塗膜劣化予測方法、塗膜劣化予測装置及びコンピュータプログラム
【課題】塗膜の将来の劣化状態を予測できる塗膜劣化予測方法、塗膜劣化予測装置及びコンピュータプログラムを提供すること。
【解決手段】塗膜劣化予測装置1の仮想劣化画像作成手段11は、所定のパラメータ及び時間変数に対応する複数の仮想劣化画像を作成する。対象画像作成手段12は、塗装面の撮影画像から対象画像を作成する。仮想プロファイル作成手段13は、仮想劣化画像の統計量として劣化部の個数f、面積率a、標準偏差sを算出し、f−a−s空間座標上に仮想プロファイルを示す。統計量算出手段14は、対象画像から統計量を算出し、対象値特定手段15は、対象画像に近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定した特定量に対応するパラメータ及び時間変数を特定する。劣化予測画像作成手段16は、特定されたパラメータを劣化進行モデルに入力し、時間変数に特定された値よりも大きい値を入力して、劣化予測画像を作成する。
【解決手段】塗膜劣化予測装置1の仮想劣化画像作成手段11は、所定のパラメータ及び時間変数に対応する複数の仮想劣化画像を作成する。対象画像作成手段12は、塗装面の撮影画像から対象画像を作成する。仮想プロファイル作成手段13は、仮想劣化画像の統計量として劣化部の個数f、面積率a、標準偏差sを算出し、f−a−s空間座標上に仮想プロファイルを示す。統計量算出手段14は、対象画像から統計量を算出し、対象値特定手段15は、対象画像に近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定した特定量に対応するパラメータ及び時間変数を特定する。劣化予測画像作成手段16は、特定されたパラメータを劣化進行モデルに入力し、時間変数に特定された値よりも大きい値を入力して、劣化予測画像を作成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食性の部材に設けられた塗膜の劣化を予測する塗膜劣化予測方法、塗膜劣化予測装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄塔や鋼橋等の鋼構造物では、部材に施された塗装の状態を定期的に検査して塗膜の劣化度合いを評価し、評価結果に応じて再塗装等の補修を行うようにしている。
【0003】
従来、鋼構造物の塗装された部材の塗膜の劣化度合いを評価する方法としては、検査者が、部材に接近して目視や触診や打診等を行い、構造物に応じて適用される劣化判断基準に照らして判断する方法がある(例えば、非特許文献1〜3参照)。
【0004】
しかしながら、このような目視や触診や打診による評価方法は、検査者の経験や感覚の影響を受けるため、検査者により評価結果にバラツキが生じる問題がある。
【0005】
そこで、従来、検査者による評価結果のバラツキを防止するため、画像処理技術を利用した塗膜の劣化評価方法が開発されている。このような塗膜の劣化評価方法としては、構造物の塗装面を撮影して得た画像を、フィルタに通して劣化部のみを抽出して劣化プロファイルを作成する一方、塗膜における劣化の発生と成長をシミュレートして仮想劣化画像を作成し、この仮想劣化画像と、構造物に応じて適用される劣化診断基準とから評価用劣化プロファイルを作成し、上記劣化プロファイルと評価用劣化プロファイルとを比較して劣化度合いを判定するものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−32511号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】財団法人鉄道総合技術研究所編,「塗膜劣化状態およびケレン程度見本帳」,財団法人鉄道総合技術研究所,昭和64年
【非特許文献2】日本電信電話公社建築局編,「鉄部塗装の劣化度写真見本帖」,株式会社通信建築研究所,昭和59年1月
【非特許文献3】社団法人日本道路協会編,「塗膜劣化程度標準写真帳」,社団法人日本道路協会,1990年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、構造物の塗装に関する補修計画を適切かつ高精度に定めるためには、将来の塗膜の劣化進行を評価する必要がある。しかしながら、上記従来の画像処理技術を利用した塗膜の劣化評価方法は、現在の劣化度を評価できるに過ぎない。したがって、上記従来の塗膜の劣化評価方法は、構造物の塗装の補修計画を適切かつ高精度に定めることが難しいという不都合がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、塗膜の将来の劣化状態を予測できて、構造物の塗装の補修計画を適切かつ高精度に定めることができる塗膜劣化予測方法、塗膜劣化予測装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の塗膜劣化予測方法は、塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルのパラメータに複数の候補値を設定し、パラメータの候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する工程と、
塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像から、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する工程と、
上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する工程と、
上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する工程と、
上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する工程と、
上記特定されたパラメータの値を劣化進行モデルのパラメータに入力する一方、上記特定された時間変数の値よりも大きい値を劣化進行モデルの時間変数に入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する工程と
を備えることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、塗膜の劣化の進行を、複数のパラメータと時間変数を用いた劣化進行モデルにより表す。この劣化進行モデルのパラメータに候補値を設定し、パラメータの候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する。塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像から、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する。対象画像は、例えば、劣化部及び非劣化部を白及び黒で表したモノクロ2値画像を用いることができる。一方、上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する。画像プロファイルは、例えば、統計量を座標軸とする座標空間に、パラメータの候補値毎に、複数の統計量を時系列に沿って連ねた曲線として表してもよく、或いは、パラメータと時系列に対応して格納された統計量のデータベースとして表してもよい。上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する。上記仮想プロファイルの統計量のうち、上記対象画像の統計量に最も近い統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する。上記特定されたパラメータの値を、劣化進行モデルのパラメータに入力する一方、上記特定された時間変数の値よりも大きい値を、劣化進行モデルの時間変数に入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する。このように、本発明の塗膜劣化予測方法によれば、現在又は過去の塗膜の状態に基づいて、将来の塗膜の劣化状態を予測できるので、従来よりも適切かつ高精度に構造物の塗装の補修計画を定めることができる。
【0012】
本発明の塗膜劣化予測装置は、塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルに関し、パラメータに設定する複数の候補値の入力を受け、入力された複数の候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する仮想劣化画像作成手段と、
塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像の入力を受け、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する対象画像作成手段と、
上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する仮想プロファイル作成手段と、
上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する統計量算出手段と、
上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する対象値特定手段と、
劣化進行モデルのパラメータに上記特定された値を入力する一方、時間変数に上記特定された値よりも大きい値を入力して劣化予測画像を作成する劣化予測画像作成手段と
を備える。
【0013】
上記構成によれば、仮想劣化画像作成手段により、劣化進行モデルのパラメータに設定する複数の候補値の入力が受け付けられ、入力された複数の候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像が作成される。対象画像作成手段により、塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像の入力が受け付けられ、入力された撮影画像から、塗膜の劣化部が抽出されて対象画像が作成される。対象画像は、例えば、劣化部及び非劣化部を白及び黒で表したモノクロ2値画像を用いることができる。一方、仮想プロファイル作成手段により、上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量が算出され、算出された統計量により表される仮想プロファイルが作成される。画像プロファイルは、例えば、統計量を座標軸とする座標空間に、パラメータの候補値毎に、複数の統計量を時系列に沿って連ねた曲線として表してもよく、或いは、パラメータと時系列に対応して格納された統計量のデータベースとして表してもよい。また、統計量算出手段により、上記対象画像から、劣化部に関する統計量が算出される。対象値特定手段により、上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量が特定され、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値が特定される。劣化予測画像作成手段により、上記特定された値が劣化進行モデルのパラメータに入力される一方、上記特定された値よりも大きい値が時間変数に入力されて、劣化予測画像が作成される。このように、本発明の塗膜劣化予測装置によれば、現在又は過去の塗膜の状態に基づいて、将来の塗膜の劣化状態を予測できるので、従来よりも適切かつ高精度に構造物の塗装の補修計画を定めることができる。
【0014】
一実施形態の塗膜劣化予測装置は、上記、塗膜での劣化部の発生を表す関数と、発生した劣化部の成長を表す関数との組み合わせである。
【0015】
上記実施形態によれば、塗膜での劣化部の発生を表す関数と、発生した劣化部の成長を表す関数との組み合わせによる劣化進行モデルを用いることにより、塗膜の劣化が進行する過程を適切に表すことができる。したがって、精度の高い劣化予測を行なうことができる。
【0016】
一実施形態の塗膜劣化予測装置は、上記劣化進行モデルは、塗膜の設置時から離散時間tが経過したときの劣化部の発生個数n(t)と、各劣化部の発生時から離散時間t’が経過したときの劣化部の面積s(t’)との組み合わせにより表され、
上記劣化部の発生個数n(t)と劣化部の面積s(t’)は、次の式(1)及び(2)によって表される。
n(t)−n(t−1)=N・・・(1)
s(t’)=πr2t’・・・(2)
ここで、t及びt’は自然数であり、Nは離散時間tが経過する毎に発生する劣化部の個数を表すパラメータであり、rは円で近似した劣化部の半径を表す0より大きいパラメータである。
【0017】
上記実施形態によれば、劣化進行モデルが、塗膜の設置時から離散時間tが経過したときの劣化部の発生個数n(t)と、各劣化部の発生時から離散時間t’が経過したときの劣化部の面積s(t’)との組み合わせで表され、発生個数n(t)がパラメータNにより調整されると共に、劣化部の面積s(t’)がパラメータrで調整されることにより、塗膜の劣化進行を精度良く表すことができる。
【0018】
一実施形態の塗膜劣化予測装置は、上記劣化部に関する統計量は、画像内に存在する劣化部の個数と、画像の総面積に対する劣化部の合計面積の割合である面積率と、劣化部の面積の標準偏差である。
【0019】
上記実施形態によれば、劣化部に関する統計量として、劣化部の個数、面積率及び面積の標準偏差を用いることにより、複数の仮想劣化画像から対象画像に近い仮想劣化画像を精度良く特定することができる。したがって、高精度の劣化予測画像を作成することができる。
【0020】
一実施形態の塗膜劣化予測装置は、上記撮影画像は、同一の塗装面に対して異なる日時で撮影された複数の撮影画像であり、
上記複数の撮影画像から作成された複数の対象画像に基づいて仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に共通するパラメータの値を特定すると共に、複数の対象画像に対応する複数の時間変数の値を特定し、特定された時間変数の値を撮影画像の撮影日時に対応させてスケーリングして、上記劣化予測画像の時間変数の値を日時に変換する。
【0021】
上記実施形態によれば、複数の撮影画像から作成された複数の対象画像に対応する時間変数の複数の値を、上記撮影画像の撮影日時に対応させてスケーリングすることにより、劣化予測画像に対応する日時を求めることができる。したがって、塗膜が劣化予測画像で表される状態となる日時を特定することができる。
【0022】
本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータを、本発明の塗膜劣化予測装置として機能させるためのコンピュータプログラムである。
【0023】
上記構成によれば、上記コンピュータプログラムにより、コンピュータを、仮想劣化画像作成手段と、対象画像作成手段と、仮想プロファイル作成手段と、対象値特定手段と、劣化予測画像作成手段として機能させ、塗装面の撮影画像から劣化予測画像を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の塗膜劣化予測装置を示す図である。
【図2】時系列の仮想劣化画像の例を示す図である。
【図3】複数のパラメータの値と時間変数に対応する仮想劣化画像を示す図である。
【図4】対象画像作成手段に入力される塗装面の撮影画像を示す図である。
【図5】対象画像作成手段により作成された対象画像を示す図ある。
【図6】仮想劣化画像から算出された統計量を空間座標上に示したグラフである。
【図7】本発明の実施形態の塗膜劣化予測方法を示すフローチャートである。
【図8】予測対象の塗膜の状態を劣化進行モデルに基づいて表した劣化画像を示す図である。
【図9】将来の劣化状態を表す仮想画像を示す図である。
【図10】撮影画像から作成された時系列の複数の対象画像を示す図である。
【図11】仮想劣化画像から算出された統計量を空間座標上に示したグラフである。
【図12】予測対象の塗膜の状態を劣化進行モデルに基づいて表した劣化画像を示す図である。
【図13】将来の劣化状態を表す仮想画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の塗膜劣化予測装置の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
本発明の実施形態の塗膜劣化予測装置1は、例えば鉄塔や鋼橋等の鋼構造物に設けられた塗装について、将来における塗膜の劣化状態を予測するものである。
【0027】
本実施形態の塗膜劣化予測装置1は、CPU、記憶装置、入出力装置及び通信モジュール等で構成された汎用的なコンピュータで構成され、図1に示すように、コンピュータ本体で形成される塗膜劣化予測装置本体2と、キーボード及びマウス等で形成される入力手段3と、液晶表示パネル等で形成される出力手段4で構成されている。
【0028】
上記塗膜劣化予測装置本体2は、仮想劣化画像作成手段11と、対象画像作成手段12と、仮想プロファイル作成手段13と、統計量算出手段14と、対象値特定手段15と、劣化予測画像作成手段16を有する。塗膜劣化予測装置1は、塗膜劣化予測装置本体2の記憶装置に格納されたプログラムがCPUで実行されて、上記各手段の機能が実現される。
【0029】
上記仮想劣化画像作成手段11は、塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルを用いて、入力されたパラメータと時間変数に対応する仮想劣化画像を作成する。劣化進行モデルは、塗膜の劣化の進行が、塗装を行った時点からの時間経過に伴う劣化部の発生と、発生した劣化部の成長との2つのプロセスに支配されていると仮定し、塗膜での劣化部の発生を表す関数と、発生した劣化部の成長を表す関数との組み合わせにより表される。具体的には、劣化進行モデルは、塗膜の設置時から離散時間tが経過したときの劣化部の発生個数n(t)と、各劣化部の発生時から離散時間t’が経過したときの劣化部の面積s(t’)との組み合わせにより表され、上記劣化部の発生個数n(t)と劣化部の面積s(t’)は、次の式(1)及び(2)によって表される。
n(t)−n(t−1)=N・・・(1)
s(t’)=πr2t’・・・(2)
ここで、t及びt’は自然数であり、Nは離散時間tが経過する毎に発生する劣化部の個数を表すパラメータであり、rは円で近似した劣化部の半径を表す0より大きいパラメータである。ここで、rは、劣化部の成長率を表す。
【0030】
仮想劣化画像作成手段11は、上記式(1)及び(2)を組み合わせた劣化進行モデルにより、次のようにして時系列の仮想画像を作成する。まず、離散時間tの値が増す毎に、画像中のランダムな位置に、N個の劣化部を発生させる。この後、所定の離散時間tに発生させた劣化部の大きさを、劣化部の発生時間からの経過離散時間t’に応じて、劣化部を表す円の半径をr2t’とする。なお、rは画素のドット数である。図2は、パラメータに、N=100(個)、r=1.30(dot)の値を設定した場合の離散時間t=1,2,3,4,5における時系列の仮想劣化画像の例を示す図である。
【0031】
上記仮想劣化画像作成手段11は、最大経過時間T∈{1,2,・・・}(期)、劣化部発生個数N∈{1,2,・・・}(個)、成長率r>1のパラメータに基づき、次のような手順により仮想劣化画像を生成する。なお、仮想劣化画像は、縦が500(dot)、横が500(dot)の大きさである。まず、ステップ0において、T,N,rのパラメータを定め、t=0とする。次に、ステップ1において、t=t+1とし、500×500の画素を示す座標平面から、ランダムにN個の画素を示す座標{Pti}i∈{1,・・・,N}を選択する。次に、ステップ2において、t<Tならばステップ1に移り、t=Tならばステップ3に移る。ステップ3では、全ての座標{Pti}i∈{1,・・・,N},t∈{1,・・・,T}に対して、これらの座標を中心とする半径rtの円を描画する。但し、500×500の画素の座標平面の範囲を越える点に関する描画は行わない。図3は、このような手順により、N=80(個)とすると共に、r=1.20,1.24,1.28,1.32,1.36,1.40、及び、最大経過時間T=3,4,・・・,10として作成した仮想劣化画像をマトリクス状に示す図である。図3において、縦方向に最大経過時間Tを上から下に向かって昇順に、かつ、成長率rを左から右に向かって昇順になるように、仮想劣化画像を配列している。
【0032】
上記対象画像作成手段12は、塗膜の劣化予測の対象である鋼構造物の塗装面の撮影画像の入力を受け、この入力された撮影画像から、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する。塗膜の劣化部の抽出は、種々の画像処理技術を応用したものを採用でき、例えば、操作者による判断に基づいて、遺伝的アルゴリズムにより劣化部の抽出フィルタを同定する対話式の抽出技術を用いることができる。
【0033】
図4は、上記対象画像作成手段12に入力される塗装面の撮影画像の例であり、図5は、対象画像作成手段12により、図4の撮影画像から劣化部が抽出されて作成された対象画像の例である。図5に示すように、対象画像はモノクロ2値画像で表すことができる。
【0034】
上記仮想プロファイル作成手段13は、仮想劣化画像作成手段11で作成された仮想劣化画像に基づいて、劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量で表される仮想プロファイルを作成する。上記統計量は、仮想劣化画像中に存在する劣化部の個数と、画像の総面積に対する劣化部の合計面積の割合である面積率と、劣化部の面積の標準偏差である。
【0035】
仮想プロファイル作成手段13は、仮想劣化画像作成手段11によって作成された図3の仮想劣化画像のマトリクスから、次のような手順により統計量を算出する。まず、仮想劣化画像は、モノクロ2値画像で表された場合、X:={0,1,・・・,499},Y:={0,1,・・・,499}の直積空間I:=X×Y上において、次のような関数δ:I→{0,1}として特徴付けられる。なお、以下において、「仮想劣化画像δ」のように、δと画像を同一視して呼ぶこととする。
δ(x,y) = {1 if座標(x,
y)の点が塗膜劣化部},{0 if座標(x, y)の点が健全部}
このとき、D⊆Iが準劣化塊であるとは,Dが以下の条件を満たすことをいう.
(1)すべての(x, y) ∈ D に対して、δ(x, y) = 1.
(2)任意の(xp, yp),(xq, yq) ∈ D に対して,{(xi, yi)}i∈{1,・・・,k} ⊆ D が存在して次の(a),(b)が成り立つ.
(a) (xp, yp) = (x1,
y1) かつ(xq, yq) = (xk,
yk),
(b) 任意のi ∈ {1,・・・, k - 1} において,|xi - xi+1|≦1 かつ|yi - yi+1|≦1
また、準劣化塊D ⊆ I が劣化塊であるとは,D∪{(x, y)} が「準劣化塊となり、かつ、δ(x, y) = 1」となるような(x, y) ∈ I\D が存在しないことをいう。
このような定義において、仮想劣化画像の劣化塊の個数fは、次の式(3)のように表される。
f(δ) := |{ D ⊆ I | D : 劣化塊}|・・・(3)
また、塗膜の劣化部の面積率aは、次の式(4)のように表される。
【数1】
また、塗膜の劣化部の面積の標準偏差sは、次の式(5)のように表される。
【数2】
ここで、D(δ) := {D ⊆ I | D : 劣化塊}であり、
【数3】
である。
【0036】
図6は、上記仮想劣化画像から、統計量である劣化部の個数f、劣化部の面積率a、及び、劣化部の面積の標準偏差sを算出し、これらの統計量の算出結果をf−a−s空間座標上に仮想プロファイルの曲線として表したグラフである。図6において、同一のパラメータによる算出値を、左下から右上に向かって離散時間(t=1,2,・・・8)が増大する順に連ねて曲線PL1,PL2,・・・,PL6を作成している。パラメータの値は、曲線PL1は個数N=20、r=1.36であり、曲線PL2は個数N=20、r=1.24であり、曲線PL3は個数N=40、r=1.36であり、曲線PL4は個数N=40、r=1.24であり、曲線PL5は個数N=80、r=1.36であり、曲線PL6は個数N=80、r=1.24である。
【0037】
上記統計量算出手段14は、対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する。統計量は、画像内に存在する劣化部の個数と、画像の総面積に対する劣化部の合計面積の割合である面積率と、劣化部の面積の標準偏差である。
【0038】
上記対象値特定手段15は、上記仮想プロファイル作成手段13により作成された仮想プロファイルの曲線PL1,PL2,・・・,PL6を参照し、これらの曲線PL1,PL2,・・・,PL6上の統計量から、上記統計量算出手段14により算出された対象画像の統計量に最も近いものを特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する。例えば、図5に表された対象画像から、統計量として、劣化部の個数fと、劣化部の面積率aと、劣化部の面積の標準偏差sを算出する。算出された統計量を、図6の仮想プロファイルの曲線PL1,PL2,・・・,PL6が表されたf−a−s空間座標上にプロットし、プロットされた対象画像の統計量に最も近い距離に位置する曲線PL1,PL2,・・・,PL6上の統計量を特定する。この特定された統計量が属する曲線PL1,PL2,・・・,PLから、パラメータN,rの値と、時間変数tの値を求める。
【0039】
上記劣化予測画像作成手段16は、上記特定されたパラメータN,rの値を劣化進行モデルのパラメータN,rに入力する一方、上記特定された時間変数tの値よりも大きい値を劣化進行モデルの時間変数tに入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する。
【0040】
(実施例1)
上記構成の塗膜劣化予測装置1により、塗装面に関する1つの撮影画像に基づいて、この塗膜の劣化予測を行う方法を説明する。
【0041】
図7は、塗膜劣化予測装置1を用いて実行する塗膜劣化予測方法を示すフローチャートである。まず、ステップS1において、仮想劣化画像作成手段11により、パラメータをN=20,40及び80(個)、r=1.24及び1.36(dot)に設定し、各パラメータN,rの値の全ての組み合わせについて、塗装の設置時からの離散時間t=3,4,・・・,10に関する仮想劣化画像を作成する。
【0042】
次に、ステップS2において、対象画像作成手段12により、塗膜劣化予測装置1のインターフェースを介して図4に示す撮影画像の入力を受け、入力された撮影画像に対する画像処理を行い、図5に示すような対象画像を作成する。
【0043】
続いて、ステップS3において、仮想プロファイル作成手段13により、仮想劣化画像作成手段11で作成された仮想劣化画像に基づいて、統計量である劣化部の個数f、劣化部の面積率a、及び、劣化部の面積の標準偏差sを算出する。そして、算出された統計量を、図6に示すf−a−s空間座標上に、パラメータN,rが同一の統計量毎に、離散時間tが増大する順に連ねて曲線PL1,PL2,・・・,PL6を示す。なお、算出された統計量は、f−a−s空間座標上に示さず、対象値特定手段15で対象画像の統計量に最も近い値が特定可能な状態で、仮想プロファイルのテーブルとしてデータベースに格納してもよい。
【0044】
次に、ステップS4において、統計量算出手段14により、対象画像から、劣化部に関する統計量である劣化部の個数f(δ0)、劣化部の面積率a(δ0)、及び、劣化部の面積の標準偏差s(δ0)を算出する。なお、各統計量に付した(δ0)は、撮影画像に基づく対象画像の統計量であることを示し、仮想画像の統計量は(δ)を付して示す。
【0045】
次に、ステップS5において、対象値特定手段15により、仮想プロファイルの曲線PL1,PL2,・・・,PL6上の統計量から、対象画像の統計量(f(δ0),a(δ0),s(δ0))に最も近い統計量を特定する。図6のf−a−s空間座標において、対象画像の統計量(f(δ0),a(δ0),s(δ0))の点Rに最も近い曲線PL5の点Aの統計量(f(δ),a(δ),s(δ))を特定する。この点Aの(f(δ),a(δ),s(δ))に対応するパラメータの値は、N=80及びr=1.36であり、時間変数はt=7である。これらのパラメータ及び時間変数を劣化進行モデルに入力し、対象画像と同等の劣化画像として、図8に示す画像が得られる。すなわち、構造物の塗装面の撮影画像が得られた時点の塗膜の状態が、劣化進行モデルに基づく劣化画像として表される。
【0046】
最後に、ステップS6において、劣化予測画像作成手段16により、劣化進行モデルに、ステップS5で特定されたパラメータの値のN=80及びr=1.36を入力する一方、時間変数に、特定された値であるt=7よりも大きい値t=8,9,10を入力し、仮想画像を作成する。図9は、時間変数の値t=8,9,10の各々における仮想画像を示す図である。ここで、塗膜の設置日時と、撮影画像の撮影日時とが明らかである場合、対象画像が相当する劣化進行モデルの時間変数t=7を、t=0を塗膜の設置日時としてスケーリングすることにより、時間t=8,9,10に対応する将来の日時を特定することができる。
【0047】
このようにして、本実施例の塗装劣化予測方法によれば、1つの撮影画像に基づいて、塗膜の将来の劣化状態を予測することができる。したがって、対象の構造物について、塗装の補修計画を適切かつ高精度に定めることができる。
【0048】
(実施例2)
実施例1では、塗膜劣化予測装置1により、塗装面に関する1つの撮影画像に基づいて塗膜の劣化予測を行なったが、実施例2では、同一の塗装面について、時系列の複数の撮影画像に基づいて塗膜の劣化予測を行う。
【0049】
まず、実施例1と同様に、仮想劣化画像作成手段11により、パラメータをN=20,40及び80(個)、r=1.24及び1.36(dot)に設定し、各パラメータN,rの値の全ての組み合わせについて、塗装の設置時からの離散時間t=3,4,・・・,10に関する仮想劣化画像を作成する(ステップS1)。
【0050】
次に、対象画像作成手段12により、同一の塗装面を異なる時間で撮影された複数の撮影画像に対して劣化部の抽出を行い、図10に示すような時系列の3つの対象画像を作成する(ステップS2)。以下、図10の3つの対象画像を、δt0,t=1,2,3を付して表す。
【0051】
続いて、仮想プロファイル作成手段13により、仮想劣化画像作成手段11で作成された複数の仮想劣化画像に基づいて、統計量(f(δ),a(δ),s(δ))を算出し、図11に示すように、f−a−s空間座標上に、パラメータN,rが同一の統計量毎に、離散時間tが増大する順に連ねて曲線PL1,PL2,・・・,PL6を示す(ステップS3)。
【0052】
次に、統計量算出手段14により、対象画像δt0,t=1,2,3から、統計量である劣化部の個数f(δt0),t=1,2,3、劣化部の面積率a(δt0),t=1,2,3、及び、劣化部の面積の標準偏差s(δt0),t=1,2,3を算出する(ステップS4)。
【0053】
この後、対象値特定手段15により、仮想プロファイルの曲線PL1,PL2,・・・,PL6上の統計量から、対象画像の統計量(f(δt0),a(δt0),s(δt0)),t=1,2,3に最も近い統計量を特定する(ステップS5)。ここで、本実施例では、3つの統計量により特定されるf−a−s空間座標上の折れ線RLを特定する。上記対象画像の統計量で表された折れ線RLに最も近い仮想プロファイルとして、曲線PL4を特定し、さらに、この曲線PL4内で、折れ線RLの各統計量(f(δt0),a(δt0),s(δt0)),t=1,2,3に対応する統計量(f(δt),a(δt),s(δt)),t=5,6,7を特定する。なお、(δt),t=ta,tb,tcは、仮想画像の3つの時間変数ta,tb,tcに対応することを示す。特定された曲線PL4上の統計量(f(δt),a(δt),s(δt)),t=5,6,7に対応するパラメータの値は、N=40及びr=1.24であり、時間変数はt=5,6,7である。これらのパラメータ及び時間変数を劣化進行モデルに入力し、対象画像と同等の劣化画像として、図12に示す3つの画像が得られる。すなわち、構造物の塗装面の撮影画像が得られた時点の塗膜の状態が、劣化進行モデルに基づく劣化画像として表される。
【0054】
続いて、劣化予測画像作成手段16により、劣化進行モデルに、ステップS5で特定されたパラメータの値のN=40及びr=1.24を入力する一方、時間変数に、特定された値であるt=5,6,7よりも大きい値t=8,9,10を入力し、仮想画像を作成する(ステップS6)。図13は、時間変数の値t=8,9,10の各々における仮想画像を示す図である。
【0055】
最後に、上記対象画像の元である撮影画像の撮影日時に基づいて、時間変数t=1,2,3の各離散時間の間隔をスケーリングし、時間変数t=8,9,10に相当する日時を算出する。こうして、図13の仮想画像に表される塗膜の劣化が生じる将来の日時を特定する。
【0056】
以上のようにして、本実施例の塗膜劣化予測方法によれば、同一の塗装面の複数の撮影画像に基づいて、塗膜の将来の劣化状態を精度良く予測することができる。したがって、対象の構造物について、塗装の補修計画を適切かつ高精度に定めることができる。
【0057】
上記実施形態において、鉄塔や鋼橋等の鋼構造物の塗膜の劣化状態を予測したが、本発明は、鋼構造物の塗膜に限られず、腐食性の材料で形成された種々の構造物に設けられた塗膜について、将来の劣化状態を予測することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 塗膜劣化予測装置
2 塗膜劣化予測装置本体
11 仮想劣化画像作成手段
12 対象画像作成手段
13 仮想プロファイル作成手段
14 統計量算出手段
15 対象値特定手段
16 劣化予測画像作成手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食性の部材に設けられた塗膜の劣化を予測する塗膜劣化予測方法、塗膜劣化予測装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄塔や鋼橋等の鋼構造物では、部材に施された塗装の状態を定期的に検査して塗膜の劣化度合いを評価し、評価結果に応じて再塗装等の補修を行うようにしている。
【0003】
従来、鋼構造物の塗装された部材の塗膜の劣化度合いを評価する方法としては、検査者が、部材に接近して目視や触診や打診等を行い、構造物に応じて適用される劣化判断基準に照らして判断する方法がある(例えば、非特許文献1〜3参照)。
【0004】
しかしながら、このような目視や触診や打診による評価方法は、検査者の経験や感覚の影響を受けるため、検査者により評価結果にバラツキが生じる問題がある。
【0005】
そこで、従来、検査者による評価結果のバラツキを防止するため、画像処理技術を利用した塗膜の劣化評価方法が開発されている。このような塗膜の劣化評価方法としては、構造物の塗装面を撮影して得た画像を、フィルタに通して劣化部のみを抽出して劣化プロファイルを作成する一方、塗膜における劣化の発生と成長をシミュレートして仮想劣化画像を作成し、この仮想劣化画像と、構造物に応じて適用される劣化診断基準とから評価用劣化プロファイルを作成し、上記劣化プロファイルと評価用劣化プロファイルとを比較して劣化度合いを判定するものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−32511号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】財団法人鉄道総合技術研究所編,「塗膜劣化状態およびケレン程度見本帳」,財団法人鉄道総合技術研究所,昭和64年
【非特許文献2】日本電信電話公社建築局編,「鉄部塗装の劣化度写真見本帖」,株式会社通信建築研究所,昭和59年1月
【非特許文献3】社団法人日本道路協会編,「塗膜劣化程度標準写真帳」,社団法人日本道路協会,1990年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、構造物の塗装に関する補修計画を適切かつ高精度に定めるためには、将来の塗膜の劣化進行を評価する必要がある。しかしながら、上記従来の画像処理技術を利用した塗膜の劣化評価方法は、現在の劣化度を評価できるに過ぎない。したがって、上記従来の塗膜の劣化評価方法は、構造物の塗装の補修計画を適切かつ高精度に定めることが難しいという不都合がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、塗膜の将来の劣化状態を予測できて、構造物の塗装の補修計画を適切かつ高精度に定めることができる塗膜劣化予測方法、塗膜劣化予測装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の塗膜劣化予測方法は、塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルのパラメータに複数の候補値を設定し、パラメータの候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する工程と、
塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像から、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する工程と、
上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する工程と、
上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する工程と、
上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する工程と、
上記特定されたパラメータの値を劣化進行モデルのパラメータに入力する一方、上記特定された時間変数の値よりも大きい値を劣化進行モデルの時間変数に入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する工程と
を備えることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、塗膜の劣化の進行を、複数のパラメータと時間変数を用いた劣化進行モデルにより表す。この劣化進行モデルのパラメータに候補値を設定し、パラメータの候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する。塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像から、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する。対象画像は、例えば、劣化部及び非劣化部を白及び黒で表したモノクロ2値画像を用いることができる。一方、上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する。画像プロファイルは、例えば、統計量を座標軸とする座標空間に、パラメータの候補値毎に、複数の統計量を時系列に沿って連ねた曲線として表してもよく、或いは、パラメータと時系列に対応して格納された統計量のデータベースとして表してもよい。上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する。上記仮想プロファイルの統計量のうち、上記対象画像の統計量に最も近い統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する。上記特定されたパラメータの値を、劣化進行モデルのパラメータに入力する一方、上記特定された時間変数の値よりも大きい値を、劣化進行モデルの時間変数に入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する。このように、本発明の塗膜劣化予測方法によれば、現在又は過去の塗膜の状態に基づいて、将来の塗膜の劣化状態を予測できるので、従来よりも適切かつ高精度に構造物の塗装の補修計画を定めることができる。
【0012】
本発明の塗膜劣化予測装置は、塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルに関し、パラメータに設定する複数の候補値の入力を受け、入力された複数の候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する仮想劣化画像作成手段と、
塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像の入力を受け、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する対象画像作成手段と、
上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する仮想プロファイル作成手段と、
上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する統計量算出手段と、
上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する対象値特定手段と、
劣化進行モデルのパラメータに上記特定された値を入力する一方、時間変数に上記特定された値よりも大きい値を入力して劣化予測画像を作成する劣化予測画像作成手段と
を備える。
【0013】
上記構成によれば、仮想劣化画像作成手段により、劣化進行モデルのパラメータに設定する複数の候補値の入力が受け付けられ、入力された複数の候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像が作成される。対象画像作成手段により、塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像の入力が受け付けられ、入力された撮影画像から、塗膜の劣化部が抽出されて対象画像が作成される。対象画像は、例えば、劣化部及び非劣化部を白及び黒で表したモノクロ2値画像を用いることができる。一方、仮想プロファイル作成手段により、上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量が算出され、算出された統計量により表される仮想プロファイルが作成される。画像プロファイルは、例えば、統計量を座標軸とする座標空間に、パラメータの候補値毎に、複数の統計量を時系列に沿って連ねた曲線として表してもよく、或いは、パラメータと時系列に対応して格納された統計量のデータベースとして表してもよい。また、統計量算出手段により、上記対象画像から、劣化部に関する統計量が算出される。対象値特定手段により、上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量が特定され、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値が特定される。劣化予測画像作成手段により、上記特定された値が劣化進行モデルのパラメータに入力される一方、上記特定された値よりも大きい値が時間変数に入力されて、劣化予測画像が作成される。このように、本発明の塗膜劣化予測装置によれば、現在又は過去の塗膜の状態に基づいて、将来の塗膜の劣化状態を予測できるので、従来よりも適切かつ高精度に構造物の塗装の補修計画を定めることができる。
【0014】
一実施形態の塗膜劣化予測装置は、上記、塗膜での劣化部の発生を表す関数と、発生した劣化部の成長を表す関数との組み合わせである。
【0015】
上記実施形態によれば、塗膜での劣化部の発生を表す関数と、発生した劣化部の成長を表す関数との組み合わせによる劣化進行モデルを用いることにより、塗膜の劣化が進行する過程を適切に表すことができる。したがって、精度の高い劣化予測を行なうことができる。
【0016】
一実施形態の塗膜劣化予測装置は、上記劣化進行モデルは、塗膜の設置時から離散時間tが経過したときの劣化部の発生個数n(t)と、各劣化部の発生時から離散時間t’が経過したときの劣化部の面積s(t’)との組み合わせにより表され、
上記劣化部の発生個数n(t)と劣化部の面積s(t’)は、次の式(1)及び(2)によって表される。
n(t)−n(t−1)=N・・・(1)
s(t’)=πr2t’・・・(2)
ここで、t及びt’は自然数であり、Nは離散時間tが経過する毎に発生する劣化部の個数を表すパラメータであり、rは円で近似した劣化部の半径を表す0より大きいパラメータである。
【0017】
上記実施形態によれば、劣化進行モデルが、塗膜の設置時から離散時間tが経過したときの劣化部の発生個数n(t)と、各劣化部の発生時から離散時間t’が経過したときの劣化部の面積s(t’)との組み合わせで表され、発生個数n(t)がパラメータNにより調整されると共に、劣化部の面積s(t’)がパラメータrで調整されることにより、塗膜の劣化進行を精度良く表すことができる。
【0018】
一実施形態の塗膜劣化予測装置は、上記劣化部に関する統計量は、画像内に存在する劣化部の個数と、画像の総面積に対する劣化部の合計面積の割合である面積率と、劣化部の面積の標準偏差である。
【0019】
上記実施形態によれば、劣化部に関する統計量として、劣化部の個数、面積率及び面積の標準偏差を用いることにより、複数の仮想劣化画像から対象画像に近い仮想劣化画像を精度良く特定することができる。したがって、高精度の劣化予測画像を作成することができる。
【0020】
一実施形態の塗膜劣化予測装置は、上記撮影画像は、同一の塗装面に対して異なる日時で撮影された複数の撮影画像であり、
上記複数の撮影画像から作成された複数の対象画像に基づいて仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に共通するパラメータの値を特定すると共に、複数の対象画像に対応する複数の時間変数の値を特定し、特定された時間変数の値を撮影画像の撮影日時に対応させてスケーリングして、上記劣化予測画像の時間変数の値を日時に変換する。
【0021】
上記実施形態によれば、複数の撮影画像から作成された複数の対象画像に対応する時間変数の複数の値を、上記撮影画像の撮影日時に対応させてスケーリングすることにより、劣化予測画像に対応する日時を求めることができる。したがって、塗膜が劣化予測画像で表される状態となる日時を特定することができる。
【0022】
本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータを、本発明の塗膜劣化予測装置として機能させるためのコンピュータプログラムである。
【0023】
上記構成によれば、上記コンピュータプログラムにより、コンピュータを、仮想劣化画像作成手段と、対象画像作成手段と、仮想プロファイル作成手段と、対象値特定手段と、劣化予測画像作成手段として機能させ、塗装面の撮影画像から劣化予測画像を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の塗膜劣化予測装置を示す図である。
【図2】時系列の仮想劣化画像の例を示す図である。
【図3】複数のパラメータの値と時間変数に対応する仮想劣化画像を示す図である。
【図4】対象画像作成手段に入力される塗装面の撮影画像を示す図である。
【図5】対象画像作成手段により作成された対象画像を示す図ある。
【図6】仮想劣化画像から算出された統計量を空間座標上に示したグラフである。
【図7】本発明の実施形態の塗膜劣化予測方法を示すフローチャートである。
【図8】予測対象の塗膜の状態を劣化進行モデルに基づいて表した劣化画像を示す図である。
【図9】将来の劣化状態を表す仮想画像を示す図である。
【図10】撮影画像から作成された時系列の複数の対象画像を示す図である。
【図11】仮想劣化画像から算出された統計量を空間座標上に示したグラフである。
【図12】予測対象の塗膜の状態を劣化進行モデルに基づいて表した劣化画像を示す図である。
【図13】将来の劣化状態を表す仮想画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の塗膜劣化予測装置の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
本発明の実施形態の塗膜劣化予測装置1は、例えば鉄塔や鋼橋等の鋼構造物に設けられた塗装について、将来における塗膜の劣化状態を予測するものである。
【0027】
本実施形態の塗膜劣化予測装置1は、CPU、記憶装置、入出力装置及び通信モジュール等で構成された汎用的なコンピュータで構成され、図1に示すように、コンピュータ本体で形成される塗膜劣化予測装置本体2と、キーボード及びマウス等で形成される入力手段3と、液晶表示パネル等で形成される出力手段4で構成されている。
【0028】
上記塗膜劣化予測装置本体2は、仮想劣化画像作成手段11と、対象画像作成手段12と、仮想プロファイル作成手段13と、統計量算出手段14と、対象値特定手段15と、劣化予測画像作成手段16を有する。塗膜劣化予測装置1は、塗膜劣化予測装置本体2の記憶装置に格納されたプログラムがCPUで実行されて、上記各手段の機能が実現される。
【0029】
上記仮想劣化画像作成手段11は、塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルを用いて、入力されたパラメータと時間変数に対応する仮想劣化画像を作成する。劣化進行モデルは、塗膜の劣化の進行が、塗装を行った時点からの時間経過に伴う劣化部の発生と、発生した劣化部の成長との2つのプロセスに支配されていると仮定し、塗膜での劣化部の発生を表す関数と、発生した劣化部の成長を表す関数との組み合わせにより表される。具体的には、劣化進行モデルは、塗膜の設置時から離散時間tが経過したときの劣化部の発生個数n(t)と、各劣化部の発生時から離散時間t’が経過したときの劣化部の面積s(t’)との組み合わせにより表され、上記劣化部の発生個数n(t)と劣化部の面積s(t’)は、次の式(1)及び(2)によって表される。
n(t)−n(t−1)=N・・・(1)
s(t’)=πr2t’・・・(2)
ここで、t及びt’は自然数であり、Nは離散時間tが経過する毎に発生する劣化部の個数を表すパラメータであり、rは円で近似した劣化部の半径を表す0より大きいパラメータである。ここで、rは、劣化部の成長率を表す。
【0030】
仮想劣化画像作成手段11は、上記式(1)及び(2)を組み合わせた劣化進行モデルにより、次のようにして時系列の仮想画像を作成する。まず、離散時間tの値が増す毎に、画像中のランダムな位置に、N個の劣化部を発生させる。この後、所定の離散時間tに発生させた劣化部の大きさを、劣化部の発生時間からの経過離散時間t’に応じて、劣化部を表す円の半径をr2t’とする。なお、rは画素のドット数である。図2は、パラメータに、N=100(個)、r=1.30(dot)の値を設定した場合の離散時間t=1,2,3,4,5における時系列の仮想劣化画像の例を示す図である。
【0031】
上記仮想劣化画像作成手段11は、最大経過時間T∈{1,2,・・・}(期)、劣化部発生個数N∈{1,2,・・・}(個)、成長率r>1のパラメータに基づき、次のような手順により仮想劣化画像を生成する。なお、仮想劣化画像は、縦が500(dot)、横が500(dot)の大きさである。まず、ステップ0において、T,N,rのパラメータを定め、t=0とする。次に、ステップ1において、t=t+1とし、500×500の画素を示す座標平面から、ランダムにN個の画素を示す座標{Pti}i∈{1,・・・,N}を選択する。次に、ステップ2において、t<Tならばステップ1に移り、t=Tならばステップ3に移る。ステップ3では、全ての座標{Pti}i∈{1,・・・,N},t∈{1,・・・,T}に対して、これらの座標を中心とする半径rtの円を描画する。但し、500×500の画素の座標平面の範囲を越える点に関する描画は行わない。図3は、このような手順により、N=80(個)とすると共に、r=1.20,1.24,1.28,1.32,1.36,1.40、及び、最大経過時間T=3,4,・・・,10として作成した仮想劣化画像をマトリクス状に示す図である。図3において、縦方向に最大経過時間Tを上から下に向かって昇順に、かつ、成長率rを左から右に向かって昇順になるように、仮想劣化画像を配列している。
【0032】
上記対象画像作成手段12は、塗膜の劣化予測の対象である鋼構造物の塗装面の撮影画像の入力を受け、この入力された撮影画像から、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する。塗膜の劣化部の抽出は、種々の画像処理技術を応用したものを採用でき、例えば、操作者による判断に基づいて、遺伝的アルゴリズムにより劣化部の抽出フィルタを同定する対話式の抽出技術を用いることができる。
【0033】
図4は、上記対象画像作成手段12に入力される塗装面の撮影画像の例であり、図5は、対象画像作成手段12により、図4の撮影画像から劣化部が抽出されて作成された対象画像の例である。図5に示すように、対象画像はモノクロ2値画像で表すことができる。
【0034】
上記仮想プロファイル作成手段13は、仮想劣化画像作成手段11で作成された仮想劣化画像に基づいて、劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量で表される仮想プロファイルを作成する。上記統計量は、仮想劣化画像中に存在する劣化部の個数と、画像の総面積に対する劣化部の合計面積の割合である面積率と、劣化部の面積の標準偏差である。
【0035】
仮想プロファイル作成手段13は、仮想劣化画像作成手段11によって作成された図3の仮想劣化画像のマトリクスから、次のような手順により統計量を算出する。まず、仮想劣化画像は、モノクロ2値画像で表された場合、X:={0,1,・・・,499},Y:={0,1,・・・,499}の直積空間I:=X×Y上において、次のような関数δ:I→{0,1}として特徴付けられる。なお、以下において、「仮想劣化画像δ」のように、δと画像を同一視して呼ぶこととする。
δ(x,y) = {1 if座標(x,
y)の点が塗膜劣化部},{0 if座標(x, y)の点が健全部}
このとき、D⊆Iが準劣化塊であるとは,Dが以下の条件を満たすことをいう.
(1)すべての(x, y) ∈ D に対して、δ(x, y) = 1.
(2)任意の(xp, yp),(xq, yq) ∈ D に対して,{(xi, yi)}i∈{1,・・・,k} ⊆ D が存在して次の(a),(b)が成り立つ.
(a) (xp, yp) = (x1,
y1) かつ(xq, yq) = (xk,
yk),
(b) 任意のi ∈ {1,・・・, k - 1} において,|xi - xi+1|≦1 かつ|yi - yi+1|≦1
また、準劣化塊D ⊆ I が劣化塊であるとは,D∪{(x, y)} が「準劣化塊となり、かつ、δ(x, y) = 1」となるような(x, y) ∈ I\D が存在しないことをいう。
このような定義において、仮想劣化画像の劣化塊の個数fは、次の式(3)のように表される。
f(δ) := |{ D ⊆ I | D : 劣化塊}|・・・(3)
また、塗膜の劣化部の面積率aは、次の式(4)のように表される。
【数1】
また、塗膜の劣化部の面積の標準偏差sは、次の式(5)のように表される。
【数2】
ここで、D(δ) := {D ⊆ I | D : 劣化塊}であり、
【数3】
である。
【0036】
図6は、上記仮想劣化画像から、統計量である劣化部の個数f、劣化部の面積率a、及び、劣化部の面積の標準偏差sを算出し、これらの統計量の算出結果をf−a−s空間座標上に仮想プロファイルの曲線として表したグラフである。図6において、同一のパラメータによる算出値を、左下から右上に向かって離散時間(t=1,2,・・・8)が増大する順に連ねて曲線PL1,PL2,・・・,PL6を作成している。パラメータの値は、曲線PL1は個数N=20、r=1.36であり、曲線PL2は個数N=20、r=1.24であり、曲線PL3は個数N=40、r=1.36であり、曲線PL4は個数N=40、r=1.24であり、曲線PL5は個数N=80、r=1.36であり、曲線PL6は個数N=80、r=1.24である。
【0037】
上記統計量算出手段14は、対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する。統計量は、画像内に存在する劣化部の個数と、画像の総面積に対する劣化部の合計面積の割合である面積率と、劣化部の面積の標準偏差である。
【0038】
上記対象値特定手段15は、上記仮想プロファイル作成手段13により作成された仮想プロファイルの曲線PL1,PL2,・・・,PL6を参照し、これらの曲線PL1,PL2,・・・,PL6上の統計量から、上記統計量算出手段14により算出された対象画像の統計量に最も近いものを特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する。例えば、図5に表された対象画像から、統計量として、劣化部の個数fと、劣化部の面積率aと、劣化部の面積の標準偏差sを算出する。算出された統計量を、図6の仮想プロファイルの曲線PL1,PL2,・・・,PL6が表されたf−a−s空間座標上にプロットし、プロットされた対象画像の統計量に最も近い距離に位置する曲線PL1,PL2,・・・,PL6上の統計量を特定する。この特定された統計量が属する曲線PL1,PL2,・・・,PLから、パラメータN,rの値と、時間変数tの値を求める。
【0039】
上記劣化予測画像作成手段16は、上記特定されたパラメータN,rの値を劣化進行モデルのパラメータN,rに入力する一方、上記特定された時間変数tの値よりも大きい値を劣化進行モデルの時間変数tに入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する。
【0040】
(実施例1)
上記構成の塗膜劣化予測装置1により、塗装面に関する1つの撮影画像に基づいて、この塗膜の劣化予測を行う方法を説明する。
【0041】
図7は、塗膜劣化予測装置1を用いて実行する塗膜劣化予測方法を示すフローチャートである。まず、ステップS1において、仮想劣化画像作成手段11により、パラメータをN=20,40及び80(個)、r=1.24及び1.36(dot)に設定し、各パラメータN,rの値の全ての組み合わせについて、塗装の設置時からの離散時間t=3,4,・・・,10に関する仮想劣化画像を作成する。
【0042】
次に、ステップS2において、対象画像作成手段12により、塗膜劣化予測装置1のインターフェースを介して図4に示す撮影画像の入力を受け、入力された撮影画像に対する画像処理を行い、図5に示すような対象画像を作成する。
【0043】
続いて、ステップS3において、仮想プロファイル作成手段13により、仮想劣化画像作成手段11で作成された仮想劣化画像に基づいて、統計量である劣化部の個数f、劣化部の面積率a、及び、劣化部の面積の標準偏差sを算出する。そして、算出された統計量を、図6に示すf−a−s空間座標上に、パラメータN,rが同一の統計量毎に、離散時間tが増大する順に連ねて曲線PL1,PL2,・・・,PL6を示す。なお、算出された統計量は、f−a−s空間座標上に示さず、対象値特定手段15で対象画像の統計量に最も近い値が特定可能な状態で、仮想プロファイルのテーブルとしてデータベースに格納してもよい。
【0044】
次に、ステップS4において、統計量算出手段14により、対象画像から、劣化部に関する統計量である劣化部の個数f(δ0)、劣化部の面積率a(δ0)、及び、劣化部の面積の標準偏差s(δ0)を算出する。なお、各統計量に付した(δ0)は、撮影画像に基づく対象画像の統計量であることを示し、仮想画像の統計量は(δ)を付して示す。
【0045】
次に、ステップS5において、対象値特定手段15により、仮想プロファイルの曲線PL1,PL2,・・・,PL6上の統計量から、対象画像の統計量(f(δ0),a(δ0),s(δ0))に最も近い統計量を特定する。図6のf−a−s空間座標において、対象画像の統計量(f(δ0),a(δ0),s(δ0))の点Rに最も近い曲線PL5の点Aの統計量(f(δ),a(δ),s(δ))を特定する。この点Aの(f(δ),a(δ),s(δ))に対応するパラメータの値は、N=80及びr=1.36であり、時間変数はt=7である。これらのパラメータ及び時間変数を劣化進行モデルに入力し、対象画像と同等の劣化画像として、図8に示す画像が得られる。すなわち、構造物の塗装面の撮影画像が得られた時点の塗膜の状態が、劣化進行モデルに基づく劣化画像として表される。
【0046】
最後に、ステップS6において、劣化予測画像作成手段16により、劣化進行モデルに、ステップS5で特定されたパラメータの値のN=80及びr=1.36を入力する一方、時間変数に、特定された値であるt=7よりも大きい値t=8,9,10を入力し、仮想画像を作成する。図9は、時間変数の値t=8,9,10の各々における仮想画像を示す図である。ここで、塗膜の設置日時と、撮影画像の撮影日時とが明らかである場合、対象画像が相当する劣化進行モデルの時間変数t=7を、t=0を塗膜の設置日時としてスケーリングすることにより、時間t=8,9,10に対応する将来の日時を特定することができる。
【0047】
このようにして、本実施例の塗装劣化予測方法によれば、1つの撮影画像に基づいて、塗膜の将来の劣化状態を予測することができる。したがって、対象の構造物について、塗装の補修計画を適切かつ高精度に定めることができる。
【0048】
(実施例2)
実施例1では、塗膜劣化予測装置1により、塗装面に関する1つの撮影画像に基づいて塗膜の劣化予測を行なったが、実施例2では、同一の塗装面について、時系列の複数の撮影画像に基づいて塗膜の劣化予測を行う。
【0049】
まず、実施例1と同様に、仮想劣化画像作成手段11により、パラメータをN=20,40及び80(個)、r=1.24及び1.36(dot)に設定し、各パラメータN,rの値の全ての組み合わせについて、塗装の設置時からの離散時間t=3,4,・・・,10に関する仮想劣化画像を作成する(ステップS1)。
【0050】
次に、対象画像作成手段12により、同一の塗装面を異なる時間で撮影された複数の撮影画像に対して劣化部の抽出を行い、図10に示すような時系列の3つの対象画像を作成する(ステップS2)。以下、図10の3つの対象画像を、δt0,t=1,2,3を付して表す。
【0051】
続いて、仮想プロファイル作成手段13により、仮想劣化画像作成手段11で作成された複数の仮想劣化画像に基づいて、統計量(f(δ),a(δ),s(δ))を算出し、図11に示すように、f−a−s空間座標上に、パラメータN,rが同一の統計量毎に、離散時間tが増大する順に連ねて曲線PL1,PL2,・・・,PL6を示す(ステップS3)。
【0052】
次に、統計量算出手段14により、対象画像δt0,t=1,2,3から、統計量である劣化部の個数f(δt0),t=1,2,3、劣化部の面積率a(δt0),t=1,2,3、及び、劣化部の面積の標準偏差s(δt0),t=1,2,3を算出する(ステップS4)。
【0053】
この後、対象値特定手段15により、仮想プロファイルの曲線PL1,PL2,・・・,PL6上の統計量から、対象画像の統計量(f(δt0),a(δt0),s(δt0)),t=1,2,3に最も近い統計量を特定する(ステップS5)。ここで、本実施例では、3つの統計量により特定されるf−a−s空間座標上の折れ線RLを特定する。上記対象画像の統計量で表された折れ線RLに最も近い仮想プロファイルとして、曲線PL4を特定し、さらに、この曲線PL4内で、折れ線RLの各統計量(f(δt0),a(δt0),s(δt0)),t=1,2,3に対応する統計量(f(δt),a(δt),s(δt)),t=5,6,7を特定する。なお、(δt),t=ta,tb,tcは、仮想画像の3つの時間変数ta,tb,tcに対応することを示す。特定された曲線PL4上の統計量(f(δt),a(δt),s(δt)),t=5,6,7に対応するパラメータの値は、N=40及びr=1.24であり、時間変数はt=5,6,7である。これらのパラメータ及び時間変数を劣化進行モデルに入力し、対象画像と同等の劣化画像として、図12に示す3つの画像が得られる。すなわち、構造物の塗装面の撮影画像が得られた時点の塗膜の状態が、劣化進行モデルに基づく劣化画像として表される。
【0054】
続いて、劣化予測画像作成手段16により、劣化進行モデルに、ステップS5で特定されたパラメータの値のN=40及びr=1.24を入力する一方、時間変数に、特定された値であるt=5,6,7よりも大きい値t=8,9,10を入力し、仮想画像を作成する(ステップS6)。図13は、時間変数の値t=8,9,10の各々における仮想画像を示す図である。
【0055】
最後に、上記対象画像の元である撮影画像の撮影日時に基づいて、時間変数t=1,2,3の各離散時間の間隔をスケーリングし、時間変数t=8,9,10に相当する日時を算出する。こうして、図13の仮想画像に表される塗膜の劣化が生じる将来の日時を特定する。
【0056】
以上のようにして、本実施例の塗膜劣化予測方法によれば、同一の塗装面の複数の撮影画像に基づいて、塗膜の将来の劣化状態を精度良く予測することができる。したがって、対象の構造物について、塗装の補修計画を適切かつ高精度に定めることができる。
【0057】
上記実施形態において、鉄塔や鋼橋等の鋼構造物の塗膜の劣化状態を予測したが、本発明は、鋼構造物の塗膜に限られず、腐食性の材料で形成された種々の構造物に設けられた塗膜について、将来の劣化状態を予測することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 塗膜劣化予測装置
2 塗膜劣化予測装置本体
11 仮想劣化画像作成手段
12 対象画像作成手段
13 仮想プロファイル作成手段
14 統計量算出手段
15 対象値特定手段
16 劣化予測画像作成手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルのパラメータに複数の候補値を設定し、パラメータの候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する工程と、
塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像から、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する工程と、
上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する工程と、
上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する工程と、
上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する工程と、
上記特定されたパラメータの値を劣化進行モデルのパラメータに入力する一方、上記特定された時間変数の値よりも大きい値を劣化進行モデルの時間変数に入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する工程と
を備えることを特徴とする塗膜劣化予測方法。
【請求項2】
塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルに関し、パラメータに設定する複数の候補値の入力を受け、入力された複数の候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する仮想劣化画像作成手段と、
塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像の入力を受け、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する対象画像作成手段と、
上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する仮想プロファイル作成手段と、
上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する統計量算出手段と、
上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する対象値特定手段と、
上記特定されたパラメータの値を劣化進行モデルのパラメータに入力する一方、上記特定された時間変数の値よりも大きい値を劣化進行モデルの時間変数に入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する劣化予測画像作成手段と
を備えることを特徴とする塗膜劣化予測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の塗膜劣化予測装置において、
上記劣化進行モデルは、塗膜での劣化部の発生を表す関数と、発生した劣化部の成長を表す関数との組み合わせであることを特徴とする塗膜劣化予測装置。
【請求項4】
請求項2に記載の塗膜劣化予測装置において、
上記劣化進行モデルは、塗膜の設置時から離散時間tが経過したときの劣化部の発生個数n(t)と、各劣化部の発生時から離散時間t’が経過したときの劣化部の面積s(t’)との組み合わせにより表され、
上記劣化部の発生個数n(t)と劣化部の面積s(t’)は、次の式(1)及び(2)によって表されることを特徴とする塗膜劣化予測装置。
n(t)−n(t−1)=N・・・(1)
s(t’)=πr2t’・・・(2)
ここで、t及びt’は自然数であり、Nは離散時間tが経過する毎に発生する劣化部の個数を表すパラメータであり、rは円で近似した劣化部の半径を表す0より大きいパラメータである。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1つに記載の塗膜劣化予測装置において、
上記劣化部に関する統計量は、画像内に存在する劣化部の個数と、画像の総面積に対する劣化部の合計面積の割合である面積率と、劣化部の面積の標準偏差であることを特徴とする塗膜劣化予測装置。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1つに記載の塗膜劣化予測装置において、
上記撮影画像は、同一の塗装面に対して異なる日時で撮影された複数の撮影画像であり、
上記複数の撮影画像から作成された複数の対象画像に基づいて仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に共通するパラメータの値を特定すると共に、複数の対象画像に対応する複数の時間変数の値を特定し、特定された時間変数の値を撮影画像の撮影日時に対応させてスケーリングして、上記劣化予測画像の時間変数の値を日時に変換することを特徴とする塗膜劣化予測装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項2乃至6のいずれか1つに記載の塗膜劣化予測装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項1】
塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルのパラメータに複数の候補値を設定し、パラメータの候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する工程と、
塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像から、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する工程と、
上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する工程と、
上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する工程と、
上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する工程と、
上記特定されたパラメータの値を劣化進行モデルのパラメータに入力する一方、上記特定された時間変数の値よりも大きい値を劣化進行モデルの時間変数に入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する工程と
を備えることを特徴とする塗膜劣化予測方法。
【請求項2】
塗膜の劣化の進行を表す劣化進行モデルに関し、パラメータに設定する複数の候補値の入力を受け、入力された複数の候補値毎に、時系列で表された複数の仮想劣化画像を作成する仮想劣化画像作成手段と、
塗膜の劣化予測の対象である塗装面の撮影画像の入力を受け、塗膜の劣化部を抽出して対象画像を作成する対象画像作成手段と、
上記複数の仮想劣化画像から劣化部に関する統計量を算出し、算出された統計量により表される仮想プロファイルを作成する仮想プロファイル作成手段と、
上記対象画像から、劣化部に関する統計量を算出する統計量算出手段と、
上記対象画像の統計量に最も近い仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に対応するパラメータの値と時間変数の値を特定する対象値特定手段と、
上記特定されたパラメータの値を劣化進行モデルのパラメータに入力する一方、上記特定された時間変数の値よりも大きい値を劣化進行モデルの時間変数に入力し、これにより得られた劣化進行モデルの出力に基づいて劣化予測画像を作成する劣化予測画像作成手段と
を備えることを特徴とする塗膜劣化予測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の塗膜劣化予測装置において、
上記劣化進行モデルは、塗膜での劣化部の発生を表す関数と、発生した劣化部の成長を表す関数との組み合わせであることを特徴とする塗膜劣化予測装置。
【請求項4】
請求項2に記載の塗膜劣化予測装置において、
上記劣化進行モデルは、塗膜の設置時から離散時間tが経過したときの劣化部の発生個数n(t)と、各劣化部の発生時から離散時間t’が経過したときの劣化部の面積s(t’)との組み合わせにより表され、
上記劣化部の発生個数n(t)と劣化部の面積s(t’)は、次の式(1)及び(2)によって表されることを特徴とする塗膜劣化予測装置。
n(t)−n(t−1)=N・・・(1)
s(t’)=πr2t’・・・(2)
ここで、t及びt’は自然数であり、Nは離散時間tが経過する毎に発生する劣化部の個数を表すパラメータであり、rは円で近似した劣化部の半径を表す0より大きいパラメータである。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1つに記載の塗膜劣化予測装置において、
上記劣化部に関する統計量は、画像内に存在する劣化部の個数と、画像の総面積に対する劣化部の合計面積の割合である面積率と、劣化部の面積の標準偏差であることを特徴とする塗膜劣化予測装置。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1つに記載の塗膜劣化予測装置において、
上記撮影画像は、同一の塗装面に対して異なる日時で撮影された複数の撮影画像であり、
上記複数の撮影画像から作成された複数の対象画像に基づいて仮想プロファイルの統計量を特定し、特定された統計量に共通するパラメータの値を特定すると共に、複数の対象画像に対応する複数の時間変数の値を特定し、特定された時間変数の値を撮影画像の撮影日時に対応させてスケーリングして、上記劣化予測画像の時間変数の値を日時に変換することを特徴とする塗膜劣化予測装置。
【請求項7】
コンピュータを、請求項2乃至6のいずれか1つに記載の塗膜劣化予測装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−225811(P2012−225811A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94516(P2011−94516)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本知能情報ファジィ学会評価問題研究部会,第15回曖昧な気持ちに挑むワークショップ講演論文集,平成22年10月22日
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【出願人】(592233174)株式会社デンロコーポレーション (22)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本知能情報ファジィ学会評価問題研究部会,第15回曖昧な気持ちに挑むワークショップ講演論文集,平成22年10月22日
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【出願人】(592233174)株式会社デンロコーポレーション (22)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]