説明

塗膜剥離剤及び塗膜剥離方法

【課題】
表面に有機塗膜層を有するプラスチック成形品の有機塗膜層を短時間で除去可能な塗膜剥離剤及び塗膜剥離方法を提供すること。
【解決手段】
本発明は、アルキル基の炭素数が1〜6の範囲内である水酸化テトラアルキルアンモニウム、ピロリドン系化合物を含む一液型塗膜剥離剤であって、水素結合パラメーター(δh)が10〜13[(J/cm1/2]の範囲内である塗膜剥離剤及び有機塗膜層を有するプラスチック成形品を該一液型塗膜剥離剤に浸漬する浸漬工程を含む塗膜剥離方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に有機塗膜層を有するプラスチック成形品の有機塗膜層を短時間で除去可能な塗膜剥離剤及び塗膜剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業製品に使用されるプラスチック成形品においては、美粧性や耐久性を付与することを目的として、プライマーや上塗り塗料等を塗装せしめた有機塗膜層が付着している。ところが、環境負荷の低減を目的として、プラスチック成形品をリユース、リサイクルする場合、強固に付着した有機塗膜層を除去する必要がある。
【0003】
プラスチック成形品表面の有機塗膜層を剥離する方法としては、低沸点の有機溶剤に含浸したり、超音波処理する方法が従来から行われてきた。低沸点の有機溶剤に含浸せしめた場合、剥離した有機塗膜を含む有機溶剤の処理工程において有機物質の揮発量が大きくなる問題があり、超音波処理する方法では、有機塗膜の一部がプラスチック成形品に残存する問題点があった。
【0004】
塗膜剥離剤を使用する方法として、特許文献1には、ピロリドン系化合物、炭素数15〜20の炭化水素化合物、親水性溶剤、疎水性溶剤を含有する塗膜の剥離液及び該剥離液を使用する剥離方法が記載されている。
【0005】
しかし、有機塗膜層を有するプラスチック成形品の耐久性等の点から、付着力は強固になっており、特許文献1に記載されて剥離液を使用しても、短時間で塗膜を完全に除去することは困難である問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−168788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面に有機塗膜層を有するプラスチック成形品の有機塗膜層を短時間で除去可能な塗膜剥離剤及び塗膜剥離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
1.アルキル基の炭素数が1〜6の範囲内である水酸化テトラアルキルアンモニウム及び溶媒成分としてピロリドン系化合物を含む塗膜剥離剤であって、水素結合パラメーター(δh)が10〜13[(J/cm1/2]の範囲内である塗膜剥離剤、
2.溶媒成分としてさらに疎水性溶剤を含み、ピロリドン系化合物と疎水性溶剤の質量比が50/50〜80/20の範囲内である1項に記載の塗膜剥離剤、
3.さらに有機アミン化合物を含む1項又は2項に記載の塗膜剥離剤、
4.溶媒成分100質量部に対して、水酸化テトラアルキルアンモニウムを0.5〜5質量%、有機イオン化合物を1〜10質量%含む3項に記載の塗膜剥離剤
5.表面に有機塗膜層を有するプラスチック成形品を1〜4項のいずれか1項に記載の塗膜剥離剤に浸漬する浸漬工程を有する塗膜剥離方法、
6.浸漬工程が剥離剤の温度70℃〜100℃の範囲内で行われる5項に記載の塗膜剥離方法、
7.表面に有機塗膜層を有するプラスチック成形品が予め破砕されたものである5項又は6項に記載の塗膜剥離方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面に有機塗膜層を有するプラスチック成形品の有機塗膜層を短時間で除去可能な一液型塗膜剥離剤及び塗膜剥離方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の塗膜剥離剤は、アルキル基の炭素数が1〜6の範囲内である水酸化テトラアルキルアンモニウムを含有する。アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基であれば特に制限されるものではないが、有機塗膜層への浸透性や、剥離剤の安定性の点から、特に炭素数が1〜4のアルキル基が好ましい。また、これらのアルキル基はさらにヒドロキシ基、メトキシ基のようなアルコキシ基等で置換されていてもよい。具体的な水酸化テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0011】
本発明の塗膜剥離剤における上記水酸化テトラアルキルアンモニウムは、水和物として配合することができるが、水溶液として配合することができる。水溶液として配合する場合、その濃度は特に制限されるものではないが、水分が、塗膜剥離剤の総質量の6質量%以下にすることが、安定性や塗膜の溶解力の点から好ましく、特に好ましくは2〜5質量%となるように調整せしめることである。
【0012】
本発明の塗膜剥離剤におけるアルキル基の炭素数が1〜6の範囲内である水酸化テトラアルキルアンモニウムの含有量は、安定性やコストの点から後述する溶媒成分100質量部に対して0.5〜5質量%の範囲内とすることが好ましく、特に好ましくは1〜3質量%の範囲内である。
【0013】
本発明の塗膜剥離剤は、さらに溶媒成分として、ピロリドン系化合物を含有する。ピロリドン系化合物としては、例えば、2−ピロリドン、3−ピロリドン、N−アルキル−2−ピロリドン(例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン)、5−アルキル−2−ピロリドン(例えば、5−メチル−2−ピロリドン、5−エチル−2−ピロリドン、5−プロピル−2−ピロリドン)、N−ビニル−2−ピロリドン、N−アルキル−3−ピロリドン(例えば、N−メチル−3−ピロリドン、N−エチル−3−ピロリドン、N−プロピル−3−ピロリドン)等を挙げることができるが、特にN−メチル−2−ピロリドンが、水との親和性や溶解力の点から好適である。
【0014】
本発明の塗膜剥離剤は、有機塗膜層への浸透力や、引火点を高くする点から、溶媒成分としてさらに疎水性溶剤を含有していてもよい。疎水性溶剤の市販品として、例えば、スワゾール#1500(丸善石油株式会社製、商品名、混合溶剤、芳香族系化合物含有量約98%)、スワゾール#1000(丸善石油株式会社製、商品名、混合溶剤、芳香族系化合物含有量約98%)などが挙げられる。本発明においては、塗料用やインク用として従来より公知のものの中から適宜選択して使用することができるが、具体的には、例えば、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(ブチルカルビトール)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ベンジルアルコール、トルエン、キシレン、灯油、ミネラルスピリット、パラフィン系溶剤(オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等)、ナフテン系溶剤(石油に含まれるシクロアルカンおよびそのアルキル置換体を示す。シクロヘキサン、シクロペンタン、1,3−ジメチルシクロペンタン等の炭素数15未満の溶剤)、テレピン油等が挙げられる。上記した溶剤は単独もしくは2種以上組合せて使用することができる。上記した中でもパラフィン系溶剤、芳香族系溶剤を含むものを使用することが、塗膜剥離剤を消防法上の第3石油類(引火点70℃以上)とする点から好ましい。
【0015】
本発明塗膜剥離剤においては、上記ピロリドン化合物及び必要に応じて含有する疎水性溶剤の種類及び量を、有機塗膜層への浸透力の点から、水素結合パラメーター(δh)が7〜13[(J/cm1/2]となるように決定する。本明細書において、水素結合パラメーター(δh)とは、C.M.Hansen著、Journal of Paint Technology,no.39,vol.505,p104−117(1967)記載の方法で得られた数値として定義するものとする。
【0016】
本発明において溶媒成分として、ピロリドン化合物と疎水性溶剤を含有する場合、具体的なピロリドン化合物や疎水性溶剤の量比としては、質量比として50/50〜80/20の範囲内とすることが好適である。
【0017】
本発明の塗膜剥離剤は、さらに有機アミン化合物を含んでいてもよい。有機アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、ジエチルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリエタノールアミン類などを挙げることができるが、ジブチルアミンやトリブチルアミンが、上記アルキル基の炭素数が1〜6の範囲内である水酸化テトラアルキルアンモニウムによる塗膜剥離を促進する点や塗膜剥離剤の臭気や引火点の点から有効である。有機アミン化合物を含む場合その含有量は、溶媒成分100質量部に対して、1〜10質量%の範囲内とすることが好ましくさらに好ましくは4〜6質量%の範囲内である。
【0018】
本発明の塗膜剥離剤には、上記以外にもさらに界面活性剤、親水性溶剤、レオロジーコントロール剤、水等を適宜添加することができる。
【0019】
本発明の塗膜剥離方法においては、表面に有機塗膜層を有するプラスチック成型品を上記塗膜剥離剤に浸漬する工程を含む。ここでプラスチック成形品は、製品そのままの形状であってもよいが、搬入や搬出の容易さや、有機塗膜層への剥離剤の浸透の点から、予め破砕されたものであってもよい。
【0020】
また塗膜剥離剤の有機塗膜層への浸透の点から、剥離剤の温度を70℃〜100℃の範囲に加温して浸漬することができる。100℃を超える温度では、有機塗膜や剥離剤における低分子成分が大気中に揮発してしまう可能性があり、70℃未満の温度であっては、有機塗膜の種類によっては、プラスチック成形品との付着が強固であって剥離しない可能性がある。
【0021】
本発明における表面に有機塗膜層を有するプラスチック成型品の塗膜剥離剤への浸漬は、約5分間から3時間程度行なうことが、有機塗膜の剥離を完全に行なう点から好ましいが、実際には10分から1時間程度行なうことができる。
【0022】
本発明の塗膜剥離方法においては、攪拌や曝気したり、超音波を印加して、剥離剤の塗膜への浸透を促進することができる。
【0023】
本発明の塗膜剥離方法においては、上記塗膜剥離剤にプラスチック成形品を浸漬する工程の前又は後に、強アルカリ性の剥離剤をプラスチック成形品に塗付することができる。または、プラスチック成形品を強アルカリ性の剥離剤に浸漬する工程を、本発明の塗膜剥離剤に浸漬する工程の前後に行ってもよい。
【0024】
本発明の一液型剥離剤にプラスチック成形品を浸漬する工程の後には、水洗や乾燥を行なうことができる。また、プラスチック成形品が予め破砕されたものである場合には、濾別する工程等によって、プラスチック成形品を分離することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、いずれも質量基準によるものとする。
実施例1〜12,比較例1〜10
(剥離液1〜22の調製)
表1に示す配合割合で、剥離液1〜22を調製した。各剥離液の水素結合パラメーターδh[(J/cm1/2]を併せて示した。
【0026】
【表1】

【0027】
(剥離液の安定性)
得られた剥離液を80℃に加温し、安定性を以下に示す基準で評価し、結果を表1に示した。
○:均一に溶解
△:濁りが見られる
×:結晶性の沈殿がある
実施例11〜25,比較例11〜16
(試験片の調製)
ポリプロピレン製バンパー基材の表面に熱硬化型水性プライマー塗料(塩素化ポリオレフィン系)、熱硬化型水性ベースコート塗料(アクリル/ウレタン系)及び熱硬化型溶剤系クリヤーコート塗料(アクリル/ウレタン系)を順次塗装し、120℃に加温して三層の塗膜を同時に焼付け硬化して複層塗膜が形成された塗装バンパーを約10cm四方の正方形となるように切断して試験片とした。
【0028】
同時に、塗装バンパーを約1〜3cm各程度に破砕した、破砕試験片も調製した。
(評価試験)
上記試験片又は破砕試験片を、表2に示す温度に調整した剥離液に、表2に示す時間試験片を浸漬した後、アセトンで洗浄後、さらに脱イオン水で洗浄し、室温約20℃の実験室に3時間放置して乾燥させた後に表面を観察して、以下の基準で評価し、結果を表2に示した。破砕試験片を使用した実施例及び比較例には、試験片欄に*を記した。
5:基材から塗膜(プライマー塗膜から)が完全に剥離している
4:基材から塗膜(プライマー塗膜から)がほとんど剥離し、試験片のエッジ部にやや残膜がある
3:基材から塗膜(プライマー塗膜から)が剥離した面の面積が約50%程度である
2:ほぼ全面に残膜が存在しており、バンパー基材の黒色がまだら模様に見える
1:表層のクリヤーコートが部分的に剥離し、ベース塗膜以下の下層が残膜している
0:塗膜面に変化なく塗膜が全面に残っている
【0029】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の塗膜剥離剤及び塗膜剥離方法は、有機塗膜層が形成された自動車用バンパー等の工業製品をリユース又はリサイクルする場合に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が1〜6の範囲内である水酸化テトラアルキルアンモニウム及び溶媒成分としてピロリドン系化合物を含む塗膜剥離剤であって、水素結合パラメーター(δh)が10〜13[(J/cm1/2]の範囲内である塗膜剥離剤。
【請求項2】
溶媒成分としてさらに疎水性溶剤を含み、ピロリドン系化合物と疎水性溶剤の質量比が50/50〜80/20の範囲内である請求項1に記載の塗膜剥離剤。
【請求項3】
さらに有機アミン化合物を含む請求項1又は2に記載の塗膜剥離剤。
【請求項4】
溶媒成分100質量部に対して、水酸化テトラアルキルアンモニウムを0.5〜5質量%、有機イオン化合物を1〜10質量%含む請求項3に記載の塗膜剥離剤。
【請求項5】
表面に有機塗膜層を有するプラスチック成形品を請求項1〜4のいずれか1項に記載の一液型塗膜剥離剤に浸漬する浸漬工程を有する塗膜剥離方法。
【請求項6】
浸漬工程が剥離剤の温度を70℃〜100℃の範囲内に加温して行われる請求項5に記載の塗膜剥離方法。
【請求項7】
表面に有機塗膜層を有するプラスチック成形品が予め破砕されたものである請求項5又は6に記載の塗膜剥離方法。

【公開番号】特開2013−40266(P2013−40266A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177206(P2011−177206)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】