説明

塗膜密着性に優れた表面改質鋼板の製造方法

【課題】スラッジを発生させることなく、基材となる鋼板に十分な塗膜密着性を付与することができる、表面改質鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】25℃における電気抵抗率が10MΩ・cm以上の超純水に0.1mg/L以上の溶存オゾンを含有させた表面改質液を基材となる鋼板の表面に接触させて表面改質処理を行う。上記工程により、鋼板表面の汚染物を除去することができ、同時に鋼板表面の濡れ性を向上させることができる。また、塗膜中の極性基と結合可能なOH基を鋼板表面に多数導入できるため、鋼板表面に対する塗膜の密着性を向上させることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜密着性に優れた表面改質鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融Znめっき鋼板や溶融Zn−Alめっき鋼板、溶融Zn−Al−Mgめっき鋼板などの溶融めっき鋼板を樹脂塗装する場合、塗装前処理として塗布型クロメート処理が採用されてきた。しかし、近年になって、環境負荷の軽減が重視される傾向から、Cr系処理液を含まない化成処理液や非クロム系下塗り塗料などを用いた塗装原板が求められるようになり、塗布型非クロメート処理が実施されるようになってきた。塗布型の化成処理では、脱脂処理をしていない溶融めっき鋼板または脱脂処理のみをした溶融めっき鋼板に化成処理液を塗布しても、化成処理皮膜を均一に形成するのは困難であった。このように化成処理皮膜が不均一に形成されてしまうと、皮膜密着性の低下および塗膜剥離の原因となる。したがって、化成処理皮膜を均一に形成することを目的として、化成処理液を塗布する前に、溶融めっき鋼板を薬液によって表面調整する工程が採用されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1,2には、溶融めっき鋼板の表面をNiイオンを含む水溶液で処理し、めっき層表面に金属Niを置換析出させる方法が開示されている。特許文献1,2の発明では、Niイオンを含む表面調整液として、エッチング作用を有するpH2.5〜5.6の酸性水溶液が使用される。したがって、溶融Znめっき鋼板または溶融Zn−Alめっき鋼板に表面調整液を塗布すると、めっき層の表層に濃化したAl系酸化物が除去されてしまう。同様に、溶融Zn−Al−Mgめっき鋼板に表面調整液を塗布すると、めっき層の表層に濃化したAl系酸化物およびMg系酸化物が除去されてしまう。Al系酸化物およびMg系酸化物は耐食性の発揮に有効であるため、これらの酸化物を除去してしまうと、めっき層表面と下塗り塗膜との界面において腐食が発生しやすくなる。また、表面調整液がエッチング作用を有するため、表面調整液槽内にはめっき層から溶け込んだ金属酸化物などのスラッジが蓄積される。したがって、特許文献1,2の方法では、定期的にスラッジを回収しなければならず、メンテナンスが必要となる。
【0004】
これに対し、ステンレス鋼板では、化成処理液を塗布する前に、塗装原板を薬液によって表面調整することはほとんど行われていないが、アルカリ洗浄や界面活性剤洗浄などの脱脂処理は行われている。しかしながら、脱脂処理のみでは、ステンレス鋼板表面の化成処理液に対する濡れ性を十分に高めることはできず、いわゆるハジキが発生し、化成処理皮膜を均一に形成するのは困難であった。その結果、最終製品である塗装ステンレス鋼板における塗膜密着性が不十分となり、所望の性能が発揮されない場合があった。このような問題を解決するために、ステンレス鋼板表面の塗料に対する濡れ性を向上させる技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3には、酸性水溶液を用いてステンレス鋼板表面の不動態皮膜をエッチングし、金属を一定比率で露出させて塗料に対する濡れ性を向上させる方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、アルミニウム箔表面の有機塗料に対する濡れ性を改善するために、コロナ放電でアルミニウム箔表面を処理する方法が開示されている。
【0006】
一方、電子材料分野では、シリコンウェーハ表面への微粒子の付着を防止するためにオゾンを含有する純水でシリコンウェーハの表面を洗浄する技術が提案されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5には、界面活性剤を添加したフッ酸水溶液を用いてシリコンウェーハの表面を洗浄した後、オゾンを含有する純水を用いてシリコンウェーハの表面を洗浄する方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献6には、ステンレス鋼製容器の耐腐食性を改善するために、オゾンを含有するpH1〜2の酸性水溶液でステンレス鋼製容器の表面を処理する方法が開示されている。特許文献6の方法では、酸性水溶液に含まれる硝酸によりステンレス鋼の不動態皮膜中のFeを溶解除去し、次いでオゾンの酸化作用により不動態皮膜中のCrを濃化することで、ステンレス鋼製容器の耐腐食性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭53−115624号公報
【特許文献2】特開平5−59565号公報
【特許文献3】特許第3666626号公報
【特許文献4】特公昭62−10705号公報
【特許文献5】特許第2914555号公報
【特許文献6】特開2002−97579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、めっき鋼板の表面を過剰にエッチングする特許文献1,2の方法には、スラッジが発生するという問題があった。また、基材(ステンレス鋼板またはアルミニウム箔)表面の塗料に対する濡れ性を向上させる特許文献3,4の方法には、単に基材表面の塗料に対する濡れ性を向上させるだけでは、高温多湿の過酷な環境下に耐えうる塗膜密着性を付与できないという問題があった。
【0010】
このように、プレコート鋼板の製造技術において、スラッジ発生の抑制と、十分な塗膜密着性の付与とを両立しうる表面調整方法はなかった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、スラッジを発生させることなく、基材となる鋼板に十分な塗膜密着性を付与することができる、表面改質鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、超純水に0.1mg/L以上の溶存オゾンを含有させた水溶液を用いることで上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明の第一は、以下の表面改質鋼板の製造方法に関する。
[1]25℃における電気抵抗率が10MΩ・cm以上の超純水に0.1mg/L以上の溶存オゾンを含有させた表面改質液を準備するステップと、鋼板の表面に前記表面改質液を接触させるステップとを含む、表面改質鋼板の製造方法。
[2]前記鋼板はステンレス鋼板であり、前記表面改質鋼板の表面から5nmの厚み領域における金属水酸化物のO1sピーク強度POHと、金属酸化物のO1sピーク強度Pとの比POH/Pは0.8以上である、[1]に記載の製造方法。
【0014】
また、本発明の第二は、以下の表面改質鋼板に関する。
[3][1]または[2]に記載の方法で得られた表面改質鋼板の表面に、さらに塗膜を有する、表面改質鋼板。
[4][2]に記載の方法で得られた表面改質鋼板の表面に、さらにクリア塗膜を有する、表面改質鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温多湿の過酷な環境下においても、塗膜との密着性に優れる表面改質鋼板をスラッジを発生させずに製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.本発明の表面改質鋼板の製造方法
本発明の表面改質鋼板の製造方法は、1)表面改質液を準備する第1のステップと、2)鋼板の表面に表面改質液を接触させる第2のステップとを有する。
【0017】
第1のステップでは、超純水に溶存オゾンを含有させた表面改質液を準備する。本明細書において「超純水」とは、25℃における電気抵抗率が10MΩ・cm以上の水をいう。
【0018】
溶存オゾンを含有させる超純水は、前述の通り25℃における電気抵抗率が10MΩ・cm以上の水であるが、好ましくは25℃における電気抵抗率が15MΩ・cm以上の水であり、より好ましくは25℃における電気抵抗率が18MΩ・cm以上の水である。また、表面改質液中の総金属濃度は10μg/L以下であることが好ましく、表面改質液中の微粒子の数は10000個/L以下であることが好ましい。超純水の純度が高いほど、超純水への有機汚染物の溶解度が高まり、第2のステップにおいて有機汚染物をより効率的に除去できるからである。ここで「表面改質液中の総金属濃度」とは、超純水中のNa、Mg、Al、K、CaおよびFeの濃度の合計をいう。
【0019】
表面改質液中の溶存オゾンの濃度は、0.1mg/L以上が好ましい。オゾンの濃度が高いほど酸化力が強くなり、第2のステップにおいて有機汚染物をより効率的に除去できるが、極端にオゾン濃度を上げると、オゾン発生設備およびオゾンガスの排気設備などの大規模化が必要なため経済的でない上に安全性にも問題を生じるおそれがある。一方、オゾンの濃度が0.1mg/L未満の場合、第2のステップにおいて有機汚染物を十分に除去することができないおそれがある。
【0020】
オゾンを超純水に溶解させる方法は、特に限定されない。たとえば、オゾンを含む気体を超純水に連続して吹き込めばよい。
【0021】
表面改質液は、pHを7未満に調整して使用することができる。超純水に二酸化炭素などを添加することによってpHを7未満に調整することにより、表面改質液の酸化還元電位が高くなり、有機汚染物の除去効果を高めることができる。好ましくはpHを4〜6に調整するとよい。pHの調整は、二酸化炭素以外にも高純度の酸によっても可能である。高純度の酸の例には、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、炭酸などが含まれる。ただし、pHを4未満に下げると、基材が過剰にエッチングされるおそれがあるため好ましくない。
【0022】
第2のステップでは、基材となる鋼板の表面に、第1のステップで準備した表面改質液を接触させる。この工程により、鋼板の表面に付着した有機汚染物および無機汚染物を除去することができ、かつ鋼板表面にOH基を導入して鋼板表面の濡れ性を向上させることができる。また、後述するように、鋼板表面にOH基を導入することで、塗膜に対する密着性を向上させることができる。
【0023】
基材となる鋼板の種類は、特に限定されない。基材となる鋼板の例には、亜鉛めっき鋼板(電気Znめっき、溶融Znめっき)、合金化亜鉛めっき鋼板(溶融Znめっき後に合金化処理した合金化溶融Znめっき)、亜鉛合金めっき鋼板(溶融Zn−Mgめっき、溶融Zn−Al−Mgめっき、溶融Zn−Alめっき)、溶融Al−Siめっき鋼板、ステンレス鋼板などが含まれる。これらの中でも、不動態皮膜を有するステンレス鋼板を基材とした場合は、特に優れた表面改質効果を期待できる。
【0024】
鋼板の表面に表面改質液を接触させる方法は、特に限定されない。好ましくは、表面改質液に鋼板を浸漬する方法より、表面改質液を流水として鋼板表面に接触させる方法や、噴射ノズルを用いて圧力を高めた表面改質液を鋼板に噴射する方法などがよい。表面改質液を接触させる際の温度は、特に限定されず、常温でもよいし、薬液処理のように温度を上げてもよい。常温でも表面改質効果を発揮するところが、本発明の表面改質液を使用する利点の一つである。表面改質液を接触させる時間は、特に限定されないが、反応を促進する上で1秒以上接触させることが好ましい。
【0025】
このように鋼板の表面に表面改質液を接触させることで、超純水の溶解力およびオゾンの酸化作用により鋼板表面に付着した有機汚染物および無機(金属)汚染物を除去することができる。
【0026】
鋼板表面に付着した無機汚染物を効率的に除去する観点からは、鋼板の表面に表面改質液を接触させる前に、超音波を伝達している状態の超純水または水素溶存超純水(超純水に水素を溶存させたもの)に鋼板を浸漬して鋼板表面を洗浄することが好ましい。無機汚染物をより効率的に除去するためには、超音波を伝達している状態のpH調整水素溶存超純水(水素溶存超純水にアンモニアなどを添加して、pHを7以上に調整したもの)に鋼板を浸漬して鋼板表面を洗浄することが好ましい。超音波の周波数は、特に限定されないが、超音波がもたらすキャビテーション効果を考慮すると、汚れのひどい鋼板には20〜50kHz、基板に損傷を与えるおそれがある場合や、微粒子無機汚染物を除去する場合は、1MHz以上が好ましい。
【0027】
また、鋼板の表面に表面改質液を接触させることで、表面改質液に含まれる超純水およびオゾンの作用により鋼板表面に金属水酸化物を形成することができる。このように鋼板表面にOH基が導入される結果、鋼板表面の濡れ性が向上する。さらに、鋼板表面のOH基と塗膜中の極性基(OH基やCOOH基など)との間で水素結合や脱水縮合反応が生じるため、塗膜の鋼板表面への密着性が向上する。
【0028】
特に、ステンレス鋼板を基材とする場合は、金属水酸化物の量は、表面改質鋼板の表面から5nmの厚み領域(以下「表層」ともいう)における金属水酸化物のO1sピーク強度をPOH、金属酸化物のO1sピーク強度をPとするとき、O1sピーク強度比「POH/P」で示され、その比率が0.8以上であることが好ましい。この強度比が0.8未満である表面改質ステンレス鋼板は、高温多湿環境下において塗膜密着性が十分でない場合がある。
【0029】
1sピーク強度比はX線電子分光(XPS)分析を行い、O1sピークにおいて各金属成分の酸化物および水酸化物をピーク分離することで算出できる。XPS分析は、X線源をMg Kα線として行うことが好ましい。前記表層は、XPS分析の際に、光電子が基材から放出される深さが0〜5nmであることから決定される。
【0030】
以上のように、超純水に0.1mg/L以上の溶存オゾンを含有させた表面改質液を用いて鋼板表面を処理することで、鋼板表面の有機汚染物および無機汚染物を除去することができ、同時に鋼板表面の濡れ性を向上させることができる。また、塗膜中の極性基と結合可能なOH基を鋼板表面に多数導入できるため、鋼板表面に対する塗膜の密着性を向上させることもできる。
【0031】
2.本発明の表面改質鋼板
本発明の表面改質鋼板は、上記本発明の製造方法により得られる。本発明の表面改質鋼板は、鋼板表面に塗膜をさらに有していてもよい。塗膜は、1コート構成でも、下塗り(プライマー)塗膜および上塗り(トップ)塗膜の2コート構成でもよい。さらに、本発明の表面改質鋼板は、鋼板と塗膜との間に塗装前処理皮膜を有していてもよい。
【0032】
塗装前処理皮膜は、公知の方法で形成される。そのような処理方法の例には、クロメート処理やクロムを含まない無機系処理、有機系処理などが含まれる。これらの処理は、OH基を多く含むため処理液の成分が表面改質鋼板と脱水縮合しやすく、密着性以外に耐食性も付与することができる。密着性については、有機樹脂成分を含ませることで、より一層向上させることができる。
【0033】
塗装前処理皮膜は、バルブメタルの酸化物、バルブメタルの酸素酸塩、バルブメタルの水酸化物、バルブメタルのリン酸塩およびバルブメタルのフッ化物からなる群より選ばれる1種以上の化合物(以下「バルブメタル化合物」ともいう)を含むことが好ましい。環境適合性を有しつつ塗装鋼板の耐食性を向上させうるからである。バルブメタルとは、その酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属をいう。バルブメタル元素としては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、SiおよびAlから選ばれる1種以上の元素が好ましい。バルブメタル化合物としては公知のものを用いてよい。
【0034】
塗膜とは、主に有機系の高分子化合物を主成分とする有機系塗膜を意味する。有機系の高分子化合物の種類は、特に限定されないが、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレンなどのスチレン系樹脂、ポリエステル、またはこれらの共重合物もしくは変性物が好ましい。これらの中でも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂などの分子内にOH基やCOOH基を有する樹脂が好ましい。また、有機系塗膜の代わりに、琺瑯、水ガラス、ゾル−ゲルガラスなどの無機系塗膜を用いることもできる。また、塗膜を着色するために着色顔料を添加してもよい。
【0035】
塗膜は、さらに潤滑剤を含むことが好ましい。鋼板の耐カジリ性などを向上させて、加工性に優れた塗装鋼板を得られるからである。潤滑剤の種類は、特に限定されず、公知のものから選択すればよい。潤滑剤の例には、フッ素系やポリエチレン系、スチレン系などの有機ワックス、二硫化モリブデンやタルクなどの無機潤滑剤が含まれる。低融点の有機ワックスを潤滑剤として用いる場合、塗膜を乾燥する際に潤滑剤が塗膜の表面にブリードするため、潤滑性を発現させることができる。また、高融点の有機ワックスや無機潤滑剤を潤滑剤として用いる場合、潤滑剤が塗膜の最表層において島状に存在し、かつ塗膜表面に露出して存在するため、潤滑性を発現させることができる。
【0036】
塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、塗料を調製して、公知の方法で鋼板表面に塗装すればよい。さらには、有機樹脂組成物からなるフィルムを、鋼板にラミネートしてもよい。
【0037】
塗膜は、クリア塗膜であってもよい。本発明の表面改質方法は、基材となる鋼板の光学特性(特に光反射特性)に過剰な影響を与えることなく、鋼板の表面の濡れ性を高めることができるため、例えばステンレス鋼板を基材とした場合に、ステンレス鋼板の美観を損なうことなく表面を改質することができる。また、ステンレス鋼板を基材とした場合は、緻密な不動態皮膜が得られ、かつ金属鉄を含まない不動態皮膜に改質することができるため、耐食性を向上させることができる。このように、クリア塗膜を形成することで、美観の優れた鋼板材料(プレコート鋼板)を提供することができる。
【0038】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
実施例1では、塗膜を有する本発明の表面改質鋼板を製造した例を示す。
【0040】
1.表面改質液の調製
(1)実施例1の表面改質液(超純水、高濃度オゾン)
25℃における電気抵抗率が10MΩ・cmの超純水、15MΩ・cmの超純水および18MΩ・cmの超純水を準備した。また、酸素ガスを原料として無声放電により製造したオゾンを含有する気体を準備した。オゾンを含有する気体を超純水に接触させることで、溶存オゾン濃度が0.1〜30mg/Lとなるようにオゾンを超純水に溶解させて、実施例1の表面改質液を調製した。このように調製された表面改質液に含まれる金属(Na、Mg、Al、K、CaおよびFe)の濃度を誘導結合プラズマ発光質量分析(ICP−MS)法で測定した。その結果、表面改質液中の総金属濃度は、いずれの超純水を用いた場合であっても0.1μg/L以下であった。また、表面改質液に含まれる微粒子の数をレーザー散乱法で測定した。その結果、表面改質液中の微粒子の数は、いずれの超純水を用いた場合であっても1万個/L以下であった。
【0041】
(2)比較例1の表面改質液(超純水、低濃度オゾン)
25℃における電気抵抗率が18MΩ・cmの超純水を準備した。また、酸素ガスを原料として無声放電により製造したオゾンを含有する気体を準備した。オゾンを含有する気体を超純水に接触させることで、溶存オゾン濃度が0.005〜0.08mg/Lとなるようにオゾンを超純水に溶解させて、比較例1の表面改質液を調製した。表面改質液中の総金属濃度は、0.1μg/L以下であった。また、表面改質液中の微粒子の数は、1万個/L以下であった。
【0042】
(3)比較例2の表面改質液(純水、高濃度オゾン)
25℃における電気抵抗率が0.01MΩ・cmの純水、0.1MΩ・cmの純水および1MΩ・cmの純水を準備した。また、酸素ガスを原料として無声放電により製造したオゾンを含有する気体を準備した。オゾンを含有する気体を純水に接触させることで、溶存オゾン濃度が0.1〜30mg/Lとなるようにオゾンを純水に溶解させて、比較例2の表面改質液を調製した。表面改質液中の総金属濃度は、いずれの純水を用いた場合であっても50〜1000μg/Lであった。また、表面改質液中の微粒子の数は、いずれの純水を用いた場合であっても10万個/L程度であった。
【0043】
表1は、調製した実施例1の表面改質液(12種類)、比較例1の表面改質液(3種類)および比較例2の表面改質液(12種類)についての、超純水または純水の電気抵抗率および溶存オゾン濃度を示す表である。
【表1】

【0044】
2.表面改質処理
塗装原板として、2種類のステンレス鋼板(SUS430、SUS304)、3種類のめっき鋼板(溶融Zn−55質量%Alめっき鋼板、溶融Znめっき鋼板、溶融Zn−6Al−3質量%Mgめっき鋼板)を準備した。各鋼板を実施例1、比較例1または比較例2のいずれかの表面改質液に5秒間浸漬した後、窒素ガスブローにより各鋼板を乾燥させた。
【0045】
3.表面分析
ステンレス鋼板(SUS430またはSUS304)を基材とする表面改質ステンレス鋼板について、X線光電子分光分析装置(5500MC;アルバック・ファイ株式会社)を用いてXPS分析を行った(X線源:Mg Kα線)。各表面改質ステンレス鋼板について、10箇所分析した。この分析により、各表面改質ステンレス鋼板の表層(表面から5nm)における金属水酸化物/金属酸化物のO1sピーク強度の比(POH/P)を求めた。
【0046】
XPS分析の結果、実施例1の表面改質液(No.1〜12)を用いて表面改質を行った場合は、POH/P(O1sピーク強度の比)が0.8以上であった。一方、比較例1または比較例2の表面改質液(No.13〜27)を用いて表面改質を行った場合は、POH/Pが0.8未満であった。表2は、各表面改質液を用いて表面改質を行った後のPOH/Pを示す表である。
【表2】

【0047】
4.塗膜密着性試験
各表面改質鋼板から試験片を切り出し、塗膜密着性試験を実施した。各試験片の表面にウレタン系塗料(KP1101白色塗料;関西ペイント株式会社)またはポリエステル系塗料(FLC5000クリア塗料;日本ファインコーティングス株式会社)を乾燥膜厚が5μm程度となるように塗布し、到達板温度230℃で焼付け乾燥した。塗装後の各試験片を沸騰水に2時間浸漬した後、180度2T曲げ試験を実施した。すなわち、曲げ部に試験片と同じ厚さの板を2枚挟み込み、手動万力にて180度に締め付けた。このとき、曲げ稜線は、試験片の幅方向と平行にした。曲げ加工部にセロハンテープを貼り付けた後、曲げ稜線に対して垂直にテープを剥がして、塗膜の残存率を測定し、塗膜密着性を評価した。このとき、塗膜の残存率が、90%以上の場合を「○」、50%以上90%未満の場合を「△」、50%未満の場合を「×」と評価した。
【0048】
表3は、塗膜密着性試験の結果を示す表である。前述の通り、2種類のステンレス鋼板(SUS430、SUS304)および3種類のめっき鋼板(溶融Zn−55質量%Alめっき鋼板、溶融Znめっき鋼板、溶融Zn−6Al−3質量%Mgめっき鋼板)を塗装原板として用いたが、すべての鋼板において表3に示す結果となった。
【0049】
【表3】

【0050】
表3に示されるように、実施例1の表面改質液(No.1〜12)を用いて表面改質を行った場合は、塗膜の残存率が90%以上であった。一方、比較例1または比較例2の表面改質液(No.13〜27)を用いて表面改質を行った場合は、塗膜の残存率が90%未満であった。
【0051】
以上の結果から、超純水に0.1mg/L以上の溶存オゾンを含有させた表面改質液を用いて表面改質を行うことで、塗膜の密着性を向上させうること、および鋼板表面にOH基を導入して有機樹脂系塗料に対する濡れ性を向上させうることがわかる。
【0052】
[実施例2]
実施例2では、塗装前処理皮膜および塗膜を有する本発明の表面改質鋼板を製造した例を示す。
【0053】
1.表面改質液の調製
(1)実施例2の表面改質液(超純水、高濃度オゾン)
25℃における電気抵抗率が18MΩ・cmの超純水を準備した。また、酸素ガスを原料として無声放電により製造したオゾンを含有する気体を準備した。オゾンを含有する気体を超純水に接触させることで、溶存オゾン濃度が5mg/Lとなるようにオゾンを超純水に溶解させて、実施例2の表面改質液を調製した。
【0054】
(2)比較例3の表面改質液(純水、高濃度オゾン)
25℃における電気抵抗率が0.3MΩ・cmの純水を準備した。また、酸素ガスを原料として無声放電により製造したオゾンを含有する気体を準備した。オゾンを含有する気体を純水に接触させることで、溶存オゾン濃度が5mg/Lとなるようにオゾンを純水に溶解させて、比較例3の表面改質液を調製した。
【0055】
2.表面改質処理
塗装原板として、2種類のステンレス鋼板(SUS430、SUS304)、3種類のめっき鋼板(溶融Zn−55質量%Alめっき鋼板、溶融Znめっき鋼板、溶融Zn−6Al−3質量%Mgめっき鋼板)を準備した。各鋼板を実施例2または比較例3の表面改質液に1秒間浸漬した後、窒素ガスブローにより各鋼板を乾燥させた。
【0056】
3.表面分析
ステンレス鋼板(SUS430またはSUS304)を基材とする表面改質ステンレス鋼板について、XPS分析を行った。各表面改質ステンレス鋼板について、10箇所分析した。この分析により、各表面改質ステンレス鋼板の表層(表面から5nm)におけるPOH/P(O1sピーク強度の比)を求めた。
【0057】
XPS分析の結果、実施例2の表面改質液を用いて表面改質を行った場合は、POH/P(O1sピーク強度の比)が0.8以上であった。一方、比較例3の表面改質液を用いて表面改質を行った場合は、POH/Pが0.8未満であった。表4は、各表面改質液を用いて表面改質を行った後のPOH/Pを示す表である。
【表4】

【0058】
4.塗膜密着性試験
各表面処理鋼板から試験片を切り出し、塗膜密着性試験を実施した。まず、各試験片の表面に表5に示す組成の塗装前処理液のいずれかを塗布し、到達板温度130℃で乾燥した。
【表5】

【0059】
次いで、塗装前処理後の各試験片の表面にポリエステル系塗料(FLC5000クリア塗料;日本ファインコーティングス株式会社)を乾燥膜厚が5μm程度となるように塗布し、到達板温度230℃で焼付け乾燥した。塗装後の各試験片を沸騰水に2時間浸漬した後、180度2T曲げ試験を実施した。すなわち、曲げ部に試験片と同じ厚さの板を2枚挟み込み、手動万力にて180度に締め付けた。このとき、曲げ稜線は、試験片の幅方向と平行にした。曲げ加工部にセロハンテープを貼り付けた後、曲げ稜線に対して垂直にテープを剥がして、塗膜の残存率を測定し、塗膜密着性を評価した。このとき、塗膜の残存率が、90%以上の場合を「○」、50%以上90%未満の場合を「△」、50%未満の場合を「×」と評価した。
【0060】
表6は、塗膜密着性試験の結果を示す表である。前述の通り、2種類のステンレス鋼板(SUS430、SUS304)、3種類のめっき鋼板(溶融Zn−55質量%Alめっき鋼板、溶融Znめっき鋼板、溶融Zn−6Al−3質量%Mgめっき鋼板)を塗装原板として用いたが、すべての鋼板において表6に示す結果となった。
【0061】
【表6】

【0062】
表6に示されるように、実施例2の表面改質液を用いて表面改質を行った場合は、塗膜の残存率が90%以上であった。一方、比較例3の表面改質液を用いて表面改質を行った場合は(比較例3)、塗膜の残存率が90%未満であった。
【0063】
以上の結果から、超純水に0.1mg/L以上の溶存オゾンを含有させた表面改質液を用いて表面改質を行うことで、塗装前処理皮膜の密着性を向上させうること、および鋼板表面にOH基を導入して塗装前処理液に対する濡れ性を向上させうることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の製造方法は、塗膜密着性に優れた表面改質鋼板を製造することができる。本発明の製造方法により製造された表面改質鋼板は、例えば高温高湿環境下で使用されるプレコート鋼板などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における電気抵抗率が10MΩ・cm以上の超純水に0.1mg/L以上の溶存オゾンを含有させた表面改質液を準備するステップと、
鋼板の表面に前記表面改質液を接触させるステップと、
を含む、表面改質鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は、ステンレス鋼板であり、
前記表面改質鋼板の表面から5nmの厚み領域における金属水酸化物のO1sピーク強度POHと、金属酸化物のO1sピーク強度Pとの比POH/Pは、0.8以上である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法で得られた表面改質鋼板の表面に、さらに塗膜を有する、表面改質鋼板。
【請求項4】
請求項2に記載の方法で得られた表面改質鋼板の表面に、さらにクリア塗膜を有する、表面改質鋼板。

【公開番号】特開2011−153352(P2011−153352A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15818(P2010−15818)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】