説明

塩化ビニル樹脂組成物

【課題】
難燃性に優れ、航空機の内装部材などとして使用可能な低発煙性及び低発熱性を有し、かつ耐衝撃性の低下がない樹脂成形体を得ることができる塩化ビニル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
塩素化度が60〜70%である塩化ビニル樹脂に、モリブデン化合物(a)、アンチモン化合物(b)、水酸化物(c)、塩素化ポリエチレン(d)およびアクリル系補強剤(e)を配合した塩化ビニル樹脂組成物であって、該塩化ビニル樹脂100重量部に対して、aを2重量部以上、bを2重量部以上、cを3重量部以上、かつこれらa〜cの総和量が35重量部以内配合し、dを2重量部以上、eを2重量部以上、かつこれらd〜eの総和量が20重量部以内配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は難燃性を有する塩化ビニル樹脂組成物に関するもので、とくに航空機の内装部材などにおいて要求される火災時の低発煙性、低発熱性を満足する塩化ビニル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より塩化ビニル樹脂は難燃性の素材として広く知られている。また、この樹脂が耐衝撃性に劣るという欠点を補うために、この塩化ビニル樹脂にMBS系やアクリル系の補強剤を添加することにより耐衝撃性を備えたものも広く使用されている。近年輸送機器用途、とくに航空機の内装部材として使用される樹脂材料においては、耐衝撃性に加えて、燃焼時の低発煙性、低発熱性が求められている。従来の塩化ビニル樹脂では、これらの要求に応えることが出来ず、難燃剤、発煙抑制剤などを添加する検討が行われている。例えば金属水酸化物、モリブデン酸化合物、リン酸化合物などを添加することが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
しかしながら、これら化合物を添加した塩化ビニル樹脂組成物では必ずしも発煙抑制効果が充分でなく、またこのような無機物を添加することにより耐衝撃性が低下するという問題がある。また、塩化ビニル樹脂にMBS系やアクリル系の補強剤を含んだ組成物においては、これらの補強剤を添加することにより燃焼時に発熱しやすくなり、またMBS系補強剤は、その組成にスチレンを含んでおり燃焼時に発煙しやすくなるという問題がある。
【特許文献1】特開平10−298380
【特許文献2】特開2002−284948
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、難燃性に優れ、航空機の内装部材などとして使用可能な低発煙性及び低発熱性を有し、かつ耐衝撃性の低下がない樹脂成形体を得ることができる塩化ビニル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意研究の結果、塩素化度が特定範囲の塩化ビニル樹脂に、発煙抑制剤、発熱抑制剤としてモリブデン化合物、アンチモン化合物、水酸化物、耐衝撃性改良剤として塩素化ポリエチレン、アクリル系補強剤を添加することにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、塩素化度が60〜70%である塩化ビニル樹脂に、モリブデン化合物(a)、アンチモン化合物(b)、水酸化物(c)、塩素化ポリエチレン(d)およびアクリル系補強剤(e)が配合された塩化ビニル樹脂組成物であって、該塩化ビニル樹脂100重量部に対して、aが2重量部以上、bが2重量部以上、cが3重量部以上、かつこれらa〜cの総和量が35重量部以内配合され、dが2重量部以上、eが2重量部以上、かつこれらd〜eの総和量が20重量部以内配合されたことを特徴とする塩化ビニル樹脂組成物を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
上記の通り、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩素化度が特定範囲である塩化ビニル樹脂に、モリブデン化合物、アンチモン化合物、水酸化物、塩素化ポリエチレンおよびアクリル系補強剤を特定量添加することにより、難燃性が向上し、火災時などにおける低発煙性、低発熱性を備え、かつ耐衝撃性が低下せず、航空機の内装材など高い難燃性が要求される用途で利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に使用される塩化ビニル樹脂は、塩素化度が60〜70%のもの、好ましくは63〜68%のものが用いられる。この塩素化度が60%未満であると発煙が多くなり、70%を超えると溶融粘度が高くなり押出成形などの成形加工性が低下する。
【0009】
上記の塩化ビニル樹脂としては、塩素化塩化ビニル樹脂単独が、あるいは塩素化度が56〜57%である一般の塩化ビニル樹脂と塩素化塩化ビニル樹脂とを混合して塩素化度を60〜70%としたものが用いられる。
【0010】
塩素化塩化ビニル樹脂は、例えば、塩化ビニル系樹脂を水に懸濁させ、塩素ガスを導入し、紫外線照射や加熱により塩素化する方法、塩化ビニル系樹脂を有機溶剤に溶解し、塩素を導入し紫外線照射や加熱により塩素化する方法、粉末状態の塩化ビニル系樹脂に塩素ガスを接触させて塩素化する方法などにより製造される。
【0011】
本発明に使用するモリブデン化合物としては、酸化モリブデン 、モリブデン酸アンモニウムが使用される。それらの平均粒子径は0.3〜5μm、好ましくは0.5〜2μmである。平均粒子径が0.3μm未満であると、塩化ビニル樹脂組成物の粘度が上昇し押出成形などの成形加工が困難となる。また、5μmを越えると発煙抑制効果が低下し好ましくない。モリブデン化合物の配合量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対し少なくとも2重量部が必要である。2重量部未満では良好な発煙性抑制効果が得られない。
【0012】
本発明に使用されるアンチモン化合物としては、二酸化アンチモン、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン等が挙げられる。この化合物の粒子径は0.1〜20μm、好ましくは0.3〜20μmである必要がある。粒子径が0.1μm未満であると、塩化ビニル樹脂との混合時に2次凝集を起こし成形時にブツとなるので好ましくない。また、20μmを越えると発熱抑制効果が低下するため好ましくない。アンチモン化合物は、塩化ビニル樹脂100重量部に対し2重量部以上添加される必要がある。2重量部未満では充分な発熱抑制効果が得られない。
【0013】
本発明に使用する水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが用いられる。これらの平均粒子径は0.5〜20μm、好ましくは0.5〜10μmである。平均粒子径が0.5μm未満であると、塩化ビニル樹脂組成物の粘度が上昇し、押出成形などの成形加工が困難となるうえ、凝集し易いため成形された製品の外観を悪くする。また、平均粒子径が20μmを越えると、発煙抑制効果が低下するため好ましくない。水酸化物は、塩化ビニル樹脂100重量部に対し3重量部以上添加する必要がある。3重量部未満では良好な発煙抑制効果および発熱抑制効果が得られないためである。
【0014】
上記のモリブデン化合物、水酸化物、およびアンチモン化合物の添加総和量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対し7〜35重量部である。7重量部未満では、上記の通り発煙あるいは発熱抑制の効果が得られず、35重量部を越えると、塩化ビニル樹脂組成物の押出加工時に吐出安定性が低下する、成形品の真空圧空成形性が低下する、あるいは機械物性、特に衝撃強度が低下する等の不具合が発生し易くなる。
【0015】
本発明では、塩素化ポリエチレンとアクリル系補強剤を併用する必要がある。上記の通り、アクリル系補強剤の添加により耐衝撃性の低下を抑える効果はあるものの、燃焼時に発熱しやすくなり、また押出成形時の負荷も高くなるという弊害がある。ただ、塩素化ポリエチレンのみの添加では、耐衝撃性の向上が不充分であり、アクリル系補強剤と併用することにより、耐衝撃性の向上が認められ、燃焼時の発熱性も低く抑えることが可能となる。また、塩素化ポリエチレンを使用することにより溶融粘度を低くするという効果もあり押出成形時に負荷が高くなるという弊害もなくなる。
【0016】
塩素化ポリエチレンは、ポリエチレンを塩素化して得られるものであり、塩化ビニル樹脂と適度な相溶性を有し、その塩素化度が20〜45%であれば特に限定されるものではない。塩素化ポリエチレンの原料となるポリエチレンは、エチレンの単独重合体、もしくは、αーオレフィンとの共重合体である。α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられ、共重合割合は30重量%以下(好ましくは20重量%以下)である。塩素化ポリエチレンは、塩化ビニル樹脂100重量部に対し2重量部以上添加される必要がある。2重量部未満では、耐衝撃性の向上が認められず、良好な衝撃強度が得られない。
【0017】
アクリル系補強剤としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート等のアクリレートを主体として、これらのモノマーと2−クロロエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン等との共重合体であり、例えば、鐘淵化学社製「カネエースFM」、呉羽化学社製「クレハKM−334」等が挙げられる。アクリル系補強剤は、塩化ビニル樹脂100重量部に対し2重量部以上添加される必要がある。2重量部未満では耐衝撃性の向上が認められない。
【0018】
上記、塩素化ポリエチレンとアクリル系補強剤の添加総和量は4〜20重量部、好ましくは10〜15重量部である。7重量部未満では、上記の通り耐衝撃性の向上が認められず、20重量部を越えると押出加工時の吐出安定性の低下が起こるため好ましくない。
【0019】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物には、上述の添加剤の他に、加工性改良助剤、安定剤、滑剤、着色剤、充填剤、可塑剤等の公知の配合剤を適宜使用することができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、原材料として次のものを用意した。
塩化ビニル樹脂:
(A)商品名:H516A、カネカ社製、塩素化度65%
(B)商品名:H816S、カネカ社製、塩素化度68%
(C)商品名:S1008、カネカ社製、塩素化度57%
モリブデン化合物:モリブデン酸アンモニウム(商品名:TF−2000、日本無機化学工業社製)
アンチモン化合物:三酸化アンチモン(商品名:STOX、日本精鉱社製)
水酸化物:水酸化マグネシウム(商品名:KISUMA 5A、協和化学工業社製)
塩素化ポリエチレン:塩素含有量35%(商品名:ダイソラックH−135、ダイソー社製)
アクリル系補強剤(商品名:カネエースFM、カネカ社製)
【0021】
<実施例1〜3、比較例1〜5>
表1に示した通りの原材料を秤量、混合して得られた配合物を直径30mmの2軸押出機を用いて、厚み3mmの押出シートを作製し、得られたシートについて次の項目評価をした。
(a)発熱性(THR:Total Heat Release)
ASTM E906に準拠して、2分間におけるTHRをOhio State University Calorimeterで測定した。65kw・min/m以下であれば合格、この値を越えた場合は不合格とした。
(b)発熱性(HRR:Heat Release Rate)
ASTM E906に準拠して、5分間におけるPeak Heat Release RateをOhio State University Calorimeterで測定した。65kw/m以下であれば合格、この値を越えた場合は不合格とした。
(c)発煙性(Smoke Density)
ASTM E662−82に準拠して、NBS発煙性試験機により4分後の最大煙濃度を測定した。4分後の最大濃度が、200以下であれば合格、この値を超えた場合は不合格とした。
(d)アイゾット衝撃強度
ASTM D256に準拠して、アイゾット衝撃値を測定した。50J/m以上であれば実用的強度は十分として合格(○)、この値未満であれば実用的強度が不十分として不合格(×)とした。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示すとおり、本発明の技術範囲内にある実施例1〜3においては、良好な低発煙性、低発熱性を示し、耐衝撃強度の低下もない。一方、塩素化ポリエチレン、アクリル系補強剤の添加量が技術範囲を外れている比較例1においては、耐衝撃強度の低下が大きく、モリブデン化合物、アンチモン化合物、水酸化物の何れかの添加量が技術範囲を外れている比較例2、3において、あるは、塩素化度が本発明の技術範囲外である塩化ビニル樹脂を用いた比較例4においては、発煙、発熱抑制効果がみられない。モリブデン化合物、アンチモン化合物、および水酸化物の添加総和量が技術範囲外である比較例5においては、耐衝撃強度の低下がみられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化度が60〜70%である塩化ビニル樹脂に、モリブデン化合物(a)、アンチモン化合物(b)、水酸化物(c)、塩素化ポリエチレン(d)およびアクリル系補強剤(e)が配合された塩化ビニル樹脂組成物であって、該塩化ビニル樹脂100重量部に対して、aが2重量部以上、bが2重量部以上、cが3重量部以上、かつこれらa〜cの総和量が35重量部以内配合され、dが2重量部以上、eが2重量部以上、かつこれらd〜eの総和量が20重量部以内配合されたことを特徴とする塩化ビニル樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−299182(P2006−299182A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126280(P2005−126280)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000223414)筒中プラスチック工業株式会社 (54)
【Fターム(参考)】