説明

塗装鋼板およびその製造方法、並びに化成処理液

【課題】 環境調和性に加えて端面耐食性にも優れたクロムフリー塗装鋼板を提供する。
【解決手段】 亜鉛系めっき鋼板を下地鋼板とし、該下地鋼板のめっき皮膜の上層に、ガラス転移温度Tgが0℃以上ポリウレタンとガラス転移温度Tgが−10℃以下のポリウレタンを所定の質量比で混合した水分散性ポリウレタンと、シリカと、ジルコニウム化合物と、シランカップリング剤とを含む化成処理液を用いて化成処理層を形成し、更に、該化成処理層の上層に下塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを形成する。これにより、化成処理層の臨界剥離強度が5mN以上と高くなり、環境に悪影響を及ぼすことなく、塗装鋼板の耐食性、特に端面耐食性が顕著に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理層を具えた塗装鋼板に係り、優れた端面耐食性と環境調和性(クロムフリー)とを兼ね備えた塗装鋼板およびその製造方法、並びに、塗装鋼板に優れた端面耐食性と環境調和性とを付与するための化成処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装鋼板は、下地鋼板に塗装を施した状態でユーザーに納品され、ユーザーは自らが塗装工程を行うことなく鋼板を所望の形状に加工できるため、ユーザーでの塗装工程を省略することを可能とし、コストダウン、作業環境向上の要求に適合することから、家電、建材等の分野において広く普及している。
【0003】
塗装鋼板は、めっき鋼板、代表的には亜鉛系めっき鋼板を下地鋼板とし、下地鋼板の上層に化成処理層、下塗り塗膜層、上塗り塗膜層を順次形成した構成とするのが一般的である。化成処理層は、下地鋼板と塗膜層(下塗り塗膜層、上塗り塗膜層)との密着性を向上させるとともに、鋼板の耐食性を向上させる機能を有するものである。また、下塗り塗膜層は、下地鋼板と上塗り塗膜層との密着性を向上させるとともに鋼板の耐食性を向上させる機能を有し、最上層の上塗り塗膜層は、主として鋼板の用途に応じた外観や性能、耐候性を付与するものである。
【0004】
塗装鋼板には、耐食性、(塗膜の)密着性の他、その用途に応じて種々の特性が要求されるが、特に重視されるのは端面耐食性である。家電製品や建材は、塗装鋼板に切断、打ち抜き等の加工を施す工程を経て製造されるが、加工後の塗装鋼板では、その切断端面やせん断端面に下地鋼板の素地鋼板やめっき層が露出した状態となり、これら端面から腐食が進行する。
【0005】
従来広く使用されてきた塗装鋼板では、耐食性および密着性を確保する目的で、例えば特許文献1に開示されているように、下地鋼板にクロメート処理を施すことにより化成処理層を形成するとともに、クロム系防錆顔料を含有する下塗り塗膜層を具えたプレコート鋼板が提案されている。しかしながら、昨今、環境問題に対する意識が高まる中、このような塗装鋼板については、毒性の強いクロムの溶出による公害発生が問題視されつつある。そのため、クロメートおよびクロム系防錆顔料を含有しないクロムフリー塗装鋼板の開発が予てから望まれており、現在までに多くの提案が為されている。
【0006】
その一例を挙げると、特許文献2では、溶融亜鉛めっき鋼板を下地鋼板とし、この下地鋼板に、シリカ微粒子とその結合剤とを含む化成処理皮膜を形成し、更に、クロム系防錆顔料に代わる防錆顔料としてCa成分、シリカ/ケイ酸塩やリン酸/リン酸塩を下塗り塗膜層に添加する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−316497号公報
【特許文献2】特開2001−191447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、現在までに提案されているクロムフリー塗装鋼板では、クロメートおよびクロム系防錆顔料を含有する塗装鋼板と同等の耐食性・密着性を得ることができなかった。特に、端面耐食性に関しては、現在までに提案されているクロムフリー塗装鋼板では全く不十分であり、切断、打ち抜き等の加工工程を経て製造される家電製品等への適用が困難であり、実用性に欠くものであった。
【0009】
本発明は、上記した課題を有利に解決するものであり、クロムフリー、すなわち環境調和性に加えて端面耐食性にも優れた塗装鋼板およびその製造方法、並びに、その製造に適した化成処理液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、亜鉛系めっき鋼板を下地鋼板とするクロムフリー塗装鋼板に関し、端面耐食性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、塗膜層(下塗り塗膜層・上塗り塗膜層)の下層にある化成処理層の皮膜物性、特に、下地亜鉛めっき層と化成処理層との間の密着力に大きく寄与する塗膜層形成前の化成処理層の剥離強度が、塗膜層形成後の塗装鋼板の端面耐食性を大きく左右することを知見した。
【0011】
そこで、更に検討を進めた結果、下地鋼板に化成処理を施して所定の臨界剥離強度を有する化成処理層とした後、該化成処理層の上層に塗膜層を形成することにより、塗膜層形成後の塗装鋼板の端面耐食性が飛躍的に向上することを知見した。また、所望の臨界剥離強度を有する化成処理層を製造する上では、化成処理剤の成分およびその配合の最適化を図ることが有効であることを知見した。
【0012】
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1] 亜鉛系めっき鋼板を下地鋼板とし、該下地鋼板のめっき皮膜の上層に化成処理層と、該化成処理層の上層に下塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを有する塗装鋼板であって、
前記化成処理層の臨界剥離強度が5mN以上であることを特徴とする塗装鋼板。
【0013】
[2] 前記化成処理層が、
ポリウレタンと、シリカと、ジルコニウム化合物とを含有し、
前記ポリウレタンの含有量が、前記シリカ100質量部に対し100〜700質量部であり、
前記ジルコニウム化合物のZr換算量が、前記シリカ100質量部に対し5〜100質量部であり、
前記化成処理層の鋼板片面当たりの付着量が1〜150mg/m2であることを特徴とする前記[1]の塗装鋼板。
【0014】
[3] 前記[1]または[2]の塗装鋼板の製造方法であって、
亜鉛系めっき鋼板を下地鋼板とし、該下地鋼板に、下記(1)〜(4)を含有する化成処理液を用いて化成処理を施し、化成処理層の鋼板片面当たりの付着量が1〜150mg/m2である化成処理鋼板とし、ついで該化成処理鋼板に下塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを形成することを特徴とする塗装鋼板の製造方法。

(1)ガラス転移温度Tgが0℃以上の高Tgポリウレタンと、ガラス転移温度Tgが−10℃以下の低Tgポリウレタンからなり、前記高Tgポリウレタンと前記低Tgポリウレタンの混合比が質量比で65:35〜90:10であり、前記化成処理液中の含有量が固形分として0.1〜500g/Lである水分散性ポリウレタン。
(2)前記化成処理液中の含有量が固形分として1〜300g/Lであるシリカ。
(3)前記化成処理液中の含有量がZr換算量で1〜250g/Lであるジルコニウム化合物。
(4)前記化成処理液中の含有量が固形分として0.001〜10g/Lであるシランカップリング剤。
【0015】
[4] 下記(1)〜(4)を含有することを特徴とする化成処理液。

(1)ガラス転移温度Tgが0℃以上の高Tgポリウレタンと、ガラス転移温度Tgが−10℃以下の低Tgポリウレタンからなり、前記高Tgポリウレタンと前記低Tgポリウレタンの混合比が質量比で65:35〜90:10であり、前記化成処理液中の含有量が固形分として0.1〜500g/Lである水分散性ポリウレタン。
(2)前記化成処理液中の含有量が固形分として1〜300g/Lであるシリカ。
(3)前記化成処理液中の含有量がZr換算量で1〜250g/Lであるジルコニウム化合物。
(4)前記化成処理液中の含有量が固形分として0.001〜10g/Lであるシランカップリング剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クロムフリー塗装鋼板の諸特性、特に端面耐食性が飛躍的に向上する。そのため、切断、打ち抜き等の加工工程を経て製造され、鋼板端面からの腐食が問題視されていた家電製品等への適用が可能となる等、クロムフリー塗装鋼板の応用範囲が広まり、産業上格段の効果を奏する。本発明の塗装鋼板は、家電製品や建材以外にも、自動車用その他の用途としても使用することができるという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の塗装鋼板の下地鋼板となる亜鉛系めっき鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn-Ni合金めっき鋼板、溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板(例えば、Zn-6質量%Al-3質量%Mg合金めっき鋼板、溶融Zn-11質量%Al-3質量%Mg合金めっき鋼板)、溶融Zn-Al合金めっき鋼板(例えば、Zn-5質量%Al合金めっき鋼板)などを用いることが可能である。さらに、これら各種めっき鋼板のめっき層中に、少量の異種金属元素または不純物としてニッケル、コバルト、マンガン、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、鉛、アンチモン、錫、銅などの1種または2種以上を含有しためっき鋼板を用いることもできる。また、上記のようなめっきのうち、同種または異種のものを2層以上めっきした複層めっき鋼板を用いることもできる。
【0018】
本発明の塗装鋼板では、上記したような下地鋼板に化成処理を施し、その表面に化成処理層を形成するが、ここで重要となるのは化成処理層の臨界剥離強度である。本発明においては、下地鋼板に化成処理を施し、めっき層の上層として化成処理層を有する化成処理鋼板(下塗り塗膜層および上塗り塗膜層を形成する前の鋼板)の化成処理層の臨界剥離強度を5mN以上とすることに特徴がある。
【0019】
本発明において、化成処理層の臨界剥離強度の値は、(株)レスカ製・超薄膜スクラッチ試験機(CSR-2000型)を用いて測定した値とする。また、スタイラスには、バネ定数:100g/mmの弾性アームに取り付けた先端触針形状:R5μmのダイヤモンド触針を用い、スクラッチ速度:10μm/sec、荷重印加速度:25mN/60sec、励振周波数:45Hz、励振振幅:100μmの条件でスクラッチ試験を行う。すなわち、化成処理鋼板表面にダイヤモンド触針を押圧し、ダイヤモンド触針を励振周波数:45Hz、励振振幅:100μmの条件で化成処理鋼板表面を含む方向に振幅させ、且つ、化成処理鋼板表面に対するダイヤモンド触針の押圧荷重を25mN/60secで増加させながら、ダイヤモンド触針を10μm/secのスクラッチ速度で前記振幅の方向に対して垂直な方向に移動させ、化成処理層が破壊される最も低い押圧荷重を臨界荷重として、化成処理層の臨界剥離強度の値とする。なお、上記押圧荷重は、化成処理層が亜鉛めっきから剥離した時点でのダイヤモンド触針の押圧荷重である。
【0020】
上記した化成処理層の臨界剥離強度の値は、本発明における最も重要な要件の1つであり、本発明では、この臨界剥離強度を5mN以上とする。臨界剥離強度の値が5mN以上であれば、下地鋼板の亜鉛めっきと化成処理層との間に腐食の原因となる水分などが浸入した場合であっても、下地処理の亜鉛めっきと化成処理層との密着性が十分に確保されているため、塗装鋼板端面から進行する腐食を効果的に抑制し、優れた端面耐食性を発揮する。
【0021】
本発明の塗装鋼板に使用される化成処理鋼板は、下地鋼板に化成処理を施すことにより得られるが、塗装鋼板に耐食性、加工性等の諸特性を付与することに加え、上記の如く臨界剥離強度が5mN以上である化成処理層を製造すべく、本願発明においては、亜鉛系めっき鋼板である下地鋼板に、水分散性ポリウレタン、シリカ、ジルコニウム化合物、シランカップリング剤を含有する化成処理液を用いて化成処理を施し、化成処理層の鋼板片面当たりの付着量を1〜150mg/m2とすることが好ましい。
【0022】
本発明で使用する化成処理液に含まれる水分散性ポリウレタンは、ガラス転移温度Tgが0℃以上の高Tgポリウレタンと、ガラス転移温度Tgが−10℃以下の低Tgポリウレタンからなり、前記高Tgポリウレタンと前記低Tgポリウレタンの混合比が質量比で65:35〜90:10であり、前記化成処理液中の含有量が固形分として0.1〜500g/Lである水分散性ポリウレタンとする。
【0023】
化成処理液に含有させる水分散性ポリウレタンの物性もまた、本発明における最も重要な要件の1つであり、本発明においては、ガラス転移温度が異なる水分散性ポリウレタン、すなわち、ガラス転移温度Tgが0℃以上の高Tgポリウレタンと、ガラス転移温度Tgが−10℃以下の低Tgポリウレタンを混合してなる水分散性ポリウレタンを採用することに特徴がある。上記高Tgポリウレタンは主として耐食性に寄与し、上記低Tgポリウレタンは主として密着性に寄与する。そして、互いに異なるガラス転移温度を有するポリウレタンの相互補完によって本発明の効果を奏するのである。
【0024】
高Tgポリウレタンのガラス転移温度は、耐食性の観点から、0〜100℃であることが好ましい。より好ましくは50〜100℃である。一方、低Tgポリウレタンのガラス転移温度は、下地鋼板と化成処理層との密着性の観点から、−50〜0℃であることが好ましい。より好ましくは−50〜−20℃である。
【0025】
上記高Tgポリウレタンおよび上記低Tgポリウレタンは、何れも水分散型ポリウレタン、すなわち、カルボキシル基などの親水性基を有するポリウレタンであり、塩基性化合物等を添加することによって水中に分散させたものである。上記ポリウレタンは、多価イソシアネート、多価アルコ一ルおよび酸性基等を有する2官能性活性水素含有化合物を含有する構成成分を従来公知の方法により重合することによって調製する。
【0026】
上記ポリウレタンがカルボキシル基を有するポリウレタンである場合、酸価として5〜40mgKOH/gであることが好ましく、アンモニア、低級アルキルアミン等を添加してアニオン性ポリウレタンを水中に分散させる。
【0027】
上記多価イソシアネートとしては、従来ポリウレタンエマルジョン合成原料として知られているものを使用することができ、その種類は特に限定されない。例えば、エチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート等を挙げることができる。これらのうちの1種を単独で使用することも可能であり、更にこれらの混合物も使用可能である。また、ウレタン、アロファネート、尿素、ビュレット、カルボイミド、ウレタンイミン、イソシアヌレート残基で変性された2官能性イソシアネート等も使用することができる。
【0028】
上記多価アルコールとしても、従来ポリウレタンエマルジョン合成原料として知られているものを使用することができ、その種類は特に限定されない。例えば、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリアミドポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリチオエ一テルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリシロキサンポリオール等を挙げることができ、その分子量が500〜5000であるものが好ましい。また、必要に応じて低分子量多価アルコールを混合してもよい。上記混合可能な多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコ一ル、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコ一ル、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0029】
上記酸性基を有する2官能性活性水素含有化合物としては、従来アニオン性ポリウレタンエマルジョンの合成原料として知られているものを使用することができ、その種類は特に限定されず、例えば、2,2−ジメチロールプロパン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、リシンシスチン、3,5−ジアミノ安息香酸等を挙げることができる。
【0030】
本発明では、以上のように従来公知の方法により重合し調製された水分散性ポリウレタンから、ガラス転移温度Tgが0℃以上である1種または2種以上の水分散性ポリウレタンを高Tgポリウレタンとして適宜選択し、ガラス転移温度Tgが−10℃以下である1種または2種以上の水分散性ポリウレタンを低Tgポリウレタンとして適宜選択する。
【0031】
高Tgポリウレタンと低Tgポリウレタンの混合比は、質量比で65:35〜90:10であることを要し、好ましくは65:35〜80:20である。また、水分散性ポリウレタンの化成処理液中の固形分含有量は、化成処理液1リットル中に0.1〜500g、すなわち0.1〜500g/Lであり、好ましくは10〜300g/L、より好ましくは50〜200g/Lである。高Tgポリウレタンと低Tgポリウレタンの混合比が上記した範囲を外れると、水分散性ポリウレタン、シリカ、ジルコニウム化合物の3者の間で形成される架橋ネットワークにおいて、水分散性ポリウレタンが受け持つ作用点の数が、シリカ、ジルコニウム化合物の持つ作用点の数と対応しなくなってしまうこととなり、塗装鋼板として所望の耐食性を確保することができない。
【0032】
以上のように、本発明においては、化成処理液に含有させる水分散性ポリウレタンとして、主として耐食性に寄与する高Tgポリウレタンに加え、主として密着性に寄与する低Tgポリウレタンを所望の質量比で混合した水分散性ポリウレタンを採用することにより、特に下地鋼板と化成処理層との密着性が著しく向上する。その結果、化成処理層の臨界剥離強度:5mN以上が達成され、延いては塗装鋼板の端面耐食性が飛躍的に向上する。また、上記水分散性ポリウレタンは、下地鋼板の亜鉛めっき層表面に耐食性膜を一面に形成するため、塗装鋼板の耐食性も格段に向上する。
【0033】
また、化成処理液には、更に固形分として1〜300g/Lのシリカが含まれる。
シリカは、化成処理層の乾燥性、塗膜密着性および耐食性の改善に寄与する。本発明で用いるシリカとしては水分散性シリカ等が挙げられ、上記効果を発現する上では水分散性シリカを使用することが特に好ましい。
【0034】
上記水分散性シリカとしては、ナトリウム等の不純物が少なく、弱アルカリ系のものであれば、特にその種類は限定されない。例えば、コロイダルシリカとして「スノーテックスN」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS(スノーテックスPS−S,スノーテックスPS−M,スノーテックスPS−SO,スノーテックスPS−MO)」(いずれも商品名、日産化学工業社製)、「アデライトAT−20N」(商品名、 (株)ADEKA製)等の市販のシリカゲルを用いることができる。また、市販のフュームドシリカとして日本アエロジル社製のアエロジル粉末シリカ粒子等を用いることができる。その中でも、特に塗膜密着性のうちコインスクラッチ性(擦過抵抗)を高める効果のある水分散性シリカとして、球状コロイダルシリカが結合してできた巨大シリカ塊であって「パールスライクコロイダルシリカ」の名称で市販されている粒径の大きい塊(10〜50nm)を持った「スノーテックスPS(スノーテックスPS−S,スノーテックスPS−M,スノーテックスPS−SO,スノーテックスPS−MO)」(商品名、日産化学工業社製)や「アエロジル」として市販されているヒュームドシリカ等が好適に用いられる。
【0035】
シリカの、化成処理液中の固形分含有量は1〜300g/Lとする。係る含有量が1g/L未満である場合、化成処理層の塗膜密着性および耐食性の改善効果を十分に発現しない。一方、上記含有量が300g/Lを超えると、化成処理液の塗布工程であるロールコーティング時に余分なシリカが塗布面となる外側のロール表面にもはみ出て付着するなど、塗布工程の作業性を著しく悪くする。また、本発明の化成処理液を用いて下地鋼板に化成処理を施すと、化成処理液に含まれる水分散性ポリウレタンが、下地鋼板の亜鉛めっき層表面に耐食性膜を一面に形成する。そのため、シリカはその耐食性の補完をする程度に含有させればよく、従来技術のように被処理物である下地鋼板の亜鉛系めっき層の全面を十分に覆うほどの多量の含有量を必要としない。よって、本発明においては、シリカの、化成処理液中の固形分含有量は1〜300g/Lとする。なお、好ましくは50〜100g/Lである。
【0036】
また、本発明で使用する化成処理液には、Zr換算量で1〜250g/Lのジルコニウム化合物が含まれる。
ジルコニウム化合物は、水分散性ポリウレタンの架橋剤として作用し、ジルコニウム化合物を架橋剤として形成される架橋ポリウレタンは、下塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを塗装した後の塗膜の耐食性、耐薬品性を向上させる。
なお、鋼板の化成処理に用いられる化成処理液としては、ジルコニウム化合物以外の無機化合物、例えばV化合物やリン酸塩等の無機化合物を含有させたものも広く使用されている。しかしながら、本発明においては、無機化合物としてジルコニウム化合物を採用することが重要であり、V化合物やリン酸塩を含有させることは、寧ろ好ましくない。V化合物もしくはリン酸塩が、水分散性ポリウレタン、シリカ、ジルコニウム化合物、シランカップリング剤が共存する状態で共存すると、化成処理液に沈殿が生じてしまい、化成処理液の安定性が損なわれるためである。
【0037】
本発明で用いる化成処理液に含まれるジルコニウム化合物は特に限定されず、例えば、(i)ジルコンフッ化水素酸(H2ZrF6)、(ii)ジルコンフッ化水素酸のアンモニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム等のジルコンフッ化水素酸の塩、(iii)オキシ炭酸ジルコニウム酸アンモニウム((NH4)2ZrO(CO3)2)、(iv)水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、ホウ酸ジルコニウム、蓚酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、フッ化ジルコニウム等のジルコニウム塩化合物、(v)ジブチルジルコニウムジラウリレート、ジブチルジルコニウムジオクテート、ナフテン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、アセチルアセトンジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物、または、これら(i)〜(v)の混合物等を挙げることができる。
【0038】
上記ジルコニウム化合物の、化成処理液中の含有量は、Zr換算量で1〜250g/Lとする。上記含有量が1g/L未満であると、水分散性ポリウレタン、シリカ、シランカップリング剤と共に形成する架橋ネットワークが不十分となり、耐食性が劣る。一方、上記含有量が250g/Lを超えると、化成処理液に沈殿が生じてしまい、化成処理液の安定性が損なわれる。なお、好ましくは1〜100g/Lである。
【0039】
更に、化成処理液には、シランカップリング剤が含まれる。
シランカップリング剤は、水分散性ポリウレタン、シリカ、ジルコニウム化合物と共に存在することで、化成処理層の強固な架橋ネットワークを形成し、良好な耐食性を発揮させる働きがある。本発明で用いるシランカップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0040】
上記シランカップリング剤の、前記化成処理液中の固形分含有量は0.001〜10g/Lとする。上記含有量が0.001g/L未満であると、水分散性ポリウレタン、シリカ、ジルコニウム化合物と共に形成する架橋ネットワークが弱くなり、耐食性が劣る。一方、上記含有量が10g/Lを超えると、化成処理液に沈殿が生じてしまい、化成処理液の安定性が損なわれる。なお、好ましくは0.01〜5g/Lである。
更に、前記化成処理液は、水分散性ポリウレタン、シリカ、ジルコニウム化合物およびシランカップリング剤を含有し、残部はこれら成分の溶媒である水から成る。
【0041】
化成処理層の付着量:1〜150mg/m2
本発明では、下地鋼板に、上記化成処理液を用いて化成処理を施すことにより、乾燥状態での鋼板片面当たりの付着量が1〜150mg/m2である化成処理層を形成する。上記付着量が1mg/m2未満であると、防錆力が不足する。一方、上記付着量が150mg/m2超と厚すぎると臨界剥離強度が低下し、また、付着量に見合う耐食性向上効果が得られず塗装鋼板用の化成処理としては不経済であり、塗装にも不都合である。よって、化成処理層の付着量は1〜150mg/m2とする。好ましくは10〜120mg/m2である。より好ましくは20〜100 mg/m2である。なお、前記の如く、本発明の化成処理液を用いて下地鋼板に化成処理を施すと、ポリウレタンが下地鋼板の亜鉛めっき層表面に良好な耐食性膜を一面に形成する。そのため、本発明は、化成処理層の付着量を低減してその膜厚を薄くすることができるという利点も有する。
【0042】
本発明においては、上記化成処理液を下地鋼板に塗布し、乾燥させることにより、所望の付着量の化成処理層を形成する。上記乾燥方法としては、化成処理液を下地鋼板に塗布したのち該鋼板を熱風またはその他の方法で加熱し乾燥させる方法であってもよく、予め下地鋼板を加熱し、化成処理液を加熱状態にある下地鋼板に塗布し、余熱を利用して乾燥させる方法であってもよい。
【0043】
乾燥させる際の下地鋼板の温度は、上記いずれの方法においても、常温〜250℃とすることが好ましい。常温未満であると乾燥に時間がかかり不経済となり、一方250℃を超えると、硫黄含有化合物の分解を招く恐れがある。なお、より好ましくは50〜180℃である。塗布後に熱風で加熱し、乾燥させる場合の乾燥時間は、1.0秒〜10分が好ましい。
【0044】
上記化成処理液を下地鋼板に塗布する際の塗布方法は、特に限定されず、一般に使用されるロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、バーコーター、流し塗り、浸漬等、化成処理液が下地鋼板表面と接触すればいずれの方法でもよい。また、乾燥状態での化成処理層の付着量が所望の範囲(1〜150mg/m2)となるように、化成処理液の成分濃度、塗布時間あるいは浸漬時間を選択する。
【0045】
上記の如き化成処理を、亜鉛系めっき鋼板である下地鋼板に施すことにより、本発明においては、臨界剥離強度が5mN以上である化成処理層が得られる。そして、本発明では、上記化成処理層の上層に、下塗り塗膜層、上塗り塗膜層を形成することにより塗装鋼板とする。
【0046】
その結果、以上のようにして得られた化成処理層には、ポリウレタンがシリカ100質量部に対し100〜700質量部で、ジルコニウム化合物がZr換算量でシリカ100質量部に対し5〜100質量部含有される。これにより、塗装鋼板の耐食性、密着性、端面耐食性が顕著に向上する。
【0047】
化成処理層中のポリウレタンの含有量が、シリカ100質量部に対し100質量部未満では、ポリウレタンとシリカの架橋ネットワークを形成する際、余剰のシリカが存在してしまい、化成処理層の耐食性が低下する。一方、700質量部を超えて多くなると、ポリウレタンとシリカの架橋ネットワークを形成する際、余剰のポリウレタンが存在することとなり、化成処理層と下地めっき層との密着性あるいは化成処理層とその上層に形成される塗膜層との密着性が低下する。
【0048】
また、化成処理層中のジルコニウム化合物の含有量が、シリカ100質量部に対しZr換算量で5質量部未満では、ジルコニウム化合物とシリカの架橋ネットワークを形成する際、余剰のシリカが存在することとなり、化成処理層の耐食性が低下する。一方、100質量部を超えて多くなると、ジルコニウム化合物とシリカの架橋ネットワークを形成する際、余剰のジルコニウム化合物が存在することとなり、化成処理層の耐食性が低下する。
【0049】
なお、本発明の塗装鋼板の化成処理層は、シランカップリング剤を微量に含有する化成処理液(シランカップリング剤固形分含有量:0.001〜10g/L)を用いて形成されたものであり、そのため化成処理層には、シランカップリング剤由来の物質を微量に含有する。
【0050】
化成処理層の上層として形成される塗膜層(下塗り塗膜層、上塗り塗膜層)については、本発明では特に限定する必要はなく、常用の塗膜層が何れも適用可能であるが、上記化成処理層の上層として形成される好ましい塗膜層について、以下に説明する。
【0051】
下塗り塗膜層
下塗り塗膜層を形成するための塗料組成物の主剤樹脂としては、例えば、ポリエス
テル樹脂、エポキシ樹脂、ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂などのようなエポキシ変性ポリエステル樹脂などの1種又は2種以上を用いることができる。加工性を確保する上ではポリエステル樹脂及び/又はエポキシ変性ポリエステル樹脂が好ましく、特にエポキシ変性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0052】
上記エポキシ変性ポリエステル樹脂において、ポリエステル樹脂のエポキシ変性に用いる樹脂としては、例えば、ビスフェノールA又はビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられ、またこれら以外にも、塩基触媒(例えば、水酸化カリウム)の存在下に、エピハロヒドリン(例えば、エピクロロヒドリン)をアルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)と1価のフェノール又は多価ポリフェノールとの縮合物と反応させることにより得られるフェノール誘導体エポキシ樹脂(例えば、ノボラック型エポキシ樹脂)なども用いることができる。
【0053】
一般に、樹脂の分子構造からして、エポキシ系塗料による塗膜層は高い破断強度を示すが破断伸びは小さく、一方、ポリエステル系塗料やウレタン系塗料による塗膜層は高い破断伸びを示すが破断強度は小さい。これに対して、ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂などのエポキシ変性ポリエステル樹脂を主剤樹脂とする塗料組成物により形成される塗膜層は、上記両方の樹脂の分子構造を兼ね備えているため、破断強度と破断伸びがバランスよく得られ、塗装鋼板の加工性を確保する上で特に好ましい。
【0054】
下塗り塗膜層を、ポリエステル系樹脂(ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂などのエポキシ変性ポリエステル樹脂を含む。以下同様)を主剤樹脂とする塗料組成物により形成する場合において、形成される塗膜層が上記の如く優れた物性を有するようにするためには、ポリエステル樹脂としての数平均分子量が1000〜50000の範囲のものを用いることが好ましい。より好ましくは3000〜40000、特に好ましくは5000〜30000である。上記数平均分子量が1000以上であれば、塗膜層の伸びが十分となり上記の物性が得られる。一方、上記数平均分子量が50000以下であれば、塗料組成物が高粘度にならないため過剰の希釈溶剤を必要とせず、塗料中に占める樹脂の割合が減少しないため適正な塗膜層が得られる。また、上記数平均分子量が50000以下であれば、他の配合成分との相溶性も良好である。
【0055】
また、下塗り塗膜層を形成するための塗料組成物の主剤樹脂としてビスフェノールA付加ポリエステル樹脂を使用する場合、このビスフェノールA付加ポリエステル樹脂中のビスフェノールAの含有量は樹脂固形分の割合で1〜70質量%とすることが好ましい。より好ましくは3〜60質量%、特に好ましくは5〜50質量%である。ビスフェノールA付加ポリエステル樹脂中のビスフェノールAの含有量が1質量%以上であれば、塗膜層の強度向上効果が十分に得られる。一方、ビスフェノールAの含有量が70質量%以下であれば、塗膜層の伸びが十分となる。
【0056】
上記ポリエステル樹脂を得るための多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。また、これらの多価アルコールのうちの1種を単独で用いてもよく、これらの多価アルコールを2種以上組合せて用いることもできる。
【0057】
また、ポリエステル樹脂を得るための多価塩基酸成分としては、フタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、これらの多価塩基酸成分のうちの1種を単独で用いてもよく、これらの多価塩基酸成分を2種以上組合せて用いることもできる。
【0058】
下塗り塗膜層を形成するための塗料組成物に用いられる硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物、アミノ樹脂などを使用することができる。また、これらの1種を単独で用いてもよく、これらの2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
上記硬化剤として用いられるポリイソシアネート化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネート;又はこれらジイソシアネートの多量体若しくは多価アルコールとの付加物などが挙げられ、これらをブロック剤(例えば、フェノール系、ラクタム系、アルコール系、メルカプタン系、イミン系、アミン系、イミダゾール系又はオキシム系ブロック剤)などを用いてブロック化した化合物として使用することが好ましい。また、これらブロック化ポリイソシアネート化合物の解離触媒としては、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート、2−エチルヘキソエート鉛などを用いることができる。
【0060】
上記硬化剤として用いられるアミノ樹脂としては、例えば、低級アルコールでアルキルエーテル化されたホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドなどと尿素、ジシアンジアミド、アミノトリアジンなどとの縮合物があり、具体的には、メトキシ化メチロール尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミンなどが挙げられる。また、硬化触媒としては、塩酸、リン酸モノアルキルエステル、P−トルエンスルホン酸などの酸、またはこれら酸と3級アミン若しくは2級アミン化合物との塩が使用できる。
【0061】
本発明においては、下塗り塗膜層を形成するための塗料組成物に防錆顔料を添加してもよい。例えば、カルシウム化合物、シリカ微粉末、ケイ酸塩、リン酸塩、バナジウム化合物、モリブデン酸塩などの1種または2種以上を適宜配合することができる。また、下塗り塗膜層を形成するための塗料組成物には、塗装鋼板の目的や用途に応じて、p−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート、2−エチルヘキソエート鉛などの硬化触媒を配合してもよい。更に、下塗り塗膜層を形成するための塗料組成物には、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、酸化チタン、タルク、硫酸バリウム、マイカ、弁柄、マンガンブルー、カーボンブラック、アルミニウム粉、パールマイカなどの各種顔料を配合してもよく、その他、消泡剤、流れ止め剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。
【0062】
下塗り塗膜層の膜厚は3μm以上とすることが好ましい。膜厚が3μm以上であれば、十分な耐食性が得られる。また、経済的な観点から、膜厚は20μm以下とすることが好ましい。
【0063】
下塗り塗膜層を形成するための塗料組成物を実際に使用するに当っては、これらを有機溶剤に溶解して使用する。使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ソルベッソ100(商品名,エクソンモービル有限会社製)、ソルベッソ150(商品名,エクソンモービル有限会社製)、ソルベッソ200(商品名,エクソンモービル有限会社製)、トルエン、キシレン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、石油ナフサなどが挙げられる。
【0064】
下塗り塗膜層を形成するための塗料組成物を調整するに当っては、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダーなどの通常の分散機や混練機を選択して使用し、各成分を配合することができる。下塗り塗膜層の塗装方法に特に制約はないが、上記塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で上記した化成処理鋼板に塗布する塗装方法が好ましい。上記した化成処理鋼板の表面に下塗り塗膜層用の塗料組成物を塗装後、必要に応じて熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により、通常、最高到達鋼板温度が180〜260℃程度となるように約30秒〜1分の焼付処理を行う。
本発明においては、以上に述べたような塗膜層を化成処理層の上層に設け、下塗り塗膜層とし、更にその上層に上塗り塗膜層を設ける。
【0065】
上塗り塗膜層
本発明において、上塗り塗膜層の構成については特別な制約はなく、上塗り塗膜層を形成するための塗料組成物の主剤樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂などの1種または2種以上を用いることができる。また、これらの樹脂にアミノ樹脂、イソシアネート化合物などのような架橋剤を併用してもよい。
【0066】
上塗り塗膜層を形成するための塗料組成物には、塗装鋼板の目的や用途に応じてワックスを適量配合することができる。このワックスとしては、天然ワックスまたは合成ワックスを用いることができる。また、上塗り塗膜層を形成するための塗料組成物には、塗装鋼板の目的や用途に応じて、p−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレート、2−エチルヘキソエート鉛などの硬化触媒を配合してもよい。更に、上塗り塗膜層を形成するための塗料組成物には、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、酸化チタン、タルク、硫酸バリウム、マイカ、弁柄、マンガンブルー、カーボンブラック、アルミニウム粉、パールマイカなどの各種顔料を配合してもよく、その他、消泡剤、流れ止め剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。
【0067】
上塗り塗膜層の膜厚は5〜20μmとすることが好ましい。膜厚が5μm以上であれば、上塗り塗膜としての総合的な塗膜性能が十分に得られる。一方、膜厚が20μm以下であれば、発泡やわきの原因となることがなく、好ましい。
【0068】
上塗り塗膜層を形成するための塗料組成物を実際に使用するに当っては、これらを有機溶剤に溶解して使用する。使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ソルベッソ100(商品名,エクソンモービル有限会社製)、ソルベッソ150(商品名,エクソンモービル有限会社製)、ソルベッソ200(商品名,エクソンモービル有限会社製)、トルエン、キシレン、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、酢酸エチル、酢酸ブチル、石油エーテル、石油ナフサなどが挙げられる。
【0069】
上塗り塗膜層を形成するための塗料組成物を調整するに当っては、サンドグラインドミル、ボールミル、ブレンダーなどの通常の分散機や混練機を選択して使用し、各成分を配合することができる。上塗り塗膜層の塗装方法に特に制約はないが、上塗り塗膜層を形成するための塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で上記した下塗り塗膜層の上層に塗布する塗装方法が好ましい。通常、上記した下塗り塗膜層の上層に上塗り塗膜層を形成するための塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱などの加熱手段により塗膜を焼き付け、樹脂を架橋させて硬化塗膜層(上塗り塗膜層)を得る。上塗り塗膜層を加熱硬化させる際の焼付処理は、通常、最高到達鋼板温度が180〜260℃程度となるように約30秒〜3分の焼付を行う。
なお、本発明の塗装鋼板は、上塗り塗膜層の上にさらに塗膜(例えば、クリアー塗膜)を形成する、3コート・3ベークで使用してもよい。
【実施例】
【0070】
以下に述べる方法により試験板を作製し、塗装鋼板としての端面耐食性評価試験および化成処理鋼板としての臨界剥離強度測定を行った。
【0071】
1.試験板の作製
(1.1) 供試材
溶融亜鉛めっき鋼板(以下記号:GI)
板厚 :0.5mm
亜鉛付着量:片面当たり30g/m2(両面めっき)
(1.2) 前処理
アルカリ脱脂剤であるCL−N364S(日本パ−カライジング(株)製)を濃度20g/L、温度60℃の水溶液とし、これに供試材を10秒間浸漬し、純水で水洗した後乾燥した。
(1.3) 化成処理
前処理後の供試材の表面(片面)に、表1に示す組成(残部は水)の化成処理液を、ロールコーターを用いて塗布し、熱風乾燥炉中において最高到達鋼板温度が80℃となる条件下で乾燥した。
(1.4) 下塗り塗膜層および上塗り塗膜層の形成
上記(1.3) 化成処理で作成した各化成処理鋼板の表面上に、プライマー(下塗り塗膜層用)塗料及びトップコート(上塗り塗膜層用)塗料を塗布し、塗装鋼板とした。
具体的には、市販のプライマー塗料(大日本塗料(株)製、Vニット#200[主剤:ポリエステル樹脂、硬化剤:ポリイソシアネート])を塗布した後、最高到達鋼板温度200℃となるように焼き付けて下塗り塗膜層(膜厚5μm)を形成し、ついで、下塗り塗膜層表面にさらにトップコート塗料(大日本塗料(株)製、Vニット#500[主剤:ポリエステル樹脂、硬化剤:ポリイソシアネート])を塗布した後、最高到達鋼板温度が220℃となるように焼き付けて上塗り塗膜層(膜厚8μm)を形成し、塗装鋼板とし、試験板を作製した。
【0072】
【表1】

【0073】
2.化成処理層の分析
(2.1) ポリウレタン、シリカ、ジルコニウム化合物の質量比
乾燥後の化成処理層に含まれるポリウレタン(ガラス転移温度Tgが0℃以上の高Tgポリウレタンと、ガラス転移温度Tgが−10℃以下の低Tgポリウレタンからなるポリウレタン)、シリカ、ジルコニウム化合物の質量比を、以下の手法によって確認した。その結果を表2に示す。
<手法>
化成処理鋼板を蛍光X線分析し、N(窒素:水分散性ポリウレタンに由来)、Si(ケイ素:シリカに由来)、Zr(ジルコニウム:ジルコニウム化合物に由来)のカウント数(cps)を測定し、予め既知の配合の場合におけるカウント数をもとに作成した検量線をもとに換算し求めた。
(2.2) 付着量
化成処理層の付着量(mg/m2)を、以下の手法により測定した。その結果を表2に示す。
<手法>
化成処理鋼板を蛍光X線分析し、Siのカウント数(cps)を測定し、予め既知のシリカ配合率および付着量の場合におけるカウント数をもとに作成した検量線をもとに換算し求めた。
【0074】
3.評価試験
(3.1) 端面耐食性評価試験
作製した塗装鋼板から、70mm×150mmのサンプルを切り出し、サンプルの切断端面をテープなどで保護することなく、切断ままの状態でJIS Z 2371(2009)に準拠した塩水噴霧試験を480時間実施した。試験後の各サンプルを塗装面から見て、端面からの塗膜膨れ幅(最大値)を測定した。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
◎:4mm未満
○:4mm以上6mm未満
□:6mm以上8mm未満
△:8mm以上12mm未満
× :12mm以上
(3.2) 化成処理鋼層の臨界剥離強度
下塗り塗膜層を形成する前の化成処理を施した化成処理鋼板(上記(1.3)の化成処理を終了した後であり上記(1.4)の塗膜層を形成する前の試験板)から、30mm×40mmのサンプルを切り出し、化成処理層の臨界剥離荷重を測定した。
臨界剥離荷重は、(株)レスカ製・超薄膜スクラッチ試験機(CSR-2000型)を用いて測定した。スタイラスには、バネ定数:100g/mmの弾性アームに取り付けた先端触針形状:R5μmのダイヤモンド触針を用い、スクラッチ速度:10μm/sec、荷重印加速度:25mN/60sec、励振周波数:45Hz、励振振幅:100μmの条件でスクラッチ試験を行った。化成処理層が破壊される下限の荷重を臨界剥離強度とした。
【0075】
上記評価試験の結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2から明らかであるように、本発明の化成処理液を用いて作製された各サンプル(実施例1〜3)は、化成処理層の臨界剥離強度が何れも5mNを超え、優れた端面耐食性を示している。一方、本発明の条件を満足しない化成処理液を用いて作製された各サンプル(比較例1〜5)は、化成処理層の臨界剥離強度が何れも5mN未満であり、端面耐食性に劣る。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板を下地鋼板とし、該下地鋼板のめっき皮膜の上層に化成処理層と、該化成処理層の上層に下塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを有する塗装鋼板であって、
前記化成処理層の臨界剥離強度が5mN以上であることを特徴とする塗装鋼板。
【請求項2】
前記化成処理層が、
ポリウレタンと、シリカと、ジルコニウム化合物とを含有し、
前記ポリウレタンの含有量が、前記シリカ100質量部に対し100〜700質量部であり、
前記ジルコニウム化合物のZr換算量が、前記シリカ100質量部に対し5〜100質量部であり、
前記化成処理層の鋼板片面当たりの付着量が1〜150mg/m2であることを特徴とする請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の塗装鋼板の製造方法であって、
亜鉛系めっき鋼板を下地鋼板とし、該下地鋼板に、下記(1)〜(4)を含有する化成処理液を用いて化成処理を施し、化成処理層の鋼板片面当たりの付着量が1〜150mg/m2である化成処理鋼板とし、ついで該化成処理鋼板に下塗り塗膜層と上塗り塗膜層とを形成することを特徴とする塗装鋼板の製造方法。

(1)ガラス転移温度Tgが0℃以上の高Tgポリウレタンと、ガラス転移温度Tgが−10℃以下の低Tgポリウレタンからなり、前記高Tgポリウレタンと前記低Tgポリウレタンの混合比が質量比で65:35〜90:10であり、前記化成処理液中の含有量が固形分として0.1〜500g/Lである水分散性ポリウレタン。
(2)前記化成処理液中の含有量が固形分として1〜300g/Lであるシリカ。
(3)前記化成処理液中の含有量がZr換算量で1〜250g/Lであるジルコニウム化合物。
(4)前記化成処理液中の含有量が固形分として0.001〜10g/Lであるシランカップリング剤。
【請求項4】
下記(1)〜(4)を含有することを特徴とする化成処理液。

(1)ガラス転移温度Tgが0℃以上の高Tgポリウレタンと、ガラス転移温度Tgが−10℃以下の低Tgポリウレタンからなり、前記高Tgポリウレタンと前記低Tgポリウレタンの混合比が質量比で65:35〜90:10であり、前記化成処理液中の含有量が固形分として0.1〜500g/Lである水分散性ポリウレタン。
(2)前記化成処理液中の含有量が固形分として1〜300g/Lであるシリカ。
(3)前記化成処理液中の含有量がZr換算量で1〜250g/Lであるジルコニウム化合物。
(4)前記化成処理液中の含有量が固形分として0.001〜10g/Lであるシランカップリング剤。

【公開番号】特開2011−219832(P2011−219832A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92073(P2010−92073)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】