説明

塗膜除去剤及びそれを用いた塗膜除去方法

【課題】塗膜除去性能に優れ、安全で、特に、反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜は除去せずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを除去することができる塗膜除去剤、及びそれを用いた塗膜除去方法を提供する。
【解決手段】無機質又は有機質の微粒子10〜60重量%と、アルコールを主成分とする分散媒40〜90重量%とを含む分散液からなる塗膜除去剤とする。前記アルコールの炭素数が2〜3であることが好ましく、2−プロパノールであることが特に好ましい。前記塗膜除去剤をシート基材に含浸させてなる塗膜除去シートが好適な実施態様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路標識、ガードレール、建築物、コンクリート構造物などの表面に塗布された塗膜を除去するための塗膜除去剤に関する。また、そのような塗膜除去剤を含浸させてなる塗膜除去シート、及びそのような塗膜除去剤を用いた塗膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
道路標識、ガードレール、建築物、コンクリート構造物などの表面に塗料で描かれた落書き(塗膜)は景観を著しく損ねる。従来、このような落書きを消して景観を復旧させるために、落書きの上に塗料を上塗りすることが行われている。しかし、落書きのたびに塗料を上塗りすることは、手間と労力及び専門的な塗装技術を要することも多く、コスト面及び人員面の手当てが十分でなく、慢性的に対策が遅れている。
【0003】
このような事情のため、最近では落書きは放置されるか、除去するとしても地域のボランティアに頼らざるを得ない状況であり、より簡便で、かつ安全な塗膜除去剤を用いる落書き除去方法の開発が望まれていた。
【0004】
特許文献1には、(I)水、炭素原子1〜5個を有する1価アルコール、及びそれらの混合物から選択される揮発性液体キャリヤーと、(II)ゼオライトA、ゼオライトX、ゼオライトY、ゼオライトP及びそれらの混合物から選択される、研磨材としての結晶性アルミノシリケートを包含して成り、この場合、前記結晶性アルミノシリケートは(a)高められた湿潤性を与え、(b)高められた分散安定性を与え、(c)高められた防曇性を与え、(d)残留フイルミングを減少させ、もしくは排除し、かつ/又は(e)表面除去中におけるダストを減少させ、もしくは排除するのに十分な粒度分布を有するものである表面清浄剤/磨き剤組成物が記載されている。好ましい1価アルコールは2−プロパノール、メタノール及びエタノールを包含することも記載されている。しかしながら、このような表面清浄剤/磨き剤組成物が、硬質表面清浄剤、ガラス清浄剤、窓清浄剤、非塗装表面に対する研磨助剤などとしての用途を有することは記載されているが、塗膜除去剤としての用途については記載されていない。
【0005】
特許文献2には、ジエチレングリコールアルキルエーテル、トリエチレングリコールアルキルエーテル、及びそれらのアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、及びそれらのアセテート、トリプロピレングリコールアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアセテートのいずれかの一つ又は混合液を有効成分とする塗料軟化剤が記載されている。前記塗料軟化剤に研磨剤を加えることを特徴とする塗料剥離剤も記載されている。軟化剤に加える研磨剤として、ゼオライト、水酸化アルミニウム、シリカ、鉄粉、セラミック粉等が記載されている。しかしながら、希釈剤として、水、エタノール、t−ブタノール、プロピレングリコール、エチレングリコール等の極性溶媒を用いる場合は、ジメチルスルホキサイドなどを主成分として添加しないと、軟化力が著しく低下してしまうという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−98698号公報
【特許文献2】特開2000−63716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、塗膜除去性能に優れており、かつ安全な塗膜除去剤を提供することを目的とするものである。特に、反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜は除去せずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを除去することができる塗膜除去剤を提供することを目的とするものである。また、そのような塗膜除去剤を含浸させてなる塗膜除去シート、及びそのような塗膜除去剤を用いた塗膜除去方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、無機質又は有機質の微粒子10〜60重量%と、アルコールを主成分とする分散媒40〜90重量%とを含む分散液からなる塗膜除去剤を提供されることによって解決される。
【0009】
このとき、前記アルコールの炭素数が2〜3であることが好ましく、前記アルコールが2−プロパノールであることが特に好ましい。前記微粒子が有機質の微粒子であることも好ましく、前記有機質の微粒子が穀物粉末又は澱粉であることがより好ましい。このときの穀物粉末が、米粉、麦粉、そば粉、トウモロコシ粉からなる群から選ばれた少なくとも1種の穀物粉末であることが好ましい。前記微粒子が無機質の微粒子であることも好ましい。前記無機質の微粒子が、ゼオライト、タルク、活性炭、炭酸カルシウム、シリカアルミナ、シリカ、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸バリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の無機質の微粒子であるであることがより好ましい。前記無機質の微粒子の真密度が1.5〜3g/cmであることも好ましい。前記無機質の微粒子の平均粒径が0.1〜100μmであることも好ましい。前記分散媒が、1〜50重量%の水を含むことが好ましい。
【0010】
前記塗膜除去剤が、反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜は除去せずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを除去することができることが好ましい。
【0011】
本発明の好適な実施態様は、前記塗膜除去剤をシート基材に含浸させてなる塗膜除去シートである。このとき、前記シート基材の片面に分散媒蒸発防止層が設けられてなることが好ましい。
【0012】
上記課題は、前記塗膜除去剤を塗膜上に塗布してから、塗膜除去剤とともに剥離した塗膜を除去することを特徴とする塗膜除去方法を提供することによっても解決される。また、前記塗膜除去剤を塗膜上に塗布し、その上に分散媒蒸発防止層を設けた後、塗膜除去剤とともに剥離した塗膜を除去することを特徴とする塗膜除去方法を提供することによっても解決される。さらに、前記塗膜除去シートを塗膜上に貼付した後、塗膜除去シートとともに剥離した塗膜を除去することを特徴とする塗膜除去方法を提供することによっても解決される。これらの場合、反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜は除去せずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを除去することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塗膜除去剤は、塗膜除去性能に優れており、かつ安全である。そして、反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜は除去せずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを除去することができるので、道路標識、ガードレール、建築物、コンクリート構造物などの表面に描かれた落書き(塗膜)を消すのに適している。また、本発明の塗膜除去方法によれば、簡便な操作で塗膜を除去することができる。さらに、本発明の塗膜除去シートを用いれば、非常に簡便な操作で塗膜を除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の塗膜除去剤は、アルコールを主成分とする分散媒中に無機質又は有機質の微粒子が分散した分散液からなる。アルコールと該微粒子とを含む分散液からなることによって、優れた塗膜除去性能が得られるとともに、作業環境も良好になる。また、反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜を損傷することなく、常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを剥離することができる。
【0015】
本発明で用いられる有機質の微粒子としては、特に限定されないが、穀物粉又は澱粉が好適に用いられる。穀物粉又は澱粉を用いれば、作業時の安全性も高く、廃棄物処理の面でも好ましい。また、食用として不適合となった穀物等の再利用方法としても好適である。穀物粉としては、米粉、麦粉、そば粉又はトウモロコシ粉が好適に用いられる。ここで挙げた麦粉としては、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉などが挙げられ、なかでも、小麦粉が好適である。穀物粉の中でも、米粉がより好適である。米粉を用いた本発明の塗膜除去剤は、塗布し易く、除去できる塗膜の種類が多いからである。澱粉としては、バレイショ澱粉、サツマイモ澱粉、トウモロコシ澱粉が好適に用いられる。有機質の微粒子としては、1種類のものを用いてもよいし、複数種のものを用いてもよい。
【0016】
無機質の微粒子としては、特に限定されないが、ゼオライト、タルク、活性炭、炭酸カルシウム、シリカアルミナ、シリカ、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン又は炭酸バリウムが好適に用いられる。なかでも、ゼオライト、タルク、炭酸カルシウムがより好適である。タルクと炭酸カルシウムは極めて安価であり、作業時の安全性も高い。ゼオライトは、安価であり、安全性も高い。無機質の微粒子としては、1種類のものを用いてもよいし、複数種のものを用いてもよい。
【0017】
本発明で用いられるゼオライトは、細孔構造を有する結晶性のアルミノケイ酸塩である。アルミニウム原子の一部が他の原子で置換されていても構わない。ゼオライトは天然ゼオライトでもよいし、合成ゼオライトでもよい。ゼオライトとしては、1種類のものを用いてもよいし、複数種のものを用いてもよい。
【0018】
ゼオライトとしては、A型ゼオライト、L型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、ZSM−5、ZSM−11、β型ゼオライト、モルデナイト、フェリエライト、エリオナイトなどが例示される。この中で、得られる塗膜除去剤の塗膜除去性能が優れる点で、Y型ゼオライト、モルデナイトが好ましく、その中でも、ゼオライト粒子の分散媒中での分散性が特に良好であるため、塗布し易い塗膜除去剤が得られる点で、Y型ゼオライトがさらに好ましい。
【0019】
ゼオライトのイオン交換可能なカチオンサイトに占有されているカチオンは特に限定されず、水素イオン(プロトン);リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン;鉄イオン、銀イオンなどの遷移金属イオン;1〜4級アンモニウムイオンなどが例示される。この中で、入手が容易である点から、水素イオン(プロトン)、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、4級アンモニウムイオンが好ましい。その中で、得られる塗膜除去剤の塗膜除去性能が優れる点で、水素イオン、ナトリウムイオンがより好ましく、その中でも、安全性の点でナトリウムイオンがさらに好ましい。該カチオンは、1種類のカチオンであってもよいし、複数種のカチオンを含有していてもよい。
【0020】
本発明で用いられるゼオライトの具体例として、プロトン型Y型ゼオライト、プロトン型モルデナイト、プロトン型ZSM−5、プロトン型β型ゼオライト、Na型A型ゼオライト、Na型X型ゼオライト、Na型Y型ゼオライト、Na型ZSM−5、Na型モルデナイトなどが例示される。
【0021】
本発明で用いられる無機質の微粒子の真密度は特に限定されないが、1.5〜3g/cmであることが好ましい。真密度が3g/cmを超えると、分散媒に分散しにくくなるおそれがある。
【0022】
無機質の微粒子の粒径は特に限定されないが、平均粒径が0.1〜100μmであることが好ましい。該粒径が0.1μm未満だと、塗膜除去操作時に粉じんが発生するおそれがある。該粒径が0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。該粒径が100μmを超えると、無機質の微粒子が分散媒に分散しにくくなるおそれがある。50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。なお、無機質の微粒子の平均粒径は、レーザ回折法などによって測定される。
【0023】
塗膜除去剤中の無機質又は有機質の微粒子の含有率は、10〜60重量%である。微粒子の含有率が10重量%未満の場合には、十分な塗膜除去性能が得られないおそれがある。また、塗膜除去剤を水平ではない面に塗布する際、液たれが発生するおそれがある。該微粒子の含有率が15重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがさらに好ましい。該微粒子の含有率が60重量%を超えると、微粒子が分散媒に均一に分散されないおそれがある。含有率が55重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることがさらに好ましい。このような微粒子の含有率であることで、本発明の塗膜除去剤は、塗膜除去剤を傾斜面に塗った際に液たれしない程度の流動性となり、塗布時の作業性に優れる。
【0024】
塗膜除去剤中の分散媒の含有率は、40重量%〜90重量%である。分散媒の含有率が40重量%未満だと、微粒子が分散媒に均一に分散されないおそれがある。含有率が45重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましい。分散媒の含有率が90重量%を超えると、十分な塗膜除去性能が得られないおそれがある。また、塗膜除去剤を塗布する際、液たれが発生することによる塗布時の作業性の低下を招くおそれもある。含有率が85重量%以下であることがより好ましく、80重量%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明で用いられるアルコールは、分子中にアルコール性水酸基をもつ化合物である。アルコールの価数、すなわち分子中のアルコール性水酸基の数は特に限定されない。1価アルコールでも、2価アルコールでも、3価アルコールでも、それ以上の価数のアルコールでもよい。アルコールの級別については、特に限定されない。1級アルコールでも、2級アルコールでも、3級アルコールでもよい。本発明で用いられるアルコールは、本発明の効果を阻害しない範囲で、分子内にアルコール性水酸基の他に官能基を有していてもよい。アルコールとしては、1種類のものを用いてもよいし、複数種のものを用いてもよい。
【0026】
本発明で用いられるアルコールの炭素数は特に限定されないが、2〜8であることが好ましい。炭素数が8を超えると、得られる塗膜除去剤の取り扱いが困難になるおそれがある。炭素数が6以下であることがより好ましく、炭素数が4以下であることがさらに好ましく、炭素数が3以下であることが特に好ましい。炭素数が2未満であると、アルコールが揮発しやすいので、作業環境が悪化するおそれがある。
【0027】
本発明で用いられるアルコールとして、1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノールなどの脂肪族アルコール;シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロオクタノールなどの脂環族アルコール;ベンジルアルコールなどの芳香族−脂肪族アルコール;2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなど;3価アルコールとしては、グリセリン、1,2,4−ブタントリオールなど;4価アルコールとしてはエリスリトール、ペンタエリスリトールなどが例示される。この中で、入手が容易であり、塗膜除去性能が特に優れることから、2−プロパノール又はエタノールが特に好ましく、なかでも、安価である、2−プロパノールが最も好ましい。
【0028】
本発明の塗膜除去剤における分散媒は、アルコールを主成分とする分散媒である。この場合の、アルコールを主成分とするとは、分散媒中にアルコールを50重量%以上含有するという意味である。分散媒中にアルコールが50重量%以上含まれることによって、優れた塗膜除去性能が得られる。分散媒中のアルコールの含有率は、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0029】
前記分散媒は、50重量%未満であればアルコール以外の他の液体を含有していてもよい。他の液体として、水、アルコール以外の有機溶媒、例えば、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、ケトン、ニトリル、エステル、ハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0030】
前記分散媒が水を含有することが好ましい。水を含有することにより、アルコールの蒸発が抑制されるので、得られる塗膜除去剤が取り扱い易くなるからである。また、分散媒中に不燃物である水を混合することにより、得られる塗膜除去剤の安全性が高くなり、さらにはコストを低減することができるからである。分散媒中の水の含有率は特に限定されないが、1〜50重量%であることが好ましい。水の含有率が1重量%未満では、分散媒が揮発し易いため、塗膜除去剤が塗膜に作用するのに十分な時間が確保できないおそれがある。5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることがさらに好ましい。水の含有率が50重量%を超えると、塗膜除去性能が低下するおそれがある。40重量%以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明の塗膜除去剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、界面活性剤、増粘剤、有機色素、無機色素など種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
除去対象の塗膜としては、基材上に直に形成されている塗膜であっても構わないし、基材の上にベース塗膜が形成されていて、さらにその上に形成される上塗り塗膜であっても構わない。基材としては、例えば、鉄鋼、ステンレス、アルミニウムなどの金属、樹脂などが例示される。
【0033】
本発明の塗膜除去剤を用いるにあたっては、基材上に反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜を剥離させずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを剥離させられることが好ましい。これにより、基材上のベース塗膜を損傷することなく、該ベース塗膜上に形成された上塗り塗膜のみを除去することができる。特に、景観塗装された道路標識やガードレール、建築物、コンクリート構造物などに描かれた落書きのみを除去することができる。ここで、反応硬化型塗料とは、加熱、紫外線などの放射線照射、あるいは主剤と硬化剤の混合などによって、反応硬化して塗膜を形成する塗料をいう。また、常温乾燥型塗料とは、常温で溶剤を蒸発させて乾燥させることにより、塗膜を形成する塗料をいう。反応硬化型塗料としては、エポキシ樹脂塗料、ウレタン系塗料などが例示される。常温乾燥型塗料としては、ラッカー塗料、水性塗料、酒精塗料、タールエポキシ塗料などが例示される。
【0034】
本発明の塗膜除去方法においては、上記塗膜除去剤を塗膜上に塗布してから、塗膜除去剤とともに剥離した塗膜を除去することが好ましい。このような塗膜除去方法によって、簡便な操作で塗膜を除去することができる。
【0035】
塗膜除去剤を塗膜上に塗布する方法は、塗膜の表面と塗膜除去剤が十分に接触できるものであればよく、特に限定されない。刷毛、ローラー刷毛、ヘラ、スプレー、布などを用いる方法が例示される。
【0036】
塗膜除去剤を塗膜上に塗布してから、塗膜除去剤とともに塗膜を除去するまでの間には、塗膜除去剤が塗膜に十分に作用できるように、一定の静置時間を設けることが好ましい。静置時間の長さ、すなわち、塗膜除去剤を塗膜上に塗布してから、塗膜除去剤とともに塗膜を除去するまでの時間は、通常、1分以上である。静置時間は、2分以上であることが好ましく、6分以上であることがより好ましい。静置時間は通常、1日以下である。本発明の発明者らの検討によれば、プロトン型Y型ゼオライト60gを2−プロパノール150mlに加えて塗膜除去剤を調製し、撹拌している該塗膜除去剤に、上塗り塗膜が形成されたサンプル板を10分間浸漬したところ、塗布して静置した場合に比べて、塗膜除去性能が低下した。また、米粉(上新粉)100gを2−プロパノール150mlに加えて塗膜除去剤を調製し、撹拌している該塗膜除去剤に、上塗り塗膜が形成されたサンプル板を10分間浸漬したところ、塗布して静置した場合に比べて、塗膜除去性能が低下した。
【0037】
本発明の塗膜除去方法においては、前記塗膜除去剤を塗膜上に塗布し、その上に分散媒蒸発防止層を設けた後、塗膜除去剤とともに剥離した塗膜を除去することも好ましい。塗布した塗膜除去剤の上に分散媒蒸発防止層を設けることで、塗膜除去剤中の分散媒の蒸発が抑制され、塗膜除去性能の低下が押さえられる。分散媒蒸発防止層としては、分散媒が透過しにくい材質のものであればよく、特に限定されない。通常、樹脂フィルム、金属箔、紙などが用いられる。
【0038】
塗膜除去剤とともに剥離した塗膜を除去する方法は、塗膜除去剤と剥離した塗膜の両方を除去できる方法であればよく、特に限定されない。紙や布帛などにより拭き取る方法、又は塗膜除去剤と剥離した塗膜とを流水などによって洗い流して除去する方法などが例示される。
【0039】
本発明の塗膜除去方法においては、反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜は剥離させずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを剥離させることが好適な実施態様である。このような塗膜除去方法によって、基材上のベース塗膜を損傷することなく、ベース塗膜上に形成された上塗り塗膜のみを、簡便な操作で除去することができる。特に、景観塗装された道路標識やガードレール、建築物、コンクリート構造物などに描かれた落書きのみを簡便な操作で除去することができる。
【0040】
本発明の塗膜除去剤の好適な実施態様は、塗膜除去剤をシート基材に含浸させてなる塗膜除去シートである。このような塗膜除去シートを用いることにより、非常に簡便な操作で塗膜を除去することができる。特に、柱の側面や建築物の壁など、垂直面上や斜面上に形成された塗膜であっても、非常に簡便な操作で除去することができる。
【0041】
本発明の塗膜除去シートは、前記塗膜除去剤をシート基材に含浸させたものである。シート基材としては、液体を吸収できるものであればよく、不織布や織布や編地などの布帛、紙、スポンジなどが例示される。
【0042】
前記塗膜除去シートは、シート基材の片面に分散媒蒸発防止層が設けられてなることが好ましい。分散媒蒸発防止層が設けられていることによって、塗膜除去剤中の分散媒の蒸発が抑制され、静置時間の間、塗膜除去性能の低下が押さえられる。分散媒蒸発防止層は、シート基材の、除去する塗膜に貼付する方の面とは反対側の面に設けられる。分散媒蒸発防止層は、分散媒が透過しにくい材質のものであればよく、特に限定されない。通常、樹脂フィルム、金属箔、紙などが用いられる。
【0043】
本発明の塗膜除去シートを用いて塗膜を除去する方法においては、上記塗膜除去シートを塗膜上に貼付した後、塗膜除去シートとともに剥離した塗膜を除去することが好ましい。このような塗膜除去方法によって、非常に簡便な操作で塗膜を除去することができる。
【0044】
優れた塗膜除去性能を有するとともに、反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜を損傷することなく、該ベース塗膜上に、常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを除去できる本発明の塗膜除去剤は、道路標識、ガードレール、電柱、照明灯、建築物、コンクリート構造物などの表面に描かれた落書きを除去するのに特に適している。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例における塗膜除去性能評価は下記の方法にしたがって行った。
【0046】
[塗膜除去性能評価]
鉄の板(縦5cm×横10cm)の表面に、ベース塗膜形成用の塗料をスプレーを用いて塗布し、厚さ約1mmの塗膜を形成させることにより、基材表面上にベース塗膜を形成させたものを作製した。ここで、ベース塗膜形成用の塗料として、景観塗装用塗料である日本ペイント株式会社製「ハイポン50」を用いた。当該「ハイポン50」は、主剤と硬化剤とを塗装前に混合してから使用するウレタン系塗料である。こうして得られたベース塗膜の表面に、上塗り塗膜形成用の塗料をスプレーを用いて、塗膜の厚さが約0.5mmになるように塗布した後、常温で2時間以上乾燥させた。このようにしてベース塗膜と上塗り塗膜が形成された板を塗膜除去剤の評価に供した。
【0047】
評価する塗膜除去剤を、刷毛を用いて上塗り塗膜上に塗布した後、分散媒の蒸発を防ぐため、塗膜除去剤が塗布された面をラップで覆った。一定の静置時間の経過後、日本製紙クレシア株式会社製産業用ワイパー「キムワイプ」を用いて、塗膜除去剤及び剥離した塗膜を拭き取った。
【0048】
塗膜除去剤の液たれ度合いの評価は、以下のように行った。鉄の板(10cm×20cm)にベース塗膜(日本ペイント株式会社製「ハイポン50」)を厚さ約1mm塗布し、約2時間乾燥させた。該鉄の板を30°傾け、板表面に塗膜除去剤をスポイトで約1ml滴下して、このときの塗膜除去剤の流動の様子から、液たれ度合いを評価した。
【0049】
塗膜除去性能を、以下の(1)〜(5)の5つの観点について、それぞれ○、△、×の3段階で評価した。
(1)上塗り塗膜の剥離性
○:完全に剥離した。
△:塗膜が若干残存した。
×:塗膜がかなり残存した。
(2)ベース塗膜の損傷度合い
○:全く損傷が認められなかった。
△:少し損傷した。
×:かなり損傷し、ツヤがなくなった。
(3)塗膜除去剤の塗布容易性
○:非常に塗布し易かった。
△:塗布し易かった。
×:塗布しにくかった。
(4)塗膜除去剤及び剥離した塗膜の除去容易性
○:非常に除去し易かった。
△:除去し易かった。
×:除去しにくかった。
(5)塗膜除去剤の液たれ度合い
○:塗膜除去剤は塗布直後にある一定の大きさに広がった後、その場に保持された。
△:塗膜除去剤は30〜60秒間緩やかに広がった後、保持された。
×:塗膜除去剤は塗布直後から流れ続け、塗布した位置からほとんどなくなった。
【0050】
実施例1
12gのプロトン型Y型ゼオライト粉末を、23.4g(30mL)の2−プロパノールに加え、薬さじで撹拌することにより塗膜除去剤を調製した。ここで、プロトン型Y型ゼオライト粉末としては、和光純薬工業株式会社製H−Y型ゼオライト「HS−320」を用いた。当該「HS−320」の、レーザ回折法により測定した平均粒径は6〜10μm、窒素吸着法(BET法)により測定した比表面積は550m/g、中和滴定により測定した酸点の数は1.2mmol/gである。
【0051】
こうして得られた塗膜除去剤を用いて、上記方法にしたがい、塗膜除去性能評価を行った。基材に塗布する上塗り塗膜形成用の塗料としては、株式会社アサヒペン製「多用途水性スプレー(白色)」を用いた。当該「多用途水性スプレー(白色)」は、顔料、水、アクリル樹脂、有機溶剤を含む、水性アクリル樹脂塗料である。塗膜除去剤を塗布した後の静置時間は10分とした。得られた結果を表1に示す。
【0052】
実施例2
実施例1において、ゼオライト粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末12gの代わりに、Na型Y型ゼオライト粉末10gを用いた以外は実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能試験を行った。ここで、Na型Y型ゼオライト粉末としては、和光純薬工業株式会社製Na−Y型ゼオライト「HS−320」を用いた。当該「HS−320」の、レーザ回折法により測定した平均粒径は6〜10μm、窒素吸着法(BET法)により測定した比表面積は、700m/gである。得られた結果を表1に示す。
【0053】
実施例3
実施例1において、ゼオライト粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりに、プロトン型モルデナイト粉末を用い、ゼオライト粒子と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、10gと15.6g(20mL)に変更した以外は実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。ここで、プロトン型モルデナイト粉末としては、和光純薬工業株式会社製H−モルデナイト「HS−690」を用いた。当該「HS−690」の、レーザ回折法により測定した平均粒径は5〜7μm、窒素吸着法(BET法)により測定した比表面積は450m/g、中和滴定により測定した酸点の数は0.5mmol/gである。得られた結果を表1に示す。
【0054】
実施例4
実施例1において、分散媒として、2−プロパノールの代わりにエタノールを用い、塗膜除去剤中のゼオライト粒子の含有率を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0055】
実施例5、6
実施例1において、分散媒として、2−プロパノールの代わりに、2−プロパノールと水の混合物を用い、その混合重量比(2−プロパノール/水)及び塗膜除去剤中のゼオライト粒子の含有率を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0056】
実施例7
実施例1において、無機質の微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりに炭酸カルシウム粉末を用い、炭酸カルシウム粉末と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、40gと78.1g(100mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0057】
実施例8
実施例1において、無機質の微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりにタルク粉末を用い、タルク粉末と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、40gと78.1g(100mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0058】
実施例9
実施例1において、無機質の微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりに、活性炭(未乾燥、椰子ガラ由来)を用い、該活性炭と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、10gと11.7g(15mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0059】
実施例10
実施例1において、無機質の微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりに活性炭(乾燥、椰子ガラ由来)を用い、該活性炭と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、10gと19.5g(25mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0060】
実施例11
実施例7において、分散媒として、2−プロパノールの代わりに、2−プロパノールと水の混合物を用い、その混合重量比(2−プロパノール/水)及び塗膜除去剤中の炭酸カルシウム粉末の含有率を表1に示すようにした以外は、実施例7と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0061】
比較例1
実施例1において、ゼオライト粒子を配合せず、2−プロパノールのみを塗膜除去剤として、塗膜除去性能試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0062】
比較例2
実施例1において、塗膜除去剤として市販塗膜除去剤を用いた以外は、実施例1と同様にして塗膜除去性能試験を行った。ここで、市販塗膜除去剤としては、株式会社アサヒペン製「強力 塗料はがし液」を用いた。当該「強力 塗料はがし液」は、非塩素系有機溶剤を含んでいる。得られた結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
実施例12
微粒子が有機質の微粒子である塗膜除去剤の評価例である。実施例1において、微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりに米粉(上新粉)を用い、米粉(上新粉)と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、10gと19.5g(25mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0065】
実施例13
微粒子が有機質の微粒子である塗膜除去剤の評価例である。実施例1において、微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりに小麦粉を用い、小麦粉と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、10gと11.7g(15mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0066】
実施例14
微粒子が有機質の微粒子である塗膜除去剤の評価例である。実施例1において、微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりにそば粉を用い、そば粉と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、10gと11.7g(15mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0067】
実施例15
微粒子が有機質の微粒子である塗膜除去剤の評価例である。実施例1において、微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりに澱粉(バレイショ由来)を用い、澱粉(バレイショ由来)と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、10gと11.7g(15mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0068】
実施例16
微粒子が有機質の微粒子である塗膜除去剤の評価例である。実施例1において、微粒子として、プロトン型Y型ゼオライト粉末の代わりに澱粉(トウモロコシ由来)を用い、澱粉(トウモロコシ由来)と2−プロパノールの配合量を、それぞれ、10gと11.7g(15mL)に変更した以外は、実施例1と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0069】
実施例17
実施12において、分散媒として、2−プロパノールの代わりに、2−プロパノールと水の混合物を用い、その混合重量比(2−プロパノール/水)及び塗膜除去剤中の米粉(上新粉)の含有率を表2に示すようにした以外は、実施例12と同様にして塗膜除去剤を調製し、塗膜除去性能評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
実施例18
実施例1において、静置時間を10分とする代わりに、5分、30分、60分と変えたこと以外は、実施例1と同様にして塗膜除去性能評価を行った。静置時間が5分の場合、上塗り塗膜の残存が若干見られた。一方、静置時間を30分及び60分にした場合は、10分の場合と同様に、上塗り塗膜はきれいに除去することができ、しかも、ベース塗膜の損傷などは認められなかった。
【0072】
実施例19
実施例1において、上塗り塗膜形成用の塗料を「多用途水性スプレー(白色)」の代わりに、それぞれ、「多用途水性スプレー」の、赤色、黄色、黒色のものを用いて上塗り塗膜を形成した以外は実施例1と同様にして試験板を作製し、塗膜除去性能試験を行った。その結果、本実施例で用いた塗膜除去剤は、赤色、黄色、黒色、それぞれの上塗り塗膜に対しても、白色の場合と同等の塗膜除去性能があることが認められた。
【0073】
実施例20
有機質の微粒子に、米粉(上新粉)、小麦粉、そば粉、澱粉(バレイショ由来)、澱粉(トウモロコシ由来)を用いて、それぞれ調製した塗膜除去剤の、赤色、黄色、黒色の「多用途水性スプレー」を用いて、それぞれ形成した上塗り塗装に対する塗膜除去性能試験を行った。「多用途水性スプレー(白色)」の代わりに、赤色、黄色、黒色の「多用途水性スプレー」を用いて上塗り塗膜をそれぞれ形成した以外は、実施例12〜16と同様にして塗膜除去性能試験を行った。その結果、各微粒子を用いて調製したすべての塗膜除去剤の塗膜除去性能は、塗膜の色による違いはなく、赤色、黄色、黒色の「多用途水性スプレー」で形成した上塗り塗膜に対する各微粒子を用いて調製した塗膜除去剤の塗膜除去性能は、白色に対する場合と同等であった。
【0074】
実施例21
実施例1において、上塗り塗膜形成用の塗料として、株式会社アサヒペン製「多用途水性スプレー(白色)」の代わりに、アスペン製「Rラッカースプレー」を用いて上塗り塗膜を形成した以外は、実施例1と同様にして試験板を作製し、塗膜除去性能試験を行った。当該「Rラッカースプレー」は、顔料、ニトロセルロース、アルキド樹脂、有機溶剤を含む、ラッカー塗料である。その結果、本実施例で用いた塗膜除去剤は、ラッカー塗料の塗膜に対しても、水性アクリル樹脂塗料の場合と同等の塗膜除去性能があることが認められた。
【0075】
実施例22
微粒子に、米粉(上新粉)、小麦粉、そば粉を用いて、それぞれ調製した塗膜除去剤の、アスペン製「Rラッカースプレー」を用いて形成した上塗り塗膜に対する塗膜除去性能試験を行った。「多用途水性スプレー(白色)」の代わりに、白色、赤色、黄色、黒色のアスペン製「Rラッカースプレー」を用いて上塗り塗膜をそれぞれ形成した以外は、実施例12〜14と同様にして塗膜除去性能試験を行った。その結果、米粉(上新粉)を用いて調製した塗膜除去剤は、すべての色の上塗り塗膜に対して、「多用途水性スプレー(白色)」で形成した上塗り塗膜の場合と同等の塗膜除去性能を示した。小麦粉及びそば粉を用いて調製した塗膜除去剤は、黒色の塗膜に対しては、「多用途水性スプレー(白色)」で形成した上塗り塗膜の場合と同等の塗膜除去性能を示し、白色、赤色、黄色の塗膜に対しては、上塗り塗膜が残存しており、上塗り塗膜の剥離性が「多用途水性スプレー(白色)」で形成した上塗り塗膜に対する場合と比較して劣った。
【0076】
実施例23
実施例1において、上塗り塗膜形成用の塗料として、株式会社アサヒペン製「多用途水性スプレー」(白色)の代わりに、株式会社ソフト99コーポレーション製「ボデーペン」を用いて上塗り塗膜を形成した以外は、実施例1と同様にして試験板を作製し、塗膜除去性能試験を行った。当該「ボデーペン」は、顔料、アクリル樹脂、有機溶剤を含む自動車用ストレートアクリル樹脂塗料である。その結果、本実施例で用いた塗膜除去剤は、自動車用ストレートアクリル樹脂塗料の塗膜に対しても、水性アクリル樹脂塗料の塗膜の場合と同等の塗膜除去性能があることが認められた。
【0077】
実施例24
微粒子に、米粉(上新粉)、小麦粉、そば粉を用いて、それぞれ調製した塗膜除去剤の、株式会社ソフト99コーポレーション製「ボデーペン」を用いて形成した上塗り塗膜に対する塗膜除去性能試験を行った。「多用途水性スプレー(白色)」の代わりに、株式会社ソフト99コーポレーション製「ボデーペン」を用いて上塗り塗膜をそれぞれ形成した以外は、実施例12〜14と同様にして塗膜除去性能試験を行った。その結果、各微粒子を用いて調製したすべての塗膜除去剤について、「多用途水性スプレー(白色)」で形成した上塗り塗膜に対する場合と同等の塗膜除去性能を示した。
【0078】
実施例25
実施例1において、上塗り塗膜形成用の塗料を塗布する基材として、鉄の板の表面に、ベース塗膜形成用の塗料を塗布してベース塗膜を形成させたものを用いた代わりに、ステンレス板を用いて、その上に直接塗膜を形成した以外は、実施例1と同様にして試験板を作製し、塗膜除去性能試験を行った。基材がステンレスであっても、ベース塗膜を有する基材の場合と同等の塗膜除去性能があることが認められた。
【0079】
実施例26
シート基材として、縦20cm×横20cm×厚さ1mmの折りたたんだガーゼを用い、これに実施例1で調製した塗膜除去剤を含浸させることにより、塗膜除去シートを作製した。この塗膜除去シートの片面に、ラップを分散媒蒸発防止層として貼り付けることにより、分散媒蒸発防止層を有する塗膜除去シートを作製した。このようにして作製した塗膜除去シートを、垂直に立てた縦20cm×横10cmの寸法の、実施例1で用いたものと同様の試験板に、分散媒蒸発防止層とは反対側の面を接触させた状態で、紙粘着テープを用いて固定した。10分間の静置時間の後、剥離した塗膜を拭き取り、除去した。上記方法にしたがって、塗膜除去性能評価を行い、本発明の塗膜除去シートが優れた塗膜除去性能を有することが認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質又は有機質の微粒子10〜60重量%と、アルコールを主成分とする分散媒40〜90重量%とを含む分散液からなる塗膜除去剤。
【請求項2】
前記アルコールの炭素数が2〜3である請求項1記載の塗膜除去剤。
【請求項3】
前記アルコールが2−プロパノールである請求項2記載の塗膜除去剤。
【請求項4】
前記微粒子が有機質の微粒子である請求項1〜3のいずれか記載の塗膜除去剤。
【請求項5】
前記有機質の微粒子が穀物粉末又は澱粉である請求項4記載の塗膜除去剤。
【請求項6】
前記穀物粉末が、米粉、麦粉、そば粉、トウモロコシ粉からなる群から選ばれた少なくとも1種の穀物粉末である請求項5記載の塗膜除去剤。
【請求項7】
前記微粒子が無機質の微粒子である請求項1〜3のいずれか記載の塗膜除去剤。
【請求項8】
前記無機質の微粒子が、ゼオライト、タルク、活性炭、炭酸カルシウム、シリカアルミナ、シリカ、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸バリウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の無機質の微粒子である請求項7記載の塗膜除去剤。
【請求項9】
前記無機質の微粒子の真密度が1.5〜3g/cmである請求項7又は8記載の塗膜除去剤。
【請求項10】
前記無機質の微粒子の平均粒径が0.1〜100μmである請求項7〜9のいずれか記載の塗膜除去剤。
【請求項11】
前記分散媒が、1〜50重量%の水を含む請求項1〜10のいずれか記載の塗膜除去剤。
【請求項12】
反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜は除去せずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを除去することができる請求項1〜11のいずれか記載の塗膜除去剤。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか記載の塗膜除去剤をシート基材に含浸させてなる塗膜除去シート。
【請求項14】
前記シート基材の片面に分散媒蒸発防止層が設けられてなる請求項13記載の塗膜除去シート。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか記載の塗膜除去剤を塗膜上に塗布してから、塗膜除去剤とともに剥離した塗膜を除去することを特徴とする塗膜除去方法。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか記載の塗膜除去剤を塗膜上に塗布し、その上に分散媒蒸発防止層を設けた後、塗膜除去剤とともに剥離した塗膜を除去することを特徴とする塗膜除去方法。
【請求項17】
請求項13又は14のいずれか記載の塗膜除去シートを塗膜上に貼付した後、塗膜除去シートとともに剥離した塗膜を除去することを特徴とする塗膜除去方法。
【請求項18】
反応硬化型塗料を塗布することによって形成されたベース塗膜は除去せずに、該ベース塗膜上に常温乾燥型塗料を塗布することによって形成された上塗り塗膜のみを除去する請求項15〜17のいずれか記載の塗膜除去方法。

【公開番号】特開2010−285590(P2010−285590A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166347(P2009−166347)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【特許番号】特許第4457206号(P4457206)
【特許公報発行日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】