説明

塗装金属板

【課題】 屋根の施工時に作業者が滑ることが無く、冬季においては滑雪性に優れる塗装金属板を提供する。
【解決手段】有機被覆層中に平均粒径0.01〜10μmの二硫化モリブデンを3〜30質量%、平均粒径0.05〜5μmのシリカを0.5〜10質量%含有し、ガラス転移温度が10〜60℃となる有機被覆層を、金属板の屋外となる面に塗装した塗装金属板。屋内側に二硫化モリブデンとカーボンブラックの1種以上を含有する有機被覆層を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根の施工時の耐人滑り性と積雪時の滑雪性に優れた塗装金属板に関するものである。さらに詳しくは、屋根材としての施工時に作業者が載っても滑りにくく、安全に施工作業を行うことが可能で、さらに冬季に雪が積もった場合には雪が滑り落ちやすい、いわゆる、耐人滑り性と滑雪性に優れた塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
着色した有機被覆層を表面に有する塗装金属板は、北海道や東北を中心に屋根材として幅広く使用されている。北海道や東北で屋根材として必要とされる性能は、見た目の意匠性、施工のし易さ、そして滑雪性である。
【0003】
滑雪性を改善するためには、塗装金属板の有機被覆層にふっ化ビニリデン等のふっ素樹脂を適用し、さらに潤滑剤としてふっ素樹脂粉末を添加する方法が知られている。例えば、特許文献1では、ふっ化ビニリデン樹脂を有機被覆層に使用し、ふっ素樹脂粉末、ポリアクリロニトリルビーズ、サイズを規定したセラミックス系骨材を添加し、下塗り有機被覆層と組み合わせることで、滑雪性を改善する技術が提案されている。確かにこの方法により、滑雪性は改善されるものの、屋根を葺く作業者が滑りやすいという問題があった。
【0004】
特許文献2には、耐人滑り性と滑雪性を両立した発明として、有機被覆層中に平均粒径が10μm以下のふっ素樹脂粒子を0.1〜5質量%含有し、かつその有機被覆層表面が最大表面粗さ(Rmax)が15μm以上で、10mm当たりに存在する高さ5μm以上の表面粗さピークの数が10個以上である表面粗度を有することを特徴とする着色金属板が提案されている。確かにこの方法により、耐人滑り性と滑雪性は改善されるが、滑雪性をふっ素樹脂の疎水性の発現により、制御するものであるため、疎水性からの滑雪性付与には限界があり、性能面で不十分であった。
【0005】
本発明者は、特許文献3において、塗料中の固形分の質量%でカーボンブラックを3〜60質量%、平均粒径が5μm以下のシリカを0.5〜5質量%、平均粒径が10μm以下のふっ素樹脂粒子を0.05〜5質量%含有する塗料で、塗装後の有機被覆層のガラス転移温度が10〜50℃となる塗料を塗装した塗装金属板が耐人滑り性と滑雪性に優れることを述べている。確かにこの方法により、耐人滑り性と滑雪性は改善されるが、滑雪性が、主に高価なふっ素樹脂粉末による潤滑性に依存しており、より安価な方法による滑雪性の付与が望まれていた。また、ふっ素樹脂粉末に加え吸放熱性を担保するカーボンブラックを合わせて添加する必要があり、その結果として、合計顔料濃度が高くなり加工性が低下するという課題もあった。
【0006】
即ち、屋根材として、施工時に作業者が滑りにくい耐人滑り性と、冬季、雪が屋根に積もっても容易に滑り落ちる滑雪性を高度かつ安価に両立した塗装金属板が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−355671号公報
【特許文献2】特開平9−277435号公報
【特許文献3】特開2004−210974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、現在までに様々な屋根用塗装金属板が提案されてきたが、耐人滑り性と滑雪性とを高度に両立した安価な塗装金属板は、未だ提案されていない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、耐人滑り性と滑雪性とに優れた安価な塗装金属板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するもので、その趣旨とするところは以下のとおりである。
【0011】
(1)金属板の片面の最表層として、平均粒径0.01〜10μmの二硫化モリブデンを3〜30質量%、平均粒径0.05〜5μmのシリカを0.5〜10質量%含有する第1の有機被覆層を10〜50μmの厚さで有し、前記有機被覆層のガラス転移温度が10〜60℃であることを特徴とする、塗装金属板。
(2)前記金属板の前記第1の有機被覆層が形成されている塗装面の反対面に、二硫化モリブデンとカーボンブラックのうち少なくとも1種類を3〜30質量%含有する第2の有機被覆層を5μm以上の厚さで有することを特徴とする、(1)に記載の塗装金属板。
(3)前記金属板がめっき鋼板であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように,本発明の塗装金属板は、従来の塗装金属板と比較すると、安価で良好な施工時の耐人滑り性と冬季の滑雪性を示すものであり、多雪地帯での屋根用塗装金属板として好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者は、上記課題を解決し、優れた耐人滑り性と滑雪性を有する塗装金属板を開発するために、塗装金属板の有機被覆層の物性と、耐人滑り性並びに滑雪性の関係を詳細に検討した。その結果、金属板の片面の最表層として、平均粒径0.01〜10μmの二硫化モリブデン3〜30質量%、平均粒径0.05〜5μm以下のシリカを0.5〜10質量%含有する第1の有機被覆層を10〜50μmの厚さで有する塗装金属板であって、該第1の有機被覆層のガラス転移温度が10〜60℃である塗装金属板が、施工時の耐人滑り性と、冬季の滑雪性に優れることを見出した。
【0014】
(第1の有機被覆層について)
本実施形態では、金属板の片面の最表層の第1の有機被覆層(以下、単に「有機被覆層」と記載する場合がある。)に平均粒径が0.01〜10μmの二硫化モリブデンを3〜30質量%含有する。本実施形態における二硫化モリブデンの役割は、3つある。(A)二硫化モリブデンの潤滑性による滑雪性の向上、(B)太陽光の吸収による雪の溶解と、それによる雪と塗装金属板との界面における水膜の形成、(C)屋内の熱の吸収とその熱の屋外側(屋根側)への放出を利用した雪の溶解による、雪と塗装金属板との界面の水膜の形成である。(B)と(C)で形成された水膜は滑雪性を有する。二硫化モリブンデンは、劈開性を有し潤滑性を発揮する物質であると同時に、熱線である赤外線と遠赤外線を良好に吸収及び放出する材料である。従って、このような滑雪性の向上と雪の溶解が可能となる。すなわち高価なふっ素系の潤滑剤を用いることなく、潤滑性を付与すると同時にふっ素樹脂には無い雪の溶解効果を塗装金属板に付与することが可能である。
【0015】
また、二硫化モリブデンが特許文献3のふっ素樹脂粒子とカーボンブラックの両方の役割を果たすので、結果として、トータルの顔料の添加量が少なくなる。
【0016】
二硫化モリブデンの添加量を3〜30質量%と規定したのは、3質量%未満では、熱の吸収と放出による雪の溶解効果と滑雪性が不十分であるからであり、一方、30質量%を超えると滑雪性は十分であるものの、施工時の耐人滑り性に劣るようになるからである。より好ましくは、二硫化モリブデンの添加量は、10〜20質量%である。二硫化モリブデンの平均粒径を0.01〜10μmとしたのは、0.01μm未満では分級するのが困難であり、又、滑雪性が不十分あるからであり、10μmより大きいと有機被覆層から露出する二硫化モリブデンが多くなり、滑雪性には十分であるものの、結果として施工時の耐人滑り性に劣るからである。より好ましくは、二硫化モリブデンの平均粒径は、0.01〜5μmである。
【0017】
本実施形態に係る有機被覆層に添加する二硫化モリブデンは、特に限定するものではなく、一般に市販されているものを使用することができる。二硫化モリブデンはモリブデンと硫黄からなる無機化合物であり、六方晶型の層状結晶構造をとり、層間の結合が弱いため、層間で滑りを起こし、良好な潤滑性を示すものである。
【0018】
本実施形態では、金属板の片面の最上層の有機被覆層に、平均粒径0.05〜5μmのシリカを0.5〜10質量%添加する。本実施形態におけるシリカの役割は2つある。1つは艶消し外観の付与であり、もう1つは、シリカの親水性により雪と塗装金属界面に広い水膜を形成することによる滑雪性の向上である。シリカを添加して艶消し外観を付与する方法は、一般的に使用されており、通常は3〜30μm程度の平均粒径のものが使用され、中でも6〜20μm程度の平均粒径のものが好んで使用されるが、5μm超える粒径では皮膜表面の粗度が大きくなるため、滑雪性が不十分であることが判明した。そこで、本実施形態では、平均粒径を0.05〜5μmと通常より小さくすることで、艶消し外観と滑雪性の両方を確保している。さらに、本実施形態に係る平均粒径の小さなシリカは、大きなものよりも有機被覆層表面に濃化しやすく、平均粒径の小さなシリカが雪と塗装金属板の界面にできる水膜の面積を広げる効果を有し、効率的な滑雪性を付与することが可能となる。
【0019】
シリカの平均粒径を0.05〜5μmと規定したのは、0.05μm未満では艶消し外観を付与することが困難であるからであり、5μmを超えると艶消し外観は得られるものの、皮膜の粗度が高くなるため、滑雪性が低下するからである。シリカの添加量を0.5〜10質量%としたのは0.5質量%未満では十分な滑雪性と艶消し外観が十分に得られないからであり、一方、10質量%を超えると艶消し外観は得られるものの、粗度が高くなり滑雪性が不十分となる可能性があるからである。
【0020】
このように、シリカは、艶消し外観と滑雪性付与のために添加するので、屋外側の塗装には必須であるが、屋内側には添加しても添加しなくてもどちらでもよい。
【0021】
本実施形態に係る第1の(屋外側の)有機被覆層中のシリカの種類は、特に限定するものではなく、二酸化ケイ素を60%以上含有するもので、例えば、石英を主成分とするケイ砂等の天然シリカ、フライアッシュ等の熱処理シリカ、ケイ酸ナトリウムと酸の反応により得られる合成シリカ、アルコキシシランの加水分解により得られる合成シリカ、カルシウムシリケートと酸の反応により得られる合成シリカ、等が適用できる。特に好ましくは、艶消し外観に優れる天然シリカの微粉末である。
【0022】
本実施形態に係る有機被覆層のガラス転移温度は、10〜60℃である。有機被覆層のガラス転移温度は、耐人滑り性に大きな影響を与える。塗装金属板の有機被覆層のガラス転移温度より雰囲気の温度が低いと、有機被覆層は硬く、いわゆるガラス状態を示すが、逆にガラス転移温度より雰囲気の温度が高いと、有機被覆層はゴム的な性質となり、粘性を示すようになる。
【0023】
通常、多雪地帯の北海道や東北等では、屋根の施工作業は主に夏期に行われる。この時の屋根の温度は60℃を超える条件になることが多い。そこで、有機被覆層のガラス転移温度を夏期の屋根の温度近傍かそれより低めに設定することで、屋根の敷設時に有機被覆層が粘性を示し、作業者の靴との摩擦を上げ、作業者の靴を滑りにくくし耐人滑り性を向上させる。一方、冬季の屋根の温度は概ね5℃以下となり、本実施形態の有機被覆層のガラス転移温度より低くなるので、有機被覆層はガラス状態を示すようになり、雪が滑りやすくなる。
【0024】
有機被覆層のガラス転移温度を10〜60℃に限定したのは、10℃未満では有機被覆層の加工性が低下し、成形時に有機被覆層の剥離が生じる恐れが高くなるからであり、60℃超では夏期の屋根施工時の屋根の温度が有機被覆層のガラス転移温度よりも低い場合もあるため、有機被覆層が粘性を示さず、耐人滑り性に劣る可能性があるためである。より好ましいガラス転移温度の範囲は、15〜45℃である。なお、本発明における有機被覆層のガラス転移温度の測定は、金属板に被覆された有機被覆層を剥離して、示差走査熱量分析装置(一般に、DSCと呼ばれる)を用いて測定することができる。
【0025】
(第2の有機被覆層について)
本実施形態に係る塗装金属板の塗装面(第1の有機被覆層が形成される面)の裏面側に熱を効率的に吸収する第2の有機被覆層(以下、単に「有機被覆層」と記載する場合がある。)を施すことで、屋内の熱を吸収し屋外へ逃がすことにより、屋外側の有機被覆層の温度を上昇させて、雪を溶解し、滑雪性を向上させることが可能となる。本実施形態に係る塗装金属板の屋外面の反対面(屋内側)に、二硫化モリブデン或いはカーボンブラックの少なくとも1種類を3〜30質量%含有する有機被覆層を5μm以上施すことにより上記の効果が得られる。
【0026】
二硫化モリブデンとカーボンブラックは、熱線である赤外線や遠赤外線を効率良く吸収及び放出する物質である。二硫化モリブデンは特に限定するものではなく、一般に市販されている六方晶系の二硫化モリブデンを使用することができる。二硫化モリブデンの平均粒径は、特に限定するものではないが、屋外側と同等の10μm以下が塗料を製造する上で便利である。また、裏面側は潤滑性を必要としないのでカーボンブラックを使用してもよい。カーボンブラックの種類は特に限定するものではなく、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等が適用できる。より好ましくは、チャネルブラックとファーネスブラックである。これらカーボンブラックの平均粒径は特に限定するものではないが、5〜300nmが好ましい。これらカーボンブラックは単独でも、2種類以上の混合状態でも適用できる。
【0027】
二硫化モリブデン及びカーボンブラックの添加量を3〜30質量%としたのは、3質量%未満では熱の吸収と放熱による雪の溶解効果が不十分であるからであり、一方、30質量%を超えると、熱の吸収と放熱による雪の溶解効果が飽和するからである。特に好ましくは二硫化モリブデン及びカーボンブラックの添加量は、10〜20質量%である。有機被覆層の厚さを5μm以上としたのは、5μm未満では熱の吸収と放熱による雪の溶解効果が不十分であるからである。上限は特に限定しないがコストと性能のバランスを考えると20μm程度が適当である。
【0028】
(第1の有機被覆層及び第2の有機被覆層に使用する樹脂について)
本実施形態に係る第1の有機被覆層及び第2の有機被覆層(以下、単に「有機被覆層」と記載する場合がある。)に使用する樹脂としては、塗装後のガラス転移温度が10〜60℃の範囲に調整できるものであれば、特に限定しないが、屋外で使用されることを考慮すると、耐候性、耐変色性、光沢保持性、耐水性に優れたものが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコンポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、ふっ素系樹脂、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂等があり、これらの変性物や混合物や共重合物も使用できる。また、これらにイソシネート樹脂、アミノ樹脂、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤を補助成分として併用することができる。
厳しい加工が施される用途では、ポリエステル樹脂をメラミンで架橋する樹脂系、ポリエステル樹脂をイソシアネートで架橋する樹脂系、塩化ビニル樹脂系、ふっ素樹脂系(溶剤可溶型、アクリル樹脂との分散混合型)が望ましい。塗料としての形態は、特に限定するものではなく、有機溶剤系塗料、水系塗料、コロイド分散系塗料、粉体塗料等が挙げられる。本実施形態に係る塗装金属板の有機被覆層は、液体状態や溶融状態の樹脂塗料を金属板に塗装することで形成することもできるし、本実施形態に係る二硫化モリブデン、シリカ、ふっ素微粒子を含有するフィルムを作製し、フィルム状態で金属板へラミネート塗装することも可能である。ラミネートに適した樹脂としては、ふっ素樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、PET樹脂等が挙げられ、一般に使用されている接着剤やコロナ放電を併用してもよい。
【0029】
(添加剤について)
本実施形態に係る塗装金属板の第1の有機被覆層及び第2の有機被覆層(以下、単に「有機被覆層」と記載する場合がある。)には、通常、塗料に添加されている添加剤であれば、問題なく添加することができる。例えば、顔料としては、無機系、有機系、両者の複合系に関わらず、公知のものを使用することができ、チタン白、亜鉛黄、アルミナ白、シアニンブルー等のシアニン系顔料、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料、紺青、縮合多環系顔料等が例示できる。この他に、金属片、金属酸化物、パール顔料、マイカ顔料等の光輝性顔料、インジゴイド染料、硫化染料、フタロシアニン染料、ジフェニルメタン染料、ニトロ染料、アクリジン染料等の染料等が挙げられる。顔料濃度は特に限定されず、必要な色や隠蔽力により決定すればよい。さらに、着色顔料以外にも、塗料に通常添加されているものであれば、問題なく添加できる。このような添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、石膏、クレー等の体質顔料、有機架橋微粒子、無機微粒子等がある。また、必要に応じて、表面平滑剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、粘度調整剤、硬化触媒、顔料分散剤、顔料沈降防止剤、色別れ防止剤等を用いることができる。
【0030】
(平均粒径について)
なお、本発明の第1の有機被覆層及び第2の有機被覆層に含まれる二硫化モリブデン、シリカ、カーボンブラック等の粒子の「平均粒径」とは、1次粒子の数平均粒径を意味しており、レーザ回折法により測定することができる。
【0031】
(有機被覆層の厚さについて)
本実施形態に係る塗装金属板の有機被覆層の厚さは、屋外側になる面(第1の有機被覆層)では乾燥膜厚で10〜50μmである。第1の有機被覆層の厚さが10μm未満では十分な滑雪性を付与することができない。50μm超では効果が飽和して経済的ではない。より好ましい第1の有機被覆層の厚さは10〜20μmである。一方、有機被覆層の厚さは、屋内側になる面(第2の有機被覆層)では5μm以上である。第2の有機被覆層の厚さが5μm未満では塗装した効果が無く、十分な屋内の熱の吸収効果が得られない。第2の有機被覆層の厚さが膜厚の上限は特に限定するものではないが、製造時のワキ発生やコストを考慮すると、50μmである。
【0032】
(第1の有機被覆層及び第2の有機被覆層の形成方法について)
本実施形態に係る塗装金属板の有機被覆層の形成は、塗料の形態により、はけ、ロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ブレードコーター、ダイコーター、ラミネーター等を用いて塗布し、焼き付け硬化乾燥、又は、加熱加圧接着させる。塗料を焼き付けるには、熱風炉、誘導加熱炉、近赤外炉、遠赤外炉、エネルギー線硬化炉を用いて加熱すればよい。これらの併用でもよい。
【0033】
(下地金属板について)
本実施形態に係る塗装金属板の下地金属板は、特に限定するものではないが、ステンレス鋼板、めっき鋼板、アルミニウム合金板が適している。ステンレス鋼板としては、フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板が挙げられる。めっき鋼板としては、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−鉄合金めっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、亜鉛−クロム合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板、アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、亜鉛めっきステンレス鋼板、アルミニウム−シリコン合金めっきステンレス鋼板等が挙げられる。アルミニウム合金板としては、JIS1000番系(純Al系)、JIS2000番系(Al−Cu系)、JIS3000番系(Al−Mn系)、JIS4000番系(Al−Si系)、JIS5000番系(Al−Mg系)、JIS6000番系(Al−Mg−Si系)、JIS7000番系(Al−Zn系)等が挙げられる。中でもコストと性能のバランスに優れているめっき鋼板が本発明の下地金属板としては適している。
【0034】
金属板の塗装前処理としては、水洗、湯洗、酸洗、アルカリ脱脂、研削、研磨等があり、必要に応じて、これらを単独もしくは組み合わせて行うとよい。塗装前処理の条件は適宜選択すればよい。
【0035】
金属板の上には、必要に応じて、化成処理を施してもよい。化成処理は塗装と下地金属板の密着性をより強固なものとするためと、耐食性の向上を目的として処理される。化成処理としては、公知の技術が適用でき、例えば、リン酸亜鉛処理、クロメート処理、クロメートフリー処理、シランカップリング系処理、複合酸化皮膜系処理、タンニン酸系処理、チタニア系処理、ジルコニア系処理、これらの複合処理等が挙げられる。
【0036】
耐食性を向上させる目的で、化成処理層と本実施形態に係る塗装の間に、防錆顔料を有する下塗り塗装を設けてもよい。防錆顔料としては、公知の防錆顔料を適用でき、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛等のリン酸系防錆顔料、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸系防錆顔料、酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料、カルシウムイオン交換シリカ等のイオン交換シリカ系防錆顔料、ストロンチウムクロメート、ジンククロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメート等のクロメート系防錆顔料、水分散シリカ、ヒュームドシリカ等の微粒シリカ、フェロシリコン等のフェロアロイ等を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0037】
下塗り塗装に、二硫化モリブデンとカーボンブラックの少なくとも1種類以上を3〜30質量%添加してもよい。先に述べたように、二硫化モリブデンやカーボンブラックは熱を効率的に吸収し、放出する物質である。従って、下塗り層に二硫化モリブデンやカーボンブラックを添加することで、屋根の内側の熱を効率的に上塗り塗装に伝えることができ、滑雪性をより良好なものとすることができる。二硫化モリブデンやカーボンブラックを添加した下塗り層の膜厚は、3μm以上が好ましい。3μm未満では伝熱効果が不十分である。一方、上限は特に限定するものではないが、下塗り塗装という観点から10μm以下である。
【0038】
下塗り層に添加する二硫化モリブデンも、特に限定するものではなく、一般に使用されている六方晶型の二硫化モリブデンを使用することができる。二硫化モリブデンの平均粒径は特に限定するものではないが、屋外側と同等の10μm以下が塗料を製造する上で便利である。カーボンブラックの種類は特に限定するものではなく、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等が適用できる。より好ましくは、チャネルブラックとファーネスブラックである。これらカーボンブラックの平均粒径は特に限定するものではないが、5〜300nmが好ましい。これらカーボンブラックは単独でも、2種類以上の混合状態でも適用できる。
【0039】
カーボンブラックと二硫化モリブデンの添加量を3〜30質量%としたのは、3質量%未満では熱の吸収と放熱による雪の溶解効果が不十分であるからであり、一方、30質量%を超えると熱の吸収と放熱による雪の溶解効果が飽和するからである。特に好ましくは、カーボンブラックと二硫化モリブデンの添加量は、5〜20質量%である。
【0040】
二硫化モリブデンやカーボンブラックを含有する下塗り層を設けたとき、前述したように裏面側にも二硫化モリブデンやカーボンブラックを含有する塗装を処理してあると、なお良い。これは裏面側の熱伝達向上効果と表面側の熱伝達向上効果の相乗効果により、屋内側の熱が雪の載る表面により効率的に伝達され、雪の溶解を促進し、雪と有機被覆層界面の水膜形成が容易となり、滑雪性を改善するからである。
【0041】
本実施形態に係る下塗り塗装に用いられる樹脂としては、用途に応じて、一般に公知の樹脂を適用することができる。すなわち、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコンポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、ふっ素系樹脂、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂等である。これらの混合物や共重合物も使用できる。また、これらに、イソシアネート樹脂、アミノ樹脂、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等を補助成分として併用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0043】
金属板としては、板厚0.8mmの溶融Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si合金めっき鋼板を使用した。このめっき鋼板に対して脱脂処理(日本パーカライジング(株)製、FC4670)を行った。その後、水洗、乾燥を行い、引き続いてクロメートフリー化成処理(日本パーカライジング(株)製、CT−E300)を300mg/mの付着量で処理した。
【0044】
下塗り有機被覆層としては、防錆顔料としてトリポリリン酸アルミニウム(テイカ(株)製、K−WHITE G105)とCaイオン交換シリカ(GRACE製、SHILDEX C303)を1:1の質量比で30質量%添加した変性エポキシ樹脂系の下塗り有機被覆層を3μmの厚さで形成させた。さらに、防錆顔料の添加量を15質量%とし、二硫化モリブデンとカーボンブラックを添加し、膜厚を3μmとした水準も作製した。
【0045】
下塗り有機被覆層の上に、第1の有機被覆層に対応する上塗り有機被覆層として、種々の二硫化モリブデン、シリカ、を含有し、種々のガラス転移温度に調整したポリエステル系有機被覆層を塗装した。また、比較例として、特許文献3に従い、カーボンブラック粉末と微粒シリカとふっ素樹脂を含有し、ガラス転移温度を調整したポリエステル系有機被膜層も塗装した。
【0046】
屋外側(降雪面)の塗装面の仕様を表1に示す。屋内側はポリエステル樹脂をベースとして、二硫化モリブデンとカーボンブラックを添加した水準も作製した。屋内側の塗装仕様を表2に示す。なお、表1及び表2に示す膜厚については、電磁膜厚計LZ 200J((株)ケット科学研究所製)を用いて測定した。また、表1に示すガラス転移温度については、DSCを用い、窒素ガス雰囲気下で5℃/minの昇温速度で測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
各水準で作製した塗装金属板の、耐人滑り性、滑雪性、加工性を、下記の評価基準により評価し、その結果を表3〜表12に示した。
【0050】
[耐人滑り性の評価方法]
地面に対する傾斜が5寸勾配(26.6°)である模擬屋根を作製した。この模擬屋根を夏期に江別市の屋外で暴露し、地下足袋を履いた人間が模擬屋根の上を実際に歩き、滑りやすさを以下の基準で評価した。○以上を合格とした。
【0051】
◎ :滑りにくい。
○+:極わずかに滑る。
○ :やや滑りにくい
△ :やや滑る
× :非常に滑る
【0052】
[滑雪性の評価方法]
地面に対する傾斜が5寸勾配(26.6°)である模擬屋根を持つ小屋を作製した。この模擬屋根を冬季に江別市の屋外で暴露し、降雪時の雪の残存度合いを数日間にわたって目視で評価し、以下の基準で相対的に滑雪性を評価した。○以上を合格とした。なお、小屋の中にはエアコンを設置し、室温が22±2℃になるようにコントロールした。
【0053】
◎ :滑雪がみられ、屋根の上に雪がほぼ無い。
○+:滑雪がみられ、屋根の上の雪が極わずかにある。
○ :滑雪がみられ、屋根の上の雪が少ない。
△ :滑雪がみられるが、屋根の上に雪が多く残る。
× :全く滑雪がみられない。
【0054】
[加工性の評価方法]
同じ板厚の板を1枚挟んで第一の有機被覆層が外側となるよう180°曲げ加工を行い、加工部の外側(第一の有機被覆層)に粘着テープ(商品名「セロテープ」ニチバン(株)製)を貼り付け、速やかに斜め45°上方に引っ張って粘着テープを剥離させ、この時剥離した有機被覆層の程度を目視で評価し、以下の基準で加工性を評価した。○以上を合格とした。
【0055】
◎ :剥離無し。
○ :極わずかに(5%以下)剥離する。
△ :25%以上剥離する。
× :50%以上剥離する。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
【表8】

【0062】
【表9】

【0063】
【表10】

【0064】
【表11】

【0065】
【表12】

【0066】
表3より本発明の範囲の二硫化モリブデン及びシリカからなり、さらに10〜60℃の範囲のガラス転移温度を有する有機被覆層を塗装金属板に適用することにより、良好な耐人滑り性と滑雪性が付与できることがわかる。また、表1のNo.4に示した条件は、ガラス転移温度が5℃と低いため、滑雪性と耐人滑り性は満足できても加工性に劣っていることがわかる。また、No.9とNo.17〜19とを比較することにより下塗り有機被覆層としてカーボンブラックや二硫化モリブデンを含有することで滑雪性がやや改善されることがわかる。
【0067】
表3のNo.17〜19と表4〜表12のNo.17〜19とを比較することにより裏面に二硫化モリブデンやカーボンブラックを含有する有機被覆層を設けることで、さらに滑雪性が改善されることがわかる。
【0068】
表4〜表12のNo.20は特許文献3に基づく組成の比較例であるが、滑雪性と耐人滑り性には優れるものの、加工性には劣るという結果になった。
【0069】
以上説明したように、本実施形態に係る塗装金属板は、耐人滑り性と滑雪性を両立したものであり、煩雑な処理の必要もなく、低コストで提供できるため、屋根用塗装金属板として好適である。
【0070】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の片面の最表層として、平均粒径0.01〜10μmの二硫化モリブデンを3〜30質量%、平均粒径0.05〜5μmのシリカを0.5〜10質量%含有する第1の有機被覆層を10〜50μmの厚さで有し、
前記有機被覆層のガラス転移温度が10〜60℃であることを特徴とする、塗装金属板。
【請求項2】
前記金属板の前記第1の有機被覆層が形成されている塗装面の反対面に、二硫化モリブデンとカーボンブラックのうち少なくとも1種類を3〜30質量%含有する第2の有機被覆層を5μm以上の厚さで有することを特徴とする、請求項1に記載の塗装金属板。
【請求項3】
前記金属板がめっき鋼板であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の塗装金属板。



【公開番号】特開2011−148107(P2011−148107A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8980(P2010−8980)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】