説明

塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー

【課題】作業員一人でも簡易且つ迅速にマスキングシートをそのロール体から引き出すことのできる、塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーの提供。
【解決手段】塗装用マスキングシートシート60をロール状に巻いて形成されたマスキングシートロール体Rを保持するディスペンサーDであって、マスキングシートロール体を保持する保持部10と、当該保持部を支持するフレーム部40とを備えて構成されており、前記保持部は、マスキングシートロール体をフレーム部に対して回動自在に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーに関する。特に、車両、その他の塗装対象物を塗装する際、非塗装領域を養生するための塗装用マスキングシートを作業員一人でも容易に引き出すことができる塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー、及び簡易且つ迅速にマスキング作業を行うことのできる塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー及び車両のマスキング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のキズやへこみを補修する場合には、一般的に、補修箇所の塗膜剥離作業、パテ付け作業、パテ研ぎ作業、サフェーサー塗布作業、サフェーサー研磨作業、マスキング作業、塗装作業、ポリッシング作業、完成検査作業の工程が、この順で行われている。
【0003】
特に上記マスキング作業は、その後に行われる塗装作業において、スプレーミストが意図しない領域に付着するのを防ぐ事を目的として行われるものであり、従来は、各種車両の形状に合致した塗装用車体カバーや、あるいは約0.03mm(30μm)程度の厚さのポリプロピレンフィルムからなる塗装用マスキングシート等が使用されている。
【0004】
この内、塗装用車体カバーは、繰り返し使用することができる点で望ましいものではあるが、塗装対象となる車体にかぶせる際、少なくとも2人以上の作業員を要する等、その装着作業が面倒であり、また塗装作業終了後においてはこのカバーの後始末が必要であることから、実際の塗装作業現場においては受け入れられ難いものとなっている。この点、前記塗装用マスキングシートは、塗装対象となる車体にかぶせる作業が容易であり、また塗装作業終了後における面倒な後始末も不要であることから、当該マスキング作業において広く利用されている。
【0005】
かかる塗装用マスキングシートは、従来、約30μm厚のポリプロピレンフィルムや、約10μm厚の薄肉化された高密度ポリエチレンフィルムを用いて形成されており、これらは保管スペースの縮小や作業性の向上のために、フィルム長手方向に平行に二重またはそれ以上に折り畳み、これを心材にロール状に巻いた塗装用マスキングシートロール体として提供されている。
【0006】
このような塗装用マスキングシートに関する先行技術としては、特許文献1(特開平9−234790号公報)がある。この文献では無機フィラーが高充填された高密度ポリエチレンフィルムから極薄マスキングフィルムを製造し、これを紙管にロール巻きすることが提案されている。
【0007】
一方、上記の塗装用マスキングシートは、補修塗装面以外の面を塗料の飛散から守るために使用されることから、作業効率を優先する場合、補修塗装部分が車体のあちこちに点在する場合、補修塗装部分が車体の広範囲に及ぶ場合、あるいは車体がツートンカラーであったり、オープンカー、ピックアップタイプのように開放部を有する場合などには、車体全体を塗装用マスキングシートで覆うほうが有利である。
【0008】
車全体に塗装用マスキングシートを施す場合、ロール状に巻かれた形で提供されるマスキングシート(即ち、塗装用マスキングシートロール体)から、必要量だけマスキングシートを引き出すことになるが、この引き出し作業の容易性を向上させた塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーは未だ提供されていないのが実情である。
【特許文献1】特開平9−234790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来提供されている塗装用マスキングシートロール体は、それ自体が十分な重量を有するものとなっていることから、これを引き出して車両を覆う場合には、少なくとも2人以上の作業員が車両の両サイドに分かれ、同じタイミングで引き出す必要がある。そのため、実際の補修塗装作業では、マスキングシートを引き出すために各々の作業を中断しなければならず、マスキング作業自体が相当に煩わしいものとなっていた。
【0010】
よって本発明は斯かる実情に鑑み、作業員一人でも簡易且つ迅速にマスキングシートをそのロール体から引き出すことのできる、塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー及び車両のマスキング方法を提供するものである。
【0011】
また本発明は、多量の塗料ミストが飛散している補修塗装環境下での使用に適した塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーを提供するものである。
【0012】
更に本発明は、マスキング作業に際してマスキングシートを車体に被せる際、マスキングシートと車体との接触を抑止することのできる塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー及び車両のマスキング方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するべく、本発明は塗装用マスキングシートシートをロール状に巻いて形成されたマスキングシートロール体を保持するディスペンサーであって、マスキングシートロール体を保持する保持部と、当該保持部を支持するフレーム部とを備えて構成されており、前記保持部は、マスキングシートロール体をフレーム部に対して回動自在に保持することを特徴とする、塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーを提供する。
【0014】
上記本発明に係るディスペンサーでは、マスキングシートロール体は保持部で保持され、且つフレーム部に対して回動自在に保持されていることから、マスキング作業に際してロール体からマスキングシートを引き出す場合でも、ロール体が自由に回動し、マスキングシートの引き出しに際して生じる抵抗を大幅に減じることができ、よってこの引き出し作業を容易にすることができる。
【0015】
特に、マスキングシートの引き出し時の抵抗を減ずる為には、前記保持部は、マスキングシートロール体をフレーム部に対して回動自在に保持するベアリングを伴って構成されており、このベアリングによりロール体はフレーム部に対して回動自在に設置されていることが望ましい。そしてこのベアリングは、当該ディスペンサーが、塗装ミストが飛散する環境下で使用されることを考慮すれば、前記保持部において、着脱自在に取り付けられている事が望ましい。これにより、仮に塗装ミストの影響によりベアリングの機能が低下した場合であっても、劣化したベアリングを容易に交換することができ、ロール体の回転特性を恒久的に維持することができる。
【0016】
また、マスキングシートロール体と保持部との結合、及び保持部とフレーム部との結合は、マスキングシートロール体の回動に際して、その回転軸の中心が移動しないように構成されることが望ましい。即ち、前述の通りマスキングシートロール体は、それ自身が大きな質量を有するものとして形成されていることから、回動に際してその回転の中心軸が移動すると安定した回動が困難になり、スムーズにマスキングシートを引き出すことが困難になるためである。
【0017】
マスキングシートロール体の回転時における回転中心の移動を阻止するためには、マスキングシートロール体の軸芯と、その回転軸の中心とを一致させる必要があり、これは保持部の回転軸中心とマスキングシートロール体の回転中心を一致させる他、保持部の回転軸中心をマスキングシートロール体の回転中心から偏心させることによっても行うことができる。
【0018】
保持部の回転軸中心とマスキングシートロール体の回転中心を一致させる場合には、マスキングシートロール体と保持部との固定は確実に行われる必要があり、また保持部は回動以外の移動を阻止した状態で、確実にフレーム部材に取り付けられる必要がある。そして、マスキングシートロール体と保持部との固定を確実に行うためには、保持部として、マスキングシートを巻いている芯材(中空円筒状)の中空部と相補的に嵌合する形状のものを使用することができ、具体的には、塗装用マスキングシートがロール巻きされている管状体の中央空間に嵌入する嵌入部を備えて形成されている保持部を使用すれば良い。この様な保持部は、芯材の中空部に嵌入される大きさの筒状体として形成する他、2個1組の保持部で、芯材の軸方向両端、又は軸方向両側の内面を支持するような形状に形成することができる。
【0019】
また、このように嵌入部を形成する際、現在提供されているマスキングシートロール体は、それに使用されている芯材の内径も様々である事から、当該嵌入部は、より多くのマスキングシートロール体(具体的には芯材の内径)に適合し得るように、2種類以上の外径を備えて形成されている事が望ましい。特に望ましくは、当該嵌入部はそれが嵌入される芯材の中心に向かって徐々に外径を変化させた錐体形状面(円錐形状面)等を備えて形成されることが望ましい。なお、ここで錐体形状面とは、円錐形状や多角錐形状における側面形状の如く傾斜を有して形成された面のことであり、嵌入部が錐体そのものの形状に形成されていることを要するものではない。
【0020】
一方、保持部の回転軸中心をマスキングシートロール体の回転中心から偏心させる場合には、マスキングシートロール体の回転によって、保持部も追従的に自在に回転するものとして形成される必要があり、また保持部は回動以外の移動を阻止した状態で、確実にフレーム部材に取り付けられることが必要である。
【0021】
マスキングシートロール体の回動により保持部を自在に回動させる為には、例えばフレーム部に対して回動自在に設置される保持部を、マスキングシートを巻いている芯材(中空円筒状)の中空部に遊嵌状態で差し通すことができる。このように形成すれば、マスキングシートロール体が回動した場合においても、芯材の内周面が接する保持部は自在に回転し得ることから、当該ロール体の回動に際して何等の抵抗も生じることはない。そして、マスキングシートロール体は、それ自身が十分な質量を有することから、回動に際しても当該ロール体の回転中心の移動を阻止することができる。
【0022】
よって本発明における保持部は、芯材の軸方向両端、又は軸方向両側の内面を2個1組で支持するものとして形成する他、芯材の中空部に嵌合乃至は遊嵌する円筒状部材として形成することができる。
【0023】
また本発明におけるディスペンサーは、更に塗装用マスキングシートを幅方向に挟持するロッド部材を備えて形成されることが望ましい。
【0024】
本発明にかかるディスペンサーは、上記のようにマスキングシートの引き出しに際して、これに抵抗する力が大幅に減じられていることから、かかるロッド部材を使用することにより、マスキングシートを作業員一人でも容易に引き出すことが可能になる。そして、かかるロッド部材の使用は、更に以下に示すような方法によるマスキング作業を可能にすることができる。
【0025】
即ち、車両の補修塗装に先立ち、非塗装領域を塗装用マスキングシートで覆う車両のマスキング方法であって、塗装用マスキングシートシートをロール状に巻いたマスキングシートロール体から、開始端を引き出す工程、及び引き出したマスキングシートの開始端を、ロッド部材で幅方向に挟持し、ロッドを移動させて必要量のマスキングシートを引き出す工程を含むことを特徴とする、車両のマスキング方法である。
【0026】
上記ロッド部材は、少なくともマスキングシートの引き出し端部を、その幅方向に挟む事ができるものであれば特に制限なく使用することができる。例えば棒状に形成された2本一組のロッド部材で構成する他、2本一組のロッド部材とした場合における先端部同士又は把持部同士を軸着して、当該軸着部を中心に開閉するものをロッド部材として使用することができる。また、このロッド部材は、マスキングシートの引き出し端部を確実に挟み持つことができるように、当該シートとの摩擦抵抗を増加させる構成を伴うことが望ましく、例えばシートとの接触面にゴム材等を貼り付けることができる。ただし、摩擦抵抗を増加させるための部材を伴わない場合であっても、当該ロッド部材にマスキングシートの引き出し端部を挟んだ後、当該ロッドを、その中心軸周りに回転させてマスキングシートをロッド部材に巻き付ければ、マスキングシートとロッド部材との一体性を確実なものとすることができる。よって、本発明にかかる車両のマスキング方法においては、ロッド部材でマスキングシートの引き出し端部を挟持した後、ロッドを軸心周りに回転させて、マスキングシートを巻き付ける工程を伴うことが望ましい。
【0027】
また本発明では、上記課題を解決する車両のマスキング方法として、上記マスキングシートを用いた本マスキングの他に、更に局所マスキングを行うマスキング方法を提供する。
【0028】
即ち、車両の補修塗装に先立って実施される車両のマスキング方法であって、予め車両の所定領域に局所マスキング材を設置する工程、当該車両全体を覆うようにマスキングシートを展張する工程、展張したマスキングシートの必要箇所をテープ等の固定手段で固定した上で、前記局所マスキングに位置する部分を切開する工程、及び切開したマスキングシートの切開部を、マスキングテープ等の接着手段で前記局所マスキング材に固定する工程を含むことを特徴とする車両のマスキング方法である。
【0029】
かかるマスキング方法においても、マスキングシートの展張に際しては、当然に前記ロッド部材でマスキングシートの開始端(引き出した部分)を幅方向に挟み、このロッドを移動させて必要量のマスキングシートを引き出し、展張することができる。
【0030】
そして、本発明にかかるマスキング方法においては、マスキングシートとして、樹脂シート若しくは紙を用いて形成されているか、又はこれらに固定用のテープ材を予め貼付してなる塗装用マスキングシートを使用することができる。
【0031】
また本発明にかかる塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーに使用されるフレーム部は、前記保持部が取り付けられる支持フレームを備えて形成されており、当該支持フレームには、前記ロッド部材を支持フレームと平行に保持するロッド保持部が形成されている事が望ましい。このようなロッド保持部を設けることにより、ロッド部材を置いたままでマスキングシートの引き出し端を引き出すことが可能になり、ロッド部材におけるマスキングシートの挟持操作を容易に行うことができる為である。
【0032】
更に本発明におけるフレーム部は、保持部が取り付けられる支持フレームと、この支持フレームを支持する立設部を伴って形成された脚部フレームとからなるものとして形成することができ、当該支持フレームは、脚部フレームに対して倒立自在に設けられていることが望ましい。このように形成すれば、使用時には支持フレーム、即ちマスキングシートロール体を水平状に倒した状態とし、一方で使用時以外においては、これを鉛直な向きに立ててコンパクトにすることができるので、作業スペースの節約を図ることができる。また、脚部フレームの一部を構成する立設部は、保持部(即ちマスキングシートロール体)が取り付けられる支持フレームを一定の高さに持ち上げることから、作業者も自然な姿勢でマスキングシートの挟み込み操作を行うことができ、作業効率の向上を図ることができる上、更にマスキングシートを車体に被せる際、マスキングシートと車体表面との接触を極力阻止することができる。このような観点からすれば、この支持フレームは、マスキングシートロール体を地上高約50cm〜160cm、望ましくは70cm〜140cm、特に望ましくは90cm〜140cm(何れもマスキングシートロール体の中心軸までの高さとして算定)に保持するものとして形成されることが望ましく、また立設部は、その高さを自在に調整できるように形成することが望ましい。
【0033】
そしてこのディスペンサーは、使用時においてはマスキングシートロール体が水平姿勢に配置される必要があることから、前記フレーム部は、支持フレームを水平姿勢に保持する固定構造を備えて形成されている事が望ましい。
【0034】
なお、上記本発明に係るディスペンサーは、ロール体の荷姿で提供されている各種の塗装用マスキングシートで使用することができ、例えば、プラスチックフィルムからなる塗装用マスキングシートをロール状に巻いたもののみならず、紙を用いて形成された塗装用マスキングシートをロール状に巻いたもの、或いはこれら樹脂製又は紙製の塗装用マスキングシートに、予め固定用のテープ材を貼付してロールロール状に巻いたものでも使用することができる。
【発明の効果】
【0035】
以上のように構成された塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーによれば、マスキングシートの引き出しに際して、そのロール体は特段の抵抗を受けることなく、スムーズに回動することができるので、マスキングシートの引き出し作業を、作業員一人でも容易に行うことができる。
【0036】
また、ロッド部材を用いた場合には、マスキングシートによる車体の被覆を、作業員一人でも、簡易且つ確実に行うことができる。
【0037】
更に、保持部とフレーム部との間にベアリングを介在させ、このベアリングを、保持部に対して着脱自在に設けた場合には、随時ベアリングを交換することで、多量の塗料ミストが飛散している補修塗装環境下でも、マスキングシートの引き出し容易性を確実に維持することができる。
【0038】
更にフレーム部が、支持フレームを支持する立設部を伴って形成された脚部フレームを用いて形成されている場合には、作業上好都合な高さにマスキングシートを保持することができ、作業のしやすさを大幅に向上させる他、マスキングシートを車体に被せる際、マスキングシートと車体との接触を極力抑えることも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0040】
図1〜図7は本発明を実施する形態の一例であって、特に2個一組の保持部10でマスキングシートロール体Rを支持し、且つ立設部31を備える脚部フレーム30を用いて、支持フレーム20、即ちマスキングシートロール体R自体を作業しやすい高さに持ち上げているマスキングシートロール体RのディスペンサーDの態様を示している。
【0041】
先ず、図1(A)の正面図を参照しながら、このディスペンサーDの全体構造を説明すると、当該ディスペンサーDは、大きく分けて、フレーム部40と保持部10とで構成されており、フレーム部40は、台座部35と、この台座部の中央から立ち上がり状に設けられた立設部31とからなる脚部フレーム30と、この脚部フレーム30に対して倒立自在に設けられた支持フレーム20とで構成されており、この支持フレーム20の長手方向両端部(図1(A)における左右両側)には、マスキングシートロール体Rを保持する保持部10が設けられている。
【0042】
この図に示す態様において、台座部から立ち上がる立設部31は約110cmの高さに形成されていることから、この脚部フレーム30は、マスキングシートロール体Rを、その中心軸までの高さが約130cmとなるようにして保持することができる。これにより、マスキングシートロール体を作業上、最適な高さに支持することができ、作業者に不自然な姿勢での作業を強いることない為、作業効率の向上を図ることができる。
【0043】
そして支持フレーム20は、その長さ方向の中央で脚部フレーム30の上端部に設置されており、その結果、図1(A)に示す如く支持フレーム20を水平姿勢に倒した状態においては、脚部フレーム30の存在を手掛かりとして、支持フレーム20、即ちマスキングシートロール体Rの中央(中心)を特定することができる。
【0044】
また、このフレーム部40は水平姿勢に倒された支持フレーム20が、使用期間中、確実に水平姿勢を維持することができるように、ボルトの螺着によって実施される第一固定構造32を備えている。このような第一固定構造32を備えることから、マスキングシートの引き出し作業中にも当該マスキングシートロール体Rは傾くことなく、安定した引き出し作業を実現している。
【0045】
一方、長さ方向の中央で脚部フレーム30に倒立自在に設置されている支持フレーム20は、マスキング作業が終了した場合など、マスキングシートを使用しない場合においては、図1(B)に示すように、当該支持フレーム20を鉛直状態に立てておくことができ、これにより省スペース化が達成されている。このように、支持フレーム20を起立した状態においても、その状態を確実に維持し、作業場における安全を確保するために、この起立状態は、ボルトの螺着によって実施される第二固定構造33によって維持されることになる。なお、図1(A)及び(B)中、符号34は、マスキング作業時に使用される工具(カッターや接着テープなど)を収容するためのケースであり、このケースの存在により、作業者の余計な移動時間を削減し、マスキング作業の効率化を図ることができる。また、符号50は、マスキングシートの引き出し作業に使用されるロッド部材であり、このロッド部材50は、支持フレーム20の前面に設けられた鈎状のステー21に設置され、任意に取り外し可能な状態で設けられている。
【0046】
また、このディスペンサーDにおけるフレーム部40は、図2の斜視図に示すとおり、その殆どの構造が棒材(パイプ材を含む)又は板材を切断し、これらを繋ぎ合わせて形成したものであることから、製造が容易である上、製造コストを大幅に削減することができ、更に軽量化が図られて、必要時における移動・設置を容易に行い得るものとなっている。なお、図2に示すように、台座部35は、三方向に延伸する板状部材で構成されており、使用時において前方に存在する2つの板状部材にはキャスター36が取り付けられ、残りの1つの板状体部材には、脚部材が設けられている。そしてキャスター36が設置されている板状部材間には、このディスペンサーDを移動する際、足をかけて傾けるためのステップが設けられており、このステップ37の存在によっても、ディスペンサーDの移動容易性が向上されている。なお、図2は図1に示したディスペンサーDの斜視図であるため、図1と同じ部材については、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0047】
次に、図3及び図4を参照しながら、本実施の形態における保持部10の構造を具体的に示す。
【0048】
この実施の形態に示すディスペンサーDは、マスキングシートロール体Rの両側を2つの保持部10で押さえて固定するように形成されており、図3はその内の片側の保持部10を示す腰部拡大図、図4(A)はこの保持部10の内部構造を示す分解断面図、同図(B)はこれを組み付けた状態を示す断面図である。
【0049】
先ず、図4を参照しながらこの保持部10の構造を具体的にすると、当該保持部10はマスキングシートロール体Rの芯材R1に嵌合する保持本体11と、この保持本体11を固定する2つの円形プレート部材12と、この円形プレート部材12によって外周側が固定され、且つ内周側は支持フレーム20に取り付けられるボルト13と固定具14(及びナット)によって固定されているベアリング15によって構成されており、このベアリング15の存在により、支持フレーム20に取り付けられるボルト13と、保持本体11とは回動自在になっている。このような構成は、少なくともマスキングシートロール体Rを直接支持する保持本体11を、フレーム部40から回動自在にする事を目的として採用されているものであり、かかる機能を担保し得るものであれば、適宜変更することができる。
【0050】
このような変更としては、例えば支持フレーム20に取り付けるためのボルト13に直接ベアリング15を設置し、このベアリング15を介して保持部10を支持フレーム20に取り付けることが考えられる。その際、ベアリング15は支持フレーム20の構成部品と見ることもできなくはないが、この場合でも本質的な作用効果は本発明と同じであり、技術的に等価であることから、本発明の技術的範囲に属することは明らかである。
【0051】
以上の様に構成された保持部10には、図3に鎖線で示すようなマスキングシートロール体Rが取り付けられる。ここで、現在市販されているマスキングシートロール体Rは、その芯材R1の内径などが様々である事から、本実施の形態にける保持本体11は、円錐体形状面を有するものとして形成した上で、その先端を円柱状に形成している。かかる保持部10は、このような円錐形状の周面領域(円錐体形状面)を備えることから、例えば内径の小さい芯材R1を用いたロール体Rでも、これよりも大きい内径の芯材R1’を用いたロール体R’であっても確実に固定一体化することができる。
【0052】
また、この保持部10に関しては、更に図6に示すように形成することもできる。即ち、図6は他の保持部10構造を示す要部断面図であり、この図に示す保持部10’は、マスキングシートロール体Rの芯材R1を貫通する円柱(又は円筒)形状であって、マスキングシートロール体Rをフレーム部40に対して回動自在に保持するものとして形成されている。
【0053】
ロール体Rを回動自在に保持する場合には、当該保持部10’はベアリング(図示せず)を介在させた上でフレーム部40に取り付け、芯材R1内に存在する部分が回動自在であるように構成される必要があり、このように形成された保持部10’にあっては、ロール体Rの芯材R1内に存在する部分は、恰も内歯車の如く回転することができ、且つその回転に際してはベアリングの存在により何等抵抗を受けないことから、マスキングシートロール体Rも、円滑に回動することができる。
【0054】
また、ロール体Rを滑動自在に保持する場合には、保持部10’の表面はロール体Rの芯材R1との摩擦抵抗を減ずるような加工が施される必要があり、このように形成された保持部10’は、ロール体Rの回転時における芯材R1内周面の接触移動を円滑にすることができるので、マスキングシートの引き出しをスムーズに行うことができる。
【0055】
なお、この図6に示す態様における保持部10’の回転軸中心は、マスキングシートロール体Rの回転中心から偏心している。
【0056】
次に、上記のディスペンサーDを用いた車体のマスキング手順を、図5を参照しながら説明する。
【0057】
先ず、前記図1(B)に示した様に、支持フレーム20を起立させて保管しているものを、補修塗装対象となる車両Mの正面又は背面に設置し、支持フレーム20を水平姿勢に倒してディスペンサーDを設置する(図5(A))。次に、マスキングシート60の引き出し端部R2を僅かに引き出して(図5(B))、この引き出した端部R2をロッド部材50で挟持する(図5(C))。そしてロッド部材50を、その軸方向周りに1〜3回ほど回転させてマスキングシート60の引き出し端部R2を巻きつけ(図5(D))、その後、車両Mの長さ方向に沿ってこのロッド部材50を操作すれば、順次マスキングシート60はディスペンサーDから円滑に引き出され、車両M全体を長さ方向に覆うことができる(図5(E))。そして車両M全体を長さ方向に覆うことのできる分だけマスキングシート60を引き出した後においては、ディスペンサーD近傍において、マスキングシートを切断する。この状態において、車両Mには折りたたまれた状態のマスキングシート60が被さっていることから、後は当該折りたたまれたマスキングシート60を展開すれば、補修塗装対象となる車両Mのマスキング作業が完了する。
【0058】
よって、この実施の形態に示したようなマスキングシートロール体RのディスペンサーDを使用することにより、マスキング作業を、一人でも簡易且つ確実に行うことができる。
【0059】
そして、上記の方法によりマスキングを行うに際しては、マスキングシート60の引き出しに先立ち、予め車両の所定領域(例えば損傷領域の周囲など)に局所マスキング材を設置することができ、その場合には、上記方法により車両全体を覆うようにマスキングシートを展張した後において、展張したマスキングシートの必要箇所をテープ等の固定手段で固定した上で、前記局所マスキングに位置する部分を切開し、この切開したマスキングシートの切開部を、局所マスキング材に、マスキングテープ等の接着手段で密閉するように覆いつつ固定することもできる。
【0060】
更に、このマスキング方法においては、マスキングシートとして、樹脂シート若しくは紙を用いて形成されているか、又はこれらに固定用のテープ材を予め貼付してなる塗装用マスキングシートを使用することができる。
【0061】
尚、本発明の塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーは、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることは勿論可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(A)は本実施の形態にかかるディスペンサーを示す正面図、(B)は支持フレームを鉛直に立てた状態を示す正面図。
【図2】本実施の形態にかかるディスペンサーを示す斜視図。
【図3】本実施の形態にかかる保持部を示す要部拡大図。
【図4】保持部の内部構造を示す分解断面図。
【図5】本実施の形態にかかるディスペンサーを用いた作業工程を示す工程略図。
【図6】他の保持部を示す要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0063】
10 保持部
11 保持本体
12 円形プレート部材
13 ボルト
15 ベアリング
20 支持フレーム
30 脚部フレーム
31 立設部
35 台座部
40 フレーム部
50 ロッド部材
60 マスキングシート
R1 芯材
R2 引き出し端部
D ディスペンサー
M 車両
R マスキングシートロール体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装用マスキングシートシートをロール状に巻いて形成されたマスキングシートロール体を保持するディスペンサーであって、
マスキングシートロール体を保持する保持部と、
当該保持部を支持するフレーム部とを備えて構成されており、
前記保持部は、マスキングシートロール体をフレーム部に対して回動自在に保持することを特徴とする、塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー。
【請求項2】
前記保持部は、マスキングシートロール体をフレーム部に対して回動自在に保持するベアリングを伴って構成されており、このベアリングは、前記保持部において着脱自在に設けられている請求項1に記載の塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー。
【請求項3】
前記保持部は、塗装用マスキングシートがロール巻きされている管状に形成された芯材の中央空間に嵌入する嵌入部を備えて形成されており、
当該嵌入部は、2種類以上の外径を備えている、請求項1又は2に記載の塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー。
【請求項4】
前記塗装用マスキングシートロール体のディスペンサーは、更に塗装用マスキングシートを幅方向に挟持するロッド部材を備えている請求項1〜3の何れか一項に記載の塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー。
【請求項5】
前記フレーム部は、前記保持部が取り付けられる支持フレームを備えて形成されており、
当該支持フレームには、前記ロッド部材を支持フレームと平行に保持するロッド保持部が形成されている請求項1〜4の何れか一項に記載の塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー。
【請求項6】
前記フレーム部は、前記保持部が取り付けられる支持フレームと、この支持フレームを支持する立設部を伴って形成された脚部フレームとからなり、
前記支持フレームは、脚部フレームに対して倒立自在に設けられている請求項1〜5の何れか一項に記載の塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー。
【請求項7】
前記フレーム部は、支持フレームを水平姿勢に保持する固定構造を備えて形成されている請求項6に記載の塗装用マスキングシートロール体のディスペンサー。
【請求項8】
前記ディスペンサーは、ロール状に巻かれた塗装用マスキングシートシートを保持して、これを供給するものであり、且つ、
当該塗装用マスキングシートとして、樹脂シート若しくは紙を用いて形成されているか、又はこれらに固定用のテープ材を予め貼付してなる塗装用マスキングシートが使用されるディスペンサーである、請求項1〜9の何れか一項に記載のディスペンサー。
【請求項9】
車両の補修塗装に先立ち、非塗装領域を塗装用マスキングシートで覆う車両のマスキング方法であって、
塗装用マスキングシートシートをロール状に巻いたマスキングシートロール体から、開始端を引き出す工程、及び
引き出したマスキングシートの開始端を、ロッド部材で幅方向に挟持し、ロッドを移動させて必要量のマスキングシートを引き出す工程、
を含むことを特徴とする、車両のマスキング方法。
【請求項10】
車両の補修塗装に先立って実施される車両のマスキング方法であって、
予め車両の所定領域に局所マスキング材を設置する工程、
当該車両全体を覆うようにマスキングシートを展張する工程、
展張したマスキングシートの必要箇所をテープ等の固定手段で固定した上で、前記局所マスキングに位置する部分を切開する工程、及び
切開したマスキングシートの切開部を、マスキングテープ等の接着手段で前記局所マスキング材に固定する工程、
を含むことを特徴とする車両のマスキング方法。
【請求項11】
前記マスキングシートとして、樹脂シート若しくは紙を用いて形成されているか、又はこれらに固定用のテープ材を予め貼付してなる塗装用マスキングシートが使用される請求項9又は10の何れか一項に記載の車両のマスキング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−341186(P2006−341186A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168855(P2005−168855)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(594057314)翼システム株式会社 (22)
【Fターム(参考)】