説明

塗装用刷毛

【課題】 特に強い腰を長期にわたって維持できる、耐久性を備えた塗装用刷毛を提供することである。
【解決手段】 刷毛部2は、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる直毛55〜65(重量%)、化繊からなるウェーブ毛10〜20(重量%)、および豚毛5〜30(重量%)を含み、少なくとも上記豚毛を他の毛よりも短くし、上記刷毛部2は、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる直毛と豚毛とで刷毛の腰を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然塗料など、被塗装面に擦り込むようにして塗布する塗料に適した塗装用刷毛に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、植物油や天然顔料などを主成分とした自然塗料は、被塗装面の木目に擦り込むようにして塗布するのが一般的である。このように、被塗装面に塗料を擦り込むようにして塗布するためには、腰の強い刷毛が必要である。
腰の強い毛としては豚毛が一般的で、自然塗料用としても豚毛の塗装用刷毛が一般に用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3124927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
豚毛は腰が強く、上記したように木目などに塗料を擦り込むようにして塗装する用途に適しているが、豚毛は、他の獣毛と同様に耐摩耗性に劣るため、豚毛の刷毛は、塗料を擦り込むようにして用いる刷毛としては耐久性に問題があった。
そこで、豚毛に比べて耐摩耗性に優れた化繊の毛を用いることが考えられるとともに、太い化繊の毛を用いれば、豚毛と同等の強い腰を実現することができる。ところが、化繊の毛は有機溶剤に弱いという問題がある。
【0005】
ただし、自然塗料は、化学物質をほとんど含まないため、それ自体には有機溶剤もそれほど多く含まれていないが、使用後に乾燥した塗料を洗浄するためにはアルコールやシンナーなどの有機溶剤を使用しなければならない。このときには、洗浄用の有機溶剤によって化繊が侵されることがあるが、化繊の毛は、有機溶剤に侵されると腰が弱くなってしまうという問題があった。
この発明の目的は、特に強い腰を長期にわたって維持できる耐久性を備えた塗装用刷毛を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる直毛55〜65(重量%)、化繊からなるウェーブ毛10〜20(重量%)及び豚毛5〜30(重量%)を含み、少なくとも上記豚毛は他の毛よりも短くしてなる刷毛部を備えたことを特徴とする。
なお、上記PETからなる直毛、化繊からなるウェーブ毛及び豚毛以外の毛を含んで全体を100(重量%)としてもよい。
第2の発明は、上記化繊からなるウェーブ毛がPBT(ポリブチレンテレフタレート)からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明の塗装用刷毛は、腰の強い豚毛と化繊のなかで比較的剛性の高いPETからなる直毛とによって刷毛の腰を維持するようにしている。
そして、最も腰が強い豚毛の長さを他の毛よりも短くしているので、塗料を擦り込むようにした場合にも、塗装時に豚毛の先端が被塗装面に強く押し付けられることがない。このように、豚毛は被塗装面と強く摩擦されないため摩耗しにくい。
また、洗浄用の有機溶剤によって化繊の直毛の腰が弱くなったとしても、豚毛の腰が維持されているので、刷毛としての必要な腰の強さは維持されることになる。
さらに、化繊からなるウェーブ毛とキューティクルを備えた豚毛とによって、塗料の含み性も保持している。
従って、この発明の塗装用刷毛は、含み性も、腰の強さも同時に満足しながら、耐久性も備えた刷毛である。
【0008】
第2の発明によれば、直毛を構成するPETよりも剛性の低いPBT繊維でウェーブ毛を構成することにより、刷毛全体のしなやかさを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1はこの発明の実施形態の塗装用刷毛の全体図である。
【図2】図2は実施形態の各毛の混合割合を示した表である。
【図3】図3は実施形態の化繊のウェーブ毛を示した図である。
【図4】図4は塗布時の刷毛部の状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜図3を用いてこの発明の実施形態を説明する。
この実施形態の塗装用刷毛は、図1に示すように、結束帯1で毛を束ねて刷毛部2を構成し、上記結束体1を取っ手3に固定したものである。この実施形態の取っ手3は、一端を二股にした木製の部材で、この二股状部分に上記結束帯1を挟み込んでから、針金4によって取っ手3に結束帯1を固定している。但し、取っ手3の材質や形状はこの実施形態に限定されないし、刷毛部2と取っ手3はどのような方法で固定してもかまわない。
【0011】
また、上記刷毛部2は、図2に示す3種類の毛を混合して構成している。
つまり、刷毛部2は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維からなる直毛と、化繊からなるウェーブ毛と、豚毛とを混合し、結束体1で束ねた毛束である。
また、上記ウェーブ毛は、図3に示すように波形を加えた毛である。
このウェーブ毛は、その製造過程において、歯車や型を押し付けて規則的な波形状を形成したものである。
【0012】
そして、上記ウェーブ毛を構成する化繊の材質は特に限定されない。例えば、上記直毛を構成するPETのほか、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などを用いることができるが、刷毛の用途に応じて、腰の強さや塗料の種類などを基準に、その種類を選ぶことができる。
なお、PBTはPETよりも剛性が低い。具体的には、PBT繊維の見かけヤング率は2250〜4600(N/mm)であり、PET繊維の見かけヤング率は10780〜19600(N/mm)である。
そのため、ウェーブ毛にPBTを用いた場合には、刷毛部2のしなやかさを出すことができるし、PETを用いた場合にはさらに腰を強くすることができる。
【0013】
また、この実施形態の塗装用刷毛では、図1、図4に示す上記結束帯1から露出した刷毛部2の全体の長さをL1とし、豚毛の長さL2を他の毛の長さよりも短くしている。具体的には、豚毛の長さL2を、刷毛部2の長さL1よりも数(mm)〜20(mm)程度短くしている。
なお、この刷毛部2として用いる豚毛以外の毛の長さは、長さL1よりも短いものが混在していてもよいが、刷毛部2全体としての長さは、上記L1を確保している。
【0014】
このように豚毛の長さL2を刷毛部2の長さL1よりも短くしたのは、図4に示す塗装時に、豚毛が被塗装面5に強く押し付けられて摩耗することがないようにするためである。
従って、豚毛の長さL2は、塗布時に刷毛部2がたわんだ状態で、豚毛の先端が被塗装面5に接触しないか、軽く接触する程度の長さに設定する。
【0015】
上記した3種類の毛を混合して刷毛部2を構成するが、各毛の混合量は図2の表に示す混合量の範囲で設定する。そして、図2の表に示す範囲ならば、どのような組み合わせでも構わない。
但し、この実施形態の刷毛は、上記3種類の毛のみで刷毛部2の100(重量%)を構成してもよいし、上記3種類の毛以外の毛を含んで100(重量%)となるようにしてもよい。
例えば、各毛の混合量を、上記表に示す下限値とすると、その合計は70(重量%)となるが、残りの30(重量%)は、豚毛以外の天然毛や、PET以外の化繊からなる直毛などで構成することができる。
このように、図2に示す3種類の毛で、刷毛部2の70(重量%)から100(重量%)を構成し、100(重量%)に足りない分は、別の毛を混合するようにしている。
【0016】
上記のように構成した刷毛部2を備えたこの実施形態の塗装用刷毛は、化繊の中で比較的剛性の高いPETからなる直毛と、豚毛とによって強い剛性を維持し、自然塗料を被塗装面5に擦り込むようにして塗布する作業に適している。
また、表面にキューティクルを有する豚毛と、化繊のウェーブ毛とによって、化繊の直毛だけで構成した刷毛と比べて多くの塗料を含むことができる。
従って、この実施形態の塗装用刷毛を用いれば、例えば、自然塗料などの塗装作業を効率よく行なうことができる。
【0017】
しかも、刷毛部2に含まれる豚毛は被塗装面5に塗料を擦り込むようにして塗布する塗装作業時に、被塗装面5に強く押し付けられることがないため摩耗しにくい。つまり、刷毛に強い腰を与える機能を備えた豚毛が、繰り返しの使用によって摩耗することがなく、刷毛の腰を長期にわたって維持することができる。
また、洗浄に用いる有機溶剤が、化繊の毛に影響を与え、PETからなる直毛の腰を多少弱くしたとしても、摩耗しない豚毛がそれを補って、刷毛全体の腰を維持できる。
【0018】
さらに、図2の表に示した3種類の毛だけで100(重量%)に満たない場合に混合する毛として、例えば馬毛などの天然毛を用いれば、毛の表面のキューティクルやウェーブが作る空間が塗料を保持し、含み性をよくすることができる。
そして、洗浄用の有機溶剤の影響で、上記化繊のウェーブ毛のウェーブが伸びてしまったとしても、耐溶剤性を有する上記天然毛が塗料の含み性を保持できるので、含み性も維持できる。
【0019】
なお、この実施形態の刷毛は、上記豚毛の長さL2を、刷毛部2の長さL1よりも短くして、刷毛部2の先端を被塗装面5に押し付けた状態で、豚毛が被塗装面5に強く押し付けられないようにしている点が特徴であるが、豚毛以外の毛はすべて同じ長さである必要はない。少なくとも豚毛が他の毛よりも短ければよいのであって、豚毛よりも短い毛が多少混ざっていてもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0020】
この発明の塗装用刷毛は、擦り込むようにして塗布する自然塗料の塗装に適したものである。
【符号の説明】
【0021】
2 刷毛部
5 被塗装面
L1 刷毛部の長さ
L2 豚毛の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PET(ポリエチレンテレフタレート)からなる直毛55〜65(重量%)、化繊からなるウェーブ毛10〜20(重量%)及び豚毛5〜30(重量%)を含み、少なくとも上記豚毛は他の毛よりも短くしてなる刷毛部を備えた塗装用刷毛。
【請求項2】
上記化繊からなるウェーブ毛はPBT(ポリブチレンテレフタレート)からなる請求項1に記載の塗装用刷毛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−85757(P2013−85757A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229882(P2011−229882)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000206934)株式会社マルテー大塚 (26)
【Fターム(参考)】