説明

塗膜積層体

【課題】艶消し塗膜の質感を保持しつつ、その塗膜表面の耐汚染性を高める。
【解決手段】艶消し塗膜層の表面に、該艶消し塗膜層が視認可能な状態で被覆層を設ける。前記被覆層は、樹脂成分及び平均一次粒子径1〜200nmのシリカゾルを必須成分とし、前記樹脂成分が実質的に互いに相溶しない2種類以上の樹脂の混合物であり、前記樹脂成分と前記シリカゾルの固形分比率が100:50〜100:500である被覆液によって形成され、前記被覆層の塗付量は固形分で0.1〜50g/mとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物や土木構造物等の表面化粧として用いられる塗膜積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物や土木構造物等の表面化粧用塗料として、種々の艶グレードのものが提供されている。このうち、艶消しの塗膜が形成可能な塗料は、落ち着きのある独特の質感が得られることから、近年人気が高まりつつある。
【0003】
艶消し塗料としては、JIS K5663「合成樹脂エマルションペイント」に規定されている塗料が一般的である。この他、JIS A6909に規定される建築用仕上塗材、例えば、リシン塗料等の薄付け仕上塗材、スタッコ塗料等の厚付け仕上塗材、その他石材調仕上塗材、砂岩調仕上塗材等においても、艶消しの外観を呈するものがあり、凹凸模様が形成可能な厚膜タイプの材料として広く使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、都市部等においては、自動車等からの排出ガスによって大気中に油性の汚染物質等が浮遊している状況である。上述の如き艶消し塗料においても、その塗膜表面にこれら汚染物質が付着堆積し、美観性が損われる場合がある。
【0005】
塗膜表面に適用可能な防汚処理剤として、特許文献1には、樹脂、酸化物ゾル有機溶剤、及び水からなる組成物が記載されている。
しかし、艶消し塗膜に対し特許文献1の如き汚染防止剤を適用すると、初期の艶の状態とは異なる仕上がりになるおそれがある。また、塗膜の色相が黒っぽく変化する現象、所謂濡れ色が発生する場合がある。さらには、被膜の一部が虹色を呈する干渉むらが生じる場合もある。このように、特許文献1の如き汚染防止剤では、当初の艶消し塗膜の質感が損なわれやすいという問題がある。そもそも、このような汚染防止剤は、自動車外板塗膜等の光沢感を有する塗膜に対する材料として設計されたものであり、その対象を艶消し塗膜とすることについては想定されていない。
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、艶消し塗膜の質感を保持しつつ、その塗膜表面の耐汚染性を高めることを目的とするものである。
【0007】
【特許文献1】WO99/54414号公報
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、艶消し塗膜層の表面に対し、特定の樹脂成分及びシリカを主成分とする特定被覆層を設けた塗膜積層体に想到し、本発明を完成させるに到った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.艶消し塗膜層の表面に、該艶消し塗膜層が視認可能な状態で被覆層が設けられた塗膜積層体において、
前記被覆層は、樹脂成分及び平均一次粒子径1〜200nmのシリカゾルを必須成分とし、
前記樹脂成分が実質的に互いに相溶しない2種類以上の樹脂の混合物であり、
前記樹脂成分と前記シリカゾルの固形分比率が100:50〜100:500である被覆液によって形成され、
前記被覆層の塗付量は固形分で0.1〜50g/mであることを特徴とする塗膜積層体。
2.前記シリカゾルが、pH5.0以上8.5未満の水分散性シリカゾルであることを特徴とする1.記載の塗膜積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、艶消し塗膜の質感を保持しつつ、その塗膜表面の耐汚染性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0012】
本発明の塗膜積層体は、艶消し塗膜層の表面に被覆層が設けられたものであり、主に建築物や土木構造物等の表面化粧用、特に風雨や太陽光等に晒される外装面の化粧用として好ましく適用できるものである。
【0013】
このうち艶消し塗膜層は、艶消し塗料によって形成される。このような艶消し塗料としては、JIS K5663「合成樹脂エマルションペイント」に規定される塗料が挙げられる。このタイプの塗料は、一般にフラット塗料と呼ばれるものである。この他の艶消し塗料としては、JIS A6909に規定されるリシン塗料等の薄付け仕上塗材、スタッコ塗料等の厚付け仕上塗材等、その他石材調仕上塗材、砂岩調仕上塗材等の各種建築用仕上塗材が挙げられる。このような建築用仕上塗材は、凹凸模様が形成可能な厚膜タイプの材料として使用できるものである。
【0014】
艶消し塗膜層は、建築物や土木構造物等の基材表面に艶消し塗料を塗付・乾燥することによって形成できる。艶消し塗膜層は、建築物や土木構造物等の基材表面に予め旧塗膜として存在するものであってもよい。
なお、艶消し塗膜層における「艶消し」の程度は、その鏡面光沢度によって規定することができる。艶消し塗膜層の鏡面光沢度(測定角度60度)は通常20以下、好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下である。
【0015】
本発明の塗膜積層体は、上述の艶消し塗膜層の表面に、被覆層が設けられたものである。この被覆層は、艶消し塗膜層が視認可能な状態で設けられる。すなわち、艶消し塗膜が有する色相、凹凸模様は、被覆層の有無にかかわらずほとんど変化しない。
【0016】
本発明における被覆層は、樹脂成分及び平均一次粒子径1〜200nmのシリカゾルを必須成分として含む被覆液によって形成されるものである。
このうち、樹脂成分としては、実質的に互いに相溶しない2種類以上の樹脂の混合物を使用する。本発明では、このような2種以上の樹脂混合物を使用することにより、底艶、濡れ色、干渉ムラ等の発生を抑制し、艶消し塗膜の質感を保持することが可能となる。
なお、本発明における「実質的に互いに相溶しない2種類以上の樹脂」とは、樹脂混合物による形成被膜が半透明であることを意味するものである。このような半透明被膜としては、隠ぺい率が0.08〜0.90(好ましくは0.08〜0.80、より好ましくは0.10〜0.60)であるものが好適である。なお、ここで言う隠ぺい率は、JIS K5663 5.8に準じて測定される値である(但し乾燥膜厚は80μm)。
【0017】
被覆液における樹脂成分としては、特に、屈折率の差が0.01以上(好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上)である2種類以上の樹脂を含むことが望ましい。このように屈折率の異なる複数の樹脂を使用すれば、艶消し塗膜の質感保持の点で有利である。なお、本発明における屈折率は、アッベ屈折計(光の波長:589nm、測定温度:20℃)を用いて測定される値である。
【0018】
具体的に、樹脂成分としては、セルロース、ポリビニルアルコール、エチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミン、ポリオール、ポリカーボネート、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等が挙げられる。本発明では、これら樹脂から上述の条件を満たす組合せを選択して使用する。本発明では、3種類以上の多数の樹脂を使用することもできるが、製造効率等を考慮すると2種類の樹脂の組合せを用いることが望ましい。樹脂の混合比率は、上述の条件を満たす範囲内であれば特に限定されないが、2種類の樹脂を使用する場合、その固形分重量比率は通常98:2〜2:98、好ましくは95:5〜5:95である。
なお、樹脂成分としては、架橋反応性を有する樹脂が含まれていてもよい。架橋反応性を有する樹脂を使用した場合は、被膜の耐水性、耐候性、耐薬品性等を向上させることができる。また、樹脂成分の形態としては、水可溶型樹脂及び/または水分散型樹脂(樹脂エマルション)が好適である。これら樹脂成分は1液型でもよいし、使用時に2液以上を混合する多液型であってもよいが、塗装作業性等の点では1液型が望ましい。
【0019】
被覆液におけるシリカゾルは、シラノール基等の極性基の作用により耐汚染性向上に寄与する成分である。
シリカゾルの平均一次粒子径は、通常1〜200nm、好ましくは5〜100nmである。この範囲内であれば、平均一次粒子径が異なる複数のシリカゾルを併用することもできる。シリカゾルの平均一次粒子径が200nmよりも大きい場合は、比表面積が小さくなり、シラノール基も減るため耐汚染性が不十分となる。平均一次粒子径が1nmよりも小さい場合は、シリカゾル自体が不安定化するため、実用的でない。なお、ここに言う平均一次粒子径は、光散乱法によって測定される値である。
【0020】
シリカゾルとしては、pH5.0以上8.5未満(好ましくは6.0以上8.0以下)の水分散性シリカゾルが好適である。このようなpHに調製されたシリカゾルは、その粒子表面の豊富なシラノール基によって、優れた耐汚染効果を発揮することができる。また、水溶性樹脂及び/または水分散性樹脂と水分散性シリカゾルとの組合せにより、有機溶剤をほとんど含まない水性被覆液を得ることができる。
【0021】
このような中性タイプの水分散性シリカゾルは、シリケート化合物を原料として製造することができる。シリケート化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等、あるいはこれらの縮合物等が挙げられる。この他、上記シリケート化合物以外のアルコキシシラン化合物や、アルコール類、グリコール類、グルコールエーテル類、フッ素アルコール、シランカップリング剤、ポリオキシアルキレン基含有化合物等を併せて使用することもできる。水分散性シリカゾルの媒体としては、水及び/または水溶性溶剤が使用できる。水溶性溶剤としては、例えば、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0022】
被覆液における樹脂成分とシリカゾルの固形分重量比率は、通常100:50〜100:500(好ましくは100:80〜100:400、より好ましくは100:100〜100:300)とする。このような範囲内であれば、優れた耐汚染性能を得ることができる。この固形分比率においてシリカが少なすぎる場合は、耐汚染性の点で十分な効果を得ることができない。シリカが多すぎる場合は、被覆層のシリカが経時的に脱離して耐汚染効果が損なわれるおそれがある。また、被覆層に割れが生じやすくなる。
【0023】
被覆層を形成する被覆液には、樹脂成分とシリカゾル以外の成分を適宜混合することができる。このような成分としては、例えば、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、可塑剤、造膜助剤、凍結防止剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、触媒、架橋剤等が挙げられる。
被覆液の固形分濃度は、通常10重量%以下(好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下)に設定することが望ましい。また、被覆液のpHは、pH5.0以上8.5未満(好ましくは6.5以上8.0以下)とすることが望ましい。被覆液の固形分濃度やpHをこのような範囲内に設定すれば、被覆液の安定性の点で有利である。
【0024】
被覆液によって被覆層を形成する際には、スプレー塗り、刷毛塗り、ローラー塗り等の塗装手段を適宜採用することができる。
被覆層の塗付量は固形分で0.1〜50g/m(好ましくは0.5〜20g/m)とする。塗付量が0.1g/mよりも少ない場合は耐汚染性向上効果が得られず、50g/mよりも多い場合は、艶消し塗膜表面の微細な凹凸が平坦化してしまい、艶消し塗膜の質感が損われやすくなる。なお、本発明における被覆層は、上記範囲内で塗付量が多少変動しても艶むら等の不具合が生じないため、塗付作業の効率化を図ることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0026】
(水性被覆液A)
ウレタン樹脂エマルション(固形分30重量%、屈折率1.441)とアクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、屈折率1.492)を、その固形分重量比率が58:42となるように混合した。この樹脂混合物の隠ぺい率は0.11であった(乾燥膜厚80μm)。次いで、この樹脂混合物と水分散性シリカゾル(pH7.6、固形分20重量%、平均1次粒子径27nm)を固形分重量比率100:125となるように混合し、これに水を加えて固形分2重量%、pH7.1の水性被覆液Aを作製した。
【0027】
(水性被覆液B)
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%、屈折率1.492)と水分散性シリカゾル(pH7.6、固形分20重量%、平均1次粒子径27nm)を固形分重量比率100:125となるように混合し、これに水を加えて固形分2重量%、pH7.2の水性被覆液Bを作製した。なお、水性被覆液Bに用いたアクリル樹脂エマルションの隠ぺい率は0.05であった(乾燥膜厚80μm)。
【0028】
(試験例1)
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)200重量部に対し、酸化チタン分散液(固形分70重量%)40重量部、重質炭酸カルシウム(平均粒子径8μm)160重量部、寒水石(平均粒子径200μm)270重量部、造膜助剤16重量部、増粘剤5重量部、消泡剤5重量部を常法により均一に混合して艶消し塗料を作製した。予めシーラー処理を行ったスレート板に、上記方法にて得られた艶消し塗料を塗付量(固形分)が800g/mとなるように鏝塗りし、標準状態(温度23℃・相対湿度50%)で48時間乾燥させることにより、白色の艶消し塗膜を形成させた。この艶消し塗膜の鏡面光沢度は1.6であった。
また、上記艶消し塗料に対し、カーボンブラック分散液(固形分20重量%)を3重量%添加した後、同様の方法で塗装を行い、灰色の艶消し塗膜を形成させた。この艶消し塗膜の鏡面光沢度は1.9であった。
【0029】
以上の方法で得られた各艶消し塗膜に対し、前記水性被覆液Aを塗付量(固形分)が3g/mとなるようにスプレー塗装し、標準状態で24時間乾燥させた。このようにして得られた各試験体の仕上状態を確認したところ、艶・色の状態や全体的な質感において艶消し塗膜との差異は認められなかった。
次に白色の試験体を大阪府茨木市にて南向き45度の角度で屋外曝露し、3ヶ月後の外観を確認した。その結果、水性被覆液Aを塗付した試験体における白色度の変化(△L)は−1.0であった。なお、艶消し塗膜のみを形成させた試験体について同様の試験を行ったところ、その△Lは−4.5であった。
【0030】
(試験例2)
水性被覆液Aに替えて水性被覆液Bを使用した以外は、試験例1と同様の方法で試験体を作製した。その仕上状態を確認したところ、底艶と濡れ色の発生が認められた。屋外曝露試験における△Lは−1.2であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
艶消し塗膜層の表面に、該艶消し塗膜層が視認可能な状態で被覆層が設けられた塗膜積層体において、
前記被覆層は、樹脂成分及び平均一次粒子径1〜200nmのシリカゾルを必須成分とし、
前記樹脂成分が実質的に互いに相溶しない2種類以上の樹脂の混合物であり、
前記樹脂成分と前記シリカゾルの固形分比率が100:50〜100:500である被覆液によって形成され、
前記被覆層の塗付量は固形分で0.1〜50g/mであることを特徴とする塗膜積層体。
【請求項2】
前記シリカゾルが、pH5.0以上8.5未満の水分散性シリカゾルであることを特徴とする請求項1記載の塗膜積層体。

【公開番号】特開2007−98192(P2007−98192A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287445(P2005−287445)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】