説明

塗装剥離剤

【課題】塗膜の剥離を容易、かつ、効率良く行ない、被塗物支持体を剥離液に浸漬して被塗物支持体の塗膜を剥離する際、被塗物支持体の腐食を軽減することができる塗装剥離剤を提供する。
【解決手段】脂肪族環状エポキシ樹脂を含み、更に非水溶性イミダゾール化合物を含み、非水溶性イミダゾール化合物の含有量が、前記脂肪族環状エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上50質量部以下である、pHが6.5以上7.5以下である塗装剥離剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物に電着塗装を施す際に用いる被塗物支持体に付着する塗膜を剥離する塗装剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ボディなどの被塗物には、耐食性や装飾性の向上のため、被塗物を塗料層内に陰極または陽極として浸漬し、他方の電極との間に電流を流すことによって、塗料の電気泳動により被塗物に塗料の被膜を形成する電着塗装が行われている。
【0003】
一般的に、被塗物に塗装を施す際、被塗物は、例えばハンガー、アングルあるいは台車など電着塗装用治具として用いられる被塗物支持体に設置して被塗物を吊り下げた状態で保持され、電着槽の塗料を含む電着液に被塗物を浸漬して塗装する。電着塗装では、被塗物を保持する被塗物支持体を通じて、被塗物に電流が流されるため、被塗物に塗装を行なうと、被塗物支持体の塗料に浸漬された部分にも塗装が行われ、塗料が付着してしまう。
【0004】
このような被塗物支持体に付着した不必要な塗膜は、被塗物支持体の塗装された部分で絶縁されるため、次に塗装する場合に被塗物に電流が流れ難くなる場合があるなど、塗装機器のトラブルの原因ともなり得る。このため、新たな被塗物を塗装するために被塗物支持体を用いる際、被塗物支持体に付着した不必要な塗膜は、通常、新たな被塗物を塗装される前に除去されている。
【0005】
そこで、従来では、このような不要な塗膜を除去するため、一般的に塗膜表面に塗料用の塗装剥離剤を塗布若しくは塗装剥離剤中に浸漬して剥離する方法が提案されている。塗装剥離剤として、例えば、過酸化水素水、硝酸などの酸性溶液やアルカリ性溶液を含む剥離液が用いられ、この剥離液に被塗物支持体を浸漬して被塗物支持体に付着した不要な塗膜を剥離する方法がある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−311374号公報
【特許文献2】特開昭63−121848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の塗装剥離剤は、酸性又はアルカリ性の剥離液であったため、酸やアルカリにより被塗物支持体を腐食する虞がある、という問題があった。
【0008】
また、被塗物に電着塗装して形成される塗膜は、密着力が大きく、被塗物支持体に強固に密着するため、従来の剥離液に浸漬するだけでは被塗物に付着した塗膜を短時間で完全に除去することは困難である、という問題があった。また、剥離槽内で剥離して浮遊している塗膜が、電着塗装治具に再付着してしまう場合がある、という問題があった。
【0009】
更に、被塗物支持体を剥離液に浸漬した後に、ブラッシングや高速高圧で噴射された粉体または水によって塗膜に衝撃を加え、塗膜を剥離させるブラスト法を用いる方法もあるが、この方法を用いると、塗膜の剥離工程が増えて効率が悪い上、被塗物支持体の変形や損傷を生じる虞がある、という問題があった。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑み、塗膜の剥離を容易、かつ、効率良く行ない、被塗物支持体の腐食を軽減することができる塗装剥離剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の(1)〜(3)である。
(1) 脂肪族環状エポキシ樹脂を含み、pHが6.5以上7.5以下であることを特徴とする塗装剥離剤。
(2) 前記脂肪族環状エポキシ樹脂中に非水溶性イミダゾール化合物を含み、
前記非水溶性イミダゾール化合物の含有量が、前記脂肪族環状エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上50質量部以下である上記(1)に記載の塗装剥離剤。
(3) 前記非水溶性イミダゾール化合物が、トリアジン変性した化合物、又は非水溶性イミダゾール−イソシアヌル酸付加物である上記(2)に記載の塗装剥離剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗膜の剥離を容易、かつ、効率良く行ない、被塗物支持体の腐食を軽減することができる塗装剥離剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明について詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0014】
本実施形態の塗装剥離剤について説明する。本発明は、脂肪族環状エポキシ樹脂を含み、pHが6.5以上7.5以下である塗装剥離剤である。
【0015】
<脂肪族環状エポキシ樹脂>
本実施形態の塗装剥離剤が含有する脂肪族環状エポキシ樹脂は、分子内に脂肪族エステル結合を含むエポキシ樹脂である。脂肪族環状エポキシ樹脂は、本実施形態の塗装剥離剤に主成分として含まれる。本実施形態において、「主成分」とは、60質量部以上であることを意味する。即ち、本実施形態の塗装剥離剤における脂肪族環状エポキシ樹脂の含有率は60質量部以上である。この比率は70質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、100質量部、即ち実質的に他の成分を含まないことがさらに好ましい。
【0016】
脂肪族環状エポキシ樹脂は、そのpHが中性であるため、本実施形態の塗装剥離剤のpHを中性とすることができ、塗膜の塗装剥離剤として用いるのに適している。本実施形態において、中性とは、溶液のpHが6.5以上7.5以下の範囲内にあることを意味する。
【0017】
前記脂肪族環状エポキシ樹脂は、その製造について特に制限されない。例えば、エポキシ化する際に分子中の二重結合に対して過酢酸等の過酸化物を用いて酸素を付加してエポキシ基を導入する手法で合成することができる。前記脂肪族環状エポキシ樹脂は、下記一般式(1)で示されている脂肪族環状炭化水素にエポキシ基を持つ基が包含され、下記一般式(2)から(4)で示される構造の何れかを含むものである。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
このような脂肪族環状エポキシ樹脂としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、アリルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル−2−プロピレンオキシド、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルアジペート)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)エーテル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)ジエチルシロキサン、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2,3−エポキシシクロヘキシルメチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、4−(3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル)ブチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレートなどが挙げられる。脂肪族環状エポキシ樹脂はそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
脂肪族環状エポキシ樹脂として、具体的には、三菱化学社製の「YL−6663」、「YL−6753」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の「アラルダイトCY−184」、「アラルダイトCY−192−1」、「アラルダイトCY−179」、「アラルダイトCY−177」、ダイセル化学工業社製の「セロキサイド2021P」、「セロキサイド2081」、「セロキサイド2083」、「セロキサイド3000」、「エポリードGT301」、「エポリードGT302」、「エポリードGT401」、「エポリードGT403」等(何れも商品名)を挙げることができる。
【0024】
<非水溶性イミダゾール化合物>
本実施形態の塗装剥離剤は、脂肪族環状エポキシ樹脂中に非水溶性イミダゾール化合物を含んでもよい。イミダゾール化合物は、非共有電子対を有するイミダゾール誘導体よりなる化合物である。イミダゾール誘導体は、カチオン受容体として機能するものである。尚、本実施形態において、カチオンにはプロトンも含まれる。この場合、イミダゾール誘導体が、イミダゾール化合物となる。イミダゾール化合物は、水に溶解しにくく、非水溶性となっているため、脂肪族環状エポキシ樹脂中に含まれるイミダゾール化合物は、非水溶性である。この非水溶性イミダゾール化合物のpHは中性であるため、本実施形態の塗装剥離剤のpHを中性とすることができ、塗膜の塗装剥離剤として用いるのに適している。
【0025】
非水溶性イミダゾール化合物としては、例えば、下記一般式(5)に示すようなイミダゾールの1位、2位、4位および5位のうち少なくともいずれかに置換基を有する化合物、下記一般式(6)に示すようなイミダゾールの4位および5位が環化された化合物、下記一般式(7)に示すようなイミダゾールの1位および2位が環化された化合物、あるいは、下記一般式(8)に示すようなイミダゾールの1位および5位が環化された化合物などが挙げられる。
【0026】
【化5】


(化5において、R1、R2、R3およびR4は、水素基あるいは置換基を表す。それらは同一でも異なっていてもよい。但し、少なくとも1つは置換基であることが必要である。)
【0027】
【化6】


(化6において、R1およびR2は、水素基あるいは置換基を表す。それらは同一でも異なっていてもよい。R5は、炭素を含む基を表す。)
【0028】
【化7】


(化7において、R3およびR4は、水素基あるいは置換基を表す。それらは同一でも異なっていてもよい。R6は、炭素を含む基を表す。)
【0029】
【化8】


(化8において、R2およびR3は、水素基あるいは置換基を表す。それらは同一でも異なっていてもよい。R7は、炭素を含む基を表す。)
【0030】
R1からR4の置換基は、炭素を有する置換基であってもよいし、ハロゲン基であってもよいが、炭素を有する置換基であることが好ましい。炭素を有する置換基としては、炭素数が1以上20以下のものが好ましい。炭素数が20より大きいとカチオンの移動性が低下してしまうからである。また、炭素を有する置換基は、窒素(N)、酸素(O)、リン(P)あるいは硫黄(S)などのヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0031】
更に、炭素を有する置換基としては、例えばアルキル基、アリール基あるいはこれらの基の少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された基が挙げられる。中でも、フェニル基、ベンジル基、炭素数が1から17のアルキル基あるいはこれらの基の少なくとも1つの水素がハロゲンで置換された基が好ましい。イミダゾール誘導体自体が水に溶解しにくくなり、イミダゾール化合物の溶解性を低下させることができる。
【0032】
また、非共有電子対を有するイミダゾール誘導体は多置換であるほど、水への溶解性は低くなることから、イミダゾール誘導体は多置換であることが、好ましい。
【0033】
例えば、このようなイミダゾール誘導体としては、下記一般式(9)に示すように2−i−プロピルイミダゾール、下記一般式(10)に示すように2−エチルイミダゾール、下記一般式(11)に示すように2−n−プロピルイミダゾール、下記一般式(12)に示すように2−ブチルイミダゾールあるいは下記一般式(13)に示すように2−フェニルイミダゾールなどのように、2の位置に置換基が結合し、1,4および5の位置に水素が結合したものが好ましく挙げられる。
【0034】
【化9】

【0035】
【化10】

【0036】
【化11】

【0037】
【化12】

【0038】
【化13】

【0039】
また、下記一般式(14)に示すように2−エチル−4−メチル−イミダゾールなどのように、1の位置に水素基が結合し、2の位置に置換基が結合し、4および5の位置のうち少なくとも一方にも置換基が結合したイミダゾール誘導体も好ましく挙げられる。
【0040】
【化14】

【0041】
非水溶性イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾールなどが挙げられる。非水溶性イミダゾール化合物はそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
非水溶性イミダゾール化合物は、トリアジン変性した化合物、又は非水溶性イミダゾール化合物に下記一般式(15)に示すイソシアヌル酸を付加した非水溶性イミダゾール−イソシアヌル酸付加物であってもよい。
【0043】
【化15】

【0044】
非水溶性イミダゾール化合物をトリアジン変性した化合物としては、例えば、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾジル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、
化学式(7)に示される2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4−メチルイミダゾール−(1)]−エチル−S−トリアジンなどが挙げられる。
【0045】
非水溶性イミダゾール−イソシアヌル酸付加物は、非水溶性イミダゾール化合物に上記一般式(15)に示すイソシアヌル酸を付加したものであるが、非水溶性イミダゾール−イソシアヌル酸付加物には、非水溶性イミダゾール化合物をトリアジン変性した化合物にイソシアヌル酸を付加したものも含まれる。非水溶性イミダゾール−イソシアヌル酸付加物としては、例えば、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾジル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物などが挙げられる。
【0046】
非水溶性イミダゾール−イソシアヌル酸付加物は、非水溶性イミダゾール化合物とイソシアヌル酸とを溶媒中で反応させることにより合成することができる。非水溶性イミダゾール化合物とイソシアヌル酸とは、化学量論的に反応する。即ち、非水溶性イミダゾール化合物とイソシアヌル酸との使用量をモル比で1対1になるようにする。
【0047】
合成方法としては、例えば、非水溶性イミダゾール化合物とイソシアヌル酸とを水に懸濁させたスラリーを調製し、該スラリーを撹拌しながら所定時間加熱した後、同スラリー(反応液)を冷却して、析出物(反応生成物)を濾別単離する。反応生成物は、常法に従って、洗浄および乾燥加熱する。これにより、イミダゾール−イソシアヌル酸付加物が得られる。反応温度は、特に限定されるものではないが、溶媒に対する原料の溶解量を高めて溶媒の使用量を少なくするか、溶媒に対する原料の溶解速度を速くすることで、イミダゾール−イソシアヌル酸付加物の合成の効率化を図る観点から、反応に影響の無い範囲で反応温度を高くすることが好ましい。また、合成時に使用される溶媒は、特に制限はないが、イソシアヌル酸を溶解させることができるものであればよく、例えば、安価であり且つ廃液処理の容易な水やイソプロピルアルコールなどがある。尚、イミダゾール−イソシアヌル酸付加物の純度を良好なものとするためには、溶媒の使用量を原料であるイミダゾール化合物とイソシアヌル酸の総量に対して、5倍から10倍の量(質量比)より多くすることが好ましい。
【0048】
非水溶性イミダゾール化合物は、脂肪族環状エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上50質量部以下含有するのが好ましく、5質量部以上30質量部以下含有するのがより好ましく、5質量部以上10質量部以下含有するのが更に好ましい。非水溶性イミダゾール化合物の含有量が1質量部を下回ると、非水溶性イミダゾール化合物を配合したことによる塗膜の剥離効果が得られないからである。非水溶性イミダゾール化合物の含有量が50質量部を超えると、脂肪族環状エポキシ樹脂に非水溶性イミダゾール化合物がほとんど溶解しないため、非水溶性イミダゾール化合物の含有量が50質量部を超えても、非水溶性イミダゾール化合物を配合した分だけの塗膜の剥離効果は、得られないからである。
【0049】
このように、本実施形態の塗装剥離剤は、脂肪族環状エポキシ樹脂を含み、pHが6.5以上7.5以下である塗装剥離剤である。脂肪族環状エポキシ樹脂のpHは中性であるため、脂肪族環状エポキシ樹脂を含む塗装剥離剤のpHも中性とすることができる。このため、本実施形態の塗装剥離剤が、被塗物を保持する被塗物支持体に付着した塗膜を剥離するための剥離液として用いられる場合、本実施形態の塗装剥離剤中に被塗物支持体を浸漬して塗膜を剥離しても、本実施形態の塗装剥離剤は、中性の剥離液であるため、被塗物支持体が腐食するのを抑制することができる。
【0050】
また、被塗物に電着塗装して形成される電着塗膜は、密着力が大きく、被塗物支持体に強固に密着するため、従来の剥離液に浸漬するだけでは被塗物に付着した塗膜を短時間で完全に除去することは困難である。また、剥離槽内で剥離して浮遊している塗膜が、電着塗装治具である被塗物支持体に再付着してしまう虞がある。更に、被塗物支持体を剥離液に浸漬した後、ブラッシングや高速高圧で噴射された粉体または水によって塗膜に衝撃を加え、塗膜を剥離させるブラスト法を用いる方法がある。このブラスト法を用いると、塗膜の剥離工程が増えて効率が悪い上、被塗物支持体の変形や損傷を生じる虞がある。これに対し、本実施形態の塗装剥離剤は、脂肪族環状エポキシ樹脂に非水溶性イミダゾール化合物を含めることで、本実施形態の塗装剥離剤のpHを中性に維持しつつ、被塗物支持体に付着した塗膜の剥離効果を向上させることができる。このため、被塗物支持体を剥離液に浸漬した後、被塗物に付着した塗膜を短時間で完全に除去することができると共に、塗膜が被塗物支持体に再付着するのを防止することができる。また、本実施形態の塗装剥離剤を用いれば、ブラスト法を用いる必要がないため、塗膜の剥離工程を増加させず、被塗物支持体の変形や損傷を生じさせることはない。このため、塗膜の剥離を容易、かつ、効率良く行なうことができる。従って、本実施形態の塗装剥離剤は、電着塗膜の剥離を容易、かつ、効率良く行ない、被塗物支持体の腐食を軽減することができる。
【0051】
本実施形態の塗装剥離剤は、上記の脂肪族環状エポキシ樹脂、非水溶性イミダゾール化合物の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、界面活性剤を含有することができる。本実施形態の塗装剥離剤に配合される界面活性剤は、塗装表面に塗布した際の濡れ性向上のために配合されるものである。界面活性剤としては、例えば、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルアミンオキシド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどが挙げられる。界面活性剤は、これらの1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
本実施形態において、脂肪族環状エポキシ樹脂及び非水溶性イミダゾール化合物は、使用直前に混合することが好ましい。そのため、各成分は別個の容器に充填するか、容器内が区切られ両成分が非混合の状態で収納できる容器に充填する必要がある。これらの成分を混合するには、一方の成分を他の成分中に添加しながら混合しても良いし、両成分の所定量を別の容器内で混合してもよい。
【0053】
被塗物支持体に付着された塗料を剥離する際、本実施形態の塗料剥離剤を入れた槽内に浸漬しても良いし、本実施形態の塗料剥離剤を剥離すべき塗装面にウエス・ハケやローラなどの公知の塗布手段を用いて塗布し、被塗物支持体に付着された塗料を剥離するようにしてもよい。
【0054】
本実施形態の塗装剥離剤は、電着塗膜の剥離を容易、かつ、効率良く行ない、被塗物支持体の腐食を軽減するのに優れるため、例えば自動車や車両(新幹線、電車)、土木、建築、エレクトロニクス、航空機、宇宙産業分野の構造部材などの被塗物に電着塗装を施す際に被塗物を吊り下げるために用いられる被塗物支持体に付着した塗膜を剥離する剥離液として好適に用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
<実施例1から12および比較例1から9>
[電着塗装]
被塗物として、SPCC−SD製の板状の試験片(0.8mm×70mm×150mm)を用いた。試験片を被塗物支持体(SPCC−SD製)に固定した後、被塗物の表面に、エポキシ樹脂をベースとしたカチオン型の電着塗料を用いて電着塗装を施した。下記電着塗装条件で通電処理した後、水洗、予備乾燥して、加熱硬化を行い、厚さ15μmの塗膜を形成した。
(電着塗装の条件)
・電着塗料:サクセードS#30Sグレー、神東塗料社製
・電着塗料の液温:28℃
・塗装電圧:200V
・通電時間:180s
・加熱硬化:170℃×20min
【0057】
[塗装剥離]
表1、2に示す各成分を、同表に示す添加量(質量部)で、配合しこれらを均一に混合して、表1、2に示される各塗装剥離剤を調製した。各々の実施例、比較例における各成分の添加量(質量部)は表1、2に示す通りである。表1、2に示す成分を表1、2に示す配合量で調製して得られた各塗装剥離剤を剥離液として上記のようにして得られた試験片を剥離液中に下記剥離条件で浸漬した。
(剥離条件)
・剥離液の液温:20℃
・浸漬時間:3分
【0058】
各々の実施例、比較例で用いた各塗装剥離剤の成分として用いた非水溶性イミダゾール化合物のpHと、水溶性の有無と、分子量と、イミダゾール誘導体に結合する置換基の位置について表3に示す。尚、表3中、pHは、pH試験紙で目視により観察した結果である。水溶性の二重丸印、丸印、バツ印は、各々以下の状態を示す。なお、イミダゾール誘導体と結合する置換基を示す−Meはメチル基を示し、−Etはエチル基を示し、−Phはフェニル基を示し、−MeOHはメタノールを示す。
(水溶性)
二重丸印:水に溶解しない
丸印:水に一部溶解する
バツ印:水に溶解する
【0059】
[剥離効果]
試験片の塗膜の剥離具合を目視により確認した。表1、2に塗膜の剥離状態の観察結果を示す。尚、表1、2中、二重丸印、丸印、バツ印は、各々以下の状態を示す。
(塗膜の剥離状態)
二重丸印:被塗物を剥離液に浸漬してから1、2時間程度で塗膜が完全に剥離
丸印:塗膜が完全に剥離するまで被塗物を剥離液に浸漬してから1日以上かかる
バツ印:被塗物を剥離液に浸漬しても塗膜は剥離しない
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
上記表1、2に示される各成分は、以下のとおりである。
・脂肪族環状エポキシ樹脂:セロキサイド2021P、ダイセル化学工業社製
・水酸化ナトリウム:和光純薬工業社製
・過酸化水素:和光純薬工業社製
・ジエチレングリコールジエチルエーテル:和光純薬工業社製
・ベンジルアルコール:関東化学社製
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂:JER834、三菱化学社製
・2−ウンデシルイミダゾール:キュアゾール C11Z、四国化成工業社製
・2−フェニルイミダゾール:キュアゾール 2PZ、四国化成工業社製
・1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール:キュアゾール 1B2PZ、四国化成工業社製
・2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール:キュアゾール 2P4MHZ−PW、四国化成工業社製
・2−ヘプタデシルイミダゾール:キュアゾール C17Z、四国化成工業社製
・2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾジル−(1’)]−エチル−s−トリアジン:キュアゾール 2MZ−A、四国化成工業社製
・2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾジル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物:キュアゾール 2MA−OK、四国化成工業社製
・硝酸:硝酸1.38、関東化学社製
・アンモニア:アンモニア水、和光純薬工業社製
・1、2−ジメチルイミダゾール:1,2−DMZ、四国化成工業社製
・2−エチル−4−メチルイミダゾール:2E4MZ、四国化成工業社製
・1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール:2MZ−CN、四国化成工業社製
【0064】
表1に示すように、実施例1では、被塗物から塗膜を剥離できたことから、塗装剥離剤の成分として脂肪族環状エポキシ樹脂のみでも、試験片から塗膜を剥離する効果が得られることが確認された。実施例2から12では、塗装剥離剤の成分として、脂肪族環状エポキシ樹脂の他に、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾジル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾジル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物を配合しても、塗装剥離剤のpHは中性のまま維持できた。また、試験片から塗膜を更に短時間で剥離できた。よって、塗装剥離剤の成分として脂肪族環状エポキシ樹脂の他に、非水溶性イミダゾール化合物を加えることで、被塗物の塗膜の剥離を速めることができ、被塗物から更に短時間で塗膜を剥離することができることが確認された。
【0065】
一方、比較例1から4では、試験片から塗膜を剥離できたが、塗装剥離剤のpHは酸性かアルカリ性であった。また、比較例5、6では、塗装剥離剤のpHは中性であったが、試験片から塗膜を剥離できなかった。よって、塗装剥離剤の成分としてビスフェノールA型エポキシ樹脂など芳香族環を含むエポキシを用いても被塗物の塗膜の剥離効果は得られないことが確認された。また、比較例6では、塗装剥離剤のpHは中性であったが、被塗物から塗膜を剥離できなかった。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は被塗物の塗膜の剥離効果は得られないことから、2−ウンデシルイミダゾールのように非水溶性イミダゾール化合物を塗装剥離剤の成分として用いても塗装剥離剤の成分として非水溶性イミダゾール化合物のみでは被塗物から塗膜を剥離できないことが確認された。また、比較例7から9では、被塗物から塗膜を剥離できたが、塗装剥離剤のpHはアルカリ性であった。よって、塗装剥離剤の成分として脂肪族環状エポキシ樹脂の他に、1、2−ジメチルイミダゾールや2−エチル−4−メチルイミダゾールや1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールを加えた場合、1、2−ジメチルイミダゾールや2−エチル−4−メチルイミダゾールや1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールは水溶性であり、1、2−ジメチルイミダゾールや2−エチル−4−メチルイミダゾールや1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールのpHはアルカリ性であるため、被塗物から塗膜を剥離できても、塗装剥離剤のpHはアルカリ性となり好ましくないことが確認された。
【0066】
よって、実施例1から12のように、塗装剥離剤の成分として脂肪族環状エポキシ樹脂の他に、更に非水溶性イミダゾール化合物を所定量含めることで、被塗物の塗膜の剥離効果を従来と同様に有しつつ、塗装剥離剤のpHは中性とすることができるので、塗膜の剥離を容易、かつ、効率良く行なうことができると共に、被塗物支持体の腐食を軽減することができる。従って、本発明の塗装剥離剤は、自動車ボディなどの被塗物を支持する被塗物支持体に付着した塗膜を剥離するために用いる塗装剥離剤として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明に係る塗装剥離剤は、被塗物支持体の腐食を軽減するのに優れるため、自動車ボディなどの被塗物を支持する被塗物支持体に付着した塗膜を剥離するために用いる塗装剥離剤として用いるのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族環状エポキシ樹脂を含み、pHが6.5以上7.5以下であることを特徴とする塗装剥離剤。
【請求項2】
前記脂肪族環状エポキシ樹脂中に非水溶性イミダゾール化合物を含み、
前記非水溶性イミダゾール化合物の含有量が、前記脂肪族環状エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上50質量部以下である請求項1に記載の塗装剥離剤。
【請求項3】
前記非水溶性イミダゾール化合物が、トリアジン変性した化合物、又は非水溶性イミダゾール−イソシアヌル酸付加物である請求項2に記載の塗装剥離剤。

【公開番号】特開2012−1599(P2012−1599A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136207(P2010−136207)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】