説明

塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤

【課題】 塗布工程の作業性がよく、塗装後の塗膜の密着性、特に、耐水二次密着性において優れた塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤、これを用いた防錆処理方法および防錆処理金属材を提供すること。
【解決手段】 硫黄含有化合物を0.1〜50g/l、リン含有イオンを0.1〜50g/l及び水分散性ポリウレタンを0.1〜500g/l含む水性液からなる塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤。 防錆被覆剤は、さらにジルコニウム化合物を1〜250g/l及び水分散性シリカを1〜300g/l含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤、特に塗装後にプレスや折り曲げ等の高度の加工が要求されるような建材用、家電用の亜鉛系メッキ鋼板のクロムフリー防錆被覆剤、防錆処理方法および防錆処理された金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような防錆処理用途に使用される防錆被覆剤として、通常反応型クロメート処理剤や塗布型クロメート処理剤が用いられている。例えば、特許文献1には、クロメート処理液を塗布後、有機高分子樹脂水溶液を塗布するという塗装下地の防錆処理方法が開示されている。しかし、近年の環境規制の動向からすると、クロメートの有する毒性や発癌性のために使用が制限される可能性がある。
そこで、金属表面をクロムを含まないで処理する方法として、特許文献2には、亜鉛系メッキ鋼板にリン酸皮膜を形成させる方法が記載されているが、塗料の塗装後に厳しい折り曲げ加工を要するような用途においては、上塗り塗膜との密着性が全く不十分なものしか得られない。
【0003】
特許文献3には、クロムを含まずに、特定のリン含有イオン、硫黄含有化合物、ならびに水分散性シリカ等を含有する防錆被覆剤が記載されている。しかしながら、十分な防錆性を確保するには、水分散性シリカを多量に使用する必要があるために、ロールコーティングする防錆被覆剤の塗布工程の作業性がよくなく、また、塗料塗装後の塗膜密着性において、耐水二次密着性が十分とはいえないという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−202084号公報
【特許文献2】特公昭59−31593号公報
【特許文献3】特開2001−73162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、塗布工程の作業性がよく、塗装後の塗膜の密着性、特に、耐水二次密着性において優れた塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤、さらには、これを用いた防錆処理方法および防錆処理金属材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、硫黄含有化合物を0.1〜50g/l、リン含有イオンを0.1〜50g/l及び水分散性ポリウレタンを0.1〜500g/l含む水性液からなる塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤を提供する。また、本発明は、亜鉛被覆鋼または無被覆鋼を上記の防錆被覆剤で処理する防錆処理方法を提供する。さらに、本発明は、上記の防錆被覆剤で処理されている防錆処理金属材を提供する。
【0007】
本発明の塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤は、さらにジルコニウム化合物を1〜250g/l及び/又は水分散性シリカを1〜300g/l含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤は、特に亜鉛メッキ鋼板用の処理剤として優れた性能を有し、該処理剤の塗布工程の作業性がよく、塗装後の折り曲げ加工における優れた塗膜密着性、特に、耐水二次密着性においても優れるものである。また、本発明の防錆被覆剤は、従来クロムフリー防錆被覆剤で通常使用されていた水分散性シリカなどの防錆添加剤の量を低減もしくはなくした低膜厚としても通常のクロメート処理皮膜と同等以上の良好な耐食性を示す。
本発明の塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤は、硫黄含有化合物、リン含有イオン及び水分散性ポリウレタンに加えて、ジルコニウム化合物及び/又は水分散性シリカを含有させることにより、耐食性、塗装密着性等が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、硫黄含有化合物およびリン含有イオンの作用は必ずしも明らかではないが、硫黄含有化合物のイオンや硫黄原子が亜鉛表面と反応もしくは吸着して亜鉛表面に安定皮膜が形成されることで耐食性と塗装密着性が向上し、やはり亜鉛表面と反応するのかリン含有イオンの共存でさらなる向上が見られる。
【0010】
本発明で有用な硫黄含有化合物としては、硫化物イオン、チオ硫酸イオン、過硫酸イオンを水溶液中で放出することのできる化合物、トリアジンチオール化合物、チオカルボニル基含有化合物などが好ましい。
【0011】
水溶液中で硫化物イオンを放出することのできる化合物としては、硫化ナトリウム、硫化アンモニウム、硫化マンガン、硫化モリブデン、硫化鉄、硫化バリウム等を例示することができる。
【0012】
水溶液中でチオ硫酸イオンを放出することのできる化合物としては、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム等を例示することができる。
【0013】
水溶液中で過硫酸イオンを放出することのできる化合物としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等を例示することができる。
【0014】
トリアジンチオール化合物としては、2,4,6-トリメルカプト-S-トリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-S-トリアジン、2,4,6-トリメルカプト-S-トリアジン-モノNa塩、2,4,6-トリメルカプト-S-トリアジン-3Na塩、2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-S-トリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-S-トリアジン-モノNa塩等を例示することができる。
【0015】
チオカルボニル基含有化合物としては、チオ尿素、ジメチルチオ尿素、1,3-ジエチルチオ尿素、ジプロピルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、1,3-ジフェニル-2-チオ尿素、2,2-ジトリルチオ尿素、チオアセトアミド、ソディウムジメチルジチオカーバメート、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラブチルチウラムジサルファイド、N-エチル-N-フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジンクジメチルチオカーバメート、ペンタメチレンジチオカルバミン酸ピペリジン塩、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲ酸亜鉛、エチレンチオ尿素、ジメチルキサントゲンジスルファイド、ジチオオキサミド等のチオカルボニル基を少なくとも一つ含有する化合物であればよい。
【0016】
本発明では上記硫黄含有化合物は本発明の防錆被覆剤中に1種以上が含まれる。これらのうちトリアジンチオール類、チオカルボニル基含有化合物が安定性の点から特に好ましい。
【0017】
本発明で有用なリン含有イオンとしては、リン酸イオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオン、縮合リン酸イオン類、フィチン酸イオンおよびホスホン酸イオンが好ましい。
【0018】
リン酸イオンを本発明の防錆被覆剤中で放出することのできる化合物としては、リン酸;リン酸3アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム等のリン酸のアンモニウム塩類;リン酸3ナトリウム、リン水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸3カリウム等のリン酸のアルカリ金属塩類;リン酸亜鉛、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸のアルカリ土類金属塩類;リン酸アルミニウム、リン酸鉄、リン酸マンガン、リンモルブデン酸等が例示できる。
【0019】
亜リン酸塩イオンを放出することのできる化合物としては、亜リン酸、亜リン酸アンモニウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム等が例示できる。
【0020】
次亜リン酸塩イオンを放出することのできる化合物としては、次亜リン酸、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等が例示できる。
【0021】
縮合リン酸イオン類としては、ポリリン酸イオン、ピケリン酸イオン、メタリン酸イオン、ウルトラリン酸イオンが好ましく、これらの縮合リン酸イオンを水溶液中で放出することのできる化合物としては、ポリリン酸、ピケリン酸、メタリン酸、ウルトラリン酸等の縮合リン酸類またはこれらのアンモニウム塩類、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩等を例示することができる。
【0022】
フィチン酸イオンを放出することができる化合物としては、フィチン酸、フィチン酸のアンモニウム塩、アルカリ金属塩類等を例示することができる。
【0023】
ホスホン酸イオンを放出することができる化合物としては、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸またはそのアンモニウム塩類、アルカリ金属塩等が例示できる。
【0024】
特に好ましいリン含有イオンはリン酸イオン、縮合リン酸イオン、フィチン酸イオン、ホスホン酸イオンである。これらのリン含有イオンは本発明の防錆被覆剤中に1種以上含有して使用することができる。
【0025】
硫黄含有化合物およびリン含有イオンは、防錆被覆剤中にそれぞれ0.1〜50g/lの量で含有される。いずれの含有量が0.1g/lより低くても耐食性や塗装密着性が低下し、いずれの含有量が50g/lより高くても性能が飽和して不経済となる。より好ましい含有量範囲は、硫黄含有化合物が1〜10g/lであり、リン含有イオンは0.1〜50g/lである。
【0026】
本発明の防錆被覆剤には、上記の硫黄含有化合物およびリン含有イオンとともに、水分散性ポリウレタンを含むことを特徴とする。この水分散性ポリウレタンにより形成される皮膜により、基材である亜鉛メッキ鋼板と上塗り塗膜との密着性、耐食性等を著しく向上させることができる。
該水分散性ポリウレタンは、カルボキシル基などの親水性基を有するポリウレタンであり、塩基性化合物等を添加することによって水中に分散させたものである。ポリウレタンは、多価イソシアネート、多価アルコ一ルおよび酸性基等を有する2官能性活性水素含有化合物を含有する構成成分を従来公知の方法により重合することによって調製する。
カルボキシル基を有するポリウレタンである場合、酸価として5〜40mgKOH/gであることが好ましく、アンモニア、低級アルキルアミン等を添加してアニオン性ポリウレタンを水中に分散させる。
【0027】
上記多価イソシアネートとしては特に限定されず、従来ポリウレタンエマルジョン合成原料として知られているものを使用することができ、例えば、エチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4−ジフエニルメタンジイソシアネート、2,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート等を挙げることができる。更にこれらの混合物が使用可能である。また、ウレタン、アロファネート、尿素、ビュレット、カルボイミド、ウレタンイミン、イソシアヌレート残基で変性された2官能性イソシアネート等も使用することができる。
【0028】
上記多価アルコールとしては特に限定されず、従来ポリウレタンエマルジョン合成原料として知られているものを使用することができ、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエステルポリアミドポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリチオエ一テルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリシロキサンポリオール等を挙げることができ、その分子量が500〜5000のものが好ましい。また、必要によっては、低分子量多価アルコールを混合してもよい。上記混合可能な多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコ一ル、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコ一ル、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0029】
上記酸性基を有する2官能性活性水素含有化合物としては特に限定されず、従来アニオン性ポリウレタンエマルジョンの合成原料として知られているものを使用することができ、例えば、2.2−ジメチロールプロパン酸、2.2−ジメチロールブタン酸、リシンシスチン、3,5−ジアミノ安息香酸等を挙げることができる。
【0030】
上記水分散性ポリウレタンは、成膜性、耐食性の点からガラス転移温度(Tg)が−20℃〜50℃であることが好ましく、−10℃〜40℃がより好ましく、−10℃〜30℃であることが最も好ましい。
【0031】
本発明の防錆被覆剤には、必要に応じてジルコニウム化合物が添加されていてもよい。ジルコニウム化合物は、水分散性ポリウレタンの架橋剤として働き、形成される架橋ポリウレタンは塗装後の塗膜の耐食性、耐薬品性を向上させる。また、ジルコニウム化合物は、アルミニウム基材に対する防錆剤としても働く。
上記ジルコニウム化合物としては特に限定されず、例えば、ジルコンフッ化水素酸(H2ZrF6);ジルコンフッ化水素酸のアンモニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム等のジルコンフッ化水素酸の塩;オキシ炭酸ジルコニウム酸アンモニウム((NH42ZrO(CO32);水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、ホウ酸ジルコニウム、蓚酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、フッ化ジルコニウム等のジルコニウム塩化合物;ジブチルジルコニウムジラウリレート、ジブチルジルコニウムジオクテート、ナフテン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム、アセチルアセトンジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物;又はこれらの混合物等を挙げることができる。
上記ジルコニウム化合物の含有量は、防錆被覆剤1リットル中に、1〜250gであることが好ましくは、特に好ましくは5〜100gである。
【0032】
本発明の防錆被覆剤には、必要に応じて防錆添加剤が添加されていてもよい。
防錆添加剤としては、水分散性シリカ等が挙げられる。水分散性シリカを添加することにより、乾燥性、塗膜密着性、耐食性を改良することができる。水分散性シリカとしては、ナトリウム等の不純物が少なく、弱アルカリ系のものであれば、特に限定されない。例えば、コロイダルシリカとして「スノーテックスN」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS」(いずれも日産化学工業社製)、「アデライトAT−20N」(旭電化工業社製)等の市販のシリカゲル、又は市販のヒュームドシリカとして日本アエロジル社製のアエロジル粉末シリカ粒子等を用いることができる。その中でも、特に塗膜密着性のうちコインスクラッチ性(擦過抵抗)を高める効果のある水分散性シリカとして、球状コロイダルシリカが結合してできた巨大シリカ塊であって「パールスライクコロイダルシリカ」の名称で市販されている粒径の大きい塊(10〜50nm)を持った「スノーテックスPS」(日産化学工業社製)や「アエロジル」として市販されているヒュームドシリカ等が挙げられる。
上記水分散性シリカの含有量は、防錆被覆剤1リットル中に、1〜500gであることが好ましくは、特に好ましくは10〜300gである。水分散性シリカの含有量が1g未満の場合には性能が改善されず、一方、500g/lを超えると、防錆被覆剤の塗布工程であるロールコーティング時に余分な水分散性シリカが塗布面となる外側のロール表面にもはみ出て付着するなど塗布工程の作業性を著しく悪くする。また、本発明の防錆被覆剤は、水分散性ポリウレタンが耐食性膜を一面に形成するので、水分散性シリカはその耐食性の補完をするものであればよく、(従来技術のように)被処理物である亜鉛メッキ鋼板の全面を十分に覆うほどの多量の含有量を必要としない。
【0033】
また、本発明に係る防錆被覆剤には、更に他の成分、例えばシランカップリング剤が配合されていてもよい。シランカップリングを配合することにより、本防錆被覆剤とこの上に塗装される塗膜との密着性をより良くすることができる。上記シランカップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0034】
本発明の防錆被覆剤には、必要に応じて樹脂膜成分として、水分散性ポリウレタンに加えて、水溶性もしくは水分散性のアクリル系樹脂が添加されていてもよい。該アクリル系樹脂は、シランカップリング剤と反応したものが塗膜密着性の向上に寄与する。
該アクリル系樹脂としては、アクリル酸および/またはメタクリル酸を主成分とした共重合体で、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等それらの誘導体や、その他のアクリル系モノマーとの共重合体も使用可能である。特に、共重合体におけるアクリル酸および/またはメタクリル酸モノマー割合が、70%以上であることが好ましい。
上記アクリル系樹脂の含有量は、防錆被覆剤1リットル中に、0.1〜500gであることが好ましくは、特に好ましくは1〜100gである。
【0035】
本発明の防錆被覆剤には、必要に応じて酸化ニオブが添加されていてもよい。酸化ニオブは、亜鉛メッキ鋼鈑に対して、強力な防錆力を発揮する。
酸化ニオブは、平均粒子径が1000nm以下のコロイド粒子として本発明の防錆被覆剤に含有させる。平均粒子径が小さい方がより安定して緻密な酸化ニオブの処理皮膜が形成されて、被処理物に対して安定して防錆性を付与することができるので、平均粒子径は、2〜600nmであることがより好ましく、2〜100nmであることが更に好ましい。
酸化ニオブゾルの製造方法は、例えば、酸化ニオブをフッ化水素酸に溶解し、アンモニア水に添加した後、ろ過、洗浄を行い、水酸化ニオブのスラリーを得た後、しゅう酸二水和物を添加し、次いで水を添加し、攪拌しながら還流条件下で反応を進行させ、均一な酸化ニオブコロイド粒子溶液を得る方法等である。
上記酸化ニオブの含有量(固形分)は、充分な防錆性を得るには防錆被覆剤1リットル中に0.1g以上であることを要し、好ましくは1〜100gである。
【0036】
本発明の防錆被覆剤は、上記の成分を水中に配合し、常法で混合撹拌して調製することができる。こうして得られた処理剤は、被処理物が亜鉛であるため、酸性度やアルカリ度が強すぎてもいけない。そのため好ましくはpHを2〜12、より好ましくは4〜10、最も好ましくは7〜10に調整する。
【0037】
本発明の防錆被覆剤は、特に、亜鉛もしくは亜鉛−アルミニウム合金などで鋼板をメッキした亜鉛系メッキ鋼板用の防錆被覆剤として有用である。また、本発明の防錆被覆剤は、アルミニウム、ステンレス、鉄などの金属材の処理に用いることもできる。
本発明の防錆被覆剤による亜鉛系メッキ鋼板等の処理は、これを被塗物に塗布し、塗布後に被塗物を熱風で加熱し乾燥させる方法であってもよく、予め被塗物を加熱し、その後この防錆被覆剤を熱時塗布し、余熱を利用して乾燥させる方法であってもよい。
【0038】
上記加熱の温度は、上記いずれの方法であっても、常温〜250℃である。常温未満であると乾燥に時間がかかり不経済となる。一方250℃を超えると、硫黄含有化合物の分解を招く恐れがある。好ましくは50〜180℃である。塗布後に被塗物を熱風で加熱し、乾燥させる場合の乾燥時間は、1.0秒〜10分が好ましい。
【0039】
上記処理において、本発明の防錆被覆剤の塗装膜厚は、乾燥膜厚重量が10mg/m2以上であることが好ましい。10mg/m2未満であると、防錆力が不足する。一方乾燥膜厚が厚すぎると、処理法としては不経済であり、塗装にも不都合であるので、より好ましくは10〜1000mg/m2である。更に好ましくは10〜500mg/m2である。前記の如く、本発明の防錆被覆剤は、水分散性ポリウレタンが良好な耐食性膜を一面に形成するので薄い膜厚とすることができるという利点を有する。
【0040】
上記処理において、本発明の防錆被覆剤の塗布方法は、特に限定されず、一般に使用されるロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、バーコーター、流し塗り、浸漬等いずれの方法でもよく、処理剤が被処理物と接触すればよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
実施例 1
純水に2,4,6-トリメルカプト-S-トリアジンを1g/l、リン酸3ナトリウムを1g/lおよび水分散性ポリウレタン(商品名「F8372DB」;第一工業製薬社製)を10g/l溶解又は分散し、これをNaOHでpH10.5に調整して処理剤を得た。一方、市販の電気亜鉛メッキ鋼板(品番「EG-MO」;日本テストパネル社製;300×210×0.8mm)をアルカリクリーナー(商品名「サーフクリーナー155」;日本ペイント社製)により、65℃で2分間脱脂し、次いで水洗、および純水洗をして80℃で乾燥した。この亜鉛メッキ鋼板にバーコーター#5を用いて、上記で調製した処理剤を乾燥重量100mg/m2となるように塗布し、120℃で2分間乾燥した。得られた処理亜鉛メッキ鋼板にプライマー(商品名「フレキコート600プライマー」;日本ペイント社製)をウェット塗布量で7g/m2となるように塗布し、金属表面温度215℃で乾燥した。次いでこの上から更に上塗り塗装として、「フレキコート5030」(商品名;日本ペイント社製;ポリエステル系塗料)をウェット塗布量で29g/m2となるように塗布し、金属表面温度230℃で乾燥して、塗装亜鉛メッキ鋼板を得た。
【0042】
実施例 2〜7
親水性樹脂である水分散性ポリウレタンの添加量の変更、ならびに、他の親水性樹脂としてのアクリル樹脂(商品名「ジュリマーAC−7」;日本純薬社製)の添加、ジルコニウム化合物(商品名「ジルコゾールAC−7」;第一稀元素化学工業社製)、水分散性シリカ(商品名「AT−20N」;旭電化工業社製)、シランカップリング剤(商品名「KBM403」;チッソ社製)、酸化ニオブ(5%ゾル品;多木化学社製)の添加等、表1に記載した組成の本発明の各種処理剤を得て、実施例1と同様にして処理亜鉛メッキ鋼板を作製し、最終的に塗装亜鉛メッキ鋼板を得た。
【0043】
比較例 1
実施例1と同じ溶融亜鉛メッキ鋼板を実施例1と同じように洗浄した後、樹脂含有タイプの塗布型クロメート処理剤をバーコーター#3を用いて、クロム付着量が40mg/m2となるように塗布し、80℃で1分間乾燥して、処理亜鉛メッキ鋼板を得た。これに実施例1と同様にプライマーおよび上塗り塗装を施して塗装亜鉛メッキ鋼板を得た。
【0044】
比較例 2
水分散性ポリウレタンを添加しなかった以外は実施例1と同様にして処理亜鉛メッキ鋼板を作製し、最終的に塗装亜鉛メッキ鋼板を得た。
【0045】
比較例 3
水分散性ポリウレタンを添加せず、水分散性シリカを実施例1よりも多く添加した以外は実施例1と同様にして処理亜鉛メッキ鋼板を作製し、最終的に塗装亜鉛メッキ鋼板を得た。
【0046】
実施例1〜7および比較例1〜3で得られた塗装亜鉛メッキ鋼板の塗膜の一次密着性・二次密着性、塗装後耐食性、および処理操作時の作業性を、下記の方法等により評価した。その結果を表1に示した。
【0047】
試験方法・評価
1)塗膜の一次密着性(0TT):
塗装した亜鉛メッキ鋼板を5×3cmの寸法に切り出し、板をはさまずにエアー式万力により180°折り曲げた後、折り曲げ部分を覆うようにセロハンテープ(ニチバン社製;「セロテープ」(登録商標))を貼付して、すぐにそのテープを剥離し、鋼板側の剥離面の状態を観察した。
〔評価基準〕
5点:剥離なし、クラックなし、4点:剥離なし、クラックあり、3点:ごくわずかに剥離あり、2点:わずかに剥離あり、1点:剥離あり。
【0048】
2)塗膜の二次密着性(0TT):
塗装した亜鉛メッキ鋼板を沸騰水中に2時間浸漬した後、上記一次密着性に準じた操作を行い、下記基準で評価した。
〔評価基準〕
5点:剥離なし、クラックなし、4点:剥離なし、クラックあり、3点:ごくわずかに剥離あり、2点:わずかに剥離あり、1点:剥離あり。
【0049】
3)塗装後耐食性:
塗装した亜鉛メッキ鋼板にカッターで鉄面までクロスカットを入れ、塩水噴霧試験に240時間かけた後、クロスカット部のふくれ(ブリスター)の有無あるいはふくれ部の幅を評価した。
〔評価基準〕
5点:ふくれ幅0mm、4点:ふくれ幅1mm以下、3点:ふくれ幅3mm以下、2点:ふくれ幅5mm以下、1点:ふくれ幅5mm超。
【0050】
4)処理操作時の作業性:
実機の処理工程は、長時間の連続運転であり、工場環境等により、処理浴の液温が上昇することが少なくなく、処理液の液性状の変化や乾燥が起こり得る。その結果、熱時ゲル化や凝集物の発生などにより、塗布性が悪化したり、コーターロールや鋼板そのものに凝集物が付着する等の不具合が発生し得る。
実製造ライン運転時の作業性を推測するために、50℃程度に保温した各処理液をラボコーターを用いて確認実験を行った。
経時変化を確認するため10時間以上稼動させ、液濃縮時の性状変化、凝集物の発生等を観察し、作業性を総合的に評価した。(凝集物の確認については、上記処理液をバーコーターを用いて亜鉛メッキ鋼板に塗布した。)
〔評価基準〕
○:変化なし △:僅かに凝集物あり ×:凝集物あり又はゲル化
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有化合物を0.1〜50g/l、リン含有イオンを0.1〜50g/l及び水分散性ポリウレタンを0.1〜500g/l含む水性液からなる塗装鋼板用クロムフリー防錆被覆剤。
【請求項2】
さらにジルコニウム化合物を1〜250g/l含む請求項1記載の防錆被覆剤。
【請求項3】
さらに水分散性シリカを1〜300g/l含む請求項1又は2記載の防錆被覆剤。
【請求項4】
亜鉛被覆鋼または無被覆鋼を請求項1記載の防錆被覆剤で処理する防錆処理方法。
【請求項5】
請求項1記載の防錆被覆剤で処理されている防錆処理金属材。




【公開番号】特開2006−124751(P2006−124751A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312595(P2004−312595)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】