塗装金属製品とその塗装法
【課題】表面の光沢に富む材質感を残しつつも、半永久的な耐蝕性や密着力、装飾効果などを発揮できる塗装金属製品を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材(M)の表面へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成すると共に、その黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(18)とを積層一体化した。
【解決手段】ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材(M)の表面へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成すると共に、その黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(18)とを積層一体化した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面の光沢に富む材質感を残しつつも、半永久的な耐蝕性や耐候性、装飾効果などを発揮できる塗装金属製品と、そのための有効な塗装法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄や非鉄金属、合金鋼、その他の金属基材の表面へ、コーティング材から成る被膜(塗装膜)を長年月に亘って密着させることは難しく、殊更ステンレス鋼の表面には緻密過ぎる結晶の強固な酸化被膜が生成しているため、上記問題は顕著となり、半永久的な耐蝕性や耐候性、装飾効果などを確保することができない。
【0003】
この点、ステンレス基材の表面に塗装するための下地層(第1層)として、クロメート処理による化成被膜を形成することが、下記特許文献1〜4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−76835号公報
【特許文献2】特開平8−229502号公報
【特許文献3】特開2004−122409号公報
【特許文献4】特開2004−160757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記クロメート処理による化成被膜はたとえ黒色であっても、電気分解により析出された多孔質の黒色化成被膜と異なって、塗装膜の密着力に劣り、その塗装膜の剥離するおそれがあるほか、折り曲げ部からクラックを生じるおそれもある。
【0006】
更に、クロメート処理による化成被膜は耐熱性を有さないため、これを塗装下地層にすると、その上層の塗装膜を焼き付けることが難しくなり、その強制乾燥上制約を受ける問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題の改良を目的としており、その目的を達成するために、請求項1の塗装金属製品ではステンレス鋼や鉄、その他の金属基材の表面へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜を形成すると共に、
【0008】
その黒色化成被膜の表面へ有彩色の第1塗装膜と、その第1塗装膜の表面へ透明の第2塗装膜とを積層一体化したことを特徴とする。
【0009】
請求項1に従属する請求項2では、電気分解による多孔質の黒色化成被膜が無数の黒色クロム微粒子から成る1μm〜2μmの薄肉なレイデント処理被膜であることを特徴とする。
【0010】
同じく請求項1に従属する請求項3では、有彩色の第1塗装膜が文字、図形、記号又はこれらの結合から成る一定の標章を形作っていることを特徴とする。
【0011】
請求項1、2又は3に従属する請求項4では、有彩色の第1塗装膜を白色以外の中塗り膜として、その中塗り膜と塗装下地層をなす黒色化成被膜との相互間へ、白色の下塗り膜を介在させることにより、上記黒色化成被膜の表面全体を一旦隠蔽したことを特徴とする。
【0012】
更に、請求項1又は2に従属する請求項5では、有彩色の第1塗装膜を白色以外の中塗り膜として、その中塗り膜と塗装下地層をなす黒色化成被膜との相互間へ、白色の下塗り膜を介在させると共に、
【0013】
透明の第2塗装膜を上塗り膜として、その上塗り膜と上記中塗り膜との相互間へ、その中塗り膜と異なる有彩色と文字、図形又は記号との結合から成る標章が印刷された別個な転写シールを介在させたことを特徴とする。
【0014】
他方、請求項6では塗装金属製品の塗装法として、ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材における表面の一部分へ、電気分解用の絶縁性がある第1マスキングテープを貼り付けた上、その金属基材の表面に残る露出部分へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜を形成し、
【0015】
その後、上記第1マスキングテープを塗装用の熱変形しない第2マスキングテープと貼り替えた上、上記黒色化成被膜の表面へ有彩色の第1塗装膜と、その第1塗装膜の表面へ透明の第2塗装膜とを塗工して、
【0016】
最後に、上記第2マスキングテープを剥ぎ取ることにより、金属基材から自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜の有彩色とを表出させることを特徴とする。
【0017】
請求項7では同じく塗装金属製品の塗装法として、ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材の表面へ、文字や図形、記号又はこれらの結合から成る一定な標章の輪郭となる抜き穴が加工された電気分解用兼塗装用のマスキングシートを貼り付けた上、そのマスキングシートの抜き穴を通じた金属基材の表面露出部分へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜を形成し、
【0018】
その後、その黒色化成被膜と上記マスキングシートとの表面全体へ、有彩色の第1塗装膜と透明の第2塗装膜とを順次塗工して、
【0019】
最後に、上記マスキングシートを剥ぎ取ることにより、金属基材から自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜における有彩色の標章とを表出させることを特徴とする。
【0020】
請求項6又は7に従属する請求項8では、電気分解による多孔質の黒色化成被膜が無数の黒色クロム微粒子から成る1μm〜2μmの薄肉なレイデント処理被膜であることを特徴とする。
【0021】
更に、請求項6又は7に従属する請求項9では、有彩色の第1塗装膜を白色の下塗り膜とし、透明の第2塗装膜を上塗り膜として、その上塗り膜と下塗り膜との相互間へ、白色以外の有彩色中塗り膜を塗工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の構成によれば、金属基材の表面に対する第1、2塗装膜の塗装下地層が、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理などの電気分解による多孔質の黒色化成被膜から成るものとして、優れた防錆力のほか、半永久的な1、2次密着性を発揮するため、その第1、2塗装膜の剥離するおそれはなく、金属基材がステンレス鋼材であっても、冒頭に述べた問題を一切生じない。
【0023】
つまり、ステンレス鋼材の表面には冒頭に述べた強固な酸化被膜が生成しているため、耐蝕性に優れる反面、塗装膜の密着力に劣る問題があるところ、上記電気分解による多孔質の黒色化成被膜は、第1、2塗装膜の密着表面積が非常に広大であるため、その塗装膜を強固に密着一体化させることができ、併せて半永久的な防錆力も確保し得る効果がある。
【0024】
特に、請求項2の構成を採用するならば、レイデント処理被膜は通常の化学反応と異なるマイナス温度での電気分解作用(電気化学反応)により、金属基材の表面に析出された無数のアモルファス状(非結晶性)クロム微粒子から成る1μm〜2μmの多孔質な黒色化成被膜であるため、その無数の微細孔にコーティング剤(塗料)があたかも毛細血管の網状に絡らみ付き浸透する如く、その塗装膜の2次密着性に優れた下地層を形作り、金属基材を折り曲げるも、その折り曲げ部からクラックが発生するおそれもない。
【0025】
しかも、上記薄肉な多孔質黒色化成被膜の一部は、母材である金属基材の内部に拡散して、拡散層(合金層)を形成するため、半永久的に剥離するおそれがない。その合金化された金属基材の表面は安定期を経てステンレス化し、長年月に亘る強力な防錆膜を生成するのである。
【0026】
また、請求項3の構成を採用するならば、有彩色の第1塗装膜から形作られた一定の標章(画像)を、その透明な第2塗装膜から目視することができ、塗装金属製品の装飾効果を得られる。
【0027】
請求項4の構成を採用するならば、上記塗装下地層をなす多孔質の黒色化成被膜が、その文字通りの黒い色調であっても、これを白色の下塗り層によって一旦全面的に隠蔽しており、その下塗り膜の表面に白色以外の有彩色(例えば青色や緑色、赤色、黄色など)中塗り膜が積層一体化しているため、その中塗り膜の有彩色を白色の下塗り膜によって、明るく良好に発色させ得る効果がある
【0028】
更に、請求項5の構成を採用するならば、上記中塗り膜から発色される有彩色(白色以外)の装飾効果だけにとどまらず、その中塗り膜の有彩色と異なる有彩色と、文字、図形又は記号との結合から成るものとして、別個な転写シールに印刷された一定の標章(画像)を、透明な上塗り膜から目視できる状態に表出させることもでき、塗装金属製品の一層興趣変化に富む装飾効果を得られる。
【0029】
請求項6の塗装法によれば、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による塗装下地処理を金属基材の表面一部分へ、そのための電気絶縁性があるビニールテープなどの第1マスキングテープを貼り付け使用することによって、容易に支障なく実行して、塗装下地層となる多孔質の黒色化成被膜を形成することができ、その後その第1マスキングテープを塗装用である紙などの熱変形しない第2マスキングテープと貼り替えることにより、上記黒色化成被膜の表面へ有彩色の第1塗装膜と透明の第2塗装膜とを順次塗工し得るのであり、作業性に優れる。
【0030】
その場合、金属基材の第1マスキングテープや第2マスキングテープを貼り付けていない表面露出部分へ、塗装下地層となる黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質な黒色化成被膜の形成と、引き続く第1、2塗装膜の塗工を行なって、その第1塗装膜の有彩色による装飾効果(意匠性)を付与している一方、上記第1マスキングテープやその後の第2マスキングテープを貼り付けていた被覆部分は、その最終的なテープの剥ぎ取りによって、金属基材の光沢に富む材質感を表出することになるため、その材質感と上記有彩色との組合せから成る優美な装飾効果を得られるのであり、特にステンレス基材に有効と言える。
【0031】
他方、請求項7の塗装法によれば、電気分解作用(電気化学反応)と塗装との何れにも耐えることができ、しかも希望の一定な標章(画像)が姿(輪郭)抜き加工されたマスキングシートを使用しているため、その貼り付け後の金属基材に対する黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解作用と、その電気分解作用による多孔質な黒色化成被膜の形成と、その化成被膜と上記マスキングシートとの表面全体に対する第1、2塗装膜の塗工とを、能率良く実行することができ、そのマスキングシートの最終的な剥ぎ取りによって、やはり金属基材自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜の有彩色との組合せから成る優美な装飾効果を得られるのである。
【0032】
上記請求項6と請求項7との何れの塗装法にあっても、特に請求項8の構成を採用するならば、上記請求項2と対応する効果を達成することができ、耐蝕性と密着力、意匠性なとに著しく優れた塗装金属製品を得ることに役立つ。
【0033】
特に、請求項9の構成を採用するならば、上記請求項4と対応する効果を得られるのであり、その下塗り膜の白色を背景として、中塗り膜の有彩色(白色以外)を明るく良好に発色させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る各種塗装金属製品としての給水栓を示す正面図である。
【図2】その給水栓の胴体部分を抽出して示す平面図である。
【図3】図2の正面図である。
【図4】塗装金属製品としての自転車を示す側面図である。
【図5】自転車のスポークを抽出して示す正面図である。
【図6】塗装金属製品としてのレバーハンドルを示す斜面図である。
【図7】塗装金属製品としてのトランペット(楽器)を示す正面図である。
【図8】塗装金属製品としてのスプーン(食器)を示す正面図である。
【図9】塗装金属製品としてのスパナ(工具)を示す正面図である。
【図10】上記塗装金属製品の塗装工程を示す断面図である。
【図11】塗装金属製品の別な塗装工程を示す断面図である。
【図12】転写シールの平面図である。
【図13】図12の13−13線断面図である。
【図14】上記塗装金属製品の更に別な塗装工程を示す断面図である。
【図15】図14(VI)の概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1〜9は本発明の各種塗装金属製品として、水道用の給水栓(銅合金)や自転車のスポーク(ステンレス鋼)、扉開閉用のレバーハンドル(ステンレス鋼)、トランペット(真鋳)、スプーン(真鋳)、スパナ(合金工具鋼)を例示しており、その材質を括弧内に記載している。また、図10はステンレス鋼板(SUS304)を金属基材(M)の代表例として、その塗装工程を示す断面図である。
【0036】
そこで、図10(I)〜(VI)に基いて本発明に係る塗装金属製品の塗装法を詳述すると、次のとおりである。即ち、金属基材(M)の表面に付着している油脂分や汚れを除去するため、予じめシンナーでの洗浄や脱脂処理などを行なっておく。
【0037】
そして、先ず第1工程として金属基材(M)の光沢に富む材質感を残したい表面の非着色装飾部分(a)には、後述する黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解作用(電気化学反応)に耐え得る電気絶縁性や非化学反応性などがある第1マスキングテープ(11)を貼り付ける。その第1マスキングテープ(11)としては、離型紙付きのビニールテープやその他のプラスチック製テープを採用し、その離型紙の剥ぎ取り後に残る接着剤(12)を介して、金属基材(M)の非着色装飾部分(a)へ図10(I)のような被覆状態に貼り付ければ良い。
【0038】
次に、第2工程として図10(II)から明白なように、上記金属基材(M)の表面が露出する部分(追って着色されることになる装飾部分)(b)にレイデント処理(本出願人の所有する登録商標)を行なう。レイデント処理とは本出願人の技術開発した特殊な金属表面処理を意味し、主としてクロム酸水溶液に適宜触媒成分を添加し、約マイナス5℃〜約マイナス10℃の冷温(低温)下において直流電解(例えば約6V〜約12Vで約5分〜約60分)を行なうことにより、金属表面にクロム微粒子群の多孔質黒色被膜を約1μm〜約2μmの厚みだけ析出させる方法である。
【0039】
このようなレイデント処理による多孔質の黒色化成被膜は、その一部が母材である金属基材(M)の内部へ境界面なく拡散して、約1μmの拡散層(合金層)を形成することになるため、優れた密着力と防錆力を発揮し、長年月に亘って剥離したり、発錆したりするおそれがない。しかも、上記サブミクロン級のアモルファス状クロム微粒子が集積し、無数のピンホールやマイクロクラックを有する多孔質の被膜として、後述するコーティング剤(塗料)との接触表面積が著しく広大であり、その被膜へコーティング剤があたかも毛細血管の隅々まで網状に浸透する如く、その塗装膜の2次密着性に優れた下地層を形作ることができる。
【0040】
但し、母材の金属基材(M)に対する密着力と防錆力を期待でき、塗装膜の2次密着性に優れた下地層を形成し得る限りでは、上記レイデント処理による多孔質の黒色化成被膜に代えて、黒色クロムメッキ処理やその他の電気分解により析出される多孔質の黒色化成被膜を採用しても良い。図10の符号(13)はこのようなレイデント処理や黒色クロムメッキ処理、その他の電気分解により金属基材(M)の表面に形成された多孔質の黒色化成被膜を示しており、これが後述の塗装下地層になる。
【0041】
上記レイデント処理や黒色クロムメッキ処理などの電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成できたならば、次に図10(III)の第3工程に示す如く、その電気分解作用のために使った上記第1マスキングテープ(11)を、金属基材(M)の表面から剥離して、その代りの塗装用となる紙製テープなどの熱変形しない第2マスキングテープ(14)を、上記金属基材(M)における表面の非着色装飾部分(a)へ貼り付ける。
【0042】
このような塗装用の第2マスキングテープ(14)も離型紙付きであり、その離型紙の剥離後に残る接着剤(15)を介して、上記第1マスキングテープ(11)との交換的に貼り付ければ良い。但し、上記電気分解作用(電気化学反応)に耐え得る電気絶縁性や非化学反応性のみならず、塗装用としての高い乾燥温度(約80℃〜約100℃)に晒されるも変形しない安定性や剥離容易性をも有し、終始一貫して使用できるマスキングテープであるならば、必らずしも上記第1、2マスキングテープ(11)(14)の貼り替えを要さない。
【0043】
そして、上記塗装用である第2マスキングテープ(14)の貼り付けにより、やはり金属基材(M)における表面の非着色装飾部分(a)を被覆した状態のもとで、その金属基材(M)における上記電気分解による多孔質黒色化成被膜(13)の表面へ、図10(III)のようにハケ塗りやスプレー塗装、浸漬塗装、ロール塗装などの適当な方法を用いて、ウッドシーラー(JIS K 5533)を塗工し、白色の下塗り膜(16)を形成する。
【0044】
その下塗り用のウッドシーラーとしては、白色の顔料が添加された一液反応硬化型水系ウレタン樹脂塗料(大日本塗料の商品名「DNT ビューウレタン」)を使って塗工し、その固化後の膜厚を約15μm〜約25μm、就中約20μmに設定することが好ましい。
【0045】
茲に、下塗り膜(16)を白色に設定した所以は、先の電気分解による多孔質化成被膜(13)の黒色を一旦隠蔽して、後述する中塗り膜の有彩色が暗くなることを防ぎ、その中塗り膜の有彩色を明るく良好に発色させるためである。
【0046】
その意味から言えば、下塗り膜(16)の厚みとしても15μmより薄いと、塗装下地層の上記黒色化成被膜(13)が未だ灰色に表出することとなり、その塗装下地層としての黒色を完全に隠蔽することができない。他方、25μmよりも厚くすることは、その後の中塗り膜並びに上塗り膜を考慮した場合、下塗り膜(16)として厚肉に過ぎ、不必要・不経済でもある。そのため、約20μmの膜厚に形成することが最も好ましい。
【0047】
何れにしても、下塗り膜(16)が所要時間(例えば20℃で25分以内、又は10℃で1時間以内)の乾燥により固化したならば、次に図10(IV)の第4工程から明白なように、その下塗り膜(16)の表面へやはりハケ塗りやスプレー塗装、浸漬塗装、フローコーター塗装などの適当な方法を用いて、中塗り用のサンジングシーラー(JIS K 5533)を塗工し、白色以外の有彩色中塗り膜(17)を形成する。
【0048】
中塗り用のサンジングシーラーとしても、上記下塗り用と同じく一液反応硬化型水系ウレタン樹脂塗料を使えば良いが、その顔料だけは白色以外の有彩色として、例えば緑色や黄色、赤色、その他の希望する一色を選定することにより、その一色を下塗り膜(16)の白色が反映した状態に明るく発色させる。また、その有彩色中塗り膜(17)における固化後の厚みとしては、上記下塗り膜(16)のそれよりも厚く、後述する上塗り膜のそれよりは薄い程度として、約10μm〜約15μmに設定することが好ましい。
【0049】
このような中塗り膜(17)が上記下塗り膜(16)とほぼ同じ所要時間の乾燥により固化した後、その中塗り膜(17)の表面へ引き続き図10(V)の第5工程に示す如く、ハケ塗りやスプレー塗装、浸漬塗装、ロール塗装などの適当な方法によって、上塗り用のクリヤーラッカー(JIS K 5531)を塗工し、透明の上塗り膜(18)を形成する。
【0050】
そうすれば、その透明の上塗り膜(18)を通じて、上記中塗り膜(17)の有彩色を透視することができ、その有彩色による装飾効果が金属基材(M)から表出することとなる。その上塗り膜(18)における固化後の膜厚は上記中塗り膜(17)のそれよりも薄くて良く、約5μm〜約10μmに設定することが望ましい。
【0051】
要するに、下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)との合計3層から成る全体的な膜厚は約40μm〜約50μmであり、特に下塗り膜(16)を除く中塗り膜(17)と上塗り膜(18)との2層から成る膜厚は、完成した塗装金属製品の使用法を考慮して、厚く又は薄く調整すれば良い。
【0052】
更に、その塗装金属製品が図8のようなスプーンや箸、ボール、その他の金属食器として、食料を収容したり、人体の口に接触したりする場合には、上記透明の上塗り膜(18)を厚生労働省食品衛生法、食品添加物などの規格基準に適合させて、使用上の安全を図る必要がある。
【0053】
その使用上の安全を確保する意味から言えば、塗装金属製品における人体の口に接触する部分や食料に接触する部分、耐蝕性が必要な機能部分を、その金属基材(M)における表面の非着色装飾部分(a)として位置決め選定し、この部分(a)から金属自身の光沢に富む材質感を表出させる一方、同じく表面の残る部分を着色装飾部分(b)として、この部分(b)から上記中塗り膜(17)の有彩色による装飾効果を発揮させることが望ましい。
【0054】
そして、上記透明の上塗り膜(18)が乾燥固化したならば、最後に上記塗装用の第2マスキングテープ(14)を剥離するのである。そうすれば、図10(VI)の断面図に示すような塗装金属製品が完成し、その金属基材(M)における表面の上記着色装飾部分(b)から、中塗り膜(17)の有彩色が鮮明に発色すると同時に、残る非着色装飾部分(a)から金属色の光沢が表出し、その有彩色による装飾効果と金属光沢に富む材質感とを得られる結果となる。
【0055】
しかも、このような下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)の塗装下地層が、上記レイデント処理や黒色クロムメッキ処理、その他の電気分解作用(電気化学反応)を受けて析出された多孔質の黒色化成被膜(13)から成るため、半永久的な1、2次密着力や防錆力、耐クラック性、耐候性を確保することができるのである。
【0056】
但し、上記下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)から成る合計3層のうち、その白色の下塗り膜(16)を省略して、上記塗装下地層となる黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(中塗り膜)(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(上塗り膜)(18)を各々塗工するだけにとどめてもさしつかえない。その第1塗装膜(中塗り膜)(17)の有彩色が上記塗装下地層である黒色化成被膜(13)の黒色による悪影響を受けなければ、第1、2塗装膜(17)(18)から成る合計2層も採用することができる。
【0057】
また、図11は図10と対応する別な実施形態の塗装工程を示しており、その図11(V)〜(VII)5ら明白なように、上記白色下塗り膜(16)の表面へ白色以外の有彩色中塗り膜(17)を塗工した後、その表面へ中塗り膜(17)の有彩色と異なる有彩色と、文字、図形又は記号との結合からなる標章(画像)(19)を、直かにシルクスクリーン印刷した後、これを透明な上塗り膜(18)の塗工によって被覆しても良く、そうすれば上記中塗り膜(17)の有彩色と希望の標章(画像)(19)とから成る一層興趣変化に富む装飾効果を得られる。
【0058】
塗装金属製品となる金属基材(M)が、万一シルクスクリーン印刷を行ない難い立体形状である場合には、図12、13に例示するような希望の標章(画像)(19)が予じめ印刷された転写シール(プラスチックフィルム)(20)を、その裏当て付属する離型紙の剥ぎ取り後に残る接着剤(図示省略)によって、上記中塗り膜(17)の表面へ貼り付け一体化した後、透明の上塗り膜(18)を被覆状態に塗工しても良い。このような方法でも、やはり興趣変化に富む装飾効果を得られるからである。
【0059】
図14はやはり図10と対応する更に別な実施形態として、ステンレス鋼板(SUS430)から成る金属基材(M)の塗装工程を示す断面図であり、図15はその塗装金属製品として完成した公共施設用の壁板を例示している。
【0060】
先の図10に説示した塗装工程では、電気分解用の絶縁性がある第1マスキングテープ(11)と、塗装用の熱変形しない第2マスキングテープ(14)との2種を用意して、その2種を貼り替えるようになっている。
【0061】
また、金属基材(M)における光沢に富む材質感を残したい表面の非着色装飾部分(a)へ、上記第1、2マスキングテープ(11)(14)を貼り付け使用して、これらが貼り付けられていない表面露出部分(着色装飾部分)(b)に、塗装下地層となる上記多孔質黒色化成被膜(13)の形成と少なくとも第1、2塗装膜(17)(18)の塗工とを順次行なっている。
【0062】
これに比して、図14に示す金属基材(M)の塗装工程では、上記電気分解作用(電気化学反応)と塗装に耐え得ることにより貼り替えが不要な1種のマスキングシート(離型紙付きの耐熱性プラスチックフィルム)(21)に、金属基材(M)の着色装飾部分(b)となる抜き穴(22)を型抜き加工しており、しかもその抜き穴(22)が図15に例示するような図形、文字、記号又はこれらの結合から成る一定な標章(画像)(23)の輪郭を形作っているのである。
【0063】
そして、先ず第1工程として図14(I)のように、上記マスキングシート(21)を金属基材(M)の表面へ、その離型紙の剥離後に残る接着剤(24)を介して貼り付け、次いで図14(II)の第2工程から明白なように、マスキングシート(21)の抜き穴(22)を通じた金属基材(M)の表面露出部分(着色装飾部分)(b)へ、レイデント処理や黒色クロムメッキ処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成し、これを塗装下地層として準備する。
【0064】
それから図14(III)の第3工程に示す如く、上記金属基材(M)の表面を被覆した状態にあるマスキングシート(21)と、電気分解による多孔質黒色化成被膜(13)との全面へ、表側からスプレー塗装やロール塗装、ハケ塗り、フローコーター塗装、その他の適当な塗装法によって、上記希望する一定な標章(画像)(23)となる白色の下塗り膜(16)を形成する。その下塗り用の塗料や下塗り膜(16)における固化後の膜厚、下塗り膜(16)を白色に設定した理由などは、図10に基いて説明したそれらと実質的に同じである。
【0065】
上記下塗り膜(16)が所要時間の乾燥により固化したならば、次に図14(IV)の第4工程から明白なように、その下塗り膜(16)の表面へやはりハケ塗りやスプレー塗装、ロール塗装、浸漬塗装などの適当な方法を用いて、白色以外の有彩色中塗り膜(17)を形成する。その中塗り用の塗料や中塗り膜(17)における固化後の膜厚、中塗り膜(17)を白色以外の有彩色に定めた理由などは、先の図10に基いて説明したそれらと実質的に同じである。
【0066】
更に、このような中塗り膜(17)がやはり所要時間の乾燥により固化したならば、その中塗り膜(17)の表面へ引き続き図14(V)の第5工程に示す如く、ハケ塗りやスプレー塗装、ロール塗装、フローコーター塗装などの適当な方法によって、上塗り用のクリヤーラッカー(JIS K 5531)を塗工し、透明の上塗り膜(18)を形成する。そうすれば、その上塗り膜(18)を通じて、上記中塗り膜(17)の有彩色を透視することができる。その上塗り膜(18)における固化後の膜厚は、図10に基いて説明したそれと実質的に同一である。
【0067】
そして、上記上塗り膜(18)が所要時間の乾燥により固化したならば、最後に上記金属基材(M)の表面に貼り付けられていたマスキングシート(21)を剥ぎ取るのである。そうすれば、図14(VI)と図15から明白なように、そのマスキングシート(21)の表面に搭載している上記下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)の合計3層も、一緒に剥離されることとなる結果、その他の上記多孔質黒色化成被膜(13)を塗装下地層として、これの表面に搭載していた下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)の合計3層だけが、金属基材(M)の表面上に残存して、その当初のマスキングシート(21)における抜き穴(22)と対応位置して縁取り区成された一定の標章(画像)(23)が、金属基材(M)から表出する。
【0068】
その希望する一定の標章(画像)(23)が上記中塗り膜(17)の有彩色として、金属基材(M)における表面の着色装飾部分(b)から装飾効果を発揮させるに比して、上記マスキングシート(21)の非抜き加工部分により被覆されていた金属基材(M)の表面は非着色装飾部分(a)として、そのマスキングシート(21)の剥離により露出するため、この部分(a)からは金属の光沢に富む材質感を得られることになる。
【0069】
尚、図14、15に示した下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)から成る合計3層のうち、その白色の下塗り膜(16)を省略して、上記塗装下地層となる多孔質黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(中塗り膜)(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(上塗り膜)(18)を各々塗工するだけにとどめても良い。
【0070】
このような第1、2塗装膜(17)(18)の合計2層やこれらに上記下塗り膜(16)も含む合計3層から形作られる一定の標章(画像)(23)としては、図15の平面図に示すエスニック模様や幾何学模様、組子模様、縞模様、その他の各種図形の規則的に繰り返し配列されるものが望ましい。公共施設用の壁板や鉄道車両の車体構成板などとしてふさわしい塗装金属製品を得られるからである。
【0071】
図11〜15の別な実施形態におけるその他の構成は、図1〜10の上記実施形態と実質的に同一であるため、その図11〜15に図1〜10との対応符号を記入するにとどめて、その詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0072】
(11)・第1マスキングテープ
(12)(15)(24)・接着剤
(13)・多孔質の黒色化成被膜
(14)・第2マスキングテープ
(16)・下塗り膜
(17)・中塗り膜
(18)・上塗り膜
(19)・標章(画像) (20)・転写シール
(21)・マスキングシート
(22)・抜き穴
(23)・標章(画像)
(M)・金属基材
(a)・非着色装飾部分
(b)・表面露出部分(着色装飾部分)
【技術分野】
【0001】
本発明は表面の光沢に富む材質感を残しつつも、半永久的な耐蝕性や耐候性、装飾効果などを発揮できる塗装金属製品と、そのための有効な塗装法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄や非鉄金属、合金鋼、その他の金属基材の表面へ、コーティング材から成る被膜(塗装膜)を長年月に亘って密着させることは難しく、殊更ステンレス鋼の表面には緻密過ぎる結晶の強固な酸化被膜が生成しているため、上記問題は顕著となり、半永久的な耐蝕性や耐候性、装飾効果などを確保することができない。
【0003】
この点、ステンレス基材の表面に塗装するための下地層(第1層)として、クロメート処理による化成被膜を形成することが、下記特許文献1〜4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−76835号公報
【特許文献2】特開平8−229502号公報
【特許文献3】特開2004−122409号公報
【特許文献4】特開2004−160757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記クロメート処理による化成被膜はたとえ黒色であっても、電気分解により析出された多孔質の黒色化成被膜と異なって、塗装膜の密着力に劣り、その塗装膜の剥離するおそれがあるほか、折り曲げ部からクラックを生じるおそれもある。
【0006】
更に、クロメート処理による化成被膜は耐熱性を有さないため、これを塗装下地層にすると、その上層の塗装膜を焼き付けることが難しくなり、その強制乾燥上制約を受ける問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題の改良を目的としており、その目的を達成するために、請求項1の塗装金属製品ではステンレス鋼や鉄、その他の金属基材の表面へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜を形成すると共に、
【0008】
その黒色化成被膜の表面へ有彩色の第1塗装膜と、その第1塗装膜の表面へ透明の第2塗装膜とを積層一体化したことを特徴とする。
【0009】
請求項1に従属する請求項2では、電気分解による多孔質の黒色化成被膜が無数の黒色クロム微粒子から成る1μm〜2μmの薄肉なレイデント処理被膜であることを特徴とする。
【0010】
同じく請求項1に従属する請求項3では、有彩色の第1塗装膜が文字、図形、記号又はこれらの結合から成る一定の標章を形作っていることを特徴とする。
【0011】
請求項1、2又は3に従属する請求項4では、有彩色の第1塗装膜を白色以外の中塗り膜として、その中塗り膜と塗装下地層をなす黒色化成被膜との相互間へ、白色の下塗り膜を介在させることにより、上記黒色化成被膜の表面全体を一旦隠蔽したことを特徴とする。
【0012】
更に、請求項1又は2に従属する請求項5では、有彩色の第1塗装膜を白色以外の中塗り膜として、その中塗り膜と塗装下地層をなす黒色化成被膜との相互間へ、白色の下塗り膜を介在させると共に、
【0013】
透明の第2塗装膜を上塗り膜として、その上塗り膜と上記中塗り膜との相互間へ、その中塗り膜と異なる有彩色と文字、図形又は記号との結合から成る標章が印刷された別個な転写シールを介在させたことを特徴とする。
【0014】
他方、請求項6では塗装金属製品の塗装法として、ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材における表面の一部分へ、電気分解用の絶縁性がある第1マスキングテープを貼り付けた上、その金属基材の表面に残る露出部分へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜を形成し、
【0015】
その後、上記第1マスキングテープを塗装用の熱変形しない第2マスキングテープと貼り替えた上、上記黒色化成被膜の表面へ有彩色の第1塗装膜と、その第1塗装膜の表面へ透明の第2塗装膜とを塗工して、
【0016】
最後に、上記第2マスキングテープを剥ぎ取ることにより、金属基材から自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜の有彩色とを表出させることを特徴とする。
【0017】
請求項7では同じく塗装金属製品の塗装法として、ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材の表面へ、文字や図形、記号又はこれらの結合から成る一定な標章の輪郭となる抜き穴が加工された電気分解用兼塗装用のマスキングシートを貼り付けた上、そのマスキングシートの抜き穴を通じた金属基材の表面露出部分へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜を形成し、
【0018】
その後、その黒色化成被膜と上記マスキングシートとの表面全体へ、有彩色の第1塗装膜と透明の第2塗装膜とを順次塗工して、
【0019】
最後に、上記マスキングシートを剥ぎ取ることにより、金属基材から自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜における有彩色の標章とを表出させることを特徴とする。
【0020】
請求項6又は7に従属する請求項8では、電気分解による多孔質の黒色化成被膜が無数の黒色クロム微粒子から成る1μm〜2μmの薄肉なレイデント処理被膜であることを特徴とする。
【0021】
更に、請求項6又は7に従属する請求項9では、有彩色の第1塗装膜を白色の下塗り膜とし、透明の第2塗装膜を上塗り膜として、その上塗り膜と下塗り膜との相互間へ、白色以外の有彩色中塗り膜を塗工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の構成によれば、金属基材の表面に対する第1、2塗装膜の塗装下地層が、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理などの電気分解による多孔質の黒色化成被膜から成るものとして、優れた防錆力のほか、半永久的な1、2次密着性を発揮するため、その第1、2塗装膜の剥離するおそれはなく、金属基材がステンレス鋼材であっても、冒頭に述べた問題を一切生じない。
【0023】
つまり、ステンレス鋼材の表面には冒頭に述べた強固な酸化被膜が生成しているため、耐蝕性に優れる反面、塗装膜の密着力に劣る問題があるところ、上記電気分解による多孔質の黒色化成被膜は、第1、2塗装膜の密着表面積が非常に広大であるため、その塗装膜を強固に密着一体化させることができ、併せて半永久的な防錆力も確保し得る効果がある。
【0024】
特に、請求項2の構成を採用するならば、レイデント処理被膜は通常の化学反応と異なるマイナス温度での電気分解作用(電気化学反応)により、金属基材の表面に析出された無数のアモルファス状(非結晶性)クロム微粒子から成る1μm〜2μmの多孔質な黒色化成被膜であるため、その無数の微細孔にコーティング剤(塗料)があたかも毛細血管の網状に絡らみ付き浸透する如く、その塗装膜の2次密着性に優れた下地層を形作り、金属基材を折り曲げるも、その折り曲げ部からクラックが発生するおそれもない。
【0025】
しかも、上記薄肉な多孔質黒色化成被膜の一部は、母材である金属基材の内部に拡散して、拡散層(合金層)を形成するため、半永久的に剥離するおそれがない。その合金化された金属基材の表面は安定期を経てステンレス化し、長年月に亘る強力な防錆膜を生成するのである。
【0026】
また、請求項3の構成を採用するならば、有彩色の第1塗装膜から形作られた一定の標章(画像)を、その透明な第2塗装膜から目視することができ、塗装金属製品の装飾効果を得られる。
【0027】
請求項4の構成を採用するならば、上記塗装下地層をなす多孔質の黒色化成被膜が、その文字通りの黒い色調であっても、これを白色の下塗り層によって一旦全面的に隠蔽しており、その下塗り膜の表面に白色以外の有彩色(例えば青色や緑色、赤色、黄色など)中塗り膜が積層一体化しているため、その中塗り膜の有彩色を白色の下塗り膜によって、明るく良好に発色させ得る効果がある
【0028】
更に、請求項5の構成を採用するならば、上記中塗り膜から発色される有彩色(白色以外)の装飾効果だけにとどまらず、その中塗り膜の有彩色と異なる有彩色と、文字、図形又は記号との結合から成るものとして、別個な転写シールに印刷された一定の標章(画像)を、透明な上塗り膜から目視できる状態に表出させることもでき、塗装金属製品の一層興趣変化に富む装飾効果を得られる。
【0029】
請求項6の塗装法によれば、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による塗装下地処理を金属基材の表面一部分へ、そのための電気絶縁性があるビニールテープなどの第1マスキングテープを貼り付け使用することによって、容易に支障なく実行して、塗装下地層となる多孔質の黒色化成被膜を形成することができ、その後その第1マスキングテープを塗装用である紙などの熱変形しない第2マスキングテープと貼り替えることにより、上記黒色化成被膜の表面へ有彩色の第1塗装膜と透明の第2塗装膜とを順次塗工し得るのであり、作業性に優れる。
【0030】
その場合、金属基材の第1マスキングテープや第2マスキングテープを貼り付けていない表面露出部分へ、塗装下地層となる黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質な黒色化成被膜の形成と、引き続く第1、2塗装膜の塗工を行なって、その第1塗装膜の有彩色による装飾効果(意匠性)を付与している一方、上記第1マスキングテープやその後の第2マスキングテープを貼り付けていた被覆部分は、その最終的なテープの剥ぎ取りによって、金属基材の光沢に富む材質感を表出することになるため、その材質感と上記有彩色との組合せから成る優美な装飾効果を得られるのであり、特にステンレス基材に有効と言える。
【0031】
他方、請求項7の塗装法によれば、電気分解作用(電気化学反応)と塗装との何れにも耐えることができ、しかも希望の一定な標章(画像)が姿(輪郭)抜き加工されたマスキングシートを使用しているため、その貼り付け後の金属基材に対する黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解作用と、その電気分解作用による多孔質な黒色化成被膜の形成と、その化成被膜と上記マスキングシートとの表面全体に対する第1、2塗装膜の塗工とを、能率良く実行することができ、そのマスキングシートの最終的な剥ぎ取りによって、やはり金属基材自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜の有彩色との組合せから成る優美な装飾効果を得られるのである。
【0032】
上記請求項6と請求項7との何れの塗装法にあっても、特に請求項8の構成を採用するならば、上記請求項2と対応する効果を達成することができ、耐蝕性と密着力、意匠性なとに著しく優れた塗装金属製品を得ることに役立つ。
【0033】
特に、請求項9の構成を採用するならば、上記請求項4と対応する効果を得られるのであり、その下塗り膜の白色を背景として、中塗り膜の有彩色(白色以外)を明るく良好に発色させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る各種塗装金属製品としての給水栓を示す正面図である。
【図2】その給水栓の胴体部分を抽出して示す平面図である。
【図3】図2の正面図である。
【図4】塗装金属製品としての自転車を示す側面図である。
【図5】自転車のスポークを抽出して示す正面図である。
【図6】塗装金属製品としてのレバーハンドルを示す斜面図である。
【図7】塗装金属製品としてのトランペット(楽器)を示す正面図である。
【図8】塗装金属製品としてのスプーン(食器)を示す正面図である。
【図9】塗装金属製品としてのスパナ(工具)を示す正面図である。
【図10】上記塗装金属製品の塗装工程を示す断面図である。
【図11】塗装金属製品の別な塗装工程を示す断面図である。
【図12】転写シールの平面図である。
【図13】図12の13−13線断面図である。
【図14】上記塗装金属製品の更に別な塗装工程を示す断面図である。
【図15】図14(VI)の概略的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1〜9は本発明の各種塗装金属製品として、水道用の給水栓(銅合金)や自転車のスポーク(ステンレス鋼)、扉開閉用のレバーハンドル(ステンレス鋼)、トランペット(真鋳)、スプーン(真鋳)、スパナ(合金工具鋼)を例示しており、その材質を括弧内に記載している。また、図10はステンレス鋼板(SUS304)を金属基材(M)の代表例として、その塗装工程を示す断面図である。
【0036】
そこで、図10(I)〜(VI)に基いて本発明に係る塗装金属製品の塗装法を詳述すると、次のとおりである。即ち、金属基材(M)の表面に付着している油脂分や汚れを除去するため、予じめシンナーでの洗浄や脱脂処理などを行なっておく。
【0037】
そして、先ず第1工程として金属基材(M)の光沢に富む材質感を残したい表面の非着色装飾部分(a)には、後述する黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解作用(電気化学反応)に耐え得る電気絶縁性や非化学反応性などがある第1マスキングテープ(11)を貼り付ける。その第1マスキングテープ(11)としては、離型紙付きのビニールテープやその他のプラスチック製テープを採用し、その離型紙の剥ぎ取り後に残る接着剤(12)を介して、金属基材(M)の非着色装飾部分(a)へ図10(I)のような被覆状態に貼り付ければ良い。
【0038】
次に、第2工程として図10(II)から明白なように、上記金属基材(M)の表面が露出する部分(追って着色されることになる装飾部分)(b)にレイデント処理(本出願人の所有する登録商標)を行なう。レイデント処理とは本出願人の技術開発した特殊な金属表面処理を意味し、主としてクロム酸水溶液に適宜触媒成分を添加し、約マイナス5℃〜約マイナス10℃の冷温(低温)下において直流電解(例えば約6V〜約12Vで約5分〜約60分)を行なうことにより、金属表面にクロム微粒子群の多孔質黒色被膜を約1μm〜約2μmの厚みだけ析出させる方法である。
【0039】
このようなレイデント処理による多孔質の黒色化成被膜は、その一部が母材である金属基材(M)の内部へ境界面なく拡散して、約1μmの拡散層(合金層)を形成することになるため、優れた密着力と防錆力を発揮し、長年月に亘って剥離したり、発錆したりするおそれがない。しかも、上記サブミクロン級のアモルファス状クロム微粒子が集積し、無数のピンホールやマイクロクラックを有する多孔質の被膜として、後述するコーティング剤(塗料)との接触表面積が著しく広大であり、その被膜へコーティング剤があたかも毛細血管の隅々まで網状に浸透する如く、その塗装膜の2次密着性に優れた下地層を形作ることができる。
【0040】
但し、母材の金属基材(M)に対する密着力と防錆力を期待でき、塗装膜の2次密着性に優れた下地層を形成し得る限りでは、上記レイデント処理による多孔質の黒色化成被膜に代えて、黒色クロムメッキ処理やその他の電気分解により析出される多孔質の黒色化成被膜を採用しても良い。図10の符号(13)はこのようなレイデント処理や黒色クロムメッキ処理、その他の電気分解により金属基材(M)の表面に形成された多孔質の黒色化成被膜を示しており、これが後述の塗装下地層になる。
【0041】
上記レイデント処理や黒色クロムメッキ処理などの電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成できたならば、次に図10(III)の第3工程に示す如く、その電気分解作用のために使った上記第1マスキングテープ(11)を、金属基材(M)の表面から剥離して、その代りの塗装用となる紙製テープなどの熱変形しない第2マスキングテープ(14)を、上記金属基材(M)における表面の非着色装飾部分(a)へ貼り付ける。
【0042】
このような塗装用の第2マスキングテープ(14)も離型紙付きであり、その離型紙の剥離後に残る接着剤(15)を介して、上記第1マスキングテープ(11)との交換的に貼り付ければ良い。但し、上記電気分解作用(電気化学反応)に耐え得る電気絶縁性や非化学反応性のみならず、塗装用としての高い乾燥温度(約80℃〜約100℃)に晒されるも変形しない安定性や剥離容易性をも有し、終始一貫して使用できるマスキングテープであるならば、必らずしも上記第1、2マスキングテープ(11)(14)の貼り替えを要さない。
【0043】
そして、上記塗装用である第2マスキングテープ(14)の貼り付けにより、やはり金属基材(M)における表面の非着色装飾部分(a)を被覆した状態のもとで、その金属基材(M)における上記電気分解による多孔質黒色化成被膜(13)の表面へ、図10(III)のようにハケ塗りやスプレー塗装、浸漬塗装、ロール塗装などの適当な方法を用いて、ウッドシーラー(JIS K 5533)を塗工し、白色の下塗り膜(16)を形成する。
【0044】
その下塗り用のウッドシーラーとしては、白色の顔料が添加された一液反応硬化型水系ウレタン樹脂塗料(大日本塗料の商品名「DNT ビューウレタン」)を使って塗工し、その固化後の膜厚を約15μm〜約25μm、就中約20μmに設定することが好ましい。
【0045】
茲に、下塗り膜(16)を白色に設定した所以は、先の電気分解による多孔質化成被膜(13)の黒色を一旦隠蔽して、後述する中塗り膜の有彩色が暗くなることを防ぎ、その中塗り膜の有彩色を明るく良好に発色させるためである。
【0046】
その意味から言えば、下塗り膜(16)の厚みとしても15μmより薄いと、塗装下地層の上記黒色化成被膜(13)が未だ灰色に表出することとなり、その塗装下地層としての黒色を完全に隠蔽することができない。他方、25μmよりも厚くすることは、その後の中塗り膜並びに上塗り膜を考慮した場合、下塗り膜(16)として厚肉に過ぎ、不必要・不経済でもある。そのため、約20μmの膜厚に形成することが最も好ましい。
【0047】
何れにしても、下塗り膜(16)が所要時間(例えば20℃で25分以内、又は10℃で1時間以内)の乾燥により固化したならば、次に図10(IV)の第4工程から明白なように、その下塗り膜(16)の表面へやはりハケ塗りやスプレー塗装、浸漬塗装、フローコーター塗装などの適当な方法を用いて、中塗り用のサンジングシーラー(JIS K 5533)を塗工し、白色以外の有彩色中塗り膜(17)を形成する。
【0048】
中塗り用のサンジングシーラーとしても、上記下塗り用と同じく一液反応硬化型水系ウレタン樹脂塗料を使えば良いが、その顔料だけは白色以外の有彩色として、例えば緑色や黄色、赤色、その他の希望する一色を選定することにより、その一色を下塗り膜(16)の白色が反映した状態に明るく発色させる。また、その有彩色中塗り膜(17)における固化後の厚みとしては、上記下塗り膜(16)のそれよりも厚く、後述する上塗り膜のそれよりは薄い程度として、約10μm〜約15μmに設定することが好ましい。
【0049】
このような中塗り膜(17)が上記下塗り膜(16)とほぼ同じ所要時間の乾燥により固化した後、その中塗り膜(17)の表面へ引き続き図10(V)の第5工程に示す如く、ハケ塗りやスプレー塗装、浸漬塗装、ロール塗装などの適当な方法によって、上塗り用のクリヤーラッカー(JIS K 5531)を塗工し、透明の上塗り膜(18)を形成する。
【0050】
そうすれば、その透明の上塗り膜(18)を通じて、上記中塗り膜(17)の有彩色を透視することができ、その有彩色による装飾効果が金属基材(M)から表出することとなる。その上塗り膜(18)における固化後の膜厚は上記中塗り膜(17)のそれよりも薄くて良く、約5μm〜約10μmに設定することが望ましい。
【0051】
要するに、下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)との合計3層から成る全体的な膜厚は約40μm〜約50μmであり、特に下塗り膜(16)を除く中塗り膜(17)と上塗り膜(18)との2層から成る膜厚は、完成した塗装金属製品の使用法を考慮して、厚く又は薄く調整すれば良い。
【0052】
更に、その塗装金属製品が図8のようなスプーンや箸、ボール、その他の金属食器として、食料を収容したり、人体の口に接触したりする場合には、上記透明の上塗り膜(18)を厚生労働省食品衛生法、食品添加物などの規格基準に適合させて、使用上の安全を図る必要がある。
【0053】
その使用上の安全を確保する意味から言えば、塗装金属製品における人体の口に接触する部分や食料に接触する部分、耐蝕性が必要な機能部分を、その金属基材(M)における表面の非着色装飾部分(a)として位置決め選定し、この部分(a)から金属自身の光沢に富む材質感を表出させる一方、同じく表面の残る部分を着色装飾部分(b)として、この部分(b)から上記中塗り膜(17)の有彩色による装飾効果を発揮させることが望ましい。
【0054】
そして、上記透明の上塗り膜(18)が乾燥固化したならば、最後に上記塗装用の第2マスキングテープ(14)を剥離するのである。そうすれば、図10(VI)の断面図に示すような塗装金属製品が完成し、その金属基材(M)における表面の上記着色装飾部分(b)から、中塗り膜(17)の有彩色が鮮明に発色すると同時に、残る非着色装飾部分(a)から金属色の光沢が表出し、その有彩色による装飾効果と金属光沢に富む材質感とを得られる結果となる。
【0055】
しかも、このような下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)の塗装下地層が、上記レイデント処理や黒色クロムメッキ処理、その他の電気分解作用(電気化学反応)を受けて析出された多孔質の黒色化成被膜(13)から成るため、半永久的な1、2次密着力や防錆力、耐クラック性、耐候性を確保することができるのである。
【0056】
但し、上記下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)から成る合計3層のうち、その白色の下塗り膜(16)を省略して、上記塗装下地層となる黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(中塗り膜)(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(上塗り膜)(18)を各々塗工するだけにとどめてもさしつかえない。その第1塗装膜(中塗り膜)(17)の有彩色が上記塗装下地層である黒色化成被膜(13)の黒色による悪影響を受けなければ、第1、2塗装膜(17)(18)から成る合計2層も採用することができる。
【0057】
また、図11は図10と対応する別な実施形態の塗装工程を示しており、その図11(V)〜(VII)5ら明白なように、上記白色下塗り膜(16)の表面へ白色以外の有彩色中塗り膜(17)を塗工した後、その表面へ中塗り膜(17)の有彩色と異なる有彩色と、文字、図形又は記号との結合からなる標章(画像)(19)を、直かにシルクスクリーン印刷した後、これを透明な上塗り膜(18)の塗工によって被覆しても良く、そうすれば上記中塗り膜(17)の有彩色と希望の標章(画像)(19)とから成る一層興趣変化に富む装飾効果を得られる。
【0058】
塗装金属製品となる金属基材(M)が、万一シルクスクリーン印刷を行ない難い立体形状である場合には、図12、13に例示するような希望の標章(画像)(19)が予じめ印刷された転写シール(プラスチックフィルム)(20)を、その裏当て付属する離型紙の剥ぎ取り後に残る接着剤(図示省略)によって、上記中塗り膜(17)の表面へ貼り付け一体化した後、透明の上塗り膜(18)を被覆状態に塗工しても良い。このような方法でも、やはり興趣変化に富む装飾効果を得られるからである。
【0059】
図14はやはり図10と対応する更に別な実施形態として、ステンレス鋼板(SUS430)から成る金属基材(M)の塗装工程を示す断面図であり、図15はその塗装金属製品として完成した公共施設用の壁板を例示している。
【0060】
先の図10に説示した塗装工程では、電気分解用の絶縁性がある第1マスキングテープ(11)と、塗装用の熱変形しない第2マスキングテープ(14)との2種を用意して、その2種を貼り替えるようになっている。
【0061】
また、金属基材(M)における光沢に富む材質感を残したい表面の非着色装飾部分(a)へ、上記第1、2マスキングテープ(11)(14)を貼り付け使用して、これらが貼り付けられていない表面露出部分(着色装飾部分)(b)に、塗装下地層となる上記多孔質黒色化成被膜(13)の形成と少なくとも第1、2塗装膜(17)(18)の塗工とを順次行なっている。
【0062】
これに比して、図14に示す金属基材(M)の塗装工程では、上記電気分解作用(電気化学反応)と塗装に耐え得ることにより貼り替えが不要な1種のマスキングシート(離型紙付きの耐熱性プラスチックフィルム)(21)に、金属基材(M)の着色装飾部分(b)となる抜き穴(22)を型抜き加工しており、しかもその抜き穴(22)が図15に例示するような図形、文字、記号又はこれらの結合から成る一定な標章(画像)(23)の輪郭を形作っているのである。
【0063】
そして、先ず第1工程として図14(I)のように、上記マスキングシート(21)を金属基材(M)の表面へ、その離型紙の剥離後に残る接着剤(24)を介して貼り付け、次いで図14(II)の第2工程から明白なように、マスキングシート(21)の抜き穴(22)を通じた金属基材(M)の表面露出部分(着色装飾部分)(b)へ、レイデント処理や黒色クロムメッキ処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成し、これを塗装下地層として準備する。
【0064】
それから図14(III)の第3工程に示す如く、上記金属基材(M)の表面を被覆した状態にあるマスキングシート(21)と、電気分解による多孔質黒色化成被膜(13)との全面へ、表側からスプレー塗装やロール塗装、ハケ塗り、フローコーター塗装、その他の適当な塗装法によって、上記希望する一定な標章(画像)(23)となる白色の下塗り膜(16)を形成する。その下塗り用の塗料や下塗り膜(16)における固化後の膜厚、下塗り膜(16)を白色に設定した理由などは、図10に基いて説明したそれらと実質的に同じである。
【0065】
上記下塗り膜(16)が所要時間の乾燥により固化したならば、次に図14(IV)の第4工程から明白なように、その下塗り膜(16)の表面へやはりハケ塗りやスプレー塗装、ロール塗装、浸漬塗装などの適当な方法を用いて、白色以外の有彩色中塗り膜(17)を形成する。その中塗り用の塗料や中塗り膜(17)における固化後の膜厚、中塗り膜(17)を白色以外の有彩色に定めた理由などは、先の図10に基いて説明したそれらと実質的に同じである。
【0066】
更に、このような中塗り膜(17)がやはり所要時間の乾燥により固化したならば、その中塗り膜(17)の表面へ引き続き図14(V)の第5工程に示す如く、ハケ塗りやスプレー塗装、ロール塗装、フローコーター塗装などの適当な方法によって、上塗り用のクリヤーラッカー(JIS K 5531)を塗工し、透明の上塗り膜(18)を形成する。そうすれば、その上塗り膜(18)を通じて、上記中塗り膜(17)の有彩色を透視することができる。その上塗り膜(18)における固化後の膜厚は、図10に基いて説明したそれと実質的に同一である。
【0067】
そして、上記上塗り膜(18)が所要時間の乾燥により固化したならば、最後に上記金属基材(M)の表面に貼り付けられていたマスキングシート(21)を剥ぎ取るのである。そうすれば、図14(VI)と図15から明白なように、そのマスキングシート(21)の表面に搭載している上記下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)の合計3層も、一緒に剥離されることとなる結果、その他の上記多孔質黒色化成被膜(13)を塗装下地層として、これの表面に搭載していた下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)の合計3層だけが、金属基材(M)の表面上に残存して、その当初のマスキングシート(21)における抜き穴(22)と対応位置して縁取り区成された一定の標章(画像)(23)が、金属基材(M)から表出する。
【0068】
その希望する一定の標章(画像)(23)が上記中塗り膜(17)の有彩色として、金属基材(M)における表面の着色装飾部分(b)から装飾効果を発揮させるに比して、上記マスキングシート(21)の非抜き加工部分により被覆されていた金属基材(M)の表面は非着色装飾部分(a)として、そのマスキングシート(21)の剥離により露出するため、この部分(a)からは金属の光沢に富む材質感を得られることになる。
【0069】
尚、図14、15に示した下塗り膜(16)と中塗り膜(17)並びに上塗り膜(18)から成る合計3層のうち、その白色の下塗り膜(16)を省略して、上記塗装下地層となる多孔質黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(中塗り膜)(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(上塗り膜)(18)を各々塗工するだけにとどめても良い。
【0070】
このような第1、2塗装膜(17)(18)の合計2層やこれらに上記下塗り膜(16)も含む合計3層から形作られる一定の標章(画像)(23)としては、図15の平面図に示すエスニック模様や幾何学模様、組子模様、縞模様、その他の各種図形の規則的に繰り返し配列されるものが望ましい。公共施設用の壁板や鉄道車両の車体構成板などとしてふさわしい塗装金属製品を得られるからである。
【0071】
図11〜15の別な実施形態におけるその他の構成は、図1〜10の上記実施形態と実質的に同一であるため、その図11〜15に図1〜10との対応符号を記入するにとどめて、その詳細な説明を省略する。
【符号の説明】
【0072】
(11)・第1マスキングテープ
(12)(15)(24)・接着剤
(13)・多孔質の黒色化成被膜
(14)・第2マスキングテープ
(16)・下塗り膜
(17)・中塗り膜
(18)・上塗り膜
(19)・標章(画像) (20)・転写シール
(21)・マスキングシート
(22)・抜き穴
(23)・標章(画像)
(M)・金属基材
(a)・非着色装飾部分
(b)・表面露出部分(着色装飾部分)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材(M)の表面へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成すると共に、
その黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(18)とを積層一体化したことを特徴とする塗装金属製品。
【請求項2】
電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)が無数の黒色クロム微粒子から成る1μm〜2μmの薄肉なレイデント処理被膜であることを特徴とする請求項1記載の塗装金属製品。
【請求項3】
有彩色の第1塗装膜(17)が文字、図形、記号又はこれらの結合から成る一定の標章(19)を形作っていることを特徴とする請求項1記載の塗装金属製品。
【請求項4】
有彩色の第1塗装膜(17)を白色以外の中塗り膜として、その中塗り膜(17)と塗装下地層をなす黒色化成被膜(13)との相互間へ、白色の下塗り膜(16)を介在させることにより、上記黒色化成被膜(13)の表面全体を一旦隠蔽したことを特徴とする請求項1、2又は3記載の塗装金属製品。
【請求項5】
有彩色の第1塗装膜(17)を白色以外の中塗り膜として、その中塗り膜(17)と塗装下地層をなす黒色化成被膜(13)との相互間へ、白色の下塗り膜(16)を介在させると共に、
透明の第2塗装膜(18)を上塗り膜として、その上塗り膜(18)と上記中塗り膜(17)との相互間へ、その中塗り膜(17)と異なる有彩色と文字、図形又は記号との結合から成る標章(19)が印刷された別個な転写シール(20)を介在させたことを特徴とする請求項1又は2記載の塗装金属製品。
【請求項6】
ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材(M)における表面の一部分(a)へ、電気分解用の絶縁性がある第1マスキングテープ(11)を貼り付けた上、その金属基材(M)の表面に残る露出部分(b)へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成し、
その後、上記第1マスキングテープ(11)を塗装用の熱変形しない第2マスキングテープ(14)と貼り替えた上、上記黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(18)とを塗工して、
最後に、上記第2マスキングテープ(14)を剥ぎ取ることにより、金属基材(M)から自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜(17)の有彩色とを表出させることを特徴とする塗装金属製品の塗装法。
【請求項7】
ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材(M)の表面へ、文字や図形、記号又はこれらの結合から成る一定な標章(23)の輪郭となる抜き穴(22)が加工された電気分解用兼塗装用のマスキングシート(21)を貼り付けた上、そのマスキングシート(21)の抜き穴(22)を通じた金属基材(M)の表面露出部分(b)へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成し、
その後、その黒色化成被膜(13)と上記マスキングシート(21)との表面全体へ、有彩色の第1塗装膜(17)と透明の第2塗装膜(18)とを順次塗工して、
最後に、上記マスキングシート(21)を剥ぎ取ることにより、金属基材(M)から自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜(17)における有彩色の標章(23)とを表出させることを特徴とする塗装金属製品の塗装法。
【請求項8】
電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)が無数の黒色クロム微粒子から成る1μm〜2μmの薄肉なレイデント処理被膜であることを特徴とする請求項6又は7記載の塗装金属製品の塗装法。
【請求項9】
有彩色の第1塗装膜を白色の下塗り膜(16)とし、透明の第2塗装膜を上塗り膜(18)として、その上塗り膜(18)と下塗り膜(16)との相互間へ、白色以外の有彩色中塗り膜(17)を塗工することを特徴とする請求項6又は7記載の塗装金属製品の塗装法。
【請求項1】
ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材(M)の表面へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成すると共に、
その黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(18)とを積層一体化したことを特徴とする塗装金属製品。
【請求項2】
電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)が無数の黒色クロム微粒子から成る1μm〜2μmの薄肉なレイデント処理被膜であることを特徴とする請求項1記載の塗装金属製品。
【請求項3】
有彩色の第1塗装膜(17)が文字、図形、記号又はこれらの結合から成る一定の標章(19)を形作っていることを特徴とする請求項1記載の塗装金属製品。
【請求項4】
有彩色の第1塗装膜(17)を白色以外の中塗り膜として、その中塗り膜(17)と塗装下地層をなす黒色化成被膜(13)との相互間へ、白色の下塗り膜(16)を介在させることにより、上記黒色化成被膜(13)の表面全体を一旦隠蔽したことを特徴とする請求項1、2又は3記載の塗装金属製品。
【請求項5】
有彩色の第1塗装膜(17)を白色以外の中塗り膜として、その中塗り膜(17)と塗装下地層をなす黒色化成被膜(13)との相互間へ、白色の下塗り膜(16)を介在させると共に、
透明の第2塗装膜(18)を上塗り膜として、その上塗り膜(18)と上記中塗り膜(17)との相互間へ、その中塗り膜(17)と異なる有彩色と文字、図形又は記号との結合から成る標章(19)が印刷された別個な転写シール(20)を介在させたことを特徴とする請求項1又は2記載の塗装金属製品。
【請求項6】
ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材(M)における表面の一部分(a)へ、電気分解用の絶縁性がある第1マスキングテープ(11)を貼り付けた上、その金属基材(M)の表面に残る露出部分(b)へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成し、
その後、上記第1マスキングテープ(11)を塗装用の熱変形しない第2マスキングテープ(14)と貼り替えた上、上記黒色化成被膜(13)の表面へ有彩色の第1塗装膜(17)と、その第1塗装膜(17)の表面へ透明の第2塗装膜(18)とを塗工して、
最後に、上記第2マスキングテープ(14)を剥ぎ取ることにより、金属基材(M)から自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜(17)の有彩色とを表出させることを特徴とする塗装金属製品の塗装法。
【請求項7】
ステンレス鋼や鉄、その他の金属基材(M)の表面へ、文字や図形、記号又はこれらの結合から成る一定な標章(23)の輪郭となる抜き穴(22)が加工された電気分解用兼塗装用のマスキングシート(21)を貼り付けた上、そのマスキングシート(21)の抜き穴(22)を通じた金属基材(M)の表面露出部分(b)へ塗装下地層として、黒色クロムメッキ処理やレイデント処理、その他の電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)を形成し、
その後、その黒色化成被膜(13)と上記マスキングシート(21)との表面全体へ、有彩色の第1塗装膜(17)と透明の第2塗装膜(18)とを順次塗工して、
最後に、上記マスキングシート(21)を剥ぎ取ることにより、金属基材(M)から自身の光沢に富む材質感と、上記第1塗装膜(17)における有彩色の標章(23)とを表出させることを特徴とする塗装金属製品の塗装法。
【請求項8】
電気分解による多孔質の黒色化成被膜(13)が無数の黒色クロム微粒子から成る1μm〜2μmの薄肉なレイデント処理被膜であることを特徴とする請求項6又は7記載の塗装金属製品の塗装法。
【請求項9】
有彩色の第1塗装膜を白色の下塗り膜(16)とし、透明の第2塗装膜を上塗り膜(18)として、その上塗り膜(18)と下塗り膜(16)との相互間へ、白色以外の有彩色中塗り膜(17)を塗工することを特徴とする請求項6又は7記載の塗装金属製品の塗装法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−201285(P2011−201285A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141274(P2010−141274)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(596086044)レイデント工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(596086044)レイデント工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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