説明

塗装設備

【課題】塗装設備において一層の省エネルギーを図ることができる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】塗装設備に装備される給気手段、排気手段及び循環手段を、同一の時間t1で減速を開始し、時間t2で低速回転速度N2に速度制御する。
通常運転に戻すときには、時間t3で増速を開始し、時間t4で定格回転速度N1に戻す。
【効果】ファンの風量は回転速度に一次比例する。ポンプも同様である。同期して同一の増減速率で回転速度を変化させることで、風量や水量の変化率を合わせることができ、エアバランスの崩れを防止することができる。回転速度を下げることができれば、省エネルギーを図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装設備、特に自動車の製造ラインに適した塗装設備に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の製造ラインでの塗装法として、周囲から遮蔽された複数の塗装ブース内に搬送手段で車体を通過させ、この車体にスプレーガンにより塗装を施す方法が広く行われている。
この様な塗装ブース内で噴霧することにより、塗装ミストが外へ飛散することを防止できるという利点がある。塗装設備の構造は各種提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図4は従来の塗装設備の基本構成を説明する図であり、調和空気101が給気ファン102及び給気ダクト103により、塗装ブース104へ供給される。
用済みの空気(排気)は、排気ファン105及び排気ダクト106により、排出される。
給気ファン102はインバータ107により回転速度が制御される。また、複数台の排気ファン105は、各々インバータ108により回転速度が制御される。
【0004】
ところで、排気には、車体に付着しなかった塗装がミストの形態で含まれている。大気汚染防止の観点から、大気放出前に塗装ミストを除去する必要がある。 そこで、塗装設備には、各種の排気洗浄機構が設けられている(例えば、特許文献2(図4)参照。)。
【0005】
特許文献2を次図に基づいて説明する。
図5は従来の排気浄化機構の基本構造を説明する図であり、塗装ブース104は、車体111にガン112で塗装を施す塗装室113と、この塗装室113の下に設けられる排気浄化室114とに区分される。
【0006】
排気浄化室114の天井115はV字状に傾斜しており、中央に排気口116を有する。水槽117の水は、循環ポンプ118で汲み上げられ、天井115の上面に一定速度で噴射される。すると、水は傾斜を流下しながら旋回し、排気口116で渦になる。すなわち、塗装ミストを含む排気は、渦で洗われ、塗装ミストが水に混入することで除去される。浄化された排気が排気浄化室114から排出される。
【0007】
図4において、特許文献1の説明によれば、インバータ107と、複数個のインバータ108は、互いに独立して制御される。
しかしながら、インバータ107、108を独立して制御すると、ファンの回転速度の変更開始点からある時間が経過するまでは、過渡期となり、この過渡期に塗装ブース104内部での空気119の流れが乱れることが分かった。
【0008】
空気の流れが乱れると、遮蔽された空間のエアバランスが崩れ、結果、外部からゴミが塗装ブース104に侵入することがあり、これを防止するためにエアカーテンなどの追加設備を要していた。
【0009】
また、図5に示される塗装ミスト除去用水循環ポンプ118は、一定速度で連続的に運転されるため、循環ポンプ118の電力消費量は、大きくなり、省エネルギー対策が求められていた。
【0010】
更に、車体の製造ラインでは、定期的な食事休憩や短時間休憩、そして、不定期に発生するライン停止などの、無負荷時間帯が存在する。
従来方式によれば、短時間休憩の直前で給気手段や排気ファンの回転速度を落とし、短時間休憩明けに元の回転速度に戻すと、上述したように過渡期に複数の塗装ブース間のエアバランスが崩れ、塗装ミストが他の塗装ブース内に侵入してしまう。
【0011】
そこで、本発明では、稼働時間帯や無負荷時間帯の全時間帯で、給気ファン、排気ファン、更には循環ポンプを、総合的に制御して、塗装の品質の維持と省エネルギー化を両立させることを課題とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−253102公報
【特許文献2】特許第3568751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、塗装設備において一層の省エネルギーを図ることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、給気手段で塗装ブースへ空気を供給し、塗装ミストを含む排気を水で洗浄し、洗浄された排気を排気手段で排出する塗装設備において、
前記給気手段を駆動する給気用モータと、前記水を循環させる循環手段を駆動する循環水用モータと、前記排気手段を駆動する排気用モータは、全てを同期電動機とし、
前記給気用モータと前記循環水用モータと前記排気用モータを同期して同一の増減速率で速度制御する制御部を有することを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る発明では、給気用モータと循環水用モータと排気用モータは、電動機極数が同一であることを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る発明では、給気用モータと循環水用モータと排気用モータは、速度制御用のインバータを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明では、給気用モータと循環水用モータと排気用モータは、制御部により同期して同一の増減速率で速度制御する。
ファンの風量は回転速度に一次比例する。ポンプも同様である。同期して同一の増減速率で回転速度を変化させることで、風量や水量の変化率を合わせることができ、エアバランスの崩れを防止することができる。
【0018】
モータの軸動力は、回転速度の三乗に比例する。例えば、回転速度を1/2にすれば、軸動力は1/8になり、消費電力が大幅に下がる。
結果、短時間休憩であっても複数ファンとポンプを減速することができ、エネルギーの消費を抑えることができる。同様、食事休憩やライン停止にも複数ファンとポンプを減速することができ、エネルギーの消費を抑えることができる。
したがって、本発明によれば、塗装設備において一層の省エネルギーを図ることができる技術が提供される。
【0019】
請求項2に係る発明では、複数のモータの電動機極数を同じにした。回転速度は、周波数に比例し、電動機極数に反比例する。電動機極数が同じであれば定格回転速度が同じになる。例えば、インバータで複数のモータを一元制御させることができ、インバータの個数を減らすことができ、設備コストの低減が図れる。
【0020】
請求項3に係る発明では、給気用モータと循環水用モータと排気用モータは、速度制御用のインバータを備えている。
モータの速度制御には、汎用で安価なインバータが採用可能である。インバータの採用により、設備コストの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る塗装ブースの基本構成を説明する図である。
【図2】ファン及びポンプの制御に係るグラフである。
【図3】塗装設備の平面図である。
【図4】従来の塗装設備の基本構成を説明する図である。
【図5】従来の排気浄化機構の基本構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、塗装設備10は、塗装対象物である車体11に塗料を噴射するガン12を内蔵した塗装ブース13と、この塗装ブース13へ調和空気14を供給する給気手段15及び給気ダクト16と、塗装ブース13から用済みの空気を排出する排気ダクト17及び排気手段18と、塗装ブース13の下部に水を送り、この水で排気を浄化する排気浄化機構20とからなる。
【0024】
なお、車体11はコンベア等の搬送手段19により、図面表裏方向に搬送される。
調和空気14は、調和機で温度及び湿度が調和された空気を指す。
給気手段15や排気手段18は、遠心ファン、軸流ファンが好適であるが、種類はと問わない。
【0025】
排気浄化機構20は、水槽21の水を加圧し送水管28を介して塗装ブース13下部に送る循環手段22と、送られた水を旋回させる浄化室天井23と、この浄化室天井23に開けられた排気口24と、この排気口24を通って落下した水を一時的に蓄える貯水部25と、この貯水部25に溜めた水を水槽21へ戻すリターン路26とからなる。
【0026】
浄化室天井23に沿って流下した水は渦となって排気口24から落下する。この際、渦で排気中の塗料ミストを除去する。浄化された排気は開口調節板27の下を潜って排気ダクト17に至る。
【0027】
給気手段15は給気用モータ31で回され、排気手段18は排気用モータ32で回され、循環手段22は循環水用モータ33で回される。
これらのモータ31、32、33は、インバータ35でVVVF(可変電圧可変周波数)制御される。このインバータ35は制御部36で制御される。この制御部36にスイッチ手段37が付属され、このスイッチ手段37で、通常運転、第1低速運転(例えば短時間休憩)、第2低速運転(例えば食事休憩、ライン停止)などのモードに切り換えることができる。
【0028】
モータ31、32、33は、全て同期モータとする。
同期モータは、回転速度が電源周波数に完全に比例し、回転速度が安定していることを特長とする。
【0029】
一方、同期モータより安価で広く使用される誘導電動機は、同期速度より僅かに遅い速度で回転する。すなわち、不可避的にスリップが発生する。このスリップは、定格回転速度では、影響が小さいが、インバータにより回転速度を落とした場合には、影響が大きくなる。この影響により、複数のモータ間に速度差が発生する。この速度差により、塗装設備ではエアバランスが崩れ、ゴミの侵入が懸念される。
【0030】
この懸念は、同期電動機(同期モータ)を採用することで払拭が可能となる。ただし、同期モータを採用するだけでは不十分で、モータの制御が重要となる。この点について次に詳しく述べる。
【0031】
制御部32の作用を、次に説明する。
図2に示すように、給気手段、排気手段、循環手段が制御される。
すなわち、(a)に示すように、通常運転では、給気手段はN1の回転速度で回される。
【0032】
短時間休憩が必要なときには、作業員の手でスイッチ手段(図1、符号37)により第1低速運転に切替えられる。すると、制御部は、時間t1〜時間t2に(1分〜2分)掛けて、回転数が、N1の例えば75%に相当するN2まで減速する。
【0033】
短時間休憩から通常運転に戻すときには、作業員の手でスイッチ手段(図1、符号37)により通常運転に切替えられる。すると、制御部は、時間t3〜時間t4(1分〜2分)に掛けて、回転数が、N2からN1になるまで増速する。
【0034】
この際、制御部は、(b)に示すように、排気手段を、時間t1〜時間t2に掛けて、回転数N2まで減速する。同時に、(c)に示すように、循環手段を、時間t1〜時間t2に掛けて、回転数N2まで減速する。
【0035】
短時間休憩から通常運転に戻すときには、制御部は、(b)に示すように、排気手段を、時間t3〜時間t4に掛けて、回転数が、N2からN1になるまで増速する。同時に、(c)に示すように、循環手段を、時間t3〜時間t4に掛けて、回転数N1まで増速する。
【0036】
すなわち、(N2−N1)/(t2−t1)で定義される減速率は、給気手段、排気手段、循環手段の全てにおいて、同一とし、同時に減速を開始し、同時に減速が終了するように、タイミングを合わせて回転速度制御を行う。このことを、同期制御と呼ぶ。
(N1−N2)/(t4−t3)で定義される増速率についても同様である。
【0037】
図1において、給気手段15が減速制御されると、給気手段15による風量は回転速度に比例して減少する。同様に、排気手段18が減速制御されると、排気手段18による風量は回転速度に比例して減少し、循環手段22が減速制御されると、循環手段22による水量は回転速度に比例して減少する。
【0038】
風量や水量の減少率と減少タイミングが給気手段15、排気手段18、循環手段22で同期しているため、塗装ブース13でのエアバランスが乱れる心配はない。結果、ゴミが塗装ブース13に侵入する心配がない。
【0039】
加速制御についても同様に、同一の増速率で同一タイミングで実施することでエアバランスの乱れを未然に防止することができる。
図2において、食事休憩時は、時間t5で同期して減速を開始し、N1の例えば50%の回転速度であるN3まで下げる。食事休憩後は、時間t6で同期して増速を開始する。
【0040】
食事休憩では、車体への塗装作業は行わない。すなわち、図1において、ガン12から塗料の噴射は行われない。
循環手段22の回転速度を落としたことで、渦の形成が不十分になるが、排気に塗料ミストが混入しないので、排気を洗浄する必要はなくなる。
【0041】
また、循環手段22の回転速度を落とすと、浄化室天井23への給水量が減る。リターン路26からの排水は、それ程変化しないため、貯水部25での水面38が下がる。
すると、開口調節板27と水面38との開口部の距離Lが拡大する。すると、排気の流路面積が増加し、排気の流速が低下する。流路抵抗は流速の二乗に比例するため、給気手段15及び排気手段18の負荷が低下する。結果、給気手段15及び排気手段18の電力消費量が減少し、一層の省エネルギーが図れる。
【0042】
塗装設備10は、図3に示すように、複数(この例では6)の塗装ブース13a〜13fを、搬送手段19により搬送される車体11の搬送方向に連続的に配設したものである。塗装ブース13fの末端に乾燥炉40が接続され、車体11の塗膜面を乾燥させる。
【0043】
塗装ブース13a〜13fや、下塗処理された車体の中塗工程や、中塗された車体を半乾燥させるフラッシュオフ工程や、上塗工程からなる各工程間における相互間のエアバランスが重要になる。すなわち、各塗装ブース13a〜13f及び乾燥炉40側との相互間に圧力差が発生し、エアバランスが崩れると、塗装設備10の前後に塗料ミストが漏れて、浮遊することになる。特に、出口側で浮遊する塗料ミストは、車体11の塗装面に付着して塗装不良を引き起こす。
【0044】
本発明により、給気ダクト16a〜16fに設ける給気手段、排気ダクト17a〜17fに設ける排気手段18a〜18f及び塗装ブース13a〜13fに付属する循環水手段を同期して同一の増減速率で回転速度を変化させる。結果、風量や水量の変化率を合わせることができ、省エネルギー運転が可能となり、且つエアバランスの崩れを防止することができるので、塗装ブース13の前後に塗料ミストが漏れて、浮遊することはなくなり、浮遊する塗料ミストが、車体11の塗装面に付着することを防止できる。
【0045】
なお、給気用モータ31と排気用モータ32と循環水用モータ33の定格回転速度を同一にすることが望まれる。回転速度は周波数に比例し、電動機極数に比例するため、電動機極数を統一することで容易に達成できる。
インバータ35で複数のモータ31、32、33を一括制御させることができ、インバータの個数を減らすことができ、設備コストの低減が図れる。
【0046】
また、給気用モータ31と排気用モータ32と循環水用モータ33に各々インバータを付設しても良い。この場合でも、3個のインバータを制御部36で一括制御すればよい。
【0047】
尚、塗装対象物は、車体の他、家電等の箱物、減速機ケース等のケース類であってもよく、種類は限定されない。
また、実施例では、制御部への指令はスイッチ手段で行ったが、食事休憩など開始時間、終了時間が決まっている休憩(定時休憩)については、タイマーにより自動的に制御部へ指令を送るようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の塗装設備は、車体の塗装に好適である。
【符号の説明】
【0049】
10…塗装設備、11…塗装対象物(車体)、12…ガン、13…塗装ブース、14…調和空気、15…給気手段、18…排気手段、22…循環手段、31…給気用モータ、32…排気用モータ、33…循環水用モータ、35…インバータ、36…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給気手段で塗装ブースへ空気を供給し、塗装ミストを含む排気を水で洗浄し、洗浄された排気を排気手段で排出する塗装設備において、
前記給気手段を駆動する給気用モータと、前記水を循環させる循環手段を駆動する循環水用モータと、前記排気手段を駆動する排気用モータは、全てを同期電動機とし、
前記給気用モータと前記循環水用モータと前記排気用モータを、同期して同一の増減速率で速度制御する制御部を有することを特徴とする塗装設備。
【請求項2】
前記給気用モータと前記循環水用モータと前記排気用モータは、電動機極数が同一であることを特徴とする請求項1記載の塗装設備。
【請求項3】
前記給気用モータと前記循環水用モータと前記排気用モータは、前記速度制御用のインバータを備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の塗装設備。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate