説明

塩化ビニル系樹脂ドープ組成物

【課題】 本発明は、高濃度の状態で溶媒へ均一溶解することができ、得られた成形体に各種用途に応じた適当な硬度、柔軟性を付与すると共に、透明性、熱安定性に優れた新規な塩化ビニル系樹脂ドープ組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】塩化ビニル系モノマー(A)と、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマー(B)の組成比率(A/B)が50重量%/50重量%〜90重量%/10重量%であることを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂10〜50重量%を有機溶媒50〜90重量%に溶解することを特徴とする塩化ビニル系樹脂ドープ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系モノマーおよび二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの新規な共重合体を高濃度に有機溶媒で溶解して得られる新規の組成物に関するものであり、得られる成形体が、可塑剤を減量するもしくは全く使用しなくとも十分な柔軟性を付与し、透明性、熱安定性に優れた新規な塩化ビニル系樹脂ドープ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、機械的物性、化学的物性に優れ、また可塑剤量の調整により硬質から軟質までの成形体が得られるため種々の用途に使用されている。
【0003】
また、塩化ビニル樹脂を良溶媒に溶解した「ドープ」としてフィルムや接着剤として使用されることが知られているが、塩化ビニル樹脂は耐溶剤性が良好であるため、成形体の溶剤残留や、加工時の粘度調整が難しく、また溶剤の選択性がないことや、樹脂濃度を10%以上に上げることが困難であった。
【0004】
また、ドープから軟質成形体を得ようとする場合、可塑剤量の調整で硬度、柔軟性を調整することができるが、近年可塑剤による人体への悪影響に係る問題など、環境・生体への影響が取り沙汰される様になっており、各種用途に応じた適当な硬度、柔軟性を付与するための新たな技術に対する期待が高まっている。
【0005】
そのため、軟質用樹脂として、塩化ビニルモノマーに酢酸ビニルモノマーを共重合させた、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂を用いた場合には、モノマー同士の共重合性比が高く、所謂ランダムコポリマーを形成することからポリマーのガラス転移温度を下げ、柔軟性を得ることができるものの、ポリマーの耐熱性を著しく低下させ、安定剤を併用しても加工温度幅の狭い問題がある。(非特許文献1)
また、ガラス転移温度の低いアクリル酸エステル系モノマーを、塩化ビニル系重合体にグラフト重合することによって内部可塑化する技術(特許文献1)や多官能性モノマーを含むアクリル酸エステル系モノマーに塩化ビニル系モノマーをグラフト重合させることによって耐衝撃性を改善する技術(特許文献2)も知られているが、パーオキサイド系触媒や多官能性モノマー反応残基等の存在下において、部分的に塩化ビニル系重合体にグラフト化されるだけで、塩化ビニル単独重合体、アクリル酸エステル系単独重合体、少量のグラフト重合体の3相混合状態となるため、溶媒へ均一溶解させることが難しく、加工後に得られた成形体の強度が低くなることがある。
【特許文献1】特開昭55−021424号公報
【特許文献2】特開昭60−255813号公報
【非特許文献1】プログレス・イン・ポリマー・サイエンス(Prog.Polym.Sci.)2002年、27巻、2037頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高濃度に溶媒へ均一溶解するドープ組成物とすることができ、得られた成形体に各種用途に応じた適当な硬度、柔軟性を付与することができ、透明性、熱分解耐熱性に優れた成形体を得ることができる、新規な塩化ビニル系樹脂ドープ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、分子量分布や重合性反応基の制御されたマクロモノマーを使用することで、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 塩化ビニル系モノマー(A)と、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマー(B)の組成比率(A/B)が50重量%/50重量%〜90重量%/10重量%であることを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂10〜50重量%を、有機溶媒50〜90重量%に溶解することを特徴とする塩化ビニル系樹脂ドープ組成物(請求項1)、
(2) マクロモノマー(B)が重合性官能基を有し、該重合性反応基が、1分子あたり少なくとも1個、下記一般式:
−OC(O)C(R)=CH2 (1)
(式中、Rは水素、又は、炭素数1〜20の有機基を表す。)
を含む構造であることを特徴とする請求項1記載の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物(請求項2)、
(3)有機溶媒として、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトンから選ばれた少なくとも1種が、全有機溶媒中の30%以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物(請求項3)、
(4)請求項1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物からキャスティング法により得られる成形体(請求項4)、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塩化ビニル系共重合樹脂濃度を高くすることができる。また、塩化ビニル系共重合樹脂を均一に溶解することができ、粘度を低くすることができる。また、可塑剤を減量するもしくは全く使用しなくとも得られた成形体に十分な柔軟性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物は、塩化ビニル系モノマーと二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーからなる塩化ビニル系共重合樹脂を有機溶媒に溶解して得られる。
ここで「ドープ組成物」とは、本発明を構成する塩化ビニル系共重合樹脂を親和性のよい溶媒を用いて、塩化ビニル系共重合樹脂のゲル化物のない、完全溶解した溶液状態の組成物と定義される。
【0011】
本発明を構成する塩化ビニル系共重合樹脂は、特に制約はないが、塩化ビニル系モノマー(A)と、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマー(B)の組成比率(A/B)が50重量%/50重量%〜90重量%/10重量%であることが好ましく、特に同組成比率が50重量%/50重量%〜80重量%/20重量%が好ましい。この範囲の組成比率である塩化ビニル系共重合樹脂を用いると溶媒への溶解性が高く、均一性に優れるため好ましい。特に同組成比率が、70重量%/30重量%〜50重量%/50重量%以下の範囲であれば、可塑剤を添加しなくても加熱によって得られた成形体に十分な柔軟性を付与することができ、また、ドープ組成物に少量の可塑剤を添加することで、成形体にタック性が付与されるため粘着シート、接着剤として使用する場合において好ましい。
【0012】
本発明の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物は、塩化ビニル系共重合樹脂10〜50重量%を有機溶媒50〜90重量%に溶解することが好ましく、更に塩化ビニル系共重合樹脂20〜40重量%を有機溶媒60〜80重量%に溶解することが好ましい。この範囲の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物であれば、塩化ビニル系共重合樹脂の溶解性に優れ、加熱により成形体を得た場合、成形体の残留溶媒が少なくなるため好ましい。
【0013】
本発明を構成する塩化ビニル系共重合樹脂で使用される塩化ビニル系モノマーとしては特に限定はなく、例えば塩化ビニルモノマー、塩化ビニリデンモノマー、酢酸ビニルモノマーまたはこれらの混合物、または、この他にこれらと共重合可能で、好ましくは重合後の重合体主鎖に反応性官能基を有しないモノマー、例えばエチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類から選ばれる1種または2種以上の混合物を用いてもよい。2種以上の混合物を使用する場合は、塩化ビニル系モノマー全体に占める塩化ビニルモノマーの含有率を50重量%以上、特に70重量%以上とすることが好ましく、中でも得られる共重合樹脂の柔軟性が得られやすいことから90重量%以上とすることがさらに好ましい。
【0014】
本発明を構成する塩化ビニル系共重合樹脂で使用されるマクロモノマーとしては、本発明の効果を奏すれば特に限定はないが、一般的に重合体の末端に反応性の官能基を有するオリゴマー分子を指す。本発明で使用される、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーは、反応性官能基として、アリル基、ビニルシリル基、ビニルエーテル基、ジシクロペンタジエニル基、下記一般式(1)から選ばれる重合性の炭素−炭素二重結合を有する基を、少なくとも1分子あたり1個、分子末端に有する、ラジカル重合によって製造されたものである。
特に、塩化ビニル系モノマーとの反応性が良好なことから、重合性の炭素−炭素二重結合を有する基が、下記一般式
−OC(O)C(R)=CH2 (1)
で表される基であることが好ましい。
【0015】
式中、Rの具体例としては特に限定されないが、例えば、−H、−CH3、−CH2CH3、−(CH2nCH3(nは2〜19の整数を表す)、−C65、−CH2OH、−CNの中から選ばれる基が好ましく、更に好ましくは−H、−CH3を用いることができる。
【0016】
また、本発明で使用されるマクロモノマーの主鎖である、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体は、ラジカル重合によって製造される。ラジカル重合法は、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物などを使用して、特定の官能基を有するモノマーとビニル系モノマーとを単に共重合させる「一般的なラジカル重合法」と、末端などの制御された位置に特定の官能基を導入することが可能な「制御ラジカル重合法」に分類できる。
【0017】
「一般的なラジカル重合法」は、特定の官能基を有するモノマーは確率的にしか重合体中に導入されないので、官能化率の高い重合体を得ようとした場合には、このモノマーをかなり大量に使用する必要がある。またフリーラジカル重合であるため、分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0018】
「制御ラジカル重合法」は、さらに、特定の官能基を有する連鎖移動剤を使用して重合を行うことにより末端に官能基を有するビニル系重合体が得られる「連鎖移動剤法」と、重合生長末端が停止反応などを起こさずに生長することによりほぼ設計どおりの分子量の重合体が得られる「リビングラジカル重合法」とに分類することができる。
【0019】
「連鎖移動剤法」は、官能化率の高い重合体を得ることが可能であるが、開始剤に対して特定の官能基を有する連鎖移動剤を必要とする。また上記の「一般的なラジカル重合法」と同様、フリーラジカル重合であるため分子量分布が広く、粘度の低い重合体は得にくい。
【0020】
これらの重合法とは異なり、「リビングラジカル重合法」は、本件出願人自身の発明に係る国際公開WO99/65963号公報に記載されるように、重合速度が大きく、ラジカル同士のカップリングなどによる停止反応が起こりやすいため制御の難しいとされるラジカル重合でありながら、停止反応が起こりにくく、分子量分布の狭い、例えば、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比(Mw/Mn)が1.1〜1.5程度の重合体が得られるとともに、モノマーと開始剤の仕込み比によって分子量は自由にコントロールすることができる。
【0021】
従って「リビングラジカル重合法」は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができる上に、特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため、本発明において、上記の如き特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはより好ましい重合法である。
【0022】
「リビングラジカル重合法」の中でも、有機ハロゲン化物あるいはハロゲン化スルホニル化合物等を開始剤、遷移金属錯体を触媒としてビニル系モノマーを重合する「原子移動ラジカル重合法」(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)は、上記の「リビングラジカル重合法」の特徴に加えて、官能基変換反応に比較的有利なハロゲン等を末端に有し、開始剤や触媒の設計の自由度が大きいことから、特定の官能基を有するビニル系重合体の製造方法としてはさらに好ましい。この原子移動ラジカル重合法としては例えばMatyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁等が挙げられる。
【0023】
本発明におけるマクロモノマーの製法として、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、通常、制御ラジカル重合法が利用され、さらに制御の容易さなどからリビングラジカル重合法が好ましく用いられ、特に原子移動ラジカル重合法が最も好ましい。
【0024】
制御ラジカル重合法、詳しくはリビングラジカル重合で製造された二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーは、末端を完全に塩化ビニル系樹脂と共重合させることができるため、得られる共重合体の組成がほぼ均一であり、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物中に未溶解樹脂成分が残留し難いため好ましい。
【0025】
また本発明で使用されるマクロモノマーの主鎖が有する、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体としては特に制約はなく、該重合体を構成する二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーとしては、各種のものを用いることができる。例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を共重合させても構わない。中でも生成物の物性等から、酢酸ビニル系モノマー及び(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくはアクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーであり、さらに好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、最も好ましくはアクリル酸ブチルである。ここで、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸或いはアクリル酸を意味するものである。2種以上のモノマーを共重合させる場合は、マクロモノマー全体に占めるこれらの好ましいモノマーが、重量比で40重量%以上含まれることが好ましい。
【0026】
また、本発明を構成する塩化ビニル系共重合樹脂に使用される塩化ビニル系モノマーと共重合可能なマクロモノマーは1種のみを用いてもよく、構成するエチレン性不飽和モノマーが異なるマクロモノマーを2種以上併用してもよい。
【0027】
本発明に使用される二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーのガラス転移温度は、単独、或いは2種以上のマクロモノマーを併用する場合、少なくとも1種は、0℃以下であることが好ましい。より好ましくはガラス転移温度が−20℃以下であり、最も好ましくは−50℃以下である。マクロモノマーを2種以上併用する場合は、−50℃以下のマクロモノマーの重量比が全マクロモノマーの50重量%以上含まれることが好ましい。
【0028】
本発明に使用される二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマーの数平均分子量は特に限定されないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)で測定した重量平均分子量が500〜100,000の範囲が好ましく、更に好ましくは、3,000〜40,000であり、最も好ましくは3,000〜20,000である。この範囲のマクロモノマーを用いると、塩化ビニル系モノマーと均一混合が可能で、重合終了後も安定な水性重合体が得られることができる。分子量が500以上であると、重合終了後も未反応のマクロモノマーが残存することが少ないという観点から好ましく、また、100,000以下であると、マクロモノマーの粘度が高くなるものの、塩化ビニル系モノマーにも十分溶解し共重合の進行を妨げることが少ないという観点から好ましい。本発明におけるGPC測定の際には、Waters社製GPCシステム(製品名510)を用い、クロロホルムを移動相として、昭和電工(株)製Shodex K−802.5及びK−804(ポリスチレンゲルカラム)を使用し、室温環境下で測定した。
【0029】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の平均重合度又は平均分子量は特に限定されず、通常製造又は使用される塩化ビニル系樹脂と同様に、JIS K 7367−2に従って測定した可溶分樹脂のK値が50〜95の範囲である。
【0030】
本発明の塩化ビニル系共重合樹脂の重量平均径は、特に制約はないが、水性分散体中の樹脂をレーザー回折・散乱式粒度測定機(日機装製、マイクロトラックHRAモデル9320−X100)にて測定した重量平均径が、0.1〜1000μmの範囲であることが好ましい。更に、0.5〜500μmの範囲であれば、塩化ビニル系共重合樹脂の溶解性に優れるため好ましい。
【0031】
本発明の塩化ビニル系樹脂ドープを構成する塩化ビニル系共重合樹脂の製造方法については、特に制約はないが、重合制御の簡便性、乾燥樹脂が粒子状粉体で得られ、良好なハンドリング性が得られやすいことから水性重合が好ましく、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、微細懸濁重合法等の製造方法が挙げられる。特に好ましくは、粒子制御の簡便性、乾燥処理の簡便性に優れることより微細懸濁重合法、懸濁重合法で製造される。
【0032】
懸濁重合法の場合、使用する懸濁分散剤としては特に制約はないが、例えば部分鹸化ポリ酢酸ビニル、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ゼラチン、デンプン等の有機高分子化合物;硫酸カルシウム、燐酸三カルシウム等の水難溶性無機微粒子が使用可能で、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
微細懸濁重合法または乳化重合法の場合、使用する界面活性剤としては特に制約されないが、例えば、アルキル硫酸エステル塩類、アルキルアリールスルフォン酸塩類、スルホコハク酸エステル塩類、脂肪酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類などのアニオン性界面活性剤(ここで、「塩類」とは、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。)、ゾルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類などの親水性のノニオン性界面活性剤類が挙げられ、これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。また、分散補助剤として高級アルコール、高級脂肪酸またはそのエステル類、芳香族炭化水素、高級脂肪族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、水溶性高分子などが挙げられ、これらを1種以上で用いることができる。
【0034】
さらに本発明を構成する塩化ビニル系共重合樹脂を製造する際に用いられる懸濁重合法または微細懸濁重合法においては、油溶性重合開始剤を添加すれば良いが、これらの開始剤のうち10時間半減期温度が30〜65℃のものを1種または2種以上使用するのが好ましい。重合開始剤は重合させるモノマーに可溶であることが好ましく、このような重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、その他のアゾ系またはジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、イソプロピルパーオキシカーボネート、その他の有機過酸化物系重合開始剤が挙げられ、これらは単独で用いても良いし2種以上を組み合わせて用いても良い。これら油溶性重合開始剤は特に制約のない状態で添加することができるが、例えば有機溶剤に溶解して使用する場合には、その有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジオクチルフタレート等のエステル類が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
その他、抗酸化剤、重合度調節剤、連鎖移動剤、粒子径調節剤、pH調節剤、ゲル化性改良剤、帯電防止剤、安定剤、スケール防止剤等も、一般に塩化ビニル系樹脂の製造に使用されるものを、必要に応じて特に制約されず、任意の量で用いることができる。
【0036】
本発明の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物に使用できる溶媒として、塩化ビニル系共重合樹脂の溶解性が良好であれば特に制約はないが、例えば、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等の良溶媒の一種または二種以上の溶媒を使用し、粘度調整剤としてトルエン、キシレン、シクロヘキサン、使用される環境で液状である直鎖アルコール、不飽和有機酸等の溶媒から選ばれる一種または二種以上の有機溶媒を併用使用することができる。特に、単独で使用する場合は、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノンを用いると、塩化ビニル系共重合樹脂を高濃度で、均一に溶解することができるため好ましい。ドープとして使用する際の樹脂濃度としては、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物として成形可能な粘度であれば特に制約はないが、10%〜50重量%の樹脂濃度範囲で使用することが好ましく、更に加熱後のシート中の溶剤残渣の減少のため、20〜50重量%の樹脂濃度に調整することが好ましい。特に好ましくは、20〜40重量%、最も好ましくは20〜35重量%である。この範囲の樹脂濃度のドープ組成物であれば、ポットライフが安定するので好ましい。
【0037】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物として、適宜可塑剤を添加することもできる。例えば、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP),ジ−n−オクチルフタレート,ジイソノニルフタレート(DINP),ジブチルフタレート(DBP)等のフタル酸エステル系可塑剤;トリクレジルフォスフェート(TCP),トリキシリルホスフェート(TXP),トリフェニルフォスフェート(TPP)等のリン酸エステル系可塑剤;ジ−2−エチルヘキシルアジペート(DEHA),ジ−2−エチルヘキシルセバケート等の脂肪酸エステル系可塑剤、ポリアクリル酸ブチル、アクリル酸−n−ブチル/メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル/メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸−2−エチルヘキシル/メタクリル酸メチル/メタクリル酸−n−ブチル共重合体等のポリアクリル系可塑剤等から選ばれる一種または二種以上の可塑剤が使用できる。可塑剤量としては、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物から得られた成形体に望ましい柔軟性を調整する量とするため特に制約はないが、塩化ビニル系共重合樹脂100重量部に対し、0〜100重量部の範囲で使用することが好ましい。より好ましくは0〜70重量部の範囲で使用され、最も好ましくは0〜50重量部の範囲である。この範囲内であれば塩化ビニル系共重合樹脂を可塑化することができ、特に30〜100重量部であれば得られた成形体にタック性を付与することもでき好ましい。
【0038】
塩化ビニル系樹脂ドープ組成物として、各種可塑剤、溶剤を添加して使用する場合は、ドープとして使用可能な粘度であれば特に制限はないが、好ましくはJIS K7117−1のSB型粘度計(スピンドルSB4号)にて測定可能な範囲が好ましく、更に塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の成形後のレベリング、液ダレを少なくするために2,000〜10,000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0039】
塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の熱安定性を調整するために適宜熱安定剤を用いることができる。そのような熱安定剤としては、例えばジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫安定剤;ステアリン酸鉛、二塩基性亜燐酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤;カルシウム−亜鉛系安定剤;バリウム−亜鉛系安定剤;カドミウム−バリウム系安定剤等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。またその使用量も特に制約はないが、塩化ビニル系共重合樹脂100重量部に対し0〜5重量部の範囲で使用されることが好ましい。
【0040】
さらに安定化助剤としては、特に限定されないが、例えばエポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、燐酸エステル等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を併用しても良い。またその使用量も特に制約はない。
【0041】
充填剤としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、カオリングレー、石膏、マイカ、タルク、水酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、硼砂等を挙げることができる。充填剤の使用量についても、特に制約はないが、透明用途から強化剤として使用する適量の範囲で用いることができ、一般的に塩化ビニル系共重合樹脂100重量部に対して、0〜500重量部使用することが好ましい。より好ましくは、0〜200重量部の範囲で使用され、最も好ましくは0〜100重量部の使用範囲である。
【0042】
本発明の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物は特に制約はないが、必要に応じて他の塩化ビニル系樹脂を併用することもでき、更に必要に応じて、可塑剤、充填剤、熱安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、強化剤、改質剤、顔料等を必要に応じて配合することができる。
【0043】
本発明の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の製造方法には特に限定はなく、本発明の塩化ビニル系共重合樹脂と、必要に応じて用いられる各種添加剤(熱安定剤、滑剤、安定化助剤、加工助剤、充填剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、可塑剤等)を配合したものを、例えばディゾルバー等の混合機等を用いて、均一に溶解するなどの方法で製造すれば良い。その際の配合順序等には特に限定はないが、例えば塩化ビニル系共重合樹脂及び各種添加剤を一括して配合する方法、液状の添加剤を均一に配合する目的で先に塩化ビニル系共重合樹脂及び粉粒体の各種添加剤を配合したのち液状添加剤を配合する方法等を用いることができる。
【0044】
このようにして製造された塩化ビニル系樹脂ドープ組成物は、接着剤のように接着面に塗布して乾燥させる方法や各種成形体に成形加工する方法が挙げられる。各種成形体に成形加工する方法としては、特に限定はないが、例えばキャスティング法、コータースプレッド成形法等の、通常の塩化ビニル系樹脂の加工法が挙げられる。
【0045】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の使用用途としては、本発明の共重合樹脂を使用可能なものであれば特に限定はないが、例示すれば、壁紙、床材、靴底、粘着シート材、テーブルクロス、接着剤等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
次に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。ここで、特に断りのない限り、実施例中の「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。なお、引張時の降伏点の有無、加熱初期着色時間、表面タック性の測定・評価方法は下記の通りである。
<塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の作製>
配合 塩化ビニル系共重合樹脂 100部
有機溶媒 X部
DINP Y部
Ba−Zn系安定剤 3部(旭電化製FL−103N)
シクロヘキサノンを50℃恒温槽中にてマグネティックスターラーで攪拌しながら樹脂を少量ずつ添加し、完全溶解を目視で確認できたところで攪拌を止め、所定量のDINP、安定剤を添加し、再度石川式擂潰機にて5min間脱泡混合し、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物を得た。
<塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の評価法>
(イ)塩化ビニル系樹脂ドープ粘度
JIS K7117−1のSB型粘度計(スピンドルSB4号)を用いて測定を行った。塩化ビニル系樹脂ドープ組成物作成後、25℃の恒温槽に入れ、1時間後、24時間後の粘度測定(スピンドル回転数60min-1)を実施した。
(ロ)グラインドメーター(未溶解物の測定)
JIS K5400に準じて、100μmから0μmにテーパー(溝深さ)のついたグラインドメーターを用いて、ドープ10gをスクレバーで引きとり、10mm以上連続した線が1つの溝に3本以上並んで現れた3本目の線の始まるテーパー(溝深さ)の目盛を読み取り、未溶解物の粒径を測定し、10回の測定の平均値を算出した。
【0047】
連続した線が1つの溝に2本以下または全くない場合は、完全溶解しているとして、0μmとした。
(ハ)引張モデュラス
塩化ビニル系樹脂ドープ組成物をガラス板上に約500μmの厚みに塗布し、熱風式オーブン(タバイ製、PHH−100)にて160℃、10min間加熱することで塩化ビニル系共重合樹脂シートを得た。
得られたシートをJIS K6251ダンベル状3号型に打ち抜き、引張試験機(島津製作所製、オートグラフAGS−100)にて、100mm/minの速度で引張試験を行い、100%伸長時の引張強度を測定した。
(ニ)加熱初期着色時間
(ロ)で作製した塩化ビニル系共重合樹脂シートを3cm×3cmの大きさに切り、ガラス板上に載せ、180℃に設定したギアオーブン(安田精機製作所製、No102−SHF−77ギアエージングオーブン)に入れ、エージングHIGH、ダンパー全閉、ドラム回転ONの条件で加熱し、目視により不透明となり、全体が黒色に達した時間を測定した。
【0048】
加熱時間が長いほど、熱安定性に優れていると判断できる。
(ホ)表面タック性
(ロ)で作製した塩化ビニル系共重合樹脂シートを常温下で表面を指で触ったときにベタツキ感の有無を判定した。
【0049】
ベタツキ感があるとき、表面タック性が高いと判断できる。
(実施例1)
35L耐圧容器内をN2置換後、十分に脱気した後、片末端アクリロイル基ポリアクリル酸−n−ブチルマクロモノマー(数平均分子量 12000)(4.0kg)、塩化ビニルモノマー(6.0kg)を入れ60min間予備攪拌する。その後、開始剤としてα,α’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(12.0g)、t−ブチルペルオキシネオデカノエート(2.1g)を添加する。ステアリルアルコール(31.7g)、セチルアルコール(43.0g)、ラウリル硫酸ナトリウム(66.4g)を予め溶解した乳化剤水溶液(20.0kg)を該容器内へ添加し、30min間ホモジナイズして、モノマー分散液を得た。容器内を50℃に保温して重合を開始し、8時間後に容器内の圧力が低下し始めたことから、重合機内の未反応の塩化ビニルモノマーを回収し、容器内を冷却した後、ラテックスを払い出した。(塩化ビニルモノマーの転化率は約90%であった)。
二流体ノズル式スプレー式乾燥機(入口110℃/出口50℃)でラテックスを乾燥し、パウダー状の塩化ビニル系共重合樹脂Aを得た。JIS K7367−2に従って測定した可溶分樹脂のK値は70であった。
【0050】
この樹脂100部をシクロヘキサノン400部配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)
片末端アクリロイル基ポリアクリル酸−n−ブチルマクロモノマー、塩化ビニルモノマーをそれぞれ、2.0kg、8.0kgにして、開始剤としてt−ブチルペルオキシネオデカノエート(1.75g)、t−ヘキシルペルオキシピバレート(1.2g)を実施例1と同じ方法で66℃にて重合開始、乾燥を経て塩化ビニル系共重合樹脂Bを得た。
【0052】
JIS K−7367−2に従って測定した可溶分樹脂のK値は58であった。
【0053】
この樹脂100部をシクロヘキサノン350部配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表1に示す。
【0054】
(実施例3)
ジャケット及び攪拌機を備えた内容量25リットルのステンレス鋼製重合機に、鹸化度約80モル%、平均重合度約2000の部分鹸化ポリビニルアルコール0.05部、平均分子量が約450万のポリエチレンオキサイド0.005部、t−ブチルパーオキシネオデカノエート0.03部、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート0.01部を仕込み、脱気後に塩化ビニルモノマー90部及び片末端アクリロイル基ポリアクリル酸−n−ブチルマクロモノマー10部を仕込んだのち60℃の温水120部を仕込み、重合温度57℃で約6時間重合した。重合機内の未反応モノマーを回収したのち重合機を冷却し、スラリーを払い出した(塩化ビニルモノマーの転化率は約90%であった)。
得られたスラリーを脱水して熱風乾燥機にて55℃で24時間乾燥し、塩化ビニル系共重合樹脂Cを得た。JIS K7367−2(ISO 1628−2)に従って測定した可溶分樹脂のK値は67であった。
【0055】
この樹脂100部をシクロヘキサノン400部配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表1に示す。
【0056】
(実施例4)
実施例3の片末端アクリロイル基ポリアクリル酸−n−ブチル、塩化ビニルモノマーをそれぞれ、3.0kg、7.0kgにした以外は、実施例3と同じ方法で重合開始、乾燥を経て塩化ビニル系共重合樹脂Dを得た。
【0057】
JIS K−7367−2に従って測定した可溶分樹脂のK値は67であった。
【0058】
この樹脂100部をメチルイソブチルケトン300部配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表1に示す。
【0059】
(実施例5)
実施例1で得られた塩化ビニル系共重合樹脂Aを用いて、この樹脂100部をメチルイソブチルケトン350部配合で溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例6)
実施例3で得られた塩化ビニル系共重合樹脂Cを用いて、この樹脂100部をテトラヒドロフラン200部配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例7)
実施例4で得られた塩化ビニル系共重合樹脂Dを用いて、この樹脂100部をテトラヒドロフラン200部配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例8)
実施例2で得られた塩化ビニル系共重合樹脂Bを用いて、この樹脂100部にシクロヘキサノン200部配合し、溶解して得られた塩化ビニル系樹脂ドープにDINP30部添加した塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表3に示す。
【0063】
シート成形体にタック性が付与されるため、好ましい。
【0064】
(実施例9)
実施例3で得られた塩化ビニル系共重合樹脂Cを用いて、この樹脂100部にシクロヘキサノン250部配合し、溶解して得られた塩化ビニル系樹脂ドープにDINP50部添加した塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表3に示す。
【0065】
シート成形体にタック性が付与されるため、好ましい。
【0066】
(実施例10)
実施例1で得られた塩化ビニル系共重合樹脂Aを用いて、この樹脂100部に対しテトラヒドロフラン800部を配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープにDOP50部を添加した塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表3に示す。
【0067】
(実施例11)
実施例4で得られた塩化ビニル系共重合樹脂Dを用いて、この樹脂100部に対しテトラヒドロフラン180部を配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープにDINP70部を添加した塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表3に示す。
【0068】
(比較例1)
実施例1の片末端アクリロイル基ポリアクリル酸ブチル、塩化ビニルモノマーをそれぞれ、0kg、10.0kgに変更した以外は、実施例1と同じ方法で塩化ビニル樹脂Eを得た。
【0069】
この樹脂100部にテトラヒドロフラン3000部を配合し、溶解して得られた、塩化ビニル樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表2に示す。
【0070】
実施例と比較して樹脂濃度が低く、シート成形時において、溶剤の残存量が多いため気泡が残りやすく、乾燥時間も長時間必要となり、シート成形体の熱安定性が低下する。
【0071】
(比較例2)
比較例1の塩化ビニル樹脂Eを用い、この樹脂100部にテトラヒドロフラン900部を配合し、溶解して得られた、塩化ビニル樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表2に示す。
【0072】
実施例と比較して粘度が高く、一部樹脂が溶剤を吸収し膨潤したゲル化物がみられた。
【0073】
(比較例3)
比較例1と同じ塩化ビニル樹脂Eを用いて、この樹脂100部をシクロヘキサノン400部配合し、溶解しようとしたが、均一な溶解物とならず、樹脂が溶媒を吸収し膨潤したゲル化状態となった。そのため、シート成形体は得られなかった。
【0074】
(比較例4)
実施例2の片末端アクリロイル基ポリアクリル酸ブチル、塩化ビニルモノマーをそれぞれ、0.5kg、9.5kgに変更した以外は、実施例2と同じ方法で塩化ビニル系共重合樹脂Fを得た。
【0075】
この樹脂100部に対しシクロヘキサノン800部を配合し、溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表2に示す。
【0076】
実施例と比較して未溶解物(グラインドメーター)の存在が確認され、引張モデュラスの値が高く、加熱初期着色時間も短い。
【0077】
(比較例5)
比較例3の塩化ビニル系共重合樹脂F100部に対し、MIBK200部を溶解して得られた、塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表2に示す。
【0078】
実施例と比較してドープ粘度が高く、未溶解物が多く存在し、得られた成形体の加熱初期着色時間も短い。また、24時間後の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物は、全体的に膨潤したゲル化状態となり、粘度の安定性がない。
【0079】
(比較例6)
実施例3の塩化ビニル系共重合樹脂C100部に対し、シクロヘキサノン950部を添加、溶解して得られた塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表2に示す。
【0080】
実施例と比較して未溶解物がないことが確認されたものの、ドープ粘度が低く、シート成形時において、溶剤の残存量が多いため気泡が残りやすく、乾燥時間も長時間必要となり、シート成形体の熱安定性が低下する。
【0081】
(比較例7)
実施例3の塩化ビニル系共重合樹脂Cを塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合樹脂G(酢酸ビニル7%;K値 67)に変更し、この樹脂100部に対しシクロヘキサノン400部を配合し、溶解して得られた、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表2に示す。
【0082】
実施例と比較して未溶解物(グラインドメーター)の存在が確認され、引張モデュラスの値が高く、加熱初期着色時間も短い。
【0083】
また、24時間後の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物は、全体的に膨潤したゲル化状態となり、粘度の安定性がない。
【0084】
(比較例8)
比較例1の塩化ビニル樹脂Eを用いて、この樹脂100部に対し、DINP50部を添加し可塑化した後、シクロヘキサノン3000部を配合し、溶解して得られた塩化ビニル樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表3に示す。
【0085】
実施例と比較して濃度が低く、シート成形体の初期加熱着色時間が短く、可塑剤を加えたにも関わらずタック性が現れない。
【0086】
(比較例9)
比較例1の塩化ビニル樹脂Eを用いて、この樹脂100部に対し、DINP100部を添加し可塑化した後、シクロヘキサノン500部を配合し、溶解して得られた塩化ビニル樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表3に示す。
【0087】
実施例と比較して未溶解物(グラインドメーター)の存在が確認され、初期加熱着色時間が短く、可塑剤を加えたにも関わらずタック性が現れない。
【0088】
(比較例10)
比較例1の塩化ビニル樹脂E100部にシクロヘキサノン400部を添加、溶解して得られた塩化ビニル樹脂ドープに、可塑剤としてDINPを樹脂に対し150部添加して得られた塩化ビニル樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表3に示す。
【0089】
実施例と比較して未溶解物(グラインドメーター)の存在が確認され、初期加熱着色時間が短く、可塑剤を加えたにも関わらずタック性が現れない。
【0090】
(比較例11)
比較例1の塩化ビニル樹脂E80部に、実施例1で用いた片末端アクリロイル基ポリアクリル酸−n−ブチルマクロモノマー20部を配合し、これら樹脂の総量100部に対し、テトラヒドロフラン900部を配合、溶解して得られた塩化ビニル系樹脂ドープに、可塑剤としてDOPを樹脂に対し50部添加して得られた塩化ビニル系樹脂ドープ組成物の各種評価結果を表3に示す。
【0091】
実施例と比較して未溶解物(グラインドメーター)が多く、シート成形体のタック性は部分的にタック性が現れる部分が存在し、シート成形体に均一なタック性は現れない。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系モノマー(A)と、二重結合を含有するエチレン性不飽和モノマーからなる重合体を主鎖に有するマクロモノマー(B)の組成比率(A/B)が50重量%/50重量%〜90重量%/10重量%であることを特徴とする塩化ビニル系共重合樹脂10〜50重量%を、有機溶媒50〜90重量%に溶解することを特徴とする塩化ビニル系樹脂ドープ組成物。
【請求項2】
マクロモノマー(B)が重合性官能基を有し、該重合性反応基が、1分子あたり少なくとも1個、下記一般式:
−OC(O)C(R)=CH2 (1)
(式中、Rは水素、又は、炭素数1〜20の有機基を表す。)
を含む構造であることを特徴とする請求項1記載の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物。
【請求項3】
有機溶媒として、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトンから選ばれた少なくとも1種が、全有機溶媒中の30%以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂ドープ組成物からキャスティング法により得られる成形体。

【公開番号】特開2008−156375(P2008−156375A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101080(P2005−101080)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】