説明

塗膜付きシート

【課題】紫外線硬化型塗料を塗布してなる塗膜付きシートにおいて、硬度・透明性・耐摩擦性・耐薬品性・耐汚染性・耐熱性に優れ、頻繁に磨き作業をしなくても表面の光沢を維持でき、十分な視認性と長期間の使用に耐える強度を有する塗膜を形成できること。
【解決手段】紫外線硬化型塗料1は、イソシアネート化合物2及びヒドロキシ化合物3のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有し、100重量%中に、0.5重量%〜3重量%の範囲内の帯電防止剤5と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の銀錯体系抗菌剤6と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の不飽和ポリエステル樹脂7とを含有する。これを透明な有機合成樹脂シートに塗布厚さが8μm±1μmの範囲内になるように塗布してUV硬化させることによって塗膜付きシート10が得られ、優れた耐摩耗特性・耐薬品性・耐紫外線性・透明性・抗菌性・不燃性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型塗料を応用して、硬度・透明性・耐摩擦性・耐薬品性・耐汚染性・耐熱性に優れ、長期間の使用に耐える強度を有する塗膜を形成した塗膜付きシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、店舗、病院、工場等において使用される床材としては、塩化ビニル等の有機合成樹脂系シート、フローリング等の木質材料、磁器タイル等のセラミックス材料、大理石等の石材料、等が主に使用されており、更にこれらの床材の表面に高い光沢性を付与し、耐久性を向上させ、スリップを防止する目的で、ワックスやフロアポリッシュ等の艶出し剤が塗布されている。
【0003】
しかし、店舗、病院、工場等の床面は極めて多くの人が歩行するものであるため、ワックスやフロアポリッシュ等の従来の艶出し剤を塗布しただけでは、施工後数日から一週間程度で床面の表面光沢性が著しく低下し、また傷や着色汚れが目立つようになって、塗膜を剥離して再度艶出し剤を塗布する作業を、短期間のうちに何度も繰り返す必要があるという問題が生じていた。
【0004】
そこで、かかる問題を解決するために、特許文献1には、少なくとも一種が不飽和結合を有するイソシアネート化合物及びヒドロキシル化合物を原料としてなる不飽和ウレタン化合物を少なくとも一種含む塗料であって、ポリアルキレンオキシ基の含有量が2〜16重量%であり、かつ不飽和結合数の比率が6以上である床用塗料及びその塗料被覆物の発明が開示されている。これによって、耐汚染性及び光沢保持性に優れ、傷や着色汚れを簡単に取り除くことができる塗膜を形成することができ、かつ溶剤として水を使用することのできる床用塗料及びその塗料被覆物となるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−069371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、床用塗料を用いてなる塗料被覆物の硬度及び耐摩擦性が比較的低いため傷が付き易く、また塗料被覆物の耐薬品性が低いことから、床面の光沢を維持するために何度も床磨き作業をしなければならず、更に塗料被覆物の透明性が十分でないため、床面または床面に敷くシートに模様・文字等を印刷した場合等には、視認性が不十分であるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであって、硬度・透明性・耐摩擦性・耐薬品性・耐汚染性・耐熱性に優れていて、頻繁に磨き作業をしなくても表面の光沢を維持することができ、十分な視認性と長期間の使用に耐える強度を有する塗膜を形成した塗膜付きシートの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る塗膜付きシートは、イソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物を原料化合物とする不飽和ウレタン化合物を含有し、前記原料化合物のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を透明な有機合成樹脂シートの上に塗布してなる塗膜付きシートであって、前記紫外線硬化型塗料は、前記不飽和ウレタン化合物の少なくとも一種がポリアルキレンオキシ基を有し、該ポリアルキレンオキシ基の含有量が、前記不飽和ウレタン化合物に使用される前記イソシアネート化合物及び前記ヒドロキシ化合物の合計量に対して2重量%〜16重量%の範囲内であり、前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、前記イソシアネート化合物のイソシアナト基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であるか、前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、前記ヒドロキシ化合物の水酸基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であり、前記紫外線硬化型塗料100重量%中に、0.5重量%〜3重量%の範囲内の帯電防止剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の銀錯体系抗菌剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の不飽和ポリエステル樹脂とを含有する紫外線硬化型塗料であり、該紫外線硬化型塗料を、クラス1000以上に優れたクリーンルーム内で前記透明な有機合成樹脂シートの上に塗布厚さが8μm±1μmの範囲内になるように塗布して紫外線硬化させて塗膜を形成させてなり、前記透明な有機合成樹脂シートの表面には易接着処理が施されており、前記塗膜の視認率(可視光線透過率)が90%以上であるものである。
【0009】
ここで、「前記不飽和ウレタン化合物に使用される前記イソシアネート化合物及び前記ヒドロキシ化合物の合計量」とは、ポリアルキレンオキシ基の有無に関わらず、紫外線硬化型塗料を製造するのに用いられる全てのイソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物の合計量をいう。
【0010】
また、「該ポリアルキレンオキシ基の含有量」を具体的に説明すると、紫外線硬化型塗料を製造するのにイソシアネート化合物AをA1グラム、イソシアネート化合物BをB1グラム、ヒドロキシ化合物CをC1グラム、ヒドロキシ化合物DをD1グラム用いたとして、イソシアネート化合物Aがポリアルキレンオキシ基を分子中にA2重量%含有し、ヒドロキシ化合物Cがポリアルキレンオキシ基を分子中にC2重量%含有し、イソシアネート化合物Bとヒドロキシ化合物Dはポリアルキレンオキシ基を含有しない場合、ポリアルキレンオキシ基の含有量:W(重量%)は、次式(1)で表される。
【0011】
【数1】

【0012】
更に、「前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値」を具体的に説明すると、不飽和結合を有するイソシアネート化合物Aの使用量がA3モル(mol)で不飽和結合数がA4個、不飽和結合を有するイソシアネート化合物Bの使用量がB3モル(mol)で不飽和結合数がB4個、不飽和結合を有するヒドロキシ化合物Cの使用量がC3モル(mol)で不飽和結合数がC4個、不飽和結合を有するヒドロキシ化合物Dの使用量がD3モル(mol)で不飽和結合数がD4個とすると、不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値:Xは、次式(2)で表される。
【0013】
【数2】

【0014】
また、「前記イソシアネート化合物のイソシアナト基の数」を具体的に説明すると、イソシアネート化合物Aのイソシアナト基の数がA5、イソシアネート化合物Bのイソシアナト基の数がB5とすると、イソシアネート化合物のイソシアナト基の数:Yは、次式(3)で表される。
【0015】
【数3】

【0016】
更に、「前記ヒドロキシ化合物の水酸基の数」を具体的に説明すると、ヒドロキシ化合物Cの水酸基の数がC5、ヒドロキシ化合物Dの水酸基の数がD5すると、ヒドロキシ化合物の水酸基の数:Zは、次式(4)で表される。
【0017】
【数4】

【0018】
また、ここで、帯電防止剤としては、三洋化成工業(株)製の「ペレスタット」やポリエステル樹脂用帯電防止剤等を、銀錯体系抗菌剤としてはチオサルファイト銀錯体等を、それぞれ用いることができる。更に、「透明な有機合成樹脂シート」としては、PE(ポリエチレン)シート、PP(ポリプロピレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート、アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)シート、塩化ビニルシート、ポリウレタンシート、等を用いることができる。
【0019】
更に、「易接着処理」とは、透明な有機合成樹脂シートが他のシートやフィルムまたは塗料や接着剤との密着性が向上するようにする処理をいい、例えば、透明な有機合成樹脂シートの表面にポリウレタン層をコーティングする等の方法がある。
【0020】
請求項2の発明に係る塗膜付きシートは、表面に印刷を施した印刷シートの表面に透明な有機合成樹脂シートを貼り、該透明な有機合成樹脂シートの上に、イソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物を原料化合物とする不飽和ウレタン化合物を含有し、前記原料化合物のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を塗布してなる塗膜付きシートであって、前記紫外線硬化型塗料は、前記不飽和ウレタン化合物の少なくとも一種がポリアルキレンオキシ基を有し、該ポリアルキレンオキシ基の含有量が、前記不飽和ウレタン化合物に使用される前記イソシアネート化合物及び前記ヒドロキシ化合物の合計量に対して2重量%〜16重量%の範囲内であり、前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、前記イソシアネート化合物のイソシアナト基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であるか、前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、前記ヒドロキシ化合物の水酸基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であり、前記紫外線硬化型塗料100重量%中に、0.5重量%〜3重量%の範囲内の帯電防止剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の銀錯体系抗菌剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の不飽和ポリエステル樹脂とを含有する紫外線硬化型塗料であり、該紫外線硬化型塗料を、クラス1000以上に優れたクリーンルーム内で前記透明な有機合成樹脂シートの上に塗布厚さが8μm±1μmの範囲内になるように塗布して紫外線硬化させて塗膜を形成させてなり、前記透明な有機合成樹脂シートの表面には易接着処理が施されており、前記塗膜の視認率(可視光線透過率)が90%以上であるものである。
【0021】
請求項3の発明に係る塗膜付きシートは、請求項1または請求項2の構成において、前記塗膜の表面平滑度は、光学的レベルの平滑性であるものである。ここで、「光学的レベルの平滑性」とは、透明な塗膜付きシートを鏡の表面に貼り付けた場合でも、鏡面像が全く歪まないレベルの平滑性をいう。
【0022】
請求項4の発明に係る塗膜付きシートは、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記透明な有機合成樹脂シートは、厚さが25μm〜200μmの範囲内、より好ましくは50μm〜100μmの範囲内のPET(ポリエチレンテレフタレート)シートであるものである。
【0023】
請求項5の発明に係る塗膜付きシートは、請求項1乃至請求項4のいずれか1つの構成において、前記帯電防止剤は、ポリエステル樹脂用帯電防止剤からなるものである。ここで、ポリエステル樹脂用帯電防止剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルとケイ酸カルシウムとの混合物等を用いることができる。
【0024】
請求項6の発明に係る塗膜付きシートは、請求項1乃至請求項5のいずれか1つの構成において、前記銀錯体系抗菌剤は、チオサルファイト銀錯体からなるものである。ここで、チオサルファイト銀錯体は、例えば、酢酸銀を40℃の純水に溶解させて飽和溶液を作り、この飽和溶液に亜硫酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムを順次溶解させることによって得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1の発明に係る塗膜付きシートは、イソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物を原料化合物とする不飽和ウレタン化合物を含有し、原料化合物のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を透明な有機合成樹脂シートの上に塗布してなる塗膜付きシートであって、紫外線硬化型塗料は、不飽和ウレタン化合物の少なくとも一種がポリアルキレンオキシ基を有し、ポリアルキレンオキシ基の含有量が、不飽和ウレタン化合物に使用されるイソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物の合計量に対して2重量%〜16重量%の範囲内であり、不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、イソシアネート化合物のイソシアナト基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であるか、不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、ヒドロキシ化合物の水酸基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であり、紫外線硬化型塗料100重量%中に、0.5重量%〜3重量%の範囲内の帯電防止剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の銀錯体系抗菌剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の不飽和ポリエステル樹脂とを含有する紫外線硬化型塗料であり、紫外線硬化型塗料を、クラス1000以上に優れたクリーンルーム内で透明な有機合成樹脂シートの上に塗布厚さが8μm±1μmの範囲内になるように塗布して紫外線硬化させて塗膜を形成させてなり、塗膜の視認率(可視光線透過率)が90%以上である。
【0026】
本発明に係る塗膜付きシートは、イソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物を原料化合物とする不飽和ウレタン化合物を含有し、原料化合物のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を塗布してなるものであることから、耐薬品性・耐汚染性・耐熱性に優れたものとなる。ここで、ポリアルキレンオキシ基の含有量:W(重量%)が2重量%〜16重量%の範囲内であることによって、紫外線硬化型塗料を塗布して紫外線硬化させてなる塗膜が、反りや割れを生ずることなく、しかも耐汚染性や光沢保持性能に優れた塗膜となる。Wが2重量%未満であると、塗膜が反りや割れを生ずる恐れがあり、Wが16重量%を超えると塗膜の耐汚染性や光沢保持性能が低下する。
【0027】
また、不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値:Xに、イソシアネート化合物のイソシアナト基の数:Yを乗じたもの即ちX・Y、或いはXにヒドロキシ化合物の水酸基の数:Zを乗じたもの即ちX・Zのいずれか一方の値が6〜9の範囲内であることが必要とされる。X・Y及びX・Zのいずれもが6未満である場合には、塗膜の耐汚染性や光沢保持性能が不十分になり、更に塗膜に着色汚れや傷が付き易くなる。また、X・Y及びX・Zのいずれもが9を超える場合には、塗膜に反りが生じたり、塗膜の密着性が低下したりし易くなる。
【0028】
更に、銀錯体系抗菌剤を0.5重量%〜3重量%の範囲内で含有していることから、塗膜に抗菌機能を持たせることができ、塗膜の表面を常に清潔に保持して汚染を防止することができる。また、不飽和ポリエステル樹脂を0.5重量%〜3重量%の範囲内で含有していることから、高硬度の不飽和ポリエステル樹脂で保護されることによって、塗膜の硬度が著しく向上する。
【0029】
そして、本発明者は、かかる紫外線硬化型塗料の塗布厚さと塗膜性能の関係について、鋭意実験研究を重ねた結果、透明な有機合成樹脂シートの上に塗布厚さが8μm±1μmの範囲内になるように塗布して紫外線硬化させて塗膜を形成することによって、塗膜の硬度・透明性・耐摩擦性が著しく向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。即ち、塗布厚さが8μmの場合に、最も優れた硬度・透明性・耐摩擦性が得られるものであり、塗布厚さは8μm±1μmの範囲内とする必要があり、更に8μm±0.5μmの範囲内とすることが、より好ましい。
【0030】
更に、クラス1000以上に優れたクリーンルーム内で塗布・乾燥・紫外線硬化の工程を実施することから、塗膜内に塵埃が入らないため表面平滑性・透明性・防汚性が低下することなく、表面に易接着処理が施された透明な有機合成樹脂シートの上に塗布されることから、塗膜の密着性にも極めて優れたものとなる。また、塗膜の視認率(可視光線透過率)が90%以上であることから、透明な有機合成樹脂シートの視認率(可視光線透過率)が90%以上であっても、塗膜付きシートとしての視認率が低下することなく、透明性に優れた塗膜付きシートとなる。
【0031】
このようにして、硬度・透明性・耐摩擦性・耐薬品性・耐汚染性・耐熱性に優れていて、頻繁に磨き作業をしなくても表面の光沢を維持することができ、十分な視認性と長期間の使用に耐える強度を有する塗膜を形成した塗膜付きシートとなる。
【0032】
請求項2の発明に係る塗膜付きシートは、表面に印刷を施した印刷シートの表面に透明な有機合成樹脂シートを貼り、透明な有機合成樹脂シートの上に、イソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物を原料化合物とする不飽和ウレタン化合物を含有し、原料化合物のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を塗布してなる。
【0033】
ここで、紫外線硬化型塗料は、不飽和ウレタン化合物の少なくとも一種がポリアルキレンオキシ基を有し、ポリアルキレンオキシ基の含有量:W(重量%)が、不飽和ウレタン化合物に使用されるイソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物の合計量に対して2重量%〜16重量%の範囲内であることから、紫外線硬化型塗料を塗布して紫外線硬化させてなる塗膜が、反りや割れを生ずることなく、しかも耐汚染性や光沢保持性能に優れた塗膜となる。Wが2重量%未満であると、塗膜が反りや割れを生ずる恐れがあり、Wが16重量%を超えると、塗膜の耐汚染性や光沢保持性能が低下する。
【0034】
また、不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値:Xに、イソシアネート化合物のイソシアナト基の数:Yを乗じたもの即ちX・Y、或いはXにヒドロキシ化合物の水酸基の数:Zを乗じたもの即ちX・Zのいずれか一方の値が6〜9の範囲内であることが必要とされる。X・Y及びX・Zのいずれもが6未満である場合には、塗膜の耐汚染性や光沢保持性能が不十分になり、更に塗膜に着色汚れや傷が付き易くなる。また、X・Y及びX・Zのいずれもが9を超える場合には、塗膜に反りが生じたり、塗膜の密着性が低下したりし易くなる。
【0035】
更に、銀錯体系抗菌剤を0.5重量%〜3重量%の範囲内で含有していることから、塗膜に抗菌機能を持たせることができ、塗膜の表面を常に清潔に保持して汚染を防止することができる。また、不飽和ポリエステル樹脂を0.5重量%〜3重量%の範囲内で含有していることから、高硬度の不飽和ポリエステル樹脂で保護されることによって、塗膜の硬度が著しく向上する。
【0036】
そして、本発明者は、かかる紫外線硬化型塗料の塗布厚さと塗膜性能の関係について、鋭意実験研究を重ねた結果、透明な有機合成樹脂シートの上に塗布厚さが8μm±1μmの範囲内になるように塗布して紫外線硬化させて塗膜を形成することによって、塗膜の硬度・透明性・耐摩擦性が著しく向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。即ち、塗布厚さが8μmの場合に、最も優れた硬度・透明性・耐摩擦性が得られるものであり、塗布厚さは8μm±1μmの範囲内とする必要があり、更に8μm±0.5μmの範囲内とすることが、より好ましい。
【0037】
また、紫外線硬化型塗料は、クラス1000以上に優れたクリーンルーム内で表面に易接着処理が施された透明な有機合成樹脂シートの上に塗布され、乾燥され、紫外線硬化されることから、塗膜内に塵埃が入ることがないため、表面平滑性・透明性・防汚性が低下することなく、また塗膜の密着性にも極めて優れたものとなる。
【0038】
更に、塗膜の視認率(可視光線透過率)が90%以上であることから、透明な有機合成樹脂シートの視認率(可視光線透過率)が90%以上であっても、塗膜付きシートとした場合にも透明性が低下することなく、印刷シートの表面に施した印刷を透明な有機合成樹脂シート及び塗膜を透してはっきりと視認することができ、あたかも透明な有機合成樹脂シート及び塗膜が存在しないかのように、良く見えることになる。このように、印刷シートの視認性に極めて優れた塗膜付きシートとなる。
【0039】
このようにして、硬度・透明性・耐摩擦性・耐薬品性・耐汚染性・耐熱性に優れていて、頻繁に磨き作業をしなくても表面の光沢を維持することができ、十分な視認性と長期間の使用に耐える強度を有する塗膜を形成した塗膜付きシートとなる。
【0040】
請求項3の発明に係る塗膜付きシートにおいては、塗膜の表面平滑度が光学的レベルの平滑性である。従来の透明有機合成樹脂シートの上に透明な塗膜を形成したものは、塗膜の表面平滑度が悪く、鏡の表面に貼り付けた場合には、鏡面像が歪んでしまう。しかし、本発明に係る塗膜付きシートは塗膜の表面平滑度が光学的レベルの平滑性であり、鏡の表面に貼り付けた場合にも、鏡面像が全く歪まないことから、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、塗膜付きシートの表面平滑度が極めて優れたものとなり、より確実に貼り付ける対象の床面や印刷シートの表面に施した印刷の見栄えを損なうことなく、しかも耐傷付き性及び耐汚染性に優れた塗膜付きシートとなる。
【0041】
請求項4の発明に係る塗膜付きシートにおいては、透明な有機合成樹脂シートは、厚さが25μm〜200μmの範囲内のPET(ポリエチレンテレフタレート)シートであることから、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、シートの製造コストを低減することができるとともに、適度な強度と適度な柔軟性を兼ね備えた塗膜付きシートとなるため、美装・装飾・広告用シートとして、床や壁面への貼り付け等の施工作業が容易になり、取り扱い性にも優れたものとなる。
【0042】
請求項5の発明に係る塗膜付きシートにおいては、帯電防止剤がポリエステル樹脂用帯電防止剤であることから、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに係る発明の効果に加えて、不飽和ポリエステル樹脂を含有する紫外線硬化型塗料において不飽和ポリエステル樹脂との相溶性が良く、帯電防止剤として塗膜の表面における埃の付着をより確実に防止することができ、より確実に耐傷付き性及び耐汚染性に優れた塗膜付きシートとすることができる。
【0043】
請求項6の発明に係る紫外線硬化型塗料においては、銀錯体系抗菌剤がチオサルファイト銀錯体からなるものであることから、請求項1乃至請求項5のいずれか1つの効果に加えて、微生物やウイルスにもより優れた抑止効果を有し、また不飽和ウレタン化合物との相溶性が良く、より確実に抗菌作用を発揮することができて耐汚染性に優れた塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は本発明の実施例1に係る塗膜付きシートの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は本発明の実施例1に係る塗膜付きシートの構造を示す斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施例1の第1応用例に係る塗膜付きシートを示す斜視図である。
【図4】図4は本発明の実施例1の第2応用例に係る塗膜付きシートを示す斜視図である。
【図5】図5は本発明の実施例2に係る塗膜付きシートの構造を示す斜視図である。
【図6】図6は本発明の実施例2の第1応用例に係る塗膜付きシートを示す斜視図である。
【図7】図7は本発明の実施例2の第2応用例に係る塗膜付きシートを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明を実施するためには、塗膜付きシートの塗膜を形成するための塗料として、イソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物を原料化合物とする不飽和ウレタン化合物を含有し、原料化合物のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を使用する必要がある。ここで、不飽和結合は、ヒドロキシ化合物に存在することが好ましい。以下に、イソシアネート化合物と、分子内にアクリロイル基またはメタクリロイル基に由来する不飽和結合を有するヒドロキシ化合物とのウレタン化反応によって得られる不飽和ウレタン化合物の製造方法について説明する。
【0046】
ここで、イソシアネート化合物としては、モノイソシアネート化合物、ジイソシアネート化合物、ポリイソシアネート化合物等を用いることができるが、特にポリイソシアネート化合物が好ましい。ポリイソシアネート化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物等があるが、特に脂肪族ポリイソシアネート化合物が好ましい。中でも、イソシアナト基の数が3以上であるものが好ましい。
【0047】
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、炭素数が6〜10である飽和炭化水素を主体とするものが好ましい。脂肪族ポリイソシアネート化合物の具体例としては、1,4,8−トリイソシアナトオクタン、1,4,8−トリイソシアナトウンデカン、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、1,3,6−トリイソシアナトヘキサン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアナト−5−イソシアナトメチルオクタン、等がある。
【0048】
一方、分子内にアクリロイル基またはメタクリロイル基(以下、これらを合わせて「(メタ)アクリロイル基」という。)を有するヒドロキシ化合物としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との付加物、これらの(メタ)アクリレート化合物とε−カプロラクトンとの開環反応物、グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との付加物、フェニルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との付加物、等があり、特にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0049】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、グリシドールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、等があり、特にペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0050】
また、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレンオキサイドモノ(メタ)アクリレート、エチレン−プロピレングリコールブロック重合体の(メタ)アクリル酸との付加物、等があり、特にポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0051】
このような脂肪族ポリイソシアネート化合物と(メタ)アクリロイル基を有するヒドロキシ化合物とを、定法にしたがってウレタン化反応させることによって、不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を得ることができる。かかる紫外線硬化型塗料は、水を溶剤とした水性エマルジョン系塗料として使用することができる。ここで、「エマルジョン(emulsion,エマルションともいう。)」とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)、が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
【0052】
塗布した紫外線硬化型塗料を硬化させるための光源としては、ハロゲンランプ、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、太陽等を用いることができるが、特に紫外線強度に3ピークを有するメタルハライドランプが好ましい。紫外線硬化型塗料を塗布する透明な有機合成樹脂シートとしては、PE(ポリエチレン)シート、PP(ポリプロピレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート、アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)シート、塩化ビニルシート、ポリウレタンシート、等があるが、特にPETシートが好ましい。また、透明な有機合成樹脂シートの視認率(可視光線透過率)は90%以上であることが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例に係る塗膜付きシートについて、図面を参照しつつ説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
まず、本発明の実施例1に係る塗膜付きシートについて、図1乃至図4を参照して説明する。図1は本発明の実施例1に係る塗膜付きシートの製造方法を示すフローチャートである。図2は本発明の実施例1に係る塗膜付きシートの構造を示す斜視図である。図3は本発明の実施例1の第1応用例に係る塗膜付きシートを示す斜視図である。図4は本発明の実施例1の第2応用例に係る塗膜付きシートを示す斜視図である。
【0055】
最初に、本実施例1に係る塗膜付きシートの製造方法について、図1を参照して説明する。図1に示されるように、まず不飽和ウレタン化合物の原材料であるイソシアネート化合物2及びヒドロキシ化合物3を混合・反応させ、不飽和ウレタン化合物溶液を製造する(ステップS10)。ここで、イソシアネート化合物2としては、トリス(6−イソシアナトヘキシル)イソシアヌレートである、旭化成(株)製の商品名「デラネートTPA−100」を用いた。また、ヒドロキシ化合物3としては、テトラメチロールメタントリアクリレートとテトラメチロールメタンテトラアクリレートとの混合物である、新中村化学工業(株)製の商品名「NKエステルA−TMM−3L」、及びポリオール化合物である新中村化学工業(株)製の商品名「ブレンマーAE350」を用いた。
【0056】
なお、重合禁止剤及び反応促進剤として、少量のハイドロキノン及びジブチル錫ラウレートを添加した。反応は、80℃において8時間行わせ、反応物の赤外吸収(IR)スペクトルを測定し、イソシアネートの吸収ピーク(2170cm-1)がなくなった時点で反応を終了した。こうして得られた不飽和ウレタン化合物を、ホモミキサーを用いて乳化しながら、乳化剤を添加した溶媒4としての蒸留水に、40重量%になるように徐々に加えてエマルジョンとして、水性エマルジョン系塗料を得た。なお、この際に、紫外線硬化剤として、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の商品名「ダロキュア1173」を2重量%添加した。
【0057】
次に、この水性エマルジョン系塗料に、帯電防止剤5としてポリエステル樹脂用帯電防止剤を、銀錯体抗菌剤6としてチオサルファイト銀錯体を、それぞれ添加して混合し、更に不飽和ポリエステル樹脂7を添加して混合することによって(ステップS12)、紫外線硬化型塗料1が製造される。
【0058】
ここで、帯電防止剤5、銀錯体抗菌剤6及び不飽和ポリエステル樹脂7は、紫外線硬化型塗料1の100重量%に対して、それぞれ1.5重量%になるように添加した。また、帯電防止剤5としてのポリエステル樹脂用帯電防止剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルとケイ酸カルシウムとの混合物を用いた。更に、銀錯体抗菌剤6としてのチオサルファイト銀錯体は、酢酸銀を40℃の純水に溶解させて飽和溶液を作り、この飽和溶液に亜硫酸ナトリウムとチオ硫酸ナトリウムを順次溶解させることによって作製した。
【0059】
このようにして製造された紫外線硬化型塗料1を、クラス100のクリーンルーム内において、透明な有機合成樹脂シートとしての厚さが100μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)シートの表面に、塗膜厚さが8μmとなるように塗布して(ステップS14)、70℃で10分間加熱乾燥して溶媒を除去し(ステップS16)、紫外線強度に3ピークを有するメタルハライドランプを用いて、紫外線(UV)を照射して硬化させることによって(ステップS18)、本実施例1に係る塗膜付きシート10が得られた。
【0060】
ここで、PET(ポリエチレンテレフタレート)シートとしては、東洋紡績(株)製の商品名「コスモシャイン(登録商標)A4300」を使用した。この「コスモシャイン(登録商標)A4300」のJIS K−7105による全光線透過率は、92.3%であり、両面に易接着処理が施されている。このようにして製造された本実施例1に係る塗膜付きシート10について、その性能を、耐摩耗特性・耐薬品性・耐紫外線性・透明性・抗菌性・不燃性の6項目に亘って評価した。
【0061】
まず、耐摩耗特性について、静摩擦係数及び動摩擦係数を測定することによって、評価を行った。試験方法としては、JIS−K−7125に準じて実施し、塗膜付きシート10及び基材であるPETシートを供試体として、相手材としては皮革及びマットを用いた。その結果を、表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示されるように、本実施例1に係る塗膜付きシート10は、皮革に対しては、静摩擦係数及び動摩擦係数のいずれについてもPETシートより小さくなっており、またマットに対しては、静摩擦係数及び動摩擦係数のいずれについてもPETシートより大きくなっている。したがって、革靴に対しては摩擦係数が小さく耐摩耗性に優れており、上にマットを敷いた場合には摩擦係数が大きくてずれ難くなり、床材として極めて優れた特性を有することが明らかになった。
【0064】
次に、耐薬品性について試験を行った。試験方法としては、塗膜付きシート10及び基材であるPETシートを供試体として、各供試体の表面に試験液を約0.1ml滴下し、時計皿で蓋をして室温で24時間放置した後、流水中で供試体の表面を軽くこすりながら試験液を洗い落として、乾燥した後、外観変化を観察した。そして、外観変化の全くないものを「A」、表面が完全に溶解したものを「E」として、A,B,C,D,Eの5段階で耐薬品性を評価した。
【0065】
試験液としては、塩酸(特級、35.0%〜37.0%)、フッ化水素酸(特級、46.0%)、硫酸(特級、95.0%)、飽和水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム(特級、97.0%)を使用)、2−ブタノン(特級、99.0%)の5種類の各薬品を使用した。その結果を、表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示されるように、本実施例1に係る塗膜付きシート10は、5種類の薬品全てについて全く外観の変化が見られず、優れた耐薬品性を示すことが明らかになった。これに対して、紫外線硬化型塗料1による塗膜を有しないPETシートにおいては、塩酸・フッ化水素酸・2−ブタノンについては全く外観の変化が見られなかったが、硫酸及び飽和水酸化ナトリウム水溶液に対しては、耐性を有していなかった。
【0068】
次に、耐紫外線性について試験を行った。試験方法としては、JIS−K−6772に準じて実施した。その結果、紫外線照射によっても塗膜付きシート10の色調は全く変化せず、優れた耐紫外線性を有することが明らかになった。
【0069】
また、塗膜付きシート10の可視光線と紫外線の分光透過率についても、試験を行った。試験方法としては、試験機器として日本分光(株)製の紫外可視分光光度計V−570を用いて、標準白板:硫酸バリウム、サンプリングピッチ:0.5nm、スリット幅:20nm、スキャン速度:中速、という条件で実施した。その結果、可視光線(400nm〜800nm)の分光透過率は90.6%であり、基材のPETシート(92.3%)と殆ど変わらなかった。
【0070】
また、紫外線(250nm〜400nm)の分光透過率は47.1%であったが、そのうちの84.7%が可視光線に近い波長(320nm〜400nm)のUV−Aであり、人体等に有害なUV−B(280nm〜320nm)及びUV−C(190nm〜280nm)は、殆ど透過しないことが明らかになった。
【0071】
次に、抗菌性について試験を行った。試験方法としては、JIS−Z−2801,5,2に準じて、供試菌としてMRSA(Methicillin resistant Staphylococcus aureus IID 1677)及び大腸菌(Escherichia coll NBRC 3972)を使用し、塗膜付きシート10及び基材であるPETシートを供試体として、各供試体の表面に供試菌を接種して、接種直後の生菌数を確認した。その結果を、表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
表3に示されるように、本実施例1に係る塗膜付きシート10は、MRSAに対する抗菌活性値が2.7より大きく、また大腸菌に対する抗菌活性値が6.0より大きく、優れた抗菌性を有することが明らかになった。
【0074】
次に、不燃性について試験を行った。試験方法としては、不燃材料に対する発熱性試験を実施し、20分間の総発熱量と最高発熱速度を測定した。供試体としては、上述した塗膜付きシート10の製造方法と同様にして、基材として厚さ50μmのPETシートを用いて塗膜付きシート10Aを製造し、基材として厚さ75μmのPETシートを用いて塗膜付きシート10Bを製造して、これらの塗膜付きシート10A,10Bをそれぞれ石膏ボードに貼り付けた供試体について試験を行った。その結果を、表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表4に示されるように、本実施例1に係る塗膜付きシート10Aを用いた供試体は、20分間の総発熱量が5.9MJ/m2 で不燃材料の基準である8.0MJ/m2 未満という条件を満たしており、また最高発熱速度が186.2kW/m2 で、「最高発熱速度が200kW/m2 を超えた時間が10秒間未満」という不燃材料の基準を満たしている。同様に、塗膜付きシート10Bを用いた供試体は、20分間の総発熱量が6.0MJ/m2 で不燃材料の基準を満たしており、また最高発熱速度が200kW/m2 を超えた時間が4秒間であって、やはり不燃材料の基準を満たしている。
【0077】
また、表4に示されるように、防火上有害な貫通孔等も生じなかった。したがって、本実施例1に係る塗膜付きシート10A,10Bは、建材として床面や壁面に貼り付けても、不燃材料として機能するため、極めて好ましいことが明らかになった。
【0078】
次に、本実施例1に係る塗膜付きシート10の応用例について、図2乃至図4を参照して説明する。図2に示されるように、本実施例1に係る塗膜付きシート10は、透明な有機合成樹脂シートとしてのPET(ポリエチレンテレフタレート)シート9の表面に、紫外線硬化型塗料1を塗布して紫外線硬化させて紫外線硬化塗膜8としたものである。その応用性を向上させるために、本実施例1の応用例に係る実用塗膜付きシート11においては、図2に示されるように、PETシート9の裏面に接着剤13を塗布して剥離紙14で覆っている。
【0079】
本実施例1の応用例1に係る塗膜付きシート10としては、図3に示されるように、トイレ20内の床面の便器21の正面に貼り付けて使用するものがある。施工方法としては、図2に示される実用塗膜付きシート11の裏面の剥離紙14を剥がして、接着剤13によって塗膜付きシート10を床面に貼り付ければ良い。これによって、便器21の外側に汚水が飛散した場合や、掃除用の薬品がこぼれた場合でも、床面が汚染されることもなく、薬品によって侵蝕されることもなく、拭き取るだけで光沢性を保つことができる。また、PETシート9を着色することによって、装飾的な役割をも持たせることができる。
【0080】
本実施例1の応用例2に係る塗膜付きシート10としては、図4に示されるように、工場内のライン22に沿った通路床面23に貼り付けて使用するものがある。この場合にも、施工方法としては、図2に示される実用塗膜付きシート11の裏面の剥離紙14を剥がして、接着剤13によって塗膜付きシート10を通路床面23に貼り付ければ良い。これによって、通路床面23が保護されて、滑り難くかつ傷付き難く、汚染され難くなるとともに、光沢が長期間保持される。また、PETシート9を着色することによって、装飾的な役割及び通路を明示する役割をも持たせることができる。
【0081】
このようにして、本実施例1に係る塗膜付きシート10は、硬度・透明性・耐摩擦性・耐薬品性・耐汚染性・耐熱性に優れていて、頻繁に磨き作業をしなくても表面の光沢を維持することができ、十分な視認性と長期間の使用に耐える強度を有する塗膜を形成した塗膜付きシートとなる。
【0082】
[実施例2]
次に、本発明の実施例2に係る塗膜付きシートについて、図5乃至図7を参照して説明する。図5は本発明の実施例2に係る塗膜付きシートの構造を示す斜視図である。図6は本発明の実施例2の第1応用例に係る塗膜付きシートを示す斜視図である。図7は本発明の実施例2の第2応用例に係る塗膜付きシートを示す斜視図である。
【0083】
本実施例2に係る塗膜付きシートにおいても、塗膜を形成するための塗料としては、上述した紫外線硬化型塗料1を使用している。即ち、本実施例2に係る塗膜付きシートを製造するための紫外線硬化型塗料の製造方法は、上記実施例1で述べた紫外線硬化型塗料1の製造方法と全く同一である。
【0084】
また、本実施例2に係る塗膜付きシートの製造方法についても、紫外線硬化型塗料1を塗布する基材が透明な有機合成樹脂シートか、印刷シートの表面に透明な有機合成樹脂シートを貼ったものかが異なるのみであり、製造条件は同様である。即ち、紫外線硬化型塗料1を、クラス100のクリーンルーム内において、印刷シートの表面に透明な有機合成樹脂シートとしての厚さが100μmのPETシートを貼り付けたものの表面に、塗膜厚さが8μmとなるように塗布して、70℃で10分間加熱乾燥して溶媒を除去し、紫外線強度に3ピークを有するメタルハライドランプを用いて、紫外線(UV)を照射して硬化させることによって、本実施例2に係る塗膜付きシートが得られる。
【0085】
図5に示されるように、本実施例2に係る塗膜付きシート15は、表面に文字・図形・絵柄・写真等が印刷された印刷シート12の表面に、透明な有機合成樹脂シートとしてのPETシート9を貼り合わせて、その上から紫外線硬化型塗料1を塗布して、紫外線硬化させて紫外線硬化塗膜8としたものである。その応用性を向上させるために、変形例の応用例に係る実用塗膜付きシート16においては、図5に示されるように、印刷シート12の裏面に接着剤13を塗布して剥離紙14で覆っている。
【0086】
本実施例2の応用例1に係る塗膜付きシート15としては、図6に示されるように、店舗内の床面25に貼り付けて使用するものがある。この場合にも、施工方法としては、図5に示される実用塗膜付きシート16の裏面の剥離紙14を剥がして、接着剤13によって塗膜付きシート15を床面25に貼り付ければ良い。これによって、透明性に優れた塗膜付きシート10を通して印刷シート12の印刷面が見えるために、店舗内の床面25の美観が向上するとともに、塗膜8及びPETシート9によって印刷シート12の表面が保護されて、滑り難くかつ傷付き難く、汚染され難くなり、光沢が長期間保持される。
【0087】
本実施例2の応用例2に係る塗膜付きシート15としては、図7に示されるように、駅のコンコースの床面27に貼り付けて使用するものがある。この場合にも、施工方法としては、図5に示される実用塗膜付きシート16の裏面の剥離紙14を剥がして、接着剤13によって塗膜付きシート15を床面27に貼り付ければ良い。これによって、透明性に優れた塗膜付きシート10を通して印刷シート12の印刷面が見えるために、見易い案内表示板として機能するとともに、塗膜8及びPETシート9によって印刷シート12の表面が保護されて、滑り難くかつ傷付き難く、汚染され難くなって、光沢が長期間保持される。
【0088】
このようにして、本実施例2に係る塗膜付きシート15においては、硬度・透明性・耐摩擦性・耐薬品性・耐汚染性・耐熱性に優れていて、頻繁に磨き作業をしなくても表面の光沢を維持することができ、印刷面の十分な視認性と長期間の使用に耐える強度を有する塗膜を形成することができる。
【0089】
上記各実施例においては、透明な有機合成樹脂シートとしてPET(ポリエチレンテレフタレート)シート9を用いた場合について説明したが、これに限られるものではなく、他の透明な有機合成樹脂シート、例えばPE(ポリエチレン)シート、PP(ポリプロピレン)シート、アクリル樹脂(メタクリル樹脂を含む)シート、塩化ビニルシート、ポリウレタンシート、等を用いることもできる。
【0090】
また、上記各実施例においては、塗膜付きシート10,15を床面に貼り付けた場合のみについて説明したが、塗膜付きシート10,15は壁面等の他の面に貼り付けることも可能であり、天井からぶら下げて装飾用・広告用等に使用することもできる。
【0091】
更に、上記各実施例においては、塗膜付きシート10,15の裏面に接着剤13と剥離紙14を備えた実用塗膜付きシート11,16について説明したが、塗膜付きシート10,15として製造して、施工時に接着剤等を裏面に塗布して貼り付ける方式とすることもできる。
【0092】
塗膜付きシートのその他の部分の構成、形状、数量、材質、太さ、厚さ、大きさ、製造方法、製造条件等についても、上記各実施例に限定されるものではない。なお、本発明の実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0093】
1 紫外線硬化型塗料
2 イソシアネート化合物
3 ヒドロキシ化合物
5 帯電防止剤
6 銀錯体抗菌剤
7 不飽和ポリエステル樹脂
8 塗膜
9 透明な有機合成樹脂シート
10,15 塗膜付きシート
12 印刷シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物を原料化合物とする不飽和ウレタン化合物を含有し、前記原料化合物のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を透明な有機合成樹脂シートの上に塗布してなる塗膜付きシートであって、
前記紫外線硬化型塗料は、前記不飽和ウレタン化合物の少なくとも一種がポリアルキレンオキシ基を有し、該ポリアルキレンオキシ基の含有量が、前記不飽和ウレタン化合物に使用される前記イソシアネート化合物及び前記ヒドロキシ化合物の合計量に対して2重量%〜16重量%の範囲内であり、前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、前記イソシアネート化合物のイソシアナト基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であるか、前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、前記ヒドロキシ化合物の水酸基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であり、前記紫外線硬化型塗料100重量%中に、0.5重量%〜3重量%の範囲内の帯電防止剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の銀錯体系抗菌剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の不飽和ポリエステル樹脂とを含有する紫外線硬化型塗料であり、
該紫外線硬化型塗料を、クラス1000以上に優れたクリーンルーム内で前記透明な有機合成樹脂シートの上に塗布厚さが8μm±1μmの範囲内になるように塗布して紫外線硬化させて塗膜を形成させてなり、前記透明な有機合成樹脂シートの表面には易接着処理が施されており、前記塗膜の視認率(可視光線透過率)が90%以上であることを特徴とする塗膜付きシート。
【請求項2】
表面に印刷を施した印刷シートの表面に透明な有機合成樹脂シートを貼り、該透明な有機合成樹脂シートの上に、イソシアネート化合物及びヒドロキシ化合物を原料化合物とする不飽和ウレタン化合物を含有し、前記原料化合物のうち少なくとも1つの化合物が不飽和結合を有する不飽和ウレタン化合物を含有する紫外線硬化型塗料を塗布してなる塗膜付きシートであって、
前記紫外線硬化型塗料は、前記不飽和ウレタン化合物の少なくとも一種がポリアルキレンオキシ基を有し、該ポリアルキレンオキシ基の含有量が、前記不飽和ウレタン化合物に使用される前記イソシアネート化合物及び前記ヒドロキシ化合物の合計量に対して2重量%〜16重量%の範囲内であり、前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、前記イソシアネート化合物のイソシアナト基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であるか、前記不飽和結合を有する原料のモル数の総和の値で、前記不飽和結合を有する原料のモル数に不飽和結合数を乗じたものの和の値を割った値に、前記ヒドロキシ化合物の水酸基の数を乗じた値が6〜9の範囲内であり、前記紫外線硬化型塗料100重量%中に、0.5重量%〜3重量%の範囲内の帯電防止剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の銀錯体系抗菌剤と、0.5重量%〜3重量%の範囲内の不飽和ポリエステル樹脂とを含有する紫外線硬化型塗料であり、
該紫外線硬化型塗料を、クラス1000以上に優れたクリーンルーム内で前記透明な有機合成樹脂シートの上に塗布厚さが8μm±1μmの範囲内になるように塗布して紫外線硬化させて塗膜を形成させてなり、前記透明な有機合成樹脂シートの表面には易接着処理が施されており、前記塗膜の視認率(可視光線透過率)が90%以上であることを特徴とする塗膜付きシート。
【請求項3】
前記塗膜の表面平滑度は、光学的レベルの平滑性であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗膜付きシート。
【請求項4】
前記透明な有機合成樹脂シートは、厚さが25μm〜200μmの範囲内のPET(ポリエチレンテレフタレート)シートであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の塗膜付きシート。
【請求項5】
前記帯電防止剤は、ポリエステル樹脂用帯電防止剤からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の塗膜付きシート。
【請求項6】
前記銀錯体系抗菌剤は、チオサルファイト銀錯体からなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の塗膜付きシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−79900(P2011−79900A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231638(P2009−231638)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(399074824)株式会社タカハラコーポレーション (2)
【Fターム(参考)】