説明

塗膜形成方法

【課題】
各種工業製品、特に自動二輪車の車体や燃料タンクに適用できる高明度且つ高彩度であって、ハイライト(正反射光近傍)〜シェード(斜め方向)に光輝感及び色調が緩やかに変化するシルキーな質感を有する塗膜を形成可能な塗膜形成方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、基材上にL*a*b*表色系におけるL*値が70以上のカラーベース塗膜、鱗片状光輝性顔料を含むメタリックベース塗膜及び透明性着色顔料を含むカラークリヤー塗膜を順次形成する複層塗膜形成方法及び該鱗片状光輝性顔料が、半透明な鱗片状基材に金属酸化物を被覆したものである複層塗膜形成方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高明度且つ高彩度であって、ハイライト(正反射光近傍)〜シェード(斜め方向)に光輝感及び色調が緩やかに変化するシルキーな質感を有する塗膜を形成可能な複層塗膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の工業製品の中でも、小型で曲面の占める面積が大きい自動二輪車においては、高彩度の塗色が適用される場合が多い。特に中明度から高明度の領域において高彩度の塗色は、誘目性に優れたものとして要求が高い。
【0003】
高彩度の塗色を得るための手法として、高彩度のソリッドカラーベース塗膜(観察角度によって色が変化しない)上に同系色のカラークリヤー塗料を塗装する方法が知られている。この方法によれば、高彩度の塗色が得られるが、観察角度によって色の見え方に変化がないので、のっぺりとした印象となってしまう問題点があった。
【0004】
高彩度であって、観察角度によって光輝感が変化する塗色を得るための手法としては、彩度が高いカラーベース塗膜上に、鱗片状光輝性顔料を含み、カラーベース塗膜を隠ぺいしないメタリック塗膜を形成し、その上にさらにカラーベース塗膜と同系色のカラークリヤー塗料を形成する方法が知られている。この方法によれば、光輝感があり、高彩度で透明感に優れた塗色が得られるが、ハイライト(正反射光近傍)からシェード(斜め)への光輝感の変化が急であり、奇抜な印象となってしまう問題点があった。
【0005】
特許文献1は、濁りのない光輝感に優れたメタリック調仕上げが可能であるメタリック積層塗膜構造に関する出願であって、光輝性顔料を含むメタリックベース塗膜上に、カラークリヤー塗料による塗膜が積層された塗膜構造が開示されている。、特許文献1に開示された積層塗膜は、ハイライトでは高彩度であるが、シェードで彩度が低下する問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−270769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高明度且つ高彩度であって、ハイライト(正反射光近傍)〜シェード(斜め方向)に光輝感及び色調が緩やかに変化するシルキーな質感を有する塗膜を形成可能な塗膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
1.基材上にL*a*b*表色系におけるL*値が70以上のカラーベース塗膜、鱗片状光輝性顔料を含むメタリックベース塗膜及び透明性着色顔料を含むカラークリヤー塗膜を順次形成する複層塗膜形成方法、
2.鱗片状光輝性顔料が、半透明な鱗片状基材に金属酸化物を被覆したものであることを特徴とする1項に記載の複層塗膜形成方法、
3.鱗片状光輝性顔料が、半透明な鱗片状基材に金属酸化物を被覆したシルバータイプ又は着色タイプの光輝性顔料であることを特徴とする1項又は2項に記載の複層塗膜形成方法、
4.カラークリヤー塗膜がさらに鱗片状光輝性顔料を含む1〜3項のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法、
5.複層塗膜のL*c*h表色系における色相角度hが、0°〜120°又は320°〜0°の範囲内であることを特徴とする1〜4項のいずれか1項に記載の塗膜形成方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高明度且つ高彩度であって、ハイライト(正反射光近傍)〜シェード(斜め方向)に光輝感及び色調が緩やかに変化するシルキーな質感を有する塗膜を形成可能な塗膜形成方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の塗膜形成方法において、基材としては、鉄、亜鉛、アルミニウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物等を挙げることができる。これら素材に応じて適宜、脱脂処理や表面処理して基材とすることができる。さらに、上記基材に下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させて基材とすることもでき、これらのものが特に好ましい。
【0011】
上記下塗り塗膜とは、素材表面を隠蔽したり、素材に防食性及び防錆性などを付与するために形成されるものであり、下塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。この下塗り塗料種としては特に限定されるものではなく、例えば、電着塗料、溶剤型プライマー等を挙げることができる。
【0012】
また、上記中塗り塗膜とは、下塗り塗膜を隠蔽したり、付着性や耐チッピング性などを付与するために形成されるものであり、乾燥硬化した下塗り塗膜又は未硬化の下塗り塗膜上に、中塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。中塗り塗料種は、特に限定されるものではなく、既知のものを使用でき、例えば、熱硬化性樹脂組成物及び着色顔料を必須成分とする有機溶剤系又は水系の中塗り塗料を好ましく使用できる。
【0013】
また、基材として、下塗り塗膜あるいは中塗り塗膜を形成させる場合においては、下塗り塗膜あるいは中塗り塗膜を加熱し、架橋硬化後に後述するカラーベース塗膜を形成せしめることができる。あるいは、下塗り塗膜及び/又は中塗り塗膜が未硬化の状態にカラーベース塗膜を形成せしめることもできる。
【0014】
本発明の複層塗膜形成方法においては、上記の如き基材上に、L*a*b*における明度L*が70以上のカラーベース塗膜(A)を形成する。L*a*b*表色系とは、1976年に国際照明委員会で規定され、JIS Z 8729にも採用されている表色系であり、L*は明度を表わす数値である。本明細書において、カラーベース塗膜の(A)のL*a*b*における明度L*は、乾燥硬化したカラーベース塗膜(A)をMA−68II(商品名、多角度分光光度計、x−rite社製)を使用して、塗膜に対して45度から照射した光を正反射光から45度の角度で受光したときの分光反射率から計算して得られた数値とする。
【0015】
明度L*が70以上のカラーベース塗膜を形成させるには、基材上に酸化チタン顔料を含むカラーベース塗料を塗装し、硬化せしめることによって形成することができる。
【0016】
酸化チタン顔料は、屈折率が高いことから白色顔料として広く使用されているものであり、結晶形によってルチル型とアナターゼ型があり、本発明においてはいずれを使用しても良いが、耐候性の点からルチル型を使用することができる好ましい。また、分散性や耐候性を向上させることを目的として、表面をシリカ、ジルコニウム、アルミニウム等の無機化合物で処理したものを使用しても良い。カラーベース塗膜の隠蔽力の点から、一次粒子径が100〜400nmの範囲内のものを使用することが好ましく、さらに好ましくは、200〜300nmの範囲内のものである。
【0017】
カラーベース塗料への酸化チタン顔料の含有量は、隠蔽性や仕上がり性の点から、後述するビヒクル形成成分である樹脂固形分100質量部に対して、30〜150質量部が好ましく、特に好ましくは、50〜90質量部である。
【0018】
カラーベース塗料には、酸化チタン顔料の他にも、複層塗膜の色相や明度を微調整することを目的として、着色顔料を配合することができる。着色顔料としては、特に制限されるものではないが、具体的には、酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料やカーボンブラック顔料等の中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができるが、本発明方法で得られる複層塗膜の彩度を考慮して、明度を調整するカーボンブラック顔料に加えてさらにジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料等の高彩度に発色して濁らない有彩色の顔料から選択して使用することが好ましい。
【0019】
本発明において、カラーベース塗料に酸化チタン顔料以外の着色顔料を配合せしめる場合、その含有量は、複層塗膜の明度の点から、樹脂固形分100質量部に対し合計で0.01〜15質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10質量部の範囲内、特に好ましくは、0.1〜5質量部の範囲内である。
【0020】
カラーベース塗料には、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂と、必要に応じてメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤とを併用したものが挙げられ、これらは有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散して使用される。
【0021】
さらに、カラーベース塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0022】
本発明のカラーベース塗膜は、前記カラーベース塗料を、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装し、乾燥硬化することによって形成することができる。カラーベース塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づいて10〜45μmの範囲内とするのが、基材を隠蔽する点や塗膜の平滑性の点から好ましく、より好ましくは15〜35μmの範囲内である。本発明のホワイトベース塗料は通常、約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0023】
本発明においては、カラーベース塗料を塗装して乾燥硬化して得られた硬化塗膜、若しくは未硬化の塗膜面上に、鱗片状光輝性顔料を含有するメタリックベース塗料を塗装して鱗片状光輝性顔料を含有するメタリックベース塗膜を形成する。
【0024】
鱗片状光輝性顔料としては、例えばアルミニウム、銅、ニッケル合金、ステンレス等の鱗片状金属顔料、表面を金属酸化物で被覆した鱗片状金属顔料、表面に着色顔料を化学吸着させた鱗片状金属顔料、表面に酸化還元反応を起こさせることにより酸化アルミニウム層を形成した鱗片状アルミニウム顔料、アルミニウム固溶板状酸化鉄顔料、ガラスフレーク顔料、表面を金属又は金属酸化物で被覆したガラスフレーク顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたガラスフレーク顔料、表面を二酸化チタンで被覆した干渉マイカ顔料、干渉マイカ顔料を還元した還元マイカ顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたり、表面を酸化鉄で被覆した着色マイカ顔料、表面を二酸化チタンで被覆したグラファイト顔料、表面を二酸化チタンで被覆したシリカフレークやアルミナフレーク顔料、盤状酸化鉄顔料、ホログラム顔料、合成マイカ顔料、らせん構造を持つコレステリック液晶ポリマー顔料、オキシ塩化ビスマス顔料などが挙げられる。本発明においては、これらのうちで、半透明な鱗片状基材に金属酸化物を被覆したシルバータイプ又は着色タイプの光輝性顔料を使用することが、複層塗膜においてハイライトからシェードへの光輝感や色調の変化を緩やかにする点から好ましく、シルバータイプ又は着色タイプの中でも、マイカ、人工マイカ、シリカ又は酸化アルミニウムから選択された鱗片状基材に酸化チタン又は酸化鉄を被覆した光輝性顔料を使用することが特に好ましい。
【0025】
鱗片状光輝性顔料の大きさは、平均粒径が5〜25μmの範囲内のものを使用することが、塗装された塗膜仕上がり性や粒子感の点から好ましく、より好ましくは粒径が7〜20μmの範囲内もの、特に好ましくは8〜18μmの範囲内ものである。厚さは0.05〜0.5μmの範囲内のものを使用することが好ましい。ここでいう粒径及び厚さは、光学顕微鏡又は電子顕微鏡で該鱗片状光輝性顔料を観察して得られた数値を意味する。
【0026】
また、鱗片状光輝性顔料の含有量は、塗装して得られる塗膜の仕上がり性の点から、鱗片状光輝性顔料を含む塗料中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で1〜25質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは3〜20質量部の範囲内、特に好ましくは5〜18質量部の範囲内である。
【0027】
メタリックベース塗料には、鱗片状光輝性顔料の他にも、複層塗膜の色相や明度を微調整することを目的として、着色顔料を配合することができる。着色顔料としては、特に制限されるものではないが、上記カラーベース塗料に用いることができるものとして例示したものの中から有彩色の顔料を用いることができる。また、カラーベース塗料とメタリックベース塗料に着色顔料を用いる場合、各々の塗料に用いる着色顔料の中で、有彩色の顔料については、同系色のものを用いることが、複層塗膜の彩度の点から好ましい。
【0028】
2種類の着色顔料が同系色であるとは、着色材として一方の着色顔料のみを含む塗料を塗装して得られた塗膜の色と、着色材として他方の着色顔料のみを含む塗料を塗装して得られた塗膜の色とが同系色であることを意味する。
【0029】
本明細書において、着色材として、特定の着色顔料のみを含む塗料を塗装して得られた色とは、具体的には、水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)及びメラミン樹脂からなる樹脂成分100固形分質量部あたり、該着色顔料を15質量部配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調整して得られた塗料を、予めグレー(N−6)の塗膜を形成した塗板上に硬化塗膜として30μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して測定した測色値で定義するものとする。また、同系色であるとは、具体的には、各々の色のL*C*h表色系における色相角度hの差Δhが45°以下であることを意味する。L*C*h表色系とは、1976年に国際照明委員会で規定され、JIS Z 8729にも採用されているL*a*b*表色系をベースに考案された表色系であって、hは色相角度を表わし、色度図において赤方向の軸を0°として、反時計方向に移動した角度である。各々の色の色相角度の差Δhとは、一方の色の色相角度h1と他方の色のh2との差分の角度の最小値で定義するものとする。
【0030】
本発明において、メタリックベース塗料に鱗片状光輝性顔料以外の着色顔料を配合せしめる場合、その含有量は、複層塗膜の明度の点から、樹脂固形分100質量部に対し0.01〜15質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部の範囲内、特に好ましくは、0.5〜5質量部の範囲内である。
【0031】
メタリックベース塗料には、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、上記カラーベース塗料に用いることができるものとして例示したものを同様に用いることができる。
【0032】
さらに、メタリックベース塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0033】
本発明のメタリックベース塗膜は、前記メタリックベース塗料を、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装し、乾燥硬化することによって形成することができる。メタリックベース塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づいて10〜45μmの範囲内とするのが、基材を隠蔽する点や塗膜の平滑性の点から好ましく、より好ましくは13〜30μmの範囲内である。本発明のメタリックベース塗料は通常、約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0034】
本発明においては、メタリックベース塗料を塗装して乾燥硬化して得られた硬化塗膜、若しくは未硬化の塗膜面上に、透明性着色顔料を含むカラークリヤー塗料を塗装してカラークリヤー塗膜を形成する。
【0035】
本明細書において、透明性着色顔料とは、塗料中の樹脂固形分100質量部に基づいて顔料量が20質量部となるように配合して塗料化し、硬化塗膜厚が30μmとなるように平滑なPTFE板に塗装し、硬化、剥離した塗膜を分光光度計MPS−2450(商品名、島津製作所製)にて測定した可視光領域(波長400nm〜700nm)における光線透過率が50%以上となるような顔料であって、平均一次粒子径が200nm以下である顔料を意味するものとする。具体的には、透明性酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、インジゴ系顔料等の中から任意のものを1種もしくはそれ以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
本発明においては、複層塗膜の彩度の点から、カラークリヤー塗料に配合せしめる透明性着色顔料の色は、前記カラーベース塗料に有彩色の着色顔料を配合せしめる場合にはその色と同系色であることが好ましく、さらにメタリックベース塗料に着色顔料を配合せしめる場合には、その着床顔料とも同系色のものを使用することが好ましい。
【0037】
本発明のカラークリヤー塗料における透明性着色顔料の含有量は、塗装して得られる塗膜の透明感の点から、カラークリヤー塗料中の樹脂固形分100質量部に対して、合計で0.01〜20質量部の範囲内が好ましく、より好ましくは0.05〜10質量部の範囲内、特に好ましくは0.1〜5質量部の範囲内である。
【0038】
カラークリヤー塗料には、さらに鱗片状光輝性願料を配合することができる。本発明においては特に複層塗膜の彩度を高くする点から前記メタリックベース塗料に配合せしめる鱗片状光輝性顔料と同一の鱗片状光輝性願料を使用することができる。カラークリヤー塗料に鱗片状光輝請願料を配合せしめる場合、その含有量は、複層塗膜の光輝感や彩度の点から、樹脂固形分100質量部に対し0.01〜15質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部の範囲内、特に好ましくは、0.5〜5質量部の範囲内である。
【0039】
カラークリヤー塗料には、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、上記カラーベース塗料に用いることができるものとして例示したものを同様に用いることができる。
【0040】
さらに、カラークリヤー塗料には、必要に応じて、水あるいは有機溶剤等の溶媒、顔料分散剤、沈降防止剤、硬化触媒、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤、体質顔料などを適宜配合することができる。
【0041】
カラークリヤー塗料は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製される。塗装時の固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、12〜50質量%、好ましくは20〜40質量%に、また、20℃における粘度を15〜20秒/フォ−ドカップ#3に調整しておくことが好ましい。
【0042】
本発明のカラークリヤー塗膜は、前記カラークリヤー塗料を、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装し、乾燥硬化することによって形成することができる。カラークリヤー塗膜の膜厚は硬化塗膜に基づいて10〜45μmの範囲内とするのが、基材を隠蔽する点や色の発現性及び塗膜の平滑性から好ましく、より好ましくは15〜35μmの範囲内である。本発明のカラークリヤー塗料は通常、約70〜約150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0043】
本発明の塗膜形成方法においては、硬化又は未硬化のカラークリヤー塗膜上に、さらに必要に応じてトップクリヤー塗料を1層もしくは2層以上塗装して、トップクリヤー塗膜を形成することができる。
【0044】
本発明の塗膜形成方法におけるトップクリヤー塗料は、樹脂成分および溶剤を主成分とし、さらに必要に応じてその他の塗料用添加剤などを配合してなる無色もしくは有色の透明塗膜を形成する液状塗料である。
【0045】
本発明方法におけるトップクリヤー塗料としては、従来公知のものが制限なく使用できる。例えば、基体樹脂及び架橋剤を含有する液状もしくは粉体状の塗料組成物が適用できる。基体樹脂の例としては、水酸基、カルボキシル基、シラノ−ル基、エポキシ基などの架橋性官能基を含有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などが挙げられる。架橋剤としては、前記基体樹脂の官能基と反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネ−ト化合物、ブロックポリイソシアネ−ト化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂等が挙げられる。また、必要に応じて、水や有機溶剤等の溶媒、硬化触媒、消泡剤、レオロジーコントロール剤、酸化防止剤、表面調整剤、紫外線吸収剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0046】
上記トップクリヤー塗料には、透明性を損なわい範囲内において、着色顔料を適時配合することができる。着色顔料としては、インク用、塗料用として従来公知の顔料を1種あるいは2種以上を組み合わせて配合することができる。その添加量は、適宜決定されて良いが、トップクリヤー塗膜中の樹脂固形分100質量部に対して、30質量部以下、好ましくは0.1〜10質量部である。
【0047】
上記トップクリヤー塗料は、静電塗装、エア−スプレ−、エアレススプレ−などの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて5〜40μmの範囲内とするのが好ましい。トップクリヤー塗料の塗膜それ自体は約70〜150℃の温度で架橋硬化させることができる。
【0048】
本発明の塗膜形成方法においては、カラーベース塗膜、メタリックベース塗膜、カラークリヤー塗膜及びトップクリヤ−塗膜は、各々加熱して、乾燥硬化後に、その塗膜上に次工程の塗膜を形成することができるが、未硬化の塗膜上に形成せしめて、トップクリヤー塗料を塗装後に加熱し、複層塗膜を同時に硬化せしめることができる。
【0049】
本発明においては、上記塗膜形成方法で得られる複層塗膜のL*c*h表色系における色相角度hが、0°〜120°又は320°〜0°の範囲内となるように上記着色顔料を選択することが、高明度且つ高彩度であって、ハイライト(正反射光近傍)〜シェード(斜め方向)に光輝感及び色調が緩やかに変化するシルキーな質感が顕著に表現可能な点から好ましい。
【0050】
本明細書において塗料組成物を塗装して得られる塗膜の色相角度hとは、得られた複層塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名、多角度分光光度計)を使用して、正反射光に対して45°で受光した分光反射率に基づいて計算した数値で定義するものとする。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
(製造例1)水酸基含有アクリル樹脂の製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器にエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート40部を仕込み、撹拌混合し、135℃に昇温した。次いで下記のモノマー/重合開始剤の混合物を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行なった。その後、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート10部、2,2‘−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)0.6部からなる混合物を同温度に保持した1時間30分かけて滴下し、さらに2時間熟成した。次にエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを減圧下で留去し、水酸基価54mgKOH/g、数平均分子量50,000、樹脂固形分65質量%の水酸基含有アクリル樹脂を得た。ここで数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したものを意味する。
モノマー/重合開始剤の混合物:
メチルメタクリレ−ト38部、エチルアクリレ−ト17部、n−ブチルアクリレ−ト17部、ヒドロキシエチルメタクリレ−ト7部、ラウリルメタクリレ−ト20部及びアクリル酸1部及び2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)2部からなる混合物。
(着色顔料の色及び鱗片状光輝性顔料の干渉色測定)
実施例及び比較例に使用する着色顔料の色及び鱗片状光輝性顔料の干渉色を以下の要領測定し、結果を表1に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
光輝性顔料のハイライトにおける干渉色は、製造例1で得た水酸基含有アクリル樹脂75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)25部からなる樹脂成分100部(固形分)あたり、鱗片状光輝性顔料を15部配合して攪拌混合し、溶剤を添加して塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調製して得られた塗料を、予め黒色(N−2)の塗膜を形成した塗板上に硬化塗膜として18μmの膜厚となるようにエアスプレー塗装し、室温にて15分間放置し、ついで、未硬化塗面にクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)を硬化塗膜として、35μmとなるようにエアスプレー塗装し、さらに室温にて15分間放置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃で30分加熱して硬化乾燥せしめて得られた塗膜をX−Rite社製のMA−68II(商品名、多角度分光光度計)を使用して、正反射光に対して15°で受光した分光反射率に基づいて測定したL*C*h表色系における色相角度hで示した。
(カラーベース塗料及びメタリックベース塗料の調製)
製造例1で得られた水酸基含有アクリル樹脂75部、ユーバン28−60(商品名、ブチルエーテル化メラミン樹脂、三井化学社製)25部からなる樹脂成分100部(固形分)あたり、光輝性顔料及び着色顔料を表2に示す比率で配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して、固形分約25%の有機溶剤型塗料を調整し、実施例及び比較例に使用するカラーベース塗料及びメタリックベース塗料を調製した。
【0054】
【表2】

【0055】
調製したカラーベース塗料を予めグレー(N−6)色の中塗り塗膜を形成せしめたブリキ板にエアスプレーを使用して硬化塗膜として35μmとなるように塗装し、塗装後、室温にて15分間放置した後に、熱風循環式乾燥炉内を使用して、140℃で30分間加熱して乾燥硬化せしめて得られたカラーベース塗膜のL*(L*a*b表色系における明度)をX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して、正反射光に対して45°の受光角度で測定した分光反射率に基づいて計算し、結果を表2に示した。
(カラークリヤー塗料の調製)
ステンレス製ビーカーにクリヤー塗料(ル−ガベ−ククリヤ−、関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂・アミノ樹脂系、有機溶剤型)の樹脂成分100部(固形分)あたり、着色顔料及び/又は光輝性顔料を表2に示す比率で配合して攪拌混合し、塗装に適正な粘度に希釈して実施例及び比較例に使用するカラークリヤー塗料を調製した。得られたクリヤー塗料を35μmの膜厚となるように平滑なPTFE板に塗装し、約20℃の実験室内に15分静置後に熱風乾燥機を使用して140℃30分間加熱乾燥硬化させた後に剥離して得られた塗膜を、分光光度計MPS−2450(商品名、島津製作所製)を使用して波長400〜700nmにおける光線透過率を測定して、表2に示した。
【0056】
実施例1〜7、比較例1,2
(試験板の作成)
基材の調整
脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JISG3141、大きさ400×300×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロン9400HB」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネ−ト化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させて電着塗膜を得た。
【0057】
得られた電着塗面に、中塗塗料「ル−ガベ−ク中塗りグレ−」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させて、中塗塗膜を形成した塗板を基材とした。
塗装
(1)で調整した基材に表2に示す構成となるように、カラーベース塗料、メタリックベース塗料及びカラークリヤー塗料をエアスプレーを用いて塗装し、カラークリヤー塗料を塗装後、室温約20℃の実験室に約15分静置し、その後に熱風乾燥機を使用して140℃の温度で30分間乾燥硬化せしめて試験板を作成した。複数回の塗装を行なう場合には、塗装後、室温約20℃の実験室に約15分静置し、その後に次工程の塗料を塗装した。
(意匠性の評価)
上記試験板の意匠性を以下の要領にて評価し、結果を表3に示した。
【0058】
【表3】

【0059】
(1)観察角度による色調変化
目視:作成した塗板を、人工太陽灯(セリック社製、色温度6500K)で照明し、試験板の照明に対する角度を変えて観察して、ハイライト(正反射光近傍)〜シェード(斜め方向)への色調変化を目視にて評価した。
◎:ハイライト〜シェードに色調が緩やかに変化。
○:ハイライト〜シェードに色調がやや緩やかに変化。
△:ハイライト〜シェードへの色調が大きく変化。
×:ハイライト〜シェードへの色調変化がない。
ΔL:作成した塗板のΔL(L*a*b*表色系における明度L*の差)をX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して、正反射光に対して15°と75°の受光角度で測定した分光反射率に基づいて、ΔLを計算した。
ΔC:作成した塗板の△C(L*C*h表色系における色相角度hの差)をX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して、正反射光に対して15°と75°の受光角度で測定した分光反射率に基づいて、L*C*h表色系における色相角度の差Δhを計算した。
(2)観察角度による光輝感変化
作成した塗板を、人工太陽灯(セリック社製、色温度6500K)で照明し、試験板の照明に対する角度を変えて観察して、金属感(ハイライト〜シェードへの光輝感変化)を目視にて評価した。
◎:光輝感が緩やかに変化。
○:光輝感がやや緩やかに変化。
△:光輝感の変化が大きい。
×:光輝感の変化がない。
(3)複層塗膜の色相角度h
作成した塗板を、L*C*h表色系における色相角度hをX−Rite社製のMA−68II(商品名)を使用して、正反射光に対して45°の受光角度で測定した分光反射率に基づいて、計算した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の塗膜形成方法は、各種工業製品、特に自動二輪車の車体や燃料タンクに適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にL*a*b*表色系におけるL*値が70以上のカラーベース塗膜、鱗片状光輝性顔料を含むメタリックベース塗膜及び透明性着色顔料を含むカラークリヤー塗膜を順次形成する複層塗膜形成方法。
【請求項2】
鱗片状光輝性顔料が、半透明な鱗片状基材に金属酸化物を被覆したものであることを特徴とする請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項3】
鱗片状光輝性顔料が、半透明な鱗片状基材に金属酸化物を被覆したシルバータイプ又は着色タイプであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項4】
カラークリヤー塗膜がさらに鱗片状光輝性顔料を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法、
【請求項5】
複層塗膜のL*c*h表色系における色相角度hが、0°〜120°又は320°〜0°の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗膜形成方法。

【公開番号】特開2011−20021(P2011−20021A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165491(P2009−165491)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】