説明

塗装金属板及び建築パネル

【課題】暴露初期における耐汚染性と加工性とに優れる塗装金属板を提供する。
【解決手段】金属基板の表面に親水性塗膜を有する塗装金属板に関する。親水性塗膜はハイドロタルサイト類とバインダとを含有して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装材や屋根材などの建材として用いられる塗装金属板、及びこの塗装金属板から形成されている外皮を備える建築パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、耐汚染性の向上のために親水性塗膜を表面に有する塗装金属板が提案されている。親水性塗膜としては、有機樹脂塗料にアルキルシリケートなどの親水性樹脂を添加し、塗膜の硬化過程で親水性樹脂を表層に配向させることで親水性を向上させたもの(例えば、特許文献1参照)や、光触媒機能により親水性を付与したもの(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3482569号公報
【特許文献2】特許第3759651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アルキルシリケートなどの親水性樹脂を添加することにより親水性を向上させた親水性塗膜は、環境への暴露初期には親水性が低く、徐々に親水性樹脂の加水分解が進行することにより親水性が向上するものであるため、暴露初期には汚れが付着しやすいという問題があった。また、光触媒機能を有する親水性塗膜は、一般に可撓性が乏しいため、親水性塗膜の形成後に曲げ加工などを行うと剥離やひび割れなどが生じるおそれがあり、プレコート鋼板などの塗装金属板には不適当であった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、暴露初期における耐汚染性と加工性とに優れる塗装金属板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る塗装金属板は、金属基板の表面に親水性塗膜を有する塗装金属板であって、親水性塗膜はハイドロタルサイト類とバインダとを含有して形成されて成ることを特徴とするものである。
【0007】
第2の発明に係る塗装金属板は、第1の発明において、前記ハイドロタルサイト類として、脱水処理がされていないハイドロタルサイト類を用いて成ることを特徴とするものである。
【0008】
第3の発明に係る塗装金属板は、第1又は第2の発明において、親水性塗膜が厚み0.03〜1μmに形成されて成ることを特徴とするものである。
【0009】
第4の発明に係る塗装金属板は、第1乃至第3のいずれか一の発明において、前記バインダが無機バインダであることを特徴とするものである。
【0010】
第5の発明に係る建築パネルは、芯材と、この芯材を覆う外皮とを備え、前記外皮が前記塗装金属板から形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、親水性塗膜がハイドロタルサイト類とバインダとを含有しているため、環境への暴露初期から優れた耐汚染性を示し、且つ曲げ加工等を行っても剥離が生じず、優れた加工性を示すものである。
【0012】
請求項2の発明では、親水性塗膜の親水性が向上し、優れた耐汚染性が得られるものである。
【0013】
請求項3の発明では、優れた耐汚染性や加工性を確保することができるものである。
【0014】
請求項4の発明では、親水性塗膜の親水性が向上し、優れた耐汚染性が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の一例による建築パネルを示す断面図である。
【図2】図1に示される建築パネルの斜視図である。
【図3】図1に示される建築パネルが構造躯体に設置されている様子を示す斜視図である。
【図4】実施例4及び比較例1、2についての耐汚染性の試験の結果を示す写真である。
【図5】実施例13による建築パネルの屋外曝露試験の結果を示す図であり、(a)は屋外曝露試験を開始してから5か月経過した時点、(b)は屋外曝露試験を開始してから1年5か月経過した時点、(c)は屋外曝露試験を開始してから1年11か月経過した時点での、建築パネルの外観をそれぞれ撮影した写真である。
【図6】実施例14による建築パネルの屋外曝露試験の結果を示す図であり、(a)は屋外曝露試験を開始してから5か月経過した時点、(b)は屋外曝露試験を開始してから1年5か月経過した時点、(c)は屋外曝露試験を開始してから1年11か月経過した時点での、建築パネルの外観をそれぞれ撮影した写真である。
【図7】比較例5による建築パネルの屋外曝露試験の結果を示す図であり、(a)は屋外曝露試験を開始してから5か月経過した時点、(b)は屋外曝露試験を開始してから1年5か月経過した時点、(c)は屋外曝露試験を開始してから1年11か月経過した時点での、建築パネルの外観をそれぞれ撮影した写真である。
【図8】比較例6による建築パネルの屋外曝露試験の結果を示す図であり、(a)は屋外曝露試験を開始してから5か月経過した時点、(b)は屋外曝露試験を開始してから1年5か月経過した時点、(c)は屋外曝露試験を開始してから1年11か月経過した時点での、建築パネルの外観をそれぞれ撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
本発明の塗装金属板は、金属基板の表面に親水性塗膜を設けて形成されている。金属基板は従来から外壁や屋根材などの建材を形成するために用いられているものであって、鋼板、鉄板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板、アルミニウム板などの各種金属板を用いることができる。また、クロメート処理などの塗装前処理を施したものであっても良い。
【0018】
親水性塗膜は、ハイドロタルサイト類とバインダとを含有して形成されるものである。ハイドロタルサイト類は下記一般式(1)で示されるものである。
[M2+1−X3+(OH)X+[An−X/n・mHO]X− …(1)
一般式(1)において、M2+は、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+などの2価の金属イオンを示す。M3+は、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+などの3価の金属イオンを示す。An−は、OH、F、Cl、Br、NO2−、CO2−、SO2−、Fe(CN)3−、CHCOO、シュウ酸イオン、サリチル酸イオンなどのn価のアニオンを示す。また、Xは0より大きく0.33以下の値を示す。ハイドロタルサイト類の中でも安定した物質として、化学名がマグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート(MgAl(OH)16CO・4HO)があり、これを用いるのが好ましい。また、ハイドロタルサイト類としては、脱水処理がされていないもの、すなわち式(1)に示す構造を有し、式中のm≠0であるハイドロタルサイト類を用いるのが好ましく、これにより、脱水処理がされているハイドロタルサイト類を用いる場合よりも親水性塗膜の親水性を向上させることができる。
【0019】
バインダとしては、シリカ(珪酸)などの無機バインダ及びアクリル系樹脂などの有機バインダを用いることができるが、親水性の向上のために、無機バインダを用いるのが好ましく、その中でも加水分解性のある珪素化合物を用いるのがさらに好ましい。
【0020】
親水性塗膜は、ハイドロタルサイト類とバインダを配合したコーティング剤を塗布して乾燥・硬化することにより形成することができる。ここで、珪素化合物をバインダとして用いる場合は、加水分解性のある珪素化合物やコロイダルシリカなどをコーティング剤に配合することが好ましく、これにより、ハイドロタルサイト類とバインダとが結合しやすくなって、コーティング剤の長期安定性を高めることができる。また、ハイドロタルサイト類は酸性下にて水に溶解させた後、バインダーと混合することができる。また、コーティング剤を調製する際の溶媒としては、水やアルコール類、或いはこれらの混合液を用いることができるが、希釈溶媒として水のみを用いると加水分解する可能性もあり、さらに乾燥に時間がかかることから、コーティング剤の安定性及び乾燥性を高めるにはアルコール類、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの各種アルコールの中から選ばれた1種または2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0021】
ハイドロタルサイト類の具体例としては、パウダー状の製品として平均粒径が3μm程度のDHT−6(協和化学工業社製)、平均粒径20〜300μm程度で多結晶構造の粒子状のキョーワード100、キョーワード200、キョーワード300、キョーワード400、キョーワード500PL、キョーワード500SH、キョーワード500SN、キョーワード1000、キョーワード2000(いずれも協和化学工業社製)、平均粒径20〜300μm程度で非晶質構造のキョーワード600、キョーワード700などがある。これらの中でも、脱水処理をしていないキョーワード200やキョーワード300を用いるのが好ましい。このようなハイドロタルサイトAはアニオン置換性を有し、炭酸基が他のアニオンによって置換される。ハイドロタルサイト類とバインダとの混合は中性若しくは酸性、好ましくは酸性下において行われる。アルカリ性のもとに混合が行われると、ハイドロタルサイト類の特性に起因して凝集が起こってコーティング剤としての取り扱いが困難になる。酸性下に制御するにはバインダーを含む酸性を呈する液体を用いることもでき、或いは、酸性を維持するために混合時に別途、酸を添加してもよい。
【0022】
また、無機バインダとして好ましい加水分解性のある珪素化合物としては、具体的には、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシランのようなアルキルジアルコキシシラン類、トリメトキシシラン、トリエトキシシランのようなトリアルコキシシラン類、ジメチルエトキシシランのようなジアルキルアルコキシシラン類を加水分解したものなどを例示することができ、例えば、株式会社エヌ・ティー・エス社製のものを用いることができる。また、無機バインダとしてコロイダルシリカを含むものとしては、プライマーA(コルコート社製)がある。プライマーAはコロイダルシリカを含有し、溶媒としてイソプロピルアルコールを主として含むシリカ分散液である。
【0023】
塗装金属板においては、親水性塗膜を金属基板の表面に直接形成しても良いが、金属基板と親水性塗膜の間に下塗りや中塗りなどの中間塗膜を形成しても良い。この場合、親水性塗膜は中間塗膜を介して金属基板の表面に上塗りとして形成されるものであって、防汚機能を奏し、中間塗膜は金属基板の着色や防錆などの保護機能を奏するものである。この中間塗膜は従来から用いられている塗料を塗布して乾燥・硬化することにより形成することができ、例えば、エポキシ樹脂系塗料、ポリエステル系塗料、フッ素樹脂系塗料などを用いることができる。中間塗膜は2〜50μmに形成することができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
また、親水性塗膜は、上記コーティング剤を金属基板の表面又は中間塗膜の表面に塗布した後、乾燥・硬化することにより形成することができる。親水性塗膜の厚みは0.03〜1μmにするのが好ましい。親水性塗膜の厚みが0.03μmよりも小さいと、親水性塗膜の水接触角が大きくなりすぎて耐汚染性が不十分となるおそれがあり、親水性塗膜の厚みが1μmより大きくなると、金属基板や中間塗膜との密着性が充分に得られず、曲げ加工の際に剥離やひび割れが生じて加工性が低下するおそれがある。親水性塗膜の厚みは0.07〜1μmの範囲であることが更に好ましい。コーティング剤の塗布はスプレーやロールコータ、バーコータなどの任意の方法を採用することができ、塗布量(wet量)は例えば3〜60mlとすることができる。また、コーティング剤の乾燥・硬化(焼付け)の条件は例えば70〜150℃で20〜90秒とすることができる。
【0025】
そして、塗装金属板では、親水性塗膜がハイドロタルサイト類とバインダとを含有しているため、環境への暴露初期から優れた耐汚染性を示し、且つ曲げ加工等を行っても剥離が生じず、優れた加工性を示すものである。
【0026】
上記塗装金属板は外装材や屋根材などの建材として用いられ得る。更に、芯材3と、この芯材3を覆う外皮2とを備える建築パネル1における外皮2が、上記塗装金属板から形成されることも好ましい。
【0027】
図1,2は、塗装金属板から形成される外皮2を備える建築パネル1の一例を示す。この建築パネル1は、いわゆるサンドイッチパネルであり、第一の外皮201、第二の外皮202、並びにこの第一の外皮201及び第二の外皮202で覆われている芯材3を備える。第一の外皮201及び第二の外皮202は互いに対向しており、この第一の外皮201と第二の外皮202との間に芯材3が介在している。
【0028】
外皮2(第一の外皮201及び第二の外皮202)は、例えば0.27〜1.6mmの厚みに形成される。第一の外皮201及び第二の外皮202は、上記塗装金属板にロール加工などによる折り曲げ加工が施されることで形成される。塗装金属板は上記のとおり加工性が高いため、折り曲げ加工が施されても親水性塗膜の剥離やひび割れが生じにくい。このため、第一の外皮201及び第二の外皮202には、親水性塗膜の剥離やひび割れによる不良が生じにくい。
【0029】
芯材3は、例えば20〜120mmの厚みに形成される。芯材3の少なくとも一部は断熱材であることが好ましい。この場合、建築パネル1に高い断熱性能が付与される。断熱材は、例えばポリイソシアヌレートフォームやポリスチレンフォームやポリウレタンフォームなどの樹脂発泡体から形成される。樹脂発泡体は、公知の方法で形成され、例えばポリイソシアヌレートフォームは、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネートと、エチレングリコールなどのポリオールと、2−エチルヘキサン酸カリウムなどの触媒と、n−ペンタンや水などの発泡剤とを含有する成形材料が加熱されることで形成される。断熱材はロックウールやグラスウールなどの無機質繊維材から形成されてもよい。更に芯材3は、断熱材と、珪酸カルシウムなどから形成される無機質硬質材とを備えてもよい。
【0030】
建築パネル1の厚み方向と直交する方向の第一の端部と、この第一の端部とは反対側にある第二の端部とは、互いに嵌合し合う形状に形成されている。本実施形態では、第一の端部に嵌合凸部401が、第二の端部に嵌合凹部402が、それぞれ形成され、嵌合凸部401と嵌合凹部402とが互いに嵌合し合う形状を有する。嵌合凸部401は建築パネル1の厚み方向と直交する方向に突出する形状を有し、嵌合凹部402は建築パネル1の厚み方向と直交する方向に凹んだ形状を有する。嵌合凹部402内には、その底面上に、シーリング材8が取り付けられている。
【0031】
建築パネル1の第一の端部には更に遮蔽片601が形成されている。遮蔽片601は建築パネル1の厚み方向と直交する方向に突出する形状を有する。遮蔽片601は、嵌合凸部401に対して、第一の表面側に形成されている。第一の表面とは、建築パネル1の厚み方向の、第一の外皮201が配置されている側の表面である。
【0032】
建築パネル1の第二の端部には、更に凹段部602が形成されている。凹段部602は建築パネル1の第一の表面に形成され、建築パネル1の厚み方向の外方側、並びに建築パネル1の厚み方向と直交する方向の第二の端部側に向けて開放されている形状を有する。更に凹段部602内には、建築パネル1の厚み方向に凹んでいる凹部7が形成されている。
【0033】
建築パネル1は、建物の外壁材、屋根材等の外装材として好ましく使用される。この場合、複数の建築パネル1が建物の構造躯体11(胴縁、梁等)に固定されて設置される。
【0034】
図3は、建築パネル1が外壁材として使用される場合の、建築パネル1を備える建物の外壁構造の一例を示す。この例では、柱111、胴縁112などによって構造躯体11が構成され、この構造躯体11にはその屋内側に配置される内装材が取り付けられている。この構造躯体11にはその屋外側に、外壁材として複数の建築パネル1が設置されている。建築パネル1は構造躯体11の胴縁112に固定される。
【0035】
例えば建築パネル1の凹部7にビス等の固定具9が打ち込まれ、この固定具9が更に構造躯体11の胴縁112に打ち込まれることで、建築パネル1が構造躯体11に固定される。構造躯体11に複数の建築パネル1が設置されると、建築パネル1の第一の端部と、これに隣接する別の建築パネル1の第二の端部とが突き合わされ、或いは互いに隣接する建築パネル1の、第一の端部及び第二の端部以外の端部同士が突き合わされる。建築パネル1の第一の端部と、これに隣接する別の建築パネル1の第二の端部とが突き合わされると、嵌合凸部401と嵌合凹部402が嵌合する。嵌合凹部402内にシーリング材8が取り付けられている場合には、嵌合凸部401と嵌合凹部402が嵌合すると、シーリング材8によって嵌合凸部401と嵌合凹部402との間の水密状態が確保される。更に、このように嵌合凸部401と嵌合凹部402が嵌合すると、凹段部602の内側に遮蔽片601が配置されると共に、この遮蔽片601によって凹部7が外部から遮蔽される。このため、建築パネル1を固定しているビス等の固定具9が遮蔽片601によって外部から遮蔽される。更に、建築パネル1の第一の端部と、これに隣接する別の建築パネル1の第二の端部との継ぎ目には、凹段部602と遮蔽片601とによって囲まれる目地溝10が形成されてもよい。
【0036】
このような建築パネル1では、上記のとおり外皮2における親水性塗膜の剥離やひび割れによる不良が生じにくい。更に、外皮2の耐汚染性が高いため、建築パネル1が構造躯体11に設置された当初から建築パネル1の耐汚染性が高くなり、建築パネル1の良好な外観が維持される。
【実施例】
【0037】
以下本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0038】
(実施例1〜6及び9〜12、比較例1〜4)
板厚0.50mmの55%Al−Zn合金めっき鋼板(日鉄住金鋼板(株)製)に塗装前処理としてクロメート処理を施した後、下塗りとしてストロンチウムクロメートを含有したポリエステル系白色塗料(日本ファインコーティングス社製のP667S)またはストロンチウムクロメートを含有したフッ素系白色塗料(BASFコーティングスジャパン社製のHP301)を4μm塗布し、200℃で60秒焼付処理した。
【0039】
この後、中塗りとしてシリケートを含まないポリエステル系白色塗料(BASFコーティングスジャパン社製のMX110F)、シリケートを含まないフッ素樹脂系白色塗料(BASFコーティングスジャパン社製のNo.8800)、シリケートを含むポリエステル系白色塗料(BASFコーティングスジャパン社製のHD1000SK)、シリケートを含むフッ素樹脂系白色塗料(BASFコーティングスジャパン社製のNo.8900E)のいずれかを20μm塗布し、ポリエステル系のものについては230℃で60秒、フッ素樹脂系のものについては250℃で60秒焼付処理した。
【0040】
この後、中塗り塗膜上に上塗りとして親水性塗膜用のコーティング剤を塗布した。このコーティング剤は、水とアルコールの混合溶媒(混合体積比70:30)に平均粒経200nmのハイドロタルサイト類と、バインダとして株式会社エヌ・ティー・エス社製の加水分解性プライマー(珪素化合物;トリエトキシシラン加水分解物)とを配合して調製されるものであって、コーティング剤の組成はハイドロタルサイト類が5重量%、加水分解性プライマー(珪素化合物)が16重量%、残部が水とアルコールの混合溶媒となっている。
【0041】
ハイドロタルサイト類はマグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート(MgAl(OH)16CO・4HO)であり、実施例1〜6及び10〜12においては、脱水処理が有るもの(協和化学工業社製のキョーワード200)を、実施例9においては、脱水処理が無いもの(協和化学工業社製のキョーワード1000)をそれぞれ用いた。このコーティング剤をwet量で3〜60mlで塗布し、70〜150℃で20〜90秒乾燥焼付け処理し、0.03〜2μmの薄い親水性塗膜を形成させた。尚、上記のwet量や乾燥焼付けの条件は親水性塗膜の膜厚に応じて調整した。
【0042】
(実施例7)
実施例3において、バインダとして、加水分解性のある珪素化合物の代わりに、コロイダルシリカ(コルコート社製プライマーA)を用いた。この場合、コーティング剤の組成はハイドロタルサイト類が5重量%、シリカが16重量%、残部が水とアルコールの混合溶媒となっている。また、このコーティング剤をwet量で6mlで塗布し、110℃で55秒乾燥焼付け処理し、0.2μmの薄い親水性塗膜を形成させた。
【0043】
(実施例8)
実施例3において、バインダとして、加水分解性のある珪素化合物の代わりに、アクリル樹脂を用いた。この場合、コーティング剤の組成はハイドロタルサイト類が5重量%、アクリル樹脂が16重量%、残部が水とアルコールの混合溶媒となっている。また、このコーティング剤をwet量で6mlで塗布し、110℃で55秒乾燥焼付け処理し、0.2μmの薄い親水性塗膜を形成させた。
【0044】
(評価試験)
上記のようにして形成した塗装金属板について、加工性と耐汚染性を評価した。加工性の試験方法は、20℃の雰囲気下で金属塗装板にTベンド曲げ加工を施し評価した。上塗り(親水性塗膜用のコーティング剤)が未塗装の状態で塗膜にクラックが発生しない最小のT数と、上塗りを塗装した状態で塗膜にクラックが発生しない最小のT数とを比較し、加工性が変化しないものを○、1ランク加工性が悪化する場合を△、2ランク以上加工性が悪化する場合を×とした。
【0045】
耐汚染性の試験方法は、雨筋汚染付着試験暴露架台(降雨時に模擬屋根面(樹脂波板)から試験サンプルに雨水が滴下する構造)にて実暴露試験を実施し、目視による評価と水接触角計((株)マツボー社製接触角計PG−X)による水接触角を測定した。耐汚染性の評価基準は、水接触角が70度以上のものを×、70度未満50度以上を△、50度未満40度以上を○、40度未満を◎とした。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例と比較例とを対比すると、実施例は比較例と同等の加工性を有しながら、水接触角が小さくなって耐汚染性が向上している。また、耐汚染性を向上させるためには、親水性塗膜の膜厚が0.2μm以上であることが好ましい。さらに、親水性塗膜の膜厚が2μmでは加工性が他の実施例に比べてやや低下するが、実用上問題のないレベルであった。また、脱水処理を施したハイドロタルサイト類を用いた場合(実施例9)よりも、脱水処理を施していないハイドロタルサイト類を用いた場合(実施例3)の方が耐汚染性が向上した。また、有機バインダを用いた場合(実施例8)よりも、無機バインダを用いた場合(実施例3、7)の方が耐汚染性が向上し、さらに、コロイダルシリカを用いた場合(実施例7)よりも、加水分解性のある珪素化合物を用いた場合(実施例3)の方が耐汚染性が向上した。
【0048】
図4に実施例4と比較例1、2との耐汚染性試験後の試料の写真を示す。実施例4では暴露初期から耐汚染性を発揮したが、比較例1、2では暴露初期の耐汚染性が低かった。
【0049】
(実施例13)
実施例4で得られた塗装金属板から形成された第一の外皮及び第二の外皮と、これらの外皮によって覆われている芯材とを備える建築パネルを作製した。この建築パネルの構造は図1,2に示す通りである。第一の外皮及び第二の外皮を形成するにあたっては、塗装金属板をロール成形した。第一の外皮及び第二の外皮の塗膜にはクラックは認められなかった。芯材は、第一の外皮と第二の外皮との間にポリイソシアヌレートフォームを充填することで形成した。この芯材の厚みは35mmである。
【0050】
(実施例14)
実施例11で得られた塗装金属板から第一の外皮及び第二の外皮を形成すること以外は、実施例13と同様にして、建築板を作製した。塗装金属板をロール成形することにより得られた第一の外皮及び第二の外皮の塗膜にはクラックは認められなかった。
【0051】
(比較例5)
比較例1で得られた塗装金属板から第一の外皮及び第二の外皮を形成すること以外は、実施例13と同様にして、建築板を作製した。塗装金属板をロール成形することにより得られた第一の外皮及び第二の外皮の塗膜にはクラックは認められなかった。
【0052】
(比較例6)
比較例3で得られた塗装金属板から第一の外皮及び第二の外皮を形成すること以外は、実施例13と同様にして、建築板を作製した。塗装金属板をロール成形することにより得られた第一の外皮及び第二の外皮の塗膜にはクラックは認められなかった。
【0053】
(屋外暴露試験)
実施例13,14並びに比較例5,6で得られた建築パネルの耐汚染性を、次のように評価した。
【0054】
各実施例及び比較例により得られた建築パネルを、外壁材として用い、これを建物躯体に固定して屋外に曝露した。これらの建築パネルを設置してから、5か月、1年5か月、1年11か月がそれぞれ経過した時点で、各建築パネルの外観の写真を撮影した。図5は実施例13、図6は実施例14、図7は比較例5,図8は比較例6により得られた建築パネルの写真を撮影した写真を示す。
【0055】
これらの結果によると、実施例13及び実施例14により得られた建築パネルには、この建築パネルを設置してから5か月経過した時点では目立たった汚れは認められず、その後も目立った汚れは認められなかった。これに対して、比較例5により得られた建築パネルには、この建築パネルを設置してから5か月経過した時点で筋状の汚れが生じており、その後は汚れは目立たなくなった。比較例6により得られた建築パネルには、この建築パネルを設置してから5か月経過した時点で筋状の汚れが生じており、その後も汚れが生じているままであった。
【0056】
このように、実施例13及び実施例14により得られた建築パネルは屋外に曝露された当初から優れた耐汚染性を発揮したのに対し、比較例5及び比較例6により得られた建築パネルの耐汚染性はこれらの建築パネルが屋外に曝露された当初では低く、更に比較例6により得られた建築パネルの耐汚染性は時間が経過しても低いままであった

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の表面上に親水性塗膜を有する塗装金属板であって、前記親水性塗膜がハイドロタルサイト類とバインダとを含有することを特徴とする塗装金属板。
【請求項2】
前記ハイドロタルサイト類が、脱水処理がされていないハイドロタルサイト類であることを特徴とする請求項1に記載の塗装金属板。
【請求項3】
前記親水性塗膜の厚みが0.03〜1μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項4】
前記バインダが無機バインダであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の塗装金属板。
【請求項5】
芯材と、この芯材を覆う外皮とを備え、前記外皮が請求項1乃至4のいずれか一項に記載の塗装金属板から形成されていることを特徴とする建築パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−224548(P2011−224548A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59562(P2011−59562)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【Fターム(参考)】