説明

塗装方法及び防食塗膜

【課題】本発明は、塩害暴露環境における鉄鋼構造物鋼構造物等への塗装において、塗膜の密着性が高く、優れた防錆性を有し、塩素イオンの透過抑制効果の高い塗膜を形成する塗装方法を提供する。
【解決手段】本発明の防食塗膜の塗装方法は、第1の塗料として、アルミニウム及び/又は亜鉛を含有するエポキシ樹脂塗料を塗布し、次いで、第2の塗料として、チタン酸カリウムを含有するアクリルシリコン樹脂塗料を塗布して防食塗膜を形成する塗装方法である。また、第1の塗料の乾燥膜厚が30μm以上であり、第2の塗料の乾燥膜厚が第1の塗料の膜厚の1倍以上であることが好ましい。さらに本発明は、前記の塗装方法により被塗装物上に形成された防食塗膜である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食塗膜を形成する塗装方法に関するものである。更に詳しくは、塩害暴露環境においても長期間防食効果を持続でき、従来の塗膜より塗り替え間隔が延長できる防食塗膜を形成する塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来鉄鋼構造物の塗装には、素地調整や塗装方法の制約から、悪素地面に適性のある油性さび止め塗料や変性エポキシ樹脂塗料を下塗りとし、各種上塗り塗料を組み合わせる塗装方法が採用されている。例えば、エポキシ樹脂系塗料を下塗りし、次いでアクリルシリコン樹脂系塗料を上塗りとする塗装方法(特許文献1)や、防錆顔料を含有する水系の下塗材組成物により下塗り塗膜を形成させ、上塗りにアルキルメタルアクリレートの共重合体を含有する塗料を塗布する方法(特許文献2)、さらには、エポキシ樹脂を下塗りし、次いでアミノアルキド塗料またはアミノアクリル塗料を上塗りとする方法(特許文献3)などが提案されている。
【0003】
しかし、何れの塗装も塩水が存在して、塩害の厳しい環境において塗膜の耐久性、特に防錆性に問題があるため、更なる防食性及び耐久性を備えた塗装ないし係る塗装を形成する塗装方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−8905号公報
【特許文献2】特開2000−42485号公報
【特許文献3】特開2008−106177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、本発明の目的は、塩害暴露環境における橋梁、タンク、プラント、湾岸設備等の鉄鋼構造物鋼構造物等への塗装において、塗膜の密着性が高く、優れた防錆性を有する塗膜を形成する塗装方法を提供することであり、特には、塩素イオンの透過抑制効果の高い塗膜の塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、第1の塗料として特定のエポキシウレタン樹脂系塗料を塗布し、第2の塗料として特定のアクリルシリコン樹脂系塗料を塗布することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)第1の塗料として、アルミニウム及び/又は亜鉛を含有するエポキシ樹脂塗料を塗布し、次いで、第2の塗料として、チタン酸カリウムを含有するアクリルシリコン樹脂塗料を塗布して防食塗膜を形成する塗装方法である。
(2)前記第1の塗料の乾燥膜厚が30μm以上であり、前記第2の塗料の乾燥膜厚が前記第1の塗料の膜厚の1倍以上である塗装方法である。
(3)前記塗装方法により、被塗装物上に形成された防食塗膜である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗装方法によれば、塩害暴露環境においても塩素イオンの透過を抑制することができるとともに、母材金属に対して優れた付着性を有するため、長期間に渡って防食効果を保持することが可能であり、従来の塗膜よりも塗り替え間隔が延長できる等の格別の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の塗装方法では、まず第1の塗料として、アルミニウム及び/又は亜鉛を含有するエポキシ樹脂塗料を塗布する。該エポキシ樹脂塗料に用いられるエポキシ樹脂としては、金属との密着性、塗装作業性が良好であることが要求される。このような要求を満足するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポヰシ樹脂が密着性の点から最も優れているものの一つである。またノポラック型エポキシ樹脂なども用いることができ、炎天下に曝されるような耐熱性を要する用途に有効である。
【0010】
エポキシ樹脂に添加されるアルミニウム及び/又は亜鉛は、腐食原因となる水や酸素が透過した場合に鋼材より先に反応して鋼材との反応を防止する、いわゆる犠牲防食作用を有している。アルミニウム及び/又は亜鉛の金属粒子の平均粒径は、分散性の観点から2〜25μmが好ましく、より好ましくは、5〜15μmである。これら金属粒子の配合量は、樹脂(及びその硬化剤)100質量部に対して、アルミニウム粒子の場合5〜200質量部が適当であり、亜鉛粒子の場合は、例えば、100〜600質量部が適当である。この範囲の添加量であれば、充分な防錆性と、良好な常温貯蔵安定性、皮張り性及び耐久性を有する塗膜が得られる。
【0011】
第1の塗料の塗膜の膜厚は30μm以上が好ましく、より好ましくは35〜80μmである。30μm未満であると塗装面との接着が不十分となったり、防錆性が不充分となったりするため好ましくない。また、過度に膜厚を厚くしようとすると、防食塗料を垂直面に塗装した場合、塗料が垂れやすく、また、乾燥に時間がかかる等の不具合が生じるので好ましくない。
【0012】
本発明は第1の塗料の塗布後、チタン酸カリウムを含有するアクリルシリコン樹脂塗料を第2の塗料として塗布する。
本発明において使用するアクリルシリコン樹脂としては、ジメチルポリシロキサン系、フェニルメチルポリシロキサン系、メチルハイドロジェンポリシロキサン系等のシリコン樹脂を挙げることができる。中でも柔軟性付与効果及び耐熱性等の性能及び価格の点からジメチルポリシロキサン系を使用するのが好ましい。
【0013】
アクリルシリコン樹脂中に配合されるチタン酸カリウムは、一般式:KO・nTiOで表される結晶質の無機化合物(多結晶体)である。なかでも、6チタン酸カリウム(KO・6TiO)、8チタン酸カリウム(KO・8TiO)は、熱的安定性、補強性等に優れている点で好ましく使用される。これらのチタン酸カリウムは、単一種の使用であってもよく、または2種以上を複合して配合してもよい。配合するチタン酸カリウムは繊維状のものが好ましく、繊維長10〜20μm、繊維径が0.2〜0.8μmのものが好ましい。大き過ぎると、塗料調製における分散性、作業性が悪く、逆に微細過ぎる粒子では、比表面積の増加により塗料の増粘傾向が顕著となるため好ましくない。なかでもアスペクト比(長さ/幅)が約5以上の形態を有するものは防食機能や塗膜強度を強化するので好ましく使用することができる。
【0014】
樹脂組成物中のチタン酸カリウムの配合量は、樹脂固形分100重量部に対し5重量部以上が好ましく、より好ましくは10〜50重量部である。多く配合すると塗料調製や塗装作業性が低下するので、約80重量部を上限とするのが適当である。
【0015】
第2の塗料の塗膜の乾燥膜厚は10μm以上、好ましくは20〜80μmである。10μm未満であると防錆性、塩素イオン透過の抑制性能、塗膜強度が不充分となるため好ましくない。第2の塗料塗布後に、さらに同種の塗料を重ねて塗布しても構わない。
【0016】
また、母材との密着性の向上、防錆性の向上、塩素イオン透過の抑制の観点から、第2の塗料の乾燥膜厚は、第1の塗料の膜厚の1倍以上、好ましくは1.2〜2.5倍であることが好ましい。第2の塗料として使用するアクリルシリコン樹脂塗料の膜厚が、第1の塗料として使用するエポキシ樹脂塗料の膜厚の1倍未満であると、塗装面との接着が不十分となり、防錆性、塩素イオンの透過抑制性能等が低下するため、好ましくない。また、2.5倍以上の厚さで第2の塗料を塗装しても、コストが増大するだけで、防錆性、塩素イオンの透過抑制性能等が増した厚さに見合って向上することはない。
【0017】
本発明の塗料を塗布するにあたり、塗装の対象となる被塗装素材は特に限定しないが、鋼材等の金属素材に好適に用いることができる。被塗装表面上の旧塗膜や錆が発生している場合は、各種のブラスト、ディスクサンダー等の電動工具やスクレーパー、ワイヤーブラシ等の手工具で錆を除去して下地処理を行う。
下地処理を施した後、本発明の第1の塗料及び第2の塗料を塗布するが、刷毛、ヘラ、ローラー、スプレー、コーターなど公知の方法を用いて塗布することができる。
【実施例】
【0018】
本発明をより具体的に実施例により説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
(塗膜形成用鋼板の作製)
両表面をサンドブラストした縦横80×80mm、厚さ3mmの冷間圧延鋼板(SS−400)を、3%食塩水に1分浸漬した後、40℃95%の恒温恒湿槽内で8日間静置し、錆を発生させた。次に、錆を発生させた鋼板の浮き錆を、電動カップワイヤーブラシで除錆した(2種ケレン)後、水洗し、乾燥させて、塗膜形成用の鋼板を作製した。
【0020】
(実施例1)
第1の塗料として、分子量3000〜5000のビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に対し、粒径5μm〜15μmのアルミ鱗片顔料を50重量部と、平均粒径5μmの亜鉛金属粉末を50重量部含有する塗料Aを調製した。
また、第2の塗料として、平均分子量41000のアクリルシリコン樹脂100重量部に対し、繊維長10〜20μm、繊維径が0.2〜0.8μmの繊維状チタン酸カリウムを30重量部含有する塗料Bを調製した。
まず、上記のようにして作成した塗膜形成用の鋼板に塗料Aを、ローラーを用いて塗布し、25℃で24時間乾燥させ、乾燥膜厚が70μmの塗膜1を形成した。次いで、塗料Aの乾燥塗膜の上に塗料Bを、ローラーを用いて塗布し、25℃で24時間乾燥させ、乾燥膜厚が70μmの塗膜2を形成した。塗膜2を形成した後、さらに、塗料Bを同様に塗布、乾燥して、乾燥膜厚が70μmの塗膜3を形成した。このように塗料Aを1回、塗料Bを2回塗布して塗膜1〜3でなる合計膜厚が210μmの試験片Xを作製した。
【0021】
(比較例1)
第1の塗料として、分子量20000〜30000のエポキシ樹脂を含有する塗料Cを用い、第2の塗料として分子量が20000〜30000のアクリル系エポキシ樹脂を含有する塗料Dを用いた。
まず、実施例1で用いた鋼板と全く同じ鋼板に塗料Cを、ローラーを用いて塗布し、25℃で24時間乾燥させ乾燥膜厚が70μmの塗膜1を形成した。さらに、塗料Cを同様に塗布して、乾燥膜厚が70μmの塗膜2を形成した。その後、塗料Dを、塗料Cの2層の乾燥塗膜の上に同様に塗布、乾燥して、乾燥膜厚が70μmの塗膜3を形成した。こうして、合計膜厚が210μmの試験片Yを作製した。
【0022】
(比較例2)
第1の塗料として塗料Bのみを用いて、合計膜厚が210μmの試験片Zを作製した。すなわち、塗料Bを、ローラーを用いて塗布後、25℃で24時間乾燥させ、乾燥膜厚が70μmの塗膜1を形成した。これを、さらに2回繰り返して、それぞれ乾燥膜厚が70μmの塗膜2及び塗膜3を形成した。こうして、塗料Bのみの合計膜厚が210μmの試験片Zを作製した。
【0023】
[耐食性試験]
ASTM C868に準拠する試験器(山崎精機研究所製 ライニングテスタ LA−15)を用いて、試験片の塗膜面が60℃の25重量%塩化ナトリウム水溶液と接するよう設置し、塗装していない面を10℃に保持して30日間耐食性試験を行った。
【0024】
試験後の塗膜の外観を膨れの大きさ、密度について評価し、塗膜の付着性をJIS K5600−5−7に準拠して測定した。
【0025】
また、試験後の試験片は、塗装面に対して垂直方向で切断して、電子線マイクロアナライザ(EPMA)(日本電子製、Super Probe JXA−8900R型)にて、塗装面に対して垂直方向の断面における塩素イオンの浸透、透過の有無を測定した。なお、塗膜の膜厚はJIS K5600−1−7に準拠して、電磁誘導式厚計(株式会社サンコウ電子研究所 SM−1100型)で測定した。
これらの測定結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1の塗装は、耐食性試験後においても塗膜に膨れは発生せず、塗膜の付着性も良好であった。また、塗膜の断面のEPMA測定においても塩素は検出されず、塗膜を塩素が透過しないことが確認された。これに対し、比較例1,2の塗装は、耐食性試験後に、塗膜に膨れが発生し、付着強度も低く、塗膜が母材から剥離したことから、外観及び付着性が満足できるものではなかった。
【0028】
[塗膜の塩素透過性]
第2の塗料(上塗り塗料)として用いた塗料B及び塗料Dの塩素イオン透過度を旧JIS K5400(8.18塩素イオン透過度)に準拠して測定した。
具体的には、ガラス板に離型紙を敷き、その上に塗料を泡が入らないように塗装し、7日間乾燥保持した後、離型紙から塗膜をはがして直径約70mmの円形に切り取り、塗膜試験片を作成した。試験片を測定セルの間に取り付け、一方のセルに脱イオン水を、もう一方のセルに25重量%の塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ200mL入れ、40℃で30日間放置後、脱イオン水側のセルから溶液を採取し、イオンクロマト分析装置を用いて、塩素イオン濃度を測定し、塗料BとDの塗膜の塩素イオン透過量を算出した。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
表2の結果から、本発明に用いる、繊維状のチタン酸カリウムを含有するアクリルシリコン樹脂の塗料Bで形成した塗膜は優れた遮塩性を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の塗装方法によると、塗膜の付着性が良好であり、膨れは発生しない、かつ優れた防錆性を有し、塩素イオンの透過抑制効果の高い防食塗膜を形成することができる。塩害暴露環境においても長期間防食効果を持続でき、従来の塗膜より塗り替え間隔が延長できることから、橋梁、タンク、プラント、湾岸設備等の鉄鋼構造物鋼構造物等への塗装に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の塗料として、アルミニウム及び/又は亜鉛を含有するエポキシ樹脂塗料を塗布し、次いで、第2の塗料として、チタン酸カリウムを含有するアクリルシリコン樹脂塗料を塗布して防食塗膜を形成することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
第1の塗料の乾燥膜厚が30μm以上であり、かつ第2の塗料の乾燥膜厚が第1の塗料の膜厚の1倍以上である請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の塗装方法により、被塗装物上に形成された防食塗膜。

【公開番号】特開2010−188325(P2010−188325A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38286(P2009−38286)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】