説明

塗膜形成方法

【課題】意匠性に優れ、金属調光沢を有する複層塗膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】被塗素材上に下塗り塗膜、光輝材含有ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次形成する複層塗膜の形成方法において、前記光輝材含有ベース塗膜を形成する光輝材含有ベース塗料が、貴金属および/または金属を含むコロイド粒子、塗膜形成性樹脂を含有し、前記下塗り塗膜が、前記貴金属および/または金属を含むコロイド粒子のプラズモン発色の色相をマンセル100色相環上で0とし、左回りを0〜+50、右回りを0〜−50で表示したとき、+35〜+50若しくは−35〜−50の範囲の色相であり、かつ、マンセル表色系における明度が9以下であること、又は、前記下塗り塗膜が、マンセル表色系における明度が4以下の無彩色であることを特徴とする複層塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は意匠性に優れた金属調光沢を有する複層塗膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車体、アルミホイール等の自動車部品や携帯電話、パソコン等の電化製品などの外観において高い意匠性が求められており、鏡面のような金属調光沢を表面に付与する技術が重要になっている。このような技術としては、従来から金属メッキ処理や金属蒸着処理が知られており、これらの技術により表面に金属調光沢が付与され、優れた意匠性を有する外観が得られている。しかしながら金属メッキ処理に関しては、その排水等が環境に与える負荷が大きい点、またその基材は導電性を有するものに限られる点などに問題があった。また金属蒸着処理に関しては、真空または減圧容器中に基材を設置する必要があり、大型の基材に適用できない点に問題があった。さらに、金属メッキ処理および金属蒸着処理のどちらの方法においても、大掛かりな設備が必要であり、その費用面からも代替手段の開発が望まれていた。
【0003】
このような状況において、近年、塗装により金属調光沢を付与する技術が開発されている。例えば、特許文献1にはアルミニウム蒸着膜等、蒸着金属膜を粉砕した金属片を光輝性顔料として含有する塗料および該塗料を用いた塗膜形成方法が開示されており、この塗料を使用することで、適度な金属面光沢を有する塗膜が得られることが記載されている。しかしながら、この塗膜の金属面光沢は鏡面光沢ほど強くはなく、意匠性の面からはさらに強い光沢を付与する塗膜形成技術が望まれていた。
【0004】
また、特許文献2には貴金属や銅のコロイド粒子を含む塗料および該塗料を用いた金属薄膜の形成方法が開示されており、この金属薄膜はメッキ調の金属光沢を有することが記載されている。しかしながら、特許文献2に記載の塗料は特殊な用途の要求性能を満たすものであり、一般的な塗料として使用するためには更なる改善が必要であった。すなわち、該塗料は電子部品等の電極や配線用の金属薄膜の形成用の塗料であり、特許文献2には鏡面光沢のような高い意匠性を有する塗膜形成に関する記載はない。
【0005】
一般に、意匠性の高い金属調光沢を有する複層塗膜を形成するためには、光輝材を含有する塗膜が薄く均一な連続塗膜である必要があり、このような塗膜形成に適する塗料の開発が重要である。上記塗料としては、例えば、上記の貴金属等のコロイド粒子を含有する塗料が挙げられるが、このコロイド粒子の含有により、新たな問題が生じることが知られている。すなわち、塗料を塗布することにより貴金属等のコロイド粒子を被塗素材上にナノスケールで均一に並べ、その後の加熱により完全な連続塗膜を形成することは非常に困難であり、塗料塗布後に隣り合うコロイド粒子の間隙が大きい場合は、加熱後の塗膜中においてもコロイド粒子のまま残存する。その結果、コロイド粒子部分でプラズモン発色が生じることになり、所望の色彩が得られず意匠性が低下する。
【0006】
【特許文献1】特開平11−343431号公報
【特許文献2】特開2000−239853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、意匠性に優れた金属調光沢塗膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、顔料である貴金属および/または金属を含むコロイド粒子を含有する光輝材含有ベース塗料を下塗り塗膜上に塗布して複層塗膜を形成する際、特定の下塗り塗膜と組み合わせることにより、上記課題を達成できることを見出した。
すなわち本発明は、被塗素材上に下塗り塗膜、光輝材含有ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次形成する複層塗膜の形成方法において、前記光輝材含有ベース塗膜を形成する光輝材含有ベース塗料が、貴金属および/または金属を含むコロイド粒子、塗膜形成性樹脂を含有し、前記下塗り塗膜が、前記貴金属および/または金属を含むコロイド粒子のプラズモン発色の色相をマンセル100色相環上で0とし、左回りを0〜+50、右回りを0〜−50で表示したとき、+35〜+50若しくは−35〜−50の範囲の色相であり、かつ、マンセル表色系における明度が9以下であること、又は、前記下塗り塗膜が、マンセル表色系における明度が4以下の無彩色であることを特徴とする複層塗膜の形成方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、意匠性に優れ、金属調光沢を有する複層塗膜を形成する方法が提供される。上記複層塗膜中の光輝材含有ベース塗膜は薄く均一な連続塗膜であり、意匠性に優れた金属調光沢を有する。さらに、この光輝材含有ベース塗膜と特定の下塗り塗膜とを組み合わせることで、プラズモン発色に由来する好ましくない色相変化を抑制することができ、優れた意匠性を有する複層塗膜が得られる。なお、「プラズモン発色」とは上記コロイド粒子による表面プラズモンにより特定波長の光が吸収されることにより、その補色が見えることをいう。すなわち、本発明により得られる複層塗膜は、上記コロイド粒子が表面プラズモンにより吸収する色相を下塗り塗膜の色相として有することにより、優れた意匠性を示す。一方、「金属調光沢を有する」とは、例えば上記コロイド粒子として、貴金属を用いた場合にはその貴金属単体が有する本来の貴金属単体の光沢を示すことであり、その他の金属を用いた場合にはその金属単体が有する本来の金属単体の光沢を示すことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の複層塗膜形成方法は、特定の光輝材含有ベース塗料を使用し、被塗素材上に下塗り塗膜、光輝材含有ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次形成する複層塗膜の形成方法である。
【0011】
[光輝材含有ベース塗料]
本発明で使用する光輝材含有ベース塗料は、貴金属および/または金属(以下、貴金属等と表す場合がある。)を含むコロイド粒子である光輝材を顔料として含有し、さらに、塗膜形成性樹脂を含有する。塗装時の光輝材含有ベース塗料中の固形分量は1〜5質量%が好ましく、1.2〜4質量%がより好ましい。1質量%を下回ると連続塗膜が形成され難く、5質量%を上回るとコロイド粒子の微粒子化が困難になる。塗装時の塗料固形分中の貴金属等を含むコロイド粒子の含有濃度(PWC)は80〜98質量%が好ましく、85〜98質量%がより好ましい。80質量%を下回ると、金属調光沢が得られにくく、98質量%を上回ると、塗膜形成に十分な樹脂成分等が得られず、均一な連続塗膜が形成されにくい。貴金属等を含むコロイド粒子を除いた塗料固形分の組成は、目的に合わせて適宜決定できるが、塗膜形成性樹脂の含有量は貴金属等を含むコロイド粒子の固形分量に対して、1〜15質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。1質量%を下回ると均一な連続塗膜が形成され難く、15質量%を上回ると優れた意匠性を有する金属調塗膜が得られにくい。
【0012】
本発明で使用する光輝材含有ベース塗料は、上記のように特殊な配合により得られたものであり、塗装時の塗料中の固形分量はかなり少なく、さらに、その固形分の大部分は顔料である貴金属等のコロイド粒子で占められている。本発明においては、コロイド粒子状の顔料を使用し、塗料中の固形分量を低減化し、さらに、上記の高いPWCを満たすことで、優れた金属調光沢を有する薄膜塗膜が得られる。
【0013】
本発明で使用する光輝材含有ベース塗料中の貴金属および/または金属を含むコロイド粒子は粒子径が約1〜100nmであり、該コロイド粒子は液相法や気相法などの公知の方法により得られる。例えば溶液中、貴金属または金属の化合物を高分子顔料分散剤の存在下で還元して貴金属等のコロイド粒子を得る製造工程、および、上記製造工程で得られた貴金属等のコロイド粒子溶液を限外濾過処理する濃縮工程により本発明で使用するコロイド粒子が得られる。なお、コロイド粒子の粒子径は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定し、体積基準のメジアン径で表示した。
【0014】
本発明で使用する光輝材含有ベース塗料で用いられる貴金属は特に限定されないが、例えば、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等を挙げることができる。なかでも、金、銀、白金、パラジウムが好ましく、高光沢である点から、銀または金が特に好ましい。
【0015】
本発明で使用する光輝材含有ベース塗料で用いられる金属は特に限定されないが、例えば、銅、ニッケル、ビスマス、インジウム、コバルト、亜鉛、タングステン、クロム、鉄、モリブデン、タンタル、マンガン、スズ、チタン等を挙げることができる。
【0016】
本発明で使用する貴金属および/または金属を含むコロイド粒子として、上記貴金属および金属として挙げたものを少なくとも二種複合化(複合金属コロイド)して用いてもよく、あるいは単純に混合(混合コロイド)して用いることもできる。上記複合金属コロイドとしては、コアシェル構造を有する複合金属コロイド粒子が例示される。なお、複合金属コロイドとは、そのコロイド粒子が二種以上の金属で構成されるものであり、混合コロイドとは二種以上のコロイドの混合により得られるものである。
【0017】
貴金属等のコロイド粒子を調製するために使用される上記貴金属等の化合物としては、上記の貴金属等を含むものであれば特に限定されず、例えば、テトラクロロ金(III)酸四水和物(塩化金酸)、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀(IV)、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(塩化白金酸)、塩化白金酸カリウム、塩化銅(II)二水和物、酢酸銅(II)一水和物、硫酸銅(II)、塩化パラジウム(II)二水和物、三塩化ロジウム(III)三水和物等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記コロイド粒子調製法においては、貴金属等の化合物は、限外濾過処理前の溶液において貴金属等のモル濃度が0.01mol/l以上となるように用いられることが好ましい。0.01mol/l未満であると、得られる貴金属等のコロイド粒子溶液の貴金属等のモル濃度が低すぎて、効率的でない。上記観点より0.05mol/l以上であることがより好ましく、0.1mol/l以上であることがさらに好ましい。
【0019】
上記高分子顔料分散剤は、コロイド粒子に対する親和性の高い官能基とともに溶媒和部分も含む両親媒性の高分子量の共重合体であり、通常は顔料ペーストの製造時に顔料分散剤として使用されているものである。
【0020】
上記コロイド粒子調製法においては、高分子顔料分散剤は、貴金属等のコロイド粒子と共存しており、貴金属等のコロイド粒子が溶媒中で分散するのを安定化する働きをしていると考えられる。高分子顔料分散剤の数平均分子量は、1000〜100万であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではないことがあり、100万を超えると粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。上記観点より、数平均分子量は、2000〜50万であることがより好ましく、4000〜50万であることがさらに好ましい。なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による測定値をポリスチレン標準で換算した値である。
【0021】
高分子顔料分散剤としては、上述の性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、特開平11−80647号公報で開示されたものを挙げることができる。また、市販品を使用することもでき、例えば、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32550、ソルスパース35100、ソルスパース37500、ソルスパース41090(以上、ルーブリゾール社製)、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック181、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック2000、ディスパービック2001(以上、ビックケミー社製)、ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453、EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550(以上、エフカアディティブズ社製)、フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンG−700、フローレンTG−720W、フローレン−730W、フローレン−740W、フローレン−745W(以上、共栄社製)、アジスパーPA111、アジスパーPB711、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911(以上、味の素社製)、ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62(以上、ジョンソンポリマー社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
高分子顔料分散剤の使用量は、貴金属等の化合物中の貴金属等と高分子顔料分散剤との合計量に対して30質量%以下であることが好ましい。30質量%を超えると、後の濃縮工程で限外濾過処理を行っても、溶液における固形分中の貴金属等の濃度を所望の濃度に高めることができないおそれがある。上記観点より、高分子顔料分散剤の使用量は貴金属等の化合物中の貴金属等と高分子顔料分散剤との合計量に対して20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
上記コロイド粒子調製法における貴金属等の化合物の還元においては、還元剤としてアミンを用いることが好ましく、例えば、上記貴金属等の化合物と、高分子顔料分散剤との溶液にアミンを添加して撹拌、混合することにより、貴金属イオンまたは金属イオンが常温付近で貴金属または金属に還元される。上記アミンを使用することにより、危険性や有害性の高い還元剤を使用する必要も、加熱や特別な光照射装置を使用することもなしに、5〜100℃程度、好ましくは20〜80℃程度の反応温度で、貴金属等の化合物を還元することができる。
【0024】
上記アミンとしては特に限定されず、例えば、特開平11−80647号公報に例示されているものを使用することができ、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン;ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジン、N,N′−ジメチルピペラジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、モルホリン等の脂環式アミン;アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン等の芳香族アミン;ベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェネチルアミン、キシリレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルキシリレンジアミン等のアラルキルアミン等を挙げることができる。また、上記アミンとして、例えば、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノール、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等のアルカノールアミンも挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、アルカノールアミンが好ましく、ジメチルアミノエタノールがより好ましい。
【0025】
上記アミンの他の還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム等のアルカリ金属水素化ホウ素塩;ヒドラジン化合物;ヒドロキシルアミン;クエン酸;酒石酸;アスコルビン酸;ギ酸;ホルムアルデヒド;亜ニチオン酸塩、スルホキシル酸塩誘導体等が挙げられる。これらの中で入手が容易であることから、クエン酸;酒石酸;アスコルビン酸が好ましい。これらは、単独または上記アミンと組み合わせて使用することが可能であるが、アミンとクエン酸、酒石酸、アスコルビン酸を組み合わせる場合には、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸はそれぞれ塩の形のものを用いることが好ましい。また、クエン酸やスルホキシル酸塩誘導体は、鉄(II)イオンと併用することによって、その還元性の向上を図ることができる。
【0026】
上記還元性化合物の添加量は、上記貴金属等の化合物中の貴金属等の還元に必要な量以上であることが好ましい。この量未満であると、還元が不充分となるおそれがある。また、上限は特に規定されないが、上記貴金属等の化合物中の貴金属等の還元に必要な量の30倍以下であることが好ましく、10倍以下であることがより好ましい。また、これらの還元性化合物の添加により化学的に還元する方法以外に、高圧水銀灯を用いて光照射する方法を使用することも可能である。
【0027】
上記還元性化合物を添加する方法は特に限定されず、例えば、上記高分子顔料分散剤の添加後に行うことができ、この場合においては、例えば、まず溶媒に上記高分子顔料分散剤を溶解させ、さらに、上記還元性化合物または貴金属等の化合物の何れかを溶解させて得られる溶液に、還元性化合物または貴金属等の化合物の残った方を加えることで、還元を進行させることができる。また、上記還元性化合物を添加する方法としては、予め高分子顔料分散剤と上記還元性化合物とを混合しておき、この混合物を貴金属等の化合物の溶液に加える形態をとってもよい。
【0028】
上記の還元処理により得られた貴金属等のコロイド粒子溶液を限外濾過処理することにより、光輝材含有ベース塗料調製用に適した高濃度かつ不純物(雑イオン、塩、アミンおよび高分子顔料分散剤)の少ないコロイド粒子溶液が得られる。上記処理後の溶液の固形分中の貴金属または金属の含有量は、83質量%以上99質量%未満であることが好ましく、90質量%以上98質量%未満であることがより好ましく、93質量%以上98質量%未満であることがさらに好ましい。83質量%未満の溶液を用いて光輝材含有ベース塗料を調製すると、塗膜形成時の加熱条件を穏やかにした場合の光沢性に問題が生じるおそれがある。また、99質量%以上であると、コロイド粒子の分散安定性が損なわれるおそれがある。
【0029】
上記の方法で得られたコロイド粒子溶液に含まれる固形分中の貴金属または金属の含有量は従来よりも多い。このため上記コロイド粒子を含む光輝材含有ベース塗料を使用すれば、通常より塗膜形成時の加熱条件を穏やかにした場合においても、高光沢を有し、かつ、めっき調塗膜より金属粒子感を感じさせない金属感を呈する塗膜を得ることができる。このため、特にプラスチックや紙等の基材のような、耐熱温度が比較的低いものに対して塗布する場合にも、これらの基材上に高光沢を有し、かつ、めっき調塗膜より金属粒子感を感じさせない金属感を呈する塗膜を形成することが可能となる。
【0030】
本発明で使用する光輝材含有ベース塗料中の塗膜形成性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂等が挙げられ、これらの塗膜形成性樹脂は単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。上記塗膜形成性樹脂には、硬化性を有するタイプと、ラッカータイプがあるが、通常、硬化性官能基を有するタイプのものが使用される。硬化性官能基を有するタイプの場合には、アミノ樹脂、(ブロック)ポリイソシアナート化合物、アミン系、ポリアミド系、イミダゾール類、イミダゾリン類、多価カルボン酸等の架橋剤と混合して使用され、加熱または常温で硬化反応を進行させることができる。また、硬化性官能基を有しないラッカータイプの塗膜形成性樹脂と、硬化性官能基を有するタイプとを併用することも可能である。架橋剤は、アミノ樹脂、ブロックポリイソシアネート化合物の少なくとも一種であることが好ましい。架橋剤を使用する場合、塗膜形成性樹脂と架橋剤との割合としては、固形分換算で、塗膜形成性樹脂が99〜50質量%、架橋剤が1〜50質量%であり、好ましくは塗膜形成性樹脂が99〜70質量%であり、架橋剤が1〜30質量%である。架橋剤が1質量%未満では(塗膜形成性樹脂が99質量%を超えると)、塗膜中の架橋が充分ではない。一方、架橋剤が50質量%を超えると(塗膜形成性樹脂が50質量%未満では)、塗料の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなる。
【0031】
上記アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体が挙げられる。上記共重合体に使用し得るアクリル系モノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル等のエステル化物類、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびN−メチロールアクリルアミド、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類等、アクリル酸、メタクリル酸、および後述するリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらと共重合可能な上記他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0032】
上記ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂が挙げられ、例えば、多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等の飽和多塩基酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等の不飽和多塩基酸が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の三価アルコールが挙げられる。
【0033】
上記アルキド樹脂としては、上記多塩基酸と多価アルコールに、さらに油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(ロジン、コハク等)等の変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂を用いることができる。
【0034】
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂等が挙げられる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFが挙げられる。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(いずれも商品名、シェルケミカル社製)が挙げられ、また適当な鎖延長剤を用いてこれらを鎖延長したものを用いることもできる。
【0035】
上記ポリウレタン樹脂としては、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等の各種ポリオール成分とポリイソシアネート化合物との反応によって得られるウレタン結合を有する樹脂が挙げられる。上記ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、およびその混合物(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(4,4’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート(2,4’−MDI)、およびその混合物(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロへキシルメタン・ジイソシアネート(水素化HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)等が挙げられる。
【0036】
上記ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体または共重合体であり、ポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、もしくはポリオキシブチレン系ポリエーテル、またはビスフェノールAもしくはビスフェノールFなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテル等の、1分子当たりに少なくとも2個の水酸基を有するポリエーテル樹脂が挙げられる。また上記ポリエーテル樹脂と、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の多価カルボン酸類、またはこれらの酸無水物等の反応性誘導体とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエーテル樹脂が挙げられる。
【0037】
好ましい塗膜形成性樹脂としては、アクリル樹脂またはポリエステル樹脂が挙げられ、特にアクリル樹脂が好ましく、さらにはリン酸基を含有するアクリル樹脂(以下、リン酸基含有アクリル樹脂と表す。)が好ましい。リン酸基含有アクリル樹脂の固形分の含有率は、塗膜形成性樹脂中の固形分に対して、30〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることがより好ましい。リン酸基含有アクリル樹脂の固形分の含有率が30質量%未満では耐水性や密着性に影響を及ぼすおそれがある。
【0038】
リン酸基含有アクリル樹脂としては、下記の一般式(I)で表されるモノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られるアクリル樹脂が用いられる。
【0039】
【化1】

【0040】
(式中、Xは水素原子またはメチル基、Yは炭素数2〜4のアルキレン基、nは3〜30の整数を表す。)
上記一般式(I)で表されるモノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸にアルキレンオキサイドを付加させポリアルキレングリコールモノエステルとし、次いでオキシ塩化リンと反応させ、リン酸をモノエステル化し、その後、生成物を加水分解することにより合成することができる。なお、オキシ塩化リンの代わりに、正リン酸、メタリン酸、無水リン酸、3塩化リン、5塩化リン等を用いた場合でも、常法により合成することができる。
【0041】
上記付加反応において、アルキレンオキサイドの使用量は、本質的には一般式(I)中のnに応じて化学量論量のnモルでよいが、例えば、(メタ)アクリル酸1モルに対し、通常3〜30モルであるが、好ましくは4〜15モル、特に好ましくは5〜10モルである。アルキレンオキサイドは、炭素数2〜4のものである。具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、及びブチレンオキサイド等が挙げられる。触媒は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、溶媒としては、n−メチルピロリドン等が挙げられる。反応温度は、40〜200℃、反応時間は、0.5〜5時間で行うことができる。
【0042】
上記付加反応の後、オキシ塩化リンのモノエステル化を行う。エステル化は常法でよく、例えば、0〜100℃、0.5〜5時間で行うことができる。オキシ塩化リンの使用量は、化学量論量でよいが、例えば、上記の付加生成物1モルに対し1〜3モルである。
【0043】
その後、常法により加水分解して一般式(I)で表されるモノマー(i)を得る。上記モノマー(i)の具体例としては、例えば、アシッドホスホオキシヘキサ(もしくはドデカ)(オキシプロピレン)モノメタクリレート等が挙げられる。
【0044】
上記モノマー(i)と他のエチレン性不飽和モノマー(ii)とを通常の方法で共重合することによりリン酸基含有アクリル樹脂が得られる。他のエチレン性不飽和モノマー(ii)としては、上記アクリル樹脂の合成で例示したアクリル系モノマーおよび他のエチレン性不飽和モノマーが挙げられる。共重合の方法としては、例えば、各モノマー混合物を公知の重合開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル等)と混合し、重合可能な温度に加熱した溶剤(例えば、プロピレングリコールモノエチルエーテル等)を含む反応容器中へ滴下、熟成する方法が挙げられる。重合条件は適宜選択されるが、例えば、重合温度は80〜150℃、重合時間は1〜8時間である。
【0045】
上記重合反応組成において、モノマー(i)100質量部に対し、モノマー(ii)は200〜5000質量部が好ましい。モノマー(ii)の配合量が200質量部未満だと耐水性が悪く、また5000質量部を超過するとリン酸基の効果が表れない場合がある。
【0046】
上記リン酸基含有アクリル樹脂は、リン酸基からなる酸価が70〜150mgKOH/g、その他の酸価を含めた合計酸価が70〜200mgKOH/g、水酸基価が50〜220mgKOH/g、数平均分子量が2000〜8000であることが好ましい。
【0047】
上記リン酸基含有アクリル樹脂のリン酸基からなる酸価が70mgKOH/g未満であると、光輝材含有ベース塗膜の膜切れが生じる場合があり、さらに耐水性が悪くなる。また、150mgKOH/gを超えると、光輝材含有ベース塗料の貯蔵安定性が悪くなる場合がある。上記観点からさらに好ましくは、リン酸基からなる酸価が75〜120mgKOH/gである。
【0048】
上記リン酸基含有アクリル樹脂のその他の酸価を含めた合計酸価が70mgKOH/g未満であると、光輝材含有ベース塗膜の膜切れが生じる場合があり、さらに耐水性が悪くなる。また、200mgKOH/gを超えると、光輝材含有ベース塗料の貯蔵安定性が悪くなる場合がある。上記観点からさらに好ましくは、酸価が75〜150mgKOH/gである。
【0049】
上記リン酸基含有アクリル樹脂の水酸基価が50mgKOH/g未満であると、耐水性が悪くなり、220mgKOH/gを超えると、耐水試験時のブリスターが悪くなる。上記観点からさらに好ましくは、水酸基価が70〜180mgKOH/gである。
【0050】
上記リン酸基含有アクリル樹脂の数平均分子量が2000未満であると、光輝材含有ベース塗膜の膜切れが生じる場合があり、また硬化性が低下する。8000を超えると、塗膜外観が悪化する場合があり、また粘度が高くなり取り扱いが困難になる。上記観点からさらに好ましくは、数平均分子量が3000〜6000である。
【0051】
光輝材含有ベース塗料中に上記リン酸基含有アクリル樹脂は、塗料固形分100質量部に対し、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜15質量部、さらに好ましくは0.2〜13質量部含有される。リン酸基含有アクリル樹脂の含有量が少ないと、光輝材含有ベース塗膜の膜切れが生じる場合がある。またリン酸基含有アクリル樹脂の含有量が多すぎると、塗膜の外観が悪くなる傾向にある。
【0052】
上記光輝材含有ベース塗料は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、上記成分の他に脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機構分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜含有することができる。
【0053】
上記光輝材含有ベース塗料は、溶剤型、水性、粉体型等の種々の形態をとることができる。これらの中から、薄く均一な塗膜の形成に優れている点で、溶剤型塗料が好ましく、好ましい溶剤として、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、酢酸プロピル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メトキシブタノール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。また、溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料としてもよいし、二液型塗料としてもよい。
【0054】
本発明の塗膜形成方法は、被塗素材上に下塗り塗膜、光輝材含有ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次形成する複層塗膜の形成方法であり、光輝材含有ベース塗膜の形成に上述の光輝材含有ベース塗料を使用するものである。なお、複層塗膜の各塗膜層の形成において、ウエットオンウエット法を採用してもよいし、ウエットオンドライ法を採用してもよい。上記のように、本発明で使用する光輝材含有ベース塗料は貴金属等を含むコロイド粒子を含有するが、該塗料を下塗り塗膜上に塗布した際、ナノレベルにおける不均一な部分が原因でプラズモン発色が生じる。すなわち、塗料塗布後に隣り合うコロイド粒子の間隙が大きい場合は、加熱後の塗膜中においてもコロイド粒子のまま残存し、このコロイド粒子部分でプラズモン発色が生じる。本発明においては、特定の下塗り塗膜を使用することでプラズモン発色に由来する好ましくない色相変化を抑制することができ、コロイド粒子に含まれる貴金属等が本来有する色相および光沢を示し、優れた意匠性を有する複層塗膜が得られる。
【0055】
[被塗素材]
本発明においては、被塗素材は特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、銅またはこれらの合金等の金属類;ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂類や各種のFRP等のプラスチック材料;木材、紙や布等の繊維材料等の天然または合成材料等が挙げられる。好ましい被塗素材としては、鉄、アルミニウム、銅またはこれらの合金等の金属類が挙げられ、本発明は自動車車体、アルミホイール等の自動車部品の塗装において好ましく適用できる。
【0056】
[下塗り塗膜]
本発明においては、上記被塗素材上に下塗り塗膜を形成する。下塗り塗膜は本発明において重要であり、光輝材含有ベース塗膜と下塗り塗膜とを適切に組み合わせて使用することで、光輝材含有ベース塗膜中の貴金属等を含むコロイド粒子のプラズモン発色による複層塗膜の色相変化を抑制することができ、また、複層塗膜の光沢感を高めることができる。
【0057】
上記の理由により、本発明においては、光輝剤含有ベース塗料に含まれる貴金属等を含むコロイド粒子のプラズモン発色の色相の補色若しくは該補色に近い色相で、かつ、マンセル表示における明度が9以下の下塗り塗膜、または、マンセル表色系における明度が4以下の無彩色である下塗り塗膜が使用される。上記補色又は該補色に近い色相はマンセル表色系で表すことができ、前記光輝材含有ベース塗料に含まれる貴金属等を含むコロイド粒子のプラズモン発色の色相をマンセル100色相環上で0とし、左回りを0〜+50、右回りを0〜−50で表示したとき、前記下塗り塗膜は、+35〜+50若しくは−35〜−50の範囲の色相である。
【0058】
下塗り塗膜の色として、プラズモン発色の補色または該補色の両隣の色相であって、明度が9以下のものを使用することで、そのプラズモン発色による複層塗膜の色相変化を抑制することができ、また明度が4以下の無彩色を使用することで、プラズモン発色による色相変化を抑制するとともに、優れた光沢感が得られる。なお、プラズモン発色とは、金属の微細粒子による表面プラズモンにより、特定波長の光が吸収されることにより、その補色が見えることをいう。
【0059】
上記の貴金属等を含むコロイド粒子のプラズモン発色の具体例としては、銀コロイドの黄色、金コロイドの赤色が挙げられる。したがって、下塗り塗膜の色相としては、通常、銀コロイドでは青紫系(PB)、金コロイドでは青緑系(BG)が好ましく使用される。また、明度が4以下の無彩色、すなわち黒に近い無彩色はコロイドの種類を問わず使用することができる。
【0060】
複層塗膜の意匠性の観点からは、好ましい下塗り塗膜は、+35〜+50又は−35〜−50の範囲の色相であり、かつ、明度が9以下のものである。
【0061】
本発明は上記のように下塗り塗膜の色を選択することで、コロイド粒子のプラズモン発色による色相変化を抑制するとともに、複層塗膜の光沢感を高め、意匠性を向上させたものである。この下塗り塗膜の特性を利用する複層塗膜の意匠性の向上効果に関しては、上記の貴金属等を含むコロイド粒子を含有する光輝材含有ベース塗料を使用して形成された、非常に薄い光輝剤含有ベース塗膜と組み合わせて使用することで好ましい効果が得られる。すなわち、金属の微細粒子が表面プラズモンにより吸収する色相を下塗り塗膜の色相として用いることで本発明の効果が得られる。
【0062】
上記の色相および明度に関する条件を満たす限り、下塗り塗膜に制限はなく、その形成方法や下塗り塗料として公知の技術を使用することができる。例えば、溶液型(有機溶剤または水性)塗料を噴霧塗装もしくは電着塗装することにより、または、粉体塗料を噴霧塗装することにより下塗り塗膜が形成される。
一方、被塗基材が自動車車体および部品である場合は、更に予め上記基材に脱脂処理や化成処理、電着塗膜からなる下地塗膜を形成しておくことが好ましい。また、自動車部品として鋳造または鍛造のアルミニウムホイールの場合には、クリヤー粉体塗料等による下地塗膜を形成しておくことが好ましい。
本発明で用いる下塗り塗膜の乾燥膜厚は、所望の用途により変化するが、その塗膜の乾燥膜厚は、5〜100μmに設定することができ、好ましくは7〜80μmである。下塗り塗膜の膜厚が100μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗膜にムラまたは流れが生じることがある。また、5μm未満では、下地隠蔽性が不充分となり、膜切れが生じることがある。
【0063】
[光輝材含有ベース塗膜]
本発明においては、上記の光輝材含有ベース塗料を下塗り塗膜上に塗布し、加熱することで光輝材含有ベース塗膜を形成する。上記光輝材含有ベース塗料の塗布方法は特に限定されず、例えば、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、シルクスクリーン、インクジェット等の塗装機具を用いたり、浸漬させたりすることができるほか、電気泳動によっても行うことが可能である。上記塗布方法の中では、薄く均一な塗膜形成に優れることから、スプレー塗装が好ましい。また、上記加熱の方法は特に限定されず、例えば、ガス炉、電気炉、IR炉などを、加熱炉として使用することができる。
【0064】
光輝材含有ベース塗料の塗布量は、貴金属等のコロイド粒子の濃度、塗布方法等により、変化させることができ、用途に合わせて任意に設定することができる。光輝材含有ベース塗膜の乾燥膜厚は特に限定されないが、通常0.01〜1μm、好ましくは0.02〜0.3μmである。
【0065】
[クリヤー塗膜]
本発明においては、上記の光輝材含有ベース塗膜上にクリヤー塗膜を形成する。クリヤー塗膜は光輝材含有ベース塗膜の保護のために少なくとも一層は必要である。クリヤー塗膜形成に用いるクリヤー塗料としては特に限定されず、例えば、無色クリヤー塗料、艶消しクリヤー塗料、トップカラークリヤー塗料等が使用でき、目的に応じて適宜選択でき、またこれらのクリヤー塗料を組み合わせて用い、二層以上のクリヤー塗膜を形成してもよい。
【0066】
上記無色クリヤー塗料としては、上塗り用として一般に使用されている無色のクリヤー塗料を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂およびこれらの変性樹脂から選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、架橋剤とを混合したものを用いることができる。溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型樹脂を用いてもよい。
【0067】
上記無色クリヤー塗料は、必要に応じて、その透明性を損なわない範囲で改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を配合することが可能である。
【0068】
上記無色クリヤー塗膜の乾燥膜厚は、10〜80μmであることが好ましく、この範囲を外れると塗膜外観が不充分となるおそれがある。20〜50μmであることがより好ましい。
【0069】
上記艶消しクリヤー塗料は、ビヒクルおよび艶消し剤を含むものである。ビヒクルは、上塗り用として一般に使用されているものを用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂およびこれらの変性樹脂から選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂と、架橋剤とを混合したものを用いることができる。
【0070】
上記艶消しクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、10〜50μmであることが好ましい。10μm未満では、深みのある艶消し感を発現し難く、50μmを超えると塗膜外観不良を生じるおそれがある。20〜40μmであることがより好ましい。
【0071】
上記艶消しクリヤー塗料に用いる艶消し剤としては、各種の艶消し剤を用いることができるが、樹脂微粒子および無機微粒子の少なくとも一種であることが好ましい。上記樹脂微粒子としては、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。樹脂微粒子の平均粒径は、10〜25μmであることが好ましい。10μm未満であると、深みのある艶消し感の発現が不充分になり、触感が滑らかになり過ぎる。また25μmを超えると、艶消しクリヤー塗膜の表面凹凸が荒くなり、ざらつきの大きな触感を与える。
【0072】
上記無機微粒子としては、シリカ微粉末、クレー、タルク、雲母等が挙げられる。無機微粒子の平均粒径は1〜5μmであることが好ましい。1μm未満であると、深みのある艶消し感の発現が不充分になり、触感が滑らかになり過ぎる。また5μmを超えると、艶消しクリヤー塗膜の表面凹凸が荒くなり、触感もざらつきが大きくなる。上記樹脂微粒子、無機微粒子は併用してもよい。そのときの質量配合比は、樹脂微粒子1に対して無機粒子0.001〜100であることが好ましく、0.1〜10であることがより好ましい。
【0073】
上記艶消しクリヤー塗料には、数種類の樹脂微粒子や無機微粒子を併用することも、意匠性の上で効果的である。上記艶消し剤の含有量は、塗料固形分に対して10〜60固形分質量%であることが好ましい。10固形分質量%未満であると、深みのある艶消し感の発現が得られないおそれがあり、また60固形分質量%を超えると、塗膜の強度が不充分となるおそれがある。25〜50固形分質量%であることがより好ましい。
【0074】
また、上記艶消しクリヤー塗料に対して、必要に応じ、上記の着色顔料、体質顔料、改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を配合することが可能である。
【0075】
また、上記艶消しクリヤー塗料は、有機溶剤型、水性または粉体型いずれの形態であってもよい。有機溶剤型および水性塗料としては、一液型であってもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型であってもよい。このように艶消しクリヤー塗料を用いて形成した艶消しクリヤー塗膜を、120〜160℃で所定時間焼き付けることにより、塗膜を得ることができる。
【0076】
上記カラークリヤー塗料は、ビヒクルおよび着色顔料を含むものである。ビヒクルは、上塗り用として一般に使用されているものを用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂およびこれらの変性樹脂から選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂と架橋剤とを混合したものを用いることができる。また、カラークリヤー塗膜は、溶剤型、水性、または粉体型等の種々の形態をとることができる。溶液型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型樹脂を用いてもよい。
【0077】
上記カラークリヤー塗料で用いる着色顔料のうち、有機系としてはアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられ、無機系としては黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等が挙げられる。また、タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカ等の各種体質顔料等を併用してもよい。
【0078】
これらのカラークリヤー塗料は、必要に応じて、その透明性を損なわない範囲で改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を配合することが可能である。
【0079】
上記カラークリヤー塗膜の乾燥膜厚は、10〜80μmが好ましく、この範囲を外れると塗膜外観が不充分となるおそれがある。より好ましくは20〜50μmである。本発明の光輝性塗膜形成方法において、上記光輝性ベース塗膜に対して、上記カラークリヤー塗膜を少なくとも1層形成することにより、カラークリヤー塗膜を透過した光線が光輝性ベース塗膜で反射され、この反射された光線により光輝感の増幅がなされた着色性高金属感を呈する光輝性塗膜を得ることができる。
【0080】
二層以上のクリヤー塗膜を形成する例としては、光輝性ベース塗膜上に、カラークリヤー塗膜を形成し、さらに透明クリヤー塗膜を形成する方法、光輝性ベース塗膜上に、透明クリヤー塗膜を形成し、さらにカラークリヤー塗膜を形成する方法が挙げられ、目的により適宜選択できる。
【実施例】
【0081】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0082】
製造例1(銀コロイド溶液の調製)
2リットルのコルベンに、高分子顔料分散剤として「ディスパービック190」(ビックケミー社製)を12g、および、イオン交換水420.5gを入れた。このコルベンをウォーターバスに入れ、「ディスパービック190」が溶解するまで、50℃で撹拌した。ここに、イオン交換水420.5gに溶解させた硝酸銀100gを撹拌しながら加えて、70℃で10分間撹拌した。次に、ジメチルアミノエタノール262gを加えたところ、液が一瞬で黒変し、液温が76℃まで上昇した。そのまま放置して液温が70℃まで下がったところで、この温度を保ちながら2時間撹拌を続け、黒っぽい黄色を呈する銀コロイドの水溶液が得られた。得られた反応液を1リットルのポリ瓶に移し換え、60℃の恒温室で18時間静置した。次に、限外濾過モジュール「AHP1010」(分画分子量50000、使用膜本数400本、旭化成社製)、マグネットポンプ、下部にチューブ接続口のある3リットルのステンレスカップをシリコンチューブでつないで、限外濾過装置とした。先の60℃の恒温室で18時間静置した反応液をステンレスカップに入れて、さらに2リットルのイオン交換水を加えてから、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。約40分後にモジュールからの濾液が2リットルになった時点で、ステンレスカップに2リットルのエタノールを加えた。その後、濾液の伝導度が300μS/cm以下になったことを確認し、母液の量が500mlになるまで濃縮を行った。続いて、母液を入れた500mlステンレスカップ、限外濾過モジュール「AHP0013」(分画分子量50000、使用膜本数100本、旭化成社製)、チューブポンプ、および、アスピレーターからなる限外濾過装置を組んだ。このステンレスカップに先に得られた母液を入れ、固形分濃度を高めるための濃縮を行った。母液が約100mlになった時点でポンプを停止して、濃縮を終了すると、固形分30%の銀コロイドのエタノール溶液が得られた。この溶液中の銀コロイド粒子の粒子径は、27nmであった。また、「TG−DTA」(セイコーインストゥルメント製)を用いて、固形分中の銀の含有率を計測したところ、仕込みの93質量%に対して、96質量%であった。
【0083】
製造例2(金コロイド溶液の調製)
硝酸銀の代わりに塩化金酸を使用した他は製造例1に記載の方法にしたがって固形分20質量%の金コロイドのエタノール溶液が得られた。この溶液中の金コロイド粒子の粒子径は、18nmであった。「TG−DTA」測定の結果、固形分中の金の含有率は、仕込みの70質量%に対して、90質量%であった。
【0084】
製造例3(塗膜形成性樹脂の合成)
〔リン酸基含有アクリル樹脂の合成〕
撹拌機、温度調整器、冷却管を備えたコルベンにプロピレングリコールモノエチルエーテル40質量部を仕込み、これにスチレン8.86質量部、エチルヘキシルアクリレート8.27質量部、ラウリルメタクリレート15.00質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート34.80質量部、メタクリル酸3.07質量部、アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート(城北化学社製JAMP−100N)30.00質量部の混合モノマー液100質量部、およびターシャリブチルパーオクトエート(カヤエステルO)3.0質量部、プロピレングリコールモノエチルエーテル40質量部の開始剤溶液43質量部を115℃で3時間で滴下した後、30分撹拌を継続し、その後ターシャリブチルパーオクトエート(カヤエステルO)0.3質量部、プロピレングリコールモノエチルエーテル20質量部の開始剤溶液20.3質量部を1時間で滴下した後、さらに、1.5時間撹拌を継続した。得られたものは酸価106mgKOH/g、リン酸基からの酸価86mgKOH/mg、水酸基価150、数平均分子量3800のリン酸基含有アクリル樹脂Aで、不揮発分が49質量%であった。
【0085】
製造例4(光輝材含有ベース塗料の合成)
製造例1で得られたコロイド溶液を固形分換算で1.5質量部となるように(5質量部)、製造例3で得られた塗膜形成性樹脂を固形分換算で0.15質量部となるように(0.31質量部)配合した。次いで、有機溶剤(酢酸ブチル/プロピレングリコールモノメチルエーテル/ブチルセロソルブの質量比=5/4/1)47質量部とともに、塗装適正粘度(13秒/#4フォードカップ・20℃)になるように希釈し、光輝材含有ベース塗料を得た。得られた光輝材含有ベース塗料の塗装時の固形分は、2質量%であった。
【0086】
(銀コロイドのプラズモン発色測定用塗膜の調製および測定方法)
日本ペイント社製クリヤー塗料「MAC O−1810クリヤー」(商品名/固形分45質量%)100質量部に対して、製造例1の銀コロイド溶液1.56質量部(クリヤー塗料の樹脂固形分に対して金属含有率1質量%となるように)添加し、黄色のクリヤー塗料を調製した。これをガラス板にドクターブレード(12ミル)で塗布し、140℃×20分焼付けして、銀コロイドのプラズモン発色測定用の塗膜を得た。これを色彩色差計(ミノルタ製CR−200)で測定し、得られた数値(L*a*b*)をマンセル表色系に換算して、プラズモン発色の色相(3.8Y)を得た。
【0087】
(金コロイドのプラズモン発色測定用塗膜の調製および測定方法)
日本ペイント社製クリヤー塗料「MAC O−1810クリヤー」(商品名/固形分45質量%)100質量部に対して、製造例2の金コロイド溶液2.5質量部(クリヤー塗料の樹脂固形分に対して金属含有率1質量%となるように)添加し、赤色のクリヤー塗料を調製した。これをガラス板にドクターブレード(12ミル)で塗布し、140℃×20分焼付けして、金コロイドのプラズモン発色測定用の塗膜を得た。これを色彩色差計(ミノルタ製CR−200)で測定し、得られた数値(L*a*b*)をマンセル表色系に換算して、プラズモン発色の色相(2.4R)を得た。
【0088】
実施例1〜8、比較例1〜5(複層塗膜の形成)
予めジルコン被膜処理した厚さ10mm、縦10cm×横15cmのJIS AC4C材のアルミダイキャスト板の表面に切削加工を施し、光輝面を有する基材表面に、日本ペイント社製アクリル樹脂系エポキシ粉体塗料「ビリューシャHB2000クリヤー」を、乾燥膜厚が100μmになるように静電塗装したのち、160℃で30分間焼き付け、下地塗膜を形成した。
次に、得られた下地塗膜の上に、各種色相を有する下塗り塗料を乾燥膜厚が30μmになるようにスプレー塗装し、5分間セッティングした後、140℃で30分間焼き付けし、下塗り塗膜を形成した。
次に、得られた下塗り塗膜の上に、光輝材含有ベース塗膜として、先の製造例4の光輝材含有ベース塗料を用いて、乾燥膜厚が0.1μmになるようにスプレー塗装し、10分間セッティングした後、140℃で30分間焼き付けし、光輝材含有ベース塗膜を形成した。
更に、クリヤー塗膜として、日本ペイント社製アクリル・メラミン系溶剤型塗料「スーパーラック5000AW10クリヤー」を乾燥膜厚が30μmになるようにスプレー塗装し、10分間セッティングした後、140℃で30分間焼き付けし、クリヤー塗膜を形成し、複層塗膜を得た。
【0089】
上記の方法で得られたプラズモン発色測定用塗膜(光輝材含有ベース塗膜)、下塗り塗膜および複層塗膜について以下の測定を行った。
【0090】
(色相)
色彩色差計(ミノルタ性CR−200)を使用した。プラズモン発色測定用塗膜および下塗り塗膜の色相はL*a*b*を測定し、マンセル値へ変換した。一方、複層塗膜の色相はそのまま、a値およびb値を測定した。
【0091】
(光沢)
ハンディー光沢計(日本電子工業社製PG−1M)を使用し、複層塗膜の60°グロスを測定した。
(目視)
複層塗膜の意匠性を目視により評価した。貴金属が有する銀色または金色を5点として、複層塗膜の色相および光沢の観点で評価した。
【0092】
プラズモン発色測定用塗膜(光輝材含有ベース塗膜)および下塗り塗膜についての測定結果を第1表に示す。また、複層塗膜についての測定結果を第2表に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
実施例1〜8の複層塗膜は、その60°グロスは金コロイドを使用したもので200以上、銀コロイドを使用したもので400以上であり、優れた光沢を示す。また色相変化による意匠性の低下が起きることもない。これに対して、比較例1〜5においては色相変化または光沢の低下が見られ意匠性が低下する。
一般に鱗片状の光輝材を含有するメタリック塗料によって発現できる光沢値は150以下であり、鏡では200程度である。一方、金属メッキ表面では400以上である。
したがって、本願発明によれば、従来無かった塗装技術が提供され、貴金属単体が本来有する光沢を示す外観を塗装により得ることが可能になる。さらに本願発明により得られる複層塗膜の金属調光沢は、金属メッキ表面に匹敵するものでありながら、本願発明の複層塗膜形成方法は金属メッキ処理とは異なり重金属を含む排水処理を必要とせず、環境負荷が極めて小さいものである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明によれば、意匠性に優れ、金属調光沢を有する複層塗膜を形成する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗素材上に下塗り塗膜、光輝材含有ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次形成する複層塗膜の形成方法において、
前記光輝材含有ベース塗膜を形成する光輝材含有ベース塗料が、貴金属および/または金属を含むコロイド粒子、塗膜形成性樹脂を含有し、
前記下塗り塗膜が、前記貴金属および/または金属を含むコロイド粒子のプラズモン発色の色相をマンセル100色相環上で0とし、左回りを0〜+50、右回りを0〜−50で表示したとき、+35〜+50若しくは−35〜−50の範囲の色相であり、かつ、マンセル表色系における明度が9以下であること、又は、前記下塗り塗膜が、マンセル表色系における明度が4以下の無彩色であることを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
固形分換算で、前記塗膜形成性樹脂の30〜100質量%が、リン酸基からなる酸価が70〜150mgKOH/g、その他の酸価を含めた合計酸価が70〜200mgKOH/g、水酸基価が50〜220mgKOH/g、数平均分子量が2000〜8000であるリン酸基含有アクリル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複層塗膜の形成方法により得られた複層塗膜。

【公開番号】特開2009−28692(P2009−28692A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197866(P2007−197866)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】