説明

塗膜部品の彩度を高める塗装方法

【課題】 本願発明の目的は彩度の向上にある。彩度を高める従来技術として、着色顔料の粒度を小さくしたり、分布を狭めたり、パール顔料の使用等が存在するが、コストがかかるだけでなく、目標とする色調に仕上げることも容易ではない。
【解決手段】 着色塗膜の上に、アクリル系の艶有り透明塗料を用いて1コート塗装することで、コストをかけることなく、塗膜部品の彩度を確実に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装の分野における技術的思想の創作であり、色の三属性(色相、明度、彩度)のうちの1つである彩度を向上させる塗装方法に関するものである。
【0002】
ちなみに、彩度とは、色の鮮やかさを表す属性である。彩度も明度と同様、高低でその度合いを表す。彩度が高くなるほど鮮やかな原色となり、彩度が低くなるほどくすんだ色となり、しまいには無彩色となる。換言すれば、彩度が高い色ほど派手な印象を受け、彩度の低い色ほど地味な印象を受ける。
【背景技術】
【0003】
塗装は昔から存在する技術であるが、その目的は、素材の保護と意匠性の向上の2点である。
【0004】
塗装が素材の保護につながる理由は、素材に塗装することで素材を腐食等から防ぎ、素材の寿命を延ばすことができるからである。クリア塗装がその典型である。
【0005】
また、塗装が意匠性の向上につながる理由は、素材自体に模様や色を施すことで、素材自体を無味乾燥なものから躍動的なものへと変貌させることができるからである。着色塗装(カラー塗装、メタリック塗装)がその典型である。
【0006】
本願発明の目的は彩度の向上にあるが、彩度を向上させる着色顔料として典型なのは、酸化チタンやカーボン、酸化鉄等の微粉末や有機化合物である。
【0007】
例えば、弁柄はα−Fe2(酸化第二鉄)を主成分とする赤褐色の顔料であるが、その粒子の大きさで色調が異なり、黄色、黄土色、紫、黒の多彩な色調を実現できることで知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−187541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
塗料の意匠性を向上させるために、様々な着色顔料や光輝顔料を添加する。
【0010】
塗料に彩度を付加する着色顔料には酸化チタンやカーボン、酸化鉄等の微粉末や有機化合物があり、これらの着色顔料は化学構造、結晶型、粒子の大きさ、形状、表面性質等で特徴が異なる。
【0011】
また、顔料は単に塗料を着色するだけではなく、商品に必要な諸物性を有することが必要である。有機系黄色顔料の中には透明感があり非常に綺麗ではあるが光を受けて劣化しやすいため、耐候性が必要とされる部位では使用できないものがある。
【0012】
さらに、人体に悪影響を与える顔料もある。赤色顔料であるモリブデートオレンジは鉛や6価クロムを含有するために吸収すると中毒を起こすという危険性がある。
【0013】
そのため、顔料の選定には発色、諸物性、安全性等の十分な検討が必要となり、その結果として、目的とする諸物性や特性を満たすものが限られる。
【0014】
その限られた範囲の顔料で塗膜の彩度を高めるために、着色顔料の粒度を小さくしたり、分布を狭めたり、パール顔料等を使用したりしたが、結局、コストが跳ね上がり、目標とする色調に仕上げることも容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題を解決するために、塗膜の彩度の光学特性を研究したところ、着色顔料が入った塗膜の彩度は正反射光方向の近辺で大きく低下し、それが見た目の彩度低下に繋がっていることが分った。
【0016】
そして、目的とする諸物性・特性をもつ顔料で高価な塗料や特殊な塗装工程を用いることなく、かつ外観のイメージを損なうことなく、この正反射光近辺での彩度の低下を抑える方法を開発した。
【0017】
具体的には、着色塗膜の上に透明な塗装を施すことで、正反射光方向近辺の彩度低下を防ぎ、見た目の彩度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
彩度を向上させるためには、一般的に、顔料サイズを小さくする、顔料濃度を薄めて薄塗膜を何度も塗り重ねる、顔料の粒子径の分布を狭くする、パール等の光輝顔料を使用する、といった手段が考えられる。
【0019】
しかし、「顔料サイズを小さくする」及び「顔料濃度を薄めて薄塗膜を何度も塗り重ねる」については、隠ぺい力低下を補うべく塗装回数を増やすため、塗装コストが跳ね上がるという問題がある。
【0020】
また、「顔料の粒子径の分布を狭くする」については、塗料価格の上昇や塗料の持つ顔料分散性能及び安定性能を向上させる必要があるという問題がある。
【0021】
さらに「パール等の光輝顔料を使用する」については、当初のイメージと大きく変わってくることがあるという問題がある。
【0022】
そこで、本発明のように、着色塗膜の上に透明な塗装を施せば、上記諸問題を生ずることなく彩度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】赤色塗膜のみのCF値と赤色塗膜に透明塗料を塗装した場合のCF値の比較
【図2】橙色メタリック塗膜のみのCF値と橙色メタリック塗膜に透明塗料を塗装した場合のCF値の比較
【図3】黄色塗膜のみのCF値と黄色塗膜に透明塗料を塗装した場合のCF値の比較
【発明を実施するための形態】
【0024】
アクリル系の艶有り透明塗料を用い、塗装コート数を1回として、クリア塗装を行った。これによって正反射光付近での彩度低下を抑えることができることを証明するため、以下の実施例に示す実験を行い、その結果を図に示した。
【実施例1】
【0025】
金属プレートに赤色塗膜を施しただけのサンプルと、赤色塗膜に透明塗料を塗装したサンプルの赤みのカラーフロップ(CF)を比較した。なお、カラーフロップ(CF)とは、各測定角度のa値を拡散反射光方向である75°のaで割った値をいう。また、a値とは、赤緑間の色の度合いを数値化したもの(赤いほどプラスとなり、緑ほどマイナスとなる。)をいう。
【0026】
図1に示すように、赤色塗膜だけでは、正反射光(0°)から30°の範囲で彩度の低下が見られるものの、透明塗膜を施すと正反射光(0°)から7°の範囲でしか彩度の低下が見られない。
【実施例2】
【0027】
金属プレートに橙色メタリック塗膜を施しただけのサンプルと、橙色メタリック塗膜に透明塗料を塗装したサンプルの赤みのカラーフロップ(CF)を比較した。
【0028】
図2に示すように、橙色メタリック塗膜だけでは、正反射光(0°)から12°の範囲で彩度の低下が見られるものの、透明塗膜を施すと正反射光(0°)から5°の範囲でしか彩度の低下が見られない。
【実施例3】
【0029】
金属プレートに黄色塗膜を施しただけのサンプルと、黄色塗膜に透明塗料を塗装したサンプルの黄みのカラーフロップ(CF)を比較した。なお、ここでのカラーフロップ(CF)とは、各測定角度のb値を拡散反射光方向である75°のbで割った値をいう。また、b値とは、黄青間の色の度合いを数値化したもの(黄色いほどプラスとなり、青いほどマイナスとなる。)をいう。
【0030】
図3に示すように、黄色塗膜だけでは、正反射光(0°)から30°の範囲で彩度の低下が見られるものの、透明塗膜を施すと正反射光(0°)から7°の範囲でしか彩度の低下が見られない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上述してきたように、本願発明に係る塗装方法は、正反射光付近での彩度低下を抑えることを目的としている。従って、金属製建具等の意匠性が求められる部品への応用が期待でき、産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色塗膜の上に、艶有り透明塗料を用いて1コート塗装することによって、塗膜部品の彩度を向上させる方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−131202(P2011−131202A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299494(P2009−299494)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)
【Fターム(参考)】