説明

塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】Si含有高強度鋼板を母材として、塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】mass%で、C:0.05〜0.30%、Si:1.0〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3.00%、S:0.001〜0.010%、P:0.001〜0.100%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。さらに、鋼板の表面には、Fe:7〜15%、Al:0.02〜0.30%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる亜鉛めっき層を有し、該亜鉛めっき層表面の金属Zn露出率が20%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si含有高強度鋼板を母材とする塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において、素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも防錆性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。特に、自動車分野では、自動車の燃費向上および自動車の衝突安全性向上の観点から、車体材料の高強度化によって薄肉化を図り、車体そのものを軽量化かつ高強度化するために高強度鋼板の自動車への適用が促進されており、防錆性を兼ね備えた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の使用量が増加している。
【0003】
ここで、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を自動車分野に適用するに当たって上記防錆性とともに重要となるのが塗装後耐食性である。自動車用鋼板では通常、鋼板を塗装して用いるため、前処理としてリン酸塩処理と呼ばれる化成処理が施される。化成処理性が悪い鋼板では化成結晶が生成しないスケと呼ばれる領域が発生し、その部分で塗装の欠陥が発生する。その結果、塗装後耐食性が低下する。
【0004】
この問題は特にSiを多く含有した鋼板で発生する傾向があることが分かっている。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、通常、鋼板を溶融めっきした後、大気中で熱処理し、下地鋼板の鉄を亜鉛めっき層に拡散させ、合金化させる。ここで、Siを多く含有した鋼板では合金化反応速度が遅いため、合金化温度を上昇させる必要がある。そのため合金化反応中にめっき表面に形成されるZn酸化物層が厚くなり、これが化成処理液をはじいて、化成処理性が劣化する。そして、塗装後耐食性が低下することになる。
【0005】
上記に対して、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の化成処理性を改善する従来技術として、特許文献1には、めっき層表面に厚さ10nm以上の酸化物層が形成された平坦部を有し、かつ前記平坦部表層におけるZn/Al比(at%)が2.0〜8.0である合金化溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。しかし、特許文献1では、酸化皮膜の薄い部分が化成結晶形成の起点となり化成処理性を改善する技術であり、高Si含有鋼のように、全体の酸化皮膜が厚くなる場合には改善効果は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3644402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、Si含有高強度鋼板を母材として、塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鋼中Si含有量の高い鋼板を母材とした合金化溶融亜鉛めっき鋼板ではめっき層表面に形成されたZn酸化物層が化成処理性を阻害するため、塗装後耐食性が劣化する傾向がある。
そこで、発明者らは、化成処理前のめっき表面におけるZn酸化物の状態と塗装後耐食性の関係を調査した。その結果、Zn酸化物量の増加に伴い塗装後耐食性が劣化する傾向が認められた。しかし、Zn酸化物の量が同程度でも塗装後耐食性に差が生じる場合もあったため、それらの表面状態を詳細に調査したところ、塗装後耐食性が良好な試料ではZn酸化物の表面被覆率が低いことが分かった。つまり、亜鉛めっき層表面の金属Zn露出率の増加に伴い塗装後耐食性が改善する傾向があることが分かった。ここで金属Znとは、Znの自然酸化膜を除去した場合に、XPS測定において金属として検出されるZnのことである。
まず、亜鉛めっき層表面をスパッタ処理し、Zn酸化物を厚さにして5〜15nm除去した。そして、XPS測定から得られる金属Zn露出率をもとに、金属Znの露出率と塗装後耐食性の関係を調査した。その結果、金属Zn露出率が20%以上で塗装後耐食性が良好となることが分かった。
【0009】
更に、鋼中Si含有量の異なる鋼板をそれぞれ母材とした合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、金属Zn露出率を調査した結果、Si含有量が多い鋼板で金属Zn露出率が低くなる傾向が認められた。これは、Si含有量の増加により合金化温度が上昇し、厚いZn酸化物層が形成されたためと考えられる。したがって、Si含有量の多い鋼板では、金属Zn露出率を高め塗装後耐食性を良好とするために、Zn酸化物層の成長を抑制する必要がある。発明者らはZn酸化物層の成長抑制方法を種々検討した結果、合金化熱処理中に鋼板表面に不活性ガスを吹きつけることが効果的であることを見出した。更に、合金化熱処理中にZn酸化物層が全く形成されない場合は蒸気圧の低いZnが蒸発してしまう恐れがあるため、ある程度のZn酸化物層の形成は不可欠であり、この点からも合金化熱処理中に鋼板表面に不活性ガスを吹きつける方法は効果的であると言える。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]化学成分として、mass%で、C:0.05〜0.30%、Si:1.0〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3.00%、S:0.001〜0.010%、P:0.001〜0.100%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼板の表面には、Fe:7〜15%、Al:0.02〜0.30%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる亜鉛めっき層を有し、該亜鉛めっき層表面の金属Zn露出率が20%以上であることを特徴とする塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
[2]さらに、mass%で、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Ti:0.01〜0.10%、Nb:0.01〜0.10%およびB:0.0005〜0.0050%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする前記[1]に記載の塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0011】
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべてmass%である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
まず、化学成分について説明する。
C:0.05〜0.30%
Cはオーステナイト相を安定化させる元素であり、鋼板の強度を上昇させるために必要な元素でもある。C量が0.05%未満では、強度の確保が困難であり、C量が0.30%を超えると、溶接性が低下する。したがって、C量は0.05〜0.30%とする。
【0014】
Si:1.0〜3.0%
Siは、フェライト相中の固溶Cをオーステナイト相中に濃化させ、鋼の焼戻し軟化抵抗を高めることにより鋼板の成形性を向上させる作用を有している。この効果を得るためには1.0%以上必要である。一方、Siは易酸化性元素であるため、再結晶焼鈍中に鋼板表面に酸化物を形成する。また、溶融めっき後の合金化過程において著しい合金化遅延を生じさせるため、合金化処理を合金化温度を上昇させて行う必要がある。さらに、3.0%を超えると塗装後耐食性が向上しない場合がある。したがって、Si量は1.0〜3.0%とする。
【0015】
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、焼入れ性を高め鋼板の強度を高めるために有用な元素である。これらの効果は、0.5%以上で得られる。一方、含有量が3.0%を超えるとMnの偏析が生じ、加工性が低下する。したがって、Mn量は0.5〜3.0%とする。
【0016】
Al:0.01〜3.00%
AlはSiと併せて補完的に添加される元素であり、0.01%以上含有する。しかしながら、3.00%を超えると溶接性や強度と延性のバランスの確保に悪影響を及ぼす。したがって、Al量は0.01〜3.00%とする。
【0017】
S:0.001〜0.010%
Sは鋼に不可避的に含有される元素であり、冷間圧延後に板状の介在物MnSを生成することにより、成形性を低下させる。S量が0.010%まではMnSは生成しない。一方で、過度の低減は製鋼工程における脱硫コストの増加を伴う。したがって、S量は0.001〜0.010%とする。
【0018】
P:0.001〜0.100%
Pは鋼に不可避的に含有される元素であり、強度向上に寄与する元素である。その反面、溶接性を低下させる元素でもあり、P量が0.100%を超えると溶接性低下の影響が顕著に現れる。一方、過度のP低減は製鋼工程における製造コストの増加を伴う。したがって、P量は0.001〜0.100%とする。
【0019】
残部はFeおよび不可避的不純物である。
本発明では、必要に応じて、下記成分のうち、1種または2種以上を適宜含有することが出来る。
【0020】
Cr:0.1〜1.0%
Crは鋼の焼入れ性向上に有効な元素である。また、Crはフェライト相を固溶強化し、マルテンサイト相とフェライト相の硬度差を低減して、成形性の向上に有効に寄与する。このような効果を得るためには、0.1%以上の添加を必要とする。しかしながら、Cr量が1.0%を超えるとこの効果は飽和し、むしろ表面品質を著しく劣化させる。したがって、含有する場合、Cr量は0.1〜1.0%とする。
【0021】
Mo:0.1〜1.0%
Moは、鋼の焼入れ性向上に有効な元素であると共に、焼戻し二次硬化を発現させる元素でもある。これらの効果を得るためには0.1%以上の添加を必要とする。しかしながら、1.0%を超えると、上記効果は飽和し、コストアップの要因となる。したがって、含有する場合、Mo量は0.1〜1.0%とする。
【0022】
Ti:0.01〜0.10%
Tiは鋼中でCまたはNと微細炭化物や微細窒化物を形成することにより、焼鈍後の組織の細粒化および析出強化の付与に有効に作用する。これらの効果を得るためには0.01%以上の添加が必要である。しかしながら、0.10%を超えるとこの効果が飽和する。したがって、含有する場合、Ti量は0.01〜0.10%とする。
【0023】
Nb:0.01〜0.10%
Nbは、固溶強化または析出強化により強度の向上に寄与する元素である。この効果を得るためには0.01%以上の添加を必要とする。しかしながら、0.10%を超えて含有すると、フェライトの延性を低下させ、加工性が低下する。したがって、含有する場合、Nb量は0.01〜0.10%とする。
【0024】
B:0.0005〜0.0050%
Bは焼入れ性を高め、焼鈍冷却中のフェライトの生成を抑制し、所望のマルテンサイト量を得るのに必要である。これらの効果を得るためには、0.0005%以上の添加を必要とする。一方、0.0050%を超えると上記効果は飽和する。したがって、含有する場合、B量は0.0005〜0.0050%の範囲内とする。
【0025】
次に、亜鉛めっき層について説明する。
【0026】
Fe:7〜15%、Al:0.02〜0.30%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる
合金化溶融亜鉛めっき層は合金化反応によりZnめっき中に母材中のFeが拡散してできたFe−Zn合金を主体としためっき層である。Feの含有率が7%未満ではめっき層の表面付近に合金化されないZnの層が厚く残存し、プレス成形性が劣化する。一方、Feの含有率が15%を超えると母材とめっき層の界面に脆い合金層が多く形成されるためにめっき密着性が低下する。したがって、Fe含有率は7〜15%とする。
【0027】
また、Zn浴には浴中での合金化反応の抑制を目的としてAlが添加されているため、めっき中にはAlが0.02〜0.30%含有される。更に、鋼板中に添加された様々な元素がZn浴中に溶出するため、めっき層には不可避的にこれらの元素も含有される。
【0028】
亜鉛めっき層表面の金属Zn露出率が20%以上
合金化溶融亜鉛めっき鋼板表層には浴成分由来の薄いZn、Al酸化物層が形成されている。亜鉛めっき層表面の金属Zn露出率が20%未満では塗装後耐食性を劣化させる。好ましくは40%以上である。さらに、より一層塗装後密着性を向上させるためには、金属Znの露出部がめっき層表面の一部に偏らないことが必要である。したがって、例えば、めっき層表面の任意の箇所で500μm×500μmの範囲で金属Zn露出率が20%以上であることが好ましい。
【0029】
なお、亜鉛めっき層表面の金属Zn露出率は、AESスペクトルにおける亜鉛酸化物と金属亜鉛の強度比から評価することで可能である。具体的には、約992eV前後にある亜鉛酸化物のスペクトル、および996eV前後の金属亜鉛スペクトルについて、標準試料のスペクトルを元にピーク分離することで、金属亜鉛と酸化物との比を定量化し、金属亜鉛の比率を求め、これを金属Zn露出率とする。
【0030】
また、亜鉛めっき層表面の金属Zn露出率を20%以上とする方法としては、調質圧延を行う際に、まず表面粗さRaが2.0μm以上のダルロールを用いて圧下率0.3%以上0.8%以下で圧延し、次いで、表面粗さRaが0.1μm以下のブライトロールを用いて圧下率0.4%以上1.0%以下で圧延する方法が挙げられる。ブライトロールでの圧下率はダルロールでの圧下率よりも大きくする必要がある。ダルロールでの圧延の直後にブライトロールでの圧延を行うことにより表面酸化膜の除去が進み、金属Zn露出率が上がると考えられる。
【0031】
次に、製造方法について説明する。
本発明で用いる合金化溶融亜鉛めっき鋼板は上記で規定する化学成分を主体とするものであれば良く、その製造条件は特に規定されない。例えば、上記成分組成を有するスラブを熱間圧延した後、必要に応じて酸洗し、次いで冷間圧延する。
【0032】
次いで、連続式溶融亜鉛めっきラインにて、焼鈍後、めっきおよび合金化処理を行う。溶融めっきラインでの焼鈍条件は特に規定されないが、例えば、下記の条件が挙げられる。
まず、O:0.01〜20vol%、HO:1〜50vol%を含有する雰囲気中で鋼板を400〜850℃の範囲内の温度になるように加熱し、その後、H:1〜50vol%を含み露点が0℃以下の雰囲気中で鋼板を750〜900℃の範囲内の温度になるように加熱し、次いで、冷却する。
およびHOを含む雰囲気中で加熱するのは、鋼板表面にFeの酸化皮膜を形成するためである。本発明のようにSiを多く含有する鋼板の場合、通常の還元雰囲気での焼鈍ではSiが鋼板の表面で酸化物を形成し、亜鉛をはじいて不めっきが発生する場合がある。それを避けるために、焼鈍前に鋼板表面にFe酸化物を形成し、焼鈍中にFe酸化物を還元することで、焼鈍後の鋼板表面を清浄な還元Feで被覆することが好ましい。
雰囲気中のOが0.01vol%未満ではFeが酸化しないため0.01vol%以上が好ましい。経済的な理由から大気レベルの20vol%以下が好ましい。HOは酸化を促進するために1vol%以上が好ましい。一方、加湿コストを考えて50vol%以下が好ましい。鋼板温度は400℃未満では酸化しにくく、850℃を超えると酸化しすぎて焼鈍炉内のロールでのピックアップにより押し疵が発生するようになるので、400〜850℃が好ましい。
を含む雰囲気中での加熱は、鋼板の再結晶焼鈍および前工程で鋼板表面に形成されたFe酸化物の還元処理のため行う。Hが1vol%未満もしくは露点が0℃超になるとFe酸化物が還元されにくいため、Fe酸化物が残存しめっき密着性が劣化する場合がある。また、Hが50vol%を超えるとコストアップにつながる。露点の下限は特に定めないが、−60℃未満は工業的に実施が困難であるため、−60℃以上が好ましい。
鋼板温度が750℃未満では、冷間圧延中に導入された歪が充分解消されず、未回復のフェライトが残存し、加工性が劣化する場合がある。一方、900℃を超えると加熱コストがかかる。
【0033】
焼鈍後、冷却し、浴温440〜550℃、浴中Al濃度が0.10〜0.20%の溶融亜鉛めっき浴に鋼板を浸漬して溶融亜鉛めっきを施す。その後、480〜580℃で合金化処理を施す。
【0034】
亜鉛浴の浴温が440℃未満では、めっき浴内における温度ばらつきが大きい場所はZnの凝固が起こる可能性がある。550℃を超えると浴の蒸発が激しく操業コストや気化したZnが炉内へ付着するため操業上問題が出てくる可能性がある。更にめっき時に合金化が進行するため、過合金になりやすい。
【0035】
浴中Al濃度が0.10%未満になるとζ相が多量に生成しパウダリング性が悪化する場合がある。0.20%超になるとFe−Zn合金化が進まない場合がある。
【0036】
合金化処理温度は480℃未満では合金化進行が遅い。580℃超えでは過合金により地鉄界面に生成する硬くて脆いZn−Fe合金層が生成しすぎてめっき密着性が劣化する場合がある。加えて、残留オーステナイト相が分解するため、強度延性バランスも劣化する場合がある。
【0037】
めっき付着量は特に定めないが、耐食性およびめっき付着量制御を考慮して、10g/m以上(片面当り付着量)が好ましい。また、付着量が多いと密着性が低下するので、120g/m以下(片面当り付着量)が好ましい。
【0038】
また、合金化処理温度が520℃を超える場合には、500℃以上の温度でめっき表面に不活性ガスを吹きつけることが好ましい。高温で合金化処理するとZn酸化膜が厚く成長するため、金属Znの露出率が低下する場合がある。これを避けるために、めっき表面に不活性ガスを吹きつけめっき表面への酸素供給を抑制することでZn酸化膜の成長を抑制する。ガスの温度が500℃未満ではZn酸化膜の形成が不完全であるため、酸素の供給を抑制すると蒸気圧の低いZnが蒸発する場合がある。したがって、不活性ガスを吹き付ける場合の温度は500℃以上が好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を、実施例に基いて具体的に説明する。
【0040】
表1に示す鋼組成からなるスラブを加熱炉にて1260℃で60分加熱し、引き続き2.8mmまで熱間圧延を施し、540℃で巻き取った。次いで、酸洗で黒皮スケールを除去して、1.6mmまで冷間圧延した。その後、雰囲気調整が可能で熱処理中にガス流量を一定に保てるような炉を用いて、Oを0.01〜5.0vol%含有した酸化雰囲気中で700℃まで加熱した後、Hを5〜15vol%含有し露点が0℃未満の還元雰囲気中で850℃まで加熱、保持し、480℃まで冷却した。
【0041】
引き続き、460℃のAl含有Zn浴にて溶融亜鉛めっき処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板を得た。なお、浴中のAl濃度は0.14%とし、付着量はガスワイピングにより片面当り40g/mに調節した。続いて、480〜580℃で合金化処理を行うことでFe含有率が9〜13%の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。合金化処理において、合金化温度が520℃を超える場合には鋼板温度が500℃以上の温度領域において亜鉛めっき層表面にNまたはArガスを吹きつけて、Zn酸化物層の成長を抑制した。次いで、表2に示す条件にて調質圧延を行った。
【0042】
以上により得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に対して、金属Zn露出率を求めるとともに、塗装後耐食性の評価を行った。
【0043】
得られた鋼板の鋼板表面をXPSで分析し、得られたプロファイルから鋼板表面に存在する金属Znと酸化物Znの割合を算出することにより、金属Zn露出率を求めた。
【0044】
また、得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に化成処理および電着塗装を施した後、サンプル表面に切り込み疵を入れ、SST試験を行った。SST試験後の切り込み疵周辺の膨れ幅を比較材の軟鋼と比較し、耐食性の評価を行った。評価は◎と○が合格レベルである。
◎:膨れ幅が軟鋼と同等
○:膨れ幅が軟鋼の1.5倍以下
×:膨れ幅が1.5倍超
以上により得られた結果を、製造条件と併せて、表2に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表2より、本発明例の合金化溶融亜鉛めっき鋼板はSiを含有するにも関わらず、塗装後耐食性に優れる。これに対して、比較例の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は塗装後耐食性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は塗装後耐食に優れるので、自動車の分野を中心に幅広い用途での使用が見込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分として、mass%で、C:0.05〜0.30%、Si:1.0〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、Al:0.01〜3.00%、S:0.001〜0.010%、P:0.001〜0.100%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
鋼板の表面には、Fe:7〜15%、Al:0.02〜0.30%を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる亜鉛めっき層を有し、該亜鉛めっき層表面の金属Zn露出率が20%以上であることを特徴とする塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
さらに、mass%で、Cr:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、Ti:0.01〜0.10%、Nb:0.01〜0.10%およびB:0.0005〜0.0050%の中から選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の塗装後耐食性に優れる合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【公開番号】特開2013−64189(P2013−64189A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204415(P2011−204415)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】