説明

塗装エンボス鋼板およびその製造方法

【課題】塗膜密着性および耐水性に優れた塗装エンボス鋼板の提供。
【解決手段】複数の微細な凸部を有するエンボス鋼板110の表面に、チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、平均粒径が10〜50nmの二酸化ケイ素粒子122とを含む化成処理液を塗布して、化成処理皮膜120を形成する。化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量は、1.5〜150mg/mの範囲内である。次いで、化成処理皮膜の表面に有機樹脂塗料を塗布して、有機樹脂塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜密着性および耐水性に優れた塗装エンボス鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装鋼板(プレコート、ポストコートの両方を含む)は、家電製品の外板などに高い割合で採用されている。近年、家電製品に要求される意匠は、より多様化および高度化しており、塗装鋼板に求められる意匠も、より多様化および高度化している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
塗装鋼板の意匠性を高める手段の一つとして、エンボス鋼板を塗装原板として使用することが考えられる。塗装エンボス鋼板を採用している例としては、キッチンシンクなどのキッチン部材があるが、これらの塗装エンボス鋼板は、ポストコート方式で製造されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−145671号公報
【特許文献2】特開2007−126904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、従来の塗装エンボス鋼板は、ポストコート方式で製造されていた。このようなポストコート方式の製造方法は、量産性に劣るという問題、および均一な膜厚の塗膜を形成しにくいという問題を有している。したがって、プレコート方式での塗装エンボス鋼板の製造方法の確立が求められていた。
【0006】
しかしながら、プレコート方式で塗装鋼板を製造する場合に、塗装原板となる鋼板にエンボス加工が施されていると、化成処理液および塗料を塗布したときに、化成処理皮膜および塗膜の厚みにムラが生じてしまうという問題がある。特に、化成処理皮膜の厚みにムラが生じると、次に説明するように、家電製品の外板などに要求される180度密着曲げ加工を行った場合に、塗装エンボス鋼板の塗膜密着性が著しく低下してしまい、大きな問題となる。また、キッチン部材などの水周りで使用される環境では、耐水性が著しく低下してしまうおそれもある。
【0007】
図1は、化成処理皮膜を形成した後のエンボス鋼板の断面を示す模式図である。図1Aに示されるように、エンボス鋼板10の表面に化成処理液を塗布した場合、凸部周辺における化成処理皮膜20の付着量(厚みb)は、平坦部(凹部)における化成処理皮膜20の付着量(厚みa)および凸部の頂点付近における化成処理皮膜20の付着量(厚みc)よりも厚くなる。
【0008】
したがって、図1Bに示されるように、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における化成処理皮膜20の付着量(厚みa、厚みc)に着目して化成処理液の塗布量を調整すると、凸部周辺における化成処理皮膜20の付着量(厚みb)が過剰量となる。このように化成処理皮膜20の付着量が過剰な部位(すわなち、凸部周辺部)では、成形加工の際に化成処理皮膜が凝集破壊してしまう。そのため、加工部の塗膜密着性が著しく低下するとともに、水周りで使用される環境では、化成処理皮膜中の可溶成分が溶出することにより耐水性も低下してしまう。
【0009】
そこで、図1Cに示されるように、凸部周辺における付着量(厚みb)に着目して化成処理液の塗布量を調整すると、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における付着量(厚みa、厚みc)が過少量となる。このように付着量が過少な部位では、塗膜密着性に寄与する成分の量が不足するため、加工部の塗膜密着性が低下してしまう。
【0010】
このように、エンボス鋼板の表面に化成処理液を塗布しても、凸部周辺、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近のいずれかにおいて塗膜密着性が不十分なものとなってしまい、鋼板の表面全体に均等に塗膜密着性を付与することはできなかった。したがって、これまで、プレコート方式の製造方法では、塗膜密着性および耐水性に優れた塗装エンボス鋼板を製造することができなかった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、塗膜密着性および耐水性に優れた塗装エンボス鋼板ならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、所定のチタン化合物およびジルコニウム化合物ならびに二酸化ケイ素粒子を含む化成処理液を塗布して化成処理皮膜を形成することで上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の塗装エンボス鋼板に関する。
[1]表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工を施されたエンボス鋼板と;前記エンボス鋼板の表面に形成され、チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と;チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物と、平均粒径が10〜50nmの二酸化ケイ素粒子とを含む化成処理皮膜と;前記化成処理皮膜の表面に形成された有機樹脂塗膜とを有し;前記化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量は、前記化成処理皮膜のすべての部位において、1.5〜150mg/mの範囲内である、塗装エンボス鋼板。
[2]前記化成処理皮膜全面についての、前記化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量の平均値は、2〜20mg/mの範囲内である、[1]に記載の塗装エンボス鋼板。
[3]前記化成処理皮膜における、前記チタンのフッ化物および前記ジルコニウムのフッ化物の合計含有量に対する、前記チタンの酸化物および水酸化物ならびに前記ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量のモル比は、0.2〜3の範囲内である、[1]または[2]に記載の塗装エンボス鋼板。
[4]前記化成処理皮膜における、前記チタンの酸化物および水酸化物の合計含有量に対する、前記ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量のモル比は、0.2〜1.2の範囲内である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の塗装エンボス鋼板。
[5]前記化成処理皮膜の前記二酸化ケイ素粒子の付着量は、前記化成処理皮膜のすべての部位において、Si換算で0.1〜30mg/mの範囲内である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の塗装エンボス鋼板。
[6]前記エンボス鋼板は、表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工を施されたステンレス鋼板またはめっき鋼板である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の塗装エンボス鋼板。
[7]前記塗装エンボス鋼板は、プレコート鋼板である、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の塗装エンボス鋼板。
【0014】
また、本発明は、以下の塗装エンボス鋼板の製造方法に関する。
[8]表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたエンボス鋼板を準備するステップと;前記エンボス鋼板の表面に、チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、平均粒径が10〜50nmの二酸化ケイ素粒子とを含む化成処理液を塗布し、乾燥させて、化成処理皮膜を形成するステップと;前記化成処理皮膜の表面に、有機樹脂塗料を塗布し、焼き付けて、有機樹脂塗膜を形成するステップとを有する、塗装エンボス鋼板の製造方法。
[9]前記化成処理液の前記二酸化ケイ素粒子の含有量は、Si換算で0.5〜5g/Lの範囲内である、[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗膜密着性、耐水性および意匠性に優れた塗装エンボス鋼板を容易に製造することができる。本発明の塗装エンボス鋼板は、例えば家電製品の外板やキッチン部材用のプレコート鋼板として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の製造方法で塗装エンボス鋼板を製造する場合における、化成処理後のエンボス鋼板の断面を示す模式図
【図2】本発明の製造方法で塗装エンボス鋼板を製造する場合における、化成処理後のエンボス鋼板の断面を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の塗装エンボス鋼板は、エンボス鋼板(塗装原板)と、前記エンボス鋼板の表面に形成された化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の表面に形成された有機樹脂塗膜とを有する。すなわち、本発明の塗装エンボス鋼板では、エンボス鋼板の表面に、化成処理皮膜および有機樹脂塗膜が順次積層されている。
【0018】
以下、本発明の塗装エンボス鋼板の各構成要素について説明する。
【0019】
[塗装原板]
塗装原板としては、表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたエンボス鋼板が使用される。エンボス加工が施される鋼板の種類は、特に限定されない。エンボス加工が施される鋼板としては、ステンレス鋼板やめっき鋼板などが挙げられる。めっき鋼板の例には、亜鉛めっき鋼板(電気Znめっき、溶融Znめっき)、合金化亜鉛めっき鋼板(溶融Znめっき後に合金化処理した合金化溶融Znめっき)、亜鉛合金めっき鋼板(溶融Zn−Mgめっき、溶融Zn−Al−Mgめっき、溶融Zn−Alめっき)、溶融Alめっき鋼板、溶融Al−Siめっき鋼板などが含まれる。
【0020】
塗装原板として、エンボス加工が施されたステンレス鋼板(エンボスステンレス鋼板)を使用する場合、ステンレス鋼板の鋼種や表面仕上げの種類、硬さなどは、特に限定されない。ステンレス鋼板の鋼種の例には、SUS304、SUS430、SUS316などが含まれる。また、ステンレス鋼板の表面仕上げの種類の例には、BA、2B、2D、No.4、HLなどが含まれる。
【0021】
塗装原板としてエンボス加工が施されためっき鋼板(エンボスめっき鋼板)を使用する場合、めっき鋼板の下地鋼の種類は、特に限定されない。下地鋼の例には、低炭素鋼や中炭素鋼、高炭素鋼、合金鋼などが含まれる。良好なプレス成形性が必要とされる場合は、低炭素Ti添加鋼、低炭素Nb添加鋼などの深絞り用鋼板が下地鋼として好ましい。
【0022】
鋼板に施されるエンボス加工の態様(凸部の形状、凸部の高さ、凸部の面積率など)は、特に限定されない。凸部のパターンの例には、水玉(円)柄、多角形柄、不規則柄などが含まれる。凸部の高さは、例えば5〜100μm程度であればよい。
【0023】
エンボス鋼板は、例えば、外周部に所定の凹部パターンを有する圧延ローラーを用いて鋼板を圧延することで製造されうる。
【0024】
[化成処理皮膜]
化成処理皮膜は、1)チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、2)チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、3)ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物と、4)二酸化ケイ素粒子を含む。上記チタン化合物およびジルコニウム化合物を化成処理皮膜に含ませることで、塗膜密着性および耐水性を付与することができる。また、二酸化ケイ素粒子を化成処理皮膜に含ませることで、上記チタン化合物およびジルコニウム化合物の付着量が過少な部位においてもアンカー効果により十分な塗膜密着性を付与することができる。
【0025】
まず、化成処理皮膜は、1)チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物を含む。これらのフッ化物は、水に溶解してフッ素イオンを遊離させる。遊離したフッ素イオンは、塗膜損傷部において下地のエンボス鋼板(塗装原板)と反応して不溶性の金属塩を形成することにより、自己修復性を付与する。
【0026】
これらのフッ化物は、自己修復性を付与するためには必要な成分であるが、水との接触機会が多い部材では、フッ化物の溶出量が多くなり、化成処理皮膜が多孔質状になるため、化成処理皮膜のエンボス鋼板への密着性が低下してしまうおそれがある。また、化成処理皮膜が多孔質状になると、化成処理皮膜の耐透水性が低下してしまうため、塗装エンボス鋼板の耐水性が低下してしまうおそれもある。したがって、過剰量のフッ化物の存在は、化成処理皮膜のエンボス鋼板への密着性の低下および耐水性の低下に繋がるため、好ましくない。
【0027】
また、化成処理皮膜は、2)チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、3)ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物とを含む。これらの酸化物および水酸化物は、水にほとんど溶解せず、エンボス鋼板の表面に強固なバリア皮膜を形成して、塗装エンボス鋼板の耐食性および耐水性を向上させることができる。
【0028】
本発明者らの予備実験によれば、化成処理皮膜のみを形成した状態で耐食性を比較したところ、チタンの酸化物は、ジルコニウムの酸化物に比べて耐食性をより向上させることができた。同様に、チタンの水酸化物は、ジルコニウムの水酸化物に比べて耐食性をより向上させることができる。これは、チタンの酸化物(水酸化物)は、化成処理皮膜形成時に無機高分子となって、ジルコニウムの酸化物(水酸化物)よりも強固なバリア皮膜を形成するためと推測された。一方、化成処理皮膜の上に有機樹脂塗膜を形成した状態で耐食性を比較したところ、ジルコニウムの酸化物は、チタンの酸化物に比べて塗膜密着性および耐食性をより向上させることができた。同様に、ジルコニウムの水酸化物は、チタンの水酸化物に比べて塗膜密着性および耐食性をより向上させることができる。これは、ジルコニウムの酸化物(水酸化物)は、有機樹脂の架橋剤として作用することにより、塗膜密着性および塗膜緻密性を向上させるためと推測された。
【0029】
したがって、チタンの酸化物または水酸化物と、ジルコニウムの酸化物または水酸化物とを併用することで、バリア性、塗膜密着性および塗膜緻密性をバランスよく向上させることができ、その結果として耐食性および耐水性をより向上させることができると考えられる。しかしながら、これらの酸化物および水酸化物は、耐食性および耐水性を付与するためには必要な成分であるが、不溶性であるため、自己修復性についてはほとんど期待できない。
【0030】
本発明の塗装エンボス鋼板の化成処理皮膜は、チタンのフッ化物およびジルコニウムのフッ化物を含有することにより自己修復性を有し、チタンの酸化物または水酸化物とジルコニウムの酸化物または水酸化物とを含有することによりバリア性、塗膜密着性および塗膜緻密性を有している。したがって、本発明の塗装エンボス鋼板の化成処理皮膜は、塗膜密着性および耐水性をバランスよく発揮することができる。
【0031】
酸化物および水酸化物(チタンの酸化物および水酸化物ならびにジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量)に対するフッ化物(チタンのフッ化物およびジルコニウムのフッ化物の合計含有量)のモル比は、0.2〜3の範囲内が好ましい。モル比が0.2未満の場合、自己修復性を十分に付与できないため、傷が付いた箇所の耐食性が低下してしまうおそれがある。また、塗膜密着性も低下するおそれがある。一方、モル比が3超の場合、可溶成分が多くなるため、耐水性が低下してしまうおそれがある。これらの比率は、後述の酸化性化合物の添加や乾燥板温の調整などによりコントロールすることができる。たとえば、乾燥温度が高いほど、乾燥過程でのフッ化物の解離が進行してフッ化物比率が少なくなる。
【0032】
チタンの酸化物および水酸化物の合計に対する、ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計のモル比は、0.2〜1.2の範囲内が好ましい。モル比が0.2未満の場合、ジルコニウムの酸化物および水酸化物による塗膜の架橋効果および塗膜密着性の向上効果を十分に発揮させることができないため、塗膜密着性および耐食性が低下してしまうおそれがある。一方、モル比が1.2超の場合、チタンの酸化物および水酸化物によるバリア効果を十分に発揮させることができないため、耐食性が低下してしまうおそれがある。
【0033】
化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量は、化成処理皮膜のすべての部位(凸部の周辺、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近のそれぞれ)において、150mg/m以下であることが好ましく、50mg/m以下であることがより好ましい。合計金属換算付着量が150mg/m超の部分では、成形加工の際に化成処理皮膜が凝集破壊してしまい、加工部の塗膜密着性が著しく低下するとともに、耐水性も低下してしまう。チタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量は、XRF(蛍光X線)分析などにより測定することができる。
【0034】
前述の通り、エンボス鋼板に化成処理液を塗布した場合、凸部の周辺では化成処理皮膜の付着量が多くなり、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近では化成処理皮膜の付着量が少なくなる(図1A参照)。したがって、チタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量の上限を150mg/m以下とするためには、凸部の周辺における合計金属換算付着量(図1A中の厚みb参照)を150mg/m以下とすればよい。凸部の周辺における合計金属換算付着量を150mg/m以下とするためには、合計金属換算付着量の平均値(凸部の周辺、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近を含む化成処理皮膜全面の平均値)を20mg/m以下(より好ましくは10mg/m以下)に制御すればよい。
【0035】
上述のように凸部の周辺における合計金属換算付着量に着目して、合計金属換算付着量の平均値を20mg/m以下(より好ましくは10mg/m以下)に制御すると、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近では化成処理皮膜の付着量が過少量となる(図1C参照)。このようにチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量が過少量の部分では、塗膜密着性が著しく低下してしまう。具体的には、合計金属換算付着量の平均値を20mg/m以下とすると、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近では、合計金属換算付着量が3mg/m未満となってしまい、塗膜密着性を十分に付与することができないことがある。
【0036】
この問題を解決するために、化成処理皮膜は、4)二酸化ケイ素粒子を含有する。ここで「二酸化ケイ素粒子」とは、主として二酸化ケイ素からなる粒子を意味する。
【0037】
図2に示されるように、化成処理皮膜120に配合された二酸化ケイ素粒子122の一部は、化成処理皮膜120の表面にテクスチャーを付与し、アンカー効果により塗膜密着性を向上させる(図2では、効果をわかりやすく示すため、二酸化ケイ素粒子122のサイズを大きくしている)。このように化成処理皮膜に二酸化ケイ素粒子を配合する場合は、チタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量を1.5mg/m以上とすれば、十分な塗膜密着性を確保することができる。したがって、化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量は、化成処理皮膜のすべての部位(凸部の周辺、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近のそれぞれ)において、1.5mg/m以上であることが好ましい。
【0038】
前述の通り、エンボス鋼板に化成処理液を塗布した場合、凸部の周辺では化成処理皮膜の付着量が多くなり、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近では化成処理皮膜の付着量が少なくなる(図1A参照)。したがって、チタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量の下限を1.5mg/m以上とするためには、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における合計金属換算付着量(図1A中の厚みaおよび厚みc参照)を1.5mg/m以上とすればよい。平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における合計金属換算付着量を1.5mg/m以上とするためには、合計金属換算付着量の平均値(凸部の周辺、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近を含む化成処理皮膜全面の平均値)を2mg/m以上に制御すればよい。
【0039】
このように、合計金属換算付着量の平均値を2〜20mg/mの範囲内とすることで、凸部の周辺における合計金属換算付着量を150mg/m以下とし、かつ平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における合計金属換算付着量を1.5mg/m以上とすることができる。鋼板全体において合計金属換算付着量は150mg/m以下であるため、成形加工をしても、化成処理皮膜が凝集破壊することはなく、加工部の塗膜密着性および耐水性は低下しない。一方、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近においては、合計金属換算付着量が3.0mg/m未満となり、そのままでは塗膜密着性を十分に付与できないおそれがあるが、二酸化ケイ素粒子のアンカー効果により、塗膜密着性を十分に付与することができる。その結果として、鋼板全体(凸部周辺、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近のすべて)に塗膜密着性および耐水性を十分に付与することができる。
【0040】
化成処理皮膜に配合する二酸化ケイ素粒子の平均粒径は、10〜50nmの範囲内が好ましい。平均粒径が10nm未満の場合、テクスチャー付与によるアンカー効果を十分に発揮させることができず、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における塗膜密着性を十分に付与することができないおそれがある。一方、平均粒径が50nm超の場合、化成処理皮膜の造膜性が低下してしまう。
【0041】
化成処理皮膜中の二酸化ケイ素粒子の付着量は、化成処理皮膜のすべての部位(凸部の周辺、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近のそれぞれ)において、Si換算で0.1〜30mg/mの範囲内であることが好ましい。
【0042】
前述の通り、エンボス鋼板に化成処理液を塗布した場合、凸部の周辺では化成処理皮膜の付着量が多くなり、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近では化成処理皮膜の付着量が少なくなる(図1A参照)。したがって、二酸化ケイ素粒子の付着量の下限をSi換算で0.1mg/m以上とするためには、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における付着量(図1A中の厚みaおよび厚みc参照)をSi換算で0.1mg/m以上とすればよく、二酸化ケイ素粒子の付着量の上限をSi換算で30mg/m以下とするためには、凸部の周辺における付着量(図1A中の厚みb参照)をSi換算で30mg/m以下とすればよい。
【0043】
平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における二酸化ケイ素粒子の付着量をSi換算で0.1mg/m以上とし、かつ凸部の周辺における二酸化ケイ素粒子の付着量をSi換算で30mg/m以下とするためには、化成処理液中の金属の合計量に対する二酸化ケイ素粒子のSi換算での質量比を0.02〜0.2の範囲内に制御すればよい。
【0044】
平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における二酸化ケイ素粒子の付着量がSi換算で0.1mg/m未満の場合、平坦部(凹部)および凸部の頂点付近において塗膜密着性を十分に付与することができないおそれがある。一方、凸部の周辺における二酸化ケイ素粒子の付着量がSi換算で30mg/m超の場合、凸部の周辺において化成処理皮膜中の有効成分(Ti、Zr)の比率が下がり、塗膜密着性が低下してしまうおそれがある。二酸化ケイ素粒子の付着量は、XRF(蛍光X線)分析などにより測定することができる。
【0045】
二酸化ケイ素粒子の製造方法は、特に限定されない。たとえば、二酸化ケイ素粒子は、金属アルコキシド加水分解法、共沈法、無機塩加水乾燥法、プラズマ法、レーザー法などで製造されうる。二酸化ケイ素粒子の形状も、特に限定されず、例えば粒状や鎖状などであればよい。
【0046】
二酸化ケイ素粒子は、表面処理されていてもよいし、されていなくてもよい。また、二酸化ケイ素粒子は、酸性、アルカリ性どちらのタイプでもよく、ナトリウム安定型であってもよいし、ナトリウム安定型でなくてもよい。ただし、上記チタンのフッ化物塩やジルコニウムのフッ化物塩を含む化成処理液は酸性であることから、二酸化ケイ素粒子としては、酸性処理液中でも分散性や安定性を確保できる、酸性かつ水性のシリカゾルが好ましい。
【0047】
使用できる二酸化ケイ素粒子としては、日産化学工業株式会社の「スノーテックス」シリーズ、日本化学工業株式会社の「シリカドール」シリーズ、旭電化工業株式会社の「アデライトAT」シリーズ、W.R.グレース社の「ルドックス」シリーズなどが挙げられる。これらの中でも、化成処理液中の安定性や平均粒径などを考慮すると、スノーテックスO、スノーテックスO−40、スノーテックスOL(いずれも日産化学工業株式会社)、シリカドール20A(日本化学工業株式会社)などが好ましい。
【0048】
化成処理皮膜は、その他の任意の成分を含んでいてもよい。たとえば、化成処理皮膜は、その上に形成される有機樹脂塗膜との密着性をより向上させるために、ポリフェノールなどの有機樹脂を含んでいてもよい。また、化成処理皮膜は、バリア性向上のため、SiやAl、Mgなどの酸化物や、金属化合物を含んでいてもよい。さらに、化成処理皮膜は、自己修復性をより向上させるため、可溶性のリン酸塩や酸化性を有するMoやVなどの酸素酸塩を含んでいてもよい。酸化性を有する硝酸や前記酸素酸塩は、チタンやジルコニウムの酸化物の無機高分子化を促進するとともに、化成処理液を塗布した際にフッ化物の解離を促進する。したがって、これらの酸化性化合物を配合することで化成処理皮膜のフッ化物と酸化物および水酸化物との割合を制御することができる。
【0049】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、チタンのフッ化物塩やジルコニウムのフッ化物塩、二酸化ケイ素粒子などを含む化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法でエンボス鋼板(塗装原板)の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。生産性の観点からは、ロールコート法で化成処理液を塗布することが好ましい。化成処理液中の二酸化ケイ素粒子の濃度は、処理液の安定性の観点からSi換算で0.5〜5g/Lの範囲内が好ましい。また、化成処理液中においてチタン塩およびジルコニウム塩が安定して存在できるように、キレート作用のある有機酸を化成処理液に添加してもよい。有機酸の例には、タンニン酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸および酢酸が含まれる。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2〜10秒の範囲内が好ましい。
【0050】
[有機樹脂塗膜]
有機樹脂塗膜は、有機樹脂を主成分とする塗膜であって、化成処理皮膜の表面に形成される。有機樹脂塗膜は、1層構成であってもよいし、下塗り(プライマー)塗膜および上塗り(トップ)塗膜の2層構成であってもよいし、3層以上の構成であってもよい。たとえば、塗装原板がエンボス加工を施されたステンレス鋼板の場合は、1層構成の有機樹脂塗膜を形成し、塗装原板がエンボス加工を施されためっき鋼板の場合は、2層構成の有機樹脂塗膜を形成してもよい。
【0051】
主成分となる有機樹脂の種類は、プレコート鋼板用の塗料に適用されうる樹脂であれば、特に限定されない。使用しうる樹脂の例には、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アクリル−スチレン樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂もしくはベンゾグアナミン樹脂、およびこれらの樹脂をウレタン変性、シリコーン変性もしくはエポキシ変性した樹脂が含まれる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
有機樹脂塗膜は、透明でもよいが、任意の着色顔料を加えて着色されていてもよい。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄、ベンガラ、チタンイエロー、コバルトブルー、コバルトグリーン、アニリンブラック、フタロシアニンブルーなどが含まれる。また、有機樹脂塗膜には、パール顔料や、アルミやステンレス、ニッケルなどの金属粉からなるメタリック顔料などが配合されていてもよい。
【0053】
有機樹脂塗膜には、耐食性を向上させる観点から、防錆顔料が配合されていてもよい。防錆顔料の例には、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、酸化亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウムなどが含まれる。また、有機樹脂塗膜には、体質顔料が配合されていてもよい。体質顔料の例には、硫酸バリウム、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウムなどが含まれる。
【0054】
さらに、有機樹脂塗膜には、塗膜硬度および耐摩耗性を向上させる観点または塗膜表面に凹凸を付与し外観を向上させる観点から、鱗片状無機質添加材や無機質繊維、粒状または塊状の有機骨材、粒状または塊状の無機骨材、つや消し剤などが配合されていてもよい。鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、硫酸バリウムフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、合成アルミナフレーク、シリカフレーク、雲母状酸化鉄(MIO)などが含まれる。無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。有機骨材の例には、アクリルビーズ、ポリアクリロニトリル(PAN)ビーズなどが含まれる。無機骨材、つや消し剤の例には、ガラスビース、シリカ粉などが含まれる。
【0055】
有機樹脂塗膜の膜厚は、特に限定されないが、エンボス鋼板の凸部の頂点における膜厚が1〜30μmの範囲内であればよい。凸部の頂点における膜厚が1μm未満の場合、耐水性および耐食性を十分に付与することができない。一方、凸部の頂点における膜厚が30μm超の場合、焼き付けの際にワキが発生しやすくなり、塗膜の外観を損なうおそれがある。
【0056】
有機樹脂塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、有機樹脂、必要に応じて着色顔料や防錆顔料などを含む塗料を化成処理皮膜の表面に塗布し、焼き付ければよい。
【0057】
塗料の溶剤の種類は、主成分となる有機樹脂を溶解しうる溶剤であれば、特に限定されない。使用しうる溶剤の例には、トルエン、キシレン、高沸点石油系炭化水素などの炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテルアルコール系溶剤などが含まれる。これらの溶剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0058】
塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。また、塗料の焼き付け条件(温度、時間)も、特に限定されず、塗料に応じて適宜設定すればよい。
【0059】
以上のように、本発明の塗装エンボス鋼板では、化成処理皮膜に所定のチタン化合物およびジルコニウム化合物を含ませることで、化成処理皮膜の塗膜密着性(加工性)および耐水性を向上させている。また、本発明の塗装エンボス鋼板では、エンボス鋼板の凸部の周辺における合計金属換算付着量を150mg/m以下とすることで、凸部の周辺における塗膜密着性および耐水性を向上させている。さらに、エンボス鋼板の平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における合計金属換算付着量を1.5mg/m以上とし、かつ平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における二酸化ケイ素粒子の付着量をSi換算で0.1mg/m以上とすることで、エンボス鋼板の平坦部(凹部)および凸部における塗膜密着性(加工性)を向上させている。
【0060】
本発明の塗装エンボス鋼板は、塗膜密着性、耐水性および意匠性に優れているため、例えば家電製品外板やキッチン部材用のプレコート鋼板として有用である。
【0061】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0062】
1.塗装エンボス鋼板の作製
塗装原板として、以下の3種類のエンボス鋼板を準備した。
[エンボス鋼板A]
SUS304(BA仕上げ)、板厚0.5mm、不規則柄、凸部面積率80%、凸部高さ50μm
[エンボス鋼板B]
溶融亜鉛めっき鋼板、板厚0.5mm、水玉柄(直径1mm)、凸部面積率20%、凸部高さ30μm
[エンボス鋼板C]
SUS430(2B仕上げ)、板厚0.5mm、縞柄(幅1mm)、凸部面積率50%、凸部高さ20μm
【0063】
各エンボス鋼板(エンボス鋼板A〜C)の表面に、表1に示す組成の化成処理液(No.1−1〜No.1−8)を所定付着量になるようにロールコーターで塗布し、到達板温40〜200℃で10秒間乾燥させて、表2に示す化成処理エンボス鋼板(実施例:No.2−1,No.2−2,No.2−5〜No.2−10,No.2−12〜No.2−15、比較例:No.2−3,No.2−4,No.2−11)を作製した。このとき、乾燥温度を調整して、皮膜中のフッ化物の割合をコントロールした。二酸化ケイ素粒子は、スノーテックスO(平均粒径:10〜20nm;日産化学工業株式会社)を使用した。
【0064】
各化成処理エンボス鋼板の表面におけるフッ化物と酸化物および水酸化物とのモル比は、X線光電子分光法(XPS;ESCA)で測定した。具体的には、TiおよびZrのピークをX−F、X−OおよびX−OH(X:Ti,Zr)に波形分離した後、各成分を定量化して、比率を特定した。ここで測定されたフッ化物の量は、化成処理皮膜に含まれるチタンのフッ化物およびジルコニウムのフッ化物の合計含有量に相当する。同様に、測定された酸化物および水酸化物の量は、化成処理皮膜に含まれるチタンの酸化物および水酸化物ならびにジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量に相当する。チタンとジルコニウムのモル比は、チタンの酸化物および水酸化物と、ジルコニウムの酸化物および水酸化物とのモル比に相当する。各化成処理エンボス鋼板の表面における二酸化ケイ素粒子の付着量は、蛍光X線分析法(XRF)で測定した。
【0065】
【表1】

【表2】

【0066】
化成処理鋼板(No.2−1〜No.2−15)の表面に、表3に示す塗料を所定膜厚になるようにバーコーターで塗布し、到達板温230℃で60秒間焼き付けて、表4に示す塗装エンボス鋼板(実施例:No.4−1〜No.4−6,No.4−9〜No.4−14,No.4−16〜No.4−19、比較例:No.4−7,No.4−8,No.4−15)を作製した。
【0067】
【表3】

【表4】

【0068】
2.塗装エンボス鋼板の評価
(1)加工密着性試験
各塗装エンボス鋼板から試験片(50mm×50mm)を切り出し、加工密着性試験を実施した。各試験片について180度密着折り曲げ加工(0T曲げ加工)を行った。各試験片の曲げ加工部にセロハンテープを貼り付けた後、曲げ稜線に対して垂直にテープを剥がして、塗膜の残存率を測定し、加工密着性を評価した。塗膜の残存率が100%の場合を「◎」、95%以上100%未満の場合を「○」、95%未満の場合を「×」と評価した。
【0069】
(2)耐水性試験
各塗装エンボス鋼板から試験片(50mm×50mm)を切り出し、耐水性試験を実施した。各試験片を95℃以上の熱水に120時間浸漬した後、1mm各の碁盤目を100個作製した。各試験片の碁盤目部分にセロハンテープを貼り付けた後、試験片表面に対して垂直にテープを剥がして、塗膜の残存率を測定し、耐水性を評価した。塗膜の残存率が100%の場合を「◎」、95%以上100%未満の場合を「○」、95%未満の場合を「×」と評価した。
【0070】
(3)結果
表5は、各塗装エンボス鋼板の評価結果を示す表である。
【表5】

【0071】
表5に示されるように、本発明の塗装エンボス鋼板(No.4−1〜No.4−6,No.4−9〜No.4−14,No.4−16〜No.4−19)は、加工部密着性および耐水性について良好な評価を得られた。また、No.4−1とNo.4−14とを比較してわかるように、二酸化ケイ素粒子の付着量がSi換算で0.1mg/m以上の場合に、加工部密着性および耐水性について特に良好な評価を得ることができた。
【0072】
これに対し、化成処理皮膜に二酸化ケイ素粒子が含まれていないNo.4−15の塗装エンボス鋼板は、加工部密着性の評価が劣っていた。これは、エンボス鋼板の平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における塗膜密着性が不足しているためと考えられる。
【0073】
また、化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量の最大値(凸部周辺の値)が150mg/m超のNo.4−7の塗装エンボス鋼板は、耐水性の評価が劣っていた。これは、凸部周辺部に可溶成分が過剰量存在しており、凸部周辺部において耐水性が低下したためと考えられる。
【0074】
また、化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量の最小値(凸部頂点の値)が1.5mg/m未満のNo.4−8の塗装エンボス鋼板は、加工部密着性の評価が劣っていた。これは、化成処理皮膜に二酸化ケイ素粒子が含まれているものの、化成処理皮膜の金属の付着量が過少量であり、エンボス鋼板の平坦部(凹部)および凸部の頂点付近における塗膜密着性が不足したためと考えられる。
【0075】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板は、塗膜密着性および耐水性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の塗装エンボス鋼板は、塗膜密着性、耐水性および意匠性に優れているため、例えば家電製品外板やキッチン部材用のプレコート鋼板として有用である。
【符号の説明】
【0077】
10、110 エンボス鋼板
20、120 化成処理皮膜
100 塗装エンボス鋼板
122 二酸化ケイ素粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工を施されたエンボス鋼板と、
前記エンボス鋼板の表面に形成され、チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物と、平均粒径が10〜50nmの二酸化ケイ素粒子とを含む化成処理皮膜と、
前記化成処理皮膜の表面に形成された有機樹脂塗膜と、を有し、
前記化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量は、前記化成処理皮膜のすべての部位において、1.5〜150mg/mの範囲内である、
塗装エンボス鋼板。
【請求項2】
前記化成処理皮膜全面についての、前記化成処理皮膜のチタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量の平均値は、2〜20mg/mの範囲内である、請求項1に記載の塗装エンボス鋼板。
【請求項3】
前記化成処理皮膜における、前記チタンのフッ化物および前記ジルコニウムのフッ化物の合計含有量に対する、前記チタンの酸化物および水酸化物ならびに前記ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量のモル比は、0.2〜3の範囲内である、請求項1に記載の塗装エンボス鋼板。
【請求項4】
前記化成処理皮膜における、前記チタンの酸化物および水酸化物の合計含有量に対する、前記ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量のモル比は、0.2〜1.2の範囲内である、請求項1に記載の塗装エンボス鋼板。
【請求項5】
前記化成処理皮膜の前記二酸化ケイ素粒子の付着量は、前記化成処理皮膜のすべての部位において、Si換算で0.1〜30mg/mの範囲内である、請求項1に記載の塗装エンボス鋼板。
【請求項6】
前記エンボス鋼板は、表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工を施されたステンレス鋼板またはめっき鋼板である、請求項1に記載の塗装エンボス鋼板。
【請求項7】
前記塗装エンボス鋼板は、プレコート鋼板である、請求項1に記載の塗装エンボス鋼板。
【請求項8】
表面に複数の微細な凸部を形成するエンボス加工が施されたエンボス鋼板を準備するステップと、
前記エンボス鋼板の表面に、チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、平均粒径が10〜50nmの二酸化ケイ素粒子とを含む化成処理液を塗布し、乾燥させて、化成処理皮膜を形成するステップと、
前記化成処理皮膜の表面に、有機樹脂塗料を塗布し、焼き付けて、有機樹脂塗膜を形成するステップと、
を有する、塗装エンボス鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記化成処理液の前記二酸化ケイ素粒子の含有量は、Si換算で0.5〜5g/Lの範囲内である、請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−207132(P2011−207132A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78533(P2010−78533)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】