説明

塗装装置の塗料ミスト回収装置

【課題】回収池に沈殿した塗料分からなる汚泥を廃棄する廃棄作業を行う時期のタイミングが非常に難しい課題や、溜まった汚泥から腐敗臭の発生等の課題があった。
【解決手段】空調機と、塗装室と、塗料ミスト捕集部と、集水部と、集水部から排水処理施設へ通ずる排水管とを有する塗装ブースの塗料ミスト回収装置であり、
塗料ミスト捕集部に、供給される水による管内水圧によって外表面に水滴による水膜を形成することが可能な大きさの小孔を管壁に多数設け、かつ管の一端部を閉鎖したエリミネーター管を多数設け、塗料ミストを含む気体を、多数のエリミネーター管に送風することによってエリミネーター管の外表面に形成された水膜に塗料ミストが接触して捕集され、エリミネーター管の外表面から落下させて集水部に集め、集水部から排水管を通して排水処理施設へ排水させる塗装装置の塗料ミスト回収装置による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の製造において製品の塗装工程に使用される塗装室、詳細には塗装装置の塗料ミスト回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の製造において製品の塗装工程に使用される塗装装置の塗装室は、常にクリーンな環境を保持するために、塗装に使用されるブース内に漂う塗料ミストを常に回収する塗料ミスト回収装置を有している。
【0003】
例えば、従来技術1として図7に示されるような塗装装置の塗料ミスト回収装置が知られており、このような従来の塗装装置の塗料ミスト回収装置は、回収池を有しており、回収池から循環する循環水と、塗料ミストを含んだ空気を気液接触部で接触させて流れる循環水に塗料ミストを触れさせて捕集する装置である。
【0004】
図7に基づいて従来技術1である塗装装置の塗料ミスト回収装置について説明する。図示しない空調機によって屋外から吸引した空気を濾過し、その空気を温度調節及び湿度調節して塗装室の上部から動圧室、静圧室を通過して塗装室内部へ供給する。塗装室101内に供給された空気は、ブース内で塗装対象であるボデー(被塗装物である車体)に付着しなかった塗料ミスト(スプレーミスト)と混じり合う。
【0005】
次に、塗料ミストと混じり合った空気は、塗装室101の下方に位置する下部タンクである捕集部102に送られ、流れる循環水と気液接触部で接触することにより空気中の塗料ミストは循環水に付着し流れ回収池103に流れていく。塗料ミストが流れる循環水によって捕集された空気は、屋外に排気される。
【0006】
回収池103において塗料ミストは沈殿され、濾過され、塗料分(汚泥)と水(汚水)に分離される。
【0007】
分離された水は循環水として、循環用ポンプ104によって再び捕集部102を流れる循環水となり気液接触部において塗料ミストと接触して捕集し、再び回収池103に流れ戻る。この循環を繰り返し、回収池103に一定量の沈殿する塗料分(汚泥)が溜まった状態のときに塗料分(汚泥)をバキューム車等105により廃棄処理していた。
【0008】
また、特開2002−273290号公報(従来技術2)には、 「簡単な構成で排気中の未塗着塗料ミストの捕集効率、回収効率を向上させた水溶性塗料の塗装室」の開示があり、その構成は「噴射ノズルから噴射される水溶性塗料によって被塗装物への塗装を行う塗装室と、前記塗装室に連通し、該塗装室からの排気を行う排気路と、前記排気路中に配置された1個または複数個の一端が閉止されている筒型フィルターを有し、排気を通過させて該排気中の未塗着塗料ミストの捕集を行う捕集手段であって、前記筒型フィルターは、略鉛直方向に中心軸が配置され、その開放端で前記排気路内に固定されている捕集手段と、前記筒型フィルターの筒部上部の外側および/または内側に配置され、該フィルターの筒部へ散水することで前記筒型フィルターを濡れた状態に維持するフィルター洗浄手段と、を設けていることを特徴とする筒型ミスト補集フィルターを備えた水溶性塗料の塗装室」である。
【0009】
更に、特開平07−299399号公報(従来技術3)には、「ウォーターカーテンで捕集されなかった塗料ミストを確実に捕集できるとともに、そのための捕集手段の保守管理が容易であるウォーターカーテン式塗装室装置」に関し、「多数の貫通部42を有する気液接触板40が、ウォーターカーテン20の下方で排気路30を横断するように設けられ、この気液接触板40の一端が、ウォーターカーテン20からの水の落下位置に配置されている。排気路が、気液接触板40から垂直上方に延びる空洞状の内部排気路30と、内部排気路30とは分離して設けられ内部排気路30の上端側方に連通する外部排気路34、35、36とからなる。内部排気路30の上部には、その内側面に気流が当たる笠状の邪魔板70を備え、内部排気路30の側壁には、壁面に沿って水を膜状に落下させる排気路用ウォーターカーテン80を備えている」構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−273290号公報(従来技術2)
【特許文献2】特開平07−299399号公報(従来技術3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら従来技術1乃至2では、回収池や貯留部に沈殿して溜まった塗料分からなる汚泥を一定の頻度で廃棄処理する必要があるが、そのためには一時的にその塗装室の使用を停止したりする必要があるため、製造計画などとの関係で、その廃棄作業を行う時期のタイミングが非常に難しいとともに、廃棄作業が作業員にとって困難な作業である課題があった。
【0012】
そして、汚泥の廃棄処理の時期が遅くなりすぎると、溜まった汚泥の量が多くなりすぎるとともに汚泥の腐敗による腐敗臭の発生等の課題があった。
【0013】
更に、排水処理設備に一度に大量の汚泥が送られるため、配水設備に急激な負荷が掛かり、設備に故障が起こる可能性があった。
【0014】
更に又、回収池で汚泥となる塗料ミストを沈殿させ分離した水を循環水として循環させるため、循環用ポンプの設置コスト及びその運転駆動コストが掛かる課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、一定の温度、一定の湿度を有する気体を塗装室へ供給する空調機と、車体等の被塗装物を塗装する塗装空間である塗装室と、塗装室の下方に設けられる塗料ミスト捕集部と、塗料ミスト捕集部の下方に設けられる集水部と、集水部から排水処理施設へ通ずる排水管とを有する塗装装置の塗料ミスト回収装置であり、
塗料ミスト捕集部に、供給される水による管内水圧によって外表面に水滴による水膜を形成することが可能な大きさの小孔を管壁に多数設けるとともに管の一端部を閉鎖したエリミネーター管を多数設け、
塗装室から送られてくる塗料ミストを含む気体を、多数のエリミネーター管に送風することによってエリミネーター管の外表面に形成された水膜に塗料ミストが接触して捕集され、エリミネーター管の外表面から落下させて集水部に集め、集水部から排水管を通して排水処理施設へ排水させることを特徴とする塗装装置の塗料ミスト回収装置を提案する。
【0016】
また、エリミネーター管が、円筒管からなり、管壁に形成される小孔が視認不能の小さい孔径からなる小孔であるエリミネーター管である0015欄に記載の塗装装置の塗料ミスト回収装置を提案する。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、従来技術と異なり回収池が無いため、塗料ミストからなる汚泥の廃棄作業を行う必要がなくなった。したがって作業が困難であった廃棄作業が無くなる効果があるとともに、廃棄作業を行う時期の設定作業を行う必要がなくなり作業者の作業を低減させることができた。
【0018】
また、汚泥を溜める回収池がなくなったため汚泥の蓄積による腐敗臭の発生が無くなった。
【0019】
更に、排水処理施設には、常時ほぼ同量の水と塗料ミストが流されるため、排水処理施設の処理負荷が変動せず安定した処理を行うことができるようになった。
【0020】
更に又、従来必要であった循環用ポンプを含む循環装置も必要で無くなったため、循環用ポンプの設置と駆動に掛かるコストが低減された。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態である塗装装置の塗料ミスト回収装置を示す説明図
【図2】塗料ミスト捕集部に設けられるエリミネーター管の列を示す拡大正面説明図
【図3】同じくエリミネーター管の拡大側面部分説明図
【図4】図2のAA線一部横断面説明図
【図5】この発明のエリミネーター管の中の水の流れを示す説明図
【図6】この発明のエリミネーター管に掛かる水圧と外表面に移行する水量の関係を示す表
【図7】従来技術1の塗装装置の塗料ミスト回収装置
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施の形態である塗装装置の塗料ミスト回収装置を示す説明図である図1、塗料ミスト捕集部に設けられるエリミネーター管の列数を示す拡大正面説明図である図2、同じく拡大側面説明図である図3、図2のAA線一部横断面説明図である図4、エリミネーター管の中の水の流れを示す説明図である図5に基づいて説明する。
【0023】
この発明の実施の形態である塗装装置の塗料ミスト回収装置は、塗装機10によって車体等の被塗装物Bを塗装する塗装空間である塗装室1と、塗装室1の下方に設けた塗料ミスト捕集部2と、塗料ミスト捕集部2に設けられる多数のエリミネーター管3と、多数のエリミネーター管3へ調整された適宜の水圧水量で水を送り込むことが可能な給水管4と、塗料ミスト捕集部2の下方に設けられる集水部5と、集水部5から排水処理施設(図示せず)へ連通している排水管6と、塗料ミスト捕集部2の気体を排気する排気装置7とを有する。
【0024】
塗料ミスト捕集部2は、塗装室1の下方に設けられる空間であり、その上面の正面視中央に設けられる連通孔11で塗装室1に連通している。塗料ミスト捕集部2には、連通孔11の下方に位置する中央空間20の正面視左右のそれぞれに多数の円筒状のエリミネーター管3が縦方向(鉛直方向)で設けられている。この実施形態では左右各々正面視で3列、側面視50本を塗料ミスト捕集部2の左右に設けており、3列は図4に示すように真ん中の列を左右の列から前後にずらしたジグザグ状に設けられている。
【0025】
各々のエリミネーター管3は、この実施形態ではポリプロピレン素材からなり管径20mm、長さ1000mmであり上端で給水管4と連通しており、下端は閉鎖されており、管壁に焼結材によって視認不能の小さい孔径からなる小孔を多数形成されている。この視認不能の小孔は、給水管4からの水量、水圧を調整することによって管外表面に水膜を形成できる大きさであればよい。この実施形態での小孔の径は、針の穴程度の大きさである。
【0026】
また、エリミネーター管3の素材は、ポリエチレン等の合成樹脂、ゴム樹脂などで形成してもよい。図5はエリミネーター管3の中の水の流れを示し、上端の給水管4からエリミネーター管3内に入った水は、下端が閉鎖されているため水圧が掛かり、管壁に形成された小孔から管外表面に少しずつ移動し管外表面に水膜を形成する。
【0027】
各々のエリミネーター管3は、その下端を集水部5であるドレンパン内に位置させている。集水部5に集まってくる塗料ミストを捕集した水は、常時排水管6を通して排水処理施設へ排水される。
【0028】
エリミネーター管3に掛かる水圧と管外表面に移行する水量を示す表を図6に示す。図6の表は、材質を再生ゴム、ポリエチレンで形成し、7.5m直管に使用水圧(0.05Mpa〜0.15MPa)を掛けた場合に、エリミネーター管3の管外壁へ漏れ出る水量(L/分)を示す。
【0029】
次に、この発明の実施の形態である塗装装置の塗料ミスト回収装置の作動について説明する。
【0030】
塗装室1へは、図示しない空調機により湿度と温度を調節した高湿度の空気が、塗装室1の上部から下方へ送風される。塗装室1内では、塗装機10によって車体等の被塗装物Bを塗装したときの未着塗料が塗料ミストとして浮遊しており、塗料ミストは塗装室1の上部から下方に流される気流と混合して連通孔11を通って塗料ミスト捕集部2の中央空間20に侵入する。
【0031】
塗料ミスト捕集部2の中央空間20は、下方が集水部であるドレンパン5によって閉鎖されているため、侵入してくる塗料ミストを含む気流は中央空間20から正面視左右に分かれ中央空間20の左右に多数立設されているエリミネーター管3に接触しながら排気装置7の排気ファン70により吸引され排気管71から外部に排気される。
【0032】
このとき、エリミネーター管3の表面は、給水管4から工場用水が通常の圧力で給水されており、エリミネーター管3の下端が閉鎖されているため管内に供給される水は管壁に形成されている多数の小孔から管外表面に移動し管外表面に水膜を形成する。
【0033】
塗料ミストを含む気流は、中央空間20から図4に示すように中央列が前後にずれた3列で1列各50本のエリミネーター管3に横からぶつかり左右の排気管71に向かう。このエリミネーター管3の外表面に形成された水膜と気流に含まれる塗料ミストが接触することで塗料ミストは水膜に捕集される。この捕集された塗料ミストを含む水膜は自重によりエリミネーター管3の外表面に沿って下方へ落ちていき下部に位置する集水部5であるドレンパンに入る。集水部5に集められた塗料ミストを含む水は、図示しないストレーナーを介して常時排水管6へ排水され排水処理施設へ送られ処理される。
【実施例1】
【0034】
次にこの発明の実施形態である塗装装置の塗料ミスト回収装置のエリミネーター管3の外表面から排出される水量について実施例1の場合を説明する。実施例1ではエリミネーター管3は、塗料ミスト捕集部2の中央空間20の左右各々に3列、50本が設けられ、各エリミネーター管3は、管径20mm、長さ1000mmであり上端で給水管4と接続し下端は閉鎖され、管壁に多数の小孔を設けている。
【0035】
この実施例1のエリミネーター管3の外表面にできる水膜を形成する水量、すなわちエリミネーター管3の外表面1m平方当たりの水量は、以下の計算の通りである。
図6における管内に入る水量9.0L/分の場合:
9.0L/分÷7.5=1.2L/m平方・分。
エリミネーター管の全数:50本×3列×2セット(左右)=360L/m平方・分
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明は、自動車等の製造において製品の塗装工程に使用される塗装室に利用される。
【符号の説明】
【0037】
1 塗装室
10 塗装機
11 連通孔
2 塗料ミスト捕集部
20 中央空間
3 エリミネーター管
4 給水管
5 集水部(ドレンパン)
6 排水管
7 排気装置
70 排気ファン
71 排気管
B 被塗装物(車体等)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の温度、一定の湿度を有する気体を塗装室へ供給する空調機と、車体等の被塗装物を塗装する塗装空間である塗装室と、塗装室の下方に設けられる塗料ミスト捕集部と、塗料ミスト捕集部の下方に設けられる集水部と、集水部から排水処理施設へ通ずる排水管とを有する塗装装置の塗料ミスト回収装置であり、
塗料ミスト捕集部に、供給される水による管内水圧によって外表面に水滴による水膜を形成することが可能な大きさの小孔を管壁に多数設けるとともに管の一端部を閉鎖したエリミネーター管を多数設け、
塗装室から送られてくる塗料ミストを含む気体を、多数のエリミネーター管に送風することによってエリミネーター管の外表面に形成された水膜に塗料ミストが接触して捕集され、エリミネーター管の外表面から落下させて集水部に集め、集水部から排水管を通して排水処理施設へ排水させることを特徴とする塗装装置の塗料ミスト回収装置。
【請求項2】
エリミネーター管が、円筒管からなり、管壁に形成される小孔が視認不能の小さい孔径からなる小孔であるエリミネーター管である請求項1に記載の塗装装置の塗料ミスト回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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