説明

塩化ビニル系多孔質膜の製造方法

【課題】親水性高分子の使用を必須としない方法で、親水性を有する塩化ビニル系多孔質膜を製造できる方法を提供する。
【解決手段】塩化ビニル系ポリマーを膜形成ポリマーとして用いて製造された塩化ビニル系多孔質膜を、濃度2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、55℃で2時間加熱してアルカリ処理を行った後、20℃の水中に1時間浸漬して洗浄し、得られた多孔質膜を、濃度1質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬し、40℃で4時間加熱後、室温(22℃)で12時間静置して酸化剤処理を行った後、20℃の水中に1時間浸漬して洗浄し、洗浄後の多孔質膜を室温で乾燥して親水性多孔質膜を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂からなる多孔質膜を親水化処理して多孔質膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化により、分離の完全性やコンパクト性などに優れた分離膜を用いた膜法による水処理が注目を集めている。
膜法による水処理においては、膜表面・内部に閉塞した有機物、無機物を分解除去するために、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素の様な酸化剤、あるいは酸・アルカリ等で膜の洗浄を行うため、分離膜には高い耐酸化劣化性および耐酸・アルカリ性が求められる。
【0003】
この様な背景のもと、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー;塩化ビニル系ポリマー、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系ポリマー;等が膜形成ポリマーとして用いられてきている。
特に、塩化ビニル系ポリマーは高い耐酸化劣化性および耐酸・アルカリ性を有し、かつ安価であり、またフッ素系ポリマーの様に焼却時に有害なフッ化水素を発生しないため分離膜素材として好適である。
しかしながら塩化ビニル系ポリマーは疎水性を示すため、塩化ビニル系ポリマーからなるろ過膜にあっては、ろ過水中の有機物等による汚染が生じ易い。
【0004】
この問題に対し、下記特許文献1では、ポリ塩化ビニルのほかに、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸の共重合体およびポリビニルピロリドンなどの親水性高分子を含有する製膜原液を用いて製膜することによって、ろ過膜を親水化する方法が示されている。
また特許文献2には、膜形成ポリマーとして、ポリ塩化ビニルまたは塩素化ポリ塩化ビニルのほかに、親水性高分子であるエチレンジアミン−ポリオキシアルキレン重合体を用いることにより、多孔質膜に親水性を付与する方法が記載されている。
しかしながら、このような親水性高分子は塩化ビニル系ポリマーと比較して耐薬品性が低いため、親水性高分子を含む分離膜において薬品洗浄による劣化、溶出が懸念される。またこれらの親水性高分子は一般的に塩化ビニル系樹脂より高価であり、製膜コストの点でも好ましくない。
【0005】
特許文献3には、塩化ビニル系ポリマーと同様に炭素−塩素結合を有するフッ素系樹脂(例えばポリ(エチレンクロロトリフルオロエチレン)等)を、アルカリ等の活性化剤で処理した後、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子である反応性被覆剤と反応させて被覆重合体とすることによって、親水性を付与する方法が示されている。
しかしながら、本方法で得られる分離膜は、親水性高分子を有する被覆層を備えるものでるため、前述した薬品洗浄による劣化、溶出、およびコスト上の問題は解決されていない。
【0006】
特許文献4には、ポリフッ化ビニリデンからなる中空糸膜に弱アルカリ処理を行い、次いで酸化剤処理を行うことにより、膜を親水化する方法が記載されている。
しかしながら、特許文献4には、膜形成ポリマーが塩化ビニル系ポリマーである塩化ビニル系多孔質膜についての記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−500591号公報
【特許文献2】特開2009−112895号公報
【特許文献3】国際公開第2006/002479号パンフレット
【特許文献4】特開2007−167839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、親水性高分子の使用を必須としない方法で、親水性を有する塩化ビニル系多孔質膜を製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の塩化ビニル系多孔質膜の製造方法は、塩化ビニル系ポリマーを膜形成ポリマーとして用いて製造された塩化ビニル系多孔質膜に、アルカリ処理を行い、次いで酸化剤処理を行うことを特徴とする。
【0010】
前記塩化ビニル系ポリマーが、塩素化された塩化ビニルホモポリマー、および塩素化された塩化ビニル単位を含むポリビニルコポリマーからなる群から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
前記塩化ビニル系多孔質膜に含まれるポリマーが、前記膜形成ポリマーのみであることが好ましい。
前記塩化ビニル系多孔質膜が、膜形成ポリマーと溶媒を含有する製膜原液を、膜状に形成し、凝固させる工程を経て製造されたものであり、前記製膜原液中のポリマーが、前記膜形成ポリマーのみであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、親水性高分子の使用を必須としない方法で、親水性を有する塩化ビニル系多孔質膜を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、多孔質膜の形態は特に限定されず、例えば平膜であってもよく、中空状であってもよい。また膜強度を高めるために支持体の上に多膜質膜を積層した複合膜の形態でも構わない。
多孔質膜の孔径は特に限定されず、ろ過膜として使用する際に要求されるろ過性能に応じて設計される。
【0013】
本発明における塩化ビニル系多孔質膜は、塩化ビニル系ポリマーを膜形成ポリマーとして用いた製造されたものである。膜形成ポリマーは塩化ビニル系ポリマーからなる。
塩化ビニル系多孔質膜は膜形成ポリマーのほかに、製造上の残留成分として、塩化ビニル系ポリマー以外のポリマー(以下、残留ポリマーということもある。)を含んでもよい。該残留ポリマーは親水性高分子であってもよい。
本発明において、塩化ビニル系多孔質膜に含まれるポリマーが、膜形成ポリマーのみであることが好ましい。すなわち、塩化ビニル系多孔質膜中に残留ポリマーが存在しないことが好ましい。塩化ビニル系多孔質膜中に残留ポリマーとして親水性高分子が含まれると、後述の酸化剤処理の際に、酸化剤が親水性高分子との反応により消費されてしまい、酸化剤による処理効率が低下するためである。
【0014】
本発明において膜形成ポリマーに用いられる塩化ビニル系ポリマーは、塩化ビニルホモポリマー(ポリ塩化ビニルともいう。)、塩化ビニル単位を含むポリビニルコポリマー、塩素化された塩化ビニルホモポリマー(塩素化ポリ塩化ビニルともいう。)、および塩素化された塩化ビニル単位を含むポリビニルコポリマーからなる群から選ばれる1種または2種以上の混合物である。これらは多孔質膜の膜形成ポリマーとして公知のものを適宜使用できる。ここで、塩素化ポリ塩化ビニルは、ポリ塩化ビニルの水素原子の一部が塩素化されたポリマーであり、例えば、塩化ビニルモノマーの水素原子が塩素原子に置換されたものを重合させたポリマーであってもよく、ポリ塩化ビニルを公知の方法で塩素化して得られるものであってもよい。
【0015】
これらのうち、入手の容易さ、コスト面からポリ塩化ビニルまたは塩素化ポリ塩化ビニルが好ましい。さらに、塩素化ポリ塩化ビニルまたは塩素化された塩化ビニル単位を含むポリビニルコポリマー、中でも、塩素化ポリ塩化ビニルは、一般的にポリ塩化ビニルより疎水性が高いため、本発明の方法により親水化することによる効果が大きい点でより好ましい。
ポリ塩化ビニルの重合度、または塩素化ポリ塩化ビニルにおける塩化ビニルの重合度は、特に限定されないが、製膜原液の粘度が調整しやすく、かつ得られる膜の強伸度が高くなる傾向から500〜1500の範囲が好ましく、600〜1200の範囲がより好ましい。
塩素化塩化ビニル系樹脂における塩素化度は特に限定されないが、製膜に用いる溶媒への溶解度が高くなることから62質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましい。
本明細書において、塩素化度とは、塩素化塩化ビニル系樹脂の単位質量当たりの、該塩素化塩化ビニル系樹脂に付加している塩素の質量分率を指す。
【0016】
塩化ビニル系多孔質膜は、膜形成ポリマーと溶媒を含有する製膜原液を、膜状に形成し、凝固させて製造することができる。製膜原液中に、膜形成ポリマー以外のポリマー(例えば親水性高分子)を含有させず、製膜原液中のポリマーが膜形成ポリマーのみであると、残留ポリマー(例えば親水性高分子)が存在しない塩化ビニル系多孔質膜を確実に得ることができる。
製膜原液からなる未硬化膜を凝固させて多孔質膜を製造する方法は、公知の手法を用いて行うことができる。製膜原液を膜状に形成した直後に凝固液に浸漬させて凝固させる湿式法でもよく、製膜原液を膜状に形成した後、未硬化膜を空気と接触させて吸湿させた後に、凝固液に浸漬させて凝固させる乾湿式法でもよく、凝固液を用いずに溶媒を乾燥除去する乾式法でもよい。
【0017】
製膜原液の溶媒としては、低級アルキルケトン、エステル、アミド等が挙げられ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等が挙げられる。
これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
多孔質膜における空孔率の向上のために、製膜原液中の溶媒と水の両方に対して可溶性である孔形成剤を製膜原液に含有させることができる。
かかる孔形成剤の例としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのリチウム塩;ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマー:などが挙げられる。
凝固後の膜において、孔形成剤が残存している場合、ろ過水への溶出や孔閉塞による透水性低下が起こるおそれがあるため、凝固工程の後に孔形成剤を洗浄除去することが望ましい。
孔形成剤として親水性ポリマーを用いると、凝固後に洗浄除去しても親水性ポリマーが残存しやすいため、親水性ポリマー以外の孔形成剤を用いることが好ましい。
【0019】
乾式法で凝固させる場合、塩化ビニル系ポリマーを溶媒に溶解した後、塩化ビニル系ポリマーに対しては非溶媒であり、該溶媒と相溶性を有する非溶媒を加えて製膜原液としてもよい。かかる非溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0020】
凝固液は、水、または水と製膜原液の調製に用いた溶媒との混合物(溶媒の水溶液)が好ましい。該溶媒と水の混合物において、溶媒の濃度は特に限定されないが、溶媒の比率が高くなると、凝固に要する時間が長くなる傾向にあることから50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
凝固工程後の塩化ビニル系多孔質膜を、必要に応じて洗浄して、残存する溶媒等を除去してもよい。洗浄は水中に浸漬させる方法で行うことができる。
【0021】
本発明では、塩化ビニル系多孔質膜に、アルカリ処理を行い、次いで酸化剤処理を行うことによって親水化し、親水性を有する塩化ビニル系多孔質膜を得る。
アルカリ処理は、塩化ビニル系多孔質膜をアルカリ化合物の水溶液(以下、アルカリ水溶液という。)に浸漬する方法、アルカリ化合物と接触させる方法等、公知の方法を用いて行うことができる。特にアルカリ水溶液に浸漬する方法が簡便に行えることから好ましい。アルカリ水溶液に浸漬する前に、必要に応じて、塩化ビニル系多孔質膜をアルコール等に浸漬して表面を親水化した後、水に置換する操作を行うと、膜表面が水に濡れた状態となり、アルカリ水溶液の濡れ性が向上する。
【0022】
アルカリ化合物としては、アルカリ性を示す任意の化合物を適宜使用することができるが、コスト・安全性の面から無機塩が好ましい。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、または炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合物がより好ましい。
【0023】
アルカリ処理において、塩化ビニル系ポリマーとの良好な反応性が得られやすい点で、アルカリ水溶液の濃度は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。アルカリ水溶液の温度は0℃以上が好ましく、10℃%以上がより好ましい。アルカリ水溶液に浸漬させる時間は0.1分間以上が好ましく、1分間以上がより好ましい。
一方、塩化ビニル系ポリマーの劣化が抑制されやすい点で、アルカリ水溶液の濃度は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。アルカリ水溶液の温度は100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。アルカリ水溶液に浸漬させる時間は240分間以下が好ましく、180分間以下がより好ましい。
【0024】
酸化剤処理は、アルカリ処理後の塩化ビニル系多孔質膜を酸化剤水溶液に浸漬する方法、酸化剤と接触させる方法等、公知の方法を用いて行うことができる。特に酸化剤水溶液に浸漬する方法が簡便に行えることから好ましい。必要に応じて、アルカリ処理後の塩化ビニル系多孔質膜をアルコール等に浸漬して表面を親水化した後、水に置換する操作を行うと、膜表面が水に濡れた状態となり、酸化剤水溶液の濡れ性が向上する。
【0025】
酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、硫酸、過マンガン酸カリウム等、公知の酸化剤を用いることができる。コスト・安全性の観点から、次亜塩素酸ナトリウム、硫酸が好ましい。
【0026】
次亜塩素酸ナトリウムを用いる場合、塩化ビニル系ポリマーとの良好な反応性が得られやすい点で、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の温度は0℃以上が好ましく、10℃%以上がより好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させる時間は0.1分間以上が好ましく、1分間以上がより好ましい。
一方、塩化ビニル系ポリマーの劣化が抑制されやすい点で、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度は15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の温度は100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させる時間は240分間以下が好ましく、180分間以下がより好ましい。
【0027】
硫酸を用いる場合、塩化ビニル系ポリマーとの良好な反応性が得られやすい点で、硫酸水溶液の濃度は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。硫酸水溶液の温度は0℃以上が好ましく、10℃%以上がより好ましい。硫酸水溶液に浸漬させる時間は0.1秒間以上が好ましく、1秒間以上がより好ましい。
一方、塩化ビニル系ポリマーの劣化が抑制されやすい点で、硫酸水溶液の濃度は99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましい。硫酸水溶液の温度は100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。硫酸水溶液に浸漬させる時間は60分間以下が好ましく、30分間以下がより好ましい。
【0028】
酸化剤処理後、好ましくは水中に浸漬して酸化剤を水に置換した後、乾燥して親水性の塩化ビニル系多孔質膜を得る。
かかるアルカリ処理および酸化剤処理を行うことにより、処理前に比べて塩化ビニル系多孔質膜の表面における水の接触角が小さくなる。該接触角が小さいほど親水性が高いことを示す。接触角の測定方法は後述する。
例えば、後述の実施例に示されるように、塩素化ポリ塩化ビニルからなる多孔質膜の、処理前の水の接触角は85〜100°程度であり、本発明による処理を行うことにより、該接触角が30〜80°、好ましくは30〜70°に低減された、塩素化ポリ塩化ビニルからなる親水性多孔質膜が得られる。
または、ポリ塩化ビニルからなる多孔質膜の、処理前の水の接触角は70〜85°程度であり、本発明による処理を行うことにより、該接触角が30〜65°、好ましくは30〜60°に低減された、ポリ塩化ビニルからなる親水性多孔質膜が得られる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<接触角の測定方法>
多孔質膜の表面における水の接触角は、接触角計(協和界面科学社製、製品名:Drop Master 500)により測定した。
【0030】
[実施例1]
本例では、乾湿式の製法で多孔質膜を製造した。
市販の塩素化ポリ塩化ビニル(徳山積水工業社製、製品名:HA−53K、塩素化度:67質量%、塩化ビニルの重合度:1000)を用いた。
製膜原液の溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬社製、試薬特級、以下、NMPと記載することもある。)を用い、孔形成剤として臭化リチウム(和光純薬社製、試薬特級)を用いた。
下記の組成で、40℃の水浴上で、溶媒であるNMPに塩素化ポリ塩化ビニルおよび臭化リチウムを溶解して、製膜原液を調製した。
塩素化ポリ塩化ビニル:20質量%、
臭化リチウム:4質量%、
NMP:76質量%。
【0031】
次いで、上記で得た製膜原液を、ガラス板上に約75μmの厚みで均一に塗布して未凝固膜を形成した後、温度19.3℃、相対湿度30.4%の空気中に11秒間静置して吸湿させた。
この後、ガラス板とともに凝固液に1分間浸漬し、塩素化ポリ塩化ビニルからなる多孔質膜(1)を得た。凝固液としては、濃度8質量%のNMP水溶液(NMP8質量%と水92質量%の混合物)を用いた。
得られた多孔質膜をガラス板から取り外した後、20℃の水中に1時間浸漬して洗浄し、残存する溶剤を洗浄除去した。
洗浄後の多孔質膜(1)の接触角(処理前接触角)を測定した。結果を表1に示す。
【0032】
洗浄後の多孔質膜(1)を濃度2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、55℃で2時間加熱してアルカリ処理を行った後、20℃の水中に1時間浸漬して洗浄した。
得られた多孔質膜を、濃度1質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬し、40℃で4時間加熱後、室温(22℃)で12時間静置して酸化剤処理を行った後、20℃の水中に1時間浸漬して洗浄した。洗浄後の多孔質膜を室温で乾燥して親水性多孔質膜(1’)を得た。得られた親水性多孔質膜(1’)の接触角(処理後接触角)を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
前記洗浄後の多孔質膜(1)を実施例1と同様の方法でアルカリ処理のみを行い、その後、水洗・乾燥して得られた膜について、実施例1と同様に接触角測定を行った。結果を表1に示す。
【0034】
[実施例2]
本例では、乾式の製法で多孔質膜を製造した。
実施例1と同じ塩素化ポリ塩化ビニル樹脂を用いた。製膜原液の溶媒としてテトラヒドロキシフラン(和光純薬社製、試薬特級)を用いた。また、非溶媒であるイソプロピルアルコール(和光純薬社製、試薬特級)を用いた。
下記の組成で、30℃の水浴上で塩素化ポリ塩化ビニルを溶解して、製膜原液を調製した。
塩素化ポリ塩化ビニル:9質量%、
イソプロピルアルコール:27質量%
テトラヒドロキシフラン:64質量%。
【0035】
次いで、上記で得た製膜原液を、ガラス板上に約75μmの厚みで均一に塗布して未凝固膜を形成した後、温度30℃、相対湿度60%の空気中に30分静置することによって、テトラヒドロキシフランおよびイソプロピルアルコールを乾燥除去し、多孔質膜(2)を得た。
得られた多孔質膜をガラス板から取り外した後、エタノール(和光純薬社製、試薬特級)に5分間浸漬した後、純水中に30分浸漬して洗浄した。
洗浄後の多孔質膜(2)の接触角(処理前接触角)を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
洗浄後の多孔質膜(2)を濃度2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、40℃で2時間加熱してアルカリ処理を行った後、20℃の水中に1時間浸漬して洗浄した。
得られた多孔質膜を、濃度98質量%の濃硫酸に浸漬し、室温(22℃)で5分静置して酸化剤処理を行った後、20℃の水中に1時間浸漬して洗浄した。洗浄後の多孔質膜を室温で乾燥して親水性多孔質膜(2’)を得た。得られた親水性多孔質膜(2’)の接触角(処理後接触角)を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
[比較例2]
前記洗浄後の多孔質膜(2)を実施例2と同様の方法でアルカリ処理のみを行い、その後、水洗・乾燥して得られた膜について、実施例2と同様に接触角測定を行った。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例3]
本例では、湿式の製法で多孔質膜を製造した。
市販のポリ塩化ビニル(徳山積水工業社製、製品名:TS−1000R、塩化ビニルの重合度:1000)を用いた。
製膜原液の溶媒であるNMPは、実施例1と同じものを用いた。
下記の組成で、40℃の水浴上で、溶媒であるNMPにポリ塩化ビニルを溶解して、製膜原液を調製した。
ポリ塩化ビニル:18質量%、
NMP:82質量%。
【0039】
次いで、上記で得た製膜原液を、ガラス板上に約150μmの厚みで均一に塗布して未凝固膜を形成した後、ガラス板とともに濃度8質量%のNMP水溶液からなる凝固液に22℃において1分間浸漬し、多孔質膜(3)を得た。
得られた多孔質膜をガラス板から取り外した後、20℃の水中に1時間浸漬し、残存する溶剤を洗浄除去した。
洗浄後の多孔質膜(3)の接触角(処理前接触角)を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
洗浄後の多孔質膜(3)に、実施例2と同様の方法でアルカリ処理および酸化剤処理を行い、洗浄した。
洗浄後の多孔質膜を室温で乾燥して親水性多孔質膜(3’)を得た。得られた親水性多孔質膜(3’)の接触角(処理後接触角)を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例3]
前記洗浄後の多孔質膜(3)を、実施例3と同様の方法でアルカリ処理のみを行った後に、水洗・乾燥して得られた膜について、実施例3と同様に接触角測定を行った。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果に示されるように、アルカリ処理と酸化剤処理を行った実施例1、2は、処理前に比べて、処理後の接触角は顕著に小さい。これに対して、アルカリ処理だけを行った比較例1、2は、処理前に比べて、処理後の方が、むしろ接触角の値が大きくなっている。
またアルカリ処理のみを行った比較例3は、処理前に比べて、処理後の接触角はやや小さい程度であるが、アルカリ処理と酸化剤処理を行った実施例3は、処理前に比べて、処理後の接触角は顕著に小さい。
これらのことから、塩化ビニル系多孔質膜が、アルカリ及び酸化剤処理により良好に親水化されたことが認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系ポリマーを膜形成ポリマーとして用いて製造された塩化ビニル系多孔質膜に、アルカリ処理を行い、次いで酸化剤処理を行う塩化ビニル系多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記塩化ビニル系ポリマーが、塩素化された塩化ビニルホモポリマー、および塩素化された塩化ビニル単位を含むポリビニルコポリマーからなる群から選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載の塩化ビニル系多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記塩化ビニル系多孔質膜に含まれるポリマーが、前記膜形成ポリマーのみである、請求項1または2に記載の塩化ビニル系多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記塩化ビニル系多孔質膜が、膜形成ポリマーと溶媒を含有する製膜原液を、膜状に形成し、凝固させる工程を経て製造されたものであり、
前記製膜原液中のポリマーが、前記膜形成ポリマーのみである、請求項1〜3いずれか一項に記載の塩化ビニル系多孔質膜の製造方法。


【公開番号】特開2013−13875(P2013−13875A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150101(P2011−150101)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】