説明

塗装ブース循環水の消臭装置及び塗装ブース循環水の消臭方法

【課題】簡易な構造であって、消臭効果が大きく、設備費及びランニングコストの低廉な塗装ブース循環水の消臭装置及び塗装ブース循環水の消臭方法を提供する。
【解決手段】消臭装置6は塗装ブース循環水の配管5の途中に接続されている。消臭装置6の外郭をなす配管7の内部に、導電性ダイヤモンド電極10と白金電極11,12とが互いに平行に対面して流れ方向に設けられている。導電性ダイヤモンド電極10及び白金電極11,12は、外部直流電源に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗装ブース循環水の消臭装置及び塗装ブース循環水の消臭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装ブースの循環水中には、酪酸や吉草酸等の悪臭の原因物質が含まれているため、この悪臭を防止する技術が求められている。従来の塗装ブースの循環水の悪臭防止技術としては、オゾンガスを塗装ブースの循環水と接触させ、悪臭物質を酸化分解して消臭する処理装置が知られている(特許文献1、2)。しかし、この方法では、オゾン発生装置を設置し、これを水に溶解させてオゾン水とし、ブース循環水と接触混合するものであるため、オゾン発生装置や、オゾンを水に溶解させるためのオゾン水製造装置や、それらを連結する配管等が必要であるため、設備が大掛かりとなり、設備投資が膨大で、ランニングコストも高いという問題があった。
【0003】
一方、最近において、導電性ダイヤモンド電極を利用した廃水処理装置が提案されている(特許文献3、4)。導電性ダイヤモンド電極とは、ホウ素等の異元素をドーピングすることによって電気伝導性を付与したダイヤモンド電極のことである。導電性ダイヤモンド電極は、その化学的安定性のため、従来から使われていた二酸化鉛電極などの電極では得ることのできなかった広い電位領域、特に貴の電位域で安定に電解反応を行うことができる。また、酸素過電圧が大きいため、電極‐溶液界面に大きな電位差が形成される。このため、ダイヤモンド電極の表面で様々な有機物を酸化分解することができる。
例えば、上記特許文献3では、被処理水を限外ろ過膜でろ過して濃縮液とし、この濃縮液を導電性ダイヤモンド電極で電気分解して、アンモニア性窒素の分解除去を行っている。また、上記特許文献4では、ポリビニルアルコールを含む廃水を蒸発させて濃縮した後、濃縮液を導電性ダイヤモンド電極で電気分解して、ポリビニルアルコールの分解除去を行っている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−323255号公報
【特許文献2】特開平8−182948号公報
【特許文献3】特開2005−334822号公報
【特許文献4】特開2003−326263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献3及び特許文献4の廃水処理方法では、被処理水を濃縮してから電気分解を行うため、限外ろ過装置や蒸発濃縮装置等の濃縮装置が必要となる。このため、やはり設備が大掛かりとなり、設備投資が膨大で、ランニングコストも高いという問題がある。このため、この廃水処理装置を塗装ブースの循環水の消臭装置として適用することはできない。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、簡易な構造であって、消臭効果が大きく、設備費及びランニングコストの低廉な塗装ブース循環水の消臭装置及び塗装ブース循環水の消臭方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、塗装ブースの循環水中に含まれている悪臭物質を導電性ダイヤモンド電極の表面で直接酸化するだけでなく、導電性ダイヤモンドの表面で発生するオゾンや過酸化水素やヒドロキシラジカル等の酸化性物質を用いて、間接的に悪臭物質を無臭化できないか試みた。その結果、塗装ブース循環水の消臭に対しては、導電性ダイヤモンド電極によって電気分解を行えば、特に被処理水を濃縮しなくても、短時間に消臭できることを突き止め、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の塗装ブース循環水の消臭装置は、対をなす複数の不溶性電極が設けられた電解ユニットを備え、該不溶性電極の少なくとも一つは導電性ダイヤモンド電極であることを特徴とする。
また、本発明の塗装ブース循環水の消臭方法は、対をなす複数の不溶性電極が設けられ、該不溶性電極の少なくとも一つは導電性ダイヤモンド電極である電解ユニットを塗装ブース循環水中に浸漬し、不溶性電極間に電流を流すことを特徴とする。
【0009】
対をなす複数の不溶性電極については、そのうちの少なくとも一つが導電性ダイヤモンド電極であれば、それ以外の電極については、電解によって溶解したし腐食したりしない不溶性電極であれば特に制限はない。例えば白金、白金を含有する合金等の貴金属電極等を用いることができる。また、不溶性電極全てを導電性ダイヤモンド電極とすることもできる。この場合には、アノード側及びカソード側の両極の電位窓が広くなり、さらに好適である。ここで、導電性ダイヤモンドとは、ホウ素等の異元素をドーピングすることによって電気伝導性を付与したダイヤモンド電極の全てをいう。これら不溶性電極が設けられた電解ユニットは、塗装ブース循環水中に設置される。この電極ユニットに対し、外部直流電源から導電性ダイヤモンド電極が貴な電位となるように電流を通ずる。これにより、導電性ダイヤモンド電極の表面では、塗装ブース循環水中の悪臭物質であるカルボン酸を電極表面で酸化分解するだけでなく、水を電気分解してオゾンやOH・、O・、Oといった酸化性物質が発生する。そして、これら酸化性物質が沖合いへ拡散し、悪臭物質であるカルボン酸等を酸化分解する。このため、特に濃縮装置を設けなくても、短時間で、塗装ブース循環水の悪臭を軽減することができる。発明者らは、電解開始後僅か5分間で、ほとんど悪臭を感じない程度までになることを確認している。
【0010】
電解ユニットは塗装ブース循環水の配管内に設置することができる。こうであれば、現在運転中である塗装ブース循環水系にも容易に組み込むことが可能となり、設備費も低廉なものとなる。
【0011】
不溶性電極は、互いに対面しつつ塗装ブース循環水の流れ方向に略平行に設けることができる。こうであれば、循環水の流れの邪魔になり難いため、電解ユニットを塗装ブース循環水系に設けても、圧力損失を極めて小さくすることができる。
【0012】
電解ユニットの上流には、配管の径内方向に突出する邪魔板が設けられていることも好ましい。こうであれば、邪魔板によって乱流が発生し、撹拌効果を奏するため、電極表面への物質移動が促進され、電極反応が促進され、ひいては、消臭効果が促進される。また、電解中に発生するジュール熱によって電解ユニット周囲が局部的に高温となることを防止することができる。
【0013】
また、電解によって発生したガスを外部に排出させるためのガス抜き手段が設けられていることも好ましい。電解中は、水の電気分解による水素ガスや酸素ガス等が発生し、配管内の圧力が上昇する。ガス抜き手段を設けることにより、こうした圧力の上昇を防止することができるとともに、爆発の危険性も、回避することができる。
【0014】
また、不溶性電極間にプロトン伝導膜が挿入されていることも好ましい。こうであれば、塗装ブース循環水の導電率に影響されることなく電気分解を行うことができる。すなわち、塗装ブース循環水に非導電性の混入物が多量に含まれていた場合において、被処理液の導電性が低下したとしても、プロトン伝導膜を介して電流を流すことができるからである。このため、オゾンやOH・、O・、Oといった酸化性物質も多量に発生させることができる。そして、これらの酸化性物質によって、塗装ブース循環水に含まれているカルボン酸等の悪臭原因物質を効率よく分解することができる。プロトン伝導膜としては、デュポン社製のナフィオン(登録商標)等を用いることができる。
【0015】
本発明の塗装ブース循環水の消臭装置では、被処理水に含まれる成分によっては、電極に堆積物(スケール)が付着することがある。例えば、被処理水に含まれるカルシウムイオンなどはカソード電極にスケールとなって付着し、不溶性電極の電気伝導性を低下させ、浴電圧が高くなり、円滑な電極反応が妨げられる。このため、スケールの付着しやすいカソード側の不溶性電極を超音波振動させるための、超音波発生手段を設けることが好ましい。こうであれば、超音波発生手段を駆動させてカソード側の不溶性電極を振動させることにより、スケールが付着し難くなる。また、たとえスケールが付着したとしても、超音波振動によって剥離させることができる。超音波発生手段としては、強誘電体のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、チタン酸バリウム、水晶波発振子等を用いることができる。超音波発生手段は、処理水中に投入する投げ込み型の超音波発生器でも良いが、カソード側の不溶性電極に固定すれば、振動が直接不溶性電極に伝達されるため、スケール除去効果が高くなり好適である。また、超音波は連続で振動させてもよいが、断続的に振動させてもよい。あるいは超音波の周波数を変化させてもよい。スケールが付着した電極をアノード分極させるとスケール除去が促進されるが、その際にのみ、超音波振動させても効果的である。また、超音波印加時に、印加する電圧を時々交番させると特に効果が向上する。
【0016】
本発明の塗装ブース循環水の消臭方法では、導電性ダイヤモンド電極をオゾンが発生する電位に設定して電解を行うことが好ましい。導電性ダイヤモンド電極の電位をオゾン発生域に設定した場合、次のような反応が起こる。すなわち、塗装ブース循環水中の悪臭物質(例えば酪酸や吉草酸等)は、著しく貴な電位とされている導電性ダイヤモンド電極の表面で酸化分解され、無臭化される。また、導電性ダイヤモンド電極の表面では、水が電気分解されて、オゾンやOH・、O・、Oといった酸化性物質が生成し、これらの酸化性物質が沖合いに拡散していく間に、悪臭物質を酸化分解する。すなわち、本発明において、悪臭物質の酸化による消臭作用は、導電性ダイヤモンド電極の表面のみならず、循環水中に拡散していった酸化性物質によっても消臭が行われる。このため、特に循環水を濃縮しなくても、すみやかに消臭を行うことができるのである。本発明による塗装ブース循環水の消臭は、従来のオゾン発生器からオゾンを溶解したオゾン水を調製し、このオゾン水によって消臭する方法よりも、消臭効果が高い。この理由は、本発明においては、導電性ダイヤモンド電極の表面で悪臭物質が直接酸化分解されたり、電極反応によってオゾンだけでなく、OH・、O・、Oといった酸化性物質が生成しており、これらによる消臭効果も付加されるためであると考えられる。
【0017】
導電性ダイヤモンド電極をオゾンが発生する電位に設定する方法としては、導電性ダイヤモンド電極と不溶性電極との間の電圧を制御して導電性ダイヤモンド電極からオゾンが発生させたり、導電性ダイヤモンド電極の近傍に銀−塩化銀電極等の参照電極を挿入しておき、導電性ダイヤモンド電極の電位をオゾン発生域に制御する定電位電解を行ったりする方法を採用することができる。後者の制御方法は、導電性ダイヤモンド電極の電位を確実にオゾン発生域に制御できる点で優れているが、前者の方法であっても、あらかじめ塗装ブース循環水を用いて適切な二極間電圧を実験的に求めておけば、充分な消臭効果を発揮することができる。
【0018】
本発明の塗装ブース循環水の消臭方法では、電解により発生するガスを外部に排出させながら電解を行うことも好ましい。本発明の塗装ブース循環水の消臭装置のところでも述べたように、電解中は、水の電気分解による水素ガスや酸素ガス等が発生し、配管内の圧力が上昇する。ガス抜き手段を設けることにより、こうした圧力の上昇を防止することができるとともに、爆発の危険性も、回避することができる。
【0019】
また、本発明の塗装ブース循環水の消臭方法では、電流の向きを交番させながら処理を行うことが好ましい。上述したように、被処理水に含まれる成分によっては、電極に堆積物(スケール)が付着することがある。例えば、カルシウムイオンなどは陰極にスケールとなって付着し、電極の性能を著しく低下させる。電流の向きを交番させながら水処理を行えば、アノード分極時にスケールの溶解を促進するため、スケールの付着が防止され、電極の性能低下を防ぐことができる。電流の向きを交番させながら処理を行う場合には、不溶性電極の全てを導電性ダイヤモンド電極とすることが好ましい。なぜならば、交番電流を付与する場合は、どちらの電極においてもアノード(すなわち電極酸化が行われる電極)として働く時間があるため、高電位側に広い電位窓を有する導電性ダイヤモンド電極を両側の極に使用することにより、どちら側の極においても、悪臭原因物質の電気化学的酸化による分解反応が効率的に行われるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した実施形態について詳述する。
実施形態の塗装ブース循環水の消臭装置は、塗装ブース循環水系の配管の途中に設置されるものである。塗装ブース循環水系は、通常、図1に示すように、塗装作業を行う塗装ブース1と、塗装作業によって生じた塗装ミストを含んだ空気を洗浄する洗浄装置2が設けられており、洗浄装置2の洗浄水は貯留槽3を経てポンプ4によって循環され、配管5を介して塗装ブース1に戻される。消臭装置6は配管5の途中に接続されている。なお、消臭装置6はポンプ4の上流側に設置することもできる。
【0021】
図2に示すように、消臭装置6は、配管5と同径のパイプ形状の配管7を備えており、その両端にはフランジ7a,7bが設けられ、ボルトによって配管5に接続されている。配管7の内部にはリング状の電極固定治具8,9が上下2箇所に設けられており、この電極固定治具8,9に設けられた切欠8a,9aに板状の導電性ダイヤモンド電極10が嵌合され、配管7の中央部分で流れ方向と平行となるように固定されている。また、導電性ダイヤモンド電極10と平行に対面する2枚の白金電極11,12が、電極固定治具8、9に設けられた切欠8b,8c,9b,9cに嵌合されることによって固定されている。なお、白金電極の変わりに、白金と他の貴金属との合金電極や、チタンに白金めっきを施した電極を用いてもよい。導電性ダイヤモンド電極10及び白金電極11,12には、リード線14,15が接続されており、図示しない外部直流電源に接続されている。また、配管7の下端内部には、内方に突出する扇形状の邪魔板13a、13bが上下に互い違いに設けられている。
【0022】
(実施例1)
<模擬ブース循環水の処理試験>
上記構造の消臭装置6を用いて、塗装ブース循環水を模した模擬ブース循環水の処理試験を行った。実際の塗装ブース循環水には、表1に示すように、各種の脂肪族カルボン酸が悪臭原因物質として含まれている。これらカルボン酸の中から、代表的な悪臭原因物質であるn−酪酸を水に添加し、これを模擬塗装ブース循環水として水処理試験を行った。
【表1】

【0023】
導電性ダイヤモンド電極10の有効面積は8cm、電極間距離は5mmとした。この消臭装置6に100mlの純水を入れ、投入電力10Wで、5分間電気分解した液を分析した結果、オゾン濃度は7ppmとなることを確認した。また、工業用水にn−酪酸を添加して濃度を200ppmとした模擬ブース循環水を調製し、この模擬ブース循環水100mlを消臭装置6に入れて、上記条件で電解してから、イオンクロマトグラフィによってn−酪酸の濃度を測定した。その結果、僅か5分間の電解で、当初濃度の200ppmから、数ppmまで濃度が低下していることが分かった。また、被験者3名による人体による臭覚テストでも3名全員がほとんど悪臭を感じないという結果となった。
【0024】
(比較例1)
工業用水にn−酪酸を添加して濃度を400ppmとした模擬ブース循環水50mlに、オゾン濃度15ppmの水を50ml加え、5分間撹拌した。その後、イオンクロマトグラフィによってn−酪酸の濃度を測定したところ、148ppmであった。また、被験者3名による人体による臭覚テストでは、2名の被験者は悪臭の変化無し、1名は悪臭が若干改善されたとの結果であった。
【0025】
上記実施例1及び比較例1の結果から、次のことが分かった。すなわち、(1)実施例の消臭装置6によって、ブース循環水中の悪臭の原因物質であるn−酪酸を、僅か5分間でほぼ無臭化できる。(2)単にオゾン水を添加しただけの比較例では、充分な消臭効果を得られなかったことから、実施例の消臭装置6は、導電性ダイヤモンド電極表面で生成したオゾンの消臭効果だけではなく、OH・、O・、Oといった酸化性物質によるn−酪酸の酸化や、導電性ダイヤモンド電極表面でのn−酪酸の直接酸化も、消臭に寄与していると推測される。そして、これらの相乗効果によって、大きな消臭効果を発揮できることが分かった。
【0026】
この消臭装置6には、邪魔板13a、13bが設けられているため、ブース循環水を流した場合には、この邪魔板13a、13bによって流れが乱され、乱流が発生する。このため、撹拌効果が発揮され、導電性ダイヤモンド電極10表面への物質移動が促進され、電極反応が促進される。このため、消臭効果が促進される。また、電解中に発生するジュール熱によって電解ユニット周囲が局部的に高温となることを防止することができる。
【0027】
なお、電解された塗装ブース循環水中のガスを抜くために、図3に示す、ガス抜き管20aが設けられたガス抜き槽20を配管5途上に設けてもよい。こうであれば、配管5から吐出された塗装ブース循環水中のガスがガス抜き管20aを介して外気に逃がすことができるため、配管5内の圧力上昇や、爆発の危険性を回避することができる。
【0028】
なお、上記実施例では、1枚の導電性ダイヤモンド電極が2枚の白金電極に挟まれているが、これに替えて導電性ダイヤモンド電極と白金電極を交互に複数枚ずつとすることもできる。こうであれば、電極面積が大きくなり、さらに消臭効果を高めることができる。
【0029】
また、上記実施例1において導電性ダイヤモンド電極10と白金電極11、12との間にナフィオン(登録商標)膜を挿入してもよい。このようにすれば、塗装ブース循環水の導電率に影響されることなく電気分解を行うことができる。すなわち、塗装ブース循環水に非導電性の混入物が多量に含まれていた場合において、被処理液の導電性が低下したとしても、プロトン伝導膜を介して電流を流すことができるからである。このため、オゾン、OH・、O・、Oといった酸化性物質も多量に発生させることができる。このため、これらの酸化性物質によって、被処理水中の汚染物質を効率よく分解することができる。
【0030】
また、上記実施例では電流の向きは一定としたが、電流の向きを交番させながら処理を行ってもよい。例えば、被処理水中にカルシウムイオンが存在すると陰極に集まり、不溶性塩を形成して電極にスケールとして付着し、電極性能を低下させる。そこで、電極間に交番電流を付与すれば、電極に堆積物(スケール)が付着し難くなり、スケール付着による電極性能の低下を防止することができる。
【0031】
(実施例2)
実施例2では、図4及び図5に示す電解ユニット30を用いて電解処理を行った。この電解ユニット30は、長方形板状(長さ330mm、幅70mm、厚さ0.5mm)の白金電極31と、白金電極31に対して約2mmの間隔で平行に対面する2枚の導電性ダイヤモンド電極32a、32b(長さ230mm、幅70mm、厚さ0.5mm)とが固定治具33a、33bによって固定されている。白金電極31の一面側の上端からやや下方には、超音波発振素子35(周波数42kHz、出力 35W)がエポキシ接着剤34によって固定されている。また、白金電極31、導電性ダイヤモンド電極32a、32b及び超音波発振素子35はリード線31a、32c、32d、35a、35bを介して図示しない電源に接続されている。
【0032】
上記のように構成された電解ユニット30をシャーレ形状の透明容器36に入れ、電解ユニット30の下端をエポキシ接着剤で固定し、さらに透明容器36の上端に容器蓋37を接着剤で接続して一体とした(内容量1L)。容器蓋37の上端は孔37aが設けられており、孔37aには排気管38が接続されている。また、容器蓋37の側壁には流入管37bと、図示しない流出管とが接続されており、流入管37b及び流出管は図示しない循環ポンプに接続されている。
【0033】
以上のように構成された実施例2の消臭装置モデルを用いて、代表的な悪臭原因物質であるn−酪酸を水道水に200ppmとなるように添加し、これを模擬塗装ブース循環水として循環ポンプで循環しながら投入電力10Wで導電性ダイヤモンド電極32a、32bをアノード、白金電極31をカソードとなるように直流電流を流し、長期間の電解処理を行った。なお、電解処理中は超音波発振素子35を連続して駆動させた。水道水のカルシウム濃度は 32mg/L(炭酸カルシウム換算)であった。
【0034】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と同じ装置を用い、超音波発振素子35を駆動させることなく長期間の電解処理を行った。その他の条件は実施例2と同様であり、説明を省略する。
【0035】
<結 果>
その結果、実施例2では、n−酪酸の濃度が僅か5分間の電解で、当初濃度の200ppmから、数ppmまで濃度が低下していることが分かった。また、被験者3名による人体による臭覚テストでも3名全員がほとんど悪臭を感じないという結果となった。さらには、12時間という長期間の電解処理を行ったにもかかわらず、白金電極へのスケールの付着はほとんど認められなかった。
【0036】
これに対して、比較例2では、6時間という長期間の電解処理を行った後の白金電極表面は、カルシウムスケールの付着が著しく、電流値も当初の20Aから9Aへと低下した。
【0037】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は塗装ブース循環水の消臭に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1の消臭装置を塗装ブース循環水系に適用した場合の模式図である。
【図2】実施例1の消臭装置の断面図である。
【図3】ガス抜き槽の断面図である。
【図4】実施例2に係る電解ユニットの断面図である。
【図5】実施例2に係る電解ユニットの正面図である。
【図6】実施例2に用いた消臭装置モデルの断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10、11、12…電解ユニット(10…導電性ダイヤモンド電極(不溶性電極)、11、12…白金電極(不溶性電極))
5…配管
7・・・配管
13a、13b…邪魔板
20…ガス抜き槽
20a…ガス抜き管
35…超音波発振素子(超音波発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対をなす複数の不溶性電極が設けられた電解ユニットを備え、該不溶性電極の少なくとも一つは導電性ダイヤモンド電極であることを特徴とする塗装ブース循環水の消臭装置。
【請求項2】
不溶性電極は、互いに対面し、塗装ブース循環水の流れ方向に略平行に設けられていることを特徴とする請求項1記載の塗装ブース循環水の消臭装置。
【請求項3】
不溶性電極間にプロトン伝導膜が挿入されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗装ブース循環水の消臭装置。
【請求項4】
電解ユニットの上流には配管の径内方向に突出する邪魔板が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の塗装ブース循環水の消臭装置。
【請求項5】
電解によって発生したガスを外部に排出させるためのガス抜き手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の塗装ブース循環水の消臭装置。
【請求項6】
カソード側の不溶性電極を超音波振動させるための超音波発生手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の塗装ブース循環水の消臭装置。
【請求項7】
超音波発生手段はカソード側の不溶性電極に固定されていることを特徴とする請求項6記載の塗装ブース循環水の消臭装置。
【請求項8】
対をなす複数の不溶性電極が設けられ、該不溶性電極の少なくとも一つは導電性ダイヤモンド電極である電解ユニットを塗装ブース循環水中に浸漬し、不溶性電極間に電流を流すことを特徴とする塗装ブース循環水の消臭方法。
【請求項9】
不溶性電極は、互いに対面し、塗装ブース循環水の流れ方向に略平行に設けられていることを特徴とする請求項8記載の塗装ブース循環水の消臭方法。
【請求項10】
不溶性電極間にプロトン伝導膜が挿入されていることを特徴とする請求項8又は9記載の塗装ブース循環水の消臭方法。
【請求項11】
電解ユニットの上流には配管の径内方向に突出する邪魔板が設けられていることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項記載の塗装ブース循環水の消臭方法。
【請求項12】
導電性ダイヤモンド電極をオゾンが発生する電位に設定して電解を行うことを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項記載の塗装ブース循環水の消臭方法。
【請求項13】
電解により発生するガスを外部に排出させながら電解を行うことを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項記載の塗装ブース循環水の消臭方法。
【請求項14】
電流の向きを交番させながら処理を行うことを特徴とする請求項8乃至13のいずれか1項記載の塗装ブース循環水の消臭方法。
【請求項15】
カソード側の不溶性電極を超音波振動させるための超音波発生手段が設けられていることを特徴とする請求項8乃至14のいずれか1項記載の塗装ブース循環水の消臭方法。
【請求項16】
超音波発生手段はカソード側の不溶性電極に固定された超音波発振素子であることを特徴とする請求項15記載の塗装ブース循環水の消臭方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−136996(P2008−136996A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17163(P2007−17163)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】