説明

塗膜及び水系有機無機複合組成物

【課題】優れた耐候性、耐水性、防汚性を示す塗膜及びそれを形成可能とする水系有機無機複合組成物を提供する。
【解決手段】数平均粒子径が1〜400nmである金属酸化物粒子を含む連続相と、その連続相中に分散する、数平均粒子径が10〜800nmである重合体粒子と数平均粒子径が1〜400nmであるルチル型酸化チタン粒子と、を含有する構造を有し、金属酸化物粒子の総表面積とルチル型酸化チタン粒子の総表面積と重合体粒子の総表面積との合計に対して、重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあり、金属酸化物粒子と重合体粒子とルチル型酸化チタン粒子との合計質量に対して、ルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜及び水系有機無機複合組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーやナノサイエンスといった「ナノ」の技術の進歩が著しく、分子レベルあるいは数nmから数百nmといった微粒、微細な構造を制御する研究が活発に行われている。例えば特許文献1では、層状珪酸塩が分子レベルで均一に分散され、かつ層状珪酸塩の凝集構造が全く存在することがない強化熱可塑性樹脂組成物の提供を意図して、分散剤により層状珪酸塩が分散媒中に均一に分散された懸濁液と熱可塑性樹脂を形成するモノマーとを用い、分散媒の除去と同時にモノマーの重合を行って作りうる層状珪酸塩が分子レベルで均一に分散された強化熱可塑性樹脂組成物が提案されている。また、特許文献2では、少量の無機充填剤添加量で、高い補強効果を示し、低比重で表面外観に優れ、寸法安定性や強度、剛性にも優れる強化ポリアミド樹脂組成物の提供を意図して、ポリアミド樹脂に板状アルミニウム化合物が分散して存在していることを特徴とするポリアミド樹脂組成物であって、板状アルミニウム化合物がポリアミド樹脂組成物中に平均粒径20〜300nm、平均厚み1〜10nmで分散して存在していることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【0003】
一方、加工性、柔軟性、密着性等に優れるという有機物質の長所と、耐候性、難燃性、耐薬品性等に優れるという無機物質の長所との両立を目指し、有機無機複合材料に関する研究が従来、数多くなされている。塗料の分野においても、有機無機複合材料の塗料や塗膜に関する研究が活発に行われている。例えば、特許文献3では、コロイダルシリカと、ビニルシランとアクリル系単量体と、所望によりこれらと共重合性の単量体とを、重合性乳化剤および/またはアニオン性乳化剤を用いて乳化重合した水性エマルジョンとからなり、コロイダルシリカの固形分含量が、該水性エマルジョンの固形分100質量部に対して、20000〜500質量部である、コロイダルシリカを主体とした無機質塗装材が提案されている。特許文献4では、ラジカル重合性ビニル化合物を乳化重合して得られる、アルデヒド基又はケト基に基づくカルボニル基を持つ重合体からなる水性エマルジョンと、2個以上のヒドラジン残基を有する有機ヒドラジン化合物、及びコロイダルシリカを含有し、コロイダルシリカの固形分含量が、水性エマルジョン中の重合体成分100質量部に対して1〜300質量部であることを特徴とする水性被覆組成物が開示されている。特許文献5では、(A)共重合体エマルジョン、及び(B)特定の分子構造を有する重量平均分子量500〜30,000であるポリオルガノシロキサンを含有する上塗り塗料組成物であって、該(B)成分の使用量が(A)成分100質量部(固形分)に対して0.1〜50質量部(固形分)であることを特徴とする上塗り塗料組成物が提案されている。さらに、特許文献6では、光触媒性金属酸化物とコロイダルシリカとアクリル樹脂とを水に分散させた塗膜用組成物が提案されており、特許文献7には、金属酸化物と水系バインダーとを含んでなる塗膜用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−158431号公報
【特許文献2】特開2003−192890号公報
【特許文献3】特公平1−41180号公報
【特許文献4】特開平9−165533号公報
【特許文献5】特開2004−244626号公報
【特許文献6】特開平11−140433号公報
【特許文献7】特開2008−31299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3、4に記載の塗装材等から形成される塗膜では、有機重合体粒子と無機粒子とが単に物理的に混合されているのみであり、有機物質が有する長所及び無機物質が有する長所の両立は満足できる程度のものではなかった。また、特許文献5、6、7に記載の組成物から得られる塗膜であっても、ナノメーターサイズでの構造制御はなされておらず、有機物質の長所と無機物質の長所との高度なレベルでの両立は困難であり、塗膜の耐久性においても更なる改善が必要となる。
【0006】
本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、優れた耐候性、耐水性、防汚性を示す塗膜、及びそれを形成可能とする水系有機無機複合組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成させた。すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]数平均粒子径が1〜400nmである金属酸化物粒子を含む連続相と、前記連続相中に分散する、数平均粒子径が10〜800nmである重合体粒子と数平均粒子径が1〜400nmであるルチル型酸化チタン粒子と、を含有する構造を有し、前記金属酸化物粒子の総表面積と前記ルチル型酸化チタン粒子の総表面積と前記重合体粒子の総表面積との合計に対して、前記重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあり、前記金属酸化物粒子と前記重合体粒子と前記ルチル型酸化チタン粒子との合計質量に対して、前記ルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある、塗膜。
[2]前記金属酸化物粒子の数平均粒子径よりも前記重合体粒子の数平均粒子径の方が大きい、[1]の塗膜。
[3]数平均粒子径が1〜400nmである金属酸化物粒子と、数平均粒子径が10〜800nmである重合体エマルジョン粒子と、数平均粒子径が1〜400nmであるルチル型酸化チタン粒子と、を含み、前記金属酸化物粒子の総表面積と前記ルチル型酸化チタン粒子と前記重合体粒子の総表面積との総表面積の合計に対して前記重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあり、前記金属酸化物粒子と前記重合体粒子と前記ルチル型酸化チタン粒子との合計質量に対して前記ルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある、水系有機無機複合組成物。
[4]前記金属酸化物粒子が二酸化ケイ素粒子を含む、[3]の水系有機無機複合組成物。[5]前記重合体エマルジョン粒子が、前記金属酸化物粒子と相互作用することが可能な官能基を有する、[3]又は[4]の水系有機無機複合組成物。
[6]前記官能基がアミド基である、[5]の水系有機無機複合組成物。
[7]前記重合体エマルジョン粒子は、水及び第1の乳化剤の存在下で、少なくとも、第1の加水分解性ケイ素化合物と、第1のビニル単量体と、を重合して得られるものである、[3]〜[6]のいずれか一つの水系有機無機複合組成物。
[8]前記重合体エマルジョン粒子は、水、前記第1の乳化剤及びシード粒子の存在下で、少なくとも、前記第1の加水分解性ケイ素化合物と、前記第1のビニル単量体と、を重合して得られるものであって、前記第1のビニル単量体は、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体であり、前記シード粒子は、水及び第2の乳化剤の存在下で、少なくとも、2級及び/又は3級アミド基を有する第2のビニル単量体と、その第2のビニル単量体と共重合可能であり2級及び3級アミド基を有しないビニル単量体と、第2の加水分解性ケイ素化合物と、からなる群より選ばれる1種以上の化合物を重合して得られるものである、[3]〜[7]のいずれか一つの水系有機無機複合組成物。
[9]前記シード粒子は、前記第2の加水分解性ケイ素化合物を重合して得られるものである、[8]の水系有機無機複合組成物。
[10][3]〜[9]のいずれか一つの水系有機無機複合組成物を含有する水系塗料。
[11][10]の水系塗料を基体の表面に塗布して形成される塗膜。
[12][1]又は[11]の塗膜を備える塗装製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、優れた耐候性、耐水性、防汚性を示す有機無機複合体塗膜、及びそれを形成可能とする水系有機無機複合組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0010】
本実施形態の塗膜は、数平均粒子径が1〜400nmである金属酸化物粒子を含む連続相と、その連続相中に分散する、数平均粒子径が10〜800nmである重合体粒子と数平均粒子径が1〜400nmであるルチル型酸化チタン粒子とを含有する構造を有し、金属酸化物粒子の総表面積とルチル型酸化チタン粒子の総表面積と重合体粒子の総表面積との合計に対して、重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあり、金属酸化物粒子と重合体粒子とルチル型酸化チタン粒子との合計質量に対して、ルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある塗膜である。
【0011】
本実施形態の塗膜は、その微細構造に特徴がある。すなわち、本実施形態の塗膜は、金属酸化物粒子を含む連続相を含有し、かつ、重合体粒子及びルチル型酸化チタン粒子が上記連続相中に分散した微細構造を有することにより、耐候性、耐水性、防汚性に代表される耐久性に優れたものとなる。
【0012】
上記の塗膜の特殊な微細構造は、金属酸化物粒子、ルチル型酸化チタン粒子及び重合体粒子を含み、金属酸化物粒子の総表面積とルチル型酸化チタン粒子と重合体粒子の総表面積との総表面積の合計に対して重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあり、金属酸化物粒子、重合体粒子及びルチル型酸化チタン粒子の合計質量に対してルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある水系有機無機複合組成物から形成することができる。重合体粒子の総表面積が18%以下であることにより、重合体粒子による連続層の形成を抑制でき、2%以上であることにより、塗膜の形成が容易に可能となる。ここで「総表面積」とは、塗膜又は複合組成物中の全対象粒子の表面積の合計をいい、粒子の表面積は、電子顕微鏡や光学顕微鏡で粒子を観察した後にその画像を画像解析ソフトで解析することで得られる。この粒子の表面積は、電子顕微鏡や光学顕微鏡で粒子を観察した後にその画像を画像解析ソフトで解析することで得られる表面積と、粒子径測定装置を用いて測定される粒子径から換算することで得られる表面積又はKozeny−Carmanの式に基づく空気透過法によって測定される表面積との間で検量線を作成し、その検量線を用いて、後者の方法により得られた表面積を前者の方法による表面積に換算することで決定されてもよい。
【0013】
本実施形態の上記微細構造を有する塗膜は、上述の水系有機無機複合組成物を各種基体の表面に塗布して乾燥させることにより得られるが、微細構造の制御には重合体粒子の総表面積と金属酸化物粒子及びルチル型酸化チタン粒子の総表面積との比率が重要な要素となる。
【0014】
以下、本実施形態について、主として水系有機無機複合組成物の点から詳述する。
【0015】
本実施形態の水系有機無機複合組成物(以下、単に「複合組成物」という。)は、金属酸化物粒子と、ルチル型酸化チタン粒子と、重合体粒子とを含み、金属酸化物粒子の総表面積とルチル型酸化チタン粒子の総表面積と重合体粒子の総表面積との合計に対して重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあり、金属酸化物粒子、重合体粒子及びルチル型酸化チタン粒子の合計質量に対してルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある複合組成物である。
【0016】
本実施形態の複合組成物において、金属酸化物粒子は、重合体粒子と相互作用することにより重合体粒子の硬化剤としても機能する。このことにより、本実施形態の複合組成物から、耐候性、耐水性及び防汚性に優れた塗膜等の有機無機複合体を形成することが可能となる。さらには、その有機無機複合体は、耐薬品性、光学特性、防曇性、帯電防止性等にも優れたものとなる。また、例えば特開平9−165554号公報に記載されている有機ヒドラジン化合物のような硬化剤を添加することなく有機無機複合体を形成できる点でも、本実施形態の複合組成物は優れている。
【0017】
ここで、上記金属酸化物粒子と重合体粒子との相互作用としては、化学的な相互作用であればよく、例えばそれらの粒子間の水素結合、共有結合、イオン結合、ファンデルワールス力が挙げられる。水素結合としては、例えば、金属酸化物粒子が有する水酸基と重合体粒子が有する官能基(例えば、水酸基、アミノ基、アミド基)との間の水素結合が挙げられる。共有結合としては、例えば、金属酸化物粒子が有する水酸基と重合体粒子が有する水酸基との間での縮合反応(脱水縮合反応)により生じる共有結合が挙げられる。イオン結合としては、例えば、金属酸化物粒子が有する水酸基と重合体粒子中のカチオン性基(例えばアミノ基、イミノ基)との間のイオン結合が挙げられる。
【0018】
本実施形態に係る金属酸化物粒子は、酸化チタン粒子を除くチタン以外の金属の酸化物粒子である。その具体例としては、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉛、酸化鉄、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化セリウム及びそれらの複合酸化物が挙げられる。それらの中でも、表面水酸基の多い二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アンチモン及びそれらの複合酸化物が好ましく、二酸化ケイ素がより好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。本発明による上記効果をより有効かつ確実に奏する観点から、二酸化ケイ素は、それを基本単位とするシリカの水又は水溶性溶媒の分散体であるコロイダルシリカの態様であることが更に好ましい。
【0019】
コロイダルシリカは、ゾル−ゲル法で調製して使用することもでき、市販品を利用することもできる。ゾル−ゲル法で調製する場合、Werner Stober etal;J.Colloid and Interface Sci.,26,62−69(1968)、Rickey D.Badley et al;Lang muir 6,792−801(1990)、色材協会誌、61[9]488−493(1988)などを参照することができる。
【0020】
金属酸化物粒子(A)としてコロイダルシリカを用いる場合、水性分散液の状態で、酸性、塩基性のいずれであっても用いることができる。
【0021】
水を分散媒体とする酸性のコロイダルシリカとしては、例えば、市販品として日産化学工業(株)製スノーテックス(商標)−O、スノーテックス−OS、旭電化工業(株)製アデライト(商標)AT−20Q、クラリアントジャパン(株)製クレボゾール(商標)20H12、クレボゾール30CAL25などが利用できる。
【0022】
塩基性のコロイダルシリカとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アミンの添加で安定化したシリカがあり、例えば、日産化学工業(株)製スノーテックス−20、スノーテックス−30、スノーテックス−C、スノーテックス−C30、スノーテックス−CM40、スノーテックス−N、スノーテックス−N30、スノーテックス−K、スノーテックス−XL、スノーテックス−YL、スノーテックス−ZL、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−Lなど;旭電化工業(株)製アデライト(商標)AT−20、アデライトAT−30、アデライトAT−20N、アデライトAT−30N、アデライトAT−20A、アデライトAT−30A、アデライトAT−40、アデライトAT−50など;クラリアントジャパン(株)製クレボゾール30R9、クレボゾール30R50、クレボゾール50R50など、デュポン社製ルドックス(商標)HS−40、ルドックスHS−30、ルドックスLS、ルドックスSM−30が挙げられる。
【0023】
また、水溶性溶媒を分散媒体とするコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学工業(株)製MA−ST−M(粒子径が20〜25nmのメタノール分散タイプ)、IPA−ST(粒子径が10〜15nmのイソプロピルアルコール分散タイプ)、EG−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコール分散タイプ)、EG−ST−ZL(粒子径が70〜100nmのエチレングリコール分散タイプ)、NPC−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコールモノプロピルエーテル分散タイプ)が挙げられる。
【0024】
これらのコロイダルシリカは、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いられる。コロイダルシリカは、少量成分として、アルミナ、アルミン酸ナトリウムなどを含んでいてもよい。また、コロイダルシリカは、安定剤として無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなど)や有機塩基(テトラメチルアンモニウムなど)を含んでいてもよい。
【0025】
この金属酸化物粒子の数平均粒子径は、1〜400nmであり、1〜200nmであると好ましく、1〜100nmであるとより好ましく、1〜50nmであると更に好ましい。この粒子径が400nm以下であると、金属酸化物粒子の表面積が大きくなり、金属酸化物粒子と重合体粒子との相互作用が一層効率的に起こるという効果が奏される。また、金属酸化物粒子の数平均粒子径が400nm以下であると、有機無機複合体を形成したときに最適な粒子間空隙を形成でき、有機物質の長所及び無機物質の長所の両立にも効果的である。ここで、金属酸化物粒子及び後述のルチル型酸化チタン粒子の数平均粒子径は動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置(例えば、日機装社製の湿式粒度分布計、商品名「マイクロトラックUPA−9230」)によって測定される。この数平均粒子径は、動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置によるものとレーザー回折/散乱式の湿式粒子径測定装置によるものとの間で検量線を作成し、その検量線を用いて、レーザー回折/散乱式の測定装置で測定した数平均粒子径を動的光散乱方式の測定装置で測定したものに換算することで決定されてもよい。
【0026】
また、本実施形態に係るルチル型酸化チタン粒子は、光触媒機能を有するものである。一般に、光触媒機能を有する酸化チタン粒子としては、アナターゼ型酸化チタン粒子が用いられる。ところが、本実施形態の塗膜においては、ルチル型酸化チタン粒子が必須であり、本発明者らは、ルチル型酸化チタン粒子が、アナターゼ型酸化チタン粒子に比べて耐候変色性などの優れた性能を発現することを発見した。本発明者らは、本実施形態の塗膜構造とルチル型酸化チタン粒子との組み合わせが、塗膜に適度の親水性を付与し、塗膜の優れた性能に繋がっていると考えている。本実施形態に係るルチル型酸化チタン粒子は、通常のルチル型酸化チタンから構成される粒子であってもよく、その粒子に対して、Pt、Rh、Ru、Nb、Cu、Sn、Ni、Feなどの金属及び/又はこれらの酸化物を添加又は固定化したり、シリカや多孔質リン酸カルシウム等で被覆処理を施したもの(例えば、特開平10−244166号公報参照)、炭素原子、硫黄原子等の原子がドープされたもの(例えば、特開2006−89343号公報参照)、カーボンナノチューブを担持したもの(例えば、特開2009−249206号公報参照)であってもよい。
【0027】
本実施形態の複合組成物におけるルチル型酸化チタン粒子の含有量は、金属酸化物粒子、重合体粒子及びルチル型酸化チタン粒子の合計質量に対して5〜20質量%の範囲にある。複合組成物は、この量のルチル型酸化チタン粒子を含有することにより、優れた塗膜性能を発現する。ルチル型酸化チタン粒子の含有量が20質量%以下であることにより、塗膜は親水性を適度に維持して、塗膜基板に対する亀裂発生などの悪影響を抑制する。また、その含有量が5質量%以上であることにより、優れた防汚性を確保することができる。
【0028】
本実施形態に係るルチル型酸化チタン粒子の数平均粒子径は1〜400nmであり、1〜200nmであると好ましく、1〜100nmであるとより好ましく、1〜50nmであると更に好ましい。この粒子径が400nm以下であると、透明性、強度、耐候性に一層優れるという効果が奏される。
【0029】
本実施形態に係る塗膜は、光触媒の光励起によって、水との接触角が好ましくは10°〜40°、より好ましくは15°〜35°の親水性を呈する。また、本実施形態に係る塗膜は、JIS R 1703−2に基づくセルフクリーニング性試験による活性指数が5〜15の光触媒活性を有することもできる。この性能は、本実施形態の塗膜がルチル型酸化チタン粒子を適度な含有量で含有する時に発現される。
【0030】
ここで、光触媒活性は、例えば、光触媒塗膜に光照射した際の、その塗膜と接触した材料における色素等の有機物の分解性を測定することにより判定することができる。光触媒活性を有する表面は、優れた汚染有機物質の分解活性や耐汚染性を発現する。ここで、光照射は光触媒のバンドギャップエネルギーよりも高いエネルギーの光の光源を用いて行う。光源としては、太陽光や室内照明灯等の一般住宅環境下で得られる光の他、ブラックライト、キセノンランプ、水銀灯、LED等の光が利用できる。光の照度は、0.001mW/cm2以上であることが好ましく、0.01mW/cm2以上であるとより好ましく、0.1mW/cm2以上であると更に好ましい。
【0031】
なお、ルチル型酸化チタン粒子に代えてアナターゼ型酸化チタン粒子を用いると、水との接触角が低くなって好ましい親水性を得ることは困難となり、また、耐候変色性が低下する。
【0032】
本実施形態に係るルチル型酸化チタン粒子の形状は、その比表面積の観点及び粒子の配向効果の観点から、粒子長(l)と粒子直径(d)との比(l/d)が、1/1〜20/1であることが好ましい。同様の観点から、(l/d)が1/1〜15/1の範囲であるとより好ましく、(l/d)が1/1〜10/1の範囲であると更に好ましい。なお、光触媒粒子の粒子長は、その粒子の最も長い仮想軸での長さであり、粒子直径は、粒子長を測定した仮想軸に対して直交する仮想平面上の粒子径のうち、最も大きな粒子径である。これら粒子長及び粒子直径は、透過型電子顕微鏡にて観察した光触媒粒子100個をランダムに抽出し、画像解析ソフト(例えば、旭化成エンジニアリング株式会社製の画像解析ソフト、商品名「A像くん」)で解析することで得られる。
【0033】
本実施形態に係る重合体粒子としては、乳化重合等の方法で得られた重合体エマルジョン粒子を用いることができる。重合体エマルジョン粒子を構成するポリマーとしては、水性媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、シリコーン系、フッ素系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系に代表される単重合体又は共重合体、シリコーン変性アクリル系、フッ素−アクリル系、アクリルシリコン、エポキシ−アクリル系に代表される変性共重合体が挙げられる。これらは水分散体の状態にあり、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。その好適な例としては、アクリルエマルジョン、アクリルシリコンエマルジョンが挙げられる。重合体エマルジョン粒子は、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の単量体の乳化重合により得ることができる。
【0034】
また、重合体エマルジョン粒子には、上記金属酸化物粒子及びルチル型酸化チタン粒子と相互作用することが可能な官能基を含有させることもできる。金属酸化物と相互作用することが可能な官能基としては、例えば、アミド基、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、シラノール基、メルカプト基、アミノ基、イミノ基、ウレイド基が挙げられる。重合体エマルジョン粒子は、好ましくは、これらの官能基の1種又は2種以上を有する。これらの官能基の中では、金属酸化物粒子及びルチル型酸化チタン粒子との相互作用が強くなる観点から、アミド基が好ましい。
【0035】
重合体エマルジョン粒子は、さらに、上記ポリマーに含まれる官能基と反応する官能基を有する化合物を含んでもよい。そのような化合物としては、例えば、(ポリ)イソシアネート化合物、(ポリ)エポキシ化合物、アミノ化合物、(ポリ)カルボキシ化合物、(ポリ)ヒドロキシ化合物、グリコール化合物、シラノール化合物、シリル化合物、アルコキシ化合物、(メタ)アクリレート類が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子は、水及び第1の乳化剤の存在下で、少なくとも、第1の加水分解性ケイ素化合物と、第1のビニル単量体とを重合して得られるものであると好ましい。第1の加水分解性ケイ素化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物、その縮合生成物、シランカップリング剤を例示することができる。
【0037】
SiWxy (1)
ここで、式中、Wは炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、フェノキシ基、アミノキシ基、アミド基からなる群より選ばれる基を示す。Rは、直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜30のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる炭化水素基を示す。なお、炭素数6〜20のアリール基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。また、xは1〜4の整数であり、yは0〜3の整数であり、x+y=4である。さらに、xが2以上のとき、複数のWは互いに同一でも異なっていてもよく、yが2以上のとき、複数のRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0038】
上記式(1)で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランに代表されるテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランに代表されるトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランに代表されるジアルコキシシラン類、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシランに代表されるモノアルコキシシラン類が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0039】
シランカップリング剤は、有機物質との反応性を有する官能基を分子内に有する加水分解性ケイ素化合物であると好ましい。上記官能基としては、例えば、ビニル重合性基、チオール基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基が挙げられる。これらの官能基の中では、ビニル単量体との共重合又は連鎖移動反応による化学結合生成の観点からビニル重合性基が好ましい。ビニル重合性基を有する加水分解性珪素化合物としては、例えば3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテルが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。この場合、上述と同様の観点から、第1の加水分解性ケイ素化合物が、後述の第1のビニル単量体100質量部に対して、ビニル重合性基を有する加水分解性ケイ素化合物の1種以上を0.1〜100質量部含むと好ましい。
【0040】
第1のビニル単量体は、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体であると好ましい。その具体例としては、N−アルキル又はN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミドを例示することができる。より具体的には、例えば、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン、N−メタクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N'−メチレンビスアクリルアミド、N,N'−メチレンビスメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、3級アミド基を有するビニル単量体を用いると水素結合性が強まるので好ましい。
【0041】
また、第1の乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸に代表される酸性乳化剤、酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸に代表されるアニオン性界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレートに代表される四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型などのカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルに代表されるノニオン型界面活性剤、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの中では、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性及び形成された塗膜の機械強度、耐薬品性、耐水性の観点から、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤が好ましい。
【0042】
上記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、例えばスルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体それらビニル単量体のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、ポリオキシエチレンに代表されるノニオン基を有するビニル単量体、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体が挙げられる。
【0043】
上記反応性乳化剤のうち、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体の塩としては、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、炭素数6又は10のアリール基及びコハク酸基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物、並びに、スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物が挙げられる。硫酸エステル基を有するビニル単量体としては、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつ硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基及び炭素数6又は10のアリール基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物が挙げられる。
【0044】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換されたコハク酸基を有する化合物の具体例としては、アリルスルホコハク酸塩が挙げられる。市販されているものとしては、例えば、エレミノールJS−2(商品名、三洋化成(株)製)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(商品名、花王(株)製)が挙げられる。
【0045】
また、上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物の市販されているものとしては、例えば、アクアロンHS−10又はKH−1025(商品名、第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(商品名、旭電化工業(株)製)が挙げられる。
【0046】
その他、スルホネート基により一部が置換されたアリール基を有する化合物の具体例として、p−スチレンスルホン酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0047】
上記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物としては、例えば、2−スルホエチルアクリレートに代表されるアルキルスルホン酸(メタ)アクリレート、メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、アリルスルホン酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
【0048】
上記の硫酸エステル基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩により一部が置換された炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキエーテル基を有する化合物としては、例えばスルホネート基により一部が置換されたアルキルエーテル基を有する化合物が挙げられる。
【0049】
また、ノニオン基を有するビニル単量体の具体例としては、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業(株)製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業(株)製)が挙げられる。
【0050】
分散安定剤としては、例えば、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群より選ばれる各種の水溶性オリゴマー類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性若しくは水分散性アクリル樹脂に代表される合成若しくは天然の水溶性又は水分散性の各種の水溶性高分子物質が挙げられる。これらの乳化剤、分散安定剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0051】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子は、上記第1の加水分解性ケイ素化合物及び2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体と共に、2級及び3級アミドを有しないビニル単量体を重合して得られるものであってもよい。2級及び3級アミドを有しないビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル類の他、カルボキシル基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル系単量体、エポキシ基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体、アニオン型ビニル単量体のような官能基を含有する単量体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0052】
上記(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル部の炭素数が1〜50の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシルが挙げられる。(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。
【0053】
なお、本明細書中で、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及びそれに対応する「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を意味する。
【0054】
2級及び3級アミドを有しないビニル単量体が(メタ)アクリル酸エステルを含む場合、その含有量は、1種又は2種以上の混合物として、全2級及び3級アミドを有しないビニル単量体量を基準として、好ましくは0質量%超99.9質量%、より好ましくは5〜80質量%である。
【0055】
上記カルボキシル基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、無水マレイン酸、又はイタコン酸、マレイン酸、フマール酸に代表される2塩基酸のハーフエステルが挙げられる。カルボン酸基含有ビニル単量体を用いることによって、重合体エマルジョン粒子にカルボキシル基を導入することができ、エマルジョンとしての安定性を向上させ、外部からの分散破壊作用に対する抵抗力を持たせることが可能となる。この際、重合体エマルジョン粒子に導入したカルボキシル基は、一部又は全部を、アンモニアやトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類やNaOH、KOH等の塩基で中和することもできる。
【0056】
2級及び3級アミドを有しないビニル単量体がカルボキシル基含有ビニル単量体を含む場合、その含有量は、1種又は2種以上の混合物として、全2級及び3級アミドを有しないビニル単量体量を基準として、0質量%超50質量%であることが耐水性の観点から好ましい。この含有量は、より好ましくは0.1〜10質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%である。
【0057】
また、上記水酸基含有ビニル単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに代表される(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、モノ−2−ヒドロキシエチルモノブチルフマレート、アリルアルコール、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。さらには、「プラクセルFM、FAモノマー」(商品名、ダイセル化学(株)製、カプロラクトン付加モノマー)、その他のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類が挙げられる。上記(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。また、(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコールが挙げられる。水酸基含有ビニル単量体を用いることによって、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体との重合生成物の水素結合力を制御することが可能になると共に、重合体エマルジョン粒子の水分散安定性を向上させることができる。
【0058】
2級及び3級アミドを有しないビニル単量体が水酸基含有ビニル単量体を含む場合、その含有量は、1種又は2種以上の混合物として、全2級及び3級アミドを有しないビニル単量体量を基準として、0質量%超80質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であるとより好ましく、0.1〜10質量%であると更に好ましい。
【0059】
上記グリシジル基含有ビニル単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルジメチルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0060】
グリシジル基含有ビニル単量体やカルボニル基含有ビニル単量体を使用すると、重合体エマルジョン粒子が良好な反応性を有するようになる。その結果、ヒドラジン誘導体やカルボン酸誘導体、イソシアネート誘導体等と架橋させて、耐溶剤性等に優れた塗膜の形成が可能となる。2級及び3級アミドを有しないビニル単量体がグリシジル基含有ビニル単量体及び/又はカルボニル基含有ビニル単量体を含む場合、それらの含有量は、1種又は2種以上の混合物として、全2級及び3級アミドを有しないビニル単量体量を基準として、0質量%超50質量%であることが好ましい。
【0061】
また、上記以外のビニル単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリルアミド、エチレン、プロピレン、イソブチレンに代表されるオレフィン類、ブタジエンに代表されるジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデンフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンに代表されるハロオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニルに代表されるカルボン酸ビニルエステル類、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニルに代表されるカルボン酸イソプロペニルエステル類、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルに代表されるビニルエーテル類、スチレン、ビニルトルエンに代表される芳香族ビニル化合物、酢酸アリル、安息香酸アリルに代表されるアリルエステル類、アリルエチルエーテル、アリルフェニルエーテルに代表されるアリルエーテル類、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6,−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6,−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリルが挙げられる。
これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0062】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子は、上述のものを用いる他は公知の乳化重合により調製され、その際、過硫酸アンモニウム等の重合開始剤やドデシルベンゼンスルホン酸等の界面活性剤など公知のものが用いられてもよい。このとき、重合体エマルジョン粒子に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比が0.1〜0.5であると好ましく0.1〜0.3であるとより好ましい。該質量比をこの範囲内にすることで、水素結合性と配合安定性のバランスを良好なものにすることができる。
【0063】
上述の金属酸化物粒子及びルチル型酸化チタン粒子に対する第1の2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の質量比は、0.1〜1.0であると好ましく、0.1〜0.7であるとより好ましい。水素結合性と配合安定性のバランスを良好なものとする観点から、該質量比をこの範囲内にすることが好ましい。
【0064】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子は、コア部とそのコア部を被覆する1層又は2層以上のシェル部とを含むコア/シェル構造を有していてもよい。例えば、重合体エマルジョン粒子がコア部と1層のシェル部とを含む場合、その重合体エマルジョン粒子は、水、第1の乳化剤及びシード粒子の存在下で、少なくとも、第1の加水分解性ケイ素化合物と、2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体とを重合して得られるものであって、シード粒子は、水及び第2の乳化剤の存在下で、少なくとも、2級及び/又は3級アミド基を有する第2のビニル単量体と、そのビニル単量体と共重合可能であり2級及び3級アミド基を有しないビニル単量体と、第2の加水分解性ケイ素化合物とからなる群より選ばれる1種以上の化合物を重合して得られるものであってもよい。
【0065】
シード粒子を得るための第2の加水分解性ケイ素化合物は、第1の加水分解性ケイ素化合物と同様のものが用いられる。ただし、同じ重合体エマルジョン粒子を得るために用いられる第1及び第2の加水分解性ケイ素化合物は、互いに同一でも異なっていてもよい。また、シード粒子を得るための2級及び/又は3級アミド基を有する第2のビニル重合体は、2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体と同様のものが用いられる。ただし、同じ重合体エマルジョン粒子を得るために用いられる2級及び/又は3級アミド基を有する第1及び第2のビニル重合体は、互いに同一でも異なっていてもよい。さらに、シード粒子を得るための第2の乳化剤は、第1の乳化剤と同様のものが用いられる。ただし、同じ重合体エマルジョン粒子を得るために用いられる第1及び第2の乳化剤は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0066】
第2のビニル単量体と共重合可能であり2級及び3級アミド基を有しないビニル単量体としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル類の他、カルボキシル基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル系単量体、エポキシ基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体、アニオン型ビニル単量体のような官能基を含有する単量体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。これらの化合物は上述のものが例示でき、水分散性や水素結合力の制御、耐水性や耐薬品性などの求める性能に応じて選択することができる。
【0067】
上記シード粒子は、第2の加水分解性ケイ素化合物を重合して得られるものであると好ましい。これにより、塗膜に高い柔軟性を付与することができる上、更に高い耐候性が認められる。
【0068】
本実施形態に係る重合体エマルジョン粒子が、コア部とそのコア部を被覆する1層又は2層以上のシェル部とを含むコア/シェル構造を有する場合、シェル部のうち最外のシェル部及びコア部は、少なくとも、第1の加水分解性ケイ素化合物と、2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体とを重合して得られるものであり、コア部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体の質量比が1.0以下であり、かつ最外のシェル部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体の質量比が0.1〜5.0であってもよい。コア部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体の質量比を1.0以下にすること、最外のシェル部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体の質量比を0.1以上にすることにより、さらには、最外のシェル部における第1の加水分解性ケイ素化合物に対する2級及び/又は3級アミド基を有する第1のビニル単量体の質量比を5.0以下とすることにより、更に高い耐水性及び耐候性が認められる。
【0069】
本実施形態に係るコア/シェル構造を有する重合体エマルジョン粒子は、上述の材料を用いる他は、公知の2段階以上の乳化重合により調製される。得られた重合体エマルジョン粒子において、上記シード粒子がコア部となる。
【0070】
本実施形態に係るコア/シェル構造を有する又は有しない重合体エマルジョン粒子は、その数平均粒子径が30〜800nmであると好ましく、30〜500nmであるとより好ましく、50〜500nmであると更に好ましい。この数平均粒子径を上記範囲内であると、金属酸化物粒子との相互作用が高まると共に、形成された有機無機複合体における粒子間の空隙を好適なものにすることができる。ここで、重合体エマルジョン粒子の数平均粒子径は、動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置(例えば、日機装社製の湿式粒度分布計、商品名「マイクロトラックUPA−9230」)によって測定される。この数平均粒子径は、動的光散乱方式の湿式粒子径測定装置によるものとレーザー回折/散乱式の湿式粒子径測定装置によるものとの間で検量線を作成し、レーザー回折/散乱式の測定装置で測定した数平均粒子径を動的光散乱方式の測定装置で測定したものに換算することで決定されてもよい。
【0071】
本実施形態の複合組成物では、金属酸化物粒子の総表面積とルチル型酸化チタン粒子の総表面積と重合体粒子の総表面積との合計に対して、重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあることが重要である。これによって、得られる塗膜などの有機無機複合体が、無機物質である金属酸化物粒子の長所である耐候性、耐水性や耐溶剤性、防汚性などを十分良好に示すことができる。また、このような組成の有機無機複合体では、その表面の粒子のみならず内部の粒子も防汚性、光触媒活性などに寄与できる点でも有効である。したがって、例えば光触媒粒子を用いた場合には少ない光触媒量で、あるいは、薄い膜厚にしても高い光触媒活性を示すことができる点で優れる。これらの効果は、特に、金属酸化物粒子及びルチル型酸化チタン粒子の数平均粒子径が1〜400nmであり、重合体エマルジョン粒子の数平均粒子径が10〜800nmである場合、一層優れたものとなる。
【0072】
なお、金属酸化物粒子、ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の表面積は、電子顕微鏡や光学顕微鏡で粒子を観察した後にその画像を画像解析ソフトで解析することで得られる。この粒子の表面積は、電子顕微鏡や光学顕微鏡で粒子を観察した後にその画像を画像解析ソフトで解析することで得られる表面積と、粒子径測定装置を用いて測定される粒子径から換算することで得られる表面積又はKozeny−Carmanの式に基づく空気透過法によって測定される表面積との間で検量線を作成し、その検量線を用いて、後者の方法により得られた表面積を前者の方法による表面積に換算することで決定されてもよい。
【0073】
また、本実施形態の複合組成物では、金属酸化物粒子の数平均粒子径よりも重合体エマルジョン粒子の数平均粒子径の方が大きいと好ましい。このことによって、有機物質の長所である、柔軟性や密着性が更に効果的に示されることとなる。
【0074】
さらに、本実施形態において、重合体エマルジョン粒子に対する金属酸化物粒子及びルチル型酸化チタン粒子の総質量比が1/3〜3/1であることが好ましい。これにより、耐候性、防汚性、塗膜柔軟性、密着性、透明性を更に良好にできるという効果が奏される。
【0075】
本実施形態の複合組成物は、金属酸化物粒子が連続相を形成し、重合体エマルジョン粒子及びルチル型酸化チタン粒子が上記連続相中に分散した状態、言い換えると、金属酸化物が海に相当し重合体エマルジョン粒子及びルチル型酸化チタン粒子が島に相当するいわゆる海島構造にあると好ましい。かかる構造の塗膜においては、ルチル型酸化チタン粒子が優れた耐久性を示すことができる。
【0076】
このような状態は、透過型電子顕微鏡による観察で確認することができる。無機物質で
ある金属酸化物粒子が連続相を形成することにより、この複合組成物から形成される塗膜
などの有機無機複合体は、その長所である耐水性、耐候性、防汚性等に一層優れたものと
なる。一方、有機物質を主成分とする重合体エマルジョン粒子は連続相を形成していない
と好ましく、その重合体エマルジョン粒子の粒子径(数平均粒子径)及び粒子表面積を制
御することで、密着性、柔軟性などを発揮することが可能となる。したがって、本実施形
態の複合組成物は、有機物質の長所と無機物質の長所とをよりバランスよく備えることが
できる。
【0077】
また、本実施形態の複合組成物は、乳化剤及び/又は分散安定剤を含有してもよい。乳
化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルス
ルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール
硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸に代表される酸性乳化
剤、酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、
脂肪酸石鹸に代表されるアニオン性界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムブロマ
イド、アルキルピリジニウムブロマイド、イミダゾリニウムラウレートに代表される4級
アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性界面活性剤、ポリ
オキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステ
ル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジス
チリルフェニルエーテルに代表されるノニオン型界面活性剤やラジカル重合性の二重結合
を有する反応性乳化剤等を例示することができる。
【0078】
上記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、例えば、スルホン酸基
又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体やそれ
らのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、ポリオキシエチレンに代表されるノニオン基を有
するビニル単量体、4級アンモニウム塩を有するビニル単量体が挙げられる。
【0079】
分散安定剤としては、例えば、ポリカルボン酸及びスルホン酸塩からなる群より選ばれ
る各種の水溶性オリゴマー類、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、澱
粉、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポ
リアクリルアミド、水溶性若しくは水分散性アクリル樹脂に代表される合成若しくは天然
の水溶性又は水分散性の各種の水溶性高分子物質が挙げられる。これらの乳化剤、分散安
定剤は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0080】
本実施形態の複合組成物は、本発明の目的の達成を阻害しない範囲において、その他の
成分を含んでもよい。例えば、この複合組成物を塗布した基体との相互作用を制御する目
的で、アルコール類などの有機溶剤を少量添加することもできる。また、本実施形態の複
合組成物の用途及び使用方法などに応じて、通常の塗料や成型用樹脂に添加配合される成
分、例えば、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋
反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤
、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、成膜助剤、防錆剤、
染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は
帯電調整剤等を選択し組み合わせて配合してもよい。
【0081】
以上説明した本実施形態の複合組成物は、有機物質を多く含んでも無機物質の優れた耐
候性、耐水性、防汚性を示す有機無機複合体を形成可能なものである。それに加えて、本
実施形態の複合組成物は、防曇性、帯電防止性、耐薬品性、光学特性にも優れた有機無機
複合体を形成することができる。この複合組成物を用いることにより、特殊な装置を用い
ずに、簡単に、少ない環境負荷で有機無機複合体を形成することができ、成膜性や成形性
に優れたものである。
【0082】
本実施形態の複合組成物を各種形状に成形して固形化することにより、有機無機複合体
が得られる。例えば、本実施形態の複合組成物を各種基体の表面に塗布して乾燥すること
により、基体上に形成された有機無機複合体としての塗膜が得られる。複合組成物を塗布
する基体材料としては、例えば合成樹脂、天然樹脂、繊維に代表される有機基材、金属、
セラミックス、ガラス、石、セメント、コンクリートに代表される無機基材や、それらの
組み合わせが挙げられる。得られる有機無機複合体は、金属酸化物粒子が連続相を形成し
、重合体エマルジョン粒子及びルチル型酸化チタン粒子が上記連続相中に分散した状態、
言い換えると、金属酸化物が海に相当し重合体エマルジョン粒子及びルチル型酸化チタン
粒子が島に相当するいわゆる海島構造にあると好ましい。このような状態は、透過型電子
顕微鏡による観察で確認することができる。これにより、有機無機複合体は、有機物質の
長所と無機物質の長所とをよりバランスよく備えることができる。
【0083】
上記合成樹脂としては、熱可塑性樹脂及び硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、
湿気硬化性樹脂等)が挙げられる。その具体例としては、例えば、シリコーン樹脂、アク
リル樹脂、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂、ビニル樹
脂、ポリエステル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン
樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、
ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリスルフォン樹脂、
ポリフェニレンスルホン樹脂ポリエーテル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデ
ン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリ
コーン−アクリル樹脂が挙げられる。また、上記天然樹脂としては、例えば、セルロース
系樹脂、天然ゴムに代表されるイソプレン系樹脂、カゼインに代表されるタンパク質系樹
脂が挙げられる。
【0084】
基体が樹脂板や繊維である場合、その表面は、コロナ放電処理やフレーム処理、プラズ
マ処理等の表面処理が施されていてもよいが、これらの表面処理は必須ではない。
【0085】
上記基体材料の種類や膜厚は用途に応じて使い分けることができる。
【0086】
本実施形態の複合組成物は、その用途等に応じて、任意の方法で塗布され得る。塗布方
法としては、例えば、スプレー吹き付け法、フローコーティング法、ロールコート法、刷
毛塗り法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャス
ティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法が挙げられる。
【0087】
本実施形態の複合組成物を塗布した後、乾燥して揮発分を除去することにより塗膜が得
られる。この際、40℃〜120℃程度の温度で加熱処理を行ってもよく、紫外線照射等
を行ってもよい。
【0088】
上記塗膜の厚さは0.1〜10μmであると好ましく、より好ましくは0.5〜5μm
である。この厚さが10μm以下であることにより、更に良好な透明性を確保することが
でき、0.1μm以上であることにより、防汚性、光触媒活性等の機能をより高いレベル
で発現することができる。
【0089】
なお、本実施形態に係る塗膜は、必ずしも連続膜である必要はなく、不連続膜、島状分
散膜等の態様であってもよい。
【0090】
本実施形態において、塗装製品は、基体と、その基体上に形成された上記塗膜とを備え
るものであり、塗膜はコーティングとして有用である。この塗装製品は、本実施形態の塗
膜を備える他は公知の態様と同様であればよい。本実施形態の塗装製品の具体例としては
、例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、各種レンズ、構造部材、住宅等
建築設備、車両用照明灯のカバー及び窓ガラス、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び
塗装、表示機器、そのカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用及び
鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、
太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で用いられる電子、電気機器の外装部、
特に透明部材、ビニールハウス、温室等の外装が挙げられる。この塗装製品は、基体の表
面に本実施形態の複合組成物を塗布し乾燥することによって得られてもよいが、その製造
方法はこれに限定されない。例えば、基体と塗膜とを同時に成形してもよく、より具体的
には一体成形してもよい。また、本実施形態の塗膜をある基体上に成形した後、その塗膜
をその基体から剥離させた又はその基体と密着させた状態で、別の基体に接着、融着等に
より密着させてもよい。
【0091】
本実施形態の複合組成物は、各種の水系塗料に含有されてもよい。かかる塗料は耐候性
、耐水性、防汚性に優れた有機無機複合体を形成可能となる。
【0092】
以上説明した本実施形態の塗膜は、数平均粒子径が1〜400nmである金属酸化物粒
子が連続相を形成し、その連続相中に、数平均粒子径が10〜800nmである重合体粒
子及び数平均粒子径が1〜400nmであるルチル型酸化チタン粒子が分散している構造
を有する。また、本実施形態の塗膜は、金属酸化物粒子の総表面積とルチル型酸化チタン
粒子の総表面積と重合体粒子の総表面積との合計に対して重合体粒子の総表面積が2〜1
8%の範囲にあり、金属酸化物粒子、重合体粒子及びルチル型酸化チタン粒子の合計質量
に対してルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある。そのような構造
を有する塗膜を形成するためには、その塗膜の原料となる水系有機無機複合組成物におけ
る各成分の比率、粒子表面積が重要な因子の一つとなる。そのような観点から、本実施形
態の水系有機無機複合組成物は、金属酸化物粒子と、ルチル型酸化チタン粒子と、重合体
エマルジョン粒子とを含み、金属酸化物粒子の総表面積とルチル型酸化チタン粒子の総表
面積と重合体粒子の総表面積との合計に対して重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲
にあり、金属酸化物粒子、重合体粒子及びルチル型酸化チタン粒子の合計質量に対してル
チル型酸化チタン粒子の質量が3〜20質量%の範囲にある。
【0093】
本実施形態の塗膜は、耐候性、耐水性、防汚性などの耐久性に優れており、建築物の外装塗料・塗膜などを含む広い用途に用いることができる。
【0094】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において、各種物性を下記の方法で測定した。
【0096】
1.表面積
各粒子の総表面積は、各組成物を透過型電子顕微鏡で観察し、その画像を画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製の画像解析ソフト、商品名「A像くん」)で解析することで導出した。
【0097】
2.数平均粒子径
調製した試料中の固形分が10質量%となるよう溶媒を加えて希釈した後、湿式粒度分析計(日機装社製、商品名「マイクロトラックUPA−9230」)を用いて測定した。
【0098】
3.固形分濃度
調製した試料約2gをアルミ皿にとり、150℃で1時間加熱した。加熱前後の試料の質量を測定し、その差から固形分濃度を計算した。
【0099】
4.塗膜厚さ
塗膜の厚さを、ハロゲン光源装置(MORITEX社製、商品名「MHF−D100LR」)を装着した膜厚測定装置(SPECTRA・COOP社製、商品名「HandyLambda II THICKNESS」)を用いて測定した。
【0100】
5.外観(色差)
カラーガイド(BYK Gardner社製)を用いて標準板からの色差を求めた。
【0101】
6.接触角
20℃での水の接触角を、接触角計(協和界面科学社製、商品名「DROP MASTER 500」)を用いて測定した。
【0102】
7.耐候性
スガ試験機社製のサンシャインウエザーメーターを用いて曝露試験(ブラックパネル温度63℃、降雨18分/2時間)を行い、曝露前と曝露開始500時間、2000時間後との間での色差を上記5の方法で測定し、接触角を上記6の方法で測定した。曝露前の色差を標準とし、曝露前後の状態変化をΔEとして評価した。
【0103】
8.耐水性試験後の透明性
試験板を23℃の水中に10日間浸漬した後、大気中、23℃で1日乾燥させ、透明性の度合いを目視にて下記のように評価した。
○:透明。
△:若干白く、やや不透明。
×:白く不透明。
【0104】
9.防汚性
試験板を一般道路(トラック通行量500〜1000台/日程度)に面したフェンスに1年間貼りつけて汚染させた後、汚染の度合いを目視にて下記のように評価した。
◎:汚れなし。
○:全体的に少し汚れている。
△:やや雨スジ汚れ有り。
×:著しい雨スジ汚れあり。
【0105】
10.光触媒活性(分解指数)
JIS R 1703−2に準拠して湿式分解性能試験を実施し、波長664nmの吸光度から分解指数を求めた。このとき、メチレンブルーとして、和光純薬工業社製のメチレンブルー三水和物を用いた。吸光度の測定には、紫外・可視分光光度計(日本分光社製、商品名「V−550」)を用いた。
【0106】
[製造例1]
重合体エマルジョン粒子(B−1)水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水500g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)8.0g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。この反応器中に、メタクリル酸メチル400g、メタクリル酸シクロヘキシル250g、アクリル酸n−ブチル300g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート20g、メタクリル酸30g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)40g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液50g、イオン交換水700gからなる混合液を、反応器中の温度を80℃に保った状態で約4時間かけて滴下した。その後、反応器中の温度を80℃に維持して2時間撹拌を続けた。室温まで冷却後、反応器中の液の水素イオン濃度を測定したところ、pH2.1であった。25%アンモニア水溶液を反応器中に添加して液のpHを8に調整した後、100メッシュの金網で濾過した。イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、重合体粒子として数平均粒子径130nmの重合体エマルジョン粒子(B−1)の水分散体を得た。
【0107】
[製造例2]
重合体エマルジョン粒子(B−2)の水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水609g、反応性乳化剤(商品名「ラテムルS−180A」、花王(株)製)の25%水溶液10g、メタクリル酸シクロヘキシル26g、メタクリル酸n−ブチル8g、メタクリル酸メチル14g、アクリル酸n−ブチル2.5g、メタクリル酸0.8g、アクリル酸0.8g、アクリルアミド0.4gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。この反応器中に、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液5g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1g、メチルトリメトキシシラン68g、ジメチルジメトキシシラン27gを投入した。その後、重合開始による発熱が確認されてから、反応器中の温度を85℃に加温して30分間保持した。次に、反応器中の温度を80℃まで降温して、その温度に保持した状態で、イオン交換水45g、反応性乳化剤(商品名「ラテムルS−180A」、花王(株)製)の25%水溶液10g、メタクリル酸シクロヘキシル26g、メタクリル酸n−ブチル8g、メタクリル酸メチル14g、アクリル酸n−ブチル2.5g、メタクリル酸0.8g、アクリル酸0.8g、アクリルアミド0.4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液5gからなる混合液と、メチルトリメトキシシラン46g、ジメチルジメトキシシラン18gからなる混合液とを、その反応器中へ別々の滴下槽から30分かけて注入し、さらに80℃で2時間保持した。次に、反応器中の温度を80℃に保持した状態で、イオン交換水130g、反応性乳化剤(商品名「ラテムルS−180A」、花王(株)製)の25%水溶液50g、メタクリル酸シクロヘキシル123g、メタクリル酸n−ブチル37g、メタクリル酸メチル4g、アクリル酸n−ブチル79g、メタクリル酸4g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液12gからなる混合液と、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2g、メチルトリメトキシシラン170g、ジメチルジメトキシシラン68gからなる混合液とを反応器中へ別々の滴下槽より2時間かけて注入し、さらに80℃で1.5時間保持した。次いで、室温まで冷却後、反応器中の液の水素イオン濃度を測定したところ、pH2.8であった。次に、25%アンモニア水溶液を反応器中に添加して液のpHを8に調整した後、100メッシュの金網で濾過した。イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、重合体粒子として数平均粒子径127nmの重合体エマルジョン粒子(B−2)の水分散体を得た。
【0108】
[製造例3]
重合体エマルジョン粒子(B−3)水分散体の合成
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水400g、10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液2.57gを投入した後、撹拌下で反応器中の温度を80℃に加温した。この反応器中に、ジメチルジメトキシシラン54.5g、フェニルトリメトキシシラン34.4g、メチルトリメトキシシラン1.0gからなる混合液と、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液15.0gとを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。その後、反応器中の温度を80℃に維持して約1時間撹拌を続けた。次に、アクリル酸n−ブチル12.3g、フェニルトリメトキシシラン13.5g、テトラエトキシシラン31.4g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.2gからなる混合液と、ジエチルアクリルアミド24.6g、アクリル酸1g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25%水溶液)1.2g、反応性乳化剤(商品名「アクアロンKH−1025」、第一工業製薬(株)製、固形分25%水溶液)0.7g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液8.5g、イオン交換水255gからなる混合液とを、反応器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下した。さらに、反応器中の温度を80℃に維持して約2時間撹拌を続けた後、室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過した。イオン交換水で固形分を10.0質量%に調整し、重合体粒子として数平均粒子径183nmの重合体エマルジョン粒子(B−3)の水分散体を得た。
【0109】
[製造例4]
重合体エマルジョン粒子(B−4)水分散体の合成
ジエチルアクリルアミド24.6gをメタクリル酸メチル24.6gに変更する以外は製造例3と同様に合成を行い、重合体粒子として、固形分10.0質量%に調整した数平均粒子径170nmの重合体エマルジョン粒子(B−4)の水分散体を得た。
【0110】
[製造例5]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体の合成
反応器に投入する10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を2.57gから4.5gに変更する以外は製造例3と同様に合成を行い、重合体粒子として、固形分10.0質量%に調整した数平均粒子径100nmの重合体エマルジョン粒子(B−5)の水分散体を得た。
【0111】
[製造例6]
重合体エマルジョン粒子(B−6)水分散体の合成
反応器に始めに投入するイオン交換水を400gから385gに、10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を2.57gから15.0gに変更する以外は製造例3と同様に合成を行い、重合体粒子として、固形分10.0質量%に調整した数平均粒子径52nmの重合体エマルジョン粒子(B−6)の水分散体を得た。
【0112】
[実施例1]
重合体エマルジョン粒子(B−1)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)50gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル(珪酸ナトリウムを用いることで粒子表面をシリカで被覆したルチル型酸化チタン粒子であり、質量比がルチル型酸化チタン100質量部に対してシリカ12質量部、数平均粒子径10nm。以下同様。)22.4gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−1)を得た。この複合組成物(C−1)中の重合体エマルジョン粒子(B−1)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対して、14%であった。
【0113】
次に、片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に上記水系有機無機複合組成物(C−1)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−1)を70℃で10分間乾燥することにより、基板上に塗膜が形成された試験板(D−1)を得た。この試験板(D−1)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−1)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−1)の各種評価結果を表1に示す。
【0114】
[実施例2]
重合体エマルジョン粒子(B−1)水分散体100gに代えて重合体エマルジョン粒子(B−2)水分散体100g(固形分10.0質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−2)及び試験板(D−2)を得た。この複合組成物(C−2)中の重合体エマルジョン粒子(B−2)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、14%であった。また、試験板(D−2)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−2)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−2)の各種評価結果を表1に示す。
【0115】
[実施例3]
重合体エマルジョン粒子(B−1)水分散体100gに代えて重合体エマルジョン粒子(B−3)水分散体100g(固形分10.0質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−3)及び試験板(D−3)を得た。この複合組成物(C−3)中の重合体エマルジョン粒子(B−3)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、10%であった。また、試験板(D−3)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−3)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−3)の各種評価結果を表1に示す。
【0116】
[実施例4]
重合体エマルジョン粒子(B−1)水分散体100gに代えて重合体エマルジョン粒子(B−4)水分散体100g(固形分10.0質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−4)及び試験板(D−4)を得た。この複合組成物(C−4)中の重合体エマルジョン粒子(B−4)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、11%であった。また、試験板(D−4)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−4)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−4)の各種評価結果を表1に示す。
【0117】
[実施例5]
重合体エマルジョン粒子(B−1)水分散体100gに代えて重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)を用いた以外は実施例1と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−5)及び試験板(D−5)を得た。この複合組成物(C−5)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。また、試験板(D−5)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−5)の各種評価結果を表1に示す。
【0118】
[実施例6]
重合体エマルジョン粒子(B−6)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)93gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル32gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−6)を得た。この複合組成物(C−6)中の重合体エマルジョン粒子(B−6)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。
【0119】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に上記水系有機無機複合組成物(C−6)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−6)を70℃で10分間乾燥することにより、基板上に塗膜が形成された試験板(D−6)を得た。この試験板(D−6)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−6)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−6)の各種評価結果を表1に示す。
【0120】
[実施例7]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)423.5gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル106gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−7)を得た。この複合組成物(C−7)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、3%であった。
【0121】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に上記水系有機無機複合組成物(C−7)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−7)を70℃で10分間乾燥することにより、基板上に塗膜が形成された試験板(D−7)を得た。この試験板(D−7)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−7)の各種評価結果を表1に示す。
【0122】
[実施例8]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)50gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル44gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−8)を得た。この複合組成物(C−8)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、17%であった。
【0123】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に上記水系有機無機複合組成物(C−8)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−8)を70℃で10分間乾燥することにより、基板上に塗膜が形成された試験板(D−8)を得た。この試験板(D−8)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−8)の各種評価結果を表1に示す。
【0124】
[実施例9]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)64.5gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル114gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−9)を得た。この複合組成物(C−9)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、12%であった。
【0125】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に上記水系有機無機複合組成物(C−9)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−9)を70℃で10分間乾燥することにより、基板上に塗膜が形成された試験板(D−9)を得た。この試験板(D−9)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−9)の各種評価結果を表1に示す。
【0126】
[実施例10]
シリカ被覆ルチル型酸化チタンゾルに代えてPt(白金)担持ルチル型酸化チタンゾル(商品名「MPT−427」、石原産業(株)製、数平均粒子径30nm)を用いた以外は実施例5と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−10)及び試験板(D−10)を得た。この複合組成物(C−10)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、Pt(白金)担持ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。また、試験板(D−10)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びPt(白金)担持ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−10)の各種評価結果を表1に示す。
【0127】
[実施例11]
シリカ被覆ルチル型酸化チタンゾルに代えてPt(白金)担持ルチル型酸化チタンゾル(商品名「MPT−427」、石原産業(株)製、数平均粒子径30nm)を用いた以外は実施例8と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−11)及び試験板(D−11)を得た。この複合組成物(C−11)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、Pt(白金)担持ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。また、試験板(D−11)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びPt(白金)担持ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−11)の各種評価結果を表1に示す。
【0128】
[実施例12]
Pt(白金)担持ルチル型酸化チタンゾルに代えてFe(鉄)担持ルチル型酸化チタンゾル(商品名「MPT−428」、石原産業(株)製、数平均粒子径35nm)を用いた以外は実施例10と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−12)及び試験板(D−12)を得た。この複合組成物(C−12)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、Fe(鉄)担持ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。また、試験板(D−12)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びFe(鉄)担持ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−12)の各種評価結果を表1に示す。
【0129】
[実施例13]
Pt(白金)担持ルチル型酸化チタンゾルに代えてFe(鉄)担持ルチル型酸化チタンゾル(商品名「MPT−428」、石原産業(株)製、数平均粒子径35nm)を用いた以外は実施例11と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−13)及び試験板(D−13)を得た。この複合組成物(C−13)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、Fe(鉄)担持ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。また、試験板(D−13)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びFe(鉄)担持ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−13)の各種評価結果を表1に示す。
【0130】
[比較例1]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)860.5gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル204gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−14)を得た。この複合組成物(C−14)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、1%であった。
【0131】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に上記水系有機無機複合組成物(C−14)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−14)を70℃で10分間乾燥すると、ひび割れの多い塗膜が形成された試験板(D−14)を得た。この試験板(D−14)の各種評価結果を行わなかった。
【0132】
[比較例2]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)13.2gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル14.2gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−15)を得た。この複合組成物(C−15)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、43%であった。
【0133】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(アクリルシリコーン樹脂側の面)に上記水系有機無機複合組成物(C−15)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−15)を70℃で10分間乾燥することにより、塗膜が形成された試験板(D−15)を得た。この試験板(D−15)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子(B−5)が均一に分散している様子が確認できた。この試験板(D−15)の各種評価結果を表1に示す。
【0134】
[比較例3]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)50gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル4gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−16)を得た。この複合組成物(C−16)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。
【0135】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(表面)に上記水系有機無機複合組成物(C−16)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−16)を70℃で10分間乾燥することにより、塗膜が形成された試験板(D−16)を得た。この試験板(D−16)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−16)の各種評価結果を表1に示す。
【0136】
[比較例4]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)50gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル20gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−17)を得た。この複合組成物(C−17)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。
【0137】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(表面)に上記水系有機無機複合組成物(C−17)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−17)を70℃で10分間乾燥することにより、塗膜が形成された試験板(D−17)を得た。この試験板(D−17)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−17)の各種評価結果を表1に示す。
【0138】
[比較例5]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)30gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル60gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−18)を得た。この複合組成物(C−18)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、24%であった。
【0139】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(表面)に上記水系有機無機複合組成物(C−18)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−18)を70℃で10分間乾燥することにより、塗膜が形成された試験板(D−18)を得た。この試験板(D−18)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−18)の各種評価結果を表1に示す。
【0140】
[比較例6]
重合体エマルジョン粒子(B−5)水分散体100g(固形分10.0質量%)に、数平均粒子径12nmの水分散コロイダルシリカ(商品名「スノーテックスO」、日産化学工業(株)製、固形分20質量%)30gと、イオン交換水により固形分を5質量%に調整したシリカ被覆ルチル型酸化チタンゾル120gとを混合し攪拌することにより水系有機無機複合組成物(C−19)を得た。この複合組成物(C−19)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、20%であった。
【0141】
片面(裏面)に黒色印刷が施されたガラス板の別の片面(表面)にアクリルシリコーン樹脂を予め1μmの膜厚で塗工した10cm×10cmの基板を準備した。この基板の片面(表面)に上記水系有機無機複合組成物(C−19)をバーコート法にて塗布した。その後、塗布した複合組成物(C−19)を70℃で10分間乾燥することにより、塗膜が形成された試験板(D−19)を得た。この試験板(D−19)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成
され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆ルチル型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−19)の各種評価結果を表1に示す。
【0142】
[比較例7]
シリカ被覆ルチル型酸化チタンゾルに代えてシリカ被覆アナターゼ型酸化チタンゾル(商品名「MPT−422」、石原産業(株)製、数平均粒子径10nm)を用いた以外は実施例3と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−20)及び試験板(D−20)を得た。この複合組成物(C−20)中の重合体エマルジョン粒子(B−3)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆アナターゼ型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、10%であった。また、試験板(D−20)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−3)及びシリカ被覆アナターゼ型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−20)の各種評価結果を表1に示す。
【0143】
[比較例8]
シリカ被覆ルチル型酸化チタンゾルに代えてシリカ被覆アナターゼ型酸化チタンゾル(商品名「MPT−422」、石原産業(株)製、数平均粒子径10nm)を用いた以外は実施例5と同様にして、水系有機無機複合組成物(C−21)及び試験板(D−21)を得た。この複合組成物(C−21)中の重合体エマルジョン粒子(B−5)の総表面積は、二酸化ケイ素粒子、シリカ被覆アナターゼ型酸化チタン粒子及び重合体エマルジョン粒子の総表面積(100%)に対し、18%であった。また、試験板(D−21)から塗膜を一部剥離し、その断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、二酸化ケイ素粒子により連続相が形成され、その連続相中に重合体エマルジョン粒子(B−5)及びシリカ被覆アナタ-ゼ型酸化チタン粒子が分散している様子が確認できた。この試験板(D−21)の各種評価結果を表1に示す。
【0144】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の塗膜及び水系有機無機複合組成物は、建築外装、外装表示用途、自動車、ディスプレイ、レンズ等のコーティング剤及びそれから形成される塗膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均粒子径が1〜400nmである金属酸化物粒子を含む連続相と、前記連続相中に分散する、数平均粒子径が10〜800nmである重合体粒子と数平均粒子径が1〜400nmであるルチル型酸化チタン粒子と、を含有する構造を有し、
前記金属酸化物粒子の総表面積と前記ルチル型酸化チタン粒子の総表面積と前記重合体粒子の総表面積との合計に対して、前記重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあり、前記金属酸化物粒子と前記重合体粒子と前記ルチル型酸化チタン粒子との合計質量に対して、前記ルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある、塗膜。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子の数平均粒子径よりも前記重合体粒子の数平均粒子径の方が大きい、請求項1に記載の塗膜。
【請求項3】
数平均粒子径が1〜400nmである金属酸化物粒子と、数平均粒子径が10〜800nmである重合体エマルジョン粒子と、数平均粒子径が1〜400nmであるルチル型酸化チタン粒子と、を含み、
前記金属酸化物粒子の総表面積と前記ルチル型酸化チタン粒子と前記重合体粒子の総表面積との総表面積の合計に対して前記重合体粒子の総表面積が2〜18%の範囲にあり、前記金属酸化物粒子と前記重合体粒子と前記ルチル型酸化チタン粒子との合計質量に対して前記ルチル型酸化チタン粒子の質量が5〜20質量%の範囲にある、水系有機無機複合組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子が二酸化ケイ素粒子を含む、請求項3に記載の水系有機無機複合組成物。
【請求項5】
前記重合体エマルジョン粒子が、前記金属酸化物粒子と相互作用することが可能な官能基を有する、請求項3又は4に記載の水系有機無機複合組成物。
【請求項6】
前記官能基がアミド基である、請求項5に記載の水系有機無機複合組成物。
【請求項7】
前記重合体エマルジョン粒子は、水及び第1の乳化剤の存在下で、少なくとも、第1の加水分解性ケイ素化合物と、第1のビニル単量体と、を重合して得られるものである、請求項3〜6のいずれか一項に記載の水系有機無機複合組成物。
【請求項8】
前記重合体エマルジョン粒子は、水、前記第1の乳化剤及びシード粒子の存在下で、少なくとも、前記第1の加水分解性ケイ素化合物と、前記第1のビニル単量体と、を重合して得られるものであって、前記第1のビニル単量体は、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体であり、
前記シード粒子は、水及び第2の乳化剤の存在下で、少なくとも、2級及び/又は3級アミド基を有する第2のビニル単量体と、その第2のビニル単量体と共重合可能であり2級及び3級アミド基を有しないビニル単量体と、第2の加水分解性ケイ素化合物と、からなる群より選ばれる1種以上の化合物を重合して得られるものである、請求項3〜7のいずれか一項に記載の水系有機無機複合組成物。
【請求項9】
前記シード粒子は、前記第2の加水分解性ケイ素化合物を重合して得られるものである、請求項8に記載の水系有機無機複合組成物。
【請求項10】
請求項3〜9のいずれか一項に記載の水系有機無機複合組成物を含有する水系塗料。
【請求項11】
請求項10に記載の水系塗料を基体の表面に塗布して形成される塗膜。
【請求項12】
請求項1又は請求項11に記載の塗膜を備える塗装製品。

【公開番号】特開2010−261022(P2010−261022A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85963(P2010−85963)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】