説明

塗材組成物配合用の模様形成物群

【課題】(1)塗布作業に至るまでの形状保持と(2)塗布作業における容易な崩壊とを両立しつつ、(3)容易かつ安価に製造することができる模様形成物群を提供する。
【解決手段】寒天によるゲル化物である模様形成物Qを複数個含んでなる塗材組成物配合用の模様形成物群である。異なる色彩の模様形成物Qを含んでなるものであっても、模様形成物Qが顔料又は着色剤を含むものであっても、模様形成物Qの少なくとも一部が粉体又は粒体の骨材を含むものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗材組成物配合用の模様形成物群に関し、より詳細には、多様な模様を有する塗膜が一回の塗布で形成される塗材組成物に配合される模様形成物群に関する。本発明の塗材組成物配合用の模様形成物群を配合した塗材組成物は、被塗布物への塗布工程において加わる力によって模様形成物群を構成する模様形成物が崩れたり潰れることで塗布面に不規則かつ多様な模様を形成することができる。
【背景技術】
【0002】
一回の塗布で多数の色合いが複合した多彩な意匠塗膜を形成する多彩模様塗材としては、様々なものが提案されてきたが、その中の1種類として、塗膜を形成する塗膜形成組成物中に、塗膜形成組成物が形成する塗膜とは異なる色彩を呈する複数の模様形成物(模様形成物群)を配合した塗材組成物がある(例えば、特許文献1及び特許文献2等)。
【0003】
特許文献1は、「塗料組成物のうち、一回の塗付により多彩模様塗膜を形成する塗料は、多彩模様塗料と呼ばれ、JISK 5667に規定されている。この規定によると、多彩模様塗料は液状またはゲル状の、2色以上の色の粒が懸濁した構成となっている。」(特許文献1の段落番号0002)もので、「多彩模様塗料はその構成中の液状またはゲル状の、2色以上の色の粒が潰れて模様を形成する」(特許文献1の段落番号0004)ものを説明している。
【0004】
特許文献2は、「新規な構成の水系塗料組成物及びそれを使用する多彩模様形成塗装方法を提供する」(特許文献2の段落番号0007)ためになされたものであり、具体的には「水系ベース(地色)塗料の水分散媒中にカプセル塗料を含有する塗料組成物であって、カプセル塗料は、カプセル膜内に着色塗料が封入され(以下、当該封入塗料を「封入着色塗料」という。)、カプセル膜が塗布作業時の外力により破損する強度を有するものであることを特徴とする。本構成とすることにより、塗布作業時に塗布圧等の外力(例えば塗布圧)によりカプセル塗料のカプセル膜が破損して内部の封入着色塗料が流出ないし飛散してベース塗膜上に多彩色の模様を形成することが可能である。」(特許文献2の段落番号0009〜0010)ものを開示している。
【0005】
また、本願出願人は、「建築物の壁面等を天然の御影石調に仕上げる、1回塗り、1パッケ−ジ型の塗材を得る」(特許文献3の要約の目的)ために、「柔軟性、靱性がある3色以上の樹脂フレ−ク群と、乾燥、硬化するとぼぼ無色透明になる結合材とを混練してなる。樹脂フレ−クは、不定形、ランダムな大きさで、外縁へ向かって連続的に薄くなる周端部を有し、1片内でも1片毎にも肉厚が不均一で、御影石の成分の粗粒に似た色調を有する。樹脂フレ−クの周端部が外縁へ向かって連続的に薄いため、塗布したとき、その重なり部分で不自然な段差がなく、又肉厚の不均一さから天然の御影石と酷似した外観、質感が得られる。さらにその柔軟性により塗布時に必要な変形をするので作業性がよく、誰でもバラツキ、色ムラなしに仕上げられる。」(特許文献3の要約の構成)発明を以前特許出願し、特許第2832424号として特許された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−207126号公報(例えば、要約、発明の詳細な説明中の段落番号0001〜0004等)
【特許文献2】特開2006−63213号公報(例えば、要約、発明の詳細な説明中の段落番号0001〜0010、第1図、第2図等)
【特許文献3】特開平9−3368号公報(例えば、要約、発明の詳細な説明中の段落番号0001、0027〜0038、第1図〜第3図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2に開示されたように、塗膜を形成する塗膜形成組成物中に、塗膜形成組成物が形成する塗膜とは異なる色彩を呈する複数の模様形成物(模様形成物群)を配合した塗材組成物(多彩模様塗材)が知られていたが、これに配合される複数の模様形成物(模様形成物群)は、(1)製造、貯蔵及び運搬等の、塗布作業に至る前段階においては形状が保持され、(2)塗布作業においては容易に潰れたり崩れること(以下、「崩壊」という。)で模様を形成し、そして(3)容易かつ安価に製造できるものであることが好ましい。
しかしながら(1)塗布作業に至る前段階における形状保持と、(2)塗布作業における容易な崩壊と、は模様形成物の物性として両立することが困難であり(通常、(1)塗布作業に至るまでの形状保持性と、(2)塗布作業における容易な崩壊と、は相反する要素であり、一方を向上させれば他方は低下する関係にある。)、これらを両立することができる模様形成物(模様形成物群)が待ち望まれていた。そして、特許文献2における模様形成物たるカプセル塗料は、カプセル膜内に着色塗料を封入する必要があることから容易かつ安価に製造できるものではなかった。
【0008】
そこで、本発明では、(1)塗布作業に至るまでの形状保持と(2)塗布作業における容易な崩壊とを両立しつつ、(3)容易かつ安価に製造することができる模様形成物群を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、塗膜を形成する水系塗材からなる塗膜形成組成物に配合されて模様形成用の塗材組成物を構成することができ、(1)塗布作業に至るまでの形状保持と(2)塗布作業における容易な崩壊とを両立しつつ、(3)容易かつ安価に製造することができる模様形成物群(複数個の模様形成物)を開発すべく鋭意研究を行った。その結果、本発明者は、寒天によるゲル化物を模様形成物とすることで、これら(1)〜(3)を満足する模様形成物群を形成できることを見いだし本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の塗材組成物配合用の模様形成物群(以下、「本模様形成物群」という。)は、寒天によるゲル化物である模様形成物(以下、「本模様形成物」という。)を複数個含んでなる塗材組成物配合用の模様形成物群である。
寒天によるゲル化物である模様形成物は、塗材組成物を製造する際に塗膜形成組成物に混合される混合工程、貯蔵及び運搬等の塗布作業に至る前段階においては潰れたり崩れたりしにくく形状が保持されやすいが、塗材組成物の塗布作業において鏝等によって力(主として剪断力)が加わると容易に崩壊する。そして、寒天は容易かつ安価に入手でき毒性もなく、寒天ゲルの製造は簡単に行うことができるので、容易かつ安価に模様形成物群(複数個の模様形成物)を製造することができる。さらに、寒天によるゲル化物は、水系塗材からなる塗膜形成組成物に安定的に分散される。
以上のように、本模様形成物群は、塗膜を形成する水系塗材からなる塗膜形成組成物が形成する該塗膜と異なる色彩を呈するようにすれば、塗膜形成組成物と混合することで模様形成用の塗材組成物を形成でき、該塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布すると、それに含まれる本模様形成物が容易に崩壊することで、塗膜形成組成物が形成する塗膜とは異なる色彩を呈し模様を形成することができる。そして、本模様形成物群は、容易かつ安価に製造することができると共に、塗布作業に至るまでは模様形成物の形状がうまく保持されるので(塗布作業前に模様形成物が潰れたり崩れることで模様がうまく形成されなくなる問題を防止又は減少させる。)、塗布作業にて模様形成物がうまく崩壊し、崩壊した模様形成物によって塗膜形成組成物が形成する塗膜とは異なる色彩を呈し模様を形成できる。
【0011】
本模様形成物群においては、異なる色彩の模様形成物を含んでなるものであってもよい。
こうすることで本模様形成物群が、塗膜を形成する水系塗材からなる塗膜形成組成物が形成する該塗膜とは異なる色彩を呈するようにすれば、本模様形成物群と塗膜形成組成物とを混合して形成した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布すると、それに含まれる本模様形成物が、異なる色彩を呈し模様を形成することができる。
なお、本模様形成物群が、異なる色彩の模様形成物を含むとは、本模様形成物群の少なくとも1の模様形成物が他の1の模様形成物と色彩が異なることをいい、本模様形成物群を構成する模様形成物全てが互いに異なる色彩であってもよいが、同色の模様形成物を含むものであってもよい(例えば、本模様形成物群を構成する模様形成物15個が、同じ赤色の模様形成物10個と、同じ青色の模様形成物5個と、からなるような場合であってもよい。)。
【0012】
本模様形成物群においては、模様形成物が、顔料又は着色剤を含むものであってもよい。
こうすることで、本模様形成物群と塗膜形成組成物とを混合した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布した際、模様形成物に含ませる顔料又は着色剤によって、模様形成物に所望の色彩を呈させることができ、所望の色彩の模様をうまく形成することができる。
【0013】
本模様形成物群においては、模様形成物の少なくとも一部が、粉体又は粒体の骨材を含むもの(以下、「骨材使用本模様形成物群」という。)であってもよい。
粉体又は粒体の骨材を含む模様形成物は、製造、貯蔵及び運搬等の塗布作業に至る前段階においては形状が保持されやすいが、本模様形成物群と塗膜形成組成物とにより形成した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布する際には、骨材によって模様形成物の粘りが抑えられ容易な崩壊を生じ模様をうまく形成することができる。
模様形成物に配合する粉体又は粒体の骨材としては、砂、雲母粉、真珠粉等を例示的に挙げることができ、さらに骨材の粒径としては、あまり大きいと模様形成物に包含されるのが難しくなり、あまり小さいと上述した塗布工程での崩壊性をうまく奏することができないので、これらを両立する範囲とされることが好ましく、通常、下限として、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上であり、上限として、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下である。なお、ここでの骨材の粒径は、JISZ8801−1に規定される金属製網ふるいの方法によって測定したものをいう。
そして、模様形成物に配合する骨材の量は、あまり多いと模様形成物に包含させるのが難しくなり、あまり少ないと塗布工程での崩壊性をうまく奏することができないので、これらを両立する範囲とされることが好ましく、通常は模様形成物の全体質量wt(水分を除いた乾燥質量)に配合される骨材の質量wb(水分を除いた乾燥質量)の割合(wb/wt)として、下限として、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、上限として、好ましくは0.98以下、より好ましくは0.97以下である。
【0014】
骨材使用本模様形成物群の場合、骨材を含まない模様形成物を含むものであってもよい。
本模様形成物群と塗膜形成組成物とにより形成した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布する際には、骨材によって模様形成物の粘りが抑えられ容易な崩壊を生じるので、本模様形成物群を構成する模様形成物が骨材を含むものと含まないものとが存在すれば、塗布作業において骨材を含有する模様形成物と骨材を含有しない模様形成物との間で崩壊の状態に差が生じる。このため骨材使用本模様形成物群が骨材を含まない模様形成物を含めば、模様形成物同士の間で崩壊状態が異なり、変化に富む模様を形成することができる。そして、骨材を含有する模様形成物と骨材を含有しない模様形成物とを含む模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布して形成される塗膜表面が、骨材を含有する模様形成物が存在する部分は骨材により粗さが生じるが、骨材を含有しない模様形成物が存在する部分は骨材による粗さが生じないので、塗膜表面の状態を変化に富むものとすることもできる。
【0015】
骨材使用本模様形成物群の場合、骨材を含む模様形成物が呈する色彩と該骨材の色彩とが同系色であってもよい。
こうすることで、骨材を含む模様形成物を含む模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布した際、模様形成物が呈する色彩と、該模様形成物が含む骨材が呈する色彩と、が同系色であるので、塗布によって形成される塗膜において近接する骨材とそれが含まれていた模様形成物とが同系色であることから違和感のない模様を形成することができる。
なお、両色彩が同系色とは、マンセル表色系の色相環(10色相)の色配置において、両色彩の一方が属する色相である一方色相と、両色彩の他方が属する色相である他方色相と、が(イ)一方色相と他方色相とが同一の色相である場合、(ロ)一方色相と他方色相とが隣り合う色相である場合、(ハ)一方色相と他方色相とが間に1の別の色相を挟んでいる場合、の(イ)、(ロ)及び(ハ)のいずれかであることを言うが、好ましくは(イ)又は(ロ)のいずれかであり、最も好ましくは(イ)である。
【0016】
本模様形成物群においては、模様形成物が、抗菌性の添加剤を含むものであってもよい。
こうすることで模様形成物の保存性を向上させ、本模様形成物群の流通や使用を容易ならしめる。
具体的には、抗菌性の添加剤としては、寒天に添加できる種々のものを用いることができ、例えば、防腐剤、防かび剤、抗菌剤等を例示できる。これら添加剤の添加量はあまり少ないと添加剤の目的が十分達成できず、あまり多いと寒天によるゲル化物である模様形成物の形状保持性が低下する等の問題が生じうるので、これらを両立するように適宜決定されればよい。
【0017】
本模様形成物群においては、剪断強度が異なる模様形成物を含んでなるものであってもよい。
こうすることで本模様形成物群と塗膜形成組成物とにより形成した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布する際に、異なる剪断強度の模様形成物同士の間で崩壊の状態に差が生じる。このため本模様形成物群が剪断強度が異なる模様形成物を含めば、模様形成物同士の間で崩壊状態が異なり、変化に富む模様を形成することができる。
また、模様形成物の剪断強度が異なるとは、静止面(壁面)と、静止面に対して平行方向に移動する移動面(鏝面)と、の間に挟まれた場合の崩壊の程度が異なることをいう。
なお、本模様形成物群が、剪断強度が異なる模様形成物を含むとは、本模様形成物群の少なくとも1の模様形成物が他の1の模様形成物と剪断強度が異なることをいい、本模様形成物群を構成する模様形成物全てが互いに異なる剪断強度を有するものであってもよいが、同じ剪断強度を有する模様形成物を含むものであってもよい(例えば、本模様形成物群を構成する模様形成物15個が、同じ第1の剪断強度の模様形成物10個と、同じ第2の剪断強度(第1の剪断強度とは異なる)の模様形成物5個と、からなるような場合であってもよい。)。
【0018】
本模様形成物群においては、模様形成物が5〜40℃の範囲で安定なものであってもよい。
本模様形成物群は、塗膜形成組成物とにより模様形成用の塗材組成物を形成するのに用いられるので、通常の塗料等が貯蔵、運搬及び塗布されるのと同様の環境に暴露されても大きな変化を生じないことが好ましい。寒天によるゲル化物である模様形成物に大きな影響を与える環境要因の一つは温度変化であり、通常の貯蔵、運搬及び塗布される場合には5℃〜40℃の範囲が想定され、かかる温度範囲において模様形成物が安定であることが好ましい。なお、かかる温度範囲で安定とは、該温度範囲内における温度変化によって、著しい変形や溶解等のような不可逆変化を生じないことをいう。
【0019】
本模様形成物群においては、最大寸法が異なる模様形成物を含むものであってもよい。
模様形成物の寸法とは、模様形成物の外面に接するように模様形成物を挟む平行な2平面間の距離をいい、最大寸法とは、該平行な2平面に対し全ての方向に模様形成物を向けたときの寸法の最大値をいい、そして最小寸法とは、該平行な2平面に対し全ての方向に模様形成物を向けたときの寸法の最小値をいう(例えば、模様形成物が半径rの球であれば、最大寸法と最小寸法とのいずれも2rである。そして、模様形成物が1辺zの立方体であれば、最大寸法は30.5zであり最小寸法はzである。)。
このように本模様形成物群が最大寸法が異なる模様形成物を含めば、本模様形成物群と塗膜形成組成物とにより形成した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布する際に模様形成物同士の間で崩壊の状態に差が生じるので、変化に富む模様を形成することができる。
なお、本模様形成物群が、最大寸法が異なる模様形成物を含むとは、本模様形成物群の少なくとも1の模様形成物が他の1の模様形成物と最大寸法が異なることをいい、本模様形成物群を構成する模様形成物全てが互いに異なる最大寸法を有するものであってもよいが、同じ最大寸法を有する模様形成物を含むものであってもよい(例えば、本模様形成物群を構成する模様形成物15個が、同じ第1の最大寸法の模様形成物10個と、同じ第2の最大寸法(第1の最大寸法とは異なる)の模様形成物5個と、からなるような場合であってもよい。)。
【0020】
本模様形成物群においては、模様形成物の最小寸法が2〜8mmであってもよい。
ここにいう最小寸法とは、前述の通りである。
この最小寸法があまり小さいと本模様形成物群と塗膜形成組成物とにより形成した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布する際に模様形成物がうまく崩壊しない問題や塗布作業に至るまでの形状保持性が低下する問題が生じ、最小寸法があまり大きいと塗布作業が困難になるので、これらを両立する範囲とされてもよく、通常は、好ましくは2mm以上であり、より好ましくは3mm以上であり、そして好ましくは8mm以下であり、より好ましくは6mm以下である。
【0021】
本模様形成物群においては、模様形成物の最大寸法が5〜20mmであってもよい。
ここにいう最大寸法とは、前述の通りである。
この最大寸法があまり小さいと本模様形成物群と塗膜形成組成物とにより形成した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布する際に模様形成物がうまく崩壊せず、最大寸法があまり大きいと塗布作業が困難になるので、これらを両立する範囲とされてもよく、通常は、好ましくは5mm以上であり、より好ましくは6mm以上であり、そして好ましくは20mm以下であり、より好ましくは15mm以下である。
【0022】
本模様形成物群においては、模様形成物は寒天によるゲル化物であるので、貯蔵や運搬に際しては模様形成物を乾燥させて乾燥物(キセロゲル)としておき、塗膜形成組成物と模様形成用の塗材組成物を構成する使用時に水分を与えて寒天によるゲル化物(膨潤物)に戻すこともできる。
【0023】
本模様形成物群は、塗膜を形成する水系塗材からなる塗膜形成組成物と混合し塗膜形成組成物中に分散させることで模様形成用の塗材組成物を形成するのに用いることができ、該塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布することで、該塗材組成物に含まれる本模様形成物が崩壊することで、塗膜形成組成物が形成する該塗膜とは本模様形成物が異なる色彩を呈することによって、該塗材組成物が塗布された面に多様な模様を形成することができる。
即ち、本模様形成物群が配合された模様形成用の塗材組成物(以下、「本組成物」という。)は、塗膜を形成する水系塗材からなる塗膜形成組成物と、塗膜形成組成物中に分散され、塗膜形成組成物が形成する該塗膜とは異なる色彩を呈する本模様形成物群と、を含んでなる模様形成用の塗材組成物である。
本組成物を構成する塗膜形成組成物は、塗膜を形成する水系塗材を種々用いることができ特に限定されるものではないが、例えば、特許第2832424号の結合材として例示したエマルジョンタイプ(アクリル樹脂系、アクリルスチレン共重合系、ビニルヴァ−サテ−ト系、酢酸ビニル共重合系、各種合成ゴムラテックス、及びウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、無溶剤系のウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコ−ン樹脂、コロイダルシリカ、珪酸ソ−ダ系)のものや、JISA-6909(建築用仕上塗材)に規定される合成樹脂溶液系を除く各種主材を、所望の色調、質感、肌触り感などに応じて調製し、自由に用いてもよい。
また、本組成物を構成する塗膜形成組成物は、粘度が低すぎると本模様形成物を本組成物中にうまく保持することができず、逆に粘度が高すぎると塗装作業が困難になったり、本模様形成物を塗膜形成組成物に混合する際に本模様形成物が崩れやすくなるので(塗布作業に至るまでの形状保持性低下)、これらを両立する程度の粘度を有することが好ましく、通常は、塗膜形成組成物が鉛直な平面に厚さ1〜7mmにて塗布可能な程度の粘度とされてもよい。
【0024】
本組成物においては、前記塗材組成物(質量W)中の模様形成物群(質量w1)の質量比(w1/W)が0.03〜0.15であってもよい。
本組成物(前記塗材組成物)中に占める本模様形成物群の割合は、あまり低いと本模様形成物が形成する模様が十分に形成されず、逆にあまり高いと本組成物の塗布作業性が悪化(安定して塗膜が形成されにくくなる)するので、これらを両立する範囲とされることが好ましい。本組成物(前記塗材組成物)全体の質量をW(g)(水分を含む)とし、それに含まれる本模様形成物群の質量をw1(g)(水分を含む)としたときの質量比(w1/W)は、通常は、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.05以上であり、そして好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.10以下である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例における概略の実験操作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本模様形成物群が配合された模様形成用の塗材組成物(本組成物)は、一回の塗布で不規則で様々な模様を面(塗布面)に形成するために広く用いることができ、塗布面の種類や場所、本組成物によって形成される塗膜の厚さ、色彩及び面積、模様の形状や大きさ等に関し何ら制限されるものではないが、後述するように、近年需要が多い大理石(マーブル)やライムストーン等と呼ばれる天然の石灰岩系の建築用石材や材木に特徴的な層状模様やまだら模様、そして焼成煉瓦などの窯変模様に近似する多彩模様を、建築物の壁や柱や床を塗布面として形成するために好適に用いることができる。とりわけ本組成物は、建築施工現場において1パッケージ型の塗材として、1回塗りでこれらの模様を形成でき、極めて便利に用いることができる。
【0027】
石灰岩系の建築用石材や材木及び焼成煉瓦などに見られる多彩色の層状模様やまだら模様及び窯変模様は、その生成過程の不思議さを感じさせ、多くの人に好感される豊かな質感があるので、原石、原木を切断加工した板材や焼成煉瓦は、建築物の内外壁、柱及び床の美装材として、日本では御影石と呼称される天然の花崗岩系建材と同様に広く使われている。
しかしながら本当の建築用石材、材木及び焼成煉瓦を用いることは費用等の点から困難なことがあり、これらの天然の石灰岩系の建築用石材や材木に特徴的な層状模様やまだら模様そして焼成煉瓦などの窯変模様を、本組成物を用いて得ることができ、かかる点からも本組成物は極めて有用なものである。
【0028】
本模様形成物群を構成する個々の本模様形成物は、寒天によるゲル化物であるが、寒天のゲル化物は、昔から食されてきた「蜜豆」の中に直方体形状のものが多数含まれている。液体内に投入された寒天のゲル化物は、撹拌に対しては比較的強く形状が保持されやすいが、鏝によって擦るとその剪断力によって容易に崩れたり潰れたりちぎれることを本発明者は見いだした。さらに、寒天のゲル化物は顔料又は着色剤により容易に着色でき、その着色した寒天のゲル化物を鏝によって擦ると、それぞれのゲル化物が崩れたり潰れたりちぎれることにより、大小の色の粒が層状、斑状又は連続した斑点状となって、時にはそれらが混ざり合いながら多彩模様を形成することも見いだし、本模様形成物として使用することを考え出した。本模様形成物が呈する色彩、寸法及び形状等を適宜選択すれば、本模様形成物が配合された本組成物を鏝によって擦りつつ塗布すると、それぞれの本模様形成物(ゲル化物)が崩れたり潰れたりちぎれると共に、それらが塗膜形成組成物が形成する塗膜により固着されることで、層状模様、まだら模様あるいは窯変模様などの多彩模様を形成する。
【0029】
本模様形成物群を構成する個々の本模様形成物は寒天によるゲル化物であり、寒天のゲル化物は、鉛直な平面に厚さ1〜7mmにて塗布可能な程度の粘度を有する塗膜形成組成物との混合(混練)においても、貯蔵や運搬時の温度においても塗装作業時の気温においても、塗膜形成組成物(水系塗材)に含まれる水や溶媒、添加剤に不溶であると共に、その形状や大きさが保たれやすい一方、鏝塗りの剪断力によってはその形が崩れ、ちぎれ易く、5〜40℃程度の温度範囲でこの性状を保持するので、本模様形成物として大変適している。
本模様形成物の調製に適した寒天の品質や配合量は適宜選択可能であり、さらに用いる寒天としては固形寒天でも粉末寒天でも良い。そして本模様形成物に適した寒天の配合量は、(1)塗布作業に至るまでの形状保持と、(2)塗布作業における容易な崩壊と、を所望の程度に両立する範囲(寒天配合量が増加すると(1)は満たされやすいが(2)は満たされにくくなるが、逆に寒天配合量が減少すると(1)は満たされにくくなるが(2)は満たされやすくなる。)とされればよいが、通常、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは2重量%以上であり、そして好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは4重量%以下である(いずれも水分を含んだ本模様形成物(質量v1(g))におけるそれに配合された寒天の乾燥質量(v2(g))の重量%:(100×v2/v1))。
【0030】
そして本模様形成物群が、異なる色彩を呈する模様形成物を含むようにすれば、本模様形成物群と塗膜形成組成物とを混合して形成した模様形成用の塗材組成物を鏝等によって力(主として剪断力)を加えつつ塗布すると、それに含まれる本模様形成物が、互いに異なる色彩を呈し多彩な模様を形成することができる。
【0031】
本模様形成物が、顔料又は着色剤を含むようにすれば所望の色彩の模様をうまく形成することができる。
顔料や着色料としては、体質顔料も含め、塗料に通常使用されるものを使用することができるが、本組成物が建築物外部に用いられる場合は、耐候性にも注意して選択することが好ましい。また、本模様形成物に含まれる寒天と好ましくない作用(例えば、化学反応や物理反応等)を生じるものは使用しない方が好ましい。
【0032】
本模様形成物の少なくとも一部が、粉体又は粒体の骨材を含むようにすれば、(1)塗布作業に至るまでの形状保持と(2)塗布作業における容易な崩壊とを両立することに資することができることに加え、有色の骨材を用いれば、本模様形成物に色彩を付与できるので、所望の2色以上の異なる色の本模様形成物を得るのにも役立つ。さらに、選択する骨材の粒度によって本模様形成物の粗さや質感(本模様形成物が存する塗膜の粗さや質感に影響する)を調整することができる。
用いる骨材としては、天然骨材、人工骨材、軽量骨材などを例示できるが、雲母粉、真珠粉など偏光性の骨材を用いれば、本模様形成物によって形成される模様に特殊な風合いを持たせることも可能である。
【0033】
本模様形成物群を構成する本模様形成物が、骨材を含むものと含まないものとの両方が存在するようにすれば、塗布作業において崩壊の状態に差が生じることに加え、塗膜表面が、骨材を含有する模様形成物が存在する部分は骨材により粗さを生じるが、骨材を含有しない模様形成物が存在する部分は骨材による粗さが生じないので、塗膜表面の模様や状態を変化に富むようにすることができる。
【0034】
骨材を含む模様形成物が呈する色彩と該骨材の色彩とが同系色であるようにすれば、本組成物により形成される塗膜において、その本模様形成物の近辺に選択的に、その本模様形成物が呈する色彩と似た色の骨材の粒を配することができる。そして、この骨材の粒経を、本組成物により形成される塗膜厚さより大きくすれば、塗布作業時の鏝の運行によって骨材が転がり、そこに虫食い状の凹みを形成することができる。
【0035】
本模様形成物が、抗菌性の添加剤を含むようにすれば、本模様形成物の保存性を向上させることができる。添加剤としては、具体的には、防腐剤、防かび剤、抗菌剤等を例示できる。
【0036】
本模様形成物群が、剪断強度が異なる模様形成物を含むようにすれば、斑模様のある色彩の本模様形成物は、連続する斑点模様の他のある色彩の本模様形成物より崩壊しにくくするなどのように、塗膜の模様の形状や大きさ等の調節も可能である。具体的な適用例としては、天然の石灰岩系の建材の模様や材木の模様及び窯変模様の中には、ある色彩は斑模様であるが、他のある色彩は連続する斑点模様であるので、このような模様を形成するのに有効に用いることもできる。
【0037】
本模様形成物が5〜40℃の範囲で安定なものであれば、本組成物の貯蔵、運搬及び塗布作業において温度制限が少なく、本模様形成物群やそれを配合した本組成物の適用範囲が拡がる。
【0038】
本模様形成物群が、最大寸法が異なる模様形成物を含むようにすれば、本模様形成物の大きさを、ある色彩は大きく、他のある色彩は小さくすれば、本組成物により形成される塗膜に形成される多彩模様を構成する色彩の大きさや長さを色彩毎に調整することができる。
【0039】
本模様形成物群を構成する本模様形成物の最小寸法が2〜8mmであれば、塗布作業が容易であると共に塗布する際に模様形成物がうまく崩壊して模様をうまく形成することができる。
【0040】
本模様形成物群を構成する本模様形成物の最大寸法が5〜20mmであれば、塗布作業が容易であると共に塗布する際に模様形成物がうまく崩壊して模様をうまく形成することができる。そして、本組成物により形成される塗膜に形成される模様の大きさ(例えば、層状模様の層の巾、連続した斑点模様の長さ、まだら模様や窯変模様の大きさ等)をうまく調整することができる。とりわけ7〜12mm程度にしてやれば、本組成物を鏝で塗布する際の作業性を向上させると共に、形成される模様の形状を鏝の運行で容易に調節することができる。
【0041】
本模様形成物群を乾燥させ乾燥物(キセロゲル)とすれば、塗膜形成組成物と混合する前に水分を与えて寒天によるゲル化物(本模様形成物)とした後に塗膜形成組成物と混合して本組成物を形成することもできるし、該乾燥物をそのまま塗膜形成組成物と混合して本組成物(乾燥物は塗膜形成組成物中の水分を吸収しゲル化物に戻る)を形成することもできる。
【0042】
本模様形成物群と塗膜形成組成物とを混合した模様形成用の塗材組成物(本組成物)では、本模様形成物群と塗膜形成組成物との混合(混錬)割合を適宜選定することによって、本組成物により形成される塗膜における模様の量を調整できる。本組成物全体の質量をW(g)とし、それに含まれる本模様形成物群の質量をw1(g)としたときの質量比(w1/W)は、通常、0.03(3%)〜0.15(15%)である。なお、W(g)とw1(g)とは、いずれも水分を含んだ質量である。
【0043】
本模様形成物群と塗膜形成組成物とを混合した模様形成用の塗材組成物(本組成物)は、塗膜形成組成物を所期の多彩模様塗膜の全体的な色調、質感、肌触り感に応じて適宜選定し、その中に、色と大きさと配合量と崩れ易さとを適宜選択した本模様形成物群を緩やかに混錬することによって、目的の多彩模様塗膜形成用の塗材(本組成物)を得ることができる。この塗材(本組成物)は1パッケージ形で、1回塗りで1〜7mmの塗膜厚さを得ることができる。緩やかな混錬は、本模様形成物の形状や大きさが壊れないために、板羽根や棒羽根などの攪拌機を用いて、毎分30〜60回転程度の低速回転で行われることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げる。しかしながら、これら実施例によって、本発明は何ら制限されるものではない。
【0045】
図1は、本発明の実施例における概略の操作を示すフロー図である。図1を参照して、実施例における概略操作を説明する。
市販の粉末乾燥寒天又は固形乾燥寒天である寒天(A)を準備する。ここでは具体的には、粉末乾燥寒天としては株式会社パイオニア企画社の商品名「粉寒天」を用い、固形乾燥寒天としては株式会社カネ栄藤森K社の商品名「クリーン寒天(短縮)」を用いた。
所定量の寒天(A)と所定量の精製水(B)とを混合し、加熱(約90℃〜100℃程度)して寒天(A)を精製水(B)に完全に溶解させ(加熱混合工程11)、寒天水溶液(C)を調製する(なお、寒天水溶液(C)の寒天(A)の好ましい濃度は、通常、1〜5重量%である。)。
【0046】
調製した寒天水溶液(C)を約40℃程度まで冷却し、約40℃程度に温度を保った状態で撹拌しつつ、各実施例で定められた骨材、顔料及び添加剤等の混合物を寒天水溶液(C)に混合(混合工程15)する(実施例によって、骨材、顔料及び添加剤から必要なものを混合物として寒天水溶液(C)に混合する。)。
混合物と寒天水溶液(C)とが十分に混合されるよう、攪拌を約10分続け模様形成物液体(D)とした。
【0047】
次いで、一辺が約4mmの立方体形状(サイコロ状)の内部空間を複数有する型枠の該内部空間に模様形成物液体(D)を注入し(型枠注入工程21)、室温(約25℃程度)下で自然に冷却する(この冷却により模様形成物液体(D)がゲル化して模様形成物(E)となる。)。
その後、ゲル化した模様形成物(E)を型枠から取り出し(取出工程31)、模様形成物(E)を得る。これら複数の模様形成物(E)によって模様形成物群(E)が構成される。
なお、型枠から取り出された模様形成物(E)は、お互いが直接接した状態のままにされるとお互いがくっつきやすいので、後述の乾燥工程71に供するもの以外は模様形成物(E)各々が浮遊(お互いのくっつきを防止する)することができるよう水中(模様形成物(E)各々が十分浸る程度の水の量とする。)に保管する。なお、水中での模様形成物(E)の保管期間が長くなる場合には、保存に用いる水の腐敗を注意する必要がある。
【0048】
一部の実施例(具体的には、後述の第1乾燥物(K−1)及び第2乾燥物(K−2))においては、模様形成物群(E)を乾燥工程71により乾燥させ乾燥物(K)(キセロゲル)とした。乾燥工程71は、具体的には、取出工程31にて型枠から取り出された模様形成物(E)を、紙の上に拡げ、室温(約25℃程度)下で約48時間自然乾燥させた。
乾燥物(K)(キセロゲル)は、使用する前(後で詳述する混合工程41に供される前)に、予め乾燥物(K)各々が十分浸る量の膨潤剤(J)(乾燥物(K)(キセロゲル)を再度ゲル状態に膨潤させるための膨潤剤である。具体的には精製水を用いた。)に30分程度浸漬(膨潤工程76)することで膨潤物(P)とした。
【0049】
そして、上記のようにして得られた模様形成物群(E)及び膨潤物(P)と、塗膜形成組成物(Q)と、を混合(混合工程41)し、塗材組成物(G)を調製した。
塗膜形成組成物(Q)は、水系塗材からなる原料塗膜形成組成物(F)と、着色料等(M)と、を混合及び撹拌することで調製(調製工程81)した。原料塗膜形成組成物(F)は、JISA6909の外装薄塗材Eの主材(具体的には、東陽化成株式会社製の白色の砂壁状樹脂リシン。以下、「第1原料塗膜形成組成物(F−1)」という。)と、特許第2832424号に開示した水系塗材(具体的には、東陽化成株式会社製の白色の骨材細粒が混入されている結合剤。以下、「第2原料塗膜形成組成物(F−2)」という。)と、の2種類を使用した。塗膜形成組成物(Q)に好ましい色彩を付与するため着色料等(M)が適宜添加された。
混合工程41において用いる模様形成物群(E)は、お互いのくっつきを防止するため水中に浮遊している状態の模様形成物群(E)を適宜なざるや篩などで水を切って計量し、混合工程41に供した。そして、混合工程41において用いる膨潤物(P)も適宜なざるや篩で水を切って計量し混合工程41に供した。
また、混合工程41における混合(混練)は、模様形成物群(E)を構成する個々の模様形成物や膨潤物(P)が潰れたり崩れたりして壊れないよう、板羽根や棒羽根などの攪拌機を用いて、毎分30〜60回転程度の低速で行った。
【0050】
得られた塗材組成物(G)は、実際に被塗布面に塗布し(塗布工程51)、その後、塗膜を観察61した。さらに、得られた塗材組成物(G)を実際の建造物に塗布し、その施工状態を観察した。
【0051】
まず、模様形成物群(E)と、乾燥物(K)を形成するために乾燥工程71に供される模様形成物群(E)と、のそれぞれについて具体的な組成を記載する。特に断りがない限り、以下の数字は重量%を示している。
【0052】
(第1模様形成物群(E−1)):灰色着色
水(B) 49.4
粉末乾燥寒天(A) 2.0
骨材 48.4
顔料 0.1
添加剤(抗菌剤) 0.1
合計 100.0
なお、骨材は、具体的には、株式会社カルファイン社製の寒水石(粒状大理石)(半透明白色の天然骨材(粒径0.1〜0.5mm))を用い、顔料は、具体的には、DIC株式会社製の「BLACK SD-9020」(黒の水分散顔料)を用い、そして抗菌剤は、具体的には、株式会社パーマケム・アジア社製の「トップサイド288」を用いた。
【0053】
(第1乾燥物(K−1)):茶色着色
第1乾燥物(K−1)を形成するために乾燥工程71に供される模様形成物群(E)の組成
水(B) 49.4
粉末乾燥寒天(A) 2.0
茶色の人口骨材 41.5
濃灰色の人口骨材 7.0
抗菌剤 0.1
合計 100.0
なお、茶色の人口骨材は、具体的には、新東陶料株式会社製の「カラーサンド20R-202」(粒径0.1〜0.5mm)を用い、濃灰色の人口骨材は、具体的には、新東陶料株式会社製の「カラーサンドN-1」(粒径0.1〜0.5mm)を用い、そして抗菌剤は、具体的には、株式会社パーマケム・アジア社製の「トップサイド288」を用いた。
【0054】
(第2模様形成物群(E−2)):鮮やかな赤茶色着色
水(B) 94.9
固形乾燥寒天(A) 3.6
顔料 1.4
抗菌剤 0.1
合計 100.0
なお、顔料は、具体的には、御国色素株式会社製の「PSMブラウン#95」(鮮やかな赤茶色の水分散顔料)を用い、そして抗菌剤は、具体的には、株式会社パーマケム・アジア社製の「トップサイド288」を用いた。
【0055】
(第2乾燥物(K−2)):こげ茶色着色
第2乾燥物(K−2)を形成するために乾燥工程71に供される模様形成物群(E)の組成
水(B) 49.0
固形乾燥寒天(A) 2.0
赤茶色の人口骨材 45.8
黒の水分散顔料 0.1
こげ茶色の人工骨材 3.0
抗菌剤 0.1
合計 100.0
なお、赤茶色の人口骨材は、具体的には、新東陶料株式会社製の「カラーサンド20R−2」(粒径0.1〜0.5mm)を用い、こげ茶色の人工骨材は、具体的には、東陽化成株式会社製の着色骨材#998(粒径2mm)を用い、黒の水分散顔料は、具体的には、DIC株式会社製の「BLACK SD-9020」を用い、そして抗菌剤は、具体的には、株式会社パーマケム・アジア社製の「トップサイド288」を用いた。
【0056】
次いで、これら第1模様形成物群(E−1)、第2模様形成物群(E−2)、第1乾燥物(K−1)及び第2乾燥物(K−2)の4種類のものを用い、これらと塗膜形成組成物(Q)とを混合(混合工程41)し塗材組成物(G)を調製した。なお、上述のように、第1乾燥物(K−1)及び第2乾燥物(K−2)は、いずれも混合工程41に供される前に、膨潤剤(J)(精製水)に30分程度浸漬(膨潤工程76)することで膨潤物(P)として用いた(第1乾燥物(K−1)の膨潤物を第1膨潤物(P−1)とし、第2乾燥物(K−2)の膨潤物を第2膨潤物(P−2)とする。)。
以下示す塗材組成物の組成においては、第1模様形成物群(E−1)、第2模様形成物群(E−2)、第1膨潤物(P−1)及び第2膨潤物(P−2)のいずれも水を含むゲル化物としての質量を記載している。
そして、各々の塗材組成物(G)を被塗布面に塗布し(塗布工程51)、その後、塗膜(厚さ約2mm程度)を観察61した。
【0057】
(第1塗材組成物(G−1))
第1塗材組成物(G−1)では、象牙色の生地に、茶色や灰色の層状模様があるライムストーン調の模様を形成する。
まず、調製工程81においては、原料塗膜形成組成物(F)として第1原料塗膜形成組成物(F−1)を91.3g用い、象牙色に着色するための着色料等(M)0.5g(着色料としては、具体的には、御国色素株式会社製のPSMイエロー#85(0.45g)とDIC株式会社製のBLACKSD-9020(0.05g)とを用いた。)と、を混合し十分撹拌することで、象牙色第1塗膜形成組成物(Q−1)を得て、これを用いて下の組成により第1塗材組成物(G−1)を調製した。
象牙色第1塗膜形成組成物(Q−1) 91.8
第1模様形成物群(E−1) 1.0
第1膨潤物(P−1) 6.3
第2膨潤物(P−2) 0.9
合計 100.0
第1塗材組成物(G−1)の被塗布面への塗布(塗布工程51)は、模様の形を調整する鏝の運行を、横又は縦の一方向にとって層状模様を形成する。仕上がりの色模様は、象牙色の生地に、茶と灰色の層状模様を有するライムストーン調の模様で、こげ茶色の斑模様が点在し、このこげ茶色の模様材の近辺にだけ、粒径2mmのこげ茶色の骨材とこの骨材が鏝の運行によって転がってできた虫食い状の凹みがあった。
【0058】
(第2塗材組成物(G−2))
レンガ色で、鮮やかな赤茶色やこげ茶色のまだら模様がある焼成煉瓦調の模様を形成する。
まず、調製工程81においては、原料塗膜形成組成物(F)として第1原料塗膜形成組成物(F−1)を92.8g用い、レンガ色に着色するための着色料等(M)2g(着色料としては、具体的には、御国色素株式会社製のPSMブラウン#95(1.9g)とDIC株式会社製のBLACKSD-9020(0.1g)とを用いた。)と、を混合し十分撹拌することで、レンガ色第2塗膜形成組成物(Q−2)を得て、これを用いて下の組成により第2塗材組成物(G−2)を調製した。
レンガ色第2塗膜形成組成物(Q−2) 94.8
第2模様形成物群(E−2) 2.5
第2膨潤物(P−2) 2.7
合計 100.0
第2塗材組成物(G−2)の被塗布面への塗布(塗布工程51)は、まず第2塗材組成物(G−2)を鏝で均一に塗り拡げ、少し乾きかけるのを待って、模様材(第2模様形成物群(E−2)と第2膨潤物(P−2))を崩し、模様の形を調整する鏝の運行を、縦横にとって、模様材(第2模様形成物群(E−2)と第2膨潤物(P−2))のちぎれを少な目にして形成する。煉瓦の肌触りの粗さは、レンガ色第2塗膜形成組成物(Q−2)の骨材の粗さで調整される。
仕上がりの色模様は、レンガ色の粗い肌触りの生地に、鮮やかな赤茶色の斑点模様とこげ茶色の斑模様があり、こげ茶色の斑模様の近辺にだけ、粒径2mmのこげ茶色の骨材が点在し、この骨材が鏝の運行によって転がってできた虫食い状の凹みがある。
【0059】
(第3塗材組成物(G−3))
桧の板の木目調の模様を形成する。
まず、調製工程81においては、原料塗膜形成組成物(F)として第2原料塗膜形成組成物(F−2)を92.2g用い、桧の板の色に着色するための着色料等(M)1.6g(着色料としては、具体的には、東陽化成株式会社製の着色骨材#480を用いた。)と、を混合し十分撹拌することで、桧の板の色第3塗膜形成組成物(Q−3)を得て、これを用いて下の組成により第3塗材組成物(G−3)を調製した。
桧の板の色第3塗膜形成組成物(Q−3) 93.8
第1模様形成物群(E−1) 0.6
第1膨潤物(P−1) 5.0
第2模様形成物群(E−2) 0.6
合計 100.0
第3塗材組成物(G−3)の被塗布面への塗布(塗布工程51)は、まず第3塗材組成物(G−3)を鏝で均一に塗り拡げ、少し乾きかけるのをまって、模様材(第1模様形成物群(E−1)、第1膨潤物(P−1)、第2模様形成物群(E−2))を崩し、模様の形を調整する鏝の運行を、縦又は横の一方向にとって層状模様を形成した。
仕上がりの色模様は、桧の板の色の生地に、茶色の層状模様が在り灰色や鮮やかな赤茶色の斑点模様が点在するところの、正目でない桧の板の木目調の模様となった。
【0060】
最後に、これら第1塗材組成物(G−1)、第2塗材組成物(G−2)及び第3塗材組成物(G−3)を実際の建造物に塗布し、その施工状態を観察した。
(施工例1):第1塗材組成物(G−1)
予め素地調製がなされた内部のコンクリート製の大きな円柱に、第1塗材組成物(G−1)を、2mm弱の厚さに鏝塗りし、横方向の鏝塗りのせん断力によって模様材(第1模様形成物群(E−1)、第1膨潤物(P−1)、第2膨潤物(P−2))の形を崩し、ちぎり、大小の色の粒を横方向に拡げることによって、象牙色の生地に茶色や灰色の横方向の層状模様があり、こげ茶色の斑模様が点在し、こげ茶色の斑の近辺にだけ虫食い状の凹みがあるところの天然のライムストーンの模様に近似する、厚さおよそ2mmの層状模様の多彩模様塗膜を円柱に形成した。
【0061】
(施工例2):第2塗材組成物(G−2)
予め素地調製がなされた外部の壁に、予め白っぽい色の塗料を塗って乾燥させ、その上に煉瓦大の大きさに、所期の目地巾の薄手の粘着テープを貼って目地割りを行い、目地部も含めて壁全面に、第2塗材組成物(G−2)をおよそ1.5mmの厚さに鏝塗りし、少し乾きかけるのを待って、縦、横両方向の鏝塗りのせん断力によって模様材の形を崩し、ちぎり、大小の色の粒を拡げ、レンガ色で、鮮やかな赤茶色の斑点模様やこげ茶の斑模様があり、こげ茶色の斑の近辺にだけ、虫食い状の凹みがある塗膜面を形成し、塗材が乾燥硬化する前にテープを除去し、塗材が十分乾燥硬化した後、乾燥すると透明になる耐候性に優れた樹脂液を、目地部を含む壁全体に塗布して、白っぽい色の目地割りが意匠された塗膜厚さおよそ1.5mmの焼成煉瓦調の多彩模様塗膜を壁に形成した。
【0062】
(施工例3):第3塗材組成物(G−3)
予め素地調製がなされた内部の床に、予め指定された色の目地色の床用塗料を塗って乾燥させ、その上に所期の目地巾の薄手の切れにくい粘着テープを貼って、所期の大きさ、形に目地割りを行い、目地部も含めて床全面に、第3塗材組成物(G−3)をおよそ2mmの厚さに鏝塗りし、少し乾きかけるのを待って、同じ方向の鏝塗りのせん断力によって模様材の形を崩し、ちぎり、大小の色の粒を拡げ、木目調の模様がある塗膜面を形成し、塗材が完全硬化する前にテープを除去し、テープから取れて周囲の塗膜に残った不要の塗材は、塗材が完全硬化後、掃除機などにより吸引除去した後、乾燥すると透明になる耐摩耗性、耐衝撃性に優れた樹脂液を、目地部を含む床全体に塗布して、目地割りが意匠された塗膜厚さおよそ2mmの木目調の多彩模様塗膜を床に形成した。
【0063】
以上説明したように、第1模様形成物群(E−1)及び第2模様形成物群(E−2)は、寒天(A)によるゲル化物である模様形成物を複数個含んでなる塗材組成物(G)配合用の模様形成物群である。
また、第3塗材組成物(G−3)の配合のように、第1模様形成物群(E−1)と第2模様形成物群(E−2)とを混合した模様形成物群は、灰色の第1模様形成物群(E−1)と、赤茶色の第2模様形成物群(E−2)と、の異なる色彩の模様形成物を含む。
そして、第1模様形成物群(E−1)及び第2模様形成物群(E−2)のいずれも顔料を含むものである。
第1模様形成物群(E−1)は、模様形成物の少なくとも一部(ここでは全部)が粉体又は粒体の骨材を含むものである。第2模様形成物群(E−2)は骨材を含まない模様形成物のみであるので、第3塗材組成物(G−3)の配合のように第1模様形成物群(E−1)と第2模様形成物群(E−2)とを混合した模様形成物群は、骨材を含む模様形成物(E−1)と、骨材を含まない模様形成物(E−2)と、が混在するものである。
【0064】
第2乾燥物(K−2)の第2膨潤物(P−2)(模様形成物群)は、骨材を含む模様形成物が呈する色彩(こげ茶色)と該骨材の色彩(こげ茶色)とが同系色である。具体的には、骨材を含む模様形成物が呈する色彩(こげ茶色)と該骨材の色彩(こげ茶色)とが、マンセル表色系の色相環(10色相)の色配置において同一の色相である。
第1模様形成物群(E−1)及び第2模様形成物群(E−2)のいずれも、模様形成物が抗菌性の添加剤(抗菌剤)を含むものである。
第3塗材組成物(G−3)の配合のように、第1模様形成物群(E−1)と第2模様形成物群(E−2)とを混合した模様形成物群は、剪断強度が異なる模様形成物を含む(第1模様形成物群(E−1)よりも第2模様形成物群(E−2)の方が剪断強度が高い)。
第1模様形成物群(E−1)及び第2模様形成物群(E−2)のいずれも、模様形成物が5〜40℃の範囲で安定なものである。
【0065】
ここでは第1模様形成物群(E−1)及び第2模様形成物群(E−2)とのいずれも一辺が約4mmの立方体形状をほぼ有しており、最大寸法が略同じであるが、型枠注入工程21で用いる型枠の寸法を違える等して最大寸法を異ならせてもよい。
第1模様形成物群(E−1)及び第2模様形成物群(E−2)とのいずれも、模様形成物の最小寸法が2〜8mm(約4mm)であり、模様形成物の最大寸法が5〜20mm(約7mm)である。
そして、第1乾燥物(K−1)及び第2乾燥物(K−2)のいずれも、本模様形成物群を乾燥させた乾燥物である。
【0066】
第1塗材組成物(G−1)、第2塗材組成物(G−2)及び第3塗材組成物(G−3)いずれも、塗膜を形成する水系塗材からなる塗膜形成組成物(具体的には、第1塗材組成物(G−1)では象牙色第1塗膜形成組成物(Q−1)、第2塗材組成物(G−2)ではレンガ色第2塗膜形成組成物(Q−2)、第3塗材組成物(G−3)では桧の板の色第3塗膜形成組成物(Q−3))と、塗膜形成組成物中に分散され、塗膜形成組成物が形成する該塗膜とは異なる色彩を呈する本模様形成物群(具体的には、第1塗材組成物(G−1)では第1模様形成物群(E−1)と第1膨潤物(P−1)と第2膨潤物(P−2)、第2塗材組成物(G−2)では第2模様形成物群(E−2)と第2膨潤物(P−2)、第3塗材組成物(G−3)では第1模様形成物群(E−1)と第1膨潤物(P−1)と第2模様形成物群(E−2))と、を含んでなる模様形成用の塗材組成物である。
【0067】
そして、第1塗材組成物(G−1)においては、第1塗材組成物(G−1)(質量W:100重量部)中の模様形成物群(質量w1。第1模様形成物群(E−1):1.0+第1膨潤物(P−1):6.3+第2膨潤物(P−2):0.9=8.2重量部)の質量比(w1/W)が0.082(0.03〜0.15)である。
第2塗材組成物(G−2)においては、第2塗材組成物(G−2)(質量W:100重量部)中の模様形成物群(質量w1。第2模様形成物群(E−2):2.5+第2膨潤物(P−2):2.7=5.2重量部)の質量比(w1/W)が0.052(0.03〜0.15)である。
第3塗材組成物(G−3)においては、第3塗材組成物(G−3)(質量W:100重量部)中の模様形成物群(質量w1。第1模様形成物群(E−1):0.6+第1膨潤物(P−1):5.0+第2模様形成物群(E−2):0.6=6.2重量部)の質量比(w1/W)が0.062(0.03〜0.15)である。
【0068】
以上のように、これら第1塗材組成物(G−1)、第2塗材組成物(G−2)及び第3塗材組成物(G−3)は、いずれも色、風合い、大きさ、及び鏝のせん断力による形の崩れ、ちぎれ易さを実用上自由に調整できる2色以上の異なる色の粒状の模様形成物(群)を高粘度の塗膜形成組成物に混錬してなる塗材であるから、塗材は1パッケージ型であり、通常の鏝塗り作業だけで、この模様形成物(群)の形を崩し、ちぎり、大小の色の粒として塗材の表面ないし内部に拡げ、固着させることによって、層状模様、まだら模様、窯変模様などの意匠性の高い多彩模様塗膜(従来からの模様材の形、大きさにそのまま左右される技術では決して得られない)を1回塗りで1〜7mm程度の厚さで、素地の材質、形状にかかわらず、建築施工現場の壁や柱や床に形成することができる。
このように本発明の塗材組成物は、建築物の壁面などを、建築施工現場において、天然の石灰岩系の建材や材木に特徴的な層状模様やまだら模様及び焼成煉瓦に特徴的な窯変模様などの多彩模様に仕上げる、1回塗り、1パッケージ型の塗材として好適に使用できる。
【0069】
本発明の模様形成物(群)は、塗材中にあって、5〜40℃の範囲で安定して保持されるので、季節にかかわらず建築施工現場において、所期の多彩模様を得ることができる。
また、本発明の塗材組成物は、塗膜形成にあたって、簡単な作業によって、意識的に目地を取り入れることによって、本発明の塗材によって形成される塗膜の意匠性を格段に向上させることもできる。
【0070】
本発明の塗材組成物は、鏝塗りのせん断力によって模様形成物の形が崩れ、ちぎれ、塗材表面及び塗材中に大小の色の粒となって拡がることによって形成される多彩模様であるから、塗材が同じ物で同じ作業者が鏝塗り作業に当たったとしても、自然物の模様と同じく、一つとして同じ模様とはならない。このことは、左官の伝統技術を活かしながら、従来の塗料、塗材では得られない、自然味豊かな意匠空間の創造に寄与するものである。
一方、できるだけ同じような模様が欲しい場合は、本発明の塗材組成物を均一に鏝塗りした後、塗材が少し乾くのを待って、鏝を水で湿しながらできるだけ同じ力、同じ方向への鏝の運行で模様形成物の形を崩し、ちぎりながら、塗材表面及び塗材中に拡げるという施工方法によればよい。大型建築物の場合で多数の作業者が同一建築物の塗布作業に従事する場合など、この施工方法が適している場合も多い。
【0071】
建築設計仕様に大きな円柱や角柱が取り入れられる場合、現在では本体そのものを、石や木の自然物から調達することは、費用、自然保護の面で特殊な建造物を除いて困難であり、そのほとんどがコンクリート製又は鉄製である。これらの素材は、長期の機能保持と意匠のため、必ず何らかの表面処理がなされる。通常の塗料による仕上げは最も簡便であり一般的であるが、より高い意匠性が求められる場合も多い。角柱の場合は、天然石の板材や材木及び磁器タイルなどによって、意匠性の高い仕上げも通常の費用で可能なこともあるが、円柱の場合は天然石の板材や材木及びタイルに、円周に添う形が求められるので、数倍または数十倍の費用が必要となる。本発明の多彩模様は、塗材組成物で形成されるのであるから、建築物素地の形状を問わない。従って、特に円柱の建築設計仕様の場合には、その円柱の意匠と長期の機能保持に大きく貢献し得るものと考える。
【0072】
天然石建材や材木及び煉瓦などの場合、磁器タイルも含め、それらはすべてある大きさに切断または成型された物である。従ってこれらの建材が壁や柱や床に施工される場合、必ず目地を伴う。この目地は意匠としても意識的に取り入れられ、古今東西建築物の壁や柱や床は目地によって化粧されていると言っても過言ではない。本発明の塗材による仕上げも簡単な作業で意図的に目地を取り入れることにより、その意匠性は格段に向上する。
目地を取り入れる作業は簡単で、塗材(塗材組成物)を塗布する前に、所期の目地巾の薄手の切れにくい粘着テープで予め目地割りを行い、テープの上も含めて塗材を全面に塗布し、塗材(塗材組成物)が乾燥硬化する前に、このテープを除去すれば良い。この時、本発明の模様形成物は崩れ、ちぎれた状態であるから、除去するテープ際の模様材の切れが良く、目地際に欠けが生じず、目地通りが良い。
【0073】
本発明の模様形成物は、凝固性水溶物又は及び膨潤軟化物であり、その形、大きさが崩れ、ちぎれながら、大小の色の粒となって塗膜形成組成物の表面及び内部に固着されることによって塗膜の一部を形成する。したがって、ちぎれの程度が小さく、模様の粒が大きい箇所の強度や耐水性は、塗材の乾燥後も、外部壁面などの仕様には不足である場合がある。このような場合には、塗材が乾燥後、乾燥すると透明になる耐候性に優れた樹脂液などを、上塗り材として塗膜全体に塗布して対応してもよい。床の場合は内部、外部の仕様に係らず、耐摩耗性や耐衝撃性に富んだ上塗り材を塗布して対応してもよい。
【符号の説明】
【0074】
11 加熱混合工程
15 混合工程
21 型枠注入工程
31 取出工程
41 混合工程
51 塗布工程
61 観察
71 乾燥工程
76 膨潤工程
81 調製工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天によるゲル化物である模様形成物を複数個含んでなる塗材組成物配合用の模様形成物群。
【請求項2】
異なる色彩の模様形成物を含んでなる、請求項1に記載の模様形成物群。
【請求項3】
模様形成物が、顔料又は着色剤を含むものである、請求項1又は2に記載の模様形成物群。
【請求項4】
模様形成物の少なくとも一部が、粉体又は粒体の骨材を含むものである、請求項1乃至3のいずれか1に記載の模様形成物群。
【請求項5】
骨材を含まない模様形成物を含む、請求項4に記載の模様形成物群。
【請求項6】
骨材を含む模様形成物が呈する色彩と該骨材の色彩とが同系色である、請求項4又は5に記載の模様形成物群。
【請求項7】
模様形成物が、抗菌性の添加剤を含むものである、請求項1乃至6のいずれか1に記載の模様形成物群。
【請求項8】
剪断強度が異なる模様形成物を含んでなる、請求項1乃至7のいずれか1に記載の模様形成物群。
【請求項9】
模様形成物が5〜40℃の範囲で安定なものである、請求項1乃至8のいずれか1に記載の模様形成物群。
【請求項10】
最大寸法が異なる模様形成物を含んでなる、請求項1乃至9のいずれか1に記載の模様形成物群。
【請求項11】
模様形成物の最小寸法が2〜8mmである、請求項1乃至10のいずれか1に記載の模様形成物群。
【請求項12】
模様形成物の最大寸法が5〜20mmである、請求項1乃至11のいずれか1に記載の模様形成物群。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1に記載の模様形成物群を乾燥させた乾燥物。
【請求項14】
塗膜を形成する水系塗材からなる塗膜形成組成物と、
塗膜形成組成物中に分散され、塗膜形成組成物が形成する該塗膜とは異なる色彩を呈する請求項1乃至12のいずれか1に記載の模様形成物群と、
を含んでなる模様形成用の塗材組成物。
【請求項15】
前記塗材組成物(質量W)中の模様形成物群(質量w1)の質量比(w1/W)が0.03〜0.15である、請求項14に記載の塗材組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−84700(P2011−84700A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240786(P2009−240786)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(595099856)クリオス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】