説明

塗膜の耐ハジキ性改良方法

【課題】水性塗料について、塗膜の耐ハジキ性を改良できる方法、さらにハジキが発生しやすい環境下において水性塗料の耐ハジキ性を有効に改良できる方法をを提供する。
【解決手段】被塗物に水性塗料を塗装するにあたり、塗装する水性塗料のペンダントドロップ法による25℃における表面張力を21〜30mN/mとし、かつ該水性塗料を被塗物に塗装した直後のウエット塗膜において、25℃における周波数0.1Hzでの振動測定による貯蔵弾性率G'を5〜500Paとし、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')を0.5〜5.0になるように制御することにより、塗膜の耐ハジキ性を改良する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料を被塗物に塗装した塗膜にハジキが発生しないようにするための耐ハジキ性改良方法に関し、ハジキの発生し易い環境下においても耐ハジキ性を改良する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料塗装時の塗膜のハジキやヘコミは、塗装工程で発生する重大な塗膜欠陥の一つであり、その撲滅は塗料、塗装業界における課題となっている。
【0003】
塗料塗装後から乾燥過程にかけて、塗液中、気液界面又は被塗物/塗液界面に低い表面張力を有する部位(汚染部位)が存在すると、そこを中心に塗液がはじかれてくぼみが発生する。一般的に被塗物表面が見えるほどくぼんでいるものをハジキ、被塗物表面まで到達していないものをヘコミというが、ヘコミも含めてハジキという場合もある。本明細書においては、ヘコミも含めてハジキというものとする。
【0004】
塗膜のハジキは、液状塗料を被塗物に塗装した時に、被塗物上の塗膜表面に円形状のくぼみが形成されたり、ひどいときには、被塗物の素地が見えるほどの穴を生じたりする現象である。該ハジキは、様々な要因から発生するが、一般には、塗装直後のウエット塗膜からの局部的な溶剤の急蒸発、塗料に含まれる残留モノマー、塗料用添加剤等の影響、雰囲気中からのダストのコンタミ、被塗物上の油汚れ等によって、塗膜表面に低表面張力のトリガー部位が生じ、これが拡張することによって起こると考えられている。
【0005】
塗膜のハジキ性に関して、従来、塗料のハジキ発生傾向は塗料の流動特性に依存すること、スプレー塗装した場合、残留粘度が小さく、降伏値が大きい塗料ほどハジキが発生しやすいことが、記載されている(非特許文献1参照)。
【0006】
また、貯蔵弾性率G'の大きい連続表面膜は、ハジキ抑制効果があること、レベリング剤等の塗料用添加剤を塗料に加えることにより貯蔵弾性率G'が増加することが記載されている(非特許文献2参照)。
【0007】
更に、塗料における貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値が、塗膜のハジキ性に関連すること、この値が大きいほどハジキ抵抗性が大きいことが記載されている(非特許文献3参照)。
【0008】
また、被塗物に、有機溶剤型の液状塗料を塗装した直後のウエット塗膜の20℃におけるズリ速度5秒-1 での定常流測定による粘度を0.2〜1.0Pa・sの範囲内に、かつ20℃における角周波数10rad/秒での振動測定による貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')を0.1〜0.25の範囲内になるよう制御することによって塗膜の耐ハジキ性を改良できることが記載されている(特許文献1参照)。この方法は有機溶剤型塗料における塗膜の耐ハジキ性の改良に有効であるが、水性塗料については効果は十分でなかった。
【0009】
水性塗料は有機溶剤型塗料に比較してハジキが発生しやすく、水性塗料によって形成される塗膜の耐ハジキ性を改良できる方法については、これまで知られておらず、さらにハジキが発生しやすい環境下において水性塗料の耐ハジキ性を有効に改良できる方法も知られていなかった。
【0010】
【非特許文献1】色材協会誌、Vol.47, No.9, P19-26(1974)
【非特許文献2】塗料の研究、No.136, Apr., P9-16(2001)
【非特許文献3】塗料の研究、No.127, Oct., P2-9(1996)
【特許文献1】特開2003−129001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、水性塗料について、塗膜の耐ハジキ性を改良できる新規な方法を提供することにあり、さらにハジキが発生しやすい環境下において水性塗料の耐ハジキ性を有効に改良できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、水性塗料の粘性、弾性、塗料性状などが、塗膜のハジキの発生程度に及ぼす影響について種々検討を行なった結果、塗装する水性塗料の表面張力、被塗物に塗装直後のウエット塗膜における、貯蔵弾性率、及び貯蔵弾性率と損失弾性率との比の三者を、それぞれ特定の範囲内になるように、制御することによって、塗膜の耐ハジキ性を改良できることを見出した。本発明は、かかる新知見に基づき、完成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明によると、以下の塗膜の耐ハジキ性改良方法を提供するものである。
1.被塗物に水性塗料を塗装するにあたり、塗装する水性塗料のペンダントドロップ法による25℃における表面張力を21〜30mN/mの範囲内とし、かつ該水性塗料を被塗物に塗装した直後のウエット塗膜において、25℃における周波数0.1Hzでの振動測定による貯蔵弾性率G'を5〜500Paの範囲内とし、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')を0.5〜5.0の範囲内になるように制御することにより、塗膜の耐ハジキ性を改良する方法。
2.水性塗料がビヒクル成分として、水溶性樹脂、エマルション樹脂及び架橋剤を含有するものである上記項1記載の塗膜の耐ハジキ性改良方法。
3.上記表面張力、上記貯蔵弾性率G'、及び上記貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の制御を、塗装する水性塗料の組成変更、塗装方法の変更及び塗装条件の変更からなる群から選ばれる少なくとも一種の方法により行う上記項1又は2に記載の塗膜の耐ハジキ性改良方法。
4.塗装する水性塗料の組成変更を、流動性調整剤の添加、溶剤の添加及び塗料の顔料濃度の調整から選ばれる少なくとも一つの処方により行う上記項3に記載の塗膜の耐ハジキ性改良方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗膜の耐ハジキ性改良方法によると、被塗物に水性塗料の塗装において、塗膜のハジキの発生のない塗装を行なうことができるという顕著な効果が得られる。また、本発明の方法によると、ハジキが発生しやすい環境下における水性塗料の塗装においても耐ハジキ性を有効に改良できるという効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明方法における被塗物としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板、ブリキ板などの金属基材;上記金属表面にリン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理などの表面処理が施された表面処理金属基材;プラスチック基材;ガラス、セメント、スレート、モルタル、コンクリート、瓦などの無機窯業基材等;紙など;これらの基材に塗膜が施された塗装基材;及びこれらの基材を加工した物品などを挙げることができる。上記亜鉛合金メッキ鋼板としては、例えば、鉄−亜鉛、ニッケル−亜鉛、アルミニウム−亜鉛などの合金メッキを施した鋼板が挙げられる。
【0016】
本発明方法において使用される水性塗料としては、特に制限されるものではなく、例えば、ビヒクル成分である塗料用樹脂及び必要に応じて架橋剤が、水性媒体中に溶解ないしは分散された水性塗料が挙げられる。
【0017】
上記塗料用樹脂としては、それ自体既知のものを特に制限なく用いることができる。例えば、代表例としてアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、シリコンポリエステル樹脂、シリコンアクリル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、これらの樹脂の変性樹脂などを挙げることができ、これらは1種で又は2種以上組合せて使用することができる。また、上記塗料用樹脂は、架橋剤と組合せて使用することができ、架橋剤としては、例えば、メラミン樹脂などのアミノ樹脂、エポキシ化合物、ポリアミン化合物、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物などを挙げることができる。また、塗料用樹脂と架橋剤との組合せとしては、エポキシ基含有アクリル樹脂とカルボキシル基含有アクリル樹脂との組合せなども挙げることができる。
【0018】
上記塗料用樹脂を水性化するためには、樹脂中にカルボキシル基などのアニオン性基を含有させておき、このアニオン性基をアミン化合物などの塩基性化合物で中和して水性化する方法、水性媒体中で界面活性剤などの乳化剤の存在下で、エマルション重合法などによって、これらの樹脂の重合を行う方法、水性媒体中で界面活性剤などの乳化剤の存在下で、強攪拌してこれらの樹脂を強制乳化する方法など、従来公知の方法を用いることができる。
上記水性塗料は、クリヤ塗料であっても、着色顔料及び/又は光輝性顔料などを含有する着色塗料であってもよい。また、必要に応じて、体質顔料等のその他の顔料を含んでいても良い。
【0019】
着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄、カーボンブラック、各種焼成顔料等の無機顔料;フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド、ペリレンレッド、アゾレッド、フタロシアニングリーン等の有機顔料等を挙げることができる。また、光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム粉、銅粉、ニッケル粉、マイカ粉、雲母状酸化鉄、酸化チタン被覆マイカ粉、酸化鉄被覆マイカ粉、ガラスフレーク、光輝性グラファイト、ホログラム顔料等を挙げることができる。更に、体質顔料としては、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、クレー等を挙げることができる。
【0020】
上記水性塗料における水性媒体としては、水又は水と水性有機溶剤との混合溶剤が使用できる。この水性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等を挙げることができる。水性媒体中には、疎水性の有機溶剤、例えば、キシレン、ヘプタン、メチルイソブチルケトン、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが少量含有していてもよい。水性塗料の固形分濃度としては、通常、10〜70重量%程度とするのが適当である。
【0021】
本発明方法において、被塗物に、水性塗料を塗装する塗装方法としては、エアスプレー塗装、回転型霧化スプレー塗装、エアレススプレー塗装、ロール塗装、刷毛塗り、カーテン塗装、浸漬塗装などを挙げることができる。これらの塗装方法のなかでも、エアスプレー塗装、回転型霧化スプレー塗装及びエアレススプレー塗装等のスプレー塗装が好適である。これらのスプレー塗装は静電印加されていてもよい。
【0022】
また、スプレー塗装する場合の水性塗料の粘度は、例えば、フォードカップNo.4粘度計において25℃で15〜60秒程度の粘度となるように、前記水性媒体を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。
【0023】
また、被塗物に塗装される水性塗料の塗着量としては、乾燥膜厚が5〜50μm程度、好ましくは8〜40μm程度とするのが適当である。
【0024】
本発明方法においては、被塗物に水性塗料を塗装するにあたり、下記3つの条件を満足するよう制御することが必要であり、これらの条件を満足することによって塗膜のハジキ発生を効果的に防止できる。
(1)塗装する水性塗料のペンダントドロップ法による25℃における表面張力が30mN/m以下、好ましくは21〜30mN/m、さらに好ましくは22〜28mN/mの範囲内であること。
(2)水性塗料を被塗物に塗装した直後のウエット塗膜において、25℃における周波数0.1Hzでの振動測定による貯蔵弾性率G'が5Pa以上、好ましくは5〜500Pa、さらに好ましくは10〜300Paの範囲内であること。
(3)水性塗料を被塗物に塗装した直後のウエット塗膜において、25℃における周波数0.1Hzでの振動測定による貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')が0.5以上、好ましくは0.5〜5.0、さらに好ましくは0.8〜4.5の範囲内であること。
【0025】
上記条件(1)において、ペンダントドロップ法による表面張力は、公知の各種測定機を用いて測定できる。本発明においては、協和界面化学社製の「界面張力計PD−X型」を用いて、25℃の室内で、塗装する水性塗料の液滴を作成し、作成20秒後の形状を測定して表面張力を求めた。
【0026】
この表面張力が30mN/mを超えると塗液とハジキ核との間で生じる拡張力が大きくなるためハジキが発生しやすくなる。一方、この表面張力が21mN/mより小さくなり、さらに小さくなるに伴い、得られる硬化塗膜の耐水性やノンサンドリコート付着性が低下し易くなる。ハジキの抑制効果及び得られる硬化塗膜の耐水性やノンサンドリコート付着性の観点から、表面張力が21〜30mN/m、特に22〜28mN/mの範囲内であることがより好適である。
【0027】
前記条件(2)、(3)において、水性塗料を被塗物に塗装した直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''は、該ウエット塗膜を塗装直後に掻きとった塗料を、公知の各種粘弾性測定機器を用いて測定することによって得ることができる。本発明における塗装した直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''は、塗装1分後に塗料を掻きとり、HAAKE社製のレオメーター「RheoStressRS150」を用いて、温度25℃、応力0.5Paにおける、周波数0.1Hzでの振動測定により得られた値である。
【0028】
上記条件(2)において、貯蔵弾性率G'が5Pa未満となると、塗液とハジキ核との間に発生する拡張力による塗液の流動を抑制することが困難となる。一方、貯蔵弾性率G'が500Paを超え、さらに大きくなるに伴い、塗液の流動を抑制しすぎて塗面の平滑性が低下し易くなる。ハジキの抑制効果及び塗面の平滑性の観点から、貯蔵弾性率G'が5〜500Pa、特に10〜300Paの範囲内であることがより好適である。
【0029】
上記条件(3)において、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')が0.5未満となると、塗液とハジキ核との間に発生する拡張力による塗液の流動を抑制することが困難となる。一方、上記比(G'/G'')が5.0を超え、さらに大きくなるに伴い、塗液の流動を抑制しすぎて塗面の平滑性が低下し易くなる。ハジキの抑制効果及び塗面の平滑性の観点から、上記比(G'/G'')が0.5〜5.0、特に0.8〜4.5の範囲内であることがより好適である。
【0030】
塗装する水性塗料の表面張力を前記条件(1)の範囲内に制御する方法としては、塗装する水性塗料の組成を調整する方法、例えば、水の添加や有機溶剤の添加による水性媒体の組成変更、表面調整剤の添加などによって容易に行うことができる。表面張力は、一般に水を添加することによって上昇し、有機溶剤によって影響の程度は異なるが有機溶剤を添加することによって低下する。表面張力に対する表面調整剤の種類、量の影響は大きく、表面調整剤を選定し、添加することにより効果的に表面張力を調整することができる。表面調整剤としては、シリコン系表面調整剤、アクリル系表面調整剤、フッ素系表面調整剤などを挙げることができ、なかでもシリコン系表面調整剤が表面張力の低下に効果的である。
【0031】
塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'を前記条件(2)の範囲内に制御する方法としては、塗装前の塗料を調整する方法、塗装条件を変更する方法などによることができる。
【0032】
塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比を前記条件(3)の範囲内に制御する方法としては、前記条件(2)の場合と同様に、塗装前の塗料を調整する方法、塗装条件を変更する方法などによることができる。
【0033】
被塗物上に塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'及び上記貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値が条件(2)及び(3)の範囲内となるように、水性塗料の組成を調整する方法としては、流動性調整剤の添加、溶剤の添加、樹脂組成の調整及び塗料の顔料濃度の調整などを挙げることができ、これら処方のうちの1種の処方を又はこれらの処方の2種以上を組合せて調整することができる。
【0034】
上記流動性調整剤としては、例えば、シリカ系微粉末、ベントナイト系調整剤、硫酸バリウム微粒化粉末、ポリアミド系流動性調整剤、有機樹脂微粒子流動性調整剤、ジウレア系流動性調整剤、ウレタン会合型流動性調整剤等を挙げることができ、これらの一種又は二種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
これらの流動性調整剤を添加することによって、塗装直後のウエット塗膜において、貯蔵弾性率G'、及び貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値を増大させることができる。
【0036】
上記水性塗料の組成調整に用いることができる溶剤としては、従来、水性塗料に使用されるそれ自体既知の有機溶剤、水を挙げることができる。
【0037】
溶剤添加による調整としては、塗装する水性塗料により用いる溶剤の揮発速度を調整したり、溶剤の親水性の程度を調整することによって、貯蔵弾性率G'や、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値を調整することができる。
【0038】
塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値を調整するための水性塗料の樹脂組成の調整は、例えば、水性塗料の樹脂成分として、水溶性樹脂とエマルション樹脂とを併用している場合、エマルション樹脂の配合割合を増加させることによって、一般に該ウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値を上昇させることができる。
【0039】
塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値を調整するための塗料の顔料濃度の調整は、水性塗料中に当該塗料の顔料組成と同組成の顔料ペーストを添加して樹脂分に対する顔料濃度を増大させることによって、通常、該ウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、上記比(G'/G'')の値を上昇させることができる。また、塗料に顔料抜きのクリヤー塗料を添加して樹脂分に対する顔料濃度を減少させることによって、該ウエット塗膜における貯蔵弾性率G'や、上記比(G'/G'')の値を低下させることができる。
【0040】
塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値は、塗装方法の変更、例えば、スプレー塗装以外の塗装方法をスプレー塗装に変更することによっても変化する。スプレー塗装においては、微粒化された塗料粒子が被塗物表面に付着するまでの間に、かなりの水性媒体が揮散し不揮発分が高くなるので、スプレー塗装は、他の塗装方法に比べると、塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、上記比(G'/G'')の値を上昇させる程度が大きい。
【0041】
塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値を調整するための塗装条件の変更としては、例えば、エアスプレー塗装において、エア圧を上げる等の手段により、塗装時における塗料の微粒化の程度を向上させることにより、塗装時の水性媒体の揮発を速くし、塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、上記比(G'/G'')の値を増大させることができる。また、塗装環境における温度を上げる、相対湿度を下げることによっても塗装直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'や、上記比(G'/G'')の値を増大させることができる。水性塗料の塗装においては、通常、塗装環境における相対湿度が、上記貯蔵弾性率G'や、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値に大きく影響する。
【0042】
本発明に従って、上記塗装する水性塗料の表面張力、水性塗料を被塗物に塗装した直後のウエット塗膜の貯蔵弾性率G'及び貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の値となるよう調整された水性塗料によって耐ハジキ性が顕著に改良された塗膜が得られる。
【実施例】
【0043】
以下、製造例及び実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。各例における「部」及び「%」は、いずれも質量基準である。
【0044】
製造例1 水酸基含有アクリル樹脂水分散液の製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に脱イオン水145部、Newcol562SF(注1)1.2部を仕込み、窒素気流中で撹拌混合し、80℃に昇温した。次いで下記のモノマー乳化物1全量のうちの1%量及び3%過硫酸アンモニウム水溶液5.2部とを反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。その後、残りのモノマー乳化物1を3時間かけて反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間、熟成を行なった。その後、下記のモノマー乳化物2及び3%過硫酸アンモニウム水溶液1.5部を2時間かけて滴下し、1時間熟成した後、1.5%ジメチルエタノールアミン水溶液89部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、固形分25%のアクリル樹脂(A)水分散液を得た。得られたアクリル樹脂(A)の水酸基価は22.1mgKOH/g、酸価は30.7mgKOH/g、平均粒子径は100nmであった。
(注1)Newcol562SF;日本乳化剤社製、商品名、ポリオキシエチレンアルキルベンゼンスルホン酸アンモニウム、有効成分60%。
【0045】
モノマー乳化物1:脱イオン水94.3部、メチルメタクリレート17部、n−ブチルアクリレート80部、アリルメタクリレート3部及びNewcol562SF1.2部を混合攪拌して、モノマー乳化物1を得た。
【0046】
モノマー乳化物2:脱イオン水39部、メチルメタクリレート15.4部、n−ブチルアクリレート2.9部、ヒドロキシエチルアクリレート5.9部、メタクリル酸5.1部及びNewcol562SF 0.5部を混合攪拌して、モノマー乳化物2を得た。
【0047】
製造例2 水酸基含有アクリル樹脂水溶液の製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル50部を入れ、120℃に加熱保持した。この中に、
スチレン15部、メチルメタクリレート20部、エチルアクリレート25部、n−ブチルアクリレート20部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート15部、アクリル酸5部及び2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(ラジカル重合開始剤)4部の混合物を2時間かけて徐々に滴下し、滴下終了後1時間熟成した後、ジメチルエタノールアミン及び脱イオン水を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、固形分40%でpH7.8のアクリル樹脂(B)水溶液を得た。得られたアクリル樹脂(B)の水酸基価は72mgKOH/g、酸価は39mgKOH/g、数平均分子量は12000であった。この数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。カラムは、「TSKgel G−4000HXL」、「TSKgel G−3000HXL」、「TSKgel G−2500HXL」、「TSKgel G−2000HXL」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0048】
製造例3 水性メタリック塗料の製造
製造例1で得たアクリル樹脂(A)水分散液200部(固形分50部)に、攪拌下にて製造例2で得たアクリル樹脂(B)水溶液50部(固形分20部)、サイメル325(日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン樹脂、固形分80%)37.5部(固形分30部)を加え、ついでBYK345(BYK CHEMIE INTERNATIONAL GMBH社製、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン、表面調整剤)1部を配合し、均一にした後、旭化成アルミペーストGX−180A(旭化成ケミカルズ社製、アルミペースト、アルミニウム分74%)27部(固形分20部)を配合、攪拌し、さらにジメチルエタノールアミン及び脱イオン水を添加し、均一に攪拌してpH8.0、25℃でのフォードカップ#4による粘度40秒の水性メタリック塗料を得た。得られた水性メタリック塗料について、前記したペンダントドロップ法にて得られた水性メタリック塗料の表面張力を測定した。
【0049】
製造例4〜9
製造例3において、旭化成アルミペーストGX−180Aを配合する前までの樹脂及びポリシロキサンの配合を下記表1に示すとおりとする以外は製造例3と同様にして、pH8.0、25℃でのフォードカップ#4による粘度40秒の各水性メタリック塗料を得た。表1における各成分の配合量は、固形分質量部による表示である。各水性メタリック塗料のペンダントドロップ法による表面張力の測定結果も表1中に記載する。
【0050】
表1における(註)は下記の意味を有する。
(注2)BYK333:BYK CHEMIE INTERNATIONAL GMBH社製、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン、表面調整剤。
【0051】
【表1】

【0052】
試験用被塗物の作成
(1)試験用中塗り塗装板の作成
パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理)を施した冷延鋼板に、エレクロンGT−10(関西ペイント社製、商品名、カチオン電着塗料)を硬化膜厚が20μmとなるように電着塗装し、170℃で30分間焼付けを行った。ついで、この電着塗膜上にアミラックTP−65−2(関西ペイント社製、商品名、中塗り塗料)を硬化膜厚が35μmとなるように塗装し、5分間放置後、140℃で30分間加熱して硬化させて試験用中塗り塗装板(2)を作成した。この塗装板(2)を塗面の肌、耐水性の試験に供した。
【0053】
(2)シリコーン塗布試験用中塗り塗装板の作成
上記試験用中塗り塗装板(1)の表面に、「TSM630」(商品名、GE東芝シリコーン(株)製、ジメチルシリコーンオイルを乳化したエマルジョン型のシリコーン離型剤)を水で10000倍に薄めたものをスプレーガンでウエット膜厚が約20μmになるように塗布し、80℃×3分間で乾燥させてシリコーン塗布試験用中塗り塗装板(2)を作成した。この塗装板(2)を耐ハジキ性試験に供した。
【0054】
実施例1
製造例3で得た水性メタリック塗料を、温度25℃、湿度65%RHの雰囲気条件にて、乾燥膜厚15μmになるように、厚さ0.3mmのブリキ板、上記試験用中塗り塗装板(1)及びシリコーン塗布試験用中塗り塗装板(2)の3種の各被塗物にエアスプレー塗装を行った。
【0055】
ブリキ板の塗装については、水性メタリック塗料塗装1分後にブリキ板上の塗料を掻き取り、HAAKE社製のレオメーター「RheoStressRS150」を用いて、温度25℃、応力0.5Paにおける、周波数0.1Hzでの振動測定により貯蔵弾性率G'、及び貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')を測定した。
【0056】
試験用中塗り塗装板(1)の塗装については、水性メタリック塗料を塗装後、80℃で5分間プレヒートし、ついで、水性メタリック塗膜上に、マジクロンTC−71(関西ペイント社製、商品名、上塗りクリヤ塗料)を硬化膜厚が35μmとなるように塗装し、140℃で30分間焼付け硬化させた。この上塗塗装板を、塗面の肌及び耐水性の試験に供した。
【0057】
シリコーン塗布試験用中塗り塗装板(2)の塗装については、水性メタリック塗料を塗装後、80℃で5分間乾燥させた後の塗面状態を評価した。
【0058】
実施例2〜6及び比較例1〜5
実施例1において、使用する水性メタリック塗料種及び塗装条件における湿度を下記表2に示すとおりとする以外は実施例1と同様に行った。実施例1〜6及び比較例1〜5の試験結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
上記表2における試験方法は下記のとおりである。
試験方法
耐ハジキ性:前記シリコーン塗布試験用中塗り塗装板(2)に水性メタリック塗料を塗装後、80℃で5分間乾燥させた後の塗面状態を評価した。
○:ハジキなし、 ×:ハジキあり
塗面の肌:前記試験用中塗り塗装板(1)の上塗塗装板について、塗面の平滑性を目視評価した。
【0061】
耐水性:前記試験用中塗り塗装板(1)の上塗塗装板を、40℃の脱イオン水に240時間浸漬後の塗膜外観及び付着性を調べた。付着性は、素地に達するようにカッターナイフで×印状のクロスカットを入れ、そのクロスカット部に粘着セロハンテープを貼着し、それを急激に剥がした後のハガレを評価した。
○:全く異常が認められない、
△:フクレ、ブリスター発生などの外観異常は認められないが、ハガレが認められる、
×:フクレ、ブリスター発生などの外観異常及びハガレがともに認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物に水性塗料を塗装するにあたり、塗装する水性塗料のペンダントドロップ法による25℃における表面張力を21〜30mN/mの範囲内とし、かつ該水性塗料を被塗物に塗装した直後のウエット塗膜において、25℃における周波数0.1Hzでの振動測定による貯蔵弾性率G'を5〜500Paの範囲内とし、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')を0.5〜5.0の範囲内になるように制御することにより、塗膜の耐ハジキ性を改良する方法。
【請求項2】
水性塗料がビヒクル成分として、水溶性樹脂、エマルション樹脂及び架橋剤を含有するものである請求項1記載の塗膜の耐ハジキ性改良方法。
【請求項3】
上記表面張力、上記貯蔵弾性率G'、及び上記貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''との比(G'/G'')の制御を、塗装する水性塗料の組成変更、塗装方法の変更及び塗装条件の変更からなる群から選ばれる少なくとも一種の方法により行う請求1又は2に記載の塗膜の耐ハジキ性改良方法。
【請求項4】
塗装する水性塗料の組成変更を、流動性調整剤の添加、溶剤の添加及び塗料の顔料濃度の調整から選ばれる少なくとも一つの処方により行う請求項3に記載の塗膜の耐ハジキ性改良方法。

【公開番号】特開2008−221128(P2008−221128A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62872(P2007−62872)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】