説明

塩化ビニル系樹脂ラテックス及びその製造方法

【課題】 加熱・減圧条件下でラテックス中に残存する未反応単量体の回収を行なう際、ラテックスの泡立ちが少ない塩化ビニル系樹脂ラテックスを提供する。
【解決手段】 塩化ビニルとエポキシ基含有ビニルの共重合体で、かつ、当該共重合体中のエポキシ基含有ビニルが3重量%以上である共重合体を含有する塩化ビニル系樹脂ラテックスであって、界面活性剤を含有せず、塩化ビニル系樹脂ラテックス中の固形分濃度が25重量%以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂ラテックス、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は界面活性剤を含有しない塩化ビニル系樹脂ラテックスとその製造方法及び、界面活性剤を含有しない塩化ビニル系樹脂に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
一般に、塩化ビニル系樹脂ラテックスは、重合缶に塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る単量体との混合単量体を、界面活性剤と重合開始剤の存在下において水性媒体中で重合を行い、重合缶内温を所定温度に維持しながら、重合反応を進め、重合転化率の増加と共に、仕込み単量体の未反応分が減少し、重合缶内圧力が降下し始めた後、所望の重合転化率に相当する重合缶内圧力になった時点で、重合反応を終了することによって得られる。したがって塩化ビニル系樹脂ラテックスを乾燥して得られる塩化ビニル系樹脂中には、界面活性剤が含有される。塩化ビニル系樹脂を水で洗浄するなどして、界面活性剤を除去することもあるが、それらを十分に除去することは困難であった。一般に、界面活性剤を多く含有した樹脂を使用して製造された製品は、界面活性剤含有量の少ない樹脂を使用して製造された製品と比較して、耐水性・接着性に劣ることが、知られている。また、一般的に塩化ビニルラテックス中には未反応の単量体が残存しているため、加熱・減圧条件下で未反応単量体の回収を行なう。この際ラテックス中に界面活性剤が含まれると、多量の泡立ちが発生するため、ラテックスの処理効率が悪化するという問題があった。
【0003】
そこで、界面活性剤を樹脂中に極力残存しない、塩化ビニル系樹脂について、幾つかの提案がなされている(特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
前記特許文献1では、樹脂主鎖への化学結合が可能な重合性二重結合を有し、樹脂からの遊離を防ぐことを目的とした、反応性乳化剤を提案している。また、非特許文献1では、界面活性剤を全く使用しないソープフリー重合が提案されている。
【0005】
しかし、前記特許文献1で提案されている反応性乳化剤は樹脂と全て化学結合する訳ではなく、一部の反応性乳化剤は樹脂から依然、遊離して存在するという問題があった。また、非特許文献1では、界面活性剤を全く使用しないものの、塩化ビニル単量体添加量を増加させて重合を行なうと、重合途中でラテックスが凝集するため、ラテックス中固形分濃度を20%以下とする、ソープフリー重合が提案されているにすぎない。実際に製造するには、固形分濃度が低いため生産性が悪く、またスケール発生量が多いために問題であった。ソープフリー重合によって、高固形分濃度の塩化ビニル系樹脂ラテックスを得るためには、親水基を有し、塩化ビニルに共重合可能なビニル単量体を塩化ビニルに共重合する方法が考えられる。塩化ビニル単量体との共重合性が高く、親水基を有するビニル単量体としては、酢酸ビニルが挙げられる程度で、現在製造されている塩化ビニル共重合体の大部分は塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体である。しかし塩化ビニルと酢酸ビニルからなる混合単量体を界面活性剤の非存在下に重合を行なうと、重合中にラテックスが凝集するため、界面活性剤を含有しない高固形分濃度の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、開発されていなかった。
【0006】
酢酸ビニル以外のビニル化合物と塩化ビニルからなる塩化ビニル系共重合体としては、塩化ビニルとグリシジルメタクリレートからなる塩化ビニル系共重合体について、特許文献2、特許文献3に記載がある。
【0007】
しかし、特許文献2では界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを塩化ビニル系樹脂に含有し、特許文献3では界面活性剤であるポリアルキレングリコールを含有する塩化ビニル系重合体について実施例中に記載がある。したがって、特許文献2、特許文献3ともに、塩化ビニル系樹脂中に、界面活性剤を含有することになり、これらの成分を含有しない固形分濃度が25重量%以上である塩化ビニル系樹脂ラテックスとその製造方法はこれまで開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−284644号公報
【特許文献2】特開昭61−53367号公報
【特許文献3】特開平9−118728号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Plastics and Rubber:Materials and Applications(1980),5(1),P21−P24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、加熱・減圧条件下でラテックス中に残存する未反応単量体の回収を行なう際、ラテックスの泡立ちが少ない塩化ビニル系樹脂ラテックスとその製造方法及び、界面活性剤を含有しない塩化ビニル系樹脂を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討を重ねた結果、塩化ビニル単量体とエポキシ基含有ビニル単量体との混合単量体で、エポキシ基含有ビニル単量体を該混合単量体に対して3重量%以上含有する混合単量体は、界面活性剤の非存在下であっても、重合が安定に進行し、ラテックス中の固形分濃度が25重量%以上である塩化ビニル系樹脂ラテックスが得られることを見出した。すなわち本発明は、塩化ビニルとエポキシ基含有ビニルの共重合体で、かつ、当該共重合体中のエポキシ基含有ビニルが3重量%以上である共重合体を含有する塩化ビニル系樹脂ラテックスであって、界面活性剤を含有せず、塩化ビニル系樹脂ラテックス中の固形分濃度が25重量%以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂ラテックス、及びその製造方法である。
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、塩化ビニルとエポキシ基含有ビニルの共重合体で、かつ、当該共重合体中のエポキシ基含有ビニルが3重量%以上である共重合体を含有する。塩化ビニルとエポキシ基含有ビニルの共重合体を含有することにより、ラテックスを塗布乾燥して得られるフィルムは熱安定性に優れる。ここに、エポキシ基含有ビニルとは、例えば、メタクリル酸グリシジル(グリシジルメタクリレート)、アクリル酸グリシジル(グリシジルアクリレート)、β−メチルグリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸のグリシジルエステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのビニル重合性不飽和カルボン酸のジグリシジルエステル等があげられる。
【0014】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、塩化ビニルとエポキシ基含有ビニルとカルボン酸ビニルエステルの共重合体で、かつ、当該共重合体中のエポキシ基含有ビニルが3重量%以上である共重合体を含有する。塩化ビニルとエポキシ基含有ビニルとカルボン酸ビニルエステルの共重合体を含有することにより、カルボン酸ビニルエステルのケン化反応によって、重合体中にヒドロキシル基を有することができる。ここに、カルボン酸ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、安息香酸ビニル等があげられる。
【0015】
本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、共重合体中のエポキシ基含有ビニルが3重量%以上である共重合体を含有するものであり、好ましくは5重量%以上の共重合体である。エポキシ基含有ビニルが3重量%未満の場合は、ラテックス中の固形分濃度が25重量%以上のラテックスとはならないものである。
【0016】
本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、界面活性剤を含有しないものである。界面活性剤を含有しないことで、加熱・減圧条件下でラテックス中に残存する未反応単量体の回収を行なう際、ラテックスの泡立ちが少ない。ここに、界面活性剤とは、少量で著しい界面活性(水に溶けて水の表面張力を低下させる作用)を示す物質をいい、例えば、ラウリル硫酸エステルナトリウム、ミリスチル硫酸エステルの如きアルキル硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムの如きアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムの如きスルホコハク酸塩類、ラウリン酸アンモニウム、ステアリン酸カリウムの如き脂肪酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類などのアニオン系界面活性剤、ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートの如きソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリアルキレングリコール類、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸およびその塩などのノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0017】
本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、例えば、本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスを製造する際に、重合の安定化やスケール発生量の低減を目的として添加する連鎖移動剤、還元剤や緩衝剤等を含有することもできる。ここに、連鎖移動剤とは、塩化ビニル系重合体の重合度を調整できるものであればよく、例えば、トリクロルエチレン、四塩化炭素などのハロゲン系炭化水素;2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;アセトン、n−ブチルアルデヒドなどのアルデヒド類等が挙げられる。また、還元剤とは、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、メタ重亜硫酸カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、L−アスコルビン酸、デキストローズ、硫酸第一鉄、硫酸銅等が挙げられる。
【0018】
本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、塩化ビニル系樹脂ラテックス中の固形分濃度が25重量%以上である。固形分濃度が25重量%未満であれば、ラテックスを噴霧乾燥し、塩化ビニル系樹脂を得る際に、多量の水分を除去しなければならず、生産性が悪化する。
【0019】
本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、塩化ビニル単量体とエポキシ基含有ビニル単量体との混合単量体、又は塩化ビニル単量体とエポキシ基含有ビニル単量体とカルボン酸ビニルエステル単量体との混合単量体を重合することにより製造することができるが、その重合は、エポキシ基含有ビニル単量体を該混合単量体に対して3重量%以上含有する混合単量体を重合開始剤の存在下、界面活性剤を含有しない水性媒体中で行い、混合単量体/水の重量比が1/3以上であることが必要である。エポキシ基含有ビニル単量体を該混合単量体に対して3重量%未満含有する混合単量体を使用する場合には、重合安定性を確保するために界面活性剤の添加が必要となり、加熱・減圧条件下でラテックス中に残存する未反応単量体の回収を行なう際、ラテックスの泡立ちが多くなる。また、混合単量体/水の重量比が1/3未満の場合は、得られるラテックス中固形分濃度が25重量%以下となるため、ラテックスを噴霧乾燥し、塩化ビニル系樹脂を得る際に、多量の水分を除去しなければならず、生産性が悪化する。重合をより安定に進行するためには、エポキシ基含有ビニル単量体が該混合単量体に対して5重量%以上であることが好ましい。
【0020】
混合単量体の一部又は全量を、水性媒体中に分割又は連続添加し、重合を行なうことで、重合が安定化し、スケール発生量が減少する。
【0021】
本発明で使用される重合方法としては、塩化ビニル単量体とエポキシ基含有ビニル単量体との混合単量体又は、塩化ビニル単量体とエポキシ基含有ビニル単量体及びカルボン酸ビニルエステルとの混合単量体で、エポキシ基含有ビニル単量体を該混合単量体に対して3重量%以上含有する混合単量体を、重合開始剤の存在下、界面活性剤を含有しない水性媒体中で重合を行なうソープフリー重合、ソープフリー重合で得られた粒子をシードとして用い重合を行なうソープフリーシード乳化重合法等により、重合温度30〜80℃にて重合し、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得る方法等が挙げられる。
【0022】
重合は、連鎖移動剤,還元剤の存在下で行う必要はないが、連鎖移動剤及び/又は還元剤の存在下で重合を行うことによって、前記の様に、重合が安定化し、スケール発生量が減少する。また還元剤の添加はレドックス系による開始剤分解に寄与するため、重合終了後ラテックスに残存する未分解開始剤残存量を低減することができる。
【0023】
連鎖移動剤としては、塩化ビニル系重合体の重合度を調整できるものであればよく、例えば、トリクロルエチレン、四塩化炭素などのハロゲン系炭化水素;2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;アセトン、n−ブチルアルデヒドなど等のアルデヒド類等が挙げられる。
【0024】
還元剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、メタ重亜硫酸カリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、L−アスコルビン酸、デキストローズ、硫酸第一鉄、硫酸銅等が挙げられる。
【0025】
エポキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸グリシジル(グリシジルメタクリレート)、アクリル酸グリシジル(グリシジルアクリレート)、β−メチルグリシジルメタクリレート、β−メチルグリシジルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸のグリシジルエステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのビニル重合性不飽和カルボン酸のジグリシジルエステル等を挙げることができ、これらは2種類以上でも用いることができる。
【0026】
カルボン酸ビニルエステル単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、安息香酸ビニル等を挙げることができ、これらは2種類以上でも用いることができる。
【0027】
また、必要に応じてその他塩化ビニルに共重合可能な単量体を混合単量体中に含有することもできる。その他塩化ビニルに共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸又はその無水物類;アクリル酸のメチル,エチル,ブチル等のエステル類;、メタクリル酸のメチル,エチル,ブチル等のエステル類;マレイン酸エステル、フマル酸エステル、桂皮酸エステルなどの不飽和カルボン酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルアミルエーテル、ビニルフェニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどのモノオレフィン類;塩化ビニリデン;スチレン及びその誘導体;アクリロニトリル;メタクリロニトリル等の単量体を挙げることができ、これらは2種以上でも用いることができる。
【0028】
本発明で使用される重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性開始剤、アゾビスイソブチロニトリル、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルペルオキシピバレートに代表されるアゾ化合物、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネートなどの油溶性開始剤等を挙げることができ、これらは2種類以上でも用いることができる。
【0029】
本発明で使用される水性媒体とは、水とその他水溶性の重合助剤(緩衝剤等)のことで、塩化ビニル単量体などの有機層を分散させる媒体のことである。
【0030】
本発明の製造方法で使用しない界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸エステルナトリウム、ミリスチル硫酸エステルの如きアルキル硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムの如きアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムの如きスルホコハク酸塩類、ラウリン酸アンモニウム、ステアリン酸カリウムの如き脂肪酸塩類、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類などのアニオン系界面活性剤、ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートの如きソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリアルキレングリコール類、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸およびその塩などのノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
塩化ビニル系樹脂ラテックスから塩化ビニル系樹脂を得る方法としては、いかなる方法を用いてもよいが、効率よく該ラテックスから水分を除去することができることから、噴霧乾燥による方法が好ましい。噴霧乾燥に使用する乾燥機は、一般的に使用されているものでよく、例えば、「SPRAY DAYING HANDBOOK」(K.Masters著、3版、1979年、George godwin Limitedより出版)の121頁第4.10図に記載されている各種のスプレー乾燥機(例えば、Standard chamber,Tall−form nozzle chamber等)があげられる。
【0032】
本発明の塩化ビニル系樹脂を有機溶媒に溶解することで塩化ビニル系樹脂組成物とすることもできる。この際、種々の添加剤を該塩化ビニル系樹脂組成物に含有することもできる。ここに、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの疎水性有機溶媒等が挙げられる。添加剤としては、例えば、顔料、染料、界面活性剤、粘着付与樹脂、金属酸化物、増粘剤、充填剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、加硫剤、加硫促進剤、消泡剤、アルコキシシラン類化合物等があげられる。
【0033】
本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスと種々の添加剤とを含有することで塩化ビニル系樹脂組成物とすることもできる。添加剤としては、例えば、顔料、染料、界面活性剤、粘着付与樹脂、金属酸化物、増粘剤、充填剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、加硫剤、加硫促進剤、消泡剤、アルコキシシラン類化合物等があげられる。
【0034】
上記の塩化ビニル系樹脂組成物の用途としては、例えば、飲料缶内面コーティング、インキ、塗料、接着剤、ヒートシール、磁気テープ、熱転写記録用紙等の用途が挙げられる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の塩化ビニル系樹脂ラテックスは、該ラテックス中に界面活性剤を含有しないため、該ラテックスから未反応単量体を回収する際に、ラテックスの泡立ちが抑制され、回収工程の効率化が達成されるという利点を有するものである。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
2.5Lオートクレーブ中に脱イオン水600g、塩化ビニル単量体428g(混合単量体に対して95重量%)とグリシジルメタクリレート22.5g(混合単量体に対して5重量%)からなる混合単量体、過硫酸カリウム2.25gを仕込んだ。この反応混合物を攪拌翼で回転数120rpmを維持するように攪拌し、反応混合物の温度を60℃に上げて重合を開始した。重合圧が60℃における塩化ビニル単量体の飽和蒸気圧から0.6MPa降下した時に重合を停止して、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得た。以下の測定方法によって塩化ビニル系樹脂ラテックスの固形分濃度及び平均粒子径、スケール発生量、ラテックス泡立ちを評価した。その評価結果を表1に示す。
【0038】
<固形分濃度測定>
ラテックス約5gをアルミ皿にとり、重量を測定後、40℃の乾燥機で24hr乾燥して水分を蒸発させた。その後、乾燥物の重量を測定し、重量比から固形分濃度を算出した。
【0039】
<平均粒子径>
ラテックスをレーザー透過率が75〜85%となるように水を添加し濃度調整を行なった測定用試料を、レーザー回折/散乱式粒径測定装置(堀場製作場(株)製、商品名LA−920)を用いて、メジアン径を測定し、平均粒子径とした。
【0040】
<スケール発生量>
2.5Lオートクレーブ壁面及び攪拌翼への樹脂付着物と、得られたラテックスを60メッシュの金網でろ過した後の樹脂捕集物を、40℃の乾燥機で72hr乾燥して水分を蒸発させた。その後、乾燥物の重量を測定し、この重量のオートクレーブに仕込んだ混合単量体重量に対する割合を、百分率で表し、スケール発生量とした。
【0041】
<ラテックス泡立ち>
ラテックスを1Lの耐真空ガラス容器に投入し、ラテックスを60℃に昇温し、回転数120rpmで攪拌しながら、真空ポンプで耐真空ガラス容器を減圧した。減圧度が−60kPaとなった際の、ラテックス泡立ちを目視にて観察し、下記の内容で評価を行なった。
【0042】
○:ラテックス泡立ちは少ない。 ×:ラテックス泡立ちは多い。
【0043】
【表1】

実施例2
実施例1の塩化ビニル単量体及びグリシジルメタクリレートをそれぞれ、塩化ビニル単量体405g(混合単量体に対して90重量%)、グリシジルメタクリレート45g(混合単量体に対して10重量%)とした以外は、実施例1と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
実施例1の塩化ビニル単量体及びグリシジルメタクリレートをそれぞれ、塩化ビニル単量体360g(混合単量体に対して80重量%)、グリシジルメタクリレート90g(混合単量体に対して20重量%)とした以外は、実施例1と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表1に示す。
【0045】
実施例4
実施例2のグリシジルメタクリレートをアリルグリシジルエーテルとした以外は、実施例2と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表1に示す。
【0046】
実施例5
実施例3のグリシジルメタクリレートをグリシジルメタクリレート45g(混合単量体に対して10重量%)、アリルグリシジルエーテル45g(混合単量体に対して10重量%)とした以外は、実施例3と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表1に示す。
【0047】
実施例6
実施例3のグリシジルメタクリレートをグリシジルメタクリレート45g(混合単量体に対して10重量%)、酢酸ビニル45g(混合単量体に対して10重量%)とした以外は、実施例3と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

実施例7
実施例6のグリシジルメタクリレートを、重合開始〜5hr後まで9g/hrで連続添加した以外は、実施例6と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
【0049】
実施例8
実施例1の塩化ビニル単量体及びグリシジルメタクリレートをそれぞれ、塩化ビニル単量体315g(混合単量体に対して70重量%)、グリシジルメタクリレート45g(混合単量体に対して10重量%)、酢酸ビニル90g(混合単量体に対して20重量%)とした以外は、実施例1と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
【0050】
実施例9
実施例8の塩化ビニル単量体67.5g(混合単量体に対して15重量%)、グリシジルメタクリレート45g(混合単量体に対して10重量%)、酢酸ビニル90g(混合単量体に対して20重量%)を2.5Lオートクレーブ中に仕込み重合を開始したのち、重合圧が60℃における塩化ビニル単量体の飽和蒸気圧から0.1MPa降下したときに、残りの塩化ビニル単量体247.5g(混合単量体に対して55重量%)を2.5Lオートクレーブ中に仕込み重合を継続し、重合圧が60℃における塩化ビニル単量体の飽和蒸気圧から0.6MPa降下した時に重合を停止した以外は、実施例8と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
【0051】
実施例10
連鎖移動剤として3−メルカプトプロピオン酸オクチル0.9gを2.5Lオートクレーブ中に仕込んだ以外は、実施例1と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
【0052】
実施例11
実施例1の過硫酸カリウムを0.7gとし、重合開始から240分後〜重合終了までに還元剤として0.4重量%L−アスコルビン酸水溶液25gを2.5Lオートクレーブ中に連続添加した以外は、実施例1と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
【0053】
実施例12
連鎖移動剤として3−メルカプトプロピオン酸オクチル0.9gを2.5Lオートクレーブ中に仕込んだ以外は、実施例11と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表2に示す。
【0054】
比較例1
実施例1の塩化ビニル単量体を塩化ビニル単量体450gとし、グリシジルメタクリレート仕込みを行なわなかった以外は、実施例1と同様の方法により重合を行なった。その結果、重合途中に反応混合物が凝集し、ラテックスが得られなかった。
【0055】
比較例2
2.5Lオートクレーブ中に5重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液80g(混合単量体に対して2重量%)を添加して重合を開始したこと以外は、比較例1と同様の方法により重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、実施例1と同様の方法により評価を行なった。その評価結果を表3に示す。ラテックスの泡立ちが多く観察された。
【0056】
【表3】

比較例3
実施例1の塩化ビニル単量体を塩化ビニル単量体120gとし、グリシジルメタクリレート仕込みを行なわず、過硫酸カリウムの仕込み量を0.60gとした以外は、実施例1と同様の方法により塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、評価を行なった。その評価結果を表3に示す。ラテックスの泡立ちは少なかったが、スケールが発生した。
【0057】
比較例4
実施例1の塩化ビニル単量体及びグリシジルメタクリレートをそれぞれ、塩化ビニル単量体441g(混合単量体に対して98重量%)、グリシジルメタクリレート9g(混合単量体に対して2重量%)とした以外は、実施例1と同様の方法により重合を行なった。その結果、重合途中に反応混合物が凝集し、ラテックスが得られなかった。
【0058】
比較例5
2.5Lオートクレーブ中に5重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液90g(混合単量体に対して2重量%)を添加して重合を開始したこと以外は、比較例4と同様の方法により重合を行い、塩化ビニル系樹脂ラテックスを得て、実施例1と同様の方法により評価を行なった。その評価結果を表3に示す。ラテックスの泡立ちが多く観察された。
【0059】
比較例6
実施例2のグリシジルメタクリレートを酢酸ビニルとした以外は、実施例2と同様の方法により重合を行なった。その結果、重合途中に反応混合物が凝集し、ラテックスが得られなかった。
【0060】
比較例7
実施例2のグリシジルメタクリレートを2−ヒドロキシエチルメタクリレートとした以外は、実施例2と同様の方法により重合を行なった。その結果、重合途中に反応混合物が凝集し、ラテックスが得られなかった。
【0061】
比較例8
実施例2のグリシジルメタクリレートを2−ヒドロキシプロピルメタクリレートとした以外は、実施例2と同様の方法により重合を行なった。その結果、重合途中に反応混合物が凝集し、ラテックスが得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニルとエポキシ基含有ビニルの共重合体で、かつ、当該共重合体中のエポキシ基含有ビニルが3重量%以上である共重合体を含有する塩化ビニル系樹脂ラテックスであって、界面活性剤を含有せず、塩化ビニル系樹脂ラテックス中の固形分濃度が25重量%以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂ラテックス。
【請求項2】
塩化ビニルとエポキシ基含有ビニルとカルボン酸ビニルエステルの共重合体で、かつ、当該共重合体中のエポキシ基含有ビニルが3重量%以上である共重合体を含有する塩化ビニル系樹脂ラテックスであって、界面活性剤を含有せず、塩化ビニル系樹脂ラテックス中の固形分濃度が25重量%以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂ラテックス。
【請求項3】
エポキシ基含有ビニルが、グリシジルメタクリレート又はアリルグリシジルエーテルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックス。
【請求項4】
カルボン酸ビニルエステルが、酢酸ビニルであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックス。
【請求項5】
塩化ビニル単量体とエポキシ基含有ビニル単量体との混合単量体で、エポキシ基含有ビニル単量体を該混合単量体に対して3重量%以上含有する混合単量体を重合開始剤の存在下、界面活性剤を含有しない水性媒体中で重合を行い、混合単量体/水の重量比が1/3以上であることを特徴とする請求項1、請求項3又は請求項4に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項6】
塩化ビニル単量体とエポキシ基含有ビニル単量体とカルボン酸ビニルエステル単量体との混合単量体で、エポキシ基含有ビニル単量体を該混合単量体に対して3重量%以上含有する混合単量体を重合開始剤の存在下、界面活性剤を含有しない水性媒体中で重合を行い、混合単量体/水の重量比が1/3以上であることを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項7】
連鎖移動剤の存在下で重合を行うことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項8】
還元剤の存在下で重合を行うことを特徴とする請求項5〜請求項7のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項9】
エポキシ基含有ビニル単量体が、グリシジルメタクリレート又はアリルグリシジルエーテルであることを特徴とする請求項5〜請求項8のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項10】
カルボン酸ビニルエステルが、酢酸ビニルであることを特徴とする請求項6〜請求項9のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項11】
混合単量体の一部又は全量を、水性媒体中に分割又は連続添加し、重合を行なうことを特徴とする請求項5〜請求項10のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスを噴霧乾燥することによって得られることを特徴とする塩化ビニル系樹脂。
【請求項13】
請求項12に記載の塩化ビニル系樹脂と有機溶媒を含有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜請求項4のいずれかの項に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスを含有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−31234(P2010−31234A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100006(P2009−100006)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】