説明

塩化ビニル樹脂組成物およびそれを用いた絶縁電線

【課題】実質的にアンチモンフリーであって、基材樹脂として塩化ビニル樹脂を単独で使用し、難燃性及び老化後の耐電圧特性(絶縁破壊値残率)と引張伸び残率に優れた非鉛系の樹脂組成物およびそれを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムと、可塑剤と、非鉛系安定剤とを含み、前記水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムの含有量が、前記塩化ビニル樹脂の含有量100重量部に対し8〜22重量部であり、アンチモンの含有量が1000ppm未満であり、成形後に架橋されたことを特徴とする。絶縁電線は、前記樹脂組成物で導体が被覆されて成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線被覆用の難燃性樹脂組成物と、それを用いた絶縁電線に係り、特にUL785規格に従った電線(通称「UL電線」)に適用できる難燃性樹脂組成物と、それを用いた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器類の内部配線に使用される絶縁電線は、機器の発火事故などに際して電線を伝って火が広がらぬように難燃性であることが求められており、内部配線材の難燃性の基準は、例えば米国のUL785規格等で定められている。UL785が要求する項目には垂直燃焼試験(以下「VW−1試験」という。)がオプションとして設けられているが、ほとんどの絶縁電線がこの試験に合格してULに認定されているため、オプション規格とはいえVW−1試験は、必須に近い項目である。
また、絶縁電線の他の重要な特性として、老化後の引張伸び残率と耐電圧特性がある。これらはUL785規格の必須項目である。耐電圧特性は、常温で行う試験と、定格温度の高温環境下で行う試験があり、一般に高温環境下で行う試験の方が厳しい。
【0003】
従来から、このような絶縁電線の被覆材の主原料として塩化ビニル樹脂(PVC)が用いられてきた。塩化ビニル樹脂は化学構造中にハロゲンである塩素を含んでおり、それ自体の難燃性は高い。しかし塩化ビニル樹脂は硬質であるため、電線の絶縁材として使用する場合には軟化させるために可燃性の可塑剤を多量に添加して用いる。従って、更に難燃剤を添加しないと上述した難燃性の基準を満たすことができない。
【0004】
この難燃剤としては、一般的に三酸化アンチモンが使用されてきた。しかし三酸化アンチモンは劇薬であるため製造に当たっては厳格な管理が必要となり使用を避けたい材料である。更に、三酸化アンチモンは環境負荷物質である鉛や鉛化合物を含有していることが多い。
【0005】
そのため三酸化アンチモンに代わる難燃剤として水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの水酸化金属が用いられている。例えば、特許文献1の実施例においては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムを塩化ビニル樹脂100部に対して20〜40部添加して用いている。
【0006】
一方、塩化ビニル樹脂は成形加工時に170℃以上に加熱され、分子構造から塩素が離脱するので、引張伸びは低下し、高温環境下での耐電圧特性も著しく低下するという問題点も有する。これを防ぐために、従来は長期耐熱効果がある鉛及び鉛化合物系安定剤が使用されていたが、これらはEUのRoHS指令で禁止物質に指定される環境負荷物質である。そのため、その代替として現在は殆どの絶縁電線で非鉛系安定剤が使用されている。
非鉛系安定剤は、鉛及び鉛化合物系安定剤ほどの効果が得られないが、用途に合わせて、バリウム亜鉛系、水酸化カルシウム系、カルシウム亜鉛系、ハイドロタルサイト系、オクチル酸金属等の非鉛系安定剤が適宜使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−291145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この非鉛系安定剤は、難燃剤として添加される水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの水酸化金属によってその効果が抑制されるという欠点がある。例えば、上述した特許文献1の実施例記載の方法では、水酸化金属の添加量が多すぎるために非鉛系安定剤の効果が低減し、絶縁電線の特性の必須項目である老化後の高温耐電圧特性などの耐熱性が悪化していることが懸念される。かかる特許文献1の実施例では、樹脂成分として塩化ビニル樹脂とEVA(酢酸ビニル樹脂)を併用する系のみを開示しており、酢酸ビニル含有率の高いEVA樹脂を添加することで、引張伸びや老化後の引張伸び残率の低下を防止していると考えられる。しかし、高VA含有EVA樹脂は高価であり廉価なPVC被覆絶縁電線への使用は現実的ではない。
【0009】
本発明は、従来の絶縁電線被覆用の難燃性樹脂組成物における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、実質的にアンチモンフリーであって、基材樹脂として塩化ビニル樹脂を単独で使用し、難燃性及び老化後の耐電圧特性(絶縁破壊値残率)と引張伸び残率に優れた非鉛系の塩化ビニル樹脂組成物およびそれを用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、塩化ビニル樹脂と、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムと、可塑剤と、非鉛系安定剤とを含み、該水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムの含有量を該塩化ビニル樹脂の含有量100重量部に対し8〜22重量部とし、成形後に架橋された架橋塩化ビニル樹脂組成物を用いることで上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムと、可塑剤と、非鉛系安定剤とを含み、前記水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムの含有量が、前記塩化ビニル樹脂の含有量100重量部に対し8〜22重量部であり、アンチモンの含有量が1000ppm未満であり、成形後に架橋されたことを特徴とする(請求項1)。
【0012】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物の好適形態は、前記水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムが表面処理されていることを特徴とする(請求項2)。
【0013】
更に、本発明の絶縁電線は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物で導体が被覆されて成ることを特徴とする(請求項3)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塩化ビニル樹脂と、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムと、可塑剤と、非鉛系安定剤とを含み、該水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムの含有量を該塩化ビニル樹脂の含有量100重量部に対し8〜22重量部とし、成形後に架橋された架橋塩化ビニル樹脂組成物を用いることで、実質的にアンチモンフリーであって、基材樹脂として塩化ビニル樹脂を単独で使用し、難燃性及び老化後の耐電圧特性(絶縁破壊値残率)と引張伸び残率に優れた非鉛系の樹脂組成物およびそれを用いた絶縁電線を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の塩化ビニル樹脂組成物およびそれを用いた絶縁電線について詳細に説明する。
【0016】
(1)塩化ビニル樹脂組成物
上述の如く、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムと、可塑剤と、非鉛系安定剤とを含む。また、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムの含有量は、塩化ビニル樹脂の含有量100重量部に対し8〜22重量部である。アンチモンの含有量が1000ppm未満である。また、架橋は成形後に行われる。更に、本発明の架橋塩化ビニル樹脂組成物は、非鉛系である。
【0017】
塩化ビニル樹脂としては、絶縁電線用塩化ビニル樹脂として従来公知のものを使用でき、特に限定はされないが、加工性と性能のバランスの観点から平均重合度800〜3200のものが好ましい。
【0018】
水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムは、難燃剤として添加される。
水酸化アルミニウムとしては、化学式Al(OH)で表される通常の意味での水酸化アルミニウムであれば、特に限定はされないが、被覆後の電線表面の外観表面を滑らかに保つ観点から、粒子径が0.5μm〜4μmのものが好ましい。
また、水酸化マグネシウムとしては、化学式Mg(OH)で表される通常の意味での水酸化マグネシウムであれば、特に限定はされないが、水酸化アルミニウム同様、被覆後の電線表面の外観表面の滑らに保つ観点から、粒子径が0.5μm〜4μmのものが好ましい。
【0019】
水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムは、各々単独で添加することも組み合わせて添加することもできるが、その含有量は総量で、塩化ビニル樹脂100重量部に対し8〜22重量部であり、好ましくは8〜15重量部である。8重量部未満では、所望の難燃性を得ることができず、22重量部を超えると老化後の引張伸び残率と耐電圧特性に悪影響を及ぼす。また添加量を8〜15重量部とすることで、より長時間の耐熱性が得られる。
【0020】
更に、長時間の耐熱性が必要な用途においては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムの表面にステアリン酸等の処理を施すことができる。この処理により水酸化金属が安定剤と直接接触することを防止できるので、安定剤の効果が損なわれることを抑制することができる。
【0021】
なお、難燃剤として従来使用されてきた三酸化アンチモンは使用することができない。成形後に架橋した架橋塩化ビニル樹脂組成物に対しては難燃性を付与する効果を有さないからである。従って、本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、アンチモンは実質的に含まれず、その含有量は、1000ppm未満である。劇物であるアンチモンが添加されず、また実質的に含まれないことは、製造及び使用するに際し有利である。
【0022】
可塑剤としては、従来公知の可塑剤を使用でき、特に限定はされないが、トリメリテート系可塑剤を使用することが好ましく、例えばトリメリット酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリノルマルアルキル、トリメリット酸トリイソデシル等を挙げることができる。
可塑剤の含有量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、20〜80重量部であることが好ましく、30〜70重量部であることがより好ましい。20重量部未満では、電線の屈曲性に問題が発生する場合があり、80重量部を超えると耐外傷性が悪化する場合がある。
【0023】
非鉛系安定剤としては、従来公知の非鉛系安定剤を使用でき、特に限定はされないが、バリウム亜鉛系、水酸化カルシウム系、カルシウム亜鉛系、ハイドロタルサイト系、オクチル酸金属等の非鉛系安定剤を挙げることができる。
非鉛系安定剤の含有量は、塩化ビニル樹脂と上記難燃剤(水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム)との合計100重量部に対して、2重量部以上であることが好ましく、3〜15重量部であることがより好ましい。2重量部未満では、製品寿命が短くなる場合がある。
【0024】
更に必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、着色剤、充填剤、加工性改良剤、その他の改質剤などを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
本発明の架橋塩化ビニル樹脂組成物は、上述のように成形後に架橋されることによって得られる。
架橋の方法は、従来公知の方法を使用でき、特に限定はされないが、化学架橋、シラン架橋、放射線架橋等の方法を用いることができ、特に電子線を用いる方法が管理面やコスト面から好ましい。また、架橋助剤として、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等を使用してもよく、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、例えば2〜20重量部添加することができる。2重量部未満では、架橋が不十分になる場合があり、20重量部を超えると成型時に架橋してしまう場合がある。
架橋度は、ゲル分率で40〜65%であることが好ましく、49〜60%であることがより好ましい。
【0026】
(2)絶縁電線
本発明の絶縁電線は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物で導体が被覆されて成る。
塩化ビニル樹脂組成物は、導体上に直接に被覆してもよく、通常の絶縁電線上にシース材として被覆してもよい。押出被覆等の成形手段により絶縁層やシース層として被覆した後、電子線照射等の方法により塩化ビニル樹脂を架橋することにより本発明の絶縁電線を得ることができる。
なお、押出被覆は、架橋前の塩化ビニル系樹脂組成物をロール、バンバリー、押出機などで混練し、得られたペレットコンパウンドと導体とをクロスヘッドダイを付設した従来公知の電線用押出機で電線被覆押出成形することなどにより行うことができる。
【0027】
被覆される導体としては、例えば外径0.15〜7mmφ程度の導体を使用することができる。錫メッキ軟銅線を撚り合わせた導体などを好適に使用することができるが、これらに限定されるものではない。
また本発明の絶縁電線の外径は、例えば0.4〜11mmφであり、その用途としては、ドライヤー、炊飯器、トランス口出部、照明器具、エアコンなどの機器内の高温部での配線等を挙げることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
(1)架橋前の塩化ビニル樹脂組成物の作製
表1に示す各材料を記載された割合で配合し、140℃に加熱したオープンロールミキサーで混練混合してペレット化し、架橋前の塩化ビニル樹脂組成物を得た。
なお、可塑剤としてトリメリット酸トリ2−エチルヘキシル、安定剤としてハイドロタルサイト混和物、架橋助剤としてトリメチロールプロパントリメタクリレート、滑剤としてステアリン酸を用いた。実施例によってはステアリン酸で表面処理した水酸化アルミニウムを使用した。
【0030】
【表1】

【0031】
(2)絶縁電線の作製
導体として、外径0.16mmφ錫メッキ軟銅線の11本撚り導体(外径0.62mmφ)を使用した。該導体上に上記の塩化ビニル樹脂組成物を溶融押出法により形成し、各塩化ビニル樹脂組成物で導体を被覆した試料(絶縁電線)を得た。塩化ビニル樹脂組成物から成る絶縁層の厚さは、0.49mmとなった。
次いで、各絶縁電線に電子線を照射して絶縁層を架橋した(実施例1〜6、比較例1〜3)。
【0032】
上記各例の絶縁電線について下記の各種特性の評価を表2に記入する。
[難燃試験]
UL785に規定されるVW−1試験に準拠して、垂直燃焼試験をn=5で行い、5本とも合格したものを合格、1本でも不合格となったものを不合格と判定する。
【0033】
[老化後の絶縁破壊値残率]
初期の絶縁破壊値を測定してその値をVとする。120℃、140℃、160℃に電線試料を置いて絶縁破壊値がV/2になるまでの時間を測定し、それらからアレニウスプロットを描き、105℃で絶縁破壊値がV/2となる時間が4万時間以上であれば合格、4万時間に満たないものを不合格とする。
【0034】
[老化後の引張伸び残率]
初期の引張破断伸びしてその値をEとする。120℃、140℃、160℃に電線試料を置いて引張破断伸びがE/2になるまでの時間を測定し、それらからアレニウスプロットを描き、105℃で引張破断伸びがE/2となる時間が4万時間以上であれば合格、4万時間に満たないものを不合格とする。
【0035】
【表2】

【0036】
表2より、本発明の絶縁電線(実施例1〜6)は、比較例とは異なり、難燃性及び老化後の絶縁破壊値残率と引張伸び残率においてバランスがとれた特性を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムと、可塑剤と、非鉛系安定剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物であって、
前記水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムの含有量が、前記塩化ビニル樹脂の含有量100重量部に対し8〜22重量部であり、
アンチモンの含有量が1000ppm未満であり、
成形後に架橋されたことを特徴とする塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムが表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の塩化ビニル樹脂組成物で導体が被覆されて成ることを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2011−26427(P2011−26427A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172828(P2009−172828)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】