説明

塗装ブース内に配置する塗料ミスト及びVOCガス除去装置

【課題】安価かつコンパクトな塗料ミスト及びVOCガス除去装置により、塗装ブース内における塗料ミスト、VOCガス等の汚染物質を、効果的に吸引除去する。
【解決手段】塗装ブース内において、被塗装物を挟んでスプレーガンと対向する位置に、該スプレーガンのノズルから略円錐形状に拡がる塗料の全噴射方向をカバーする開口部を有するミストキャッチャーを配置し、この開口部に吸引ファンからの吸引力を作用させるとともに、その開口をスプレーガンの移動に追随させることにより、ミストフィルター及びVOC凝縮装置を介して、塗料ミスト及びVOCガスを強力かつ効率よく除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブース内に発生する塗料ミスト及び溶剤に由来する揮発性有機化合物の気化ガス(VOCガス)を除去する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレーガンから噴霧した塗料により被塗装物を塗装する際には、作業環境及び周囲の汚染防止、塗料ミストの乱流に伴う塗膜の品質の悪化防止等の観点から、大量の換気がなされる塗装ブース(スプレーブース)内で作業することが必須である。
特に、塗装ブース内の作業員が所定濃度以上の有害なVOCガスを吸入しないようにするために、塗料ミストとともにVOCガスを大量の換気により塗装ブース外に排出しなければならない。
【0003】
このため、塗装ブースの作業スペースの一面に形成された外気取り入れ口から、0.5m/s以上の速度で外気を吸入し、毎分数百立方メートル程度の容量の換気ファンで排気し、ブース内を換気することが法制上求められている。
そして、工場周辺環境を配慮し、こうした塗料ミストやVOCガスを含む排気から、これら汚染物質を捕集・分離し、吸着・除去して外気に排出することは、特許文献1ないし3に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−314027号公報
【特許文献2】特開2002−192037号公報
【特許文献3】特許第3345405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、塗料ミストやVOCガス等からなる汚染物質を、空気中から分離あるいは吸着して除去する際、それらの濃度が低く、風量が大きいほど、大型で高吸着率の除去装置が必要となり、上述のように毎分数百立方メートルもの大量排気がなされる場合、排気に含まれる汚染物質の濃度自体は極めて低いものになり、汚染物質の排出量を所定レベル以下に除去するには、換気通路の換気ファン上流に、大型で高性能の除去装置を設けなければならず、多額の設備投資が必要とされる。
その結果、中小企業等においては、換気ファンの排気口を作業スペースから離れたところに設置し、そのまま大気に排出しているのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、上記の課題を解決するために、本発明は以下の塗料ミスト及びVOCガス除去装置を提供する。
(1)塗装ブース内において、被塗装物を挟んでスプレーガンと対向する位置に、該スプレーガンのノズルから略円錐形状に拡がる塗料の全噴射方向をカバーする開口部と、該開口部と小径の誘導管とを連結する縮径部とからなるミストキャッチャーを配置し、その内部に、前記開口部を複数の開口に仕切り、下流端が前記誘導管との連結部に到る仕切りを設けるとともに、該仕切りの下流端に、仕切られた開口のいずれかと前記誘導管とを選択的に接続する通路切換手段を配設し、該通路切換手段を前記スプレーガンの移動に対応して、前記仕切られた開口のうち汚染物質が高濃度で発生する側の開口と前記誘導管とを接続するよう切り換えることにより、該開口部に吸引ファンからの吸引力を作用させ、ミストフィルター及びVOC凝縮装置を介して外気に排出するようにした塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0007】
(2)上記(1)において、前記仕切りを複数設け、前記通路切換手段が、前記仕切りに仕切られた各開口と前記誘導管とを選択的に接続する通路を備えた塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0008】
(3)上記(1)または(2)において、前記スプレーガンに切換スイッチを設け、切換スイッチに連動して、前記通路切換手段を切り換える駆動手段を備えた塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0009】
(4)上記(1)または(2)において、前記各開口に、塗料ミストの量あるいはVOCガス濃度を検出するセンサを設け、該センサの検出値に基づいて、前記通路切換手段を、塗料ミスト及びVOCガスが高濃度に発生する側の開口と前記誘導管とを接続するよう制御する制御手段をさらに備えた塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0010】
(5)上記(1)または(2)において、前記スプレーガンの中心軸線位置を検出する軸線位置検出装置を設け、その検出値に基づいて、前記通路切換手段を、塗料ミスト及びVOCガスが高濃度で発生する側の開口と前記誘導管とを接続するよう制御する制御手段をさらに備えた塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0011】
(6)上記(5)において、前記軸線位置検出装置が、前記スプレーガンに取り付けた加速度センサあるいはジャイロである塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0012】
(7)上記(5)において、前記軸線位置検出装置が、前記スプレーガンを把持・制御するロボットアームの制御信号に基づいて、中心軸線位置を演算する演算装置である塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0013】
(8)上記(1)〜(7)において、前記ミストキャッチャーを前記誘導管に着脱自在に連結できるようにするとともに、種々の大きさ、形状の開口部と、該開口部に対応した仕切りを備えている複数のミストキャッチャーを準備し、被塗装物の形状、大きさ、塗装の仕様に応じて、最適なミストキャッチャーを選択できるようにした塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0014】
(9)塗装ブース内において、被塗装物を挟んでスプレーガンと対向する位置に、軸線を合わせた状態で該スプレーガンのノズルから略円錐形状に拡がる塗料の噴射方向をカバーする開口部と、該開口部と小径の蛇腹状誘導管とを連結する縮径部とからなるミストキャッチャーを配置し、塗装工程の進行状態に合わせて、該ミストキャッチャーの中心軸線を、前記スプレーガンの噴射中心軸に一致させるミストキャッチャー位置制御装置を設け、該開口部に吸引ファンからの吸引力を作用させ、ミストフィルター及びVOC凝縮装置を介して外気に排出するようにした、塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0015】
(10)上記(9)において、前記スプレーガンに、加速度センサあるいはジャイロからなる軸線方向検出装置を取り付け、この軸線方向検出装置の検出値に基づいて、前記ミストキャッチャーの中心軸線方向を、前記スプレーガンの噴射中心軸線の方向に一致させるようにした塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0016】
(11)上記(9)において、前記スプレーガンをロボットアームに把持させ、このロボットアームをNC制御することにより塗装作業を実行させるようにするとともに、前記スプレーガンを制御するロボットアームに対する制御信号に基づいて、前記ミストキャッチャーの中心軸の軸線方向を、前記スプレーガンの噴射中心軸線の方向に一致させるようにした塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0017】
(12)上記(9)において、前記スプレーガンに、被塗装物を跨いでスプレーガンと対向する位置に、スプレーガンの噴射中心軸とその中心軸を合わせた状態で、前記ミストキャッチャーを保持するアームを取り付けた塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【0018】
(13)上記(9)〜(12)において、前記ミストキャッチャーを前記蛇腹状誘導管に着脱自在に連結できるようにするとともに、種々の大きさ、形状の開口部を備えている複数のミストキャッチャーを準備し、被塗装物の形状、大きさ、塗装の仕様に応じて、最適なミストキャッチャーを選択できるようにした塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【発明の効果】
【0019】
上記(1)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、塗装ブース内において、被塗装物に付着しなかった塗料ミスト及びVOCガスが、ミストキャッチャーの仕切られた開口のうち、高濃度に発生する側の開口から強力に吸引されるから、小容量の吸引ファンでも、塗装ブース内に塗料ミスト及びVOCガスをほとんど拡散させることがない。
しかも、塗料ミスト及びVOCガスが高濃度に含まれる空気を、ミストフィルター、VOC凝縮装置により処理することができるから、高価な除去装置を使用しなくても、塗料ミスト及びVOCガスの大気への排出を確実に防止することができる。
【0020】
上記(2)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、複数の仕切りにより、ミストキャッチャーの開口部が3以上の開口に区分されるから、特にワークが大きいときでも、塗料ミスト及びVOCガスが高濃度に発生する開口から強力に吸引して効果的に除去することができる。
【0021】
上記(3)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、スプレーガンに切換スイッチを設け、切換スイッチに連動して、通路切換手段を切り換えることができるから、塗装ブース内において作業者が塗装を行う場合でも、塗料ミスト及びVOCガスが高濃度に発生する開口を手動で選択し、強力に吸引して効果的に除去することができる。
【0022】
上記(4)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、各開口に設けた、塗料ミストの量あるいはVOCガス濃度を検出するセンサにより、高濃度に発生する側の開口に自動的に切り換えることができ、操作性をさらに高めることができる。
【0023】
上記(5)ないし(7)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、スプレーガンの中心軸線位置を高精度に検出し、濃度に発生する側の開口に自動的に切り換えることができる。
【0024】
上記(8)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、ワークの形状、大きさ、塗装の仕様に応じて、複数のミストキャッチャーから最適なものを選択し、高効率の除去が可能になる。
【0025】
上記(9)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、軸線を合わせた状態でスプレーガンのノズルから略円錐形状に拡がる塗料の噴射方向をカバーする開口部を備えたミストキャッチャーを、スプレーガンの噴射中心軸に常に一致させることができ、ミストキャッチャーをよりコンパクトにすることができる。
【0026】
上記(10)〜(11)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、スプレーガン噴射中心軸線を高精度に検出することができ、ミストキャッチャーの中心軸線方向を常に正確に一致させることができる。
【0027】
上記(12)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、スプレーガン噴射中心軸線とミストキャッチャーの中心軸線方向を常に固定した状態で正確に一致させることができる。
【0028】
上記(13)の塗料ミスト及びVOCガス除去装置によれば、ワークの形状、大きさ、塗装の仕様に応じて、複数のミストキャッチャーから最適なものを選択し、高効率の除去が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る塗料ミスト除去装置の実施態様の一例を示す概略図である。
【図2】(a)〜(c)本発明に係るミストキャッチャーの例を示す概略図である。
【図3】本発明に係る塗料ミスト除去装置の別の例を示す概略図である。
【図4】本発明に係る塗料ミスト除去装置のさらに別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施例1)
図1に示されるとおり、塗装ブース1内には、ロボットアーム17により、位置制御及び操作されるスプレーガン2が設けられており、被塗装物であるワーク3を支持台4に固定支持した上で、スプレーガン2のノズルから塗料を噴射し、ワーク3の塗装作業を行う。
【0031】
図1において、塗装ブース1の左側面には、ほぼ全面にわたり外気取り入れ口5が形成されており、これに対向する右側面近傍の天井部には、ダクトを介し大容量の換気用ファンに連なる換気口6が設けられており、換気口6から塗装ブース1内の空気が吸い出されることにより、塗装ブース1内の空気が逆流しないよう、外気取り入れ口5に所定速度の吸引風が作用するようになっている。
したがって、外気取り入れ口5から吸引された空気は、図1において右側に流れ、スプレーガン2、ワーク3の周辺を通過したのち上昇し、換気口6から図示しないダクト、換気用ファンを介して大気に排出されることになる。
【0032】
この実施例では、図1に示されるように、ワーク3は、支持台4に固定支持されており、塗装作業の進行に応じて、ワーク3を鉛直方向の軸周りに回転させるとともに、スプレーガン2は、ロボットアーム17により、ワーク3の鉛直軸を含む鉛直面内において上下動するとともに、この鉛直面内において、その噴射中心軸が、ワーク3の近傍を中心に所定円周角で揺動するよう制御され、ワーク3全体をむらなく塗装する。
【0033】
ワーク3に近接し、しかもワーク3を挟んでスプレーガン2に対向する位置には、上述のように移動するスプレーガン2のノズルから、略円錐形状に拡がる塗料の全噴射方向をカバーする開口面積の円形の開口部7と、この開口部7から円錐形状に縮径し、小径の誘導管8に着脱自在に連結される縮径部9とからなるミストキャッチャー10が配置されている。
なお、誘導管8の下流側には、ミストフィルター11、VOC凝縮装置12、及び毎分10立方メートル以下の小容量の吸引ファン13が順次設けられている。
【0034】
図2(a)に示されるとおり、ミストキャッチャー10の内部には、開口部7を半円形状の上側開口7aと下側開口7bとに仕切り、その下流端が、縮径部9と誘導管8との連結部に到り、誘導管8を二分する仕切り14が設けられている。これにより、上側開口7aから誘導管8に到る吸引通路と下側開口7bから誘導管8に到る吸引通路とが独立して区分されている。
【0035】
仕切り14の下流端には、通路切換手段として、半楕円形状のフラップ15が枢動可能に取り付けられており、吸引ファン13からの吸引を、上側開口7aに連なる吸引通路あるいは下側開口7bに連なる吸引通路を切り換えるようになっている。
すなわち、図2(a)のように、スプレーガン2が下方に移動し、ワーク3の下方部分の塗装を行う場合は、スプレーガン2を操作するロボットアームの制御信号に基づいて、その噴射中心の軸線位置を演算し、その演算結果に基づき、フラップ15を駆動するモータを制御し、下側開口7bと誘導管8とを連絡し、上側通路7aと誘導管8とを遮断するよう枢動され、吸引ファン13からの吸引力は、専ら下側開口7bに作用する。
【0036】
したがって、毎分10立方メートル以下の容量の吸引ファン13でも、下側開口7bに強力な吸引力を集中させることができる。
なお、ロボットアームの制御信号に基づいて、軸線位置を演算するに代え、スプレーガン2やロボットアームに、噴射中心軸の三次元位置を検出する周知の加速度センサやジャイロセンサを設け、これらのセンサ検出値に基づいて、フラップ15を切り換えるようにしてもよい。
【0037】
また、上側開口7a及び下側開口7b下流の吸引通路のそれぞれに、光学的なミストセンサやVOCガス濃度センサを設け、塗料ミストやVOCガスからなる汚染物質が高濃度に発生する側の吸引通路を検出し、この検出値に基づいて、フラップ15を駆動するモータを制御して、汚染物質が高濃度に発生する側の吸引通路を自動的に選択するようにしてもよい。
【0038】
ところで、スプレーガン2から噴射された塗料は、そのノズルを頂点として、略円錐状に拡がり、大半は、ワーク3に衝突・付着することにより塗装が進行することになるが、ワーク3の形状等に応じワークに衝突・付着しなかった塗料は、そのままの方向を維持した後拡散するので、そのまま放置すれば、塗装ブース1内に塗料ミストやVOCガスとなって充満することになる。
【0039】
しかし、前述のように、ワーク3の下方部分の塗装を行うため、下方に移動したスプレーガン2に対応し、フラップ15が枢動され、吸引ファン13からの吸引力が、塗料ミストやVOCガスからなる汚染物質が高濃度で発生する下側開口7bに強力に作用するようになるから、ワーク3に衝突・付着しなかった塗料のほとんどは、塗装ブース1内で拡散することなく、塗料ミストやVOCガスとして、下側開口7bに向かう気流に吸い込まれることになる。
【0040】
吸い込まれた塗料ミスト、VOCガスは、それぞれ、ミストフィルター11にVOC凝縮装置12により吸着あるいは凝縮されて清浄化された後、吸引ファン13の排気口から大気に排出されることになる。
このように、毎分10立方メートル以下の容量の吸引ファン13でも、上側開口7aあるいは下側開口7bに強力な吸引力を集中させることにより、塗装ブース1内で拡散することなく、ほぼ全量を誘導管8に取り込むことができる。
しかも、このように誘導管8に取り込まれた空気には、従来、塗装ブース1の換気に必要な毎分数百立方メールの空気中に含まれる塗料ミストやVOCガスの濃度と比較して、数十倍の濃度の塗料ミスト、VOCガスを含まれることになる。
【0041】
したがって、誘導管8に設けられるミストフィルター11、VOC凝縮装置12は、毎分10立方メートル以下の容量に対応する小型のもので十分であり、しかも、前述のように、誘導管8に送り込まれる空気は、塗料ミストやVOCガスをきわめて高濃度に含有しているから、高性能の除去装置を使用しなくても、高い除去率でこれらを除去することが可能になる。
【0042】
なお、上記実施例では、ワーク3を鉛直方向の軸周りに回転させ、スプレーガン2を、ワーク3の鉛直軸を含む鉛直面内において上下動させるとともに、その噴射中心軸をこの鉛直面内において、ワーク3の近傍を中心に所定円周角で揺動させているが、ワーク3の形状や塗装態様に応じて、例えば、ワーク3を水平方向の軸周りに回転させ、スプレーガン2を、ワーク3の水平軸を含む水平面内において左右方向に移動させるとともに、その噴射中心軸を鉛直面内において、ワーク3の近傍を中心に所定円周角で揺動させるような、種々の塗装態様を採用してもよい。
その場合は、仕切り14を、開口部7を左右開口部に仕切るものとし、スプレーガン2の水平面内での移動に合わせ、フラップ15を切り換えるようにすればよい。
【0043】
さらに、上記実施例では、スプレーガン2をロボットアーム17により位置制御及び操作をするようにしたが、特定のワーク3に対し、個別に塗装を行うような場合には、塗装ブース1内において作業者が塗装を行う場合がある。
そのような場合には、前述の加速度センサ、ジャイロセンサ、光学的なミストセンサ、VOCガス濃度センサ等の検出値に基づいて、フラップ15を切り換えたり、スプレーガン2に手動スイッチを設け、作業者のスイッチ操作に応じて、フラップ15を切り換えるようにしてもよい。
【0044】
また、ワーク3が大きい場合は、これに対応して大きな開口面積を有する開口部7を備えたミストキャッチャー10を使用する必要があるが、その場合には、図2(b)にみられるように、仕切り14a〜14cの3個設け、誘導管8に到る吸引通路を4つに独立させたり、さらには、図2(c)にみられるように、格子状の仕切り14dにより、多数に区分した吸引通路を形成し、これらの仕切りの下流端に、画成された各吸引通路を、選択的に切り換える通路(図2(b)の場合は16で示される)を備えた通路切換手段を設け、小容量の吸引ファン13からの吸引力を、選択された小面積の開口に集中させるようにしてもよい。
【0045】
このように、様々な形状や仕切りを有するとともに、誘導管8の上流端に着脱可能な縮径部9下流端を備えたミストキャッチャー10を複数用意しておき、ワーク3の大きさや形状、さらには塗装態様に応じ、最適なものを選択して誘導管8の上流端に装着することにより、様々のワーク3の塗装に適用可能となる。
【0046】
(実施例2)
実施例1では、開口部7を複数の開口に区分し、通路切換手段により、吸引ファン13からの吸引力が作用する開口を切り換えるようにしたが、実施例2では、ワーク3に近接し、しかもワーク3を挟んでスプレーガン2と対向する位置に、ミストキャッチャー110が配置されている。
このミストキャッチャー110の開口部107は、スプレーガン2の噴射中心軸とミストキャッチャー110の中心軸線とを一致させた状態で、スプレーガン2のノズルから略円錐形状に拡がる塗料の噴射方向をカバーする開口面積を備えたものとしている。
【0047】
このミストキャッチャー110の下流端は、縮径部109を介して、小径で蛇腹状の誘導管108に着脱自在に連結されており、スプレーガン2を操作するロボットアーム17とは別のロボットアーム18に把持されて位置制御され、開口部107の位置や向きを自由に変更できるようになっている。
実施例1と同様に、塗装工程の進行に合わせて、ロボットアーム18によりスプレーガン2の上下位置、左右位置、角度などが変更されると、これに合わせて、スプレーガン2を操作する別のロボットアーム18が制御され、スプレーガン2の噴射中心軸と、ミストキャッチャー110の軸線とが常に一致するよう、NC制御されるようになっている。
【0048】
また、スプレーガン2に、噴射中心軸の三次元位置を検出する周知の加速度センサやジャイロセンサを設け、これらのセンサ検出値に基づいてスプレーガン2の中心軸線の方向を演算検出してもよく、その場合には、手作業による塗装作業の場合でも、スプレーガン2の中心軸線方向の移動に連動して、フラップ15を切り換えるようにすることができる。
【0049】
なお、上記のように、ミストキャッチャー110を個別のロボットアーム18により位置制御することに代え、図5にみられるように、ワーク3をまたぐアーム19の両端に、スプレーガン2とミストキャッチャー110の中心軸線が一致するよう連結し、ロボットアーム17により位置制御されるスプレーガン2に連動させるようにしてもよい。
この場合には、スプレーガン2とミストキャッチャー110の中心軸線が一致するよう固定されているから、手作業による塗装作業で、スプレーガン2を自由に操作しても、常に確実に塗料ミスト、VOCガスを吸引し、高効率でこれらを除去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、大きな設備投資を伴うことなく、塗装ブース内発生する塗料ミスト、VOCガスを効果的に吸引、除去できるので、中小企業等の向上においても広く導入可能であり、周辺環境の改善に大きく寄与する塗料ミスト及びVOCガス除去装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 塗装ブース
2 スプレーガン
3 ワーク
4 支持台
5 空気取り入れ口
6 排気口
7 開口
8 誘導管
9 誘導管
10 ミストキャッチャー
11 ミストフィルター
12 VOC凝縮装置
13 吸引ファン
14 仕切り
15 フラップ
17 塗装用ロボットアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブース内において、被塗装物を挟んでスプレーガンと対向する位置に、該スプレーガンのノズルから略円錐形状に拡がる塗料の全噴射方向をカバーする開口部と、該開口部と小径の誘導管とを連結する縮径部とからなるミストキャッチャーを配置し、その内部に、前記開口部を複数の開口に仕切り、下流端が前記誘導管との連結部に到る仕切りを設けるとともに、該仕切りの下流端に、仕切られた開口のいずれかと前記誘導管とを選択的に接続する通路切換手段を配設し、該通路切換手段を前記スプレーガンの移動に対応して、前記仕切られた開口のうち、塗料ミスト、VOCガスが高濃度で発生する側の開口と前記誘導管とを接続するよう切り換えることにより、該開口部に吸引ファンからの吸引力を作用させ、ミストフィルター及びVOC凝縮装置を介して外気に排出するようにした、塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項2】
前記仕切りを複数設け、前記通路切換手段が、前記仕切りに仕切られた各開口と前記誘導管とを選択的に接続する通路を備えている請求項1に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項3】
前記スプレーガンに切換スイッチを設け、切換スイッチに連動して、前記通路切換手段を切り換える駆動手段を備えた請求項1または2に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項4】
前記各開口に、塗料ミストの量あるいはVOCガス濃度を検出するセンサを設け、該センサの検出値に基づいて、前記通路切換手段を、塗料ミスト、VOCガスが高濃度に発生する側の開口と前記誘導管とを接続するよう制御する制御手段をさらに備えた請求項1または2に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項5】
前記スプレーガンの中心軸線位置を検出する軸線位置検出装置を設け、その検出値に基づいて、前記通路切換手段を、塗料ミスト、VOCガスが高濃度で発生する側の開口と前記誘導管とを接続するよう制御する制御手段をさらに備えた請求項1または2に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項6】
前記軸線位置検出装置が、前記スプレーガンに取り付けた加速度センサあるいはジャイロである請求項5に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項7】
前記軸線位置検出装置が、前記スプレーガンを把持・制御するロボットアームの制御信号に基づいて、中心軸線位置を演算する演算装置である、請求項5に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項8】
前記ミストキャッチャーを前記誘導管に着脱自在に連結できるようにするとともに、種々の大きさ、形状の開口部と、該開口部に対応した仕切りを備えている複数のミストキャッチャーを準備し、被塗装物の形状、大きさ、塗装の仕様に応じて、最適なミストキャッチャーを選択できるようにした請求項1ないし7に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項9】
塗装ブース内において、被塗装物を挟んでスプレーガンと対向する位置に、軸線を合わせた状態で該スプレーガンのノズルから略円錐形状に拡がる塗料の噴射方向をカバーする開口部と、該開口部と小径の蛇腹状誘導管とを連結する縮径部とからなるミストキャッチャーを配置し、塗装工程の進行状態に合わせて、該ミストキャッチャーの中心軸線を、前記スプレーガンの噴射中心軸に一致させるミストキャッチャー位置制御装置を設け、該開口部に吸引ファンからの吸引力を作用させ、ミストフィルター及びVOC凝縮装置を介して外気に排出するようにした、塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項10】
前記スプレーガンに、加速度センサあるいはジャイロからなる軸線方向検出装置を取り付け、この軸線方向検出装置の検出値に基づいて、前記ミストキャッチャーの中心軸線方向を、前記スプレーガンの噴射中心軸線の方向に一致させるようにした請求項9に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項11】
前記スプレーガンをロボットアームに把持させ、このロボットアームをNC制御することにより塗装作業を実行させるようにするとともに、前記スプレーガンを制御するロボットアームに対する制御信号に基づいて、前記ミストキャッチャーの中心軸の軸線方向を、前記スプレーガンの噴射中心軸線の方向に一致させるようにした請求項9に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項12】
前記スプレーガンに、被塗装物を跨いでスプレーガンと対向する位置に、スプレーガンの噴射中心軸とその中心軸を合わせた状態で、前記ミストキャッチャーを保持するアームを取り付けた請求項9に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。
【請求項13】
前記ミストキャッチャーを前記蛇腹状誘導管に着脱自在に連結できるようにするとともに、種々の大きさ、形状の開口部を備えている複数のミストキャッチャーを準備し、被塗装物の形状、大きさ、塗装の仕様に応じて、最適なミストキャッチャーを選択できるようにした請求項9ないし12に記載の塗料ミスト及びVOCガス除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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