説明

塗装ブースの排気リサイクル空調システム

【課題】ランニングコストを抑えることができる塗装ブースの排気リサイクル空調システムを提供すること。
【解決手段】排気リサイクル空調システム1は、塗装ブース2、フレッシュ空調機3、リサイクル空調機4、ヒートポンプ5、及び制御装置6を備える。リサイクル空調機4は、第1クーラコイル41、第2クーラコイル42、第1レヒータ43、及び第2レヒータ44を有する。第1クーラコイル41は、ヒートポンプ5で冷却された冷水W2を利用して空気を冷却し、第2クーラコイル42は、冷熱源32で冷却された冷水W1を利用して空気を冷却する。第1レヒータ43は、ヒートポンプ5で加熱された温水W3を利用して空気を暖め、第2レヒータ44は、熱源31で加熱された蒸気S1を利用して空気を暖める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気を一定方向に流しつつ被塗物に塗料を吹き付けて塗装を行う塗装ブースを備え、塗装ブースから排気される空気の一部を回収し、その空気の温度及び湿度を調節して再び塗装ブースに循環させる塗装ブースの排気リサイクル空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディなどを塗装するための塗装ブースは、塗装室の上側に設けられた給気室からフィルタを介して塗装室に空調空気を流下させて塗装を行うとともに、塗装の際にオーバースプレーされた塗料ミストを含む汚染空気を床下に設けられた排気室から排気するよう構成されている。この構成により、塗装室内の作業環境の悪化や、塗料ミストのカブリによって被塗物の品質が損なわれるといった問題が解消される。
【0003】
図4は、従来の塗装ブースの空調システム80の概略構成を示している。図4に示されるように、空調システム80は、塗装ブース81と外気空調機82と循環空調機83とを備える。外気空調機82は、塗装ブース81の外部から空気を取り込み、その空気を所定温度及び所定湿度に調節した後、ファン84を介して塗装ブース81に向けて送気する。循環空調機83は、塗装ブース81から排気される空気の一部をファン85を介して回収し、その空気を所定温度及び所定湿度に調節した後、ファン86を介して再び塗装ブース81に向けて送気する。なお、塗装ブース81から排気される空気の一部は、ファン87を介して大気に放出される。
【0004】
また、塗装ブースから排気される空気の一部を塗装ブースに循環させる上記のような空調システムは、特許文献1,2等にも開示されている。
【特許文献1】特開平5−269414号公報
【特許文献2】特開昭59−199076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の空調システム80に用いられている循環空調機83では、冷却器を用いて空気の温度を下げて空気に含まれる水分を除去した後、ヒータで加熱して空気を暖めることにより、空調空気が予め設定した温度及び湿度となるように制御している。この循環空調機83では、空気の冷却時及び空気の加熱時にそれぞれエネルギーが必要となる。従来では、これら冷却エネルギー及び加熱エネルギーを冷熱源及び熱源を利用して得るようにしているため、ランニングコストが嵩んでしまう。特に、自動車ボディを塗装する塗装ブース81はサイズが大きく、必要となる空調空気も膨大な量となる。このため、ランニングコストを低く抑えることができる空調システムが望まれている。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ランニングコストを抑えることができる塗装ブースの排気リサイクル空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明では、空調された空気を一定方向に流しつつ被塗物に塗料を吹き付けて塗装を行うための塗装ブースと、前記塗装ブースの外部から空気を取り込み、その空気の温度及び湿度を調節して前記塗装ブースに向けて送気する外気空調機と、前記塗装ブースから排気される空気の一部を回収し、その空気の温度及び湿度を調節して再び前記塗装ブースに向けて送気する循環空調機と、熱媒体を冷却する吸熱部及び熱媒体を加熱する放熱部を有する圧縮式熱分離手段とを備え、前記循環空調機は、回収した空気を冷却して除湿する空気冷却手段と、前記空気冷却手段の下流側に配置され、その空気冷却手段で除湿された空気を暖める空気加熱手段とを有し、前記空気冷却手段は、前記圧縮式熱分離手段の前記吸熱部で冷却された熱媒体を利用して空気を冷却する主空気冷却手段を含み、前記空気加熱手段は、前記圧縮式熱分離手段の前記放熱部で加熱された熱媒体を利用して空気を暖める主空気加熱手段を含むことを特徴とする塗装ブースの排気リサイクル空調システムをその要旨とする。
【0008】
従って、上記手段1に記載の発明によれば、圧縮式熱分離手段において、吸熱エネルギーと放熱エネルギーとが効率よく発生され、各エネルギーを利用して吸熱部では熱媒体が冷却され、放熱部では熱媒体が加熱される。そして、循環空調機において、空気冷却手段の主空気冷却手段により、圧縮式熱分離手段の吸熱部で冷却された熱媒体を利用して空気が冷却されて除湿される。また、空気冷却手段の下流側には空気加熱手段が配置されており、その空気加熱手段の主空気加熱手段により、圧縮式熱分離手段の放熱部で加熱された熱媒体を利用して空気が暖められる。本発明のように、循環空調機において塗装ブースから排気される空気を回収してその温度及び湿度を調節する場合、外気を空調する場合と比較して、調節すべき温度及び湿度とのズレ量が少なく必要となるエネルギーが少なくなる。またこの場合、温度及び湿度の調節に必要となる吸熱エネルギーと放熱エネルギーとがほぼ等しくなる。従って、本発明のように、循環空調機で必要となるエネルギーを圧縮式熱分離手段で得るようにすれば、エネルギーを効率よく使用することができ、空調システムのランニングコストを低く抑えることができる。
【0009】
手段2に記載の発明は、上記手段1において、前記空気冷却手段は、補助冷熱源で冷却された熱媒体を利用して前記空気を冷却する副空気冷却手段をさらに含むことをその要旨とする。
【0010】
従って、上記手段2に記載の発明によれば、塗装ブースから回収された空気の温度が高く、圧縮式熱分離手段の吸熱部の吸熱エネルギーだけでは空気を十分に冷やせない場合、副空気冷却手段により、補助冷熱源で冷却された熱媒体を利用して空気を確実に冷却することができる。
【0011】
手段3に記載の発明は、上記手段1または2において、前記空気加熱手段は、補助熱源で加熱された熱媒体を利用して前記空気を暖める副空気加熱手段をさらに含むことをその要旨とする。
【0012】
従って、上記手段3に記載の発明によれば、圧縮式熱分離手段の放熱部の放熱エネルギーだけでは空気を十分に暖められない場合、副空気加熱手段により、補助熱源で加熱された熱媒体を利用して空気を確実に暖めることができる。
【0013】
手段4に記載の発明は、上記手段3において、前記空気冷却手段において、前記主空気冷却手段は、前記副空気冷却手段の上流側に配置され、前記空気加熱手段において、前記主空気加熱手段は、前記副空気加熱手段の上流側に配置されることをその要旨とする。
【0014】
従って、上記手段4に記載の発明によれば、主空気冷却手段は、副空気冷却手段の上流側に配置されているので、主空気冷却手段によって空気を効率よく冷却することができる。また、主空気加熱手段は、副空気加熱手段の上流側に配置されているので、主空気加熱手段によって空気を効率よく加熱することができる。
【0015】
手段5に記載の発明は、上記手段1乃至4のいずれかにおいて、前記塗装ブース及び前記循環空調機を含んで構成される空気循環流路において、前記循環空調機の出口点、または前記外気空調機及び前記循環空調機から排出される空気の合流点以降の位置に配置される温度センサ及び湿度センサと、前記温度センサ及び前記湿度センサによって得られた温度及び湿度の情報に基づいて、前記空気の温度及び湿度が予め設定された温度及び湿度となるよう前記空気冷却手段及び前記空気加熱手段を制御する循環空調機制御手段とを備えたことをその要旨とする。
【0016】
従って、上記手段5に記載の発明によれば、温度センサ及び湿度センサによって、循環空調機の出口点、または外気空調機及び循環空調機から排出される空気の合流点以降の温度及び湿度の情報が取得され、循環空調機制御手段により、その温度及び湿度の情報に基づいて、空気冷却手段及び空気加熱手段が制御される。このようにすれば、塗装ブースに供給する空調空気を塗装に最適な温度及び湿度に調節することができる。
【0017】
手段6に記載の発明は、上記手段5において、前記循環空調機制御手段は、前記副空気冷却手段よりも前記主空気冷却手段を優先して稼動させるよう前記空気冷却手段を制御し、前記副空気加熱手段よりも前記主空気加熱手段を優先して稼動させるよう前記空気加熱手段を制御することをその要旨とする。
【0018】
従って、上記手段6に記載の発明によれば、循環空調機制御手段により主空気冷却手段が優先されて稼動され、空気の冷却に必要なエネルギーが不足する場合には、副空気冷却手段によってその不足するエネルギーが補助される。また、循環空調機制御手段により主空気加熱手段が優先されて稼動され、空気の加熱に必要なエネルギーが不足する場合には、副空気加熱手段によってその不足するエネルギーが補助される。このようにすると、圧縮式熱分離手段で発生するエネルギーを主空気冷却手段及び主空気加熱手段で無駄なく利用することができ、空調システムのエネルギー効率を高めることができる。
【0019】
手段7に記載の発明は、上記手段5または6において、前記循環空調機制御手段は、前記副空気冷却手段による吸熱エネルギーよりも前記副空気加熱手段による放熱エネルギーが小さくなるよう前記空気冷却手段及び前記空気加熱手段を制御することをその要旨とする。
【0020】
前記圧縮式熱分離手段は、理想的には吸熱部の吸熱エネルギーと放熱部の放熱エネルギーは等しくなるが、実際の稼動時には機械的ロス等が生じるため、放熱エネルギーが大きくなるといった特性になる。従って、上記手段6に記載の発明のように、副空気冷却手段による吸熱エネルギーよりも副空気加熱手段による放熱エネルギーが小さくなるよう制御することにより、空気が必要以上に暖められることを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上詳述したように、請求項1〜7に記載の発明によると、塗装ブースの排気リサイクル空調システムのランニングコストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態における塗装ブースの排気リサイクル空調システムを示す概略構成図である。
【0023】
図1に示されるように、排気リサイクル空調システム1は、塗装ブース2とフレッシュ空調機3(外気空調機)とリサイクル空調機4(循環空調機)とヒートポンプ5(圧縮式熱分離手段)と制御装置6(循環空調機制御手段)とを備える。
【0024】
塗装ブース2は、被塗物(例えば、自動車部品など)の塗装を行うための塗装室11と、塗装室11の上側に設けられ塗装室11にダウンフロー(上方から下方に向かう一定方向)の空気を供給するための給気室12と、塗装室11の下側に設けられその塗装室11内の空気を排気するための排気室13とを備える。本実施の形態の塗装ブース2において、フレッシュ空調機3から排出される空気A1とリサイクル空調機4から排出される空気A2とが給気室12で混合された後、ダウンフローの空調空気として塗装室11に供給されている。
【0025】
そして、塗装室11において、図示しない塗装機から塗料ミストを噴射することで被塗物の塗装が行われる。このとき、塗装機からオーバースプレーされて飛散した塗料ミストは、塗装室11内に作用するダウンフローの空調空気によって塗装室11から排気室13に排出される。排気室13では、ブース循環水を使用して空気中に含まれる塗料ミストが捕捉され塗料が回収される。また、排気室13から排出される空気A3の一部は、送風ファン15によってリサイクル空調機4に送られる一方、残りの空気は送風ファン16によって大気に放出される。
【0026】
なお、本実施の形態において、リサイクル空調機4に回収される空気A4のリサイクル率は、例えば40%〜80%程度である。また、フレッシュ空調機3に取り込まれる空気A0とほぼ同量の空気A3が送風ファン16を通して大気に放出されるようになっている。
【0027】
フレッシュ空調機3は、外部からの空気A0を所定温度(例えば、23℃)及び所定湿度(例えば、70%RH)に調節する空調機であり、1次フィルタ21、2次フィルタ22、プレヒータ23、加湿器24(ワッシャ)、加熱加湿器25(ダイレクトスチーム)、冷却器26、及びレヒータ27を備える。フレッシュ空調機3において、プレヒータ23、加熱加湿器25、及びレヒータ27には熱源31から蒸気S1が供給され、冷却器26には冷熱源32から冷水W1が供給されている。このフレッシュ空調機3において、外部から取り込まれた空気A0は、1次フィルタ21及び2次フィルタ22で浄化された後、プレヒータ23、加湿器24、加熱加湿器25、冷却器26及びレヒータ27によって調温・調湿される。なお、フレッシュ空調機3では、空気A0の取り込み口付近に温度センサ34及び湿度センサ35が設けられ、加湿器24の上流側及び下流側に湿度センサ36,37が設けられている。また、フレッシュ空調機3と熱源31とを接続する蒸気S1の供給流路やフレッシュ空調機3と冷熱源32とを接続する冷水W1の供給流路の途中には流量調節弁(図示略)が設けられている。そして、各センサ34〜37の検出値によって、図示しない制御装置が流量調節弁を駆動することにより、プレヒータ23、加熱加湿器25、及びレヒータ27への蒸気S1の供給量が制御されるとともに冷却器26への冷水W1の供給量が制御される。この結果、塗装に最適な温度及び湿度となるよう空気A1が調節される。そして、所定温度及び所定湿度に調節された空気A1が送風ファン39によってフレッシュ空調機3から給気室12に送られる。
【0028】
リサイクル空調機4は、排気室13から排出された空気A3を所定温度(例えば、23℃)及び所定湿度(例えば、70%RH)に調節する空調機であり、第1クーラコイル41(主空気冷却手段)、第2クーラコイル42(副空気冷却手段)、第1レヒータ43(主空気加熱手段)、及び第2レヒータ44(副空気加熱手段)を備える。なお、排気室13から排出される空気A3は、温度が例えば22℃程度であり湿度が85%RH程度である。第1クーラコイル41には、ヒートポンプ5から冷水W2が供給され、第2クーラコイル42には、冷熱源32から流量調節弁45を介して冷水W1が供給される。また、第1レヒータ43には、ヒートポンプ5から温水W3が供給され、第2レヒータ44には、熱源31から流量調節弁46を介して蒸気S1が供給されている。なお、ここで用いる熱源31及び冷熱源32は、フレッシュ空調機3で使用する冷熱源及び熱源である。
【0029】
リサイクル空調機4において、塗装ブース2から回収された空気A4は、第1クーラコイル41、第2クーラコイル42、第1レヒータ43、及び第2レヒータ44によって調温・調湿される。そして、調温・調湿された空気A2が送風ファン49によってリサイクル空調機4から給気室12に送られる。
【0030】
図2に示されるように、ヒートポンプ5は、冷媒が流れる冷媒流路50を有している。冷媒流路50は環状をなす閉じられた流路であり、冷媒流路50上には、凝縮器51(放熱部)、蒸発器52(吸熱部)、コンプレッサ53、及び膨張弁54が設置されている。凝縮器51は、冷媒流路50と温水流路56との間で熱交換をする熱交換器であり、冷媒流路50を流れる冷媒の熱が温水流路56を流れる水に伝達(放熱)されるようになっている。また、蒸発器52は、冷媒流路50と冷水流路57との間で熱交換をする熱交換器であり、冷媒流路50を流れる冷媒に冷水流路57を流れる水の熱が伝達(吸熱)されるようになっている。
【0031】
コンプレッサ53は、凝縮器51の上流側(及び蒸発器52の下流側)に配置されており、冷媒流路50内を流れる冷媒を圧縮して凝縮器51に送るようになっている。また、膨張弁54は、凝縮器51の下流側(及び蒸発器52の上流側)に配置されており、冷媒流路50を開状態または閉状態に切り替えるようになっている。膨張弁54は、開状態に切り替えられた際に、蒸発器52に冷媒を供給可能とするようになっている。
【0032】
ヒートポンプ5において、温水流路56内を流れる水の加熱、及び、冷水流路57を流れる水の冷却は、以下の順次で行われる。先ず、膨張弁54を閉状態に切り替えた状態でコンプレッサ53を駆動し、冷媒を凝縮器51に送る。このとき、冷媒は膨張弁54によってせき止められているため、冷媒が凝縮器51に送られるのに伴って冷媒が圧縮され、凝縮器51付近の冷媒が高温となる。その結果、凝縮器51において、冷媒流路50内の冷媒の熱が温水流路56の水に伝達され、温水流路56内を流れる水が温水W3となる。この温水W3は、第1レヒータ43に供給される。
【0033】
また、凝縮器51の冷媒が圧縮されるのに伴って、蒸発器52付近の冷媒が膨張されて低温となる。その結果、蒸発器52において、冷水流路57内の水の熱が冷媒流路50内の冷媒に伝達され、冷水流路57内を流れる水が冷水W2となる。この冷水W2は、第1クーラコイル41に供給される。
【0034】
図1に示されるように、本実施の形態のリサイクル空調機4では、空気の入り口付近となる第1クーラコイル41の上流側に温度センサ61及び湿度センサ62が設けられるとともに、第1クーラコイル41の下流側に温度センサ63及び湿度センサ64が設けられている。さらに、第1レヒータ43の下流側にも温度センサ65及び湿度センサ66が設けられている。各センサ61〜66は、制御装置6に接続されている。また、本実施の形態では、各空調機3,4から排出される空気A1,A2の合流点となる塗装ブース2の給気室12にも温度センサ67及び湿度センサ68が設けられており、これら温度センサ67及び湿度センサ68も制御装置6に接続されている。
【0035】
制御装置6は、CPU71、ROM72、RAM73等からなる周知のコンピュータにより構成され、各センサ61〜68の検出値に基づいて、リサイクル空調機4を制御する。具体的には、制御装置6は、各センサ61〜68の検出値に応じて得られる空気の温度や湿度に基づいて、空調に必要な熱量を算出する。そして、制御装置6は、その算出結果に基づいて各流量調節弁45,46やヒートポンプ5を駆動制御する。これにより、各クーラコイル41,42の冷却能力や各レヒータ43,44の加熱能力を変更して、空気A2を所定の設定温度(例えば、23℃)及び設定湿度(例えば、70%RH)に調節している。
【0036】
具体的には、第1クーラコイル41の上流側の温度センサ61及び湿度センサ62で検出される温度及び湿度に基づいて、ヒートポンプ5の運転状態(第1クーラコイル41の冷却能力及び第1レヒータ43の加熱能力)が調節される。また、第1クーラコイル41の下流側の温度センサ63及び湿度センサ64で検出される温度及び湿度に基づいて、第2クーラコイル42の冷却能力が調節される。さらに、第1レヒータ43の下流側の温度センサ65及び湿度センサ66で検出される温度及び湿度に基づいて、第2レヒータ44の加熱能力が調節される。
【0037】
ヒートポンプ5の特徴として、凝縮器51で放熱される放熱エネルギーE1と蒸発器52で吸熱される吸熱エネルギーE2とはほぼ同量のエネルギーが発生され、熱負荷と冷熱負荷とがほぼ等しくなる(図3(a)参照)。また、排気リサイクル空調システム1の定常運転時には、リサイクル空調機4において空気の冷却に必要となる冷熱エネルギー(冷熱負荷)と空気の加熱に必要となる熱エネルギー(熱負荷)はほぼ等しくなる。このため、空調システム1において、ヒートポンプ5を熱源とする第1クーラコイル41及び第1レヒータ43を第2クーラコイル42及び第2レヒータ44よりも優先して稼動させ、エネルギーの効率を高めている。
【0038】
空調システム1の起動時等において、リサイクル空調機4の熱負荷E10よりも冷熱負荷E20が大きくなる場合(図3(b)参照)、空調システム1の運転区分としては、図3(c)に示されるように、熱負荷E10と同じ量の熱エネルギーE1及び冷熱エネルギーE2をヒートポンプ5で発生させる。そして、不足する冷熱エネルギーE3を冷熱源32(補助冷熱源)による第2クーラコイル42で補うように空調システム1を制御している。
【0039】
また逆に、リサイクル空調機4の熱負荷E10が冷熱負荷E20よりも大きくなる場合、空調システム1の運転区分としては、冷熱負荷E20と同じ量の冷熱エネルギーE2をヒートポンプ5で発生させるとともに、その冷熱負荷E20と同じ量の熱エネルギーE1をヒートポンプ5で発生させる。そして、不足する熱エネルギーE3を熱源31(補助熱源)による第2レヒータ44で補うように空調システム1を制御する。
【0040】
また、実際のヒートポンプ5の稼動時には、機械的なエネルギーロスがあるため、ヒートポンプ5で発生されるエネルギーは、放熱エネルギーE1の方が吸熱エネルギーE2よりも数%の割合で大きくなる。従って、本実施の形態の空調システム1では、そのエネルギーロスを考慮して、第2クーラコイル42による吸熱エネルギーよりも第2レヒータ44による放熱エネルギーが小さくなるよう制御している。
【0041】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0042】
(1)本実施の形態の排気リサイクル空調システム1では、リサイクル空調機4において、第1クーラコイル41により、ヒートポンプ5の蒸発器52で冷却された冷水W2を利用して空気が冷却されて除湿される。また、第1レヒータ43により、ヒートポンプ5の凝縮器51で加熱された温水W3を利用して空気が暖められる。本発明のように、リサイクル空調機4において塗装ブース2から排気される空気A4を回収してその温度及び湿度を調節する場合、外部の空気A0を空調する場合と比較して、調節すべき温度及び湿度とのズレ量が少なく必要となるエネルギーが少なくなる。またこの場合、温度及び湿度の調節に必要となる吸熱エネルギーと放熱エネルギーとがほぼ等しくなる。従って、本発明のように、リサイクル空調機4において必要となるエネルギーをヒートポンプ5で得るように構成すれば、エネルギーを効率よく使用することができ、空調システム1のランニングコストを低く抑えることができる。
【0043】
(2)本実施の形態の排気リサイクル空調システム1では、第1クーラコイル41の下流側に第2クーラコイル42が設けられており、第1クーラコイル41の冷熱エネルギーだけでは空気を十分に冷やせない場合、第2クーラコイル42により、冷熱源32から供給される冷水W1を利用して空気を冷却することができる。また、第1レヒータ43の下流側に第2レヒータ44が設けられており、第1レヒータ43の放熱エネルギーだけでは空気を十分に暖められない場合、第2レヒータ44により、熱源31から供給される蒸気S1を利用して空気を暖めることができる。
【0044】
(3)本実施の形態の排気リサイクル空調システム1では、第1クーラコイル41が第2クーラコイル42の上流側に配置されているので、ヒートポンプ5を熱源とする第1クーラコイル41によって空気を効率よく冷却することができる。また、第1レヒータ43が第2レヒータ44の上流側に配置されているので、ヒートポンプ5を熱源とする第1レヒータ43によって空気を効率よく暖めることができる。
【0045】
(4)本実施の形態の排気リサイクル空調システム1では、塗装ブース2及びリサイクル空調機4を含んで構成される空気循環流路において、給気室12内や空調機4内に温度センサ61,63,65,67及び湿度センサ62,64,66,68が配置されており、各センサ61〜68で検出される温度及び湿度の情報が制御装置6に取得される。そして、制御装置6によって、その温度及び湿度の情報に基づいて、リサイクル空調機4における各クーラコイル41,42の冷却能力や各レヒータ43,44の加熱能力が制御される。これによって、塗装ブース2に供給する空気A2を塗装に最適な温度及び湿度に調節することができる。
【0046】
(5)本実施の形態の排気リサイクル空調システム1では、制御装置6は、第2クーラコイル42よりも第1クーラコイル41を優先して稼動させるようヒートポンプ5及び流量調節弁45を制御している。また、制御装置6は、第2レヒータ44よりも第1レヒータ43を優先して稼動させるようヒートポンプ5及び流量調節弁46を制御している。このようにすれば、ヒートポンプ5で発生するエネルギーを第1クーラコイル41及び第1レヒータ43で無駄なく利用することができ、空調システム1のエネルギー効率を高めることができる。
【0047】
(6)本実施の形態の排気リサイクル空調システム1では、第2クーラコイル42による吸熱エネルギーよりも第2レヒータ44による放熱エネルギーが小さくなるよう制御している。このように制御すると、ヒートポンプ5での機械的ロスを考慮して各エネルギーを調節することができ、空気A2が必要以上に暖められるといった問題を回避することができる。
【0048】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0049】
・上記実施の形態では、各空調機3,4から排出される空気A1,A2の合流点となる塗装ブース2の給気室12に温度センサ67及び湿度センサ68を設け、各センサ67,68にて取得した温度及び湿度に基づいて、リサイクル空調機4を制御するものであったが、これに限定されるものではない。例えば、リサイクル空調機4の出口点に、温度センサ67及び湿度センサ68を設け、その出口点での空気A2の温度及び湿度に基づいて、リサイクル空調機4を制御してもよい。
【0050】
・上記実施の形態では、圧縮式熱分離手段としてヒートポンプ5を用いたが、これに限定されるものではなく、エアコンや冷蔵庫等に使用されている圧縮式の熱交換器を用いてもよい。ただし、上記実施の形態のようにヒートポンプ5を用いた場合、放熱エネルギーと吸熱エネルギーとについてほぼ等しいエネルギーを発生させることができるので、エネルギー効率を高めることができる。
【0051】
・上記実施の形態では、第2レヒータ44の熱源31や第2クーラコイル42の冷熱源32をフレッシュ空調機3と共有する構成であったが、フレッシュ空調機3とは別の熱源および冷熱源を設けてそれらを第2レヒータ44及び第2クーラコイル42の専用熱源として用いてもよい。また、熱源31及び冷却源32では、熱媒体として蒸気S1や冷水W1を用いたが、これ以外のガスや液体などを用いてもよい。
【0052】
・上記実施の形態では、空気冷却手段として第1クーラコイル41と第2クーラコイルとを備えるものであったが、第2クーラコイル42を省略して第1クーラコイル41のみにて空気冷却手段を構成してもよい。また、空気加熱手段として第1レヒータ43と第2レヒータ44とを備えるものであったが、第2レヒータ44を省略して第1レヒータ43のみにて空気加熱手段を構成してもよい。
【0053】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0054】
(1)上記手段2において、前記補助冷熱源及び補助熱源は、前記外気空調機にて空気を空調するために用いられるものであることを特徴とする塗装ブースの排気リサイクル空調システム。
【0055】
(2)上記手段1乃至6のいずれか1項において、前記圧縮式熱分離手段は、前記吸熱部として蒸発器を有するとともに、前記放熱部として凝縮器を有するヒートポンプであることを特徴とする塗装ブースの排気リサイクル空調システム。
【0056】
(3)上記手段1乃至6のいずれかに記載の塗装ブースの排気リサイクル空調システムを制御する制御方法であって、前記循環空調機から排出される空気の温度及び湿度を検出し、検出した温度及び湿度に基づいて、前記空気の温度及び湿度が予め設定された温度及び湿度となるよう前記空気冷却手段及び前記空気加熱手段を制御することを特徴とする排気リサイクル空調システムの制御方法。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明を具体化した一実施の形態の塗装ブースの排気リサイクル空調システムを示す概略構成図。
【図2】ヒートポンプを示す概略構成図。
【図3】(a)〜(c)は、ヒートポンプの熱負荷及び冷熱負荷を示す説明図。
【図4】従来の塗装ブースの排気リサイクル空調システムを示す概略構成図。
【符号の説明】
【0058】
1…排気リサイクル空調システム
2…塗装ブース
3…外気空調機としてのフレッシュ空調機
4…循環空調機としてのリサイクル空調機
5…圧縮式熱分離手段としてのヒートポンプ
6…循環空調機制御手段としての制御装置
31…補助熱源としての熱源
32…補助冷熱源としての冷熱源
41…主空気冷却手段としての第1クーラコイル
42…副空気冷却手段としての第2クーラコイル
43…主空気加熱手段としての第1レヒータ
44…副空気加熱手段としての第2レヒータ
51…放熱部としての凝縮器
52…吸熱部としての蒸発器
67…温度センサ
68…湿度センサ
A0,A1,A2,A3,A4…空気
S1…熱媒体としての蒸気
W1,W2…熱媒体としての冷水
W3…熱媒体としての温水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調された空気を一定方向に流しつつ被塗物に塗料を吹き付けて塗装を行うための塗装ブースと、
前記塗装ブースの外部から空気を取り込み、その空気の温度及び湿度を調節して前記塗装ブースに向けて送気する外気空調機と、
前記塗装ブースから排気される空気の一部を回収し、その空気の温度及び湿度を調節して再び前記塗装ブースに向けて送気する循環空調機と
熱媒体を冷却する吸熱部及び熱媒体を加熱する放熱部を有する圧縮式熱分離手段と
を備え、
前記循環空調機は、回収した空気を冷却して除湿する空気冷却手段と、前記空気冷却手段の下流側に配置され、その空気冷却手段で除湿された空気を暖める空気加熱手段とを有し、
前記空気冷却手段は、前記圧縮式熱分離手段の前記吸熱部で冷却された熱媒体を利用して空気を冷却する主空気冷却手段を含み、
前記空気加熱手段は、前記圧縮式熱分離手段の前記放熱部で加熱された熱媒体を利用して空気を暖める主空気加熱手段を含む
ことを特徴とする塗装ブースの排気リサイクル空調システム。
【請求項2】
前記空気冷却手段は、補助冷熱源で冷却された熱媒体を利用して前記空気を冷却する副空気冷却手段をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の塗装ブースの排気リサイクル空調システム。
【請求項3】
前記空気加熱手段は、補助熱源で加熱された熱媒体を利用して前記空気を暖める副空気加熱手段をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の塗装ブースの排気リサイクル空調システム。
【請求項4】
前記空気冷却手段において、前記主空気冷却手段は、前記副空気冷却手段の上流側に配置され、前記空気加熱手段において、前記主空気加熱手段は、前記副空気加熱手段の上流側に配置されることを特徴とする請求項3に記載の塗装ブースの排気リサイクル空調システム。
【請求項5】
前記塗装ブース及び前記循環空調機を含んで構成される空気循環流路において、前記循環空調機の出口点、または前記外気空調機及び前記循環空調機から排出される空気の合流点以降の位置に配置される温度センサ及び湿度センサと、
前記温度センサ及び前記湿度センサによって得られた温度及び湿度の情報に基づいて、前記空気の温度及び湿度が予め設定された温度及び湿度となるよう前記空気冷却手段及び前記空気加熱手段を制御する循環空調機制御手段と
を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の塗装ブースの排気リサイクル空調システム。
【請求項6】
前記循環空調機制御手段は、前記副空気冷却手段よりも前記主空気冷却手段を優先して稼動させるよう前記空気冷却手段を制御し、前記副空気加熱手段よりも前記主空気加熱手段を優先して稼動させるよう前記空気加熱手段を制御することを特徴とする請求項5に記載の塗装ブースの排気リサイクル空調システム。
【請求項7】
前記循環空調機制御手段は、前記副空気冷却手段による吸熱エネルギーよりも前記副空気加熱手段による放熱エネルギーが小さくなるよう前記空気冷却手段及び前記空気加熱手段を制御することを特徴とする請求項5または6に記載の塗装ブースの排気リサイクル空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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