視するための中性子線エリアモニタとして、複数の箇所にBF3計数管や3He比例計数管などの中性子検出器を設置する放射線管理方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−215247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係る中性子線量測定方法および放射線管理方法においては、測定用試料や中性子検出器が設置されている離散的な複数の位置での中性子フルエンスが把握されるだけであって、中性子フルエンスを測定可能な位置が予め限定されてしまい、中性子フルエンスの連続的な位置分布を精度良く把握することができないという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、中性子フルエンスの連続的な位置分布を精度良く把握することが可能な塗料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の請求項1に係る塗料は、所定値以上の放射化断面積または中性子相互作用断面積を有し、中性子の照射による放射化または前記中性子の照射による核分裂によって放射性物質を生成可能な物質を含有する。
【0007】
さらに、本発明の請求項2に係る塗料は、前記物質を所定重量濃度で含有する。
【0008】
さらに、本発明の請求項3に係る塗料は、中性子発生源周辺の機器表面および建屋表面および路面の少なくとも何れかに塗装され、前記所定重量濃度は、前記中性子発生源から塗装箇所までの距離および前記放射性物質の放射能および前記放射性物質から放射される放射線に対する所定の検出効率に基づく。
【0009】
さらに、本発明の請求項4に係る塗料は、少なくとも前記路面上に路面表示として塗装され、光の再帰反射特性を有する再帰反射材を含有し、前記物質は、前記再帰反射材に含有されている自然起源放射性物質である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に係る塗料によれば、中性子の照射によって放射性物質を生成可能な物質を含有することから、この塗料を連続的に塗装した位置周辺にて中性子の放出を伴う異常事象が発生した場合などにおいて、実際に塗装されていた塗料に対する放射線の検出結果と、実際に塗装されていた塗料と同一組成の塗料に所定中性子フルエンスの基準となる中性子照射を行なった後の放射線の検出結果とに基づき、実際に塗装されていた塗料に照射された中性子の中性子フルエンスを検出することができる。
これにより、中性子フルエンスの連続的な位置分布を容易に精度良く把握することができる。
【0011】
本発明の請求項2に係る塗料によれば、含有されている物質の所定重量濃度が既知であることから、この塗料を連続的に塗装した位置周辺にて中性子の放出を伴う異常事象が発生した場合などにおいて、実際に塗装されていた塗料に対する放射線の検出結果から、塗料に照射された中性子の中性子フルエンスを検出することができる。
これにより、中性子フルエンスの連続的な位置分布を容易に精度良く把握することができる。
【0012】
本発明の請求項3に係る塗料によれば、予め設定された所定の中性子発生源周辺の機器表面および建屋表面および路面の少なくとも何れかに塗装されることから、予め既知となる各塗装箇所毎の中性子発生源からの距離と、中性子の照射による放射化または核分裂によって生成される放射性物質の放射能と、放射性物質から放射される放射線に対する所定の検出効率とに基づき、中性子フルエンスを適切に検出可能な物質の含有量(所定重量濃度)を適正に設定することができる。
【0013】
本発明の請求項4に係る塗料によれば、例えば中性子発生源となる施設などの周辺道路の路面上に塗装される走行区分線などの路面表示に含有されるガラスビーズなどの再帰反射材にトリウムやウランなどの自然起源放射性物質を含有する鉱物を含ませることで、この路面表示を有する道路周辺にて中性子の放出を伴う異常事象が発生した場合などにおいて、塗料に照射された中性子の中性子フルエンスを検出することができる。
これにより、中性子フルエンスの連続的な位置分布を容易に精度良く把握することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る塗料について説明する。
本実施の形態による塗料は、例えば原子力関連の燃料加工施設などにおいて、施設内および施設周辺の道路の路面や、施設の建屋表面や施設の壁面を覆う壁紙の表面や施設の外壁に設けられる外装材の表面や、施設に設置される機器の表面などに塗装される塗料である。
【0015】
この塗料は、所定値以上の放射化断面積または中性子相互作用断面積を有する物質(分析対象物質)を所定重量濃度で含有し、この分析対象物質は、中性子の照射による放射化または前記中性子の照射による核分裂によって放射性物質を生成可能である。
【0016】
分析対象物質の所定重量濃度は、中性子発生源から塗装箇所までの距離および放射性物質の放射能および放射性物質から放射される放射線に対する所定の検出効率などに基づき設定されている。
【0017】
例えば、中性子の照射による放射化により生成される放射性物質から放射される放射線(例えば、γ線など)を、例えば半導体検出器(ゲルマニウム半導体検出器やシリコン半導体検出器など)などの放射線検出器および波高分析装置により測定する場合には、例えば所定放射化断面積(例えば、3000barn=3E−21cm2)以上の分析対象物質であって、例えばEu、Dy、Luなどの希土類元素や、In、Ir、Auなどの貴金属元素や、W、Cr、Mn、Co、Cuなどの金属元素などを、単体あるいは酸化物などの化合物として含む分析対象物質が、塗料に含有されていればよい。
【0018】
例えば第1実施例として、中性子発生源から200m離れた位置で20時間に亘って中性子が照射された場合の所定の中性子フルエンス(例えば、1×107n/cm2)に対して、塗料中に0.1wt%でEuが含有されている場合には、測定対象として塗装箇所から剥ぎ取られる100gの塗料中には0.1gのEuが存在し、このEu中の151Euのおおよその存在比η(例えば、0.5)および放射化断面積σ(=10000b=1E−20cm2)に基づき、生成放射能A(=3E−02Bq)の放射性物質である152Euが生成される。
【0019】
なお、生成放射能Aは、中性子束φ(n/cm2/s)と、放射化断面積σ(例えば、σ=10000b=1E−20cm2)と、ターゲットモル数M(=6.62E−04)と、アボガドロ数NA(=6E+23)と、対象核種の元素中存在比η(例えば、η=0.5)と、壊変定数λ(例えば、λ=ln(2)/365.25×24×3600×13.3)と、照射時間t(例えば、t=20×3600s)とに基づき、下記数式(1)に示すように算出される。
【0020】
【数1】

【0021】
そして、この152Euから放射されるγ線を、例えば通常の環境試料測定などで用いられる遮蔽体による所定の遮蔽環境下において、所定の検出効率(例えば、12%)のゲルマニウム半導体検出器および波高分析装置を用いて所定時間(例えば、80000s)に亘って測定すると、十分に定量可能な所定の計数値(例えば、96カウント)のγ線ピークが測定される。
【0022】
この第1実施例と同一の中性子発生条件および測定条件にて、十分に定量可能な所定計数値(例えば、50カウント)のγ線ピークが測定されるために要する塗料中のEuの含有量(例えば、所定重量濃度frac(wt%))と中性子発生源から塗装箇所までの距離との対応関係の例は、例えば下記表1に示す第2実施例のように記述される。
【0023】
【表1】

【0024】
なお、第1実施例と同一の中性子発生条件とは、中性子発生源から200m離れた位置で20時間に亘って中性子が照射されたときに所定の中性子フルエンス(例えば、1×107n/cm2)が得られた場合の中性子発生源の中性子束φ(n/cm2/s)によって、20時間に亘って中性子が照射される場合である。
【0025】
また、第1実施例と同一の測定条件とは、所定の遮蔽環境下において、所定の検出効率(例えば、12%)のゲルマニウム半導体検出器および波高分析装置を用いて所定時間(例えば、80000s)に亘って152Euから放射されるγ線を検出する場合である。
【0026】
上記表1に示す第2実施例によれば、中性子発生源からの距離が短い所定距離範囲(例えば、1m〜20m)において、施設に設置される機器の表面などに塗装される塗料中には、分析対象物質として、少なくとも所定重量濃度frac(例えば、frac=1.3E−08wt%〜frac=5.2E−06wt%)のEuが含有されていればよい。
【0027】
また、中性子発生源からの距離が中程度である所定距離範囲(例えば、5m〜100m)において、施設の建屋壁面などに塗装される塗料中には、分析対象物質として、少なくとも所定重量濃度frac(例えば、frac=3.2E−07wt%〜frac=1.3E−04wt%)のEuが含有されていればよい。
【0028】
また、中性子発生源からの距離が長い所定距離範囲(例えば、50m〜500m)において、施設内の道路の路面などに塗装される塗料中には、分析対象物質として、少なくとも所定重量濃度frac(例えば、frac=3.2E−05wt%〜frac=3.2E−03wt%)のEuが含有されていればよい。
【0029】
すなわち、塗料に含有される分析対象物質の所定重量濃度は、中性子発生源から塗装箇所までの距離および中性子の照射に起因する放射化あるいは核分裂により生成される放射性物質の放射能および放射性物質から放射される放射線に対する所定の検出効率に基づき設定されている。
【0030】
また、少なくとも施設内および施設周辺の道路の路面上に路面表示として塗装される塗料に対しては、この塗料中に含まれる光の再帰反射特性を有する再帰反射材(例えば、ガラスビーズ)に、例えばトリウムやウランなどの自然起源放射性物質を含有する鉱物などが、分析対象物質として含有されていてもよい。
【0031】
また、塗料に含有される分析対象物質は、例えば塗料の顔料として含まれていてもよいし、あるいは、例えば塗料の顔料以外の構成物として含まれていてもよいし、あるいは、例えば塗料に対する不純物として含まれていてもよい。
【0032】
また、塗料に含有される分析対象物質は、例えば予め塗料の塗装前に塗料中に含まれていてもよいし、あるいは、例えば塗料の塗装時あるいは塗装後に混入されてもよい。
【0033】
上述したように、本実施の形態による塗料によれば、塗料に含有されている分析対象物質の所定重量濃度が既知であることから、この塗料を連続的に塗装した位置周辺にて中性子の放出を伴う異常事象が発生した場合などにおいて、実際に塗装されていた塗料に対する放射線の検出結果から、塗料に照射された中性子の中性子フルエンスを検出することができる。
これにより、中性子発生源周辺に塗料を塗装しておき、必要に応じて塗料に対して放射線の測定を行なうことで、費用が嵩むことを防止しつつ、中性子フルエンスの連続的な位置分布を容易に精度良く把握することができる。
【0034】
さらに、塗料は、予め設定された所定の中性子発生源周辺の機器表面および建屋表面および路面の少なくとも何れかに塗装されることから、予め既知となる各塗装箇所毎の中性子発生源からの距離と、中性子の照射による放射化または核分裂によって生成される放射性物質の放射能と、放射性物質から放射される放射線に対する所定の検出効率とに基づき、中性子フルエンスを適切に検出可能な分析対象物質の含有量(所定重量濃度)を適正に設定することができる。
【0035】
さらに、例えば中性子発生源となる施設などの周辺道路の路面上に塗装される走行区分線などの路面表示に含有されるガラスビーズなどの再帰反射材にトリウムやウランなどの自然起源放射性物質を含有する鉱物を含ませることで、この路面表示を有する道路周辺にて中性子の放出を伴う異常事象が発生した場合などにおいて、塗料に照射された中性子の中性子フルエンスを検出することができる。
これにより、中性子フルエンスの連続的な位置分布を容易に精度良く把握することができる。
【0036】
なお、上述した実施の形態において、塗料は分析対象物質を所定重量濃度で含有するとしたが、これに限定されず、例えば分析対象物質の含有量が不定であってもよい。
【0037】
この場合には、塗料に含有されている分析対象物質の重量濃度が未知であることから、この塗料を連続的に塗装した位置周辺にて中性子の放出を伴う異常事象が発生した場合などにおいて、実際に塗装されていた塗料に対する放射線の検出結果と、実際に塗装されていた塗料と同一組成の塗料に所定中性子フルエンスの基準となる中性子照射を行なった後の放射線の検出結果とに基づき、実際に塗装されていた塗料に照射された中性子の中性子フルエンスを検出することができる。
これにより、中性子フルエンスの連続的な位置分布を容易に精度良く把握することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定値以上の放射化断面積または中性子相互作用断面積を有し、中性子の照射による放射化または前記中性子の照射による核分裂によって放射性物質を生成可能な物質を含有することを特徴とする塗料。
【請求項2】
前記物質を所定重量濃度で含有することを特徴とする請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
中性子発生源周辺の機器表面および建屋表面および路面の少なくとも何れかに塗装され、
前記所定重量濃度は、前記中性子発生源から塗装箇所までの距離および前記放射性物質の放射能および前記放射性物質から放射される放射線に対する所定の検出効率に基づくことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗料。
【請求項4】
少なくとも前記路面上に路面表示として塗装され、光の再帰反射特性を有する再帰反射材を含有し、
前記物質は、前記再帰反射材に含有されている自然起源放射性物質であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1つに記載の塗料。

【公開番号】特開2012−172017(P2012−172017A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33602(P2011−33602)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(710002462)セイコー・イージーアンドジー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】