説明

塗装劣化診断方法および装置

【課題】 鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の塗装面の劣化状況を検出し、劣化度判定を行うための塗装劣化診断方法および装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、塗装が施された鋼構造物の表面を撮影した入力画像に対して塗装面の劣化部だけを透過させた変換に変換する劣化部抽出フィルターを構築する工程と、変換画像中の透過部を検出して劣化部プロファイルを生成する工程と、塗装面劣化の発生・成長をシミュレートした仮想塗装面劣化画像を作成する工程と、作成された仮想塗装面劣化画像と劣化基準とから評価用劣化プロファイルを作成し、蓄積してデータベースを形成する工程と、劣化診断対象の入力画像から得られた劣化プロファイルと評価用劣化プロファイルを比較することで劣化度合いを判定する劣化度評価の工程により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の塗装面の劣化状況を検出し、劣化の進行度合いの判定を行なうための塗装劣化診断方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄塔,鋼橋などの鋼構造物においては、鋼材表面に防錆のために施された塗装の劣化を定期的に検査し、その検査結果に基づいて再塗装などの補修を行なうようにしている。
【0003】
従来、鋼構造物の塗装面の劣化状況を診断するには、作業者が診断対象となる構造物を現地で目視,触診,打診などによって検査し、顧客別の塗装の劣化診断基準に照らし合わせて経験的に判断している(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
【0004】
他の従来の塗装劣化診断方法としては、診断対象を濃淡画像情報として撮影し、濃淡画像情報より錆や剥れなどを示す変状部を検出するとともにその変状部の個数、各面積、及び変状部全体の面積が画像全体に占める割合を求めて変状部データとし、濃淡画像情報を所定の間隔で小領域に区画し、小領域内に含まれる濃淡値の平均値と分散からなる統計量を求め、これら統計量と上記変状部データとから診断対象の劣化進行の度合いを判定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−116914号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】財団法人鉄道総合技術研究所編,「塗膜劣化状態およびケレン程度見本帳」,財団法人鉄道総合技術研究所,昭和64年
【非特許文献2】日本電信電話公社建築局編,「鉄部塗装の劣化度写真見本帖」,株式会社通信建築研究所,昭和59年1月
【非特許文献3】社団法人日本道路協会編,「塗膜劣化程度標準写真帳」,社団法人日本道路協会,1990年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現地での目視,触診,打診による塗装の劣化診断方法では、作業者の経験に頼っているため、個人差による診断結果のバラツキが生じるといった問題があった。また、診断対象となる構造物が多い場合や構造物の規模が大きい場合には、診断作業の量が膨大になるという問題もあった。
【0008】
また、濃淡画像情報より劣化進行の度合いを判定する方法の場合、画像処理の手法により劣化診断を行なうため、個人差による診断結果のバラツキがなく、現地での目視,触診,打診による劣化診断作業と比べて労力,時間を要する作業を省くことができるが、鋼材の塗装面には錆汁の付着により錆色を呈しながら劣化部では無い部分が多く存在し、このような箇所を劣化部と判定してしまうという問題がある。錆汁は、鋼材や鋼材に取付けられた金具の腐食によって生成した物質が雨水などで運ばれて、塗装面に固着したものであり、腐食部と同じ茶色や褐色をしている。錆汁の付着は、塗装面を著しく汚し、景観上は良くないが、錆汁そのものが構造物の性能を低下させるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の問題を有利に解決するために、本発明の塗装劣化診断方法は、塗装が施された鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の表面を撮影して得られるフルカラービットマップイメージを入力画像として用い、入力画像中の塗装面の劣化部だけを透過させた画像に変換する劣化部抽出フィルターを構築する工程と、前記劣化部抽出フィルターを適用して得られる変換画像中の劣化部を示す透過部を検出し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して劣化プロファイルを生成する工程と、劣化部の発生量を、劣化部に近似した円の発生個数で表わし、劣化部の成長量を、劣化部に近似した円の総面積率と成長段階毎の総面積率の面積増加率とで表わし、予め設定された劣化部の発生量と成長量に応じて発生と成長を規則的に繰り返して、塗装面劣化の発生・成長をシミュレートし、様々な仮想塗装面劣化画像を作成する工程と、作成された仮想塗装面劣化画像群に対して、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出するとともに実際の塗膜劣化面にできるだけ近似させた評価用仮想塗装面劣化画像を作成し、前記評価用仮想塗装面劣化画像と顧客の劣化診断基準とから評価用劣化プロファイルを作成し、評価用劣化プロファイルと評価用仮想塗装面劣化画像のデータを蓄積してデータベースを形成する工程と、前記データベースから劣化診断対象の入力画像に対応した評価用劣化プロファイルを取り出し、劣化診断対象の入力画像から得られた劣化プロファイルと比較することで劣化度合いを判定する劣化度評価の工程とにより塗装面の劣化度を診断するものである。
【0010】
前記劣化部抽出フィルターを構築する工程は、プロトタイプ同定プロセスと、初期フィルター生成プロセスと、対話型同定プロセスとの3段階のプロセスで構成されるものである。
【0011】
前記プロトタイプ同定プロセスでは、入力画像群を撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類し、各カテゴリーに対して複数の典型的な入力画像と入力画像の劣化部のみを明示した理想出力画像との画像対からなる学習用教師データを作成し、カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、入力画像から劣化部のみを抽出するために準最適化された空間フィルターを生成し、生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群として保持する。
【0012】
前記初期フィルター生成プロセスでは、劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群から各カテゴリーの劣化部抽出フィルターのプロトタイプを数個ずつ選択し、選択された劣化部抽出フィルターのプロトタイプに入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を複数選択し、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターを初期フィルター群として保持する。
【0013】
前記対話型同定プロセスは、初期フィルター群に入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を選択する第1のステップと、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルター群を親に持つ次世代の劣化部抽出フィルター群を遺伝的アルゴリズムの手法を用いて生成する第2のステップと、次世代の劣化部抽出フィルター群に入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を選択する第3のステップとの3つのステップからなり、対話型進化計算の手法により、第2から第3のステップを繰り返し行なうことで、準最適な劣化部抽出フィルターを作成する。
【0014】
前記評価用劣化プロファイルは、劣化部の個数および各劣化部の面積から算出される、判定面積に対する劣化部の総面積率と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値と、個々の劣化部の面積の最大値または同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値とをパラメータとし、3つのパラメータを軸とした3次元の評価基準空間上で構成されるものである。
【0015】
また、本発明の塗装劣化診断装置は、塗装が施された鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の表面を撮影して得られるフルカラービットマップイメージの入力画像を入力として、その入力画像中の塗装面の劣化部だけを透過させた画像に変換出力する劣化部抽出フィルターを構築する劣化部抽出フィルター構築手段と、前記劣化部抽出フィルターを適用して得られる変換画像中の劣化部を示す透過部を検出し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して劣化プロファイルを生成する劣化プロファイル生成手段と、劣化部の発生量を、劣化部に近似した円の発生個数で表わし、劣化部の成長量を、劣化部に近似した円の総面積率と成長段階毎の総面積率の面積増加率とで表わし、予め設定された劣化部の発生量と成長量に応じて発生と成長を規則的に繰り返して、塗装面劣化の発生・成長をシミュレートし、様々な仮想塗装面劣化画像を作成する仮想塗装面劣化画像作成手段と、作成された仮想塗装面劣化画像群に対して、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出するとともに実際の塗膜劣化面にできるだけ近似させた評価用仮想塗装面劣化画像を作成し、前記評価用仮想塗装面劣化画像と顧客の劣化診断基準とから評価用劣化プロファイルを作成する評価用劣化プロファイル作成手段と、評価用劣化プロファイルと評価用仮想塗装面劣化画像のデータを蓄積して形成されるデータベースと、データベースから劣化診断対象の入力画像に対応した評価用劣化プロファイルを取り出し、劣化診断対象の入力画像から得られた劣化プロファイルと比較することで劣化度合いを判定する劣化度評価手段とを備えるものである。
【0016】
前記劣化部抽出フィルター構築手段は、プロトタイプ同定プロセスを行なう手段と、初期フィルター生成プロセスを行なう手段と、対話型同定プロセスを行なう手段との3段階のプロセスを行なう手段を備えるものである。
【0017】
前記プロトタイプ同定プロセスを行なう手段は、入力画像群を撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類し、各カテゴリーに対して複数の典型的な入力画像と入力画像の劣化部のみを明示した理想出力画像との画像対からなる学習用教師データを作成する学習用教師データ作成手段と、カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、入力画像から劣化部のみを抽出するために準最適化された空間フィルターを生成し、生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群として保持するプロトタイプフィルター構築手段とを備えるものである。
【0018】
前記初期フィルター生成プロセスを行なう手段は、劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群から各カテゴリーの劣化部抽出フィルターのプロトタイプを数個ずつ選択する劣化部抽出フィルター選択手段と、選択された劣化部抽出フィルターのプロトタイプに入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受け付ける受付手段と、受け付けられた情報に従って変換画像を選択する画像選択手段と、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターを初期フィルター群として保持する初期フィルター生成手段とを備えるものである。
【0019】
前記対話型同定プロセスを行なう手段は、初期フィルター群または次世代の劣化部抽出フィルター群に入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受け付ける受付手段と、受け付けられた情報に従って変換画像を選択する画像選択手段と、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルター群を親に持つ次世代の劣化部抽出フィルター群を遺伝的アルゴリズムの手法を用いて生成する更新手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の塗装劣化診断方法および装置によれば、画像処理の手法により劣化診断を行なうため、個人差による診断結果のバラツキがほとんどなく、現地での目視,触診,打診による劣化診断作業と比べると労力,時間を要する作業を省くことができる。
【0021】
また、画像中の塗装面の劣化部だけを透過させる劣化部抽出フィルターを、遺伝的アルゴリズムの手法を用いたプロトタイプ同定プロセスと、初期フィルター生成プロセスと、対話型進化計算の手法を用いた対話型同定プロセスとの3段階のプロセスにより生成することで、錆汁等の錆色を呈しながら劣化部ではない部分についても判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の塗装劣化診断方法のフローを示す図である。
【図2】入力画像と変換画像の一例を示す図である。
【図3】プロトタイプ同定プロセスのフローを示す図である。
【図4】教師データ(サンプル画像−理想出力画像の対)の一例を示す図である。
【図5】空間フィルター群のデータ構造の一例を示す図である。
【図6】対話型同定プロセスのフローを示す図である。
【図7】仮想塗装面劣化画像の一例を示す図である。
【図8】評価用仮想塗装面劣化画像の一例を示す図である。
【図9】微小な劣化部を消去した場合の3次元評価基準空間の一例を示す図である。
【図10】劣化部の大きさのばらつきを考慮した3次元評価基準空間の一例を示す図である。
【図11】塗装劣化診断を行なう装置の構成要素を示す図である。
【図12】劣化部抽出フィルター構築手段の構成要素を示す図である。
【図13】実施例のプロトタイプ同定プロセスのフィルタリング結果の一例を示す図である。
【図14】実施例の対話型同定プロセスのフィルタリング結果の一例を示す図である。
【図15】実施例の一様型の仮想塗装面劣化画像の一例を示す図である。
【図16】実施例の半分型および中心型の仮想塗装面劣化画像の一例を示す図である。
【図17】劣化診断対象の入力画像例を示す図である。
【図18】2つ目の評価基準空間にパラメータ値をプロットした結果の一例を示す図である。
【図19】データベース形成後の塗装劣化診断方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の塗装劣化診断方法のフローチャートである。塗装が施された鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の表面を撮影した画像は、デジタルカメラ等により撮影され、コンピュータに取り込まれる。撮影された画像は、フルカラービットマップイメージとし、入力画像1として使用する。入力画像1は各画素毎にRGBの3刺激値の3次元整数値ベクトル(r,g,b),0≦r,g,b≦255によって表現されている。
【0025】
前記入力画像1を用いて劣化部抽出フィルターの構築2を行なう。劣化部抽出フィルターとは、入力画像1の塗装面の劣化部分だけを透過させた画像に変換出力する入出力系である。図2に入力画像と変換画像の例を示す。
【0026】
本発明で用いている空間フィルターの構成について説明する。空間フィルターは、画像Iの各画素の3刺激値(r,g,b),(0≦r,g,b≦255,r,g,bは整数)を、1次元の透過値t,(0≦t≦255,tは整数)に変換する関数t=F(r,g,b)である。劣化部抽出フィルターは、画像中の劣化部分を透過させ、それ以外の部分を透過させない空間フィルターであり、劣化部分の画素に対して、大きな透過値を与え、それ以外の部分に低い透過値を与える。
【0027】
まず、(r,g,b)の3刺激値を数式1および数式2を通して、L色空間上の点(L,u,v)に変換する。次に、画像Iの画素をL色空間上の距離((L+u+v1/2)に関するk平均法によりクラスタリングする。ここで、画像Iの座標(i,j)における画素が属するクラスターの重心座標をb(i,j)=(L(i,j),u(i,j),v(i,j))によって表わす。
【0028】
【数1】

【0029】
【数2】

【0030】
次に、各画素の3刺激値(r,g,b)から数式3を通して、輝度成分Y(r,g,b)を分離する。この輝度成分によるグレースケール画像をIとする。また、画像Iの座標(i,j)における画素の輝度をY(i,j)で表し、輝度成分の空間2次微分(輝度変化の滑らかさ)D(i,j)を数式4で与える。
【0031】
【数3】

【0032】
【数4】

【0033】
空間フィルターF(r,g,b)では、まず、全ての座標(i,j)におけるb(i,j)=(L(i,j),u(i,j),v(i,j))に対して、数式5によりアフィン変換を行い、数式6を通して、n個の基準点(L,u,v),k=1,・・・,nからの最短距離d(i,j)を求める。次に、数式7により最短距離d(i,j)と輝度成分の空間2次微分との凸結合vを求める。そして、数式8によって透過値tを定める。
【0034】
【数5】

【0035】
【数6】

【0036】
【数7】

【0037】
【数8】

【0038】
数式5において、c,i=1,・・・,9は−1≦c≦1なる実数であり、数式7において、λは0≦λ≦1なる実数であり、数式8において、[]はガウス記号、Kは透過率を制御する定数であり、K>0を満たす実数である。
【0039】
劣化部抽出フィルター構築工程2において、劣化部抽出フィルターの同定は、プロトタイプ同定プロセス3と初期フィルター生成プロセス4と対話型同定プロセス5の3段階のプロセスからなる。第1段階のプロトタイプ同定プロセス3では、教師データとして作成された学習用教師データ(典型的な入力画像−理想出力画像の対の集合)を用いて、劣化部抽出フィルターのプロトタイプとなる空間フィルターを遺伝的アルゴリズムの手法により同定する。第2段階の初期フィルター生成プロセス4では、第1段階のプロトタイプ同定プロセス3で生成された劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群から劣化診断対象の入力画像1に適した劣化部抽出フィルター群を選択し、初期フィルター群を生成する。第3段階の対話型同定プロセス5では、第2段階の初期フィルター生成プロセス4で生成された初期フィルター群を基に、対話型進化計算の手法を用いて、準最適な劣化部抽出フィルターを同定していく。
【0040】
劣化部抽出フィルターの同定は、第1段階のプロトタイプ同定プロセス3だけでは、与えられた条件において、必ずしも結果として準最適解が得られる保証はない。そのため、第3段階で対話型同定プロセス5を行ない、診断者の主観評価値を反映して劣化部抽出フィルターの同定を行なうことで、準最適解を得ようとするものである。
【0041】
図3はプロトタイプ同定プロセス3のフローである。第1段階のプロトタイプ同定プロセス3の手順は、まず、入力画像群1を撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類する。次いで、各カテゴリーに対して、複数の典型的な入力画像1を抽出し、抽出された入力画像1をサンプル画像として、劣化部だけを透過させた理想出力画像を作成し、図4に示すような教師データ(サンプル画像−理想出力画像の対)を作成する。前記理想出力画像は、劣化部の階調度を255、非劣化部の階調度を0とした2値化画像とする。これらの教師データ群(サンプル画像−理想出力画像の対の集合)を学習用教師データとし、カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、劣化部のみを抽出するために準最適化された空間フィルターを生成し、この生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群として保持する。
【0042】
第1段階のプロトタイプ同定プロセス3で用いられる遺伝的アルゴリズムについて概略説明する。遺伝的アルゴリズムは、生物の進化の過程を模擬したアルゴリズムで、問題に対する準最適解を求めるための手法である。ニューロコンピュータが個体としての生物を対象としているのに対して、遺伝的アルゴリズムは何世代にもわたる複数の生物を対象としている点が大きく異なる点である。
【0043】
遺伝的アルゴリズムの一般的な処理手順について説明する。
(1)初期化
対象とする問題を遺伝子の形にコーティングし、異なる染色体を持つ個体をN個生成して、初期世代とする。遺伝子とは、個体の形質を規定する基本構成要素であり、染色体がビット列であれば0または1で表現される。
(2)選択
各個体の適合度を計算し、適合度に基づく一定の規則で個体の選択を行なう。一般的に、適合度の高い個体は増殖し、低い個体は淘汰される。
(3)交叉
設定された交叉確率や交叉方法により交叉を行ない、新しい個体を生成する。
(4)突然変異
設定された突然変異確率や突然変異方法によって突然変異を行ない、新しい個体を生成する。
(5)終了判定
終了条件を満たせば、その時に得られている最良の個体を問題の準最適解とする。
終了条件を満たさなければ、(2)選択に戻る。
【0044】
本発明では、遺伝的アルゴリズムの手法を用いて同定される劣化部抽出フィルターは、c,i=1,2,・・・,9の9パラメータと、(L,u,v),k=1,・・・,nの3nパラメータと、λとKを合わせて3n+11パラメータで構成されており、この(3n+11)パラメータを各々8ビットのグレイコードで表現する。つまり、コーティングされる染色体は8ビット×(3n+11)パラメータ=8×(3n+11)ビットの0,1の文字列で構成される。また、N個の初期個体の染色体は全てランダムに生成し、世代更新の際の個体数の増減はないものとする。
【0045】
個体sの適合度は、数式9の適合度関数a(s)によって定める。各個体の適合度を計算して、適合度に基づく一定の規則で個体の選択を行なう。適合度の高い個体を次世代に子孫を残すことができる個体として選択し、適合度の低い個体は淘汰される。
【0046】
【数9】

【0047】
数式9において、教師データの画像群の中で、サンプル画像をIとし、理想出力画像において劣化部分とされる部分の画素全体の集合をC,それ以外の画素全体の集合をDとする。また、各画素pにおける3刺激値を(r(p),g(p),b(p))とする。つまり、劣化部分においてはより大きな透過値F(r,g,b)を、非劣化部分においてはより小さい透過値F(r,g,b)を与える個体sがより高い適合度を得る。
【0048】
遺伝的アルゴリズムでは、初期世代の個体をランダムに作り、この初期世代の個体へ遺伝子操作(選択,交叉および突然変異)を行なって次世代を作り、さらに、作成された世代の個体へ遺伝子操作を行なう、というように繰り返しにより、最適な個体を探索する。この遺伝子操作は、決められた世代更新回数繰り返して終了する。
【0049】
カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて劣化部抽出フィルターの同定を行なうと、世代更新終了時には、図5の空間フィルター群のデータ構造に示すように、各カテゴリーともに、亜種12を除くと数種類の個体11で個体群が占められる。これらの生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプとして保持する。
【0050】
次に、第2段階の初期フィルター生成プロセス4の手順を説明する。まず、劣化診断対象の入力画像1を指定する。第1段階のプロトタイプ同定プロセス3で生成された劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群から各カテゴリーの劣化部抽出フィルターのプロトタイプを数個ずつ選択する。選択された劣化部抽出フィルターのプロトタイプに入力画像1を適用して得られる変換画像群を入力画像1とともに提示する。提示された変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を複数選択する。次に、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターが属するカテゴリーの中より、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターとそれぞれの亜種を初期フィルター群として保持する。
【0051】
図6は対話型同定プロセス5のフローである。第3段階の対話型同定プロセス5の手順は、まず、第1のステップとして、第2段階の初期フィルター生成プロセス4で保持されている初期フィルター群に劣化診断対象の入力画像1を適用して得られる変換画像群を入力画像1とともに診断者に提示し、提示された変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を選択する。第2のステップとして、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルター群を親に持つ次世代の劣化部抽出フィルター群を遺伝的アルゴリズムの手法を用いて生成する。第3のステップとして、次世代の劣化部抽出フィルター群に入力画像1を適用して得られる変換画像群を入力画像1とともに診断者に提示し、提示された変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を選択する。対話型進化計算の手法により、この第2から第3ステップを繰り返し行なうことで、準最適な劣化部抽出フィルターを作成する。
【0052】
劣化部抽出フィルターの更新・決定は、初期フィルター群を初期個体群として、対話型進化計算の手法を用いて、以下の手順で行なう。
(1)提示された劣化度抽出フィルター群の中から、診断者が相対的に適切であると判断する劣化度抽出フィルターを選択する。
(2)選択された劣化度抽出フィルターを「次世代に子孫を残すことができる個体群」とし、世代の更新を行ない、更新された個体群を提示する。ただし、(1)で選択された個体は、次世代にそのまま残し、残りの個体(初期個体群数から選択された個体数を除いた個体数)をプロトタイプ同定プロセス3と同様に「交叉」の操作を加えて生成する。つまり、プロトタイプ同定プロセス3における適合度関数を診断者の主観評価値に置き換えて世代の更新を行なう。
(3)再提示された個体群の中で劣化診断対象の入力画像1に対する劣化部抽出フィルターとして、十分満足できるものが存在すれば、それを採用して終了する。そうでなければ、(1)に戻って、一連の手順を繰り返す。
【0053】
なお、対話型同定プロセス5では、入力画像中の劣化部がどの程度良好に抽出されているかについての判断は診断者が目視で行ない、それ以外の処理をコンピュータで行なっている。人の判断自体をコンピュータ上で行なうことは困難であるが、この診断者の判断結果を累計的にデータベースとして蓄積しておくことで、劣化診断対象の入力画像1と同じカテゴリーに分類されている類似する画像の判断結果をデータベースから抽出して、劣化部がどの程度良好に抽出されているかの判断をコンピュータ上で行なうことにより、対話型同定プロセス5をコンピュータ上で自動で行なうことも可能である。
【0054】
劣化プロファイル生成の工程7では、前記劣化部抽出フィルター構築工程2により準最適化された劣化部抽出フィルターに劣化診断対象の入力画像1を適用して得られる変換画像6に対して、変換画像中の劣化部を示す透過部を検出し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して、劣化プロファイルを生成する。
【0055】
次に、劣化部抽出フィルターを適用して得られた変換画像6の劣化度評価を行なうために仮想塗装面劣化画像の作成8を行なう。塗装の劣化診断基準は顧客別に異なるため、一定の判断基準を作成することはできず、各顧客別の診断基準に対応できるようなシステムにする必要がある。塗装の劣化診断基準の例としては、表1に示す財団法人 鉄道総合技術研究所編集の「塗膜劣化状態およびケレン程度見本帳」の判定法Pの基準があり、われ,剥離,発錆などの劣化の中でも、主に錆の発生状況により6段階の劣化度合いに分けられている。
【0056】
【表1】

【0057】
視覚で感知し得る劣化過程は、大きく分けて発生と成長の2つに分類することができる。発生と成長の速さがどのように変化し、どのように関係するかで、劣化の進行度合いも変化する。そこで、劣化部の個数と面積の発生・成長プロセスに着目した劣化過程をシミュレートした仮想塗装面劣化画像を作成して、判断基準を定量化する。
【0058】
劣化過程は、大きく分けて発生と成長の2つに分類することができることから、劣化部の発生量を、劣化部に近似した円の発生個数(n)で表わし、劣化部の成長量を、劣化部に近似した円の総面積率(AAR)と成長段階毎の総面積率の面積増加率(β)とで表わし、段階(L)を経る毎に発生と成長を規則的に繰り返して、劣化過程を模した仮想塗装面劣化画像の作成を行なう。仮想塗装面劣化画像は、第i段階での劣化部の総面積率を表す数式10に従って劣化部が成長するものとして作成する。
【0059】
【数10】

【0060】
また、仮想塗装面劣化画像は、劣化部の発生位置の分布を全面に一様に分布した場合(一様型)と、いずれかの一辺に偏りを持たせた場合(半分型)と、面の中心に集中させた場合(中心型)の3種類作成する。図7に作成した仮想塗装面劣化画像の一例を示す。図の仮想塗装面劣化画像は、発生個数n={5,25,200}(個),総面積率AAR=0.1%,成長段階毎の総面積率の面積増加率β=2.0の初期値で作成した画像のうち、成長段階i=第4段階(AAR=0.8%)およびi=第8段階(AAR=12.8%)の仮想塗装面劣化画像を示している。
【0061】
劣化診断対象の入力画像1は、画像ごとに撮影状況,撮影部位,撮影範囲などの撮影条件が異なることから、劣化の発生,成長の条件を撮影条件に対応するように変化させて仮想塗装面劣化画像を複数作成し、劣化診断対象画像の条件に合った仮想塗装面劣化画像を作成する。
【0062】
評価用劣化プロファイル作成の工程9では、まず、仮想塗装面劣化画像作成工程8で作成された仮想塗装面劣化画像群に対して、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出するとともに評価用仮想塗装面劣化画像を作成する。前記評価用仮想塗装面劣化画像は、仮想塗装面劣化画像を実際の塗膜劣化面にできるだけ近似させた画像であり、例えば、図8に示すように、塗装が施された鋼構造物の画像に仮想塗装面劣化画像を配置したものが使用される。次に、評価用仮想塗装面劣化画像を顧客の劣化診断基準に基づいて、劣化度合い別に分類し、判定面積(HA)に対する劣化部の総面積率(AAR)と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値(N/HA)と、個々の劣化部の面積の最大値(AMR)と、同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値とを算出し、3つのパラメータを軸とした3次元の評価基準空間で構成される評価用劣化プロファイルを作成する。作成された評価用劣化プロファイルは評価用仮想塗装面劣化画像とともに蓄積され、データベースを形成する。
【0063】
診断者が目視で劣化度を評価する際には、判定面積に対して微小な劣化部は無視される。これを、評価用劣化プロファイルに反映させるために、画像中の最小単位である1ピクセルで表示されている劣化部を消去してから、AAR,N/HA,AMRを求める。微小な劣化部を消去した後のパラメータを、それぞれFAAR,FN/HA,FAMRで表す。作成された3次元の評価基準空間の一例を図9に示す。
【0064】
また、大きな劣化部がほとんど存在せず、主に微小な劣化部が全面に広がっている場合には、微小な劣化部を評価基準に考慮する必要がある。これを、評価用劣化プロファイルに反映させるために、各劣化部の大きさに重み関数を掛け、同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値をパラメータとして設定する。この劣化部の大きさのばらつきを表わす値をパラメータとして、各劣化部の大きさを2乗して合計した値(Σ{log(SA)})を設定する。SA(i=1,・・・,n)は、個々の劣化部の面積を示している。作成された3次元の評価基準空間の一例を図10に示す。
【0065】
劣化度評価の工程10の手順を説明する。入力画像1より得られた劣化プロファイルから、判定面積(HA)に対する劣化部の総面積率(AAR,FAAR)と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値(N/HA,FN/HA)と、個々の劣化部の面積の最大値(AMR,FAMR)または同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値(Σ{log(SA)})を算出し、評価用劣化プロファイル作成の工程9で得られた評価用劣化プロファイルの3次元の評価基準空間にプロットする。プロットした点は評価基準空間内の1点で表され、その点に対応する判定結果が劣化度の結果として出力される。
【0066】
評価用仮想塗装面劣化画像および評価用劣化プロファイルが格納されているデータベースの中から劣化診断対象の入力画像1に対応した評価用劣化プロファイルを取り出す方法としては、仮想塗装面劣化画像は撮影状況,撮影部位,撮影範囲などの撮影条件に対応できるように複数作成されているため、劣化診断対象画像の撮影条件(カテゴリー分類)に対応する評価用仮想塗装面劣化画像を選定することで、選定された評価用仮想塗装面劣化画像に対応する評価用劣化プロファイルを取り出すことができる。
【0067】
このような塗装劣化診断を行なう装置の構成要素として、劣化プロファイルを蓄積するための機材としては、図11に示すように、画像取り込み手段13と、取り込まれた画像群をフルカラービットマップイメージの画像データに変換する画像変換手段14と、入力画像1の塗装面の劣化部だけを透過させた画像に変換出力する劣化部抽出フィルターを構築する劣化部抽出フィルター構築手段15と、劣化部抽出フィルター構築手段15により準最適化された劣化部抽出フィルターを適用して得られる変換画像中6の劣化部を示す透過部を検出し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して劣化プロファイルを生成する劣化プロファイル生成手段16と、劣化プロファイルと劣化部抽出フィルターのデータを蓄積する記憶手段17とを備えたコンピュータシステムを用いる。
【0068】
前記劣化部抽出フィルター構築手段15は、図12に示すように、プロトタイプ同定プロセスを行なう手段20と、初期フィルター生成プロセスを行なう手段25と、対話型同定プロセスを行なう手段29との3段階のプロセスを行なう手段を備えている。
【0069】
前記プロトタイプ同定プロセスを行なう手段20は、入力画像群1を撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類し、各カテゴリーに対して複数のサンプル画像と理想出力画像の対からなる教師データ群を作成する学習用教師データ作成手段18と、カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、入力画像1から劣化部のみを抽出するために準最適化された空間フィルターを生成し、生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群として保持するプロトタイプフィルター構築手段19とを備えている。
【0070】
前記初期フィルター生成プロセスを行なう手段25は、劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群から各カテゴリーの劣化部抽出フィルターのプロトタイプを数個ずつ選択する劣化部抽出フィルター選択手段21と、選択された劣化部抽出フィルターのプロトタイプに入力画像1を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受け付ける受付手段22と、受け付けられた情報に従って変換画像を選択する画像選択手段23と、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターが属するカテゴリーの中より、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターとそれぞれの亜種を初期フィルター群として保持する初期フィルター生成手段24とを備えている。
【0071】
前記対話型同定プロセスを行なう手段29は、劣化部抽出フィルター群に入力画像1を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受け付ける受付手段26と、受け付けられた情報に従って変換画像を選択する画像選択手段27と、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルター群を親に持つ次世代の劣化部抽出フィルター群を遺伝的アルゴリズムの手法を用いて生成する更新手段28を備えている。
【0072】
このような機能を有するコンピュータシステムを用いて、劣化プロファイルを蓄積する手順について説明する。塗装が施された鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の表面を撮影して得られる画像を画像取り込み手段13によりコンピュータに取り込み、取り込まれた画像群を画像変換手段14によりフルカラービットマップイメージに変換し、入力画像1として使用する。
【0073】
入力画像1の塗装面の劣化部だけを透過させた画像に変換出力する劣化部抽出フィルターを劣化部抽出フィルター構築手段15により構築する。まず、プロトタイプ同定プロセスを行なう手段20で、入力画像群1を学習用教師データ作成手段18により、撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類し、各カテゴリーに対して複数のサンプル画像と理想出力画像の対からなる教師データ画像群を作成する。次に、プロトタイプフィルター構築手段19により、カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、入力画像1から劣化部のみを抽出するために準最適化された空間フィルターを生成し、生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群として保持する。
【0074】
次に、初期フィルター生成プロセスを行なう手段25で、各カテゴリーの劣化部抽出フィルターのプロトタイプを劣化部抽出フィルター選択手段21により数個ずつ選択する。選択された劣化部抽出フィルターのプロトタイプに入力画像1を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受付手段22により受け付け、受け付けられた情報に従って画像選択手段23により変換画像を選択する。選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターが属するカテゴリーの中より、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターとそれぞれの亜種を初期フィルター生成手段24により初期フィルター群として保持する。
【0075】
次に、対話型同定プロセスを行なう手段29で、まず、第1のステップとして、初期フィルター群に入力画像1を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受付手段26により受け付け、受け付けられた情報に従って画像選択手段27により変換画像を選択する。第2のステップとして、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルター群を親に持つ次世代の劣化部抽出フィルター群を更新手段28により、遺伝的アルゴリズムの手法を用いて生成する。第3のステップとして、次世代の劣化部抽出フィルター群に入力画像1を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受付手段26により受け付け、受け付けられた情報に従って画像選択手段27により変換画像を選択する。対話型進化計算の手法により、この第2から第3ステップを繰り返し行なうことで、準最適な劣化部抽出フィルターを作成する。
【0076】
劣化部抽出フィルター構築手段15により準最適化された劣化部抽出フィルターを適用して得られる変換画像6に対して、劣化プロファイル生成手段16により、変換画像中の劣化部を示す透過部を検出し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して劣化プロファイルを生成し、劣化プロファイルと劣化部抽出フィルターのデータを記憶手段17に蓄積する。
【0077】
なお、前記対話型同定プロセスを行なう手段29において、入力画像中の劣化部がどの程度良好に抽出されているかについての判断を診断者が目視で行なう必要があるが、劣化プロファイルと劣化部抽出フィルターのデータとともに診断者の判断結果を記憶手段17に蓄積してデータベースを形成しておくことで、劣化診断対象の入力画像1と同じカテゴリーに分類されている類似する画像の判断結果をデータベースから抽出して、劣化部がどの程度良好に抽出されているかの判断をコンピュータ上で行なうことにより、対話型同定プロセスを行なう手段29をコンピュータ上で自動で行なうことが可能となる。
【0078】
つまり、データベースが形成されると、図19に示すように、新たに撮影した入力画像1の劣化プロファイルを生成する場合において、撮影した入力画像1を撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類し、劣化診断対象の入力画像1と同じカテゴリーに分類されている類似する画像の劣化部抽出フィルターをデータベースから取り出し、劣化診断対象の入力画像1に取り出した劣化部抽出フィルターを適用して、劣化部を透過した変換画像6を出力し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して劣化プロファイルを生成することが可能となる。
【0079】
また、塗装劣化診断を行なう装置の構成要素として、評価用劣化プロファイルを蓄積するための機材としては、図11に示すように、劣化部の発生量を、劣化部に近似した円の発生個数で表わし、劣化部の成長量を、劣化部に近似した円の総面積率と成長段階毎の総面積率の面積増加率とで表わし、予め設定された劣化部の発生量と成長量に応じて発生と成長を規則的に繰り返して、塗装面劣化の発生・成長をシミュレートし、様々な仮想塗装面劣化画像を作成する仮想塗装面劣化画像作成手段30と、作成された仮想塗装面劣化画像群に対して、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出するとともに、評価用仮想塗装面劣化画像を作成し、前記評価用仮想塗装面劣化画像と顧客の劣化診断基準とから評価用劣化プロファイルを作成する評価用劣化プロファイル作成手段31と、評価用仮想塗装面劣化画像と評価用劣化プロファイルのデータを蓄積する記憶手段32とを備えたコンピュータシステムを用いる。
【0080】
このような機能を有するコンピュータシステムを用いて、評価用劣化プロファイルを蓄積する手順について説明する。まず、劣化モデル作成手段30により、塗装面劣化の発生・成長をシミュレートし、様々な仮想塗装面劣化画像の作成を行なう。次に、評価用劣化プロファイル作成手段31により、作成された仮想塗装面劣化画像群に対して、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出するとともに、評価用仮想塗装面劣化画像を作成する。前記評価用仮想塗装面劣化画像を顧客の劣化診断基準に基づいて、劣化度合い別に分類し、判定面積(HA)に対する劣化部の総面積率(AAR)と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値(N/HA)と、個々の劣化部の面積の最大値(AMR)と、同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値とを算出し、3つのパラメータを軸とした3次元の評価基準空間で構成される評価用劣化プロファイルを作成する。作成された評価用劣化プロファイルは評価用仮想塗装面劣化画像とともに記憶手段32に蓄積してデータベースを形成する。
【0081】
さらに、塗装劣化診断を行なう装置の構成要素として、劣化度評価を行なうための機材としては、図11に示すように、評価用仮想塗装面劣化画像および評価用劣化プロファイルが格納されているデータベースの中から劣化診断対象の入力画像1に対応した評価用劣化プロファイルを取り出して、劣化診断対象の入力画像1の劣化プロファイルから算出されるパラメータと評価用劣化プロファイルを比較して劣化診断対象となる入力画像1の劣化度合いを判定する劣化度評価手段33を備えたコンピュータシステムを用いる。
【0082】
このような機能を有するコンピュータシステムを用いて、劣化度評価を行なう手順について説明する。劣化度評価手段33により、まず、劣化診断対象の入力画像1より得られた劣化プロファイルから、判定面積(HA)に対する劣化部の総面積率(AAR,FAAR)と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値(N/HA,FN/HA)と、個々の劣化部の面積の最大値(AMR,FAMR)または同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値(Σ{log(SA)})を算出する。次に、評価用仮想塗装面劣化画像および評価用劣化プロファイルが格納されているデータベースの中から劣化診断対象の入力画像1に対応した評価用劣化プロファイルを取り出して、劣化プロファイルから算出されるパラメータと比較することで劣化診断対象画像の劣化度合いを判定する。
【実施例】
【0083】
次に実施例により本発明を説明する。塗装が施された鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の表面を撮影した画像は、デジタルカメラ等により撮影され、コンピュータに取り込まれる。撮影された画像は、フルカラービットマップイメージとし、入力画像1として使用する。
【0084】
まず、入力画像1を用いて劣化部抽出フィルターの構築を行なう。劣化部抽出フィルター構築工程2において、劣化部抽出フィルターの同定は、プロトタイプ同定プロセス3と初期フィルター生成プロセス4と対話型同定プロセス5の3段階のプロセスからなる。
【0085】
第1段階のプロトタイプ同定プロセス3を行なう。まず、入力画像群1を撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類する。次いで、各カテゴリーに対して、複数の典型的な入力画像1を抽出し、抽出された入力画像1をサンプル画像として、劣化部だけを透過させた理想出力画像を作成し、図4に示すような教師データ(サンプル画像−理想出力画像の対)を作成する。前記理想出力画像は、劣化部の階調度を255、非劣化部の階調度を0とした2値化画像とする。これらの教師データ群(サンプル画像−理想出力画像の対の集合)を学習用教師データとし、カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、劣化部分のみを抽出するために準最適化された空間フィルターを生成し、この生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群として保持する。
【0086】
本実施例では、遺伝的アルゴリズムの手法を用いて同定される劣化部抽出フィルターをc,i=1,2,・・・,9の9パラメータと、(L,u,v),k=1,2,3の9パラメータと、λとKを合わせて20パラメータとした場合について説明する。この合計20パラメータを各々8ビットのグレイコードで表現する。つまり、コーティングされる染色体は8ビット×20パラメータ=160ビットの0,1の文字列で構成される。また、本実施例では、初期個体数は100個体とし、世代更新の際の個体数の増減はないものとする。各初期個体の染色体160ビットは全てランダムに生成する。
【0087】
個体sの適合度は、数式9の適合度関数a(s)によって定める。数式9において、教師データの画像群の中で、サンプル画像をIとし、理想出力画像において劣化部分とされる部分の画素全体の集合をC,それ以外の画素全体の集合をDとする。また、各画素pにおける3刺激値を(r(p),g(p),b(p))とする。つまり、劣化部分においてはより大きな透過値F(r,g,b)を、非劣化部分においてはより小さい透過値F(r,g,b)を与える個体sがより高い適合度を得る。
【0088】
遺伝的操作は、本実施例では、下記のルールに従って、選択,交叉を行なった。「選択」は、個体群の中で適合度が上位25%の個体を次世代に子孫を残すことができる個体として選択する。「交叉」は、選択された個体群からランダムに(重複を許す)2個体を選び、8ビット毎に2箇所の交叉点(つまり160/8×2=40点)を設けた多点交叉によって、次世代へ新たな2個体を生成する。ただし、交叉の際に各遺伝子座(ビット)毎に、0.01の確立で対立遺伝子に置き換えられる(突然変異)ものとした。また、世代の更新回数は300とした。
【0089】
カテゴリー毎に上記の遺伝的アルゴリズムの手法を用いて劣化部抽出フィルターの同定を行なった結果、300世代終了時には、図5の空間フィルター群のデータ構造に示すように、各カテゴリーともに、亜種12を除くと数種類の個体11で個体群が占められた。同定された代表的な5つの劣化部抽出フィルターによるフィルタリング結果の一例を図13に示す。図13において、(1)の画像は入力画像1を示し、(2)〜(6)の画像は5つの劣化部抽出フィルターによるフィルタリング結果を示している。これらの生成された劣化部抽出フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプとして保持する。
【0090】
次に、第2段階の初期フィルター生成プロセス4を行なう。まず、劣化診断対象の入力画像1を指定する。第1段階のプロトタイプ同定プロセス3で生成された劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群から各カテゴリーの劣化部抽出フィルターのプロトタイプを数個ずつ選択する。選択された劣化部抽出フィルターのプロトタイプに入力画像1を適用して得られる変換画像群を入力画像1とともに提示する。提示された変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を複数選択する。次に、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターが属するカテゴリーの中より、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターとそれぞれの亜種を初期フィルター群として保持する。
【0091】
次に、第3段階の対話型同定プロセス5を行なう。まず、第1のステップとして、第2段階の初期フィルター生成プロセス4で保持されている初期フィルター群に劣化診断対象の入力画像1を適用して得られる変換画像群を入力画像1とともに診断者に提示し、提示された変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を選択する。第2のステップとして、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルター群を親に持つ次世代の劣化部抽出フィルター群を遺伝的アルゴリズムの手法を用いて生成する。第3のステップとして、次世代の劣化部抽出フィルター群に入力画像1を適用して得られる変換画像群を入力画像1とともに診断者に提示し、提示された変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を選択する。対話型進化計算の手法により、この第2から第3ステップを繰り返し行なうことで、準最適な劣化部抽出フィルターを作成する。
【0092】
劣化部抽出フィルターの更新・決定は、初期フィルター群を初期個体群として、対話型進化計算の手法を用いて、以下の手順で行なう。
(1)提示された劣化度抽出フィルター群の中から、診断者が相対的に適切であると判断する劣化度抽出フィルターを選択する。
(2)選択された劣化度抽出フィルターを「次世代に子孫を残すことができる個体群」とし、世代の更新を行ない、更新された個体群を提示する。ただし、(1)で選択された個体は、次世代にそのまま残し、残りの個体(初期個体群数から選択された個体数を除いた個体数)をプロトタイプ同定プロセス3と同様の「交叉」の操作を加えて生成する。「交叉」は、選択された個体群からランダムに(重複を許す)2個体を選び、8ビット毎に2箇所の交叉点(つまり160/8×2=40点)を設けた多点交叉によって、次世代へ新たな2個体を生成する。ただし、交叉の際に各遺伝子座(ビット)毎に、0.01の確立で対立遺伝子に置き換えられる(突然変異)ものとした。つまり、プロトタイプ同定プロセス3における適合度関数を診断者の主観評価値に置き換えて世代の更新を行なう。
(3)再提示された個体群の中で劣化診断対象の入力画像1に対する劣化部抽出フィルターとして、十分満足できるものが存在すれば、それを採用して終了する。そうでなければ、(1)に戻って、一連の手順を繰り返す。
【0093】
対話型同定プロセス5の実行例を図14に示す。図14に示す実施例では、9つの空間フィルターを適用して得られる画像を示しており、(1)の画像は入力画像1を示し、(2)〜(10)の画像は9つの劣化部抽出フィルターによるフィルタリング結果を示している。図14に示すように、鋼材の塗装面には錆汁の付着により錆色を呈しながら劣化部では無い部分が多く存在するが、上記の手順を経て得られた劣化部抽出フィルターは、これらも良好に判断している。
【0094】
前記劣化部抽出フィルター構築工程2により準最適化された劣化部抽出フィルターに劣化診断対象の入力画像1を適用して得られる変換画像6に対して、劣化プロファイルを生成する。劣化プロファイル生成工程7では、変換画像中の劣化部を示す透過部を検出し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して、劣化プロファイルを生成する。
【0095】
次に、劣化部抽出フィルターを適用して得られた変換画像6の劣化度評価を行なうために仮想塗装面劣化画像の作成8を行なう。視覚で感知し得る劣化過程は、大きく分けて発生と成長の2つに分類することができることから、劣化部の発生量を、劣化部に近似した円の発生個数(n)で表わし、劣化部の成長量を、劣化部に近似した円の総面積率(AAR)と成長段階毎の総面積率の面積増加率(β)とで表わし、段階(L)を経る毎に発生と成長を規則的に繰り返して、劣化過程を模した仮想塗装面劣化画像の作成を行なう。仮想塗装面劣化画像は、第i段階での劣化部の総面積率を表す数式10に従って劣化部が成長するものとして作成する。
【0096】
また、仮想塗装面劣化画像は、劣化部の発生位置の分布を全面に一様に分布した場合(一様型)と、いずれかの一辺に偏りを持たせた場合(半分型)と、面の中心に集中させた場合(中心型)の3種類を作成する。図15に作成した一様型の仮想塗装面劣化画像の一例、図16に作成した半分型および中心型の仮想塗装面劣化画像の一例を示す。仮想塗装面劣化画像は、発生個数n={5,15,25,50,100,150,200}(個),総面積率AAR=0.1%,成長段階毎の総面積率の面積増加率β=2.0の初期値で作成し、判定面積(HA)は500ピクセル×500ピクセルとした。
【0097】
図15の一様型の仮想塗装面劣化画像において、縦方向は劣化部の総面積率(AAR)、横方向は劣化部の錆の発生個数(n)を表わしている。図16の半分型および中心型の仮想塗装面劣化画像において、縦方向は劣化部の錆の発生個数(n)、横方向は劣化部の総面積率(AAR)を表わしている。図15は作成した全ての仮想塗装面劣化画像を示しているが、図16は代表的なものとして成長段階i=第4段階(AAR=0.8%)およびi=第8段階(AAR=12.8%)の仮想塗装面劣化画像を示している。
【0098】
次に、評価用劣化プロファイル作成の工程9では、まず、仮想塗装面劣化画像作成工程8で作成された仮想塗装面劣化画像群に対して、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出するとともに評価用仮想塗装面劣化画像を作成する。前記評価用仮想塗装面劣化画像は、仮想塗装面劣化画像を実際の塗膜劣化面にできるだけ近似させた画像であり、図8に示すような、塗装が施された鋼構造物の画像に仮想塗装面劣化画像を配置したものが使用される。図8の評価用仮想塗装面劣化画像の判定面積(HA)は580ピクセル×730ピクセルとした。
【0099】
次に、評価用仮想塗装面劣化画像を顧客の劣化診断基準に基づいて、劣化度合い別に分類し、判定面積(HA)に対する劣化部の総面積率(AAR)と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値(N/HA)と、個々の劣化部の面積の最大値(AMR)と、同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値とを算出し、3つのパラメータを軸とした3次元の評価基準空間で構成される評価用劣化プロファイルを作成する。作成された評価用劣化プロファイルは評価用仮想塗装面劣化画像とともに蓄積され、データベースを形成する。
【0100】
図15および図16に示す仮想塗装面劣化画像を表1に示す財団法人 鉄道総合技術研究所編集の「塗膜劣化状態およびケレン程度見本帳」における判定法Pの基準で判定した場合を例に説明する。表1の診断基準では、劣化進行度合いは劣化重度の高いものから順にAA,A1,A2,B,C,Sの6段階であり、AA,A1,A2であれば補修および交換の対象となる。そこで、本実施例では、補修および交換の対象となるA2以上の劣化状態のものを評価Aの1つに集約し、異常なしSを除いたA,B,Cの3段階の評価基準で劣化度評価を行なう場合の評価用劣化プロファイルの作成について説明する。
【0101】
評価用劣化プロファイルとして1つ目の評価基準の例を図9に示す。診断者が目視で劣化度を評価する際には、判定面積に対して微小な劣化部は無視される。これを、評価用劣化プロファイルに反映させるために、画像中の最小単位である1ピクセルで表示されている劣化部を消去してから、AAR,N/HA,AMRを求める。微小な劣化部を消去した後のパラメータを、それぞれFAAR,FN/HA,FAMRで表す。評価基準空間は、この3つのパラメータを各評価用仮想塗装面劣化画像で求め、3つパラメータを軸とした3次元の空間として与えられる。図中に示した曲面は、パラメータ同士の関係から物理的にモデルが存在しないことを示す境界である。
【0102】
2つ目の評価基準の例を図10に示す。1つ目の評価基準では、微小な劣化部を消去した値を基にパラメータを設定したが、大きな劣化部がほとんど存在せず、主に微小な劣化部が全面に広がっている場合には、微小な劣化部を評価基準に考慮する必要がある。これを、評価用劣化プロファイルに反映させるために、各劣化部の大きさに重み関数を掛け、同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値をパラメータとして設定する。この劣化部の大きさのばらつきを表わす値をパラメータとして、各劣化部の大きさを2乗して合計した値(Σ{log(SA)})を設定する。つまり、2つ目の評価基準は、判定面積(HA)に対する劣化部の総面積率(AAR)と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値(N/HA)と、一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値(Σ{log(SA)})をパラメータとして使用し、この3つのパラメータを各評価用仮想塗装面劣化画像で求め、3つパラメータを軸とした3次元の評価基準空間で構成される。
【0103】
図10に示すように、2つ目の評価基準空間でのモデルの分布は、ある曲面に従って分布している。図中の曲面から外れた点34は、劣化部の分布状態が通常では見られないものであり、この曲面からの距離が大きい画像ほど、現実では起こりえない劣化の分布状態を表している。これを判定結果に反映させるため、曲面からの距離dより、係数Cdを数式11で計算し、評価基準空間の判定結果へ乗じたものを2つ目の評価基準とする。
【0104】
【数11】

【0105】
この3つのパラメータを軸とした3次元の評価基準空間で構成される2つの評価基準を評価用劣化プロファイルとして、評価用仮想塗装面劣化画像とともに蓄積し、データベースを形成する。
【0106】
次に、劣化度評価の工程10では、まず、入力画像1より得られた劣化プロファイルから、判定面積(HA)に対する劣化部の総面積率(AAR,FAAR)と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値(N/HA,FN/HA)と、個々の劣化部の面積の最大値(AMR,FAMR)または同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値(Σ{log(SA)})を算出する。次に、評価用仮想塗装面劣化画像および評価用劣化プロファイルが格納されているデータベースの中から劣化診断対象の入力画像1に対応した評価用劣化プロファイルを取り出して、評価用劣化プロファイルの3次元の評価基準空間に劣化診断対象の入力画像1のパラメータをプロットする。プロットした点は評価基準空間内の1点で表され、その点に対応する判定結果が劣化度の結果として出力される。
【0107】
判定結果は、対象によって確実にA判定,B判定,C判定と断定できるものばかりではない。A判定とB判定,B判定とC判定の区別がつかないものなど、判定が曖昧な領域が存在する。そこで、判定結果の表現方法として、3段階の評価基準A,B,Cの各判定結果を、メンバーシップ関数A(X,Y,Z),B(X,Y,Z),C(X,Y,Z)で与える。ここで、X,Y,Zは判定に影響を与えるパラメータ値であり、1つ目の評価基準の評価基準空間においては、X=FN/HA,Y=log(FAMR),Z=log(FAAR)、2つ目の評価基準の評価基準空間において、X=N/HA,Y=Σ{log(SA)},Z=log(AAR)である。本実施例では、評価基準空間を適当な数のグリッドに分け、各グリッドに0≦A(X,Y,Z),B(X,Y,Z),C(X,Y,Z)≦1の値を与える。
【0108】
図17に劣化診断対象の入力画像1の一例、表2に図17の入力画像1から得たパラメータ値、図18にパラメータ値を評価基準空間にプロットした例を示す。表2の値から各判定結果を求める。図18は2つ目の評価基準空間にパラメータ値をプロットし、各判定結果関数と対応させたものである。2つ目の評価基準の場合、図18の結果に数式11のCdを乗じたものが2つ目の評価基準から算出された判定結果となる。以上の手順で図17の入力画像1を評価用劣化プロファイルの2つ目の評価基準で判定した結果は、A=0.74,B=0.49,C=0.00となり、劣化度の判定結果はA判定となる。
【0109】
【表2】

【符号の説明】
【0110】
1 入力画像
2 劣化部抽出フィルター構築工程
3 プロトタイプ同定プロセス
4 初期フィルター生成プロセス
5 対話型同定プロセス
6 変換画像
7 劣化プロファイル生成工程
8 仮想塗装面劣化画像作成工程
9 評価用劣化プロファイル作成工程
10 劣化度評価工程
11 空間フィルター
12 空間フィルターの亜種
13 画像取り込み手段
14 画像変換手段
15 劣化部抽出フィルター構築手段
16 劣化プロファイル生成手段
17 記憶手段
18 教育用教師データ作成手段
19 プロトタイプフィルター構築手段
20 プロトタイプ同定プロセスを行なう手段
21 劣化部抽出フィルター選択手段
22 受付手段
23 画像選択手段
24 初期フィルター生成手段
25 初期フィルター生成プロセスを行なう手段
26 受付手段
27 画像選択手段
28 更新手段
29 対話型同定プロセスを行なう手段
30 仮想塗装面劣化画像作成手段
31 評価用劣化プロファイル作成手段
32 記憶手段
33 劣化度評価手段
34 曲面から外れた点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装が施された鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の表面を撮影して得られるフルカラービットマップイメージを入力画像として用いて、塗装面の劣化度を評価する方法において、
入力画像中の塗装面の劣化部だけを透過させた画像に変換する劣化部抽出フィルターを構築する工程と、
前記劣化部抽出フィルターを適用して得られる変換画像中の劣化部を示す透過部を検出し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して劣化部プロファイルを生成する工程と、
劣化部の発生量を、劣化部に近似した円の発生個数で表わし、劣化部の成長量を、劣化部に近似した円の総面積率と成長段階毎の総面積率の面積増加率とで表わし、予め設定された劣化部の発生量と成長量に応じて発生と成長を規則的に繰り返して、塗装面劣化の発生・成長をシミュレートし、様々な仮想塗装面劣化画像を作成する工程と、
作成された仮想塗装面劣化画像群に対して、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出するとともに実際の塗膜劣化面にできるだけ近似させた評価用仮想塗装面劣化画像を作成し、前記評価用仮想塗装面劣化画像と顧客の劣化診断基準とから評価用劣化プロファイルを作成し、評価用劣化プロファイルと評価用仮想塗装面劣化画像のデータを蓄積してデータベースを形成する工程と、
前記データベースから劣化診断対象の入力画像に対応した評価用劣化プロファイルを取り出し、劣化診断対象の入力画像から得られた劣化プロファイルと比較することで劣化度合いを判定する劣化度評価の工程と、
により塗装面の劣化度を診断することを特徴とする塗装劣化診断方法。
【請求項2】
前記劣化部抽出フィルターを構築する工程は、
入力画像群を撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類し、各カテゴリーに対して複数の典型的な入力画像と入力画像の劣化部のみを明示した理想出力画像との画像対からなる学習用教師データを作成し、カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、入力画像から劣化部のみを抽出するために準最適化された空間フィルターを生成し、生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群として保持するプロトタイプ同定プロセスと、
前記劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群から各カテゴリーの劣化部抽出フィルターのプロトタイプを数個ずつ選択し、選択された劣化部抽出フィルターのプロトタイプに入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を複数選択し、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターを初期フィルター群として保持する初期フィルター生成プロセスと、
初期フィルター群に入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を選択する第1のステップと、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルター群を親に持つ次世代の劣化部抽出フィルター群を遺伝的アルゴリズムの手法を用いて生成する第2のステップと、次世代の劣化部抽出フィルター群に入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果に従って変換画像を選択する第3のステップとの3つのステップからなり、対話型進化計算の手法により、第2から第3のステップを繰り返し行うことで、準最適な劣化部抽出フィルターを作成する対話型同定プロセスと、
の3段階のプロセスで構成されることを特徴とする請求項1記載の塗装劣化診断方法。
【請求項3】
前記評価用劣化プロファイルは、劣化部の個数および各劣化部の面積から算出される、判定面積に対する劣化部の総面積率と、劣化部の個数を判定面積のピクセル数で無次元化した値と、個々の劣化部の面積の最大値または同一画像内での劣化部の大きさのばらつきを表わす値とをパラメータとし、3つのパラメータを軸とした3次元の評価基準空間で構成されることを特徴とする請求項1記載の塗装劣化診断方法。
【請求項4】
塗装が施された鉄塔,鋼橋などの鋼構造物の表面を撮影して得られるフルカラービットマップイメージを入力画像として用いて、塗装面の劣化度を評価する装置において、
入力画像中の塗装面の劣化部だけを透過させた画像に変換出力する劣化部抽出フィルターを構築する劣化部抽出フィルター構築手段と、
前記劣化部抽出フィルターを適用して得られる変換画像中の劣化部を示す透過部を検出し、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出して劣化プロファイルを生成する劣化プロファイル生成手段と、
劣化部の発生量を、劣化部に近似した円の発生個数で表わし、劣化部の成長量を、劣化部に近似した円の総面積率と成長段階毎の総面積率の面積増加率とで表わし、予め設定された劣化部の発生量と成長量に応じて発生と成長を規則的に繰り返して、塗装面劣化の発生・成長をシミュレートし、様々な仮想塗装面劣化画像を作成する仮想塗装面劣化画像作成手段と、
作成された仮想塗装面劣化画像に対して、劣化部の個数および各劣化部の面積を算出するとともに実際の塗膜劣化面にできるだけ近似させた評価用仮想塗装面劣化画像を作成し、前記評価用仮想塗装面劣化画像と顧客の劣化診断基準とから評価用劣化プロファイルを作成する評価用劣化プロファイル作成手段と、
評価用劣化プロファイルと評価用仮想塗装面劣化画像のデータを蓄積して形成されるデータベースと、
前記データベースから劣化診断対象の入力画像に対応した評価用劣化プロファイルを取り出し、劣化診断対象の入力画像から得られた劣化プロファイルと比較することで劣化度合いを判定する劣化度評価手段と、
を備えることを特徴とする塗装劣化診断装置。
【請求項5】
前記劣化部抽出フィルター構築手段は、
入力画像群を撮影対象,撮影状況などの撮影条件を基に複数のカテゴリーに分類し、各カテゴリーに対して複数の典型的な入力画像と入力画像の劣化部を明示した理想出力画像との画像対からなる学習用教育データを作成する学習用教育データ作成手段と、カテゴリー毎に遺伝的アルゴリズムの手法を用いて、入力画像から劣化部のみを抽出するために準最適化された空間フィルターを生成し、生成された空間フィルター群を劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群として保持するプロトタイプフィルター構築手段とを備えるプロトタイプ同定プロセスを行なう手段と、
前記劣化部抽出フィルターのプロトタイプ群から各カテゴリーの劣化部抽出フィルターのプロトタイプを数個ずつ選択する劣化部抽出フィルター選択手段と、選択された劣化部抽出フィルターのプロトタイプに入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受け付ける受付手段と、受け付けられた情報に従って変換画像を選択する画像選択手段と、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルターを初期フィルター群として保持する初期フィルター生成手段とを備える初期フィルター生成プロセスを行なう手段と、
劣化部抽出フィルター群に入力画像を適用して得られる変換画像群の中から診断者が相対的に適切であると判断した結果の情報を受け付ける受付手段と、受け付けられた情報に従って変換画像を選択する画像選択手段と、選択された画像を導出した劣化部抽出フィルター群を親に持つ次世代の劣化部抽出フィルター群を遺伝的アルゴリズムの手法を用いて生成する更新手段とを備える対話型同定プロセスを行なう手段と、
の3段階のプロセスを行なう手段を備えることを特徴とする請求項4記載の塗装劣化診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−32511(P2010−32511A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169515(P2009−169515)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(592233174)株式会社デンロコーポレーション (22)
【出願人】(899000035)株式会社 東北テクノアーチ (68)
【Fターム(参考)】