説明

塩分含有有機廃液処理剤、並びに、塩分濃度低下剤、塩分含有有機廃液の処理方法、及び包括固定担体

【課題】塩分含有有機廃液を、短時間で高効率よく簡便に処理することができ、特殊な装置を必要とせず低エネルギーで安価であり、安全性が高い塩分含有有機廃液処理剤、並びに、塩分濃度低下剤、塩分含有有機廃液の処理方法、及び包括固定担体の提供。
【解決手段】少なくともスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)を含有し、塩分含有有機廃液を処理する塩分含有有機廃液処理剤、及びスクチカ繊毛虫と塩分含有有機廃液とを接触させ、前記塩分含有有機廃液を処理する塩分含有有機廃液処理工程を含む塩分含有有機廃液の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩分含有有機廃液処理剤、並びに、塩分濃度低下剤、塩分含有有機廃液の処理方法、及び包括固定担体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、水質の指標のひとつであるCOD値(化学的酸素要求量)を低下させることができる廃液処理法に対する要求が高まっている。
廃液を処理する方法としては、活性汚泥法、回転円盤法等の生物処理法や、凝集法、沈澱法、活性炭濾過法、膜濾過法等の物理化学的処理法などが挙げられ、近年、生活廃液や産業廃液を処理する方法として、生物処理法、特に活性汚泥法が広く普及している。
前記生物処理法によれば、細菌、原生動物、後生動物等の混合微生物系によって廃液が浄化される。
【0003】
前記生物処理法としては、例えば、有機汚濁廃液をフィロジーナ種(Philodina sp.)に属する微小後生動物の優先化活性汚泥と接触させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、一般的に後生動物は、原生動物と比較して増殖が遅く、迅速な廃液処理が困難である点で問題である。また、活性汚泥法を用いる場合、汚泥が異常に膨化して、凝集性や沈殿性を失う、いわゆるバルキング現象が生じたり、大量の余剰汚泥が発生したりするなどの問題もある。更に、フィロジーナ種は、輪虫類に属する淡水性の生物であり、塩分含有有機廃液を対象とすると、塩分ストレスによりフィロジーナ種を優占種とした活性汚泥では死滅してしまう。このように、前記生物処理法において廃液に塩分が含まれている場合、該方法に用いる生物が浸透圧差により原形質分離を惹起して死滅してしまい、廃液処理能力が著しく低下するという問題がある。
【0004】
前記塩分含有有機廃液としては、例えば、海産廃棄物の廃液などが挙げられる。前記海産廃棄物のひとつとして、クラゲ類が問題となっている。
海水などに浮遊しているクラゲ類は、主に温暖な時期に大発生し、様々な被害をもたらしており、沿岸の定置網漁などの漁業に甚大な被害をもたらしている。また、大量の冷却水を必要とする発電所、製鉄所等の臨海プラント施設においては、海水を冷却水として使用するため、海水の取水口が設けられているが、該取水口をクラゲ類が閉塞してしまうことによる被害、即ち、取水が制限乃至停止され、その運転に支障をきたすという被害が問題となってきている。これらのクラゲ類は、一旦陸揚げされると、産業廃棄物となりそのまま海洋に放流乃至廃棄することができない。そのため、前記陸揚げされたクラゲ類を廃棄処理する各種方法が検討されている(例えば、特許文献2〜10及び非特許文献1参照)。
【0005】
しかし、前記クラゲ類の分解廃液等の塩分含有有機廃液は、そこに含まれる塩分のため、効率的な分解廃棄処理ができないなどの問題がある。また、酵素乃至微生物等を利用した生物処理を行う場合、前記機械的廃棄処理に比べると効率的な分解廃棄処理が可能であるものの、塩分により十分な酵素活が得られないことや、微生物が死んでしまうなどの問題があった。
このため、従来においては、前記クラゲ類の分解廃液を一旦淡水で希釈してから活性汚泥等を利用して分解廃棄処理を行う等していたが、この場合、大量の希釈用の淡水で希釈する必要が生じて効率的でないという問題があった。
【0006】
これに対し、酵母や細菌群を固定化した担体を用いて塩分含有有機廃液を処理する方法が提案されている(特許文献11及び非特許文献2参照)。
しかし、この方法によっても、クラゲ酵素分解廃液のCOD値を約80%低下させるためには2日間〜3日間を要しており、処理の時間が長い点で問題であった。
【0007】
したがって、塩分を含有する有機廃液を、短時間で高効率よく簡便に処理することができ、特殊な装置を必要とせず低エネルギーで安価であり、安全性が高い塩分含有有機廃液処理剤、並びに、塩分濃度低下剤、塩分含有有機廃液の処理方法、及び包括固定担体の提供が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−1557911号公報
【特許文献2】特開2001−300505号公報
【特許文献3】特開2000−5738号公報
【特許文献4】特開平11−244833号公報
【特許文献5】特開2000−145196号公報
【特許文献6】特開2001−198566号公報
【特許文献7】特開2003−53303号公報
【特許文献8】特開平11−179327号公報
【特許文献9】特開2001−95564号公報
【特許文献10】特開2002−136952号公報
【特許文献11】特開2007−000863号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】土井宏育、岡達三、野々村禎昭、日本海水学会誌、2007年、61巻第6号、p.342−351
【非特許文献2】土井宏育、武田美貴雄、岡達三、野々村禎昭、日本海水学会誌、2006年、60巻第6号、p.426−433
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、塩分含有有機廃液を、短時間で高効率よく簡便に処理することができ、特殊な装置を必要とせず低エネルギーで安価であり、安全性が高い塩分含有有機廃液処理剤、並びに、塩分濃度低下剤、塩分含有有機廃液の処理方法、及び包括固定担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、少なくともスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)を含有し、塩分含有有機廃液を処理する塩分含有有機廃液処理剤は、塩分含有有機廃液を、短時間で高効率よく簡便に処理することができ、特殊な装置を必要とせず低エネルギーで安価であり、安全性が高いことを知見し、本発明の完成に至った。
【0012】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくともスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)を含有し、塩分含有有機廃液を処理することを特徴とする塩分含有有機廃液処理剤である。
<2> 凝集剤を更に含有する前記<1>に記載の塩分含有有機廃液処理剤である。
<3> 凝集剤が、ポリ塩化アルミニウム及びポリシリカ鉄の少なくともいずれかを含有する前記<2>に記載の塩分含有有機廃液処理剤である。
<4> 少なくともスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)を含有し、塩分含有有機廃液の塩分濃度を低下させることを特徴とする塩分濃度低下剤である。
<5> スクチカ繊毛虫と塩分含有有機廃液とを接触させ、前記塩分含有有機廃液を処理する塩分含有有機廃液処理工程を含むことを特徴とする塩分含有有機廃液の処理方法である。
<6> 塩分含有有機廃液処理工程においてスクチカ繊毛虫と塩分含有有機廃液とを接触させた後の塩分含有有機廃液のCOD値が、前記スクチカ繊毛虫と前記塩分含有有機廃液とを接触させる前の塩分含有有機廃液のCOD値に対して30%以下である前記<5>に記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<7> 塩分含有有機廃液処理工程において、スクチカ繊毛虫と塩分含有有機廃液とを接触させた後の塩分含有有機廃液のCOD値が、該スクチカ繊毛虫と該塩分含有有機廃液とを接触させてから7時間以内に、前記スクチカ繊毛虫と前記塩分含有有機廃液とを接触させる前の塩分含有有機廃液のCOD値に対して30%以下となる前記<5>から<6>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<8> 塩分含有有機廃液処理工程が、遊泳型のスクチカ繊毛虫を塩分含有有機廃液に対して1.2×10個体/mL〜3.2×10個体/mL接触させて行われる前記<5>から<7>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<9> 塩分含有有機廃液の温度が45℃未満である前記<5>から<8>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<10> 塩分含有有機廃液のpHが4.5〜10.5である前記<5>から<9>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<11> 塩分含有有機廃液の電気伝導計で測定した塩分濃度が5以上80未満である前記<5>から<10>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<12> 塩分含有有機廃液処理工程の後、スクチカ繊毛虫を含有する固相と、塩分含有有機廃液の処理液を含む液相とを固液分離する固液分離工程を含む前記<5>から<11>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<13> 固液分離工程で分離された液相に凝集剤を添加して汚泥を凝集沈殿させる凝集工程を含む前記<12>に記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<14> 固液分離工程で分離された液相を濾過する濾過工程を含む前記<12>から<13>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<15> 固液分離工程で分離された固相に、更に塩分含有有機廃液を添加し、塩分含有有機廃液処理工程を繰り返し行う前記<12>から<14>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<16> 塩分含有有機廃液がクラゲ類、魚介類、甲殻類、及び食品廃水を含む前記<5>から<15>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<17> 塩分含有有機廃液がクラゲ類の分解液を含む前記<5>から<16>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<18> 塩分含有有機廃液処理工程が、スクチカ繊毛虫を優占種とした活性汚泥法により行われる前記<5>から<17>のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<19> スクチカ繊毛虫を優占種とした活性汚泥が、遊泳型の前記スクチカ繊毛虫を1.2×10個体/mL〜3.2×10個体/mL含む前記<18>に記載の塩分含有有機廃液の処理方法である。
<20> 少なくともスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)を担体に包括固定化したことを特徴とする包括固定化担体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、塩分含有有機廃液を、短時間で高効率よく簡便に処理することができ、特殊な装置を必要とせず低エネルギーで安価であり、安全性が高い塩分含有有機廃液処理剤、並びに、塩分濃度低下剤、塩分含有有機廃液の処理方法、及び包括固定担体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、海産廃棄物の処理方法に用いられる装置の一例を示す概略説明図である。
【図2】図2は、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法の一例を示す概略説明図である。
【図3】図3は、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法に用いられるスクチカ繊毛虫の位相差顕微鏡写真である。スケールバーは、10μmを表す。
【図4】図4は、試験例1の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法における処理温度の影響を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図5】図5は、試験例2の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法における処理温度の影響を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図6A】図6Aは、スクチカ繊毛虫の遊泳細胞及びシスト細胞の位相差顕微鏡写真である。
【図6B】図6Bは、図6Aのスクチカ繊毛虫のシスト細胞を拡大した図である。
【図7A】図7Aは、試験例3の結果であり、スクチカ繊毛虫の高温耐性試験の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図7B】図7Bは、試験例3の結果であり、スクチカ繊毛虫の高温耐性試験の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図8】図8は、試験例4の結果であり、スクチカ繊毛虫の高温耐性試験の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図9】図9は、試験例5の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法における処理温度の、COD低減及びスクチカ繊毛虫の増殖への影響の結果を示す図である。左縦軸:COD(mg/L)、右縦軸:遊泳型スクチカ繊毛虫の個体数(個体/mL)、横軸:時間(h)。
【図10】図10は、試験例6の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法における低温条件での処理の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図11】図11は、試験例7の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法におけるpHの影響を示す図である。左縦軸:COD(mg/L)、右縦軸:20時間後のpH、横軸:処理pH。
【図12】図12は、試験例8の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法における塩分濃度の影響を示す図である。左縦軸:COD(mg/L)、右縦軸:20時間後のpH、横軸:処理塩分濃度。
【図13】図13は、試験例9の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法におけるスクチカ繊毛虫のスターター量の影響示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図14】図14は、試験例10の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法におけるスクチカ繊毛虫のスターター量の影響示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図15A】図15Aは、試験例11の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法におけるスクチカ繊毛虫の前培養の有無の影響を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図15B】図15Bは、試験例11の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法におけるスクチカ繊毛虫の前培養の有無の影響を示す図である。左縦軸:COD(mg/L)、右縦軸:遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数、横軸:時間(h)。
【図15C】図15Cは、試験例11の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法におけるスクチカ繊毛虫の前培養の有無の影響を示す図である。左縦軸:COD(mg/L)、右縦軸:遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数、横軸:時間(h)。
【図16A】図16Aは、試験例12の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法における撹拌処理の有無の影響を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図16B】図16Bは、試験例12の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法における撹拌処理の有無の影響を示す図である。縦軸:遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数、横軸:時間(h)。
【図17】図17は、試験例13の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法と、従来の常用活性汚泥による処理方法とを比較した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:廃液処理系。
【図18】図18は、試験例14の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法と、従来の細菌ペレットによる処理方法とを比較した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図19】図19は、試験例15の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法と、従来のバクテリアによる処理方法とを比較した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図20】図20は、試験例16の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法と、従来の細菌ペレットによる処理方法とを比較した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:日数。
【図21】図21は、試験例17の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法と、従来の細菌ペレットによる処理方法とを比較した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:日数。
【図22】図22は、試験例18の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法を用いた高塩濃度食品廃水処理の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図23A】図23Aは、試験例19の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、ムラサキイガイの煮汁を処理した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図23B】図23Bは、試験例19の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、ホタテ貝の煮汁を処理した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図23C】図23Cは、試験例19の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、イソガニの煮汁を処理した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図24A】図24Aは、試験例20の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、塩分含有有機廃液を血栓溶解酵素で処理してから用いた場合の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図24B】図24Bは、試験例20の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、塩分含有有機廃液を血栓溶解酵素で処理してから用いた場合の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図25A】図25Aは、試験例21の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、凝集剤を用いた場合の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:ポリ塩化アルミニウム(PAC)添加時機。
【図25B】図25Bは、試験例21の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、凝集剤を用いた場合の結果を示す図である。縦軸:pH、横軸:ポリ塩化アルミニウム(PAC)添加時機。
【図25C】図25Cは、試験例21の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、凝集剤を用いた場合の結果を示す図である。縦軸:生成汚泥量(mL)、横軸:ポリ塩化アルミニウム(PAC)添加時機。
【図26A】図26Aは、試験例22の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、凝集剤を用いた場合の結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤添加時機。
【図26B】図26Bは、試験例22の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、凝集剤を用いた場合の結果を示す図である。縦軸:pH、横軸:3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤添加時機。
【図26C】図26Cは、試験例22の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、凝集剤を用いた場合の結果を示す図である。縦軸:生成汚泥量(mL)、横軸:3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤添加時機。
【図27A】図27Aは、試験例23の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、繰り返し処理を行った場合の結果を示す図である。縦軸:COD、BOD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図27B】図27Bは、試験例23の結果であり、該本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、繰り返し処理を行った場合の結果を示す図である。縦軸:SS(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図27C】図27Cは、試験例23の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、繰り返し処理を行った場合の結果を示す図である。縦軸:T−N(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図27D】図27Dは、試験例23の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、繰り返し処理を行った場合の結果を示す図である。縦軸:T−P(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図28】図28は、試験例24の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、塩分含有有機廃液を、順次スクチカ繊毛虫による処理、凝集沈澱処理、及び活性炭処理した場合の結果を示す図である。縦軸:それぞれのパラメータのmg/Lを示す。横軸:各処理工程。
【図29A】図29Aは、試験例25の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、ムラサキイガイの煮汁を処理した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:時間(h)。
【図29B】図29Bは、試験例25の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、ムラサキイガイの煮汁を処理した結果を示す図である。縦軸:塩分濃度、横軸:時間(h)。
【図30】図30は、試験例26の結果であり、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、ムラサキイガイの煮汁を処理した結果を示す図である。縦軸:COD(mg/L)、横軸:処理回数。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(塩分含有有機廃液処理剤)
本発明の塩分含有有機廃液処理剤は、少なくともスクチカ(スクーチカ、スクーティカ、スカチコシリアチダなどと称することもある。)繊毛虫(Scuticociliatida)を含有し、必要に応じて、更に凝集剤等のその他の成分を含有する。
【0016】
<スクチカ繊毛虫>
繊毛虫類(Ciliophora)は、通常小型から中型の原生動物であり、少なくとも生活環の一時期において、繊毛又は繊毛複合体を有する。繊毛は、体表面に部分的に局在するか、又はその全域を覆っている。繊毛複合体は特殊な機能を遂行するために分化した細胞小器官であり、少膜、波動膜、棘毛などがあり、その形態や分布様式は重要な分類基準としてよく利用される。尾繊毛を有し、口部繊毛系の波動膜が顕著である。収縮胞が体の後端部に1個認められる。核は大核と小核とに分化している。無性生殖は2分裂又は出芽により、有性生殖は接合、自家生殖、細胞質融合によって行われる。口部形成時にスクチカ(繊毛虫に見られる独特の細胞器官で、2分裂の過程において一時的に顕著に出現する運動基体の複合体)が形成される。繊毛虫類は、約7,500種が報告されており、海産種及び汽水産種が多く知られている(「原生動物の観察と実験法」、監督 重中義信、共立出版株式会社、1988年6月1日 初版1刷発行、p.248;「ハウスマン 原生動物学入門」、発行者 森田悦郎、弘学出版株式会社、1989年6月20日 初版発行、p.70〜88;「やさしい日本の淡水プランクトン図解ハンドブック改定版」、2009年10月19日 改定版第2刷発行、p66〜97;“The Ciliated Protozoa 2nd edition.”、 Corliss J.O.、 1979、 Pergamon press、 Oxford、 pp.455;「原生動物図鑑」、監修 猪木正三、講談社、1981年;「微小動物の分類と出現環境(まとめ)−1.繊毛虫―.用水と排水」、大内山高広、1999、vol.41(11)、p.46−56参照)。
【0017】
前記スクチカ繊毛虫は、前記繊毛虫類の特徴を有するが、更に洋梨形で長さ20μm〜45μmであり、長軸に沿って8本〜12本の繊毛列を有し、尾端に1本の繊毛を備えることを特徴とする(猪木正三監修、1981、原生動物図鑑、講談社サイエンティフィク、特開2008−044862号公報参照)。
前記塩分含有有機廃液処理剤に含まれるスクチカ繊毛虫は、前記スクチカ繊毛虫の特徴と一致し、長さが20μm〜25μmであり、洋梨型で、長軸に沿って8本〜12本の繊毛列を有し、尾端に1本の繊毛を有する。また、口部が発達し、波動膜、膜板、ペニクルス(短い繊毛の帯状配列)などが口部に形成されている。口部繊毛系は、体繊毛系から明瞭に識別できる(小膜綱、Oligohymenophora)。口内部の構造は通常目立たず、体繊毛系は普通に形成され、繊毛は体表面に一様に生えている(膜口亜綱、Hymenostomata)。
【0018】
繊毛虫類の分類は、専門化の間でも未だ分類学上定まった見解がないのが現状である。例えば、スクチカ繊毛虫と同じ繊毛虫に属し、最もよく知られているゾウリムシ(Paramecium sp.)の網レベルでの分類学的位置は時代によって変遷してきた。光学顕微鏡で観察していた時代では、Ciliata網に属し、光学顕微鏡と銀染色で観察していた時代では、Oligohymenophorea網に属し、銀染色と電子顕微鏡で観察していた時代では、Nassophorea網に属し、遺伝子解析で分類していた時代では、光学顕微鏡と銀染色で観察していた時代と同じ、Oligohymenophorea網に属することが示されている(Denis H. Lynn., 2008, The Ciliated Protozoa参照)。
繊毛虫の分類は、現在においても細菌や糸状菌、酵母などで広く行われている遺伝子解析は一般的ではなく、形態観察により同定する方法が主流となっている。
【0019】
前記塩分含有有機廃液処理剤中の前記スクチカ繊毛虫の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記塩分含有有機廃液処理剤は、前記スクチカ繊毛虫そのものであってもよい。
【0020】
前記塩分含有有機廃液処理剤に含まれるスクチカ繊毛虫の状態としては、遊泳型であることが、塩分含有有機廃液処理活性が高い点で好ましいが、塩分含有有機廃液を処理する際の条件、例えば、処理液の塩分濃度、処理液のpH、処理温度、前培養の有無、曝気条件などにより、該塩分含有有機廃液処理剤中のスクチカ繊毛虫の休眠状態であるシスト型から遊泳型に変化させることができるため、該塩分含有有機廃液処理剤に含まれるスクチカ繊毛虫の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
<<入手方法>>
前記スクチカ繊毛虫の入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、自然界から採取し分離したものであってもよく、既に分離されているもの(例えば、市販品や譲渡によるものなど)を用いてもよい。
【0022】
−採取−
前記スクチカ繊毛虫を自然界から採取する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スクチカ繊毛虫が生息する、水圏動植物(海産動物、海産植物、淡水動物、淡水植物など)、海水、淡水、汚泥などから採取する方法などが挙げられる。
【0023】
前記汚泥としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、海底汚泥が好ましく、更に、海底表面に近い層から採取した海底汚泥がより好ましい。
前記海底表面に近い層とは、例えば、海底表面から5cm〜20cm程度をいい、好ましくは5cm〜10cm程度をいう。
【0024】
−分離−
前記スクチカ繊毛虫を分離する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、前記水圏動植物から分離する場合、一定量の該水圏動植物に適宜選択した溶液を添加して前記スクチカ繊毛虫の浮遊液を調製した後、前記水圏動植物を除去し、前記浮遊液を遠心分離した沈殿を前記スクチカ繊毛虫として分離することができる。
前記海水、淡水、汚泥などから分離する場合、毛細管を用いて、実体顕微鏡観察下で吸引することにより分離することができる。
分離したスクチカ繊毛虫の数は、例えば、血球計算盤などで計測することができる。
【0025】
−同定−
前記したとおり、前記スクチカ繊毛虫は現在分類が定まっておらず不明な点が多い微生物であるため、同定方法としては、形態観察による方法が用いられる。
前記形態を確認する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分離したスクチカ繊毛虫をそのまま光学顕微鏡で観察する方法、銀染色等の染色を施して観察する方法、電子顕微鏡で観察する方法、遺伝子解析を行う方法などが挙げられる。
【0026】
−増殖−
スクチカ繊毛虫の増殖に用いる培地としては、特に制限はなく、公知の培地の中から適宜選択することができ、例えば、ブドウ糖等の糖類;硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の窒素源;塩化カリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩類;脱穀していない小麦、大麦、米、稗、粟等の穀類などを含む培地などが挙げられる。また、ゼラチン含有人工海水などで増殖させてもよく、後述する塩分含有有機廃液で直接増殖させてもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記培地中の各成分の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
前記スクチカ繊毛虫を増殖させる温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃〜45℃が好ましく、4℃〜40℃がより好ましく、27℃〜37℃が特に好ましい。前記温度が、0℃未満であると、前記スクチカ繊毛虫が十分に増殖しないことがあり、45℃を超えると、前記スクチカ繊毛虫が死滅してしまうことがある。
【0028】
前記スクチカ繊毛虫を増殖させる時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4時間〜48時間が好ましく、6時間〜24時間がより好ましく、6時間〜10時間が特に好ましい。前記時間が、4時間未満であると、前記スクチカ繊毛虫による廃液処理が不十分となることがあり、48時間を超えると、前記スクチカ繊毛虫がシスト化乃至自己溶解を起こすことがある。
【0029】
前記スクチカ繊毛虫は、振盪培養であってもよく、静置培養であってもよい。また、好気培養してもよく、嫌気培養してもよいが、好気培養で行われることが、効率よく増殖させることができる点で好ましく、曝気(空気又は酸素を送り込みながら攪拌)しながら培養することが特に好ましい。
前記曝気する際の通気量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記塩分含有有機廃液1Lに対して、1L/分間〜4L/分間が好ましく、2L/分間〜4L/分間がより好ましく、3L/分間〜4L/分間が特に好ましい。前記通気量が、1L/分間未満であると、前記スクチカ繊毛虫が生育できないことや、休眠状態であるシスト型から遊泳型にならないことがある。
なお、前記スクチカ繊毛虫は、塩分含有有機廃液中で30℃にて通気量3L/分間にて曝気しながら24時間培養することにより、約1.9×10個体/mL〜約3.0×10個体/mLに増殖させることができる。
【0030】
前記培地の塩分濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、電気伝導計で測定した塩分濃度が、80未満が好ましく、10〜70がより好ましく、50〜70が特に好ましい。前記塩分濃度が、80以上であると、前記スクチカ繊毛虫がシスト化又は死滅し生育することができず、前記塩分含有有機廃液の処理効果を十分に得ることができないことがある。
前記電気伝導計は、例えば、海水濃度計(PAL−06S、株式会社アタゴ製)などが挙げられる。
【0031】
前記培地のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4〜11が好ましく、4.2〜10.5がより好ましく、4.5〜10が特に好ましい。
【0032】
前記塩分含有有機廃液処理剤における前記スクチカ繊毛虫の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記塩分含有有機廃液処理剤は、前記スクチカ繊毛虫そのものであってもよい。
【0033】
<その他の成分>
前記塩分含有有機廃液処理剤中の前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、海水、汚泥、無機塩類、各種培地成分などが挙げられる。
前記塩分含有有機廃液処理剤における前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
−凝集剤−
また、前記塩分含有有機廃液処理剤は、凝集剤を含むことが好ましい。
前記凝集剤としては、市販品を用いることができ、その具体例としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤、硫酸アルミニウム、消石灰、生石灰、硫酸鉄、硫酸第二鉄アンモニウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、活性珪酸、アルミン酸ナトリウム、塩化鉄、ポリ硫酸鉄等の無機凝集剤;アルギン酸ナトリウムなどの有機酸塩;ポリアミン等の直鎖脂肪族炭化水素;ポリグルタミン酸等のポリペプチド;アクリル酸ナトリウム等のアニオン性高分子凝集剤;アクリルアミド等のノニオン性高分子凝集剤;ジメチルアミノエチルメタアクリレート等のカチオン性高分子凝集剤;両性の高分子凝集剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記塩分含有有機廃液処理剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、液体であってもよく、固体であってもよい。
【0036】
本発明の前記塩分含有有機廃液処理剤は、1種単独で使用されてもよく、本発明の効果を損なわない限り、他の処理剤と併用されてもよい。
【0037】
<塩分含有有機廃液>
前記塩分含有有機廃液としては、塩分を含んでおり、そのまま廃棄処分をすることができない程度に有機物を含有する廃液であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、難生物分解性のタンパク質、脂質、遊離アミノ酸、多糖類、無機質等の成分が含有されていてもよい。これらの成分は、換言すれば、COD(Chemical Oxygen Demand;化学的酸素要求量)成分やBOD(Biochemical Oxygen Demand;生物化学的酸素要求量)成分、リン成分、窒素成分、懸濁物質、浮遊物質などが大量に含まれている。
このような塩分含有有機廃液としては、例えば、下水、し尿、食品工場の廃液、発電所や製鉄所等の臨海プラント施設の廃液、その他の産業廃液、海産廃棄物、製塩工場、水処理施設などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記塩分含有有機廃液中の有機物の状態としては、前記スクチカ繊毛虫が該塩分含有有機廃液中の有機物を分解しやすい態様であることが好ましく、例えば、有機物がタンパク質であればタンパク質分解酵素などによって、アミノ酸にまで切断された状態であることが好ましい。
なお、本発明において、前記塩分含有有機廃液処理剤の対象としては、塩分を含有する廃液であるが、前記スクチカ繊毛虫は淡水でも生育可能であることから、塩分を含まない廃液に本発明の塩分含有有機廃液処理剤を用いることもできる。
【0038】
前記塩分含有有機廃液の塩分濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、海水程度の濃度であることが好ましく、電気伝導計で測定した塩分濃度が、5以上80未満がより好ましく、10〜70が更に好ましく、50〜70が特に好ましい。前記塩分濃度が、5未満であると、前記スクチカ繊毛虫による廃液処理が不十分となることがあり、80以上であると、前記スクチカ繊毛虫がシスト化又は死滅し生育することができず、前記塩分含有有機廃液の処理効果を十分に得ることができないことがある。
なお、海水における塩分の定義としては、海水1kg中に溶解している固形物質の総量をグラム(g)で表したものであり、絶対塩分と呼ばれる(海の環境微生物学、石田祐三郎、杉田治男編、恒星社厚生閣、2005年、p.48〜49参照)。本発明においては、便宜上塩分濃度を電気伝導計で測定した実用塩分(psu)で表す。例えば、電気伝導計で測定した塩分濃度(実用塩分)が5の場合の塩分濃度を塩化ナトリウム溶液濃度に換算(絶対塩分)すると、0.5質量%となる。
【0039】
前記海産廃棄物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クラゲ類、魚介類、甲殻類、これらの分解液、加工残渣、煮汁、洗浄液などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
<<海産廃棄物の分解液>>
前記海産廃棄物の分解液には、アミノ酸からペプチドレベルの有機物分子が存在し、この程度にまで低分子化された有機物分子を更に分解することは技術的にもコスト的にも極めて難しいが、本発明の塩分含有有機廃液処理剤によれば、このような海産廃棄物の分解液中に含まれる有機物等も効果的に分解処理することができる点で有利である。
【0041】
前記海産廃棄物の分解液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、海産廃棄物を加熱分解した液、海産廃棄物が自然分解した液、海産廃棄物が自己融解した液、海産廃棄物を酵素分解した液などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、前記海産廃棄物の分解液としては、酵素分解した液であることが、処理効率が高く、簡便であり、安全性が高い点で好ましく、本発明者が開発した装置(特開2005−262105号公報参照)を用いて海産廃棄物を分解処理して得た海産廃棄物の分解液がより好ましい。
【0042】
−酵素−
前記海産廃棄物を分解する酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プリオナーゼ酵素、血栓溶解酵素などが挙げられる。なお、これらの酵素は難分解性タンパク質を分解することができるため、前記海産廃棄物以外の有機物、即ち、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において処理対象となる、あらゆる有機物に適用可能である。また、前記血栓溶解酵素の中でも、特にナットウキナーゼは、クラゲ類の毒素も分解できるため、廃液の安全性が高まる点で有利である。
【0043】
−−プリオナーゼ酵素−−
前記プリオナーゼ酵素は、本発明者らが開発した酵素(特開2005−34152号公報参照)であり、ストレプトミセス属放線菌である99−GP−2D−5株(FERM P−19336)又はその誘導菌株により好適に産生される。
【0044】
−−血栓溶解酵素−−
前記血栓溶解酵素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、バチルス属微生物であるバチルス・サチルス(Bacillus subtilis)104−1−3−1株(受託番号:NITE P−680)又はその誘導菌株により産生されたものであることが、海産廃棄物の分解効率が高い点で好ましい。
前記104−1−3−1株又はその誘導菌株の性質は以下のとおりである。
【0045】
−−−科学的性質−−−
グラム陽性桿菌で、細胞は連鎖を示し、芽胞を形成する。芽胞による菌体の膨張は認められない。コロニー形態であり、直径は2.0mm〜3.0mm、色調はクリーム色、形は円形、隆起状態はレンズ状、周縁は波状、表面の形状などはラフ、透明度は不透明、粘稠度はバター様、カタラーゼ反応は陽性、オキシダーゼ反応は陰性である。API試験では、L−アラビノース、リボース、及びグルコース等を酸化し、エリスリトール、D−アラビノース、及びL−キシロース等を酸化しない。嫌気条件下では生育せず、50質量%及び10質量%塩化ナトリウム含有培地で生育する。カゼインを加水分解し、でんぷんを加水分解しない。16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づく検索の結果、Bacillus subtilisと相同であると考えられるが、一般的なBacillus subtilisとは生理学性状の一部が異なっているため、Bacillus subtilisの中の新たな株であることが推定された。
【0046】
−−−分類学上の位置−−−
Bacillus sp.
【0047】
−−−培養条件−−−
(1)培地名:ニュートリエントアガー
(2)培地の組成:ペプトン0.5質量%、牛肉エキス0.3質量%、寒天1.5質量%
(3)培地のpH:7.0
(4)培地の殺菌条件:121℃、20分間
(5)培養温度:30℃
(6)培養期間:7日間
(7)酸素要求性:好気
【0048】
−−−保管条件−−−
(1)凍結条件:L−乾燥
(2)保護剤:20体積%グリセロール
(3)凍結後の復元率:100%
【0049】
−−−寄託−−−
前記104−1−3−1株は、平成20年11月28日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構に受託番号:NITE P−680として受託されている。
【0050】
−−−誘導菌株−−−
前記104−1−3−1株の誘導菌株としては、前記海産廃棄物を分解する血栓溶解酵素を産生できれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記104−1−3−1株が、突然変異(自然発生又は誘発性)、形質転換、接合、遺伝子組換、紫外線、放射線、薬品等により性状などが変異したバチルス属微生物などが挙げられる。
【0051】
−−−培養−−−
前記バチルス属微生物は、前記培養条件以外でも公知の培地で生育することができ、液体培養であっても、固体培養であってもよい。
前記培地の組成としては、前記バチルス属微生物が増殖し前記血栓溶解酵素を産生させることができる培地であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類等の公知の培地成分を含む培地などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記窒素源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販されている大豆粉、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
前記炭素源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トマトペースト、グリセリン、でん粉、グルコース、ガラクトース、デキストリンなどの炭水化物、脂肪などが挙げられる。
前記無機塩類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、食塩、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
また、必要に応じて微量の金属塩や、前記血栓溶解酵素の産生量を高めるような公知の成分を添加してもよい。
これらの材料は、前記バチルス属微生物が利用し、前記血栓溶解酵素の産生に役立つものであればよく、公知の培養材料は全て用いることができる。
【0052】
前記培養方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から、前記バチルス属微生物の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、バッチ法、半連続法、連続法等の種々の方法が挙げられる。前記培養は、前記バチルス属微生物の生育を促進する公知の方法を併用してもよい。
前記液体培地による培養の条件としては、前記バチルス属微生物が死滅することなく、前記血栓溶解酵素を産生させることができる条件であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記培養の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10℃〜45℃が好ましく、27℃〜40℃がより好ましく、27℃〜30℃が特に好ましい。前記特に好ましい範囲であると、血栓溶解酵素の産生量が多い点で有利である。
前記培養の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12時間〜120時間が好ましく、48時間〜96時間がより好ましい。
前記培養は、好気培養であってもよく、嫌気培養であってもよいが、好気培養で行われることが、前記バチルス属微生物が効率よく増殖する点で好ましい。また、振盪培養であってもよく、静置培養であってもよい。
【0053】
前記液体培地中において、前記バチルス属微生物が増殖したことを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、集積培養用液体培地の濁度や添加した試薬による色の変化を、目視や吸光度測定により確認する方法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により確認する方法、化学的酸素要求量の測定により確認する方法などが挙げられる。
【0054】
前記血栓溶解酵素の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記バチルス属微生物を含む培養液、前記バチルス属微生物の菌体を除去した培養上清、精製されや血栓溶解酵素、前記バチルス属微生物とタンパク質性原料とを混合して発酵させた発酵物、乾燥された血栓溶解酵素などが挙げられる。
【0055】
また、前記血栓溶解酵素を産生するバチルス属微生物は、担体に固定された状態で分解に用いられてもよい。
前記担体としては、特に制限はなく、目的等に応じて適宜、その形状、構造、大きさ、材質等について選択することができる。
前記担体の形状としては、例えば、球状、粒状、塊状(ペレット状)、シート状、柱状、網状、カプセル状などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記担体の構造としては、1種単独の部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよく、また、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記担体の微細構造としては、例えば、前記バチルス属微生物が前記海産廃棄物と接触可能な構造であれば特に制限はないが、例えば、多孔質構造、網状構造などが好ましい。前記担体がこれらの構造を有すると、該担体に固定化された前記バチルス属微生物と、前記海産廃棄物との接触面積を大きくすることができるため、前記海産廃棄物の分解処理効率に優れる点で有利である。
前記担体の大きさとしては、該担体を収容する容器等の大きさ等に応じて適宜選択することができる。前記担体の大きさとしては、均一(一定)であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0056】
前記担体の材質としては、例えば、多糖類、タンパク質、合成高分子、無機物などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記多糖類としては、例えば、セルロース、デキストラン、アガロース、アルギン酸ナトリウム、寒天、カラギーナンなどが挙げられ、これらの中でも、前記バチルス属微生物を高濃度に保持可能であるとともに廃液中の成分の透過性に優れ、造粒操作が容易であり、毒性が少なく、処理や処分が容易であるという点で、寒天が好ましい。
前記タンパク質としては、例えば、不活性化されたものが好ましく、その中でも、ゼラチン、アルブミン、コラーゲンなどが挙げられる。
前記合成高分子としては、例えば、アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルクロリド、ポリスチレン、ポリウレタン、光硬化性樹脂などが挙げられる。
前記無機物としては、例えば、シリカゲル、活性炭、砂、ゼオライト、多孔性ガラス、アンスラサイト、ゼオライト、発泡煉石、溶融スラグなどが挙げられ、これらの中でも多孔質材であるシリカゲル、活性炭が好ましい。
【0057】
前記担体に前記バチルス属微生物を固定化する方法としては、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができ、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、付着法(担体結合法)、架橋法、包括法などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で採用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記付着法(担体結合法)は、水に不溶性の前記担体の表面に前記バチルス属微生物を固定化させる方法である。前記架橋法は、2個以上の官能基を持つ試薬と架橋させる方法である。前記包括法は、前記バチルス属微生物をゲルの格子内に包み込むか(格子型)又はポリマーの皮膜によって被覆する方法(マイクロカプセル)である。
【0058】
なお、前記担体に前記バチルス属微生物を固定化する際の該バチルス属微生物の固定位置としては、特に制限はなく、目的等に応じて適宜選択することができるが、前記バチルス属微生物は好気性であるため、前記担体の表面近傍に固定化されているのが好ましい。
【0059】
前記固定化担体として、寒天を用いたゲル状の担体を製造する場合について、以下に説明する。
前記寒天は、例えば、固定化した前記バチルス属微生物の漏出や、内部への侵入が少なく、耐久性に優れ、寿命が長く、安定性が高い濃度である3質量%で担体の造粒を行うのが好ましい。
前記寒天を3質量%になるように水を混合し、60℃以上で撹拌しながら寒天を溶解する。その後、熱耐性のない前記バチルス属微生物群を安定に固定化するために、固化しない範囲で可能な限り低温(例えば55℃以下)で前記バチルス属微生物と混合することが好ましい。
前記バチルス属微生物は、例えば、遠心分離などの操作によって集菌されたものを用いることができる。
前記バチルス属微生物を混合した前記寒天を、室温まで冷却させ固化させた後、成型容器に入れ所望の形状に切断することにより、前記バチルス属微生物固定化担体が得られる。
【0060】
前記バチルス属微生物を固定した担体(以下、「バチルス属微生物固定化担体」と称することがある。)は、前記海産廃棄物と接触させる際に容器中に収容されているのが好ましい。前記担体が前記容器に収容されていることにより、前記担体と前記海産廃棄物との接触を効率よく、かつ制御しつつ行うことができる等の点で好ましい。
前記容器としては、特に制限はなく、その形状、構造、大きさ、材質等について目的に応じて適宜選択することができる。
前記容器の形状としては、例えば、円筒状などが好適に挙げられる。
また、前記容器の材質としては、耐塩性材料で形成されているのが好ましく、ガラス、樹脂、ステンレスなどで形成されているのがより好ましく、これらの中でも、該容器の内部を視認可能であるものが好ましい。
前記容器内における前記バチルス属微生物固定化担体の充填率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、100%であってもよく、100%未満であってもよい。
また、前記容器は、海産廃棄物の負荷に応じて、複数を並列又は直列に接続しても良い。
【0061】
−−−血栓溶解酵素による海産廃棄物の分解方法−−−
前記海産廃棄物は、前記血栓溶解酵素と接触させることにより分解することができる。
前記血清溶解酵素として、前記バチルス属微生物を含む培養液をそのまま用いる場合は、前記バチルス属微生物と、前記海産廃棄物と、好ましくは前記バチルス属微生物の培養に適した培地とを混合した混合液中で、前記バチルス属微生物から前記血栓溶解酵素を産生させるのと同時に、前記海産廃棄物を分解してもよい。この方法によれば、操作が簡便であり、短時間で前記海産廃棄物を処理できる点で好ましい。
【0062】
前記海産廃棄物の使用量としては、特に制限はなく、前記血栓溶解酵素の精製度、血栓溶解酵素の力価などに応じて適宜選択することができる。
【0063】
前記血栓溶解酵素の使用量としては、特に制限はなく、前記血栓溶解酵素の精製度や、酵素力価などに応じて適宜選択することができるが、前記海産廃棄物の体積に対して、0.1体積%以上が好ましく、1体積%以上がより好ましく、1体積%〜2体積%が更に好ましい。前記血栓溶解酵素の使用量が、0.1体積%未満であると、前記海産廃棄物の処理に時間がかかることや、分解効率が悪くなることがある。前記血栓溶解酵素の使用量が、2体積%を超えると、それ以上処理効率が高まらないことがあり、コスト的に不利であるが、分解処理上は上限に臨界的な意義はない。
前記血栓溶解酵素は、前記分解処理時に、必要に応じて、前記海産廃棄物の分解に必要な量を適宜追加し、処理液中の酵素濃度を一定にすることが好ましい。
【0064】
前記分解処理時の処理液中の水分量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25体積%以上が好ましく、50体積%〜70体積%がより好ましい。前記水分量が、25体積%未満であると、海産廃棄物と該酵素が十分に接触せず、酵素による分解反応が進行しないことがあり、70体積%を超えると、酵素が希釈され、分解反応速度が遅くなることがある。
【0065】
前記分解処理時の温度としては、前記海産廃棄物を分解できる温度であれば、特に制限はなく、前記血栓溶解酵素の種類や、前記海産廃棄物の量などに応じて適宜選択することができるが、20℃〜70℃が好ましく、30℃〜60℃がより好ましく、40℃〜53℃が特に好ましい。前記温度が、20℃未満であると、処理の時間がかかることや、分解効率が悪くなることがあり、70℃を超えると、前記血栓溶解酵素が失活して前記海産廃棄物を分解できなくなることがある。
なお、前記海産廃棄物が易分解性であり、短時間の反応で分解できる場合、前記温度は、前記血栓溶解酵素の初期酵素活性が高い点で、45℃〜70℃が好ましく、50℃〜60℃がより好ましい。
一方、前記海産廃棄物が難分解性であり、長時間の反応を要する場合、前記温度は、前記血栓溶解酵素が安定である点で、30℃〜50℃が好ましく、40℃〜47℃がより好ましい。
【0066】
前記分解処理時のpHとしては、特に制限はなく、前記血栓溶解酵素の種類などに応じて適宜選択することができるが、6〜12が好ましく、6〜9がより好ましい。前記pHが、6未満又は12を超えると、前記血栓溶解酵素が失活して前記海産廃棄物を分解効率できなくなることがある。
【0067】
前記分解処理の時間としては、特に制限はなく、前記血栓溶解酵素の種類や量、前記海産廃棄物の種類や量などに応じて適宜選択することができるが、5分間以上が好ましく、10分間以上が好ましい。また、前記反応時間の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2時間以下が好ましい。前記海産廃棄物は、その種類にもよるが、2時間以下で完全に分解されることが多いため、2時間を超えて反応させても効率が悪くなることがある。
【0068】
前記血栓溶解酵素を精製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記血栓溶解酵素を含有するバチルス属微生物の培養上清などを、疎水性相互作用クロマトグラフィーで分画した後、ゲル濾過クロマトグラフィーで脱塩を行い、密度勾配等電点電気泳動で精製する方法などが挙げられる。
【0069】
前記発酵物を調製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、タンパク質性原料と、前記バチルス属微生物とを混合し、公知の方法で発酵させる方法などが挙げられる。
前記タンパク質性原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大豆、小豆、インゲン豆、エンドウ豆、空豆、ウズラ豆、金時豆、落花生等の植物性原料;獣肉、魚肉、鳥肉等の動物性原料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記発酵の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10℃〜50℃が好ましく、27℃〜40℃がより好ましい。
前記発酵の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、
20時間〜72時間が好ましく、48時間〜72時間がより好ましい。
前記発酵物を分離する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩析や各種クロマトグラフィーによって分離する方法などが挙げられる。
【0070】
前記血栓溶解酵素を乾燥させる方法としては、特に制限はなく、公知の手法により行うことができ、例えば、凍結乾燥、通風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥など通常の方法が利用できる。
また、前記血栓溶解酵素は、凍結乾燥後、目的に応じた溶媒に再融解させたものであってもよい。前記血栓溶解酵素は、凍結乾燥後においても、その酵素活性は安定であり、保存安定性が高い点で有利である。
ここで、乾燥させた血栓溶解酵素としては、例えば、前記バチルス属微生物を含む培養液、前記バチルス属微生物の培養上清、前記精製した血栓溶解酵素、前記発酵物又は該発酵物から精製した血栓溶解酵素などを乾燥させたものなどが挙げられる。
【0071】
以下に、装置を用いて前記海産廃棄物を処理する方法の一例について、図面を用いて説明するが、本発明に用いられる装置はこれに限られるものではない。また、以下の説明において、海産廃棄物がクラゲ類の場合を例に挙げて説明するが、下記装置を用いた方法は、海産廃棄物であればよく、クラゲ類に限られるものではない。
【0072】
図1は、前記海産廃棄物の処理方法に用いられる装置(湿式処理装置)の一例を示す概略説明図である。該装置はサイフォンを利用した装置であり、(1)分解槽の中に攪拌装置を必要としない、(2)ポンプが1台で運転が可能なのでランニングコストを抑え、保守管理を容易にすることができる、(3)分解槽から分解液が溢れることがない、(4)分解の様子が容易に観察できる、(5)装置を簡単に大型化できる、及び(6)連続的に分解できる、などの特長を有する。
【0073】
図1に示す装置において、循環・加温槽50内にあらかじめ収容させておいた前記酵素を含む処理液(以下、「クラゲ分解用組成物」と表す)を、前記配管における仕切弁140を「開」にし、仕切弁60、仕切弁70、仕切弁110及び仕切弁130を「閉」にしておき、前記配管に設けた送液ポンプ40を駆動させて汲み上げて、分解槽10内に移送させる。すると、前記クラゲ分解用組成物は、前記液状物流入口から分解槽10内に流入し、仕切槽20内に収容されたクラゲに接触し、該クラゲが該クラゲ分解用組成物によって接触処理される。このとき、このとき、前記クラゲは、分解槽10の下部から内部に流入するクラゲ分解用組成物により、上方に押し上げられるようにして接触処理される。即ち、前記クラゲは、重力方向に落下しようとするのに対し、前記クラゲ分解用組成物は、この落下しようとするクラゲを押し上げるようにして接触する。このため、前記クラゲに付加される重力と、前記クラゲ分解用組成物の流圧との相乗効果により、前記接触処理が効果的に行われ、前記クラゲが効率よく分解される。
【0074】
分解槽10内に流入する前記クラゲ分解用組成物の一部は、分解槽10の下部に設けられた前記液状物流出口からサイフォン管30内に流出する。そして、分解槽10内に流入する前記クラゲ分解用組成物の液量の増量(水位の上昇)と共に、分解槽10における前記液状物流出口に接続され、該液状物流出口付近から上方に向けて延設され、分解槽10の上部付近で下方に向けて湾曲するサイフォン管30内において前記クラゲ分解用組成物の液量も同様の速度で増量(水位が上昇)する。そして、サイフォン管30内において前記クラゲ分解用組成物の液量(水位)がサイフォン管30の湾曲部に達すると、サイフォンの原理により、分解槽10内の前記クラゲ分解用組成物が、前記液状物流出口からサイフォン管30を通して外部に連続的に移送され、サイフォン管通過処理液出口(サイフォン管30の先端)170から循環・加温槽50内に連続的に移送される。このとき、仕切槽20内においては、前記クラ分解用組成物の減量と共に前記クラゲが自重で落下していき、該クラゲ分解用組成物が総て外部に移送された際には、仕切槽20の底面に衝突し、その際の衝撃等により破損等し小片化する。
【0075】
循環・加温槽50内に移送された前記クラゲ分解用組成物は、前記配管に設けた送液ポンプ40を駆動させることにより、再度汲み上げられて、分解槽10内に再度移送される。これにより、分解槽10内において2回目の接触処理が行われる。このとき、前記配管における仕切弁140は「開」にし、仕切弁60、仕切弁70、仕切弁110及び仕切弁130は「閉」にしておく。なお、前記配管に設けた送液ポンプ40を連続的に駆動させておくと、分解槽10内に再移送、分解槽10内での再接触処理を連続的に繰り返すことができる。この接触処理を複数回行うことにより、仕切槽20内に収容されたクラゲが完全に分解され、前記クラゲ分解用組成物中に溶解する。
【0076】
また、循環・加温槽50内では、必要に応じて、サイフォン管30により移送された前記クラゲ分解用組成物を加温管80内を通過させ、循環させることによって加温乃至反応させることができる。即ち、加温管80内を通過し、循環・加温槽50内を循環することにより、前記クラゲ分解用組成物は、均一に混合され、また、ヒーター90によって該クラゲ分解用組成物中に含まれる前記酵素の至適温度に加温されることにより(前記クラゲ分解用組成物の温度が、そこに含まれる酵素の至適温度に既に達している場合には、ヒーター90を作動させる必要はない)、該クラゲ分解用組成物中に含まれる未分解のクラゲ細片等(クラゲタンパク質)の完全かつ効率的な分解が進み、前記クラゲタンパク質が均一に溶解した溶液としての前記クラゲ分解用組成物が調製される。なお、循環・加温槽50内の前記クラゲ分解用組成物を、加温管80内を通過させて循環・加温槽50内で循環させるには、前記配管における仕切弁70を「開」にし、仕切弁60、仕切弁130及び仕切弁140を「閉」にしておき、前記配管に設けた送液ポンプ40を駆動させることにより行うことができる。また、このとき、循環・加温槽50内の前記クラゲ分解用組成物の全部を、加温管80内を通過させて循環・加温槽50内で循環させてもよいし、循環・加温槽50内の前記クラゲ分解用組成物の一部を、加温管80内を通過させて循環・加温槽50内で循環させ、残りの一部を分解槽10内に移送させてもよい。
<用途>
本発明の塩分含有有機廃液処理剤は、塩分含有有機廃液を、短時間で高効率よく簡便に処理することができ、安全性が高く、長期間に渡って継続的に前記塩分含有有機廃液を処理することができるため、下水、し尿、食品工場の廃液、発電所や製鉄所等の臨海プラント施設の廃液、その他の産業廃液、海産廃棄物などの塩分を含有する廃液の浄化、特にクラゲ類の分解液の浄化に好適に利用可能である。
【0077】
(塩分濃度低下剤)
本発明の塩分濃度低下剤は、前記スクチカ繊毛虫を少なくとも含有し、必要に応じて更にその他の成分を含有する。
【0078】
<スクチカ繊毛虫>
前記塩分濃度低下剤中の前記スクチカ繊毛虫としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記塩分含有有機廃液処理剤中のスクチカ繊毛虫と同様のものなどが挙げられる。
前記塩分含有有機廃液処理剤中の前記スクチカ繊毛虫の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記塩分濃度低下剤は、前記スクチカ繊毛虫そのものであってもよい。
【0079】
前記塩分濃度低下剤に含まれるスクチカ繊毛虫の状態としては、遊泳型であることが、塩分濃度低下活性が高い点で好ましいが、塩分濃度を低下させる際の条件、例えば、処理液のpH、処理温度、前培養の有無、曝気条件などにより、該塩分濃度低下剤中のスクチカ繊毛虫を休眠状態であるシスト型から遊泳型に変化させることができるため、該塩分濃度低下剤に含まれるスクチカ繊毛虫の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0080】
<その他の成分>
前記塩分低下剤中の前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、海水、汚泥、無機塩類、各種培地成分などが挙げられる。
前記塩分低下剤における前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0081】
前記塩分低下剤の剤型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、液体であってもよく、固体であってもよい。
本発明の前記塩分低下剤は、1種単独で使用されてもよく、本発明の効果を損なわない限り、他の処理剤と併用されてもよい。
【0082】
<塩分低下方法>
前記塩分濃度低下剤を用いて対象の塩分含有溶液等の塩分濃度を低下させる方法としては、前記スクチカ繊毛虫を用いる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記塩分低下剤と、対象の塩分含有溶液などとを接触させる方法などが挙げられる。
前記接触させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0083】
<用途>
前記塩分濃度低下剤は、例えば、海水などの塩分含有系における塩分濃度を好適に低下させることができるため、塩分含有有機廃液などを処理する際に、所望の塩分濃度まで低下させるなどの用途に用いることができる。これにより塩分含有有機廃液中に含まれる有機物を酵素などで分解する際、該塩分含有有機廃液を、該酵素の活性を阻害しない塩分濃度に調整できる点で有利である。
【0084】
(塩分含有有機廃液の処理方法)
本発明の塩分含有有機廃液の処理方法は、塩分含有有機廃液処理工程を少なくとも含み、必要に応じて、更に固液分離工程、凝集工程、殺菌工程、脱塩工程、温度調節工程、濾過工程、リサイクル工程等のその他の工程を含む。本発明の塩分含有有機廃液の処理方法によれば、塩分含有有機廃液の有機物を短時間で高効率よく分解でき、該塩分含有有機廃液を浄化することができる。
前記塩分含有有機廃液の処理方法は、装置を用いて行われてもよい。前記装置としては、特に制限はなく、公知の装置の中から目的に応じて適宜選択することができる。また、前記塩分含有有機廃液中の有機物を、本発明の処理に好適な状態にするための装置(例えば、前記クラゲ類を分解する装置)と連動させ、未処理の有機物(例えば、クラゲの固体)を対象として廃液の浄化までを連続的に処理できる装置であってもよい。また、前記塩分含有有機廃液の処理方法には、後述する本発明の包括固定担体を用いて行ってもよい。
前記装置は、塩分含有有機廃液処理手段を有することが好ましく、必要に応じて、更に固液分離手段、凝集手段、殺菌手段、脱塩手段、温度調節手段、濾過手段、リサイクル手段などを有することがより好ましい。
ここで、前記塩分含有有機廃液処理工程は前記塩分含有有機廃液処理手段に、前記固液分離工程は前記固液分離手段に、前記殺菌手段は前記殺菌工程に、前記脱塩工程は前記脱塩手段に、前記温度調節工程は前記温度調節手段に、前記照射工程は前記照射手段に、前記濾過工程は前記濾過手段に、前記リサイクル工程は前記リサイクル手段により好適に行われる。
以下、前記塩分含有有機廃液の処理方法の説明と合わせて、前記装置についても説明する。
【0085】
<塩分含有有機廃液処理工程、塩分含有有機廃液処理手段>
前記塩分含有有機廃液処理工程は、前記スクチカ繊毛虫と前記塩分含有有機廃液とを接触させて、該塩分含有有機廃液を処理する工程である。前記装置を用いる場合は、前記塩分含有有機廃液処理工程は、前記塩分含有有機廃液処理手段により好適に行われる。
前記塩分含有有機廃液処理工程では、スクチカ繊毛虫そのものを用いてもよく、本発明の前記塩分含有有機廃液処理剤を用いてもよい。
【0086】
前記塩分含有有機廃液を処理する方法としては、前記スクチカ繊毛虫を用いる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記塩分含有有機廃液と、前記スクチカ繊毛虫とを接触させる方法などが挙げられる。
前記接触させる方法としては、前記塩分含有有機廃液と前記スクチカ繊毛虫とが接触することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記塩分含有有機廃液に、スクチカ繊毛虫及び/又は前記塩分含有有機廃液処理剤を添加する方法、前記スクチカ繊毛虫を含む活性汚泥(好ましくは、前記スクチカ繊毛虫を優占種とした活性汚泥)を用いた活性汚泥法などが挙げられる。
【0087】
前記スクチカ繊毛虫の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記塩分含有有機廃液に対する遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数が、1.2×10個体/mL〜3.2×10個体/mLが好ましく、4.0×10個体/mL〜1.2×10個体/mLがより好ましく、8.0×10個体/mL〜1.2×10個体/mLが特に好ましい。前記使用量が、1.2×10個体/mL未満であると、前記塩分含有有機廃液中の有機物を十分に分解できず処理の効率が悪くなることや、処理の時間が長くなることがあり、3.2×10個体/mLを超えると、スクチカ繊毛虫の自己溶解が始まり、COD値などの廃液パラメータを上昇させることがある。
前記スクチカ繊毛虫の個体数は、例えば、血球計算盤を用いて測定することができる。
【0088】
前記処理の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、45℃未満が好ましく、3℃以上45℃未満がより好ましく、37℃以上40℃以下が特に好ましい。前記処理の温度が45℃以上であると、前記スクチカ繊毛虫が休眠状態となることがあり、COD値を十分に減少させることができないことがある。また、前記処理の温度が3℃未満であると、スクチカ繊毛虫の増殖速度が遅く、十分に廃液を浄化できない
ことがある。
【0089】
前記処理の時間としては、特に制限はなく、廃水パラメータなどに応じて適宜選択することができるが、その上限値としては、48時間以内が好ましく、10時間以内がより好ましく、7時間以内が特に好ましい。前記処理の時間が48時間を超えると、処理に時間がかかりすぎ効率が悪い点で好ましくない。
また、前記処理の時間の下限値としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、6時間以上が特に好ましい。前記処理の時間が4時間未満であると、前記塩分含有有機廃液中の有機物を十分に分解できず処理の効率が悪くなることがある。
本発明の塩分含有有機廃液の処理方法は、短時間で廃水パラメータを良好な値まで低下させることができる点で有利である。
【0090】
前記処理の条件としては、前記スクチカ繊毛虫が生育できる条件であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、好気条件で行うことが好ましく、曝気しながら処理することがより好ましい。
前記曝気する際の通気量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記塩分含有有機廃液1Lに対して、1L/分間〜4L/分間が好ましく、2L/分間〜4L/分間がより好ましく、3L/分間〜4L/分間が特に好ましい。前記通気量が、1L/分間未満であると、前記スクチカ繊毛虫が生育できないことや、休眠状態であるシスト型から遊泳型にならないことがある。
【0091】
また、前記処理の際の塩分濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記塩分含有有機廃液と前記スクチカ繊毛虫と、必要に応じて更にその他の成分を含む処理液の全容量に対して、電気伝導計で測定した塩分濃度が、5以上80未満がより好ましく、10〜70が更に好ましく、50〜70が特に好ましい。5未満であると、前記スクチカ繊毛虫による廃液処理が不十分となることがあり、80以上であると、前記スクチカ繊毛虫がシスト化又は死滅し生育することができず、前記塩分含有有機廃液の処理効果を十分に得ることができないことがある。
【0092】
前記処理の際のpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4〜11が好ましく、4.2〜10.5がより好ましく、4.5〜10が特に好ましい。
【0093】
また、前記塩分含有有機廃液処理工程における処理過程において、前記塩分含有有機廃液中の成分が低く、前記スクチカ繊毛虫が良好に生育できない状況である場合には、適宜ブドウ糖等の糖類;硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の窒素源;塩化カリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩類;無機塩類、各種培地成分などの1種又は2種以上を、前記塩分含有有機廃液に更に添加し、混合してもよい。これによって、前記スクチカ繊毛虫を活発な増殖に資することができ、前記有機物の効率を維持することができる。
【0094】
なお、本発明において、スクチカ繊毛虫を優占化した活性汚泥とは、汚泥中に遊泳型のスクチカ繊毛虫を、好ましくは1.2×10個体/mL〜3.2×10個体/mL、より好ましくは4.0×10個体/mL〜1.2×10個体/mL、特に好ましくは、8.0×10個体/mL〜1.2×10個体/mL含む汚泥をいう。
活性汚泥法は、汚泥が沈殿しにくくなり、浄化した水分が得にくくなるバルキング(Bulking;膨化)現象が問題となっている。バルキング現象は、スファトロチルス糸状菌等の細菌が異常に増殖し、糸状の細菌が絡み合った状態となるため沈降が生じないことが原因のひとつと考えられている。
本発明の塩分含有有機廃液の処理方法において、前記塩分含有有機廃液処理工程として活性汚泥法を用いると、該活性汚泥中にはスクチカ繊毛虫が優占化しているため、前記糸状菌などがほとんど存在しない状態となり、更に前記スクチカ繊毛虫は、前記塩分含有有機廃液中の細菌を捕食するため、バルキング現象が防止できる点で有利である。
【0095】
前記活性汚泥法を用いる場合、前記スクチカ繊毛虫は、該汚泥中に馴養させてから用いられることが好ましい。
前記馴養させる温度、pH、酸素等の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記スクチカ繊毛虫が好適に生育できる条件が好ましい。
【0096】
本発明の塩分含有有機廃液の処理方法によれば、前記塩分含有有機廃液処理工程により該塩分含有有機廃液中の有機物を分解し、浄化することができる。
前記浄化されたか否かは、例えば、廃水パラメータにより判断することができる。
【0097】
前記廃水パラメータとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、COD、BOD、全リン(T−P)、全窒素(T−N)、懸濁物質、浮遊物質(SS)、ノルマルヘキサン抽出物、pHなどが挙げられる。前記塩分含有有機廃液が浄化されたか否かは、前記廃水パラメータのいずれか1つで判断してもよく、複数の廃水パラメータから判断してもよい。
COD、BOD、SS、T−N、及びT−Pは、日本工業規格(JIS)K 0102に従って測定することができる。
【0098】
前記COD値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記スクチカ繊毛虫と前記塩分含有有機廃液とを接触させた後(処理後)の塩分含有有機廃液のCOD値が、前記スクチカ繊毛虫と前記塩分含有有機廃液とを接触させる前(処理前)の塩分含有有機廃液のCOD値に対して30%以下となることが好ましく、20%以下となることがより好ましく、10%以下となることが更に好ましい。また、前記スクチカ繊毛虫と前記塩分含有有機廃液とを接触させてから7時間以内に前記COD値が処理前のCOD値に対して30%以下となることが特に好ましい。
なお、前記COD値としては、160mg/L以下であることが好ましく、120mg/L以下であることがより好ましく、100mg/L以下であることが特に好ましい。
【0099】
前記塩分含有有機廃液処理手段としては、前記塩分含有有機廃液と前記スクチカ繊毛虫とを接触させることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記塩分含有有機廃液を貯留する廃液槽、前記スクチカ繊毛虫を貯留する微生物槽、前記塩分含有有機廃液と前記スクチカ繊毛虫とを接触させる接触槽、前記廃液槽から前記接触槽に前記塩分含有有機廃液を、また微生物槽から前記接触槽に前記スクチカ繊毛虫をそれぞれ移送する移送体などが挙げられる。
前記廃液槽、前記微生物槽、接触槽の形状、構造、大きさ、材質等は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記接触槽は、曝気しながら接触させられるように設けられていることが好ましい。
【0100】
前記移送体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記塩分含有有機廃液を導送する管、前記塩分含有有機廃液を導送するポンプ、前記スクチカ繊毛虫を導送する管、該スクチカ繊毛虫を導送するポンプなどが挙げられる。
前記移送体の形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記ポンプの駆動は、コンピュータ等の制御手段により制御可能に設計してもよい。
【0101】
<固液分離工程、固液分離手段>
前記固液分離工程は、前記塩分含有有機廃液処理工程の後、前記スクチカ繊毛虫を沈降させて該スクチカ繊毛虫を含む固相(余剰汚泥)と、浄化された水分を含む液相(廃液)とを分離する工程である。前記装置を用いる場合は、前記固液分離工程は、前記固液分離手段により好適に行われる。
前記固相を沈降させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、自然沈降させる方法、遠心分離する方法などが挙げられる。
前記固相と液相とを分離する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記固液分離された後、有機物が分解され浄化された液相は、そのまま廃棄されてもよく、後述する殺菌工程、脱塩工程、濾過工程などを経てから廃棄されてもよい。また、更に凝集沈澱、濾過工程を経て各種高度処理を行ってもよい。
【0102】
前記固液分離手段としては、前記固液分離が自然沈降させる方法で行われる場合は、前記接触槽により達成することができる。前記固液分離が遠心分離により行われる場合には、遠心力を付加できる回転体などが挙げられる。前記回転体の形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0103】
<凝集工程、凝集手段>
前記凝集工程は、前記塩分含有有機廃液処理工程で処理された処理液又は前記固液分離工程で分離された液相中の生成汚泥を凝集させる工程である。前記凝集工程は、前記固液分離工程で分離された後に行われることが、該液相の透明度が高くなる点で好ましい。
前記凝集手段としては、前記生成汚泥を凝集させることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記塩分含有有機廃液処理剤で例示した凝集剤などが挙げられる。
前記凝集手段の添加量としては、特に制限はなく、該凝集手段の種類などに応じて適宜選択することができる。
例えば、前記凝集手段がポリ塩化アルミニウム(PAC)の場合、前記処理液又は前記液相に対する添加量としては、0.9g/L以下が好ましく、0.3g/L以下がより好ましい。前記PACの添加量が、0.9g/Lを超えると、汚泥発生量が多くなることがある。
また、例えば、前記凝集手段が3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤の場合、前記処理液又は前記液相に対する添加量としては、0.04g/L以下が好ましく、0.11g/L以下がより好ましい。前記添加量が0.11g/Lを超えると、汚泥発生量が多くなることがある。
【0104】
<リサイクル工程、リサイクル手段>
前記固液分離工程で固液分離されたスクチカ繊毛虫固相は、再利用することができるため、前記塩分含有有機廃液の処理方法は、前記固相と、新たな塩分含有有機廃液とを接触させるリサイクル工程を更に含むことが好ましい。前記リサイクル工程を含むことにより、長期間に渡って継続的に前記塩分含有有機廃液を処理することができ、余剰汚泥の発生を防ぐことができる点で有利である。
なお、前記リサイクル工程においては、必要に応じて適宜前記スクチカ繊毛虫を追加してもよい。
【0105】
前記リサイクル手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記液相や前記固相を移送する移送体なども挙げられる。
前記移送体としては、例えば、前記液相を導送する管や、前記液相を導送するポンプ、また前記固相を再利用する場合、前記接触槽中で沈降した固相を前記微生物槽に導送する管、固相を前記微生物槽に導送するポンプなどが挙げられる。
前記移送体の形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記ポンプの駆動は、コンピュータ等の制御手段により制御可能に設計してもよい。
【0106】
<<殺菌工程、殺菌手段>>
前記殺菌工程は、前記塩分含有有機廃液処理手段により前記スクチカ繊毛虫に接触させられ、処理された前記塩分含有有機廃液に対して殺菌処理を施す工程である。前記装置を用いる場合は、前記殺菌工程は、前記殺菌手段により好適に行われる。
前記殺菌手段の具体例としては、前記塩分含有有機廃液に対し、電圧を印加する電圧印加体、オゾンを接触させるオゾン接触体、紫外線を照射する紫外線照射体などが挙げられる。これらは、1つの手段を単独で使用してもよいし、2つ以上の手段を併用してもよい。
【0107】
<<脱塩工程、脱塩手段>>
前記脱塩工程としては、例えば、前記塩分含有有機廃液処理工程で前記スクチカ繊毛虫に接触させられ、処理された前記塩分含有有機廃液に対して脱塩処理を施す工程である。前記装置を用いる場合は、前記脱塩工程は、前記脱塩手段により好適に行われる。
前記脱塩手段の具体例としては、前記塩分含有有機廃液に対し、電圧を印加する電圧印加体などが挙げられる。なお、前記装置が、前記殺菌手段としての電圧印加体を備える場合、該電圧印加体により脱塩を達成することができる。
【0108】
<<温度調節工程、温度調節手段>>
前記温度工程としては、前記塩分含有有機廃液処理工程で前記スクチカ繊毛虫に接触させられた前記塩分含有有機廃液を、前記スクチカ繊毛虫の生育及び分解反応を阻害しないような温度を調節する工程である。前記装置を用いる場合は、前記温度調節工程は、前記温度調節手段により好適に行われる。
前記温度調節手段の具体例としては、サーモスタット、ヒーター、送風機などが挙げられる。これらは、1つの手段を単独で使用してもよく、2つ以上の手段を組み合わせて使用してもよい。
【0109】
<<濾過工程、濾過手段>>
前記濾過工程は、前記塩分含有有機廃液処理工程で前記スクチカ繊毛虫に接触させられ、処理された前記塩分含有有機廃液を濾過する工程である。前記装置を用いる場合は、前記濾過工程は、前記濾過手段により好適に行われる。
前記濾過手段の具体例としては、活性炭を利用したカラムなどが挙げられる。
【0110】
以下に、図面を用いて、本発明の塩分含有有機廃液の処理方法の一例を説明する。図2は、前記塩分含有有機廃液の処理方法を行う処理装置の一例を示す図であるが、本発明はこれに限られるものではない。
処理装置200は、塩分含有有機廃液処理手段201と、固液分離手段202と、濾過手段203と、を有する。
塩分含有有機廃液は、スクチカ繊毛虫を貯留する塩分含有有機廃液処理手段201に添加され、該塩分含有有機廃液と該スクチカ繊毛虫が、塩分含有有機廃液処理手段201内で接触する。塩分含有有機廃液処理手段201は、内部にスクチカ繊毛虫及び塩分含有有機廃液を攪拌する攪拌手段204を有する。塩分含有有機廃液処理手段201内での処理の際は、塩分含有有機廃液処理手段201は、図示しない温度調節手段により温度制御されることが好ましい。塩分含有有機廃液の処理が終了した後、スクチカ繊毛虫及び塩分含有有機廃液を含有する処理液は、送液管301を通じて固液分離手段202に移送され、固相と液相とが分離される。固液分離手段202は、図示しない凝集手段を含んでいてもよい。
分離された液相(処理された塩分含有有機廃液を含む)は、送液管302を通じて濾過手段203に移送され、濾過される。濾過手段を経た液相は、送液管303を通じてそのまま廃棄されてもよく、図示しない殺菌手段や脱塩手段などにより処理されてから廃棄されてもよい。
一方、固液分離手段202により分離されたスクチカ繊毛虫を含有する固相は、送液管304を通じて塩分含有有機廃液処理手段201に戻され、再利用される。また、凝集手段により凝集された沈殿物は、送液管305を通じて廃棄される。
なお、各手段の間を送液する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、送液管301〜305は、図示しないポンプを有していてもよく、送液は該ポンプにより行われてもよい。
【0111】
<用途>
本発明の塩分含有有機廃液の処理方法は、塩分含有有機廃液を、短時間で高効率よく簡便に処理することができ、特殊な装置を必要とせず低エネルギーで安価であり、安全性が高く、長期間に渡って継続的に前記塩分含有有機廃液を処理することができるため、下水、し尿、食品工場の廃液、発電所や製鉄所等の臨海プラント施設の廃液、その他の産業廃液、海産廃棄物などの塩分を含有する廃液の浄化、特にクラゲ類の分解液の浄化に好適に利用可能である。
【0112】
(包括固定化担体)
本発明の包括固定化担体は、少なくともスクチカ繊毛虫が担体に包括固定化されており、更に必要に応じてその他の成分が担体に担持されていてもよい。
【0113】
<スクチカ繊毛虫>
前記包括固定化担体中の前記スクチカ繊毛虫としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記塩分含有有機廃液処理剤中のスクチカ繊毛虫と同様のものなどが挙げられる。
前記包括固定化担体中の前記スクチカ繊毛虫の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0114】
前記包括固定化担体に含まれるスクチカ繊毛虫の状態としては、遊泳型であることが、塩分含有有機廃液の処理効率が高い点や、塩分濃度低下作用が高い点で好ましいが、包括固定担体を使用する際の条件、例えば、該包括固定担体に添加させる試料の塩分濃度、該試料のpH、添加時の温度などにより、該包括固定担体中のスクチカ繊毛虫を休眠状態であるシスト型から遊泳型に変化させることができるため、該包括固定担体に含まれるスクチカ繊毛虫の状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0115】
<担体>
前記担体としては、特に制限はなく、目的等に応じて適宜、その形状、構造、大きさ、材質等について選択することができる。
前記担体の形状としては、例えば、球状、粒状、塊状(ペレット状)、シート状、柱状、網状、カプセル状などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記担体の構造としては、1種単独の部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよく、また、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、前記担体の微細構造としては、例えば、前記スクチカ繊毛虫が前記塩分含有有機廃水などの処理対象と接触可能な構造であれば特に制限はないが、例えば、多孔質構造、網状構造などが好ましい。前記担体がこれらの構造を有すると、該担体に固定化された前記スクチカ繊毛虫と、前記処理対象との接触面積を大きくすることができるため、前記処理対象の処理効率に優れる点で有利である。
前記担体の大きさとしては、該担体を収容する容器等の大きさ等に応じて適宜選択することができる。前記担体の大きさとしては、均一(一定)であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0116】
前記担体の材質としては、例えば、多糖類、タンパク質、合成高分子、無機物などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記多糖類としては、例えば、セルロース、デキストラン、アガロース、アルギン酸ナトリウム、寒天、カラギーナンなどが挙げられ、これらの中でも、前記スクチカ繊毛虫を高濃度に保持可能であるとともに廃液中の成分の透過性に優れ、造粒操作が容易であり、毒性が少なく、処理や処分が容易であるという点で、寒天が好ましい。
前記タンパク質としては、例えば、不活性化されたものが好ましく、その中でも、ゼラチン、アルブミン、コラーゲンなどが挙げられる。
前記合成高分子としては、例えば、アクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルクロリド、ポリスチレン、ポリウレタン、光硬化性樹脂などが挙げられる。
前記無機物としては、例えば、シリカゲル、活性炭、砂、ゼオライト、多孔性ガラス、アンスラサイト、ゼオライト、発泡煉石、溶融スラグなどが挙げられ、これらの中でも多孔質材であるシリカゲル、活性炭が好ましい。
【0117】
前記担体に前記スクチカ繊毛虫を固定化する方法としては、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができ、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、付着法(担体結合法)、架橋法、包括法などが好適に挙げられる。これらは、1種単独で採用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記付着法(担体結合法)は、水に不溶性の前記担体の表面に前記スクチカ繊毛虫を固定化させる方法である。前記架橋法は、2個以上の官能基を持つ試薬と架橋させる方法である。前記包括法は、前記スクチカ繊毛虫をゲルの格子内に包み込むか(格子型)又はポリマーの皮膜によって被覆する方法(マイクロカプセル)である。
【0118】
なお、前記担体に前記スクチカ繊毛虫を固定化する際の該スクチカ繊毛虫の固定位置としては、特に制限はなく、目的等に応じて適宜選択することができるが、前記スクチカ繊毛虫は好気性であるため、前記担体の表面近傍に固定化されているのが好ましい。
【0119】
前記固定化担体として、寒天を用いたゲル状の担体を製造する場合について、以下に説明する。
前記寒天は、例えば、固定化した前記スクチカ繊毛虫の漏出や、内部への侵入が少なく、耐久性に優れ、寿命が長く、安定性が高い濃度である3質量%で担体の造粒を行うのが好ましい。
前記寒天を3質量%になるように水を混合し、60℃以上で撹拌しながら寒天を溶解する。その後、熱耐性のない前記スクチカ繊毛虫を安定に固定化するために、固化しない範囲で可能な限り低温(例えば55℃以下)で前記スクチカ繊毛虫と混合することが好ましい。
前記スクチカ繊毛虫は、例えば、遠心分離などの操作によって集菌されたものを用いることができる。
前記スクチカ繊毛虫を混合した前記寒天を、室温まで冷却させ固化させた後、成型容器に入れ所望の形状に切断することにより、前記スクチカ繊毛虫の固定化担体が得られる。
【0120】
前記スクチカ繊毛虫を固定した担体(以下、「スクチカ繊毛虫固定化担体」と称することがある。)は、前記塩分含有有機廃液等の処理対象と接触させる際に容器中に収容されているのが好ましい。前記担体が前記容器に収容されていることにより、前記担体と前記処理対象との接触を効率よく、かつ制御しつつ行うことができる等の点で好ましい。
前記容器としては、特に制限はなく、その形状、構造、大きさ、材質等について目的に応じて適宜選択することができる。
前記容器の形状としては、例えば、円筒状などが好適に挙げられる。
また、前記容器の材質としては、耐塩性材料で形成されているのが好ましく、ガラス、樹脂、ステンレスなどで形成されているのがより好ましく、これらの中でも、該容器の内部を視認可能であるものが好ましい。
前記容器内における前記スクチカ繊毛虫固定化担体の充填率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、100%であってもよく、100%未満であってもよい。
また、前記容器は、海産廃棄物の負荷に応じて、複数を並列又は直列に接続してもよい。
【0121】
<その他の成分>
前記包括固定化担体中の前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、海水、汚泥、無機塩類、各種培地成分などが挙げられる。
前記包括固定化担体における前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0122】
<用途>
前記包括固定化担体の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩分含有有機廃液の処理や、水中などの塩分を低下させる目的で用いることができる。
前記塩分含有有機廃液の処理方法に、前記包括固定担体を用いると、繰り返し処理(例えば、前記塩分含有有機廃液の処理方法におけるリサイクル工程)などに利用しやすい点で好ましい。
【実施例】
【0123】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0124】
(調製例1:クラゲ酵素分解廃液の調製)
−クラゲのサンプリング−
東京湾で採取したミズクラゲを使用した。船上でたも網を使ってクラゲを採取し、クラゲ解凍後のクラゲ体成分組織崩壊を防止するため、エチレングリコールにクラゲを浸漬し、ビニール袋に小分け保存後、ドライアイスで冷凍保存した。その後、3時間以内に実験室へ運搬し、−60℃で保存した。
【0125】
−クラゲの酵素処理−
−60℃で凍結保存しておいたビニール袋入りのミズクラゲを、流水で解凍した。次に、ホットスターラー上にビーカーを設置し、ビーカー内に2Lの淡水と、0.1質量%〜0.2質量%になるようにタンパク質分解酵素(下記方法で調製した粗プリオナーゼ)を混合した。その後、50℃に加温し、解凍したミズクラゲを常時低速で撹拌しながら分解を行った。
分解を行った後のクラゲの溶解液(以下、「クラゲ酵素分解廃液」と称することがある。)は、ポリタンクに移し、6℃で保存した。このクラゲ酵素分解廃液のpHは8.2であり、塩分濃度は25であった。なお、塩分濃度は海水濃度計(PAL−06S、株式会社アタゴ製)で測定し、測定結果はその測定値を表記した。以下の試験例において、塩分濃度を測定する際は、全て同様の方法により測定した。
【0126】
−−粗プリオナーゼの調製−−
前記プリオナーゼは、本出願人によって示される酵素(特開2005−262105号公報参照)であり、ストレプトミセス属放線菌に属するストレプトミセス・エスピー99−GP−2D−5株(FERM P−19336:独立行政法人産業技術総合研究所の特許生物寄託センターに寄託)から産生される酵素である。
【0127】
ストレプトミセス・エスピー99−GP−2D−5株を、以下の組成を有するFG培地を用いて培養した。培養後、菌体を遠心分離により除き、培養上清を得た後、培養上清を80質量%硫酸アンモニウムで飽和し、遠心分離により得られた硫酸アンモニウム飽和沈殿を0.05Mリン酸緩衝液(pH6.8)に対して透析することによりプリオナーゼの粗精製物を調製した。
[FG培地(pH7.0)組成]
魚肉エキス(極東製薬工業株式会社製) 1.0g
酵母エキス(Difco社製) 1.0g
グルコース(和光純薬工業株式会社製) 2.0g
硫酸マグネシウム7水和物(和光純薬工業株式会社製) 0.05g
炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製) 0.32g
脱イオン水 100mL
【0128】
(実施例1:スクチカ繊毛虫の調製)
−スクチカ繊毛虫の分離−
東京湾の海底から底泥試料を採取し、人工海水(ダイゴ人工海水SP、日本製薬株式会社製)で希釈し、実体顕微鏡下で毛細管を用いてスクチカ繊毛虫を分離した。
分離した微生物の形態を位相差顕微鏡写真で観察した結果を図3に示す。分離した微生物は、洋梨型で、長さは20μm〜25μm、長軸に沿って8本〜12本の繊毛列を有し、尾端に1本の繊毛を有していた。また、口部が発達し、波動膜、膜板、ペニクルス(短い繊毛の帯状配列)などが口部に形成されていた。口部繊毛系は、体繊毛系から明瞭に識別できた(小膜綱、Oligohymenophora)。口内部の構造は通常目立たず、体繊毛系は普通に形成され、繊毛は体表面に一様に生えていた(膜口亜綱、Hymenostomata)。
これらの形態学的特徴より、分離した微生物がスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)であることを同定した。
【0129】
−スクチカ繊毛虫の増殖−
分離したスクチカ繊毛虫を、調製例1で調製したクラゲ酵素分解廃液からなる培地を用いて、30℃、曝気量3L/分間で10時間曝気させながら培養し、増殖させた。培養液中のスクチカ繊毛虫を下記に示す方法で計測したところ、1.2×10個体/mLであった。
【0130】
−スクチカ繊毛虫の馴養−
前記分離したスクチカ繊毛虫を調製例1で調製したクラゲ酵素分解廃液に1.2×10個体/mLとなるように添加し、30℃、曝気量3L/分間で10時間曝気させながら馴養させ、スクチカ繊毛虫を優占種とした活性汚泥を調製した。なお、前記活性汚泥中のスクチカ繊毛虫の数を以下の方法で測定したところ、1.2×10個体/mLであった。
ここで調製したスクチカ繊毛虫を以下の試験例に用いた。
【0131】
[スクチカ繊毛虫の個体数測定法]
スクチカ繊毛虫の個体数は、血球計算盤上の個体数を計数することにより求めた。スクチカ繊毛虫を含む試料液を十分に混和し、1.5mL容のエッペンドルフチューブに分注した。この試料液にスクチカ繊毛虫を固定する目的で、終濃度が0.1質量%となるように10質量%ホルマリン溶液を10μL添加し、混和した。スクチカ繊毛虫固定液をトーマ式血球計算盤(池本理化工業株式会社製)に10μL滴下し、厚さ0.4mmのカバーグラスを載せ、カバーグラスの両端を押さえ、ニュートンリングを確認した後、血球計算盤とカバーグラスの密着を確認した。カバーグラスを載せた後、位相差顕微鏡を用い、倍率200倍でスクチカ繊毛虫を計測した。スクチカ繊毛虫の個体数(個体/mL)は以下の式に従って求めた。
個体/mL=N(16区画0.1mm当たりの個体数)/0.1×10−3mL(体積)=N×10
なお、以下の試験例において、スクチカ繊毛虫の個体数を測定する際は、全て同様の方法により測定した。
【0132】
(比較例1:微生物群固定化担体(ペレット)の調製)
クラゲ分解廃液を処理する方法として、塩分耐性の海洋細菌及び/又は海洋酵母(以下、「耐塩性有機物利用微生物群」と称することがある。)により処理する方法が提案されている(特開公報2007−000863号公報参照)。
そこで、スクチカ繊毛虫の対照として前記耐塩性有機物利用微生物群を用いた。該耐塩性有機物利用微生物群は、特開公報2007−000863号公報に記載の方法に基づき調製し、以下に示す方法で微生物群固定化担体(ペレット)調製した。
【0133】
(1)塩分含有有機廃液(クラゲの有機物廃液)の調製
ミズクラゲ30kgに対してタンパク質分解酵素であるバチルス・サチルス(Bacillus subtilis)104−1−3−1株(受託番号:NITE P−680)又はその誘導菌株により産生される血栓溶解酵素を2.0質量%添加し混合した。その後、50℃に加温し、常時低速で撹拌しながら約1時間分解を行った。完全に溶解(分解)した後に室温まで冷却し、クラゲの廃液を調製した。
なお、上記血栓溶解酵素の原液の酵素活性は5,633FLVであり、酵素処理時は113FLVであった。
【0134】
(2)耐塩性有機物利用微生物群の馴養
前記(1)で得たクラゲ由来の塩分含有有機廃液のうち100mLを、500mL容三角フラスコに入れ、海底底泥を10g混合した。更に27℃、180回転/分間の条件下で海底底泥に含まれる、耐塩性有機物利用微生物群を馴養した。
【0135】
(3)微生物の調製
前記(2)で得た前記耐塩性有機物利用微生物群を含む溶液1mLを、前記(1)と同様にして調製したクラゲの有機物廃液100mLと混合し、同様に馴養を繰り返した。馴養を数回繰り返すことによって、より高活性の塩分含有有機廃液の処理方法に好適な微生物を高濃度に集積することができた。
なお、前記馴養したクラゲの有機物廃液中には、スクチカ繊毛虫が含まれていないことを実体顕微鏡及び位相差顕微鏡下で観察することにより確認した。
【0136】
(4)微生物固定化担体の調製
前記(3)で得た耐塩性有機物廃液利用微生物群は、遠心分離(10分間、10,000×g)によって微生物菌体を集菌し、生理的食塩水に懸濁した。この微生物菌体20mL(1.0×10個体/mL)と、クラゲの有機物廃液20mLとを、0.3質量%ポリアクリル酸ナトリウム、及び2.0質量%アルギン酸ナトリウムを含む混合液180mLに混合してカラム(クロマトグラフ管、AGCテクノグラス社製)に移し、カラムから500mLの3.0質量%塩化カルシウム液に滴下し、微生物菌体を包括固定化した球状ペレットを調製した。
なお、前記微生物群固定化担体には、スフィンゴバクテリウム(Sphingobacterium)属に属する細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する細菌、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属に属する細菌、及び、バチルス(Bacillus)属に属する細菌からなる細菌群が含まれる(特開公報2007−000863号公報参照)。
【0137】
(試験例1)
クラゲ酵素分解廃液100mLに対して、スクチカ繊毛虫10mL(0.3×10個体/mL)を添加し、温度22℃、30℃、又は37℃にて、それぞれ20時間、通気量3L/分間で曝気させながら処理し、以下に示す方法でCOD値の測定を行った。
【0138】
−COD値の測定−
COD値の測定は、日本工業規格(JIS)に準拠した、デジタルリアクターブロック・DRB200型(以後、デジタルブロックと記載)で測定を行った。
処理開始前又は前記条件で処理後の各試験区を測定試料としてエッペンドルフチューブに1mL取り、遠心分離(15,000rpm、10分間、4℃)をして固形物を除去した。遠心分離後、試験管に遠心分離で、得られた試料上清を30μL入れ、更にミリQ水を5,970μL加え、試料原液の200倍希釈試料を調製した。希釈試料を調製後、テストチューブ(COD測定用キット、キャップ付ガラスチューブ)に希釈試料5mLを入れ、更に試薬A液(COD測定用キット、KMnO溶液)0.5mLを加え、キャップを閉じ転倒混和を行った。転倒混和後、100℃になったデジタルブロックで反応を行った。
30分間後、デジタルブロックからテストチューブを取り出し、氷冷した。テストチューブの冷却を確認し、遠心分離(3,500rpm、5分間)を行いチューブ内の固形物を除去した。次いで、水質分析計(DR/2400型:Hack社製)でミリQ水を対照とし、ゼロ点調整を行った。次に各測定試料の入ったテストチューブのCOD値の測定を行った。なお、以下の試験例において、スクチカ繊毛虫の個体数を測定する際は、全て同様の方法により測定した。
【0139】
なお、前記処理によりどのくらいCOD値を除去できたかを調べるため、前記処理後のCOD値の低減率を以下の計算式で算出した。
処理後のCOD値の低減率(%)=100−(処理後のクラゲ酵素分解廃液のCOD値)/処理前のクラゲCOD値)×100
ただし、上記計算式において、「処理後のクラゲ酵素分解廃液のCOD値」は、クラゲ酵素分解廃液と、スクチカ繊毛虫とを接触させてから一定時間経過後のクラゲ酵素分解廃液のCOD値であり、「処理前のクラゲ酵素分解廃液のCOD値」は、スクチカ繊毛虫を接触させる前のクラゲ酵素分解廃液のCOD値である。
【0140】
結果を図4に示す。37℃において7時間経過後のCOD値が最も低く、COD低減率は85.2%であったが、それぞれの温度試験区において大差はなかった。
【0141】
(試験例2)
試験例1において、温度条件を、37℃、40℃、又は45℃に変えたこと以外は、試験例1と同様の方法で振盪しながら処理し、COD値の測定を行った。
結果を図5に示す。40℃で処理した試験区では、37℃で処理した試験区と比較してCOD低減率が約11%低く、また45℃で処理した試験区と比較して約31%低かった。更に、45℃で処理した試験区では、ほとんどのスクチカ繊毛虫が休眠状態である形態(シスト)となっていた。
図6Aに遊泳細胞とシスト細胞の形態を位相差顕微鏡写真で観察した図を示す。図6Bは、シスト細胞のみを拡大した図である。
【0142】
(試験例3)
スクチカ繊毛虫を所定の温度で一定時間加熱後、生育可能温度で廃液処理の可否を調べるため、以下に示すスクチカ繊毛虫の高温耐性試験を行った。
スクチカ繊毛虫を10mL(6.0×10個体/mL)(n=2)に調製し、温度40℃、45℃、又は50℃で、30分間又は60分間加熱処理した。加熱処理後、前記10mLのスクチカ繊毛虫溶液をクラゲ酵素分解廃液90mLと混合し、22℃にて、180rpmで振盪して好気処理し、COD値の経時的変化を測定した。
30分間加熱処理した結果を図7Aに、60分間加熱処理した結果を図7Bに示す。
図7Aの結果より、加熱処理後、いずれの温度試験区においてもスクチカ繊毛虫はシスト化し、遊泳型のスクチカ繊毛虫は観察されなかったが、22℃で曝気処理を行うと18時間以内に休眠状態であるシスト型から、遊泳型のスクチカ繊毛虫に形態が戻った。形態がシスト型から遊泳型のスクチカ繊毛虫に戻っても、しばらくの間は通常の状態より膨潤化した遊泳型のスクチカ繊毛虫が観察されたが、曝気処理開始後4日後には正常な形態となった。50℃処理試験区が、他の温度に比べCOD値の低減が遅かったが、96時間後には40℃試験区、45℃試験区と同様に約100mg/LまでCOD値を低減させることができた。40℃試験区、45℃試験区では、24時間以内に約100mg/Lまで、無処理試験区とほぼ同様なCOD低減を示した。
【0143】
また、図7Bの結果より、加熱処理後、いずれの温度試験区においてもスクチカ繊毛虫はシスト化し、遊泳型のスクチカ繊毛虫は観察されなかったが、22℃で曝気処理を行うと18時間以内に休眠状態であるシスト型から、遊泳型のスクチカ繊毛虫に形態が戻った。形態がシスト型から遊泳型のスクチカ繊毛虫に戻っても、しばらくの間は通常の状態より膨潤化した遊泳型のスクチカ繊毛虫が観察されたが、曝気処理開始後4日後には正常な形態となった。40℃試験区、45℃試験区では、24時間以内に約100mg/Lまで、無処理試験区とほぼ同様なCOD低減を示した。50℃処理試験区が、他の温度に比べCOD値の低減が遅かったが、96時間後には40℃試験区、45℃試験区と同様に約130mg/LまでCOD値を低減させることができた。図7Aに示した30分加熱処理試験と比較すると、加熱時間が30分間長くなったことから、30分間の加熱処理に比べ、シスト型から遊泳型へのスクチカ繊毛虫の回復が遅れ、特に50℃処理試験区でのCOD低下が遅かった。
【0144】
(試験例4)
試験例3において、加熱処理時間を180分間に変更し、処理温度を45℃、50℃、55℃、又は60℃に変更したこと以外は試験例3と同様の方法でスクチカ繊毛虫の高温耐性試験を行い、COD値の測定を行った。なお、温度処理対照区は、室温(約25)℃とした。
【0145】
結果を図8に示す。図8に示した結果より、スクチカ繊毛虫を各試験温度で180分間加熱処理した後、22℃でクラゲ酵素分解廃液を曝気処理したが、温度処理対照区以外、及び曝気処理後4日間は、ほとんどのスクチカ繊毛虫がシスト化した状態であった。4日後から5日後にかけて遊泳型のスクチカ繊毛虫が観察された。45℃以上で180分間処理すると、通常の生育温度に戻しても遊泳型に回復するのに5日間を要することがわかった。また、遊泳型に回復後のスクチカ繊毛虫は通常の形態と比較して、膨潤した形態となっていた。COD値の低減も5日後までには200mg/L程度までしか低下せず、固液分離についても不充分であり上清の透明度は低かった。45℃以上の試験区において、4日目までのCOD低減はスクチカ繊毛虫と共存している細菌の影響によるものと推測される。スクチカ繊毛虫が完全に遊泳型に形態を回復し増殖すると、該塩分含有有機廃液のCOD値は更に100mg/L〜200mg/L程度まで低下し、固液分離は明瞭で上清の透明度は高かった。
【0146】
(試験例5)
スクチカ繊毛虫の低温条件下でのCOD値の低減と該スクチカ繊毛虫の増殖について検討した。低温条件は4℃に設定し、これに試験例1で示したスクチカ繊毛虫による処理の至適条件温度である30℃でのCOD低減と増殖を比較した。
スクチカ繊毛虫を、30℃にて、180rpmで振盪して好気条件下で一昼夜前培養し、これを以下の試験に供した。前培養したスクチカ繊毛虫液5mLをクラゲ酵素分解廃液95mLと混合し、4℃又は30℃にて、180rpmで振盪して好気処理し、COD値の測定を行った。
【0147】
COD値の測定の結果及び遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数を図9に示す。4℃試験区では、COD値が100mg/L以下になるのに5日間を要したが、至適条件である30℃試験区では、1日以内で約50mg/Lとなった。一方、4℃試験区では遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数が1mL当たり約80,000個体となるのに5日を要したが、30℃では1日で増ほぼ同量に達した。
以上の結果から、COD値の減少と遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数とは関連があり、スクチカ繊毛虫の増殖に伴ってCOD値が減少していることが観察された。4℃試験区では30℃に比べ増殖もCOD値の低減も時間を要した。以上の結果から、通常より長い処理時間を要するものの、4℃でも生存、増殖、シストから遊泳繊毛虫への形態変化が可能であり、塩分含有有機廃液のCOD低減も可能であることがわかった。
【0148】
(試験例6)
試験例5において、COD値の測定を21時間又は96時間で行ったこと以外は、試験例5と同様の方法で、4℃の条件下でスクチカ繊毛虫を増殖させ、各経過時間におけるCOD値の測定を行った。COD値の測定結果を図10に示す。
【0149】
図10より、4℃において試験開始後96時間でCOD値が80mg/Lとなることがわかった。この結果から4℃の条件下において、4日間の処理でスクチカ繊毛虫処理による該塩分含有有機廃液のCOD値を100mg/L以下に低減できることが示された。
【0150】
(試験例7)
塩分含有有機廃液のpHの、スクチカ繊毛虫処理によるCOD低減における影響について検討した。
クラゲ酵素分解廃液のpHを、塩酸及び/又は水酸化ナトリウムを用いて、pH3.0、pH4.0、pH4.2、pH4.5、pH4.8、pH5.0、pH6.5、pH8.0、pH9.0、pH10.0、pH10.5、pH11.0、又はpH11.5に調整した。それぞれのpHに調整したクラゲ酵素分解廃液95mLと、スクチカ繊毛虫5mLとを混合し、30℃にて、180rpmで振盪して好気処理し、20時間処理後にCOD値とpHを測定した。なお、該塩分含有有機廃液の試験開始時のCOD値は、1,003±55(n=3)mg/Lであった。
【0151】
結果を図11に示す。図11の結果から、pH4.8〜pH10.0の試験区において、処理開始後約20時間後にCOD値が100mg/L以下となった。またこれらの試験区においては、約20時間後にはpHがほとんど同じpHを示した。pH3.0〜pH4.0及びpH11.0〜pH11.5試験区ではほとんどCOD値の低減は認められなかった。pH4.5及びpH10.5試験区ではCOD低減率は約30%程度であった。
以上の結果から、酸側ではpH4.5、アルカリ側ではpH10.5がCOD低減可能な境界pHであることがわかった。また、図11には示さないが、pH4.2〜pH10.5において20時間処理後の該塩分含有有機廃液中にスクチカ繊毛虫が観察された。このことから、上記pH範囲がスクチカ繊毛虫の生育可能pH範囲であることがわかった。一方、pH処理をしなかった対照区においては、試験開始時のpHは6.5であり、処理後のpHは7.8となった。また、COD値は48mg/Lまで低減した。
【0152】
(試験例8)
スクチカ繊毛虫の廃液処理可能塩分濃度を検討するため、以下の試験を行った。
クラゲ酵素分解廃液の塩分濃度は、海水濃度計(PAL−06S、株式会社アタゴ製)で測定し、0、5、10、25、50、60、70、80、又は90に調製した。
塩分濃度0〜25の該塩分含有有機廃液は、蒸留水に0.5質量%ゼラチンと0.1質量%グリセロールを添加して溶解し、これにそれぞれの塩分濃度となるように塩化ナトリウムを添加して調製した。
塩分濃度5〜90の該塩分含有有機廃液は、クラゲ酵素分解廃液に塩化ナトリウムを添加して、それぞれ塩分濃度を調製した。
スクチカ繊毛虫は、あらかじめ30℃にて、180rpmで振盪して好気条件下で前培養した。
それぞれの塩分濃度に調製したクラゲ酵素分解廃液95mLと、スクチカ繊毛虫5mLとを混合し、30℃にて、180rpmで振盪して好気処理した。なお、対照区はクラゲ酵素分解廃液をそのまま使用した。対照区の塩分濃度は25、COD値は938mg/L(n=4)だった。
【0153】
結果を図12に示す。図12の結果から、約20時間経過後、塩分濃度が5〜80においてCOD値が100mg/L以下となった。
しかしながら、図12には示さないが、塩分濃度が80以上では顕微鏡観察の結果、スクチカ繊毛虫は観察されなかった。途中まで生育し、COD値を減少させていたが、生育限界塩分濃度を超えたためにシスト化又は死滅したものと推察される。塩分濃度0においては、約56%程度しかCOD値を低減できなかった。この時顕微鏡観察の結果、遊泳型のスクチカ繊毛虫は15μL中に3個体しか認められなかった。
以上の結果から、スクチカ繊毛虫の生育可能塩分濃度は、80未満であった。一方、処理可能な廃液の塩分濃度は5以上80未満であることがわかった。塩分濃度が80以上のときはスクチカ繊毛虫を返送などして繰り返し処理に用いるには困難であると考えられる。
【0154】
(試験例9)
スクチカ繊毛虫による廃液処理において、スターター量(スクチカ繊毛虫の個体数)とCOD低減の関係について調べた。
あらかじめ増殖させたスクチカ繊毛虫を4℃で保存し、保存6日間後に以下の試験を行った。なお、4℃で6日間保存後のスクチカ繊毛虫はシストとなっており、遊泳型のスクチカ繊毛虫はほとんど認められなかった。
スクチカ繊毛虫をクラゲ酵素分解廃液100mLに対し、0.1体積%、0.5体積%、1.0体積%、5.0体積%、10.0体積%、15.0体積%、及び20.0体積%となるように混合し、30℃にて、180rpmで振盪して好気処理した。この間、経時的にCOD値の測定を行った。曝気処理は、COD値が所望の値に低下するまで行った。
それぞれのスクチカ繊毛虫のスターター量におけるシスト数を下記表1に示す。単位は全て個体/mLである。
【0155】
【表1】

【0156】
結果を図13に示す。図13の結果から、スターター量が多いほどCOD低減は速いことが観察された。処理開始後6時間でCOD値が100mg/L以下となったのは、10.0体積%以上のスターター量であった試験区だった。8時間経過後では、5.0体積%以上の試験区でCOD値が100mg/L以下となった。
しかしながら、スターター量が10.0体積%以上の試験区においては、処理開始から22時間後には、若干ながらCOD値の上昇が認められた。これは、過剰なスクチカ繊毛虫が分解して該塩分含有有機廃液のCOD値が上がったものと推測される。
【0157】
(試験例10)
試験例9と同様にスクチカ繊毛虫による廃液処理において、スターター量(スクーチカ繊毛虫の個体数)とCOD値の低減との関係について調べる目的で、塩分含有有機廃液を、クラゲ酵素分解廃液に代えて、ムラサキイガイの煮汁を用いて行った。
即ち、スクチカ繊毛虫のスターター量が、ムラサキイガイ煮汁に対して、1体積%(6.0×10個体/mL)、5体積%(3.0×10個体/mL)又は10体積%(6.0×10個体/mL)とした場合の該ムラサキイガイ煮汁のCOD値の低減を比較検討した。
【0158】
ムラサキイガイの煮汁は、蒸留水にムラサキイガイが20質量%になるような質量比で浸漬し、121℃で20分間高圧蒸気処理することにより調製した。このムラサキイガイ煮汁の塩分濃度は8であり、pHは7.0であった。
4℃で保存してあったスクチカ繊毛虫をそれぞれのスターター濃度になるように前記ムラサキイガイの煮汁に混合して、22℃にて180rpmで振盪して好気処理した。
【0159】
COD値の測定結果を図14に示す。図14に示した結果から、COD値は処理開始後3時間で減少し、スクチカ繊毛虫のスターター量が多いほど減少速度が速いことがわかった。COD値は、1体積%試験区において処理開始から24時間後、5体積%試験区では21時間後、10体積%試験区では9時間後に最少となった。以上の結果から、試験例9と同様に塩分含有有機廃液が、ムラサキイガイの煮汁であっても同様にスターター量が多いほど、COD値の低減が速いことが示された。
【0160】
(試験例11)
スクチカ繊毛虫をあらかじめ前培養した場合と、前培養しなかった場合との、塩分含有有機廃液のCOD低減に対する影響、及びそれぞれの試験区におけるCOD値の変化と遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数との関係を調べた。
スクチカ繊毛虫の前培養は、22℃にて180rpmで振盪して好気条件下で1日間曝気処理して行った。前培養しなかった試験区では、あらかじめ増殖させたスクチカ繊毛虫を4℃で保存しておいた試料を用いた。いずれの試験区においても該塩分含有有機廃液に対し、5体積%(3.0×10個体/mL)となるようにスクチカ繊毛虫を添加し、22℃で曝気処理を行った。
【0161】
図15Aに試験例11における該塩分含有有機廃液のCOD値の低減を、スクチカ繊毛虫のスターターをあらかじめ前培養した場合としなかった場合で比較した結果を示す。
前培養した場合には、処理開始後23時間でCOD値が100mg/L以下に低減したが、前培養しなかった試験区では、COD値が100mg/mL以下になるのに約23時間以上を要した。処理開始7時間後においても、前培養しなかった試験区では、前培養した試験区に比べCOD値が約100mg/L程度高かった。
【0162】
図15Bに試験例11における、スクチカ繊毛虫のスターターをあらかじめ前培養しなかった場合の塩分含有有機廃液の処理の時間と、COD値及び遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数との関係を示す。前培養しなかった試験区においては、遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数が23時間で最大となり、その後減少に転じた。
【0163】
図15Cに試験例11における、スクチカ繊毛虫のスターターをあらかじめ前培養した場合の塩分含有有機廃液の処理の時間と、COD値及び遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数との関係を示す。前培養した試験区においては、遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数が7時間で最大となり、その後減少に転じたが、前培養しなかった試験区では、遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数が最大に達するのに23時間要したことから、前培養によってより速い増殖が認められ、図15Aに示した結果と同様に、COD低減についても、前培養した試験区において速くなることがわかった。
【0164】
(試験例12)
塩分含有有機廃液をスクチカ繊毛虫で処理する際、撹拌処理をした場合としなかった場合の条件下において、該塩分含有有機廃液のCOD値の低減ついて比較検討を行った。
3L容のミニジャーファーメンター(TSO−MS3L、高崎科学器械株式会社製)を用い、撹拌試験区では1分間に300回転撹拌した。なお撹拌試験区、非撹拌試験区において、ともに温度は30℃、通気量3L/分間の条件下で曝気処理を行い、COD値及びスクチカ繊毛虫の個体数の測定を行った。また、スクチカ繊毛虫のスターター量は、該塩分含有有機廃液に対し2.3体積%(1.38×10個体/mL)で行った。
【0165】
塩分含有有機廃液の処理の時間とCOD値の測定の結果を図16Aに、遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数の結果を図16Bに示す。
図16Aの結果、撹拌試験区では処理開始後6時間でCOD値は約120mg/Lだったが、非撹拌試験区では約530mg/Lだった。
また、図16Bの結果から撹拌試験区では処理開始から8時間経過後に遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数は最大となり、1.25×10個体/mLとなったが、非撹拌試験区では処理開始から6時間経過後も2.8×10個体/mLで、撹拌試験区における同時間経過後の繊毛虫数の約30%程度だった。しかしながら、試験開始から24時間後には非撹拌試験区では、遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数が、撹拌試験区の最大個体数とほぼ同数になった。
試験例12において使用したミニジャーファーメンターは、培養槽下部中央部に2本の通気口(内径5mm)を備えている。非撹拌試験区では、特にジャーファーメンター底部外周部位などで、曝気の効果が充分に反映されず、スクチカ繊毛虫の増殖及びその結果としてのCOD値の低減に必要な酸素の供給が行われなかったものと推察される。
【0166】
(試験例13)
実際に下水処理場で使用されている活性汚泥とスクチカ繊毛虫とで、該塩分含有有機廃液のCOD低減効果を比較した。常用活性汚泥は、鎌倉市山崎浄化センターより分与を受けた。
前記塩分含有有機廃液に対し、5体積%となるように常用活性汚泥、又はスクチカ繊毛虫を混合し、30℃で17時間曝気処理を行った。その後、COD値の測定を行った。なお、対照区としては活性汚泥又はスクチカ繊毛虫を混合しない該塩分含有有機廃液のみで試験を行った。
【0167】
結果を図17に示す。図17の結果から、常用活性汚泥試験区では、17時間経過後約40%のCOD低減率であったが、スクチカ繊毛虫試験区では約93%のCOD低減率を示した。常用活性汚泥又はスクチカ繊毛虫を含まない対照区においては、約33%のCOD低減率を示した。図には示さないが、17時間経過後の廃液を顕微鏡で観察すると、常用活性汚泥試験区において、シスト状の原生動物個体は若干認められるものの、通常の形態をした原生動物は認められなかった。また、バクテリアは顕微鏡視野の観察下では十分な増殖が認められた。スクチカ繊毛虫試験区においては、該スクチカ繊毛虫が活発に生育していることが観察されたが、バクテリアはごくわずかであった。
対照区では原生動物、後生動物はともに認められず、バクテリアの増殖が観察された。
常用活性汚泥試験区での原生動物、後生動物が生育できなかったのは、塩分存在下において、塩分含有有機廃液では通常の淡水廃液に比べ浸透圧が高く、生育できなかったためと推察される。
【0168】
(試験例14)
クラゲ酵素分解廃液60Lに対して、比較例1の細菌ペレットを、0.2質量%、1.3質量%、2.7質量%、又は4.0質量%添加した。また、これとは別に、クラゲ酵素分解廃液60Lに対して、スクチカ繊毛虫10質量%を添加した。
各試験区について、室温(約25℃)にて、72時間(3日間)、通気量3L/分間で曝気させながら処理し、COD値の測定を行った。
結果を図18に示す。細菌ペレット試験区では、いずれの量添加した試験区においても、COD低減率が約80%以上となるのに72時間(3日間)を要した。一方、スクチカ繊毛虫を添加した試験区では、6時間以内にCOD低減率を約80%以上とすることができた。
【0169】
(試験例15)
5体積%のバクテリア、又は5体積%のスクチカ繊毛虫をスターターとし、塩分含有有機廃液を処理した時の処理時間とCOD低減の関係について調べた。
バクテリアは、特許公開2007−863号公報に記載のバクテリアをクラゲ分解液で27℃、180rpmで振盪し好気処理して調製した。
【0170】
バクテリアのスターター個体数は、3.7×10個体/mLとし、遊泳型のスクチカ繊毛虫のスターター個体数は、5.7×10個体/mLとした。バクテリア試験区、スクチカ繊毛虫試験区のいずれもクラゲ酵素分解廃液95mLに対し、スターター量として5mL混合し、27℃にて、180rpmで振盪して好気処理しながら30時間処理を行い、COD値の測定及び遊泳型のスクチカ繊毛虫の個体数の測定を行った。
【0171】
結果を図19に示す。図19の結果から、処理開始3時間後において、バクテリア試験区のCOD値がスクチカ繊毛虫試験区より、約150mg/L高かった。7時間後では約180mg/L、23時間経過後のバクテリア試験区のCOD値がスクチカ繊毛虫試験区より約190mg/L高かった。
以上の結果から、COD低減率、処理速度などの点において、バクテリア群による処理に比べ、スクチカ繊毛虫は格段に処理能力が高いことが示された。
【0172】
(試験例16)
以下に示す(I)〜(III)の各試験区を、温度22℃にて、通気量2L/分間で曝気させながら処理し、以下に示す方法でCOD値の測定を行った。処理時間は、COD値の測定値に応じて適宜選択し、(I)は7日間、(II)及び(III)は3日間処理した。
(I)クラゲ酵素分解廃液100mLに対して、比較例1の細菌ペレット5gを添加した試験区(細菌ペレット試験区)
(II)クラゲ酵素分解廃液100mLに対して、比較例1の細菌ペレット5g及び実施例1のスクチカ繊毛虫5mLを添加した試験区(細菌ペレット+スクチカ繊毛虫試験区)
(III)クラゲ酵素分解廃液100mLに対して、スクチカ繊毛虫5mL(3.0×10個体/mL)を添加した試験区(スクチカ繊毛虫試験区)
【0173】
結果を図20に示す。図20より、細菌ペレット試験区(I)では、COD値が処理開始(クラゲ酵素分解廃液と細菌ペレットを接触させて)から4日間で300程度(COD低減率41.3%)しか減少しなかったが、スクチカ繊毛虫試験区(III)では、COD値が2日間で処理開始から100以下(COD低減率83.5%)になった。また、スクチカ繊毛虫と細菌ペレットとを同時に混合した細菌ペレット+スクチカ繊毛虫試験区(II)におけるCOD値の低減は、スクチカ繊毛虫試験区(III)とほとんど差異が認められなかった。
【0174】
(試験例17)
試験例16において、温度条件を、22℃から30℃に変えたこと以外は、試験例16と同様の方法で(I)〜(III)の各試験区の処理を行った。
結果を図21に示す。温度条件30℃の条件下で行っても、試験例16と同様に、スクチカ繊毛虫試験区(III)では細菌ペレット試験区(I)に比べてCOD値の低減が速く、スクチカ繊毛虫と細菌ペレットとを同時に混合した細菌ペレット+スクチカ繊毛虫試験区(II)におけるCOD値の低減は、スクチカ繊毛虫試験区(III)とほとんど差異が認められなかった。しかし、スクチカ繊毛虫試験区(III)は、細菌ペレット+スクチカ繊毛虫試験区(II)に比べ、COD低減率が80%となるのに要する日数が1日短かった。
【0175】
(試験例18)
スクチカ繊毛虫を高塩濃度食品廃水処理に適用すべく、以下の試験を行った。
魚醤油(のと魚醤:ヤマト醤油社製)、淡口醤油(有機うすくち醤油:ヒガシマル醤油社製)、又は濃口醤油(あまみの里:奄美産業社製)の醤油類を試験例8で示された、スクチカ繊毛虫の廃液処理可能塩分濃度限界である70となるように、蒸留水で希釈して塩分濃度を調整し、4℃で保存してあったスクチカ繊毛虫を10体積%(6.0×10個体/mL)になるように混合して30℃にて180rpmで振盪して好気処理した。試験例18において使用した醤油は以下の3種類である。
醤油原液のCOD値を測定したところ、魚醤油は21,216mg/Lであり、淡口醤油は91,140mg/Lであり、濃口醤油は92,000mg/L)であった。
【0176】
結果を図22に示す。図22から、いずれの試験区においても、COD値は処理日数の経過とともに減少した。処理6日後には、魚醤油試験区で、COD低減率は約77%、淡口醤油試験区で、COD低減率が約88%、濃口醤油試験区で、COD低減率が約77%であった。以上の結果から、該塩分含有有機廃液として、COD値が高く塩分濃度が高い食品廃水においても、スクチカ繊毛虫による廃水処理が可能であることが示された。
【0177】
(試験例19)
海産動物の煮熟抽出煮汁に対して、スクチカ繊毛虫で廃水処理を検討した。試験例18では、ムラサキイガイ、ホタテ、又はイソガニのそれぞれの煮汁についてスクチカ繊毛虫により、処理した場合としなかった場合の条件下における、塩分含有有機廃液の処理の時間とCOD値との関係を調べた。
【0178】
−ムラサキイガイの煮汁の調製−
ムラサキイガイの煮汁は、蒸留水にムラサキイガイが30質量%になるように浸漬し、121℃にて20分間高圧蒸気処理することにより調製した。このときの煮汁の塩分濃度を測定したところ、約7だった。
【0179】
−ホタテの煮汁の調製−
ホタテの煮汁は、蒸留水にホタテが11.7質量%になるように浸漬し、121℃にて20分間高圧蒸気処理することにより調製した。このときの煮汁の塩分濃度を測定したところ、約9だった。
【0180】
−イソガニの煮汁の調製−
イソガニの煮汁は、蒸留水にイソガニが22.5質量%になるように浸漬し、121℃にて20分間高圧蒸気処理することにより調製した。このときの煮汁の塩分濃度を測定したところ、約8だった。
【0181】
このようにして調製したムラサキイガイ、ホタテ、又はイソガニのそれぞれの煮汁に、4℃で保存しておいたスクチカ繊毛虫をそれぞれ5体積%(3.0×10個体/mL)加え、22℃にて、180rpmで振盪して好気処理した。
【0182】
ムラサキイガイの煮汁のCOD値の結果を図23Aに、ホタテの煮汁のCOD値の結果を図23Bに、イソガニの煮汁のCOD値の結果を図23Cに示す。
図23Aに示した結果から、スクチカ繊毛虫で処理したムラサキイガイ試験区においては、処理24時間後にCOD低減率は約83%となった。更に処理72時間後にはCOD低減率は約95%となった。一方、スクチカ繊毛虫で処理しなかったムラサキイガイ対照区においては、処理72時間後においてもCOD低減率は約6%にとどまった。
図23Bに示した結果から、スクチカ繊毛虫で処理したホタテ試験区においては、処理24時間後にCOD低減率は約79%となった。更に処理72時間後にはCOD低減率は約84%となった。一方、スクチカ繊毛虫で処理しなかったホタテ対照区においては、処理72時間後においてもCOD値は変化しなかった。
図23Cに示した結果から、スクチカ繊毛虫で処理したイソガニ試験区においては、処理24時間後にCOD低減率は約76%となった。更に処理72時間後にはCOD低減率は約87%となった。一方、スクチカ繊毛虫で処理しなかったイソガニ対照区においては、COD低減率は約9%にとどまった。以上の結果から、塩分含有有機廃液がクラゲ以外の海産動物由来の煮汁であっても、問題なくスクチカ繊毛虫によりCOD値を低減させることが確認された。
【0183】
(試験例20)
塩分含有有機廃液をあらかじめ血栓溶解酵素で処理した場合のスクチカ繊毛虫による廃液処理について検討した。
【0184】
−試験区I(貝肉+酵素+スクチカ繊毛虫)−
貝殻から分離したムラサキイガイの貝肉50.0gを150mLの蒸留水に入れ、これにタンパク質分解酵素であるバチルス・サチルス(Bacillus subtilis)104−1−3−1株(受託番号:NITE P−680)又はその誘導菌株により産生される血栓溶解酵素5,000μLを添加し、50℃で40分間撹拌しながら該酵素で処理して完全に溶解した。
なお、上記血栓溶解酵素の原液の酵素活性は5,633FLVであり、酵素処理時は188FLVであった。
また、試験区Iで、血栓溶解酵素により溶解した貝肉の残渣は1gだったことから、約98質量%の貝肉が溶解した。この時の残渣物はムラサキイガイ足糸、及び貝肉分離時に取り除くことができなかった貝殻の一部であった。
【0185】
前記貝肉の血栓溶解酵素分解廃液を人工海水(塩分濃度35)で50体積%に希釈した。この希釈液100mLに対して、4℃で保存してあったスクチカ繊毛虫を5体積%(3.0×10個体/mL)になるように混合して、22℃で72時間、180rpmで振盪して好気処理しながら処理を行った。この間、経時的にCOD値を測定した。
【0186】
−試験区II(貝肉+スクチカ繊毛虫)−
試験区IIは、貝殻から分離したムラサキイガイの貝肉50.0gを150mLの蒸留水に入れた後、50℃で40分間撹拌した。
【0187】
前記貝肉の廃液を人工海水(塩分濃度35)で50体積%に希釈した。この希釈液100mLに対して、4℃で保存してあったスクチカ繊毛虫を5体積%(3.0×10個体/mL)になるように混合して、22℃で72時間、180rpmで振盪して好気処理した。この間、経時的にCOD値を測定した。
【0188】
−試験区III(酵素+スクチカ繊毛虫)−
試験区IIIは、50mLの人工海水(塩分濃度35)に、前記血栓溶解酵素5,000μLを加えた。
【0189】
前記酵素溶液を人工海水で50体積%に希釈した。この希釈液100mLに対して、4℃で保存してあったスクチカ繊毛虫を5体積%(3.0×10個体/mL)になるように混合して、22℃で72時間、180rpmで振盪して好気処理した。この間、経時的にCOD値を測定した。
【0190】
−試験区IV(人工海水+スクチカ繊毛虫)−
試験区IIIは、50mLの人工海水(塩分濃度35)に、蒸留水5,000μLを加えた。
【0191】
前記人工海水を更に人工海水で50体積%に希釈した。この希釈液100mLに対して、4℃で保存してあったスクチカ繊毛虫を5体積%(3.0×10個体/mL)になるように混合して、22℃で72時間、180rpmで振盪して好気処理した。この間、経時的にCOD値を測定した。
【0192】
試験区I〜IVのCOD値の経時変化を図24Aに示す。図24Aの結果、試験区Iの酵素で貝肉を分解した廃液は、試験開始から72時間経過後にCOD値はスクチカ繊毛虫処理前の5,300mg/Lから800mg/Lに減少し、COD低減率は約85%だった。試験区IIの貝肉を酵素で分解しなかった廃液(50℃での煮汁)は、試験開始から72時間経過後にCOD値はスクチカ繊毛虫処理前の3,240mg/Lから185mg/Lに減少し、COD低減率は約94%だった。酵素のみの試験区(試験区III)では、スクチカ繊毛虫処理開始前に400mg/LあったCOD値が試験開始72時間後には約60mg/Lに減少し、COD低減率は約84%だった。
【0193】
また、処理開始から72時間後のCOD値、塩分濃度、pHを測定した結果を下記表2にまとめて示す。
以上の結果から、試験例10及び18で示した貝の煮汁と同様、酵素で分解した貝肉の溶液であってもスクチカ繊毛虫で廃液処理できることがわかった。
【0194】
【表2】

【0195】
次に、前記試験区I〜IVにおいて、スクチカ繊毛虫で処理しなかったこと以外は、前記試験区I〜IVと同様の方法で試験を行った。その結果を図24Bに示す。図24Bの結果から、試験区Iの酵素で貝肉を分解した廃液のCOD値は、試験開始前の5,400mg/Lから24時間経過後には3,300mg/Lとなったが、72時間経過後に2,980mg/Lとほぼ変化しなかった。72時間経過後のCOD低減率は約46%だった。試験区IIの貝肉を酵素で分解しなかった廃液(50℃での煮汁)は、試験開始から72時間経過後にCOD値は試験開始前の3,600mg/Lから3,300mg/Lに減少し、COD低減率は約8%だった。
以上の結果から、ある程度のCOD減少は観察されたものの、図24Aに示したスクチカ繊毛虫による処理に比べ、COD低減率は処理開始から72時間経過後において、40%〜50%程度低かった。
【0196】
(試験例21)
塩分含有有機廃液に対して、0.3g/L又は0.9g/Lとなるようにポリ塩化アルミニウム(PAC)をスクチカ繊毛虫による該塩分廃液処理開始時、開始6.5時間後、又は開始22.5時間後、スクチカ繊毛虫による処理液又は該処理液を固液分離した上清に対して添加し、処理終了後に凝集沈澱させた上清のCOD値、pH、及び生成汚泥量を比較した。
処理方法は、スクチカ繊毛虫5mL(3.0×10個体/mL)を該塩分含有有機廃液95mLに混合し、PACを処理開始時、又は開始6.5時間後、又は開始22.5時間後に添加し、37℃にて、180rpmで振盪して好気処理した後、COD値の測定を行った。生成汚泥量の測定は、処理終了後に全廃液をメスシリンダーに移し、沈澱した汚泥量を計量して行った。
【0197】
図25Aに、試験例21におけるPACの添加時機の違いによるCOD値の変化を比較した結果を示す。
PACを0.3g/L添加した場合は、22.5時間経過後すべての試験区において、COD値は50mg/L以下となり、ほぼ同様であったが、処理開始時試験区、及び開始6.5時間試験区より、終了後にPACを添加した試験区のほうが上清の透明度は高かった。
PACを0.9g/L添加した場合は、22.5時間経過後すべての試験区において、COD値は40mg/L以下でありほぼ同様であったが、若干ながら処理終了後にPACを添加した試験区のCOD値が最も低かった。処理開始時試験区、及び開始6.5時間試験区より、終了後にPACを添加した試験区のほうが上清の透明度は高かった
【0198】
図25Bに、試験例21におけるPACの添加時機の違いによるpHの変化を比較した結果を示す。
PACを0.3g/L添加した場合は、22.5時間経過後すべての試験区において、pHは約8で同様であった。
PACを0.9g/L添加した場合は、処理試験終了後にPACを添加した試験区ではpH7.5で他の試験区より若干ながら低かった。その他の試験区では、pHは約8で同様であった。
【0199】
図25Cに、試験例21におけるPACの添加時機の違いによる生成汚泥量を比較した結果を示す。
PACを0.3g/L添加した場合は、22.5時間経過後にPACを添加した試験区では最も生成汚泥量が多く、6.5時間後にPACを添加した試験区では生成汚泥量が、22.5時間後に添加した試験区の約60%程度であった。開始時にPACを添加した試験区では、22.5時間経過後にPACを添加した試験区の約70%の生成汚泥量であった。
PACを0.9g/L添加した場合は、22.5時間経過後にPACを添加した試験区では最も生成汚泥量が多く、6.5時間後にPACを添加した試験区では生成汚泥量が、22.5時間後に添加した試験区の約40%程度であった。開始時にPACを添加した試験区では、22.5時間経過後にPACを添加した試験区の約60%の生成汚泥量であった。
【0200】
以上の結果から、PACは、スクチカ繊毛虫処理終了後に加えると、固液分離後の上清は他の試験区に比べ清澄となるものの、汚泥発生量が多くなるという結果となった。このことから、PACは該塩分含有有機廃液の処理終了後に、0.3g/Lより少ない量を加え、凝集沈澱させるのがより好ましいと考えられる。
【0201】
(試験例22)
試験例21において、ポリ塩化アルミニウム(PAC)を塩分含有有機廃液に対し0.3g/L又は0.9g/Lとなるように添加したことに変えて、3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤(固形分 62.174g/L、PSI−025:水道機工株式会社製)を塩分含有有機廃液に対し0.67mL/L(固形分換算 0.04g/L)又は1.7mL/L(固形分換算 0.11g/L)となるように添加したこと以外は、試験例21と同様の方法で試験例22を行った。
【0202】
図26Aに、試験例22における3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤の添加時機の違いによるCOD値の変化を比較した結果を示す。
3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤を0.67mL/L添加した場合は、22.5時間経過後すべての試験区において、COD値は50mg/L以下となり、ほぼ同様であったが、若干ながら処理終了後にPSI−025を添加した試験区のCOD値が最も低かった。処理開始時試験区、及び開始6.5時間試験区より、終了後にPSI−025を添加した試験区のほうが上清の透明度は高かった。
3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤を1.7mL/L添加した場合は、22.5時間経過後すべての試験区において、COD値は40mg/L以下でありほぼ同様であったが、若干ながら処理開始時にPSI−025を添加した試験区のCOD値が最も低かった。処理開始時試験区、及び開始6.5時間試験区より、終了後にPSI−025を添加した試験区のほうが上清の透明度は高かった。
【0203】
図26Bに、試験例22における3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤の添加時機の違いによるpHの変化を比較した結果を示す。
3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤を0.67mL/L添加した場合は、処理試験終了後にPSI−025を添加した試験区ではpH7.9で他の試験区より若干ながら低かった。その他の試験区では、pHは約8で同様であった。
3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤を1.7mL/L添加した場合は、処理試験終了後にPSI−025を添加した試験区ではpH7.7で他の試験区より若干ながら低かった。その他の試験区では、pHは約8で同様であった。
【0204】
図26Cに、試験例22における3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤の添加時機の違いによる生成汚泥量を比較した結果を示す。
3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤を0.67mL/L添加した場合は、22.5時間経過後にPSI−025を添加した試験区では最も生成汚泥量が多く、6.5時間後にPSI−025を添加した試験区では生成汚泥量が、22.5時間後に添加した試験区の約86%程度であった。開始時にPSI−025を添加した試験区では、22.5時間経過後にPSI−025を添加した試験区の約78%の生成汚泥量であった。
3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤を1.7mL/L添加した場合は、22.5時間経過後にPSI−025を添加した試験区では最も生成汚泥量が多く、6.5時間後にPSI−025を添加した試験区では生成汚泥量が、22.5時間後に添加した試験区の約64%程度であった。開始時にPSI−025を添加した試験区では、22.5時間経過後にPSI−025を添加した試験区の約73%の生成汚泥量であった。
【0205】
以上の結果から、3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤は、スクチカ繊毛虫処理終了後に加えると、固液分離後の上清は他の試験区に比べ清澄となるものの、汚泥発生量が多くなるという結果となった。このことから、PSI−025は該塩分含有有機廃液の処理終了後に、0.67mL/Lより少ない量を加え、凝集沈澱させるのがより好ましいと考えられる。
【0206】
(試験例23)
塩分含有有機廃液のスクチカ繊毛虫による連続処理の可否について検討した。
クラゲ酵素分解廃液20Lと、スクチカ繊毛虫1,000mL(3.0×10個体/mL)とを混合し、30℃にて、通気量28L/分間で曝気させながら24時間処理を行った。処理開始から24時間後に曝気を停止し、上清と沈澱した沈降成分を固液分離し、沈澱したスクチカ繊毛虫を含む約2L〜3Lの沈降成分を残したまま、あらたにクラゲ酵素分解廃液を加えた。前記同様の条件にて、クラゲ酵素分解廃液の処理を4回繰り返した。
ただし、最初の処理に関しては、スクチカ繊毛虫の増殖を活発化させ、クラゲ酵素分解廃液中の成分の利用と消費を促進するための馴養(馴致、前培養)とした。
それぞれの工程において、COD、BOD、SS、T−N、T−Pを日本工業規格(JIS)K 0102に従って測定した。
【0207】
COD値及びBOD値の測定結果を図27Aに、SSの測定結果を図27Bに、T−Nの測定結果を図27Cに、T−Pの測定結果を図27Dに示す。
図27Aの結果から、馴養24時間後COD値は3,400mg/Lから780mg/Lに、BOD値は3,800mg/Lから570mg/Lに低下した。その後の繰り返し処理においては、COD値及びBOD値のいずれも繰り返し処理4回の範囲においては90以下となり、スクチカ繊毛虫で繰り返し連続した廃水処理ができることが確認された。
図27Bの結果から、SS値は繰り返し処理で90mg/L以下を示し、安定した廃水処理ができることが示唆された。
図27Cの結果から、T−N値に関して安定した処理ができる可能性が示された。
図27Dの結果から、T−Pも同様に処理後30mg/L以下を示した。
【0208】
(試験例24)
クラゲ酵素分解廃液を、スクチカ繊毛虫による処理、凝集沈澱処理、及び活性炭処理、をこの順で処理した。各処理工程における該クラゲ酵素分解廃液のBOD、COD、SS、T−N、T−PをJIS K 0102に従って測定した。
【0209】
−スクチカ繊毛虫による処理−
クラゲ酵素分解廃液20Lと、これに対して5体積%(3.0×10個体/mL)のスクチカ繊毛虫とを混合し、30℃にて通気量28L/分間で曝気させながら24時間処理した後、曝気を停止し60分間静置して固液分離後、上清をスクチカ繊毛虫処理液とした。
【0210】
−凝集沈澱処理−
前記スクチカ繊毛虫処理液に試験例22で示した3倍希釈ポリシリカ鉄凝集剤PSI−025を400mL/Lとなるように加え、凝集沈澱処理を行った。この時の上清を凝集沈澱処理液とした。
【0211】
−活性炭処理−
前記凝集沈澱処理液を300mL容の活性炭(クラレコール:クラレ社製)に通過させ、これを活性炭処理液とした。
【0212】
図28に示した結果から、BOD値は活性炭処理後0.8mg/L(減少率:約99.9%)、COD値は2.4mg/L(処理前廃液に対する減少率:約99.8%)となった。また、SS値は1mg/L(減少率:約99.6%)、T−P値は約0.3mg/(減少率:約98.8%)Lと低い数値になったが、T−N値は酵素分解液の189mg/Lが生物処理後には165mg/L(減少率:約12.7%)、更に凝集沈澱処理で146mg/L(減少率:約22.8%)、活性炭処理では135mg/L(減少率:約28.6%)となり、減少はするものの、他の廃水測定値のような、高い減少率を示さなかった。
【0213】
(試験例25)
ムラサキイガイの煮汁の濃度を、該ムラサキイガイの煮汁の原液に対して、それぞれ25質量%、50質量%、75質量%、100質量%となるように人工海水で調製し、これをスクチカ繊毛虫で処理した場合の条件下における塩分含有有機廃液のCOD低減と塩分濃度の変化を検討した。
ムラサキイガイの煮汁は、蒸留水にムラサキイガイが80質量%になるように浸漬し、121℃、20分間高圧蒸気処理することにより調製した。
【0214】
前記各濃度に希釈後のCOD値を測定したところ、ムラサガイの煮汁25質量%では2,080mg/L、ムラサガイの煮汁50質量%では3,600mg/L、ムラサガイの煮汁75質量%では4,800mg/L、ムラサガイの煮汁100質量%では6,400mg/Lだった。
また、希釈後の塩分濃度を測定したところ、ムラサキイガイの煮汁25質量%では5、ムラサキイガイの煮汁50質量%では10、ムラサキイガイの煮汁75質量%では15、ムラサキイガイの煮汁100質量%では20だった。
【0215】
このようにして調製したムラサキイガイの煮汁に、4℃で保存しておいたスクチカ繊毛虫を5体積%(3.0×10個体/mL)加え、22℃にて、180rpmで振盪して好気処理した。COD値の測定結果を図29Aに示す。また、塩分濃度の変化を図29Bに示す。
図29Aに示した結果から、いずれの希釈煮汁も処理72時間では、最終的にCOD低減率は約91%〜93%となり、ほとんど同様の結果であった。これに対し、対照区では、ほとんどCOD値の変化は認められなかった。処理前の煮汁中の塩分濃度が5〜20の範囲においては、問題なくスクチカ繊毛虫により処理できることがわかった。
【0216】
図29Bに示した結果から、すべての試験区においてスクチカ繊毛虫により塩分含有有機廃液中の塩分が取り込まれ、廃液中の塩分濃度が低下していることが観察された。特に、25質量%濃度の煮汁においては、スクチカ繊毛虫による処理により、100質量%の煮汁の4倍希釈濃度(0.5質量%)より更に低い塩分濃度を示したことから、スクチカ繊毛虫による処理で、廃液中の塩分濃度を低下させることが可能であることがわかった。
【0217】
(試験例26)
スクチカ繊毛虫を担体に包括固定化し、該塩分含有有機廃液の繰り返し処理を行った時の、塩分含有有機廃液の処理前と処理後のCOD値を測定した。
包括固定化担体は、廃水処理能力を維持すべく、スクチカ繊毛虫が担体内である程度動くことができるようにするため、スクチカ繊毛虫液外殻を、アルギン酸ナトリウムとポリアクリル酸ナトリウムによる複合材料で包括固定化した、内部が液体で外部が固体(ゲル状)の担体とした。
包括固定化担体を調製するカラムは2重構造とし、内部のカラムには、カラム上部からシリンジで該塩分廃液により馴養したスクチカ繊毛虫溶液(以下、「内殻溶液」と称することがある。)50mLを注入した。外部カラムには、2質量%アルギン酸ナトリウム溶液、及び0.3質量%ポリアクリル酸ナトリウム溶液200mL(以降外殻溶液とする)を外部カラム中間部から分岐させたガラス管に、外部カラムへの充填カラムを接続し、中間部分にピンチコックを配置し、包括固定化担体液の流入を調節した。
【0218】
内部液、及び外部液はまず外部カラムから充填カラム途中のピンチコックを開放し、外殻溶液を外部カラムに充填する。同時に内部カラムへ内殻液を充填し、内部カラム、外部カラムの下端で両液が混合して内殻液が内側、外殻液が外側となった液滴が形成される。この液滴はカラム下部に設置した1Lの3質量%塩化カルシウム液(微速撹拌)に滴下し、包括固定化ゲルを形成させた。形成した包括固定化ゲルは、一昼夜そのまま塩化カルシウム溶液中で撹拌し、十分に固定化した後、流水で充分に洗浄し、6℃下で0.9質量%塩化ナトリウム溶液に浸漬して約2か月間保存した。これをスクチカ繊毛虫包括固定化担体とした。
【0219】
塩分含有有機廃液のスクチカ繊毛虫包括固定化担体による処理は、500mLフラスコ3本に、5mL容のスクチカ繊毛虫包括固定化担体と、クラゲ酵素分解廃液95mLとを入れて、27℃にて180rpmで振盪して好気条件下で18時間処理した。
処理前と処理後のCOD値は、クラゲ酵素分解廃液から1mLの処理液を分取して測定に供した。その後、クラゲ酵素分解廃液のすべてを100mLメスシリンダーに移し静置して、スクチカ繊毛虫包括固定化担体を沈降させた後、上清は廃棄し新たにクラゲ酵素分解廃液を加え、繰り返し処理を行った。繰り返し処理は4回行い、繰り返し処理の可否を検討した。
【0220】
図30にスクチカ繊毛虫包括固定化担体による処理前と処理後のクラゲ酵素分解廃液のCOD値を示す。処理前のクラゲ酵素分解廃液のCODは577mg/Lであったが、処理後は139mg/Lに低下した。この時のCOD減少率は76%だったが、更に2回目、3回目、4回目と同様の繰り返し処理をすることによって、COD減少率は、2回目は87%、3回目は87%、4回目は88%と安定した処理能力を示した。また、クラゲ酵素分解廃液の処理後の固液分離は良好で、顕微鏡観察の結果多数のスクチカ繊毛虫が確認できた。包括固定化された担体内部でスクチカ繊毛虫は生存したことから、クラゲ酵素分解廃液の処理の際には液体状のスターターより、スクチカ繊毛虫包括固定化担体は、より取り扱いが容易なスターターとしての利用可能性が示された。
【0221】
(試験例27)
異なる温度で長期保存したスクチカ繊毛虫の保存性を検討した。保存性としては、長期保存後のスクチカ繊毛虫の生育状態と、COD低減能について確認を行った。
下記表3に示す保存温度、保存期間、及び保存状態で保存したスクチカ繊毛虫(試料A〜E)の5mLとクラゲ酵素分解廃液95mLとを混合し、30℃にて180rpmで振盪して好気条件下で48時間処理し、経時的にスクチカ繊毛虫の状態を観察するとともに、COD値の測定を行った。結果を下記表4に示す。
【0222】
【表3】

【0223】
【表4】

【0224】
表4の結果より、処理開始から24時間経過後、スクチカ繊毛虫は大部分がシスト型であり、完全には遊泳型になっていなかったが、48時間後には大部分が遊泳型に回復した。またCOD値については、処理開始から24時間経過後では、試料Aの−20℃処理保存試験区では91%のCOD低減が認められたが、試料Eの16℃保存試験区では同58%と低かった。試験開始から2日後には−20℃と6℃保存試験区でCOD低減率が93%以上であった。それ以外は90%未満であった。
【0225】
前記48時間のクラゲ酵素分解廃液の処理後、固液分離し、この固液分離したスクチカ繊毛虫汚泥5mLと、クラゲ酵素分解廃液95mLとを更に混合し、30℃にて180rpmで振盪して好気条件下で22時間処理し、スクチカ繊毛虫の状態を観察するとともに、COD値の測定を行った。結果を下記表5に示す。
【0226】
【表5】

【0227】
試験開始から22時間後には全ての保存温度試験区において、92%以上のCOD低減が認められ、スクチカ繊毛虫の活発な遊泳が認められた。
【0228】
以上の結果から、スクチカ繊毛虫は、少なくとも4箇月は16℃以下の温度で保存でき、塩分含有有機廃液も継続して処理できることがわかった。
クラゲの出現は季節性があり、これに対応した廃棄処理は連続的ではなく、散発的であり処理時期が限定されたものとなる。
本願発明は、クラゲ等塩分含有有機廃液の処理が必要とされない期間中に、スクチカ繊毛虫を特別な方法や特別な装置を必要とすることなく、低温下で保存することができることから、塩分含有有機廃液において簡便で有用な処理技術であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0229】
本発明の塩分含有有機廃液処理剤、並びに、塩分濃度低下剤、塩分含有有機廃液の処理方法、及び包括固定担体は、塩分含有有機廃液を、短時間で高効率よく簡便に処理することができ、特殊な装置を必要とせず低エネルギーで安価であり、安全性が高く、長期間に渡って継続的に前記塩分含有有機廃液を処理することができるため、下水、し尿、食品工場の廃液、発電所や製鉄所等の臨海プラント施設の廃液、その他の産業廃液、海産廃棄物などの塩分を含有する廃液の浄化、特にクラゲ類の分解液の浄化に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0230】
10 分解槽
20 仕切槽
30 サイフォン管
40 送液ポンプ
50 循環・加温槽
60 仕切弁
70 仕切弁
80 加温管
90 ヒーター
110 仕切弁
130 仕切弁
140 仕切弁
170 サイフォン管通過処理液出口
200 処理装置
201 塩分含有有機廃液処理手段
202 固液分離手段
203 濾過手段
204 攪拌手段
301、302、303、304、305 送液管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)を含有し、塩分含有有機廃液を処理することを特徴とする塩分含有有機廃液処理剤。
【請求項2】
凝集剤を更に含有する請求項1に記載の塩分含有有機廃液処理剤。
【請求項3】
凝集剤が、ポリ塩化アルミニウム及びポリシリカ鉄の少なくともいずれかを含有する請求項2に記載の塩分含有有機廃液処理剤。
【請求項4】
少なくともスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)を含有し、塩分含有有機廃液の塩分濃度を低下させることを特徴とする塩分濃度低下剤。
【請求項5】
スクチカ繊毛虫と塩分含有有機廃液とを接触させ、前記塩分含有有機廃液を処理する塩分含有有機廃液処理工程を含むことを特徴とする塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項6】
塩分含有有機廃液処理工程においてスクチカ繊毛虫と塩分含有有機廃液とを接触させた後の塩分含有有機廃液のCOD値が、前記スクチカ繊毛虫と前記塩分含有有機廃液とを接触させる前の塩分含有有機廃液のCOD値に対して30%以下である請求項5に記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項7】
塩分含有有機廃液処理工程において、スクチカ繊毛虫と塩分含有有機廃液とを接触させた後の塩分含有有機廃液のCOD値が、該スクチカ繊毛虫と該塩分含有有機廃液とを接触させてから7時間以内に、前記スクチカ繊毛虫と前記塩分含有有機廃液とを接触させる前の塩分含有有機廃液のCOD値に対して30%以下となる請求項6に記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項8】
塩分含有有機廃液処理工程が、遊泳型のスクチカ繊毛虫を塩分含有有機廃液に対して1.2×10個体/mL〜3.2×10個体/mL接触させて行われる請求項5から7のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項9】
塩分含有有機廃液の温度が45℃未満である請求項5から8のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項10】
塩分含有有機廃液のpHが4.5〜10.5である請求項5から9のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項11】
塩分含有有機廃液の電気伝導計で測定した塩分濃度が5以上80未満である請求項5から10のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項12】
塩分含有有機廃液処理工程の後、スクチカ繊毛虫を含有する固相と、塩分含有有機廃液の処理液を含む液相とを固液分離する固液分離工程を含む請求項5から11のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項13】
固液分離工程で分離された液相に凝集剤を添加して汚泥を凝集沈殿させる凝集工程を含む請求項12に記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項14】
固液分離工程で分離された液相を濾過する濾過工程を含む請求項12から13のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項15】
固液分離工程で分離された固相に、更に塩分含有有機廃液を添加し、塩分含有有機廃液処理工程を繰り返し行う請求項12から14のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項16】
塩分含有有機廃液がクラゲ類、魚介類、甲殻類、及び食品廃水を含む請求項5から15のいずれかに記載の塩分含有有機廃液の処理方法。
【請求項17】
少なくともスクチカ繊毛虫(Scuticociliatida)を担体に包括固定化したことを特徴とする包括固定化担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25A】
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【図25B】
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【図25C】
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【図26A】
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【図26B】
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【図26C】
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【図27A】
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【図27B】
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【図27C】
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【図27D】
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【図28】
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【図29A】
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【図29B】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−148253(P2012−148253A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10233(P2011−10233)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000173913)公益財団法人微生物化学研究会 (29)
【Fターム(参考)】