説明

塗装スプレー缶

【課題】一般大衆ユーザでも手軽に高品質を維持した銀鏡メッキ塗装が可能な携帯型塗装スプレー缶。
【解決手段】 第一バルブ19および第二バルブ20に連通して容器本体2内部に吊り下げられ、第一塗装液12および第二塗装液13を充填した第一袋体3および第二袋体4、および、該第一袋体3および第二袋体4外部における容器本体2の内部空間に充填された充填剤11を具備し、操作部材8により第一バルブ19および第二バルブ20が同時に開操作されたときに、充填剤11の加圧力により第一塗料液12および第二塗料液13が第一噴射ノズル9および第二噴射ノズル10から同時に吐出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀鏡反応を利用した銀鏡塗装(「銀鏡メッキ塗装」ともいう。)に用いられる塗装スプレー缶に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムメッキ技術は重金属類である環境負荷物質を多用するため、近年、その代替技術として銀鏡反応を応用して被塗装素材の表面に純銀の皮膜を形成する鏡面処理技術の需要が増大している。これは環境に優しい銀鏡メッキ技術であり、本出願人も非特許文献1に開示されているように、新開発の二頭ガンを使用し、樹脂、金属、竹、陶器類、ゴム等のほとんどの被塗装物に深みと輝きある銀鏡仕上げを工場内で業務として実施し、また、二頭ガンを含む業務用パッケージ器材(銀鏡メッキ塗装システム)およびその溶剤を販売しているところである。
【0003】
しかし、かかる銀鏡メッキ塗装システムは一般の個人ユーザ等には大がかりな設備であり、一般ユーザ等が手軽で簡便に使用することができない。
そこで、一般大衆でも手軽に銀鏡メッキを行えるスプレー缶方式の技術開発が要請されている。
ところで、従来、スプレー缶内部に二つの内容物を収納し、これら内容物を噴射させるスプレー缶に関する技術としては、特許文献1〜特許文献3が、また、内容物を袋体に充填して、袋体外部から圧力をかけて袋体内の内容物を噴射させる技術として特許文献4,特許文献5がそれぞれ公知である。
【非特許文献1】http://mirror-art.jp/index.html
【特許文献1】特開2004−322030号公報
【特許文献2】特開2003−292072号公報
【特許文献3】特開平11−278554号公報
【特許文献4】特開2001−253484号公報
【特許文献5】実開昭63−156987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載のスプレー缶は、第一容器に第二容器を連結部材により上下に連結し、二液をバルブから吐出させる構造を有する技術である。特許文献2のものは、外容器と内容器との二重構造容器に形成したスプレー缶である。特許文献3は2つの容器を横に並列に結合した形態のスプレー缶構造である。
【0005】
しかしながら、特許文献1〜特許文献3のスプレー缶にあっては、内容物(溶液)を加圧してノズルから噴射させる噴射剤と、内容物とが直接にスプレー缶内で触れる。すなわち、隔離構造を有していないため、内容物と噴射剤とが混合し、内容物の純度が低下するという問題がある。換言すると、このような形態のスプレー缶を銀鏡メッキ塗装用に用いたとすると、銀鏡メッキの仕上がり時におけるメッキ品質がすこぶる悪いものとなる問題がある。
【0006】
また、上記の特許文献4には、二溶液を噴射する構造のスプレー缶であるが、外容器内の内容物(成分)は噴射剤(噴射ガス)と混合可能な形態であり、したがって純度の低下した内容物が噴射される。しかも、袋体内の内容物(成分)と外容器内の内容物とがバルブで混合された状態で噴射されるため、鏡面メッキ塗装に適さない構造のものである。
また、上記の特許文献5にあっては、容器内に袋体を吊り下げた形態のスプレー缶構造を有するが、二つの内容物(溶液)を同時に噴射する構造ではない。
【0007】
本発明は、上記の技術的課題に鑑みてなされたもので、一般ユーザでも手軽に高品質を維持した銀鏡メッキ塗装が可能な塗装スプレー缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては次のような手段を講ずることとした。
(1)すなわち、本発明は塗装スプレー缶であって、耐圧性の容器上部に設けた第一バルブおよび第二バルブ、該第一バルブおよび第二バルブを同時に開閉可能に設けられ、該第一バルブおよび第二バルブに連通する第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルを有する操作部材、該第一バルブおよび第二バルブに連通して前記容器本体内部に吊り下げられ、第一塗装液および第二塗装液を充填した第一袋体および第二袋体、および、該第一袋体および第二袋体外部における前記容器本体の内部空間に充填された充填剤を具備し、前記操作部材により前記第一バルブおよび第二バルブが同時に開操作されたときに、前記充填剤の加圧力により前記第一塗料液および第二塗料液が前記第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルから同時に吐出されるように構成したことを特徴とする。
本発明の構成によれば、第一袋体および第二袋体は容器本体内部に充填された充填剤によりその外周を加圧状態に加圧されているので、操作部材を操作して第一バルブおよび第二バルブを同時に外気と連通させると、第一塗料液および第二塗料液が第一バルブおよび第二バルブを介して第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルからほぼ同時に等しい噴射圧力で吐出される。このように、塗装スプレー缶の操作部材を操作するだけの簡便な操作で、被塗装物に第一塗料液と第二塗料液とだけが同時に塗布され塗装を行うことができ、個人ユーザでも塗装スプレー缶を容易、簡単に取り扱うことで塗装を行うことができる。
【0009】
また、充填剤は一切、第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルから外部へ噴射されないように密封されているので、第一塗料液および第二塗料液が完全に消費されるまで第一袋体および第二袋体を加圧しつづけるので、一定の塗装品質を得ることができる。
なお、係る塗装スプレー缶は、銀鏡メッキ塗装は勿論のこと、一般の塗装液による塗装にも応用できるのは勿論である。
【0010】
また、本発明における第一袋体および第二袋体は充填剤の液中に漬かっているので、浮力を受け、各袋体に掛かる負荷は軽減される状態で第一バルブおよび第二バルブに吊り下げられている。
【0011】
(2)また、前記容器本体の底部に、前記充填剤の注入は許容するが、注入後の充填剤を外部へ漏洩させない注入部を設けたことを特徴とする。
この構成によれば、充填剤を、第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルから注入するのではなく、底部に設けた注入部から注入できるので、塗装スプレー缶の製作を効率的に行うことができる。また、一旦、充填剤を注入した後は、注入部は充填剤が外部へ漏洩しないように遮断するので、充填剤が不用意に外部へ漏れるのを回避できる。
【0012】
(3)また、前記容器本体の底部に、前記注入部を覆う蓋を設けたことを特徴とする。これによれば、注入部が損傷するの阻止することができるので、充填剤の漏洩による塗装不能の事態を招来するのを回避できる。
【0013】
(4)また、前記第一塗料液の成分は、硝酸銀溶液とアンモニア水で、前記第二塗料液の成分はチオ硫酸ナトリウム溶液であることを特徴とする。
係る構成とすることで、第一袋体からは硝酸銀溶液とアンモニア水が、第二袋体からは硝酸銀溶液とアンモニア水が第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルから同時に噴射可能である。このため、銀鏡メッキ塗装を行う場合、1番目に塩化スズ溶液を被メッキ面に塗布し、二番目に純水で洗浄し、三番目に、純粋で洗浄した後、硝酸銀溶液を塗布し、そして、四番目の工程で、この一液、二液をかけて銀鏡メッキ塗装が完成する。
被塗装面に硝酸銀溶液とアンモニア水およびチオ硫酸ナトリウム溶液が吐出されることにより、銀鏡反応による銀鏡メッキ塗装を手軽かつ簡便に施すことができるようになる。
したがって、従来技術のようなクロムメッキ工法における重金属のような環境負荷物質を使用しないため、人と環境に優しい銀鏡メッキを実現できる。
【0014】
(5)また、前記第一袋体および第二袋体を、可撓性を有するポリエチレン等の合成樹脂素材で形成したことを特徴とする。
係る構成により、第一袋体および第二袋体は充填剤に対する耐薬品、充填剤の加圧力に対する耐圧性を有するので、第一袋体および第二袋体は破損することなく内部に充填した第一塗料液および第二塗料液を保持でき、充填剤が浸入するのを回避できる。したがって、硝酸銀溶液とアンモニア水およびチオ硫酸ナトリウム溶液が混合して混じり合う事態を防止でき、第一塗料液および第二塗料液を純粋な状態で吐出するので、銀鏡メッキ塗装の品質を維持することが可能となる。
【0015】
(6)また、前記充填剤は、液化石油ガス(LPG)またはジメチルエーテル(DME)液化ガスであることを特徴とする。
係る構成により、第一袋体および第二袋体を、液化石油ガスあるいは液化メチルエーテルから及ぼされる加圧力により常時加圧状態に維持するので、第一塗料液および第二塗料液に圧縮力が作用し、この結果、第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルからの所定の吐出圧で第一塗料液および第二塗料液(硝酸銀溶液、アンモニア溶液およびチオ硫酸ナトリウム溶液)を噴射させることができるようになる。したがって、一般大衆が利用可能な塗装スプレー缶を実現することが可能となる。
【0016】
(7)また、前記第一袋体および第二袋体と、前記第一バルブおよび第二バルブとの間を、第一連通管および第二連通管を介して連通したことを特徴とする。
係る構成によれば、第一袋体および第二袋体を第一連通管および第二連通管の長さ調整をして容器本体に組み込み、第一バルブおよび第二バルブから吊り下げることができる。したがって、第一袋体および第二袋体の容量、すなわち、内部充填される塗料液が大容量となっても、これら連通管が有する強度により、第一袋体および第二袋体が第一バルブおよび第二バルブに対して安定した姿勢で支持されるので、バルブから外れたりするのを防止する上で有利となる。
【0017】
(8)また、前記第一連通管および第二連通管を、SUS304(ステンレス)またはポリエチレンで形成したことを特徴とする。
この構成により、第一連通管および第二連通管は硝酸銀溶液、アンモニア溶液、チオ硫酸ナトリウム溶液、さらには充填剤に晒されても耐腐食性が高いため、第一、第二連通管の腐食による損傷を良好に回避できるようになり、信頼性ある塗装スプレー缶を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塗装スプレー缶を手に把持して、自動車用バンパ、ステアリングホィール、ボデー外板等種々の被塗装物に噴射することで、一般ユーザでも手軽、簡便に高品質の銀鏡メッキ塗装が行える塗装スプレー缶を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図1〜図4を参照して詳述する。図1は一実施形態に係る塗装スプレー缶の概要を透視して模式的に示した外観図、図2は該塗装スプレー缶の容器本体の内部を正面から透視してみた透視図、図3は図2に対応する断面を拡大して示した縦断面図、図4は塗装スプレー缶の吐出作動時における作動を説明する図3と同様の縦断面図である。
【0020】
塗装スプレー缶1の概要構成を説明する。塗装スプレー缶1は、耐圧性能を考慮した素材で製作した容器本体2と、容器本体2の内部に収納される第一袋体3および第二袋体4と、容器本体2の上部に設けられるバルブ手段5と、第一袋体3とバルブ手段5とを連通する第一連通管6と、第二袋体4とバルブ手段5とを連通する第二連通管7と、バルブ手段5を開閉操作する機能を有する操作部材8と、操作部材8に形成されると共に、上記の第一連通管6および第二連通管7にそれぞれ連通する第一噴射ノズル9および第二噴射ノズル10と、容器本体2の内部空間に充填され、第一袋体3および第二袋体4をその周囲から加圧する充填剤11、充填剤11を容器本体2内へ注入する注入部14とで構成される。
【0021】
第一袋体3および第二袋体4には、内容物として第一塗料液12および第二塗料液13が充填されていて、操作部材8を下へ押し込んで、バルブ手段5を開作動させると、充填剤11で加圧された第一塗料液12および第二塗料液13は、第一連通管6および第二連通管7からバルブ手段5を経由して第一噴射ノズル9および第二噴射ノズル10から図示されない被塗装物へ吐出できるようになっている。
【0022】
塗装スプレー缶1をより具体的に説明していく。容器本体2はブリキ、スズ−ニッケル系鋼板、アルミニウム、ステンレス等の金属板、あるいは繊維強化樹脂素材をお用い、横断面円形状の胴部2a、底部2b、および上部2cを有する缶として成形加工により形成される。そして、容器本体2は、その内部空間に充填される充填剤11が外部へ漏洩しないように気密に保持され、かつ、充填剤の圧力に耐え得る耐圧構造に形成される。上部2cには後述するバルブ手段5や操作部材8が、また、底部2bには注入部14等が設けられる。
【0023】
第一袋体3には、銀鏡メッキ塗装に使用される第一塗料液としての硝酸銀溶液とアンモニア水との混合溶液12が、また、第二袋体4には、第二塗料液としてのチオ硫酸ナトリウム溶液13がそれぞれ充填される。なお、上記とは逆に、第一塗料液をチオ硫酸ナトリウム溶液とし、第二塗料液を硝酸銀溶液とアンモニア水としてもよい。
第一、第二両袋体3,4はポエチレン樹脂材を用い、可撓性を有するように薄膜状で内部に液体を収容保持できるように形成される。両袋体3,4はポリエチレン樹脂材で形成されるので、硝酸銀溶液、アンモニア溶液、およびチオ硫酸ナトリウム溶液に溶けて破れることがない。これにより、万一、袋体3,4が破れて充填剤が浸入して第一塗料液12や第二塗料液13に混じる事態が生じるのを阻止し、銀鏡メッキの品質低下や銀鏡メッキ
に支障を来したりしないようにしている。
【0024】
第一袋体3とバルブ手段5との間、および第二袋体4とバルブ手段5との間にはそれぞれ第一連通管6および第二連通管7が設けられる。各連通管6,7は好ましくは、SUS304と称される強度の高いステンレス材でなる管を使用するが、ポリエチレン製、あるいは上記したエチレンビニルアルコール等の合成樹脂材の管であってもよい。
【0025】
また、容器の底部2bには、注入部14が取り付けられる。この注入部14は、充填剤11を注入するときに使用されるもので、充填剤を注入するときは開作動するが、一旦、充填剤が注入された後は、閉作動して充填剤11が容器外部へ漏洩しない図示されない一方向弁の機構が内蔵されている。
【0026】
なお、注入部14には、符号15で示す注入細管が外部へ突出するように設けられるが、注入細管15を介して内部の弁機構を損傷させることがないようにするため、蓋16が底部2bに装着される。
【0027】
上記注入部14から注入される充填剤11としては、LPガス(液化石油ガス、LPG)が用いられ、容器本体2内に充填(注入)される。図2に示すように、注入された充填剤11は、容器本体2内において液相と気相との二相構造を呈して存在するが、第一、第二両袋体3,4は液相部分にそのかなりの部分が漬かった状態で、第一バルブ19および第二バルブ20から吊り下げられる(なお、図1では液相、気相の図示は省略した)。こうして、両袋体3,4はその外周から図4の矢印で示すように、充填剤11により常時加圧されるので、第一塗料液3および第二塗料液4は第一連通管6および第二連通管7を通じて第一バルブ19および第二バルブ20に至るまでの間を常に高圧状態で満ちた状態に維持されるようになっている。
【0028】
なお、LPガスの他に、ジメチルエーテル(DME)等の液化ガスを注入するようにしてもよい。
【0029】
次に、バルブ手段5を図3,図4を参照して説明する。該バルブ手段5はハウジング18を有し、容器本体2の上部2c中央に気水密機能を有するパッキン(シール材)17を介して取り付けられる。ハウジング18には、同一構造を有する第一バルブ19と、第二バルブ20とが並列に内蔵して配置される。例えば、第一バルブ19は、第一連通管6に連通する連通孔20aと、ハウジング18の内部を上下に摺動する摺動子21と、摺動子21を常時上方へ付勢するスプリングSとを具備する。
【0030】
摺動子21の外周面には図示はされないが、ハウジング18内周面との間で第一塗料液12を流通可能な上下方向の溝が形成されている。摺動子21の上方には摺動子21と一体に通路23を有するステム22が形成され、該ステム22には通路23とハウジング18内部とを連通する連通孔25が穿たれている。図4に示すスプレー缶の不使用状態では、連通孔25はパッキン17に塞がれ、第一袋体3は大気と連通するのを遮断されるが、使用時、操作部材8を下方へ押し込んだときには、連通孔25はハウジング18の内部空間に臨み、大気と連通する。これにより、第一袋体3内の第一塗料液12は第一噴射ノズル9から吐出されるにようになっている。
【0031】
第二バルブ20の構造も、第一バルブ19のそれと同一であり、その作動も上記したと同じである。第二バルブ20については、第一バルブ19に用いたと同じ符号を付すことで、その詳細構造の説明は割愛することとする。
【0032】
操作部材8は、第一バルブ19および第二バルブ20のステム22を嵌合することにより支持されると共に、その内部に各ステム22の通路23に連通する二個の噴射通路26が形成される。二個の噴射通路26の出口には第一噴射ノズル9および第二噴射ノズル10が設けられ、ここから第一塗料液12および第二塗料液13が被塗装物へ噴射(吐出)されるようになっている。
【0033】
こうして、操作部材8をスプリングSのバネ力に抗して押し込むことで、一対のステム22が同時にハウジング18内を下方へ摺動させることができ、第一塗料液12および第二塗料液13を同時に噴射ノズル12,13から外部へ吐出できるようになっている。
本一実施形態の塗装スプレー缶1の作用を説明する。塗装スプレー缶1により銀鏡塗装を行う場合は、塗装スプレー缶1を手に把持して行う。銀鏡塗装を行わない場合には、図3に示すように、各摺動子21は各スプリングSのバネ力により上方へ付勢され、各連通孔25はパッキン17に塞がれている。このため、第一袋体3および第二袋体4は大気から遮断された状態を維持し、その結果、第一塗料液(例えば、硝酸銀溶液)12および第二塗料液(例えば、アンモニア溶液)は各噴射ノズル9,10から外部へ吐出されることはない。
【0034】
この状態から操作部材8を下方へ押し込むと、図4に示すように、各ステム22と一体の各摺動子18はスプリングSのバネ力に抗して下方へ移動し、各連通孔25はパッキン17による閉止状態から解脱し、ステム22内の各通路23はハウジング18の内部と連通する。これにより、バルブ手段5は開操作され、第一袋体3および第二袋体4は大気と連通し、その結果、充填材11に加圧された第一塗料液12および第二塗料液13は、第一連通管6および第二連通管7から各連通孔25を軽油して各通路23,各噴射通路26を流動して第一噴射ノズル9および第二噴射ノズル10から被塗装物へ同時に噴射され、銀鏡塗装が行われることとなる。もっとも、充填材11は噴射されることはない。
【0035】
操作部材8を押し込む力を取り除くと、図3に示す状態に復帰する。すなわち、各スプリングSのバネ力で摺動子18は上方へ復帰し、各連通孔25は再びパッキン17で閉止される状態になる。このため、第一袋体3および第二袋体4は大気との連通が遮断され、第一塗料液12および第二塗料液13の噴射をカットすることができる。
【0036】
第一袋体3および第二袋体4は柔軟性かつ可撓性ある合成樹脂素材で形成されているので、第一塗料液12および第二塗料液13が減少するに及んで充填材11の加圧作用により容積が小さくなるようにしぼんでいく。その容積がしぼんでも、充填剤11が常に第一袋体3および第二袋体4の外部から加圧しているので、第一連通管6および第二連通管7と、ハウジング18内部には常に第一塗料液12および第二塗料液13が充満する状態が維持され、必要に応じて銀鏡塗装がいつでも可能となる。
【0037】
このように、本一実施形態に係る塗装スプレー缶1により、銀鏡メッキ塗装を行う場合には、1番目に塩化スズ溶液を被メッキ面に塗布し、二番目の工程として、純水で洗浄し、三番目に、純粋洗浄後の被塗装面に硝酸銀溶液を塗布し、そして、四番目の工程で、塗装スプレー缶1を手に持って、この一液、二液を吐出して塗布することにより銀鏡メッキ塗装が完成する。
【0038】
したがって、本一実施形態によれば、一般ユーザでも大がかりな銀鏡メッキシステムを導入することなく、塗装スプレー缶1を片手に把持して、片手で操作部材8を操作するだけの簡単な操作で、手軽で容易かつ簡便に銀鏡メッキ塗装を行うことができ、ひいては一般大衆向け商品として提供できる利点を有する。
【0039】
また、塗装スプレー缶1を構成する各要素、すなわち、各袋体3,4、各連通管6,7、各バルブ19,20、および操作部材8は第一塗料液12,第二塗料液13に溶けない物性を具備した素材で形成しているため、硝酸銀溶液およびアンモニア溶液の純度を低下することがない。この結果、銀鏡メッキ塗装の仕上がりは高品質なものを確保することができる利点がある。
【0040】
また、本塗装スプレー缶1によれば、従来技術のようなクロムメッキ技術とは異なり、重金属のような環境負荷物質を一切使用しないので、環境汚染を惹起する事態を回避できる利点もある。
【0041】
また、本一実施形態では、容器本体の上部2cの第一バルブ10および第二バルブ20とは別個に、底部2bに充填剤11を注入する注入部14を設けているので、各バルブ19,20の構造を簡単に構成することができる。また、注入部14は一旦、充填剤11を注入した後は、充填剤11が外部へ漏洩しない気密構造の弁構造を有するので、銀鏡メッキ塗装の吐出圧が低下することを回避できる。さらに、底部2bには蓋16が被せられるので、注入細管15による注入部14の弁構造を損傷しないようにしている。そのため、充填剤が外部へ漏洩することを防止できる。
【0042】
以上、本発明を上記実施形態により説明してきたが、具体的な構成は上記一実施形態に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明の範囲に含まれるものである。
【0043】
上記一実施形態では、銀鏡メッキ塗装に用いる塗装スプレー缶を例に挙げて説明したが、勿論、これ以外の通常の塗装を行う場合にも適用できるのは言うまでもない。
【0044】
また、上記一実施形態では、第一袋体3および第二袋体4の吊り下げ位置を底部2bからほぼ同じ高さの位置に吊り下げるようにしたが、この代わりに、いずれか一方の袋体を他方の袋体よりも上下に高さをずらすようにして吊り下げるようにしてもよいのは勿論である。
【0045】
また、上記一実施形態では、各袋体3,4をポリエチレン樹脂材を使用して形成したが、これ以外の柔軟性と気水密性を具備する合成樹脂材を用いて形成してもよい。例えば、係る合成樹脂材としては、エチレンビニルアルコール、バレックス、PAN、PET、LDE、PVC、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン等を用いることもできる。
【0046】
なお、上記一実施形態では、連通管6,7を用いて第一袋体3および第二袋体4を第一バルブ19および第二バルブ20に連通させたが、連通管6,7を用いることなく、第一袋体および第二袋体を直接に第一バルブ19および第二バルブ20に連通する構造としてもよい。
【0047】
また、上記一実施形態に挙げたバルブ手段5の構造は一例であり、これに限定されないことは言うまでもない。
【0048】
また、上記一実施形態では、第一バルブ19および第二バルブ20を共通のハウジング18で結合した態様で形成した場合について説明したが、各バルブ19,20を切り離して別個に独立したハウジングを有する構造にすることも可能である。
【0049】
また、この一実施形態に係るスプレー缶は、上記したように第1番目から第3番目までも前工程を終えた後に、第4番目の工程で使用して第1塗料液(硝酸銀溶液とアンモニア水)および第2塗料液(チオ硫酸ナトリウム溶液)を同時に塗布して銀鏡メッキを行う場合について説明したが、第1〜第3番目の前工程を省略してもよい。これにより、第4番目の工程であるスプレー缶1からの吐出だけでも、銀鏡メッキ塗装を実現できるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、銀鏡メッキ塗装等に用いられる携帯タイプの塗装スプレー缶に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗装スプレー缶の概要を透視して模式的に示した外観図である。
【図2】上記塗装スプレー缶の容器本体の内部を正面から透視してみた正面図である。
【図3】図2の塗装スプレー缶を縦断面図で示した拡大縦断面図である。
【図4】同じく、塗料液を吐出する作動状態を説明する図3と同様の縦断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 塗装スプレー缶
2 容器本体
3 第一袋体
4 第二袋体
5 バルブ手段
6 第一連通管
7 第二連通管
8 操作部材
9 第一噴射ノズル
10 第二噴射ノズル
11 充填部材
12 第一塗料液
13 第二塗料液
14 注入部材
15 注入細管
16 蓋
17 パッキン
18 ハウジング
19 第一バルブ
20 第二バルブ
21 摺動子
22 ステム
23 通路
25 連通孔
S スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧性の容器本体上部に設けた第一バルブおよび第二バルブ、該第一バルブおよび第二バルブを同時に開閉可能に設けられ、該第一バルブおよび第二バルブに連通する第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルを有する操作部材、該第一バルブおよび第二バルブに連通して前記容器本体内部に吊り下げられ、第一塗装液および第二塗装液を充填した第一袋体および第二袋体、および、該第一袋体および第二袋体外部における前記容器本体の内部空間に充填された充填剤を具備し、前記操作部材により前記第一バルブおよび第二バルブが同時に開操作されたときに、前記充填剤の加圧力により前記第一塗料液および第二塗料液が前記第一噴射ノズルおよび第二噴射ノズルから同時に吐出されるように構成したことを特徴とする塗装スプレー缶。
【請求項2】
前記容器本体の底部に、該容器本体への前記充填剤の注入は許容するが、注入後の充填剤を外部へ漏洩させない注入部を設けたことを特徴とする請求項1記載の塗装スプレー缶。
【請求項3】
前記容器本体の底部に、前記注入部を覆う蓋を設けたことを特徴とする請求項2記載の塗装スプレー缶。
【請求項4】
前記第一塗料液の成分は、硝酸銀溶液とアンモニア水で、前記第二塗料液の成分はチオ硫酸ナトリウム溶液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装スプレー缶。
【請求項5】
前記第一袋体および第二袋体を、可撓性を有するポリエチレン等の合成樹脂素材で形成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗装スプレー缶。
【請求項6】
前記充填剤は、液化石油ガス(LPG)またはジメチルエーテル(DME)液化ガスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗装スプレー缶。
【請求項7】
前記第一袋体および第二袋体と、前記第一バルブおよび第二バルブとの間を、第一連通管および第二連通管を介して連通したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の塗装スプレー缶。
【請求項8】
前記第一連通管および第二連通管を、SUS304(ステンレス)またはポリエチレンで形成したことを特徴とする請求項7記載の塗装スプレー缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−40464(P2009−40464A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207290(P2007−207290)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(507243083)
【Fターム(参考)】