説明

塩化ビニル系ペースト樹脂

【課題】表面の艶消し性が高く、充分な機械的強度を有する成形体を与える塩化ビニル系ペースト樹脂を提供する。
【解決手段】 塩化ビニル系単量体100重量部に対して架橋剤を0.20重量部以上、0.40重量部以下を含み、微細懸濁重合された塩化ビニル系ペースト樹脂であって、前記架橋剤が、トリアリルシアヌレート及びアリルメタクリレートの混合物であって、重合ラテックスの小粒子比率が10重量%未満である塩化ビニル系ペースト樹脂により解決され、更に前記トリアリルシアヌレートの添加量が0.15重量部以上0.25重量部以下であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し性に優れた塩化ビニル系ペースト樹脂に関する
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂を用いたビニル床材の製法としては、カレンダー法とペースト加工法が挙げられる。このうちカレンダー法とは、塩化ビニル系樹脂及びその他の配合剤を一旦熱溶融させ、それを押出してロールで延伸したものをガラスシート等の基材上に貼り合わせる方法である。しかし、この方法は複数の工程を要する、また延伸時の厚みの制御が困難である等のデメリットがあり、一般的にはペースト加工法が多く用いられている。
【0003】
ペースト加工法とは、(A)塩化ビニル系ペースト樹脂、可塑剤を必須成分とし、炭酸カルシウムなどの充填剤、発泡剤、安定剤、減粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、表面処理剤、チキソトロープ剤、接着性付与剤等の部剤を必要に応じて適当量用い、これらを混合、混練して、プラスチゾルと称する塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を一旦得、そのプラスチゾルをガラスシートなどの基材上に、その基材表面との隙間を50〜400μmに調整したコーティング刃(以下、「コーター」という。)を通してコーティングする工程と、(B)このコーティング物を表面温度が130〜180℃になるように加熱してゲル化させることにより、原反と称する通常150〜300μmの薄い塗膜を得、次いでこの原反に必要に応じて印刷を施し、印刷を施された原反上にクリアー層150〜500μmをコーティングしたのち、に必要に応じてその原反を表面温度が180〜350℃になるように加熱して発泡させる工程を経て製品を得る方法である。
【0004】
このようにして作製された床材シートは、立体感やデザインもさることながら、特に艶消し性が要求される。
【0005】
特許文献1には小粒子とブレンド樹脂を組み合わせて艶消し製品を得る提案がなされている。特許文献2には塩化ビニルとエステル結合を有する単量体とのペースト共重合体をブレンドする方法が提案されている。特許文献3には反応性比の異なる架橋剤を使用する方法が提案されている。
しかし、これら従来技術では、要求される艶消しレベルに至らず、改良が求められていた。
【特許文献1】特開平8−259761号公報
【特許文献2】特開平10−316815号公報
【特許文献3】特開昭61−293203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決する為、表面の艶消し性が高く、充分な機械的強度を有する成形体を与える塩化ビニル系ペースト樹脂の提供を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して架橋剤を0.2重量部以上、0.4重量部以下含んで、微細懸濁重合された塩化ビニル系ペースト樹脂であって、前記架橋剤が、トリアリルシアヌレート及びアリルメタクリレートの混合物であって、重合ラテックスの小粒子比率が10重量%未満である塩化ビニル系ペースト樹脂である。また、前記トリアリルシアヌレートの添加量は0.15重量部以上0.25重量部以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は表面の艶消し性が高く、充分な機械的強度を有する成形体を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられる塩化ビニル系ペースト樹脂は、塩化ビニル単量体、または塩化ビニル単量体とこれと共重合可能な単量体の混合物を水性媒体中で、乳化剤、必要に応じて、高級アルコール、高級脂肪酸などの分散助剤、更に油溶性重合開始剤を加えて均質化した後、微細懸濁重合して得られる。続いて、重合後の塩化ビニル系樹脂の水性均質分散液(ラテックス)を噴霧乾燥することにより製品とされる。微細懸濁重合時の均質化においては、一段または二段加圧式高圧ポンプ、コロイドミル、遠心ポンプ、ホモミキサー、振動式攪拌器、ノズルまたはオリフィスからの高圧噴出および超音波などの公知の方法を、単独あるいは組み合わせて用いる事ができる。本発明の樹脂を得るための乾燥方法には制限は無く、スプレー乾燥など種々の公知の方法により粉体とすることができる。
【0010】
本発明において使用できる単量体は、塩化ビニル単独または塩化ビニルおよびこれと共重合し得る単量体との混合物である。本発明では、これらを「塩化ビニル系単量体」と総称する。共重合し得る単量体は特に限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニリデン等のビニリデン類、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその酸無水物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジル等の不飽和カルボン酸エステル類、スチレン、αーメチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、等の、塩化ビニルと共重合可能な全ての公知の単量体が使用できる。これらの単量体の使用量は、塩化ビニルとの混合物中50重量%未満であるのが好ましい。
【0011】
微細懸濁重合に用いられる界面活性剤は特に限定されるのもではないが、アニオン性界面活性剤が通常単量体100重量部当たり0.1〜3重量部程度用いられる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホン酸、アルキルエーテルリン酸エステル等のカリウム、ナトリウム、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0012】
分散助剤として、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸類を用いることができる。その他の重合助剤としては、芳香族炭化水素、ポリビニルアルコール、ゼラチン、粒子径調整剤(硫酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムなど)、連鎖移動剤、抗酸化剤などが挙げられる。これらは単独または二種類以上を組み合わせて用いる事ができる。
【0013】
微細懸濁重合に用いる油溶性開始剤としては、ジラウロイルパーオキサイド、ジ−3,5,5,トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート等のパーオキシエステル類等の有機過酸化物開始剤及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤を用いることができる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いられる。
【0014】
本発明の塩化ビニル系樹脂は、従来公知の塩化ビニルの単独重合物であるホモポリマー樹脂、又は従来公知の各種コポリマー樹脂からなるものであり、特に限定されるものではない。該コポリマー樹脂としては塩化ビニル酢酸ビニルコポリマー樹脂、塩化ビニルプロピオン酸ビニルコポリマー樹脂など塩化ビニルとビニルエステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニルアクリル酸ブチルコポリマー樹脂、塩化ビニルアクリル酸2エチルヘキシルコポリマー樹脂など塩化ビニルとアクリル酸エステル類とのコポリマー樹脂、塩化ビニルエチレンコポリマー樹脂、塩化ビニルプロピレンコポリマー樹脂など塩化ビニルとオレフィン類とのコポリマー樹脂、塩化ビニルアクリロニトリルコポリマー樹脂などが代表的に例示される。特に好ましくは塩化ビニル単独樹脂、塩化ビニルエチレンコポリマー樹脂、塩化ビニル酢酸ビニルコポリマー樹脂である。
【0015】
塩化ビニル単量体とこれと共重合し得る単量体は、特に限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニリデン等のビニリデン類、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその酸無水物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジル等の不飽和カルボン酸エステル類、スチレン、αーメチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、等の、塩化ビニルと共重合可能な全ての公知の単量体が使用できる。これらの単量体の使用量は、塩化ビニルとの混合物中50重量%未満であるのが好ましい。
【0016】
本発明では、塩化ビニル系単量体100重量部に対して架橋剤を0.20以上0.40重量部以下含んで微細懸濁重合するのが良い。
【0017】
ここで、架橋剤とは、トリアリルシアヌレート及びアリルメタクリレートの混合物が好ましい。混合架橋剤の添加量は少なすぎると生成ゲル分量が不足し、艶消し性が悪くなる傾向にある。
【0018】
また小粒子比率は塩化ビニル系ペースト樹脂中に含有される小粒子の割合を言い、10重量%未満であるのが好ましい。ここでいう小粒子は、遠心分離操作によって分離された上澄み液中残存物のことを言うものである。
【0019】
さらに、トリアリルシアヌレートの添加量は、塩化ビニル系単量体100重量部に対して、0.15重量部以上、0.25重量部以下であるのが好ましい。
【実施例】
【0020】
次に、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明はこれらの例になんら限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
ステンレス製撹拌装置付耐圧容器に、イオン交換水を100重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.80重量部、ラウリルアルコール0.4重量部、2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)0.06重量部、トリアリルシアヌレート0.15重量部、アリルメタクリレート0.10重量部を仕込んで脱気した後、塩化ビニル単量体100重量部を送入し、均質化した後、45℃に昇温して重合を行い、重合圧力が降下した時点で未反応の単量体を除去して重合を終了させた。
粗粒を除去したラテックスをスプレー乾燥機(三菱化工機株式会社製)を用い、入口135℃、出口52℃の条件で噴霧乾燥した。噴霧乾燥後の樹脂をバンタムミル(AP−B型、ホソカワミクロン製)で粉砕し、塩化ビニルペースト樹脂を得た。
【0022】
(実施例2)
トリアリルシアヌレート0.1重量部、アリルメタクリレート0.3重量部を仕込む以外は実施例1と同様とした。
【0023】
(実施例3)
トリアリルシアヌレート0.25重量部、アリルメタクリレート0.15重量部を仕込む以外は実施例1と同様とした。
【0024】
(実施例4)
トリアリルシアヌレート0.20重量部、アリルメタクリレート0.20重量部を仕込む以外は実施例1と同様とした。
【0025】
(比較例1)
トリアリルシアヌレート0.20重量部仕込み、アリルメタクリレートを仕込まない以外は実施例1と同様とした。
【0026】
(比較例2)
トリアリルシアヌレート0.30重量部仕込み、アリルメタクリレートを仕込まない以外は実施例1と同様とした。
【0027】
(比較例3)
トリアリルシアヌレート仕込まず、アリルメタクリレートを0.4重量部仕込む以外は実施例1と同様とした。
【0028】
(比較例4)
トリアリルシアヌレート0.2重量部、アリルメタクリレート0.2重量部を仕込み、ラウリル硫酸ナトリウム0.6重量部、過酸化水素0.02重量部仕込んでシード乳化重合で重合する以外は実施例1と同様とした。
【0029】
(比較例5)
トリアリルシアヌレート及びアリルメタクリレートを仕込まず、トリアリルイソシアヌレート0.2重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート0.2重量部を仕込む以外は実施例1と同様とした。
【0030】
(1)ペーストゾルの調整
塩化ビニルペースト樹脂60重量部、塩化ビニルブレンド樹脂((株)カネカ製PBM−B5F)40重量部に、DOP(ジ−2−エチルヘキシルフタレート)60重量部、Ba−Zn系安定剤(AC−310:株式会社ADEKA製)3重量部、エポキシ化大豆油(O−130P:株式会社ADEKA製)2重量部を加え、スリーワンモーター混練機(新東科学株式会社製)を用い、室温下、1000rpmで3分間混練したのち、−760mmHgで10分間減圧脱泡して、塩化ビニル系ペーストゾルを作製した。
【0031】
(2)フィルム作製
厚さ2mm、幅300mmのガラス板上にアプリケーターを用いて厚さ300μmになる様コーティングした後、ギヤーオーブン(安田精機(株)製No.102−SHF77)200℃で5分加熱してフィルムを得た。
【0032】
(3)評価
(A.小粒子比率)
重合で得られたラテックスを樹脂1g相当になる様、純水で希釈し、3000RPM、10分間遠心分離機(トミー精工製CX−250)で遠心分離し、沈降物を乾燥した後、重量を測定し、上澄み液中残存物を算出し小粒子比率とした。
【0033】
(B.THF不溶分比率)
ペースト樹脂を50℃の温浴上で2Hr撹拌しながらTHFに溶解した後、20000RPM、1時間遠心分離(トミー精工製CX−250)し、沈降物を乾燥して重量測定した。
【0034】
(C.艶消し性)
得られたフィルムをデジタル光沢計(UGV−5Dスガ試験機(株)製)にて60°Glossを測定した。Glossが小さい程艶消し性が高い。
【0035】
(D.抗張力)
得られたフィルムをプラスチック引張特性の試験方法(JIS−K7127)に準じて実施し、試験片タイプ5にて試験速度200mm/minで実施した。
【0036】
【表1】

【0037】
この結果、表1から明らかなとおり、本発明の実施例1〜4は、艶消し性に優れ、引張特性の良好な結果が得られた。これに対して比較例1〜5は、艶消し性または引張特性のどちらかが好ましくなかった。以上から、本発明の実施例は既存の多くの架橋剤の中から選択的に優れた効果が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系単量体100重量部に対して架橋剤を0.20重量部以上、0.40重量部以下含み、微細懸濁重合された塩化ビニル系ペースト樹脂であって、前記架橋剤が、トリアリルシアヌレート及びアリルメタクリレートの混合物であって、重合ラテックスの小粒子比率が10重量%未満である塩化ビニル系ペースト樹脂
【請求項2】
前記トリアリルシアヌレートの添加量が0.15重量部以上0.25重量部以下である請求項1記載の塩化ビニル系ペースト樹脂

【公開番号】特開2009−179744(P2009−179744A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21044(P2008−21044)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】