説明

塗液塗布方法、塗布フィルムの製造方法および塗液塗布装置

【課題】塗布層厚みの均一性が極めて優れており、かつ塗布層の欠陥が抑制された、良好な外観を有する塗布フィルムを塗布開始直後から安定して得る事ができる塗液塗布方法および塗液塗布装置を提供することである。
【解決手段】計量バーの上流側、下流側、両端部および底部に設置されたカバーにより囲われた空間と、該空間に塗液を供給する塗液供給手段を有し、前記空間に満たされた前記塗液を前記計量バーの回転により持ち上げ、フィルムに前記塗液を塗布・計量する塗液塗布方法であって、前記計量バーのフィルム走行方向下流側であって前記フィルムの前記計量バーと同一面側に第2の計量バーを有し、少なくとも塗布開始および/又は終了時に、前記第2の計量バーを前記フィルムに接触させ、前記計量バーのカバーにより囲われた空間への塗液供給を継続しながら、前記計量バーを前記フィルムに接触および/又は離間させることにより、前記フィルムへの塗布を開始および/又は終了させることを特徴とする塗液塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗液塗布方法、塗布フィルムの製造方法および塗液塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基材である樹脂フィルムに塗布層を設けた塗布フィルムは、その優れた物理的性能や生産性に加えて、密着性や帯電防止性、フィルムの易滑化、光学特性の改善等の様々な機能が塗布層により付与にされる事で、非常に幅広い用途に展開されている。特に近年はIT分野の伸びに従いLCDやPDP等のフラットパネルディスプレイ用途やタッチパネル用途などの表示材料や表面保護・加飾フィルムなどの基材として使用量が増加している。しかしながら、ディスプレイの高精細化や大画面化に伴い、機能性に加えて外観上の欠点やムラが無いことが強く求められており、特に上記ディスプレイやタッチパネル用途に広く使用されているハードコート層を積層した場合は、塗布層の膜厚のムラにより、干渉ムラ(ある角度から見た時に視認される部分的な虹彩状反射)が発生するため厳密な膜厚管理が必要となるのに加えて、塗布層中への気泡等が混入する事により発生する微細な欠陥による外観不良についても品質管理面および生産性の観点から防止する事が要求されている。
【0003】
塗布フィルムの製造方法として、薄い塗布層を常に均一な膜厚で塗布するという観点では、ダイコート法やグラビアコート法は安定性に難があり、バーコート法が優れている。しかしながら、バーコート法は計量バーにより塗布層を計量する工程にて微小な泡を噛み込み易く、塗布欠陥が発生しやすい問題があった。そこでそれらを改善する目的で様々な検討がなされている。
【0004】
特許文献1では、計量バーとフィルム間に気泡巻込み抑制部材を有する塗液塗布装置が開示されている。しかしながら、フィルムに過剰な塗液を吹き付ける工程での気泡の混入が防止できず、また上記気泡巻込み抑制部材のみでは計量バーでの気泡防止には不十分な状態であった。
【0005】
また、特許文献2では、均一な塗布厚みを得るために、計量バーの上流側と下流側から塗液を供給しその量を適宜制御可能な塗液塗布装置が開示されている。本装置を用いた場合は、過剰な塗液を吹き付ける工程がないため、該工程での気泡混入は抑制できるが、計量バー周辺の液はねや微細な気泡噛み込みによる塗布欠陥が多く、また塗布層の厚み均一性も計量バーの回転方向と下流側からの塗液の供給方向が逆方向であるためバー下流側の塗液排出が不安定となり、ハードコートの干渉ムラ防止の観点からは不十分であった。
【0006】
さらに特許文献3,4では、計量バーを支持する支持コロを塗液で満たされた容器中に配置し、その容器中を塗液で満たす塗液塗布装置が開示されている。本装置を用いた場合は、過剰な塗液を吹き付ける工程がなく、さらに計量バー周辺への微細な泡の噛み込みが防止されるため、上記特許文献1および特許文献2と比較すると塗布欠陥の改善効果は大きいが、塗液で満たされた容器中に残る気泡の排出が困難であったため、塗布欠陥個数のバラツキが大きく安定性が悪い問題があったり、安定状態となるまでの調整時間が長くかかるといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−223391号公報
【特許文献2】特開2009−112971号公報
【特許文献3】特開2008−238082号公報
【特許文献4】特開2010−75777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、厚みの均一性が極めて優れており、かつ塗布層の欠陥が抑制された良好な外観を有する塗布フィルムを、塗布開始直後から安定して得られる塗液塗布方法および塗液塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を用いるものである。
(1).計量バーの上流側、下流側、両端部および底部に設置されたカバーにより囲われた空間と、該空間に塗液を供給する塗液供給手段を有し、前記空間に満たされた前記塗液を前記計量バーの回転により持ち上げ、フィルムに前記塗液を塗布・計量する塗液塗布方法であって、前記計量バーのフィルム走行方向下流側であって前記フィルムの前記計量バーと同一面側に第2の計量バーを有し、少なくとも塗布開始および/又は終了時に、前記第2の計量バーを前記フィルムに接触させ、前記計量バーのカバーにより囲われた空間への塗液供給を継続しながら、前記計量バーを前記フィルムに接触および/又は離間させることにより、前記フィルムへの塗布を開始および/又は終了させることを特徴とする塗液塗布方法。
(2).塗液が前記カバーにより囲われた空間から、少なくとも前記計量バーと前記計量バーの下流側のカバーとの間隙を通って常に外部に漏洩するように、塗液を供給することを特徴とする(1)に記載の塗液塗布方法。
(3).前記計量バーが走行する前記フィルムと接触することにより回転することを特徴とする(1)または(2)に記載の塗液塗布方法。
(4).前記第2の計量バーによって計量される塗布層の膜厚が、前記計量バーによって計量される塗布層の膜厚以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の塗液塗布方法。
(5).押出機により樹脂を押し出し、該樹脂をシート状に成形してフィルムとなし、(1)〜(4)のいずれかに記載の塗液塗布方法を用いて、前記塗液を前記フィルム上に塗布する塗布フィルムの製造方法。
(6).塗布フィルム製造時は第2の計量バーとフィルムを離間し、塗布開始および/又は終了時のみ第2の計量バーをフィルムに接触させることを特徴とする(5)に記載の塗布フィルムの製造方法。
(7).(5)または(6)に記載の塗布フィルムの製造方法による塗布工程と該塗布工程に続いて、オーブンにて乾燥、予熱、延伸をこの順に実施する工程を有する塗布延伸フィルムの製造方法。
(8).計量バーと、該計量バーの上流側、下流側、両端部および底部に設置されたカバーと、該カバーにより囲まれた空間と、該空間に塗液を供給する塗液供給手段とを有する塗液塗布装置であって、前記計量バーおよびフィルム走行方向下流側に設けられた第2の計量バーに設置された昇降装置および/又はフィルムの搬送ロールに設置された昇降装置により前記計量バーとフィルムおよび第2の計量バーとフィルムの接触動作および離間動作を、それぞれ独立に制御することが可能な塗液塗布装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る塗液塗布方法および塗布装置よれば、厚みの均一性が極めて優れており、かつ塗布層の欠陥が抑制された良好な外観を有する塗布フィルムを塗布開始直後から安定して得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施態様に係る計量バーによる塗液塗布装置の断面概略図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る計量バーによる塗布開始時の塗液塗布装置の断面概略図である。
【図3】図1の第1の計量バー部分の拡大図である。
【図4】本発明の一実施態様に係る第1の計量バーによる塗液塗布装置の俯瞰概略図である。
【図5】本発明の一実施態様に係る第1の計量バーによる塗液塗布装置の断面概略図である。
【図6】本発明の一実施態様に係る第1の計量バーによる塗液塗布装置の端部カバー部分の断面概略図である。
【図7】本発明の一実施態様に係る第1の計量バーによる塗液塗布装置の断面概略図である。
【図8】本発明の一実施態様に係る第1の計量バーによる塗液塗布装置の断面概略図である。
【図9】従来の塗布技術である計量バーによる塗液塗布装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、計量バーの上流側、下流側、両端部および底部に設置されたカバーにより囲われた空間と、該空間に塗液を供給する塗液供給手段を有し、前記空間に満たされた前記塗液を前記計量バーの回転により持ち上げ、フィルムに前記塗液を塗布・計量する塗液塗布方法である事が必要である。
【0013】
塗布層の塗布厚み均一性を達成するためには、計量バーによる塗液塗布方法が必要であり、他の代表的な塗液塗布方法であるダイコートやスプレーコート、グラビアコート法では塗布膜厚の均一性に劣る。特に、薄い膜厚の塗布層を有する塗布フィルムを得る方法として代表的なグラビアコート法では、塗液をグラビアロールから転写させる事によりフィルム上に塗布するが、グラビアロールの微小な回転ムラやロールの偏心、ドクターブレードの当たり方、グラビア版詰まり等により膜厚が変動するため調整が難しい。一方、計量バーによる塗液塗布方法は、計量バーが直接フィルムに接触し、余剰な塗液をかき取り計量する方法であり、回転ムラや計量バーの偏心の影響を受けにくく、膜厚均一性が良好である。
【0014】
ただし、図9に例示される様な計量バーによる従来の塗液塗布方法では、塗液をフィルム上に供給する工程や計量バーで余剰な塗液を計量する工程で微細な気泡を噛み込んだり、かき落とされた塗液がはねてフィルムに付着しやすく、塗布欠陥の発生が多い問題があった。前者の塗液をフィルム上に供給する方法として、計量バー自身の回転により計量バーの下部の塗液を持ち上げフィルムに供給する方法を用いることで、必要な量の塗液を幅方向に均一に供給でき、微細な気泡の持ち込みを防止する事が可能となる。また、後者の計量バーによるかき取りでの気泡噛み込みや液はねについては、計量バーの上流側、下流側および両端部に設置されたカバーによって、かき取られた塗液がはねてフィルムへ付着することを防止すると共に、前記カバーに囲われた空間内に塗液を供給し、該空間を塗液で満たす事により計量バーの回転により巻き込まれる気泡の混入を抑制する事が可能となる。具体的な塗液塗布装置としては、図1,図4,図5,図6などで例示される。本装置では、回転により塗液を持ち上げてフィルムに塗布・計量する計量バー(3)と、該計量バー周辺に上流側カバー(5)、下流側カバー(6)、両端部カバー(13)および底部カバー(8)が設置され、前記カバーにより囲われた空間を有している。また、前記カバーにより囲われた空間に塗液を直接供給する塗液供給部(7)を有している。塗液は供給部(7)より前記カバーにより囲われた空間内に供給され、該カバー内に満たされた塗液は、計量バー(3)の回転により持ち上げられ、フィルムに塗布され、その後、計量バー(3)により膜厚調整される。
【0015】
また、計量バーの回転による気泡の持ち込みをさらに抑制防止するために、第1の計量バー(3)と下流側のカバー(6)との間隙を通って常に外部に漏洩するように、塗液供給部より供給する塗液量を調整する事が好ましい。そうする事により計量バー(3)の回転に随伴して、カバーに囲われた内部へ入り込もうとする微細な気泡を、塗液により防止する事が可能となる。また、塗液は計量バー(3)と上流側のカバー(5)との間隙からも常に外部に漏洩するように、塗液供給量を調整することがさらに好ましい。計量バー(3)の上流および下流の両方から安定して塗液を外部に漏洩させる流れを作ることで、図3に例示される計量バーの上流側の液だまり(15)および計量バーの下流側の液だまり(16)の両方の状態がより安定化し、膜厚均一性向上や塗布欠陥抑制の観点から好ましい。上流側の液だまり(15)および計量バーの下流側の液だまり(16)の状態を安定化させるための好ましい塗液塗布装置および塗液塗布方法については後述する。
【0016】
本発明において、第1の計量バーが図5等で例示される様に、間欠的に配置された回転可能な支持コロ(4a)(4b)によって支持されていることが、計量バーの回転をスムーズにし、かつ計量バーの幅方向のしなり変形による偏心むらを防止するために好ましい。また、前記支持コロは計量バー(3)のカバーにより囲まれた空間内に配置され、支持コロ全体が塗液で満たされていることが、支持コロの回転による気泡の噛み込みを低減できるため好ましい。また、計量バーの回転がスムーズとなるように、その両端部がベアリングで支持され、計量バーとフィルムが接触する事でフィルムの走行により回転することが、塗布フィルム表面のキズを抑制し、かつ塗布層の膜厚安定化のために好ましい。
【0017】
本発明において、計量バー(3)でかき落とされた塗液、および計量バーと前記カバーとの間隙の間から漏洩した塗剤は、塗剤を受ける液受けパン(9)に集められ再循環される事が生産コスト上好ましい。再循環に当たっては、一旦塗液を保持する槽に集められ温度の調整を実施後、フィルターで異物を濾過してから塗液供給部(7)より再供給する事が好ましい。
【0018】
本発明においては、前記計量バーのフィルム走行方向下流側であって前記フィルムの前記計量バーと同一面側に第2の計量バーを有し、少なくとも塗布開始および/又は終了時に、前記第2の計量バーを前記フィルムに接触させ、前記計量バーのカバーにより囲われた空間への塗液供給を継続しながら、前記計量バーを前記フィルムに接触および/又は離間させることにより、前記フィルムへの塗布を開始および/又は終了させることが、塗布欠陥を改善するために必要である。具体的には、図1に示すように前記第1の計量バー(3)(以後、計量バー(3)を第2の計量バー(11)と区別するために第1の計量バーと言う)のフィルム走行方向下流側に第2の計量バー(11)を有する装置が例として挙げられる。
【0019】
前記、第1の計量バーによる塗液塗布方法を用いた場合は、従来技術と比較して塗布欠陥個数は改善する事が可能となるが、前記方法のみでは、塗布欠陥個数の減少までに長時間を要したり、また安定化時も満足できるレベルには到達していなかった。前記方法では、塗布開始時に第1の計量バーとフィルムを接触させる必要があるが、その際に塗液の供給を止めずに実施した場合、第1の計量バーが十分にフィルムに接触する前に、図2に例示されるような塗液の液だまり(14)がフィルムに付着する事で、例えば下流側のロールを汚染したり、後工程である横延伸工程での破れが発生したりする問題があるため、第1の計量バー周辺のカバーで囲われた空間内から塗液を排出する必要があった。そのため、カバーに囲われた空間内の気泡の除去に時間がかかったり、また、完全に排除する事が困難であるため、空間内部に残留した気泡が流出し、塗布欠陥となる問題を有していた。
【0020】
本発明では、第2の計量バーを有する塗液塗布装置を用いて、塗布開始時にフィルムに付着する液だまりを第2の計量バーでならす事により、横延伸工程での破れ発生を防止する事が可能となり、また、第1の計量バーのカバーに囲まれた空間内部を塗液で満たしたままでの塗布開始を可能とする事で、膜厚均一性を保ったまま、塗布開始直後から塗布欠陥個数が非常に良好な状態を保つことが可能となる。また、第2の計量バーを有する塗液塗布装置では、塗布終了時も同様に第2の計量バーをフィルムに接触しながら、第1の計量バーをフィルムから離間することで、フィルム破れが無く、さらに第1の計量バーのカバーで囲まれた空間内に気泡を進入させずに塗布を終了する事が可能となり、塗液塗布装置の調整等のため頻繁に塗布の開始、終了を繰り返しても常に安定して塗布欠陥が少ない状態が再現可能となるため、より好ましい。また、本発明において、第2の計量バーによって計量される塗布層の膜厚が、第1の計量バーによって計量される塗布層の膜厚以下であることが好ましい。第2の計量バーにより計量される膜厚が、第1の計量バーによって計量される塗布層の膜厚より厚い場合は、後工程での乾燥が不十分となり、フィルム破れが発生したり、後工程のロールを汚染する場合がある。
【0021】
本発明においては、塗布フィルム製造時は第2の計量バーとフィルムを離間し、塗布開始および/又は終了時のみ第2の計量バーをフィルムに接触させることが好ましい。第2の計量バーはその使用方法から、第1の計量バーと同様に計量バーの下部を塗液に満たす事が不可能であるため、第2の計量バーでの気泡の混入や液はねを十分に防止する事が困難であり、第2の計量バーとフィルムを接触させた時には、塗布欠陥が増加する傾向がある。
【0022】
本発明の塗液塗布装置においては、上記の様に走行するフィルムと第1の計量バーとの接触/離間およびフィルムと第2の計量バーとの接触/離間をそれぞれ独立に制御出来ることが必要となる。フィルムと計量バーとの接触/離間を制御する方法は特には限定されないが、例えば図1の(A)で例示される第1の計量バーに関するユニット全体、図1の(B)で例示される第2の計量バーに関するユニット全体をそれぞれ上下させる機構を有する事が挙げられる。 詳しくは、前記第1の計量バーに関するユニット(A)および第2の計量バーに関するユニット(B)について、それぞれのユニット全体を支持するフレームを、例えば、空気圧、油圧などで制御されるシリンダーを用いて上下させる方法や、モーター、手動ハンドルなどによる回転を動力伝達機構を用いて上下方向の動きに変換して上下させる方法等を挙げることができる。また、走行するフィルムを搬送する搬送ロールの前記と同様の方法で位置を上下させることで、計量バーとの接触/離間を制御する機構等も用いることが出来る。
【0023】
本発明において、第1の計量バーでかき落とされた塗液の液抜け性を改善し、かき落とした塗液をスムーズに抜きかつ、液はねによる欠陥を防止するために、図5等で例示される第1の計量バー(3)と上流側カバー(5)との隙間(a)を1.0〜2.0mmに、第1の計量バー(3)と下流側カバー(6)との隙間(b)を(a)より狭く0.5〜1.0mmとすることが、計量バーへの塗液の供給および計量バー下流側の液抜け性が良好となり、図3に例示される第1の計量バー上流側の液だまり(14)および下流側の液だまり(15)が安定し塗布層厚みの均一性が向上し、かつ液はねによる欠陥をさらに低減できるため好ましい。上流側カバーの間隙(a)は計量バー上流側の液だまりの安定性と関係が有り、広いと液だまりが大きくなり、また狭いと液だまりが小さくなる傾向がある。液だまりの大きさを安定化させる事は、塗布均一性の観点から好ましい。また、下流側の塗液は回転バーの回転方向と支持コロの回転方向が逆になるため、安定してカバーと計量バーの間隙から外部に漏洩する状態を保つことが、カバー内部への気泡混入を防止する観点で好ましい。そのため計量バーと下流側カバーの間隙(b)を上記の範囲とする事が好ましく、計量バーとカバーの間隙が狭すぎると内部から漏洩する塗液の量が不安定となり、計量バー下流側の液だまりが変動し塗布均一性が損なわれたり、液はねによる塗布欠陥が増加する場合がある。また、計量バーとカバーの間隙が広すぎると、計量バーとカバーの隙間から内部に微細な気泡が混入し、塗布欠陥が悪化する場合がある。
【0024】
本発明において、図5に示される様に上記第1の計量バーの上流側カバーの先端高さが下流側カバーの先端高さよりも高いことが好ましく、その高さの差(c)が2.0〜8.0mmであることが更に好ましい。また、計量バー上流側のカバーの先端高さが回転する計量バーの回転中心の高さより高く、下流側カバーの先端高さが回転する計量バーの回転中心の高さより低いことが好ましい。計量バーの上流側の塗液は、計量バーの回転方向に伴い外部に持ち上げられ、下流側の塗剤は容器の内部に押し込まれる様に随伴する流れが生じる。下流側カバー先端高さを上流側カバーの先端高さより低くし、下流側の容器内部の圧力を高めることは、下流側のカバーと計量バーの間隙より微細な泡の混入を防止する観点で好ましい。また、上流側カバーと下流側カバーの高さの差が前述の範囲であることが下流側の液だまりをさらに安定性させる意味でより好ましい。また、上流側カバーの先端高さを回転する計量バーの回転中心より高くする事で、上流側計量バー近傍に向かって塗液を供給できる事で液はねによる塗布欠陥を防止するという観点で好ましい。さらに、下流側カバーの先端高さを回転する計量バーの回転中心よりも低くすることで、計量バー下流側の液だまり部分への内部から漏洩した塗液による液はねの影響を低減させる意味でより好ましい。
【0025】
本発明における、端部カバー(13)は計量バー(3)と接触しないように設けることが、計量バー(3)のスムーズな回転を阻害しないという観点で好ましい。また、計量バー(3)と端部カバー(13)との間隙は0.2〜2.0mmである事が好ましく、さらには0.5〜1.5mmである。0.2mmよりも狭くなった場合は、計量バー(3)の回転時の振動などで計量バーと端部カバーが接触する事があり好ましくなく、2.0mmを越える場合は、計量バーと端部カバー間の塗液の漏洩量が多くなりすぎるため、塗布欠陥が悪化する場合がある。
【0026】
本発明において、塗液供給部(7)のフィルム走行方向の位置が、図7に例示される様な第1の計量バーの回転中心位置もしくは、第1の計量バー回転中心の上流側であるが好ましく、また図5に例示されるように上流側の支持コロよりも更に上流側であることが特に好ましい。図8のように計量バーの回転中心部よりも下流側に塗液供給部(7)が位置している場合は、特に下流側支持コロよりも更に下流から塗液を供給した場合に下流側カバー近傍の塗液安定性が劣り、図3に示される計量バー下流部の液だまり(16)の安定性が悪化する事で塗布厚み均一性が損なわれたり、塗布欠陥が増加する場合がある。
【0027】
本発明において、上記計量バーの直径は特には限定されないが通常10〜30mmの範囲である。また、計量のための溝は、ワイヤーを円筒形の部材に巻き付けたワイヤーバー方式でもよいし、部材表面に螺旋状溝を掘った方式のものを用いても良い。なお、計量バーは振れ量が150μm以下、更に好ましくは100μm以下であるものを用いることで、塗布均一性が安定するため好ましい。
【0028】
本発明の塗液塗布方法および塗液塗布装置が適用できる素材としては、特には限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、ノルボルネン等の脂環式ポリオレフィン等のオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド系樹脂、イミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、またはこれらの樹脂のブレンド物からなるプラスチックフィルムなどが挙げられる。中でもフラットパネルディスプレイやタッチパネル、表面保護フィルムや加飾フィルム用途の基材フィルムとして用いる場合は、機械特性や熱特性および透明性に優れたポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート樹脂が好ましい樹脂として挙げられる。また、その極限粘度(JIS K7367 2000に従い、25℃のo−クロロフェノール中で測定)は0.4〜1.2dl/gが好ましく、より好ましくは0.5〜0.8dl/gの範囲内が好ましい。
【0029】
更に、このポリエステル中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤、架橋剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0030】
本発明の塗液塗布方法および塗液塗布装置が適用できる塗布層は特には限定されないが、ディスプレイやタッチパネル用途に広く使用されているハードコート層を塗布層上に積層する事を想定した場合は、ハードコート層と本発明にかかる塗布フィルム間の界面での反射光が可視光領域で最も小さくなるように設計する事が干渉ムラを抑制するために好ましい。ハードコートフィルムの干渉ムラは、空気/ハードコート層界面での反射光とハードコート層/フィルム層界面の反射光が干渉する事により発生するため、ハードコート層/フィルム層界面の反射光を極力小さくすることで、干渉ムラを抑制することが可能となる。上記の様な特性を有するために本発明にかかる積層ポリエステルフィルムは、塗布層(A層)側の分光鏡面反射率が極小値となる波長λminが480〜600nmの間に存在する事が好ましく、また波長λminの値が塗布フィルムの場所によるバラツキが小さい事が、部分的な干渉ムラを抑制するために好ましい。反射率が極小となる波長λminは、空気層/塗布層間界面の反射光と塗布層/基材フィルム界面の反射光が互いに逆位相となって打消し合っていると考えられ、両者の光が進む光路長の差(塗布層の厚み×塗布層の屈折率)を表しているため、波長λminのバラツキが小さく安定しているという事は、塗布層の組成および膜厚が場所によらず均一であるという理想的な状態となっていることを示している。
【0031】
本発明の塗液塗布方法および塗液塗布装置をハードコート用フィルムに適用する場合は、塗布層の干渉ムラ低減とハードコート層との接着性の観点から、塗布層はナフタレン骨格および/またはフルオレン骨格を有している比較的剛直なポリエステル樹脂成分に、メラミン系、オキサゾリン系の架橋剤をポリエステル樹脂100重量部に対して30〜100重量部含有する組成とすることが好ましい。このように、剛直でありかつ架橋剤含有量が多い塗布層を塗布する場合は、特に膜厚均一性や塗布欠陥が悪化しやすく、本発明における塗液塗布方法を用いることが非常に有効である。
【0032】
本発明における塗液塗布方法は、フィルムの製造工程とは別工程で、フィルムを巻き出し、塗布・乾燥することで塗布フィルムを得る、所謂オフラインコーティング法でも良く、また押出機により樹脂を押し出し、該樹脂をシート状に成形してフィルムとなすフィルムの製造工程中に塗布を行い、塗布フィルムを一気に得る、所謂インラインコーティング方法のいずれに適用してもよい。本発明の塗布方向および塗液塗布装置をインラインコーティング法へ適用した場合は、一度に塗布フィルムが製造できるため生産性の観点で好ましく、また、延伸フィルムの一般的な方法である、塗布層を設けた後にフィルムを延伸する工程を含んでいる場合は、塗布層も延伸される事から、薄い塗布層を均一に設ける事ができる点で有利である。その場合に用いる塗液の溶剤は、環境汚染や防爆性の点から水系であることが最も好ましい。
【0033】
次に本発明の塗液塗布方法を用いた塗布フィルムの製造方法を、基材フィルムを2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)と場合を例にして説明するが、これに限定されるものではない。
【0034】
基材層を構成する極限粘度0.5〜0.8dl/gのPETペレットを真空乾燥した後、押し出し機に供給し260〜300℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10〜60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化せしめて未延伸PETフィルムを作製した。この未延伸フィルムを70〜100℃に加熱されたロール間で長手方向に2.5〜5.0倍延伸する。このフィルムの少なくとも片面に空気中でコロナ放電処理を施し、該表面の濡れ張力を47mN/m以上とし、その処理面に塗布層を構成する水系塗剤を本発明の方法を用いて塗布する。この塗布されたフィルムをクリップで把持して乾燥ゾーンに導き、塗布層を乾燥させた後に70〜150℃の温度で加熱を行い、引き続き連続的に70〜150℃の加熱ゾーンで幅方向に2.5〜5.0倍延伸し、続いて200〜240℃の加熱ゾーンで5〜40秒間熱処理を施し、100〜200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向の完了した基材ポリエステルフィルム上に塗布層が積層された塗布フィルムを得る。なお、上記熱処理中に必要に応じて3〜12%の弛緩処理を施してもよい。二軸延伸は縦、横逐次延伸あるいは同時二軸延伸のいずれでもよく、また縦、横延伸後、縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。得られた塗布フィルムの端部をカットした後に巻き取り中間製品とし、その後スリッターを用いて所望の幅にカット後、円筒状のコアに巻き付け所望の長さのポリエステルフィルムロールを得ることができる。なお、巻き取り時に巻姿改善のためにフィルム両端部にエンボス処理を施しても良い。
【実施例】
【0035】
[物性の測定法]
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、各種物性の測定方法を記載する。
【0036】
(1)分光反射率
(A)試料のサンプリング方法
幅方向1m×長手方向1mのサンプルを採取し、採取したサンプルから幅方向3ヶ所(中央と両端部)、長手方向3ヶ所(中央と両端部)の組み合わせ9点について幅方向150mm×長手方向200mmのサンプルを切り出し反射率測定用サンプルとした。
(B)反射率の測定方法
分光反射率の測定は、測定面の裏面に50mm幅の黒色光沢テープ(ヤマト(株)製 ビニ−ルテープNo.200−50−21:黒)を気泡を噛みこまないように(A)の方法で採取したサンプルとテープの長手方向を合わせて貼り合わせた後、約40mm角のサンプル片に切り出し、分光光度計(島津製作所(株)製 UV2450、鏡面反射率測定ユニットを使用)にて入射角5°での分光鏡面反射率を測定した。サンプルを測定器にセットする方向は、測定器の正面に向かって前後の方向にサンプルの長手方向を合わせた。なお反射率を基準化するため、標準反射板として付属のAl板を用いた。反射率は波長400〜700nmの範囲で測定し、反射率が極小と成る波長をλmin(nm)とした。
【0037】
得られたλminの値について、前記9点のλmin値について最大値(9測定点の内、最も波長が長いもの)と最小値(9測定点の内、最も波長が短いもの)の差を計算し、λmin差を計算した。
【0038】
結果の判定は両者ともに以下基準で実施し、S,A,Bが合格範囲である。
【0039】
S:λminの差10nm以下
A:λminの差10nmを越えて20nm以下
B:λminの差20nmを越えて30nm以下
C:λminの差30nmを越える。
【0040】
(2)干渉ムラ
ハードコート層を構成する活性線硬化型樹脂(日本合成化学工業(株)製 紫光UV−1700B[屈折率:1.50〜1.51])を積層ポリエステルフィルムの塗布層表面上にバーコーターを用いて硬化後の膜厚が1.5μmとなるように均一に塗布した。次いで、ハードコート層の表面から9cmの高さにセットした120W/cmの照射強度を有する集光型高圧水銀灯(アイグラフィックス(株)製 H03−L31)で、積算照射強度が300mJ/cmとなるように紫外線を照射し、硬化させ、光学積層フィルム上にハードコート層を積層された光学積層フィルムを得た。なお、紫外線の積算照射強度測定には工業用UVチェッカー(日本電池(株)製UVR−N1)を用いた。
【0041】
なお、ハードコート層の屈折率はシリコンウエハー上にスピンコーターにて形成された塗膜について、位相差測定装置(ニコン(株)製 NPDM−1000)で633nmの屈折率を測定した。結果、ハードコート層の屈折率は1.50であった。次いで、得られた光学積層フィルムから、8cm(積層ポリエステルフィルム幅方向)×10cm(積層ポリエステルフィルム長手方向)の大きさのサンプルを切り出し、ハードコート層の反対面に黒色光沢テープ(ヤマト(株)製 ビニ−ルテープNo.200−50−21:黒)を気泡を噛み込まないように貼り合わせた。
【0042】
このサンプルを暗室にて3波長蛍光灯(松下電器産業(株)製 3波長形昼白色(F・L 15EX−N 15W))の直下30cmに置き、視角を変えながら目視により干渉縞の程度を観察し、以下の評価を行った。実用レベルのものはBとし、S,Aのものは良好、Cは不合格とした。
【0043】
S:干渉ムラがほぼ見えない
A:干渉ムラがわずかに見える
B:弱い干渉ムラが見える。
【0044】
C:干渉ムラが強い。
【0045】
(4)塗布欠陥
塗布フィルムを50m/分にて走行させながら、フィルムの塗布層側に、フィルム面に対して、距離150mmに設置したLED光源から入射角15°にてフィルム位置での照度30,000lxにて塗布層側から照射し、その正反射光(反射角15°の反射光)をフィルムからの距離200mmに設置し、フィルム流れ方向速度が50m/分での分解能が幅方向0.16mm、長手方向0.12mm、画素サイズ10μm、検出光0.31lx・sを1024階調に分解する感度を有したCCDカメラにて検出した。検出した信号を長手方向に微分処理を実施し、幅方向3ピクセル・長手方向1ピクセル以上のサイズであり、微分後の信号閾値が100階調以上の欠陥個数を1000mに渡ってカウントし、フィルムの面積100m当たりの欠陥数に換算した。また、塗布欠陥個数は塗布開始後1時間後と4時間後についてカウントした。なお、小数点以下2桁目は四捨五入した。結果の判定は以下基準で実施し、S,A,Bが合格範囲である。
【0046】
S:3.0ヶ/100m以下
A:3.0ヶ/100mを越えて10.0ヶ/100m以下
B:10.0ヶ/100mを越えて30.0ヶ/100m以下
C:30.0ヶ/100mを越える。
各実施例・比較例で用いる樹脂等の調整法を参考例として示す。
【0047】
[参考例1] ポリエステル樹脂(A)の調製
窒素ガス雰囲気下でジカルボン酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸40モル部、テレフタル酸45モル部、5−スルホイソフタル酸ナトリウム5モル部、グリコール成分としてエチレングリコール90モル部、次エチレングリコール10モル部をエステル交換反応器に仕込み、これにテトラブチルチタネート(触媒)を全ジカルボン酸成分100万重量部に対して100重量部添加して、160〜240℃で5時間エステル化反応を行った後、溜出液を取り除いた。
【0048】
その後、3価以上の多価カルボン酸成分であるトリメリット酸10モル部と、テトラブチルチタネートを更に全ジカルボン酸100万重量部に対して100重量部添加して、240℃で、反応物が透明になるまで溜出液を除いたのち、220〜280℃の減圧下において、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(A)を得た。該ポリエステル樹脂のTgは80℃であった。
<ポリエステル樹脂(A)の組成>
(ジカルボン酸成分および多価カルボン酸成分)
・2,6−ナフタレンジカルボン酸 40モル部
・テレフタル酸 45モル部
・5−スルホイソフタル酸ナトリウム 5モル部
・トリメリット酸 10モル部
(グリコール成分)
・エチレングリコール 90モル部
・ジエチレングリコール 10モル部
[実施例1]
実質的に外部添加粒子を含有しないPETペレット(極限粘度0.63dl/g)を真空中160℃で4時間乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融押出を行った。ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き5μmのフィルターで、次いで平均目開き14μmのステンレス鋼粉体を焼結したフィルターで濾過した後、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度20℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを予熱ロールにて70℃に予熱後、上下方向からラジエーションヒーターを用いて90℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.1倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。このフィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、フィルムの表面張力を55mN/mとした。
【0049】
次いで、下記塗液を上記一軸延伸フィルムの両面に図1に示す第1の計量バーおよび第2の計量バーを有する塗液塗布装置を用いて塗布した。なお、この時第1の計量バーによる塗液塗布装置は図5に示される装置を使用し、計量バー(3)は直径13mm、ワイヤー径0.1mm(#4)のメタリングワイヤーバーを用い、上流側カバー先端位置を計量バーの回転中心の上側4mm、下流側のカバー先端位置を計量バーの回転中心の下側1mmとし、上流側カバーの先端が下流側カバーの先端よりも5mm高くなるように設置した。また、第1の計量バーと上流側カバーとの間隙(a)を1.5mm、第1の計量バーと下流側カバーとの間隙(b)を0.7mmに隙間ゲージを用いて調整し、塗液は上流側支持コロのさらに上流側に設置された塗液供給部(7)より供給され、第1の計量バーと上流側のカバーおよび第1の計量バーと下流側のカバーとの間隙を通って常に外部に漏洩するように、供給量を調整した。なお、第1の計量バー(3)と端部カバー(13)との間隙は1.0mmとした。ここで、漏洩した塗液および第1の計量バー(3)によりかき取られた塗液は液受けパン(9)にて受けた後に、温度20℃にて制御された塗液槽に集められ、その後絶対濾過精度5μmのポリプロピレン製不織布フィルターを通した後に、再び供給部(7)より循環供給した。
【0050】
第2の計量バーについては、直径13mm、ワイヤー径0.1mm(#4)のメタリングワイヤーバーを用いて、第1の計量バーによる塗布開始および終了時にのみ第2の計量バーをフィルムに接触させて、通常生産時はフィルムと第2の計量バーは離間状態とした。
【0051】
第1の計量バーおよび第2の計量バーは共に、中央部を幅方向にピッチ400mmで設置された回転可能な支持体で、さらに両端部はスムーズな回転が可能となるようベアリングで支持され、フィルムと接触する事でフィルムの走行により回転する方式とした。
【0052】
第1の計量バーを有するユニット(A)および第2の計量バーを有するユニット(B)の上下昇降については、それぞれのユニットを支持するフレームを空気圧によるシリンダーにより上下させる方法を用いた。
<塗液>
ポリエステル樹脂固形分を100重量部とした時に、以下成分を含有する、ポリエステル樹脂固形分換算の濃度が5.0%である水溶液。また、本塗液を加熱乾燥して得た樹脂固形物のぬれ張力は42mN/m、屈折率は1.58であった。
ポリエステル樹脂(A):100重量部
メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”MW12LF):50重量部(固形分換算)
粒径140nmのコロイダルシリカ:1.5重量部
フッ素系界面活性剤(互応化学(株)社製“プラスコート”RY2):1.0重量部(固形分換算)。
【0053】
水系塗剤を塗布した1軸延伸フィルムをクリップで把持してオーブン中にて雰囲気温度120℃で乾燥・予熱した。引き続き連続的に120℃の延伸ゾーンで幅方向に3.7倍延伸した。得られた二軸配向(二軸延伸)フィルムを引き続き230℃の加熱ゾーンで10秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながら5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却した。引き続き幅方向両端部を除去した後に巻き取った。なお、この時の巻き取り速度は50m/分であった。上記の様にして基材ポリエステルフィルムに、塗布層が積層された厚さ125μm、ヘイズ0.7%(JIS K7105(1981))の塗布フィルムを得た。得られた塗布フィルムの特性を表2に示す。
【0054】
[実施例2〜14、比較例1]
塗液塗布装置を表1の通りとした以外は実施例1に従い塗布フィルムを得た。また得られた塗布フィルムの特性を表2に示す。
【0055】
[実施例15]
第1の計量バーのワイヤー径を0.15mm(#6)、第2の計量バーをフィルムに常時接触させている事以外は、実施例1に従い塗布フィルムを得た。また得られた塗布フィルムの特性を表2に示す。
【0056】
[実施例16]
巻き取り速度を80m/分、フィルム厚みを75μmとした以外は実施例1に従いヘイズ0.7%の塗布フィルムを得た。また得られた塗布フィルムの特性を表2に示す。
【0057】
[比較例2]
リバースタイプグラビアコーター(グラビアロール径250mm、ヘリカルタイプ200線/インチ、容積22.5×10−3L/m2、速度40m/min(フィルム流れ方向と逆方向に回転))塗液塗布装置を用いた以外は実施例1に従い塗布フィルムを得た。また得られた塗布フィルムの特性を表2に示す。
【0058】
[比較例3]
第2の計量バーを有さない塗液塗布装置を用いて、塗液の供給を止めて、第1の計量バーのカバーに囲われた空間内の塗液を抜いた状態で塗布開始および終了する方法を用いた以外は実施例1に従い塗布フィルムを得た。また得られた塗布フィルムの特性を表2に示す。
【0059】
[比較例4]
第2の計量バーを有さない塗液塗布装置を用いて、塗液の供給を止めずに塗布開始および終了する方法を用いた以外は実施例1に従い塗布を実施したが、塗布開始時にフィルム上に液溜まりが発生したことで、フィルム破れが発生し、塗布フィルムを得ることが出来なかった。
【0060】
(比較例の結果)
グラビアコーターを用いた比較例2は塗布欠陥数は良好であったが、グラビアロールの微小な回転ムラやロールの偏心、ドクターブレードの当たり方により膜厚が変動するため調整が難しく、膜厚均一性が不合格レベル。一方、塗液を過剰に吹き付けたあと、計量バーで掻き取る比較例1では、膜厚均一性は良好なレベルであるが、塗液吹き付け部や計量バー周辺での気泡混入や塗液のはねにより塗布欠陥が多く不合格レベルであり、共に塗布欠陥と膜厚均一性の両立が困難であった。
【0061】
比較例3では図4の装置を用いた計量バーによる塗布を実施した結果、塗液吹き付けではなく、計量バーの回転にて液を均一にフィルムに塗布出来ることと、第1の計量バーのカバーで囲まれた内部を塗液で満たし、かつカバー内部に直接塗液を供給することで、計量バー周辺の気泡噛み込みを抑制し、かつ計量バー上下流の液だまりが安定化し塗布均一性に優れ、さらに液はねや微細な泡の混入も改善された結果、膜厚均一性は良好な状態のままで塗布欠陥数は良化した。しかしながら塗布開始時には第1の計量バーのカバーで囲まれた内部空間には塗液が満たされない状態であったため、内部の気泡除去が完了していない塗布開始直後は塗布欠陥数が多く、また塗布開始から4時間後も十分に満足できるレベルには到達していなかった。また、塗布開始時の第1の計量バーのカバーで囲まれた内部空間への気泡混入防止のため、カバー内部への塗液の供給を止めずに塗布を開始したが、第1の計量バーが十分にフィルムに接触する前に、塗液の液だまりがフィルムに付着する事で、横延伸工程での破れが発生し、塗布フィルムを得ることが出来なかった。
【0062】
(第2の計量バー)
実施例では第2の計量バーを有する塗液塗布装置を用いて、塗布開始時にフィルムに付着する液だまりを第2の計量バーでならす事により、横延伸工程での破れ発生を防止する事が可能となり、第1の計量バーのカバーに囲まれた空間内部を塗液で満たしたまま塗布開始が可能となった事で、膜厚均一性を保ったまま、塗布開始直後から塗布欠陥個数が非常に良好な状態を保つことが出来た。これは特に実施例1と比較例3の比較で明確である。また、第2の計量バーを有する塗液塗布装置では、塗布終了時も同様に第2の計量バーをフィルムに接触されながら、第1の計量バーをフィルムから離間することで、フィルム破れが無く、さらに第1の計量バーのカバーで囲まれた空間内に気泡を進入させずに塗布を終了する事が可能となり、塗液塗布装置の調整等のため頻繁に塗布の開始、終了を繰り返しても常に安定して塗布欠陥が少ない状態を再現することが可能であった。第2の計量バーは常にフィルムに接触した状態で用いることも可能であるが、第2の計量バー周辺での気泡噛み込みを十分に押さえることが困難である事から、第2の計量バーは塗布開始および/又は終了時のみフィルムに接触させる製造方法が好ましい。(実施例1と実施例15の比較)
(第1の計量バー周辺のカバー位置および塗液供給位置)
実施例1〜5では計量バーと下流部のカバーの間隙、実施例1,6,7では計量バーと上流部のカバー間隙、実施例1、8〜12では上流部カバーと下流部カバーの高さと膜厚均一性および塗布欠陥の結果が比較できる。結果、第1の計量バーと下流部のカバーの間隙は0.5〜1.0mm、第1の計量バーと上流部のカバーの間隙は1.0〜2.0mm、上流側カバーの先端高さが計量バーの回転中心よりも高く、下流側カバーの先端高さが計量バーの回転中心よりも低い位置にあり、かつ上流側カバーと下流側カバーの先端高さの差が2.0〜8.0mmである場合に非常に良好な結果となった。これは、前述した第1の計量バーの上流側および下流部分の液だまりの状態を安定に保ちながら、カバーで囲まれた内部から下流側カバーの外へ少量の塗液が安定して排出できる状態になるためと考えられる。
【0063】
また、実施例1,13,14で塗液供給位置による差異が比較可能であるが、塗液供給部はより上流側に有る方が安定であった。計量バーを支える上流側支持コロの更に上流側から塗液を供給することが、塗布欠陥の安定性と関係が深い第1の計量バーの下流側液だまりの安定性を向上させるためと考えられる。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る塗液塗布方法、塗布フィルムの製造方法および塗液塗布装置よれば、塗布厚みの均一性を改善しかつ塗布層の欠陥を抑制する事が出来る。本発明の係る塗液塗布方法および塗布装置は、各種用途の塗布フィルムの製造に使用することが出来るが、LCDやPDP等のフラットパネルディスプレイ用途やタッチパネル用途などの表示材料や表面保護・加飾フィルムなどに使用されるハードコート積層用途に用いられる塗布フィルムの製造方法として、特に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 基材フィルム
2 基材フィルムの進行方向
3 第1の計量バー
4 第1の計量バー支持のためのコロ
4a 第1の計量バー支持のためのコロ(上流側)
4b 第1の計量バー支持のためのコロ(下流側)
5 第1の計量バー上流側のカバー
6 第1の計量バー下流側のカバー
7 塗液供給部
8 第1の計量バー底部のカバー
9 塗液受けパン
10 塗液
11 第2の計量バー
12 第2の計量バー支持のためのコロ
13 第1の計量バー両端部のカバー
14 第1の計量バーによる塗布開始時にフィルムに付着した液だまり
15 第1の計量バー上流部の液だまり
16 第1の計量バー下流部の液だまり
a 計量バーと上流側カバーの間隙
b 計量バーと下流側カバーの間隙
c 上流側カバーと下流側カバーの高さの差
A 第1の計量バーに関するユニット
B 第2の計量バーに関するユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計量バーの上流側、下流側、両端部および底部に設置されたカバーにより囲われた空間と、該空間に塗液を供給する塗液供給手段を有し、前記空間に満たされた前記塗液を前記計量バーの回転により持ち上げ、フィルムに前記塗液を塗布・計量する塗液塗布方法であって、前記計量バーのフィルム走行方向下流側であって前記フィルムの前記計量バーと同一面側に第2の計量バーを有し、少なくとも塗布開始および/又は終了時に、前記第2の計量バーを前記フィルムに接触させ、前記計量バーのカバーにより囲われた空間への塗液供給を継続しながら、前記計量バーを前記フィルムに接触および/又は離間させることにより、前記フィルムへの塗布を開始および/又は終了させることを特徴とする塗液塗布方法。
【請求項2】
前記塗液が前記カバーにより囲われた空間から、少なくとも前記計量バーと前記計量バーの下流側のカバーとの間隙を通って常に外部に漏洩するように、前記塗液を供給することを特徴とする請求項1に記載の塗液塗布方法。
【請求項3】
前記計量バーが走行する前記フィルムと接触することにより回転することを特徴とする請求項1または2に記載の塗液塗布方法。
【請求項4】
前記第2の計量バーによって計量される塗布層の膜厚が、前記計量バーによって計量される塗布層の膜厚以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗液塗布方法。
【請求項5】
押出機により樹脂を押し出し、該樹脂をシート状に成形してフィルムとなし、請求項1〜4のいずれかに記載の塗液塗布方法を用いて、前記塗液を前記フィルム上に塗布する塗布フィルムの製造方法。
【請求項6】
塗布フィルム製造時は第2の計量バーと前記フィルムを離間し、塗布開始および/又は終了時のみ前記第2の計量バーを前記フィルムに接触させることを特徴とする請求項5に記載の塗布フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の塗布フィルムの製造方法による塗布工程と該塗布工程に続いて、オーブンにて乾燥、予熱、延伸をこの順に実施する工程を有する塗布延伸フィルムの製造方法。
【請求項8】
計量バーと、該計量バーの上流側、下流側、両端部および底部に設置されたカバーと、該カバーにより囲まれた空間と、該空間に塗液を供給する塗液供給手段とを有する塗液塗布装置であって、前記計量バーおよびフィルム走行方向下流側に設けられた第2の計量バーに設置された昇降装置および/又はフィルムの搬送ロールに設置された昇降装置により前記計量バーとフィルムおよび第2の計量バーとフィルムの接触動作および離間動作を、それぞれ独立に制御することが可能な塗液塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−22529(P2013−22529A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160491(P2011−160491)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】