説明

塩化ビニル系樹脂管

【課題】本発明の目的は、気温の低い環境のもとで穿孔などの加工を施しても、亀裂の発生をよく防止できる塩化ビニル系樹脂管を提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂100重量部に平均粒径1μm以下の炭酸カルシウムが0.1〜10重量部添加されてなる塩化ビニル系樹脂組成物で成形され、その成形体の混練面積率(塩化ビニル系樹脂の混合粉体の加熱プレス体の場合を0%,該混合粉体の完全混練体の場合を100%とする。)が90〜100%、キャピラリーフローテスターの押出圧力比(塩化ビニル系樹脂の混合粉体の加熱プレス体の場合を0%,該混合粉体の完全混練体の場合を100%とする)が30〜100%、好ましくは50〜100%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩化ビニル系樹脂管に関し、例えば下水管として好適に使用できるものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂管を地中に埋設して使用することがあり、下水管として使用する場合は、埋設後に部分的に掘削して下水管の管壁に孔を開け、取付け管を接合することがある。
このように地中埋設という過酷な状態に長期間置かれたのちに加工される樹脂成形体においては、短期性能のみならず長期性能にも優れていることが要求される。
そこで、本出願人においては、塩化ビニル系樹脂成形体の疲労強度を効果的に発現させるために、混練面積率(塩化ビニル系樹脂の混合粉体の加熱プレス体の場合を0%,該混合粉体の完全混練体の場合を100%とする。)を50〜100%、キャピラリーフローテスターの押出圧力比(塩化ビニル系樹脂の混合粉体の加熱プレス体の場合を0%,該混合粉体の完全混練体の場合を100%とする)を30〜100%とするように塩化ビニル系樹脂組成物を押出成形することを既に提案した。(特許文献1)
【特許文献1】特開平10−152526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
塩化ビニル系樹脂管の組成物として、炭酸カルシウムを充填剤として添加したものを使用することがある。
この場合、従来においては、平均粒径1μm以上の炭酸カルシウムを使用しており、かかる組成では、前記のように成形体の混練面積率及びキャピラリーフローテスターの押出圧力比を規制しても、既設下水管に取付け管を接合するために管壁を穿孔すると、冬季では往々にして亀裂が生じる。
【0004】
本発明の目的は、気温の低い環境のもとで穿孔などの加工を施しても、亀裂の発生をよく防止できる塩化ビニル系樹脂管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂管は、塩化ビニル系樹脂100重量部に平均粒径1μm以下の炭酸カルシウムが0.1〜10重量部添加されてなる塩化ビニル系樹脂組成物で成形され、その成形体の混練面積率(塩化ビニル系樹脂の混合粉体の加熱プレス体の場合を0%,該混合粉体の完全混練体の場合を100%とする。)が90〜100%、キャピラリーフローテスターの押出圧力比(塩化ビニル系樹脂の混合粉体の加熱プレス体の場合を0%,該混合粉体の完全混練体の場合を100%とする)が30〜100%、好ましくは50〜100%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
炭酸カルシウムに平均粒径1μm以下のものを使用し、混練面積率を90〜100%、キャピラリーフローテスターの押出圧力比を30〜100%とするように樹脂温度、スリリュウ剪断速度、供給エネルギー等の押出条件の調整だけで、耐穿孔亀裂性に優れた下水管に好適の塩化ビニル系樹脂管を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係る硬質塩化ビニル系樹脂管を得るには、塩化ビニル系樹脂100重量部に平
均粒径1μm以下の炭酸カルシウムを0.1〜10重量部添加した塩化ビニル系樹脂組成物を押出機により、その押出成形体の混練面積率を90〜100%、キャピラリーフローテスターの押出圧力比を30〜100%好ましくは50〜100%とするように樹脂温度、スクリュウ剪断速度、供給エネルギー等の押出条件を調整して管状に押出成形していく。
【0008】
炭酸カルシウムに平均粒径1μm以下のものを使用する理由は、炭酸カルシウムの平均粒径が1μmを超えると、低温で穿孔をした場合に、樹脂管に亀裂が発生し易くなり、この亀裂の効果的な防止を図るためである。炭酸カルシウムの添加量を0.1〜10重量部とする理由は、炭酸カルシウムの添加量が10重量部を超えると、長期性能が悪化し、添加量が0.1重量部未満では充填剤としての技術的意義を担保できなくなるためである。平均粒径が1μm以下、添加量0.1〜10重量部の範囲内であれば、一種または二種類以上の炭酸カルシウムを使用することができる。
【0009】
本発明における樹脂管の混練面積率は、次の方法によって算出される値である。
すなわち、樹脂管の断面をミクロトームを用いて厚さ15μmに切削し、切削品を黒色の台座に乗せ、光学顕微鏡で撮影する。均一に混練された部分は顔料等による配合剤により着色され、均一に混合されていない部分は配合剤が存在しないため透明となる。従って、均一に混練されていない部分は台座の黒色が透けるため黒色に撮影される。このように撮影された混合粉体の加熱プレス体(混合粉体を205℃で予熱4分、205℃150kgf/cmの圧力で4分圧縮したもの)の黒色部分の面積をS、完全に混練されたもの
の写真の黒色部分の面積をS100)、樹脂管断面の黒色部分の面積をSとすると、樹脂管の均一に混練された部分の面積率Aは、式(1)で算出される
〔式1〕 A=(S−S))/(S−S100)×100
この混練面積率を90〜100%とする理由は、90%未満であると、得られる塩化ビニル系樹脂管を低温で穿孔した場合に、亀裂が発生するためであり、95〜100%とすることが好ましい。
【0010】
本発明における樹脂管の押出圧力比は、次の方法で算出される値である。
すなわち、樹脂管を約3mm角に切り、切った成形体をキャピラリーフローテスターのバレルに投入し、ピストンを一定速度で動かして押出を行い、そのときにピストンが受ける圧力を押出圧力として測定する。ポリ塩化ビニル系樹脂の混合粉体の押出圧力を測定すると、ポリ塩化ビニル系樹脂粒子同士の絡み合いが少ないために押出圧力が小さくなり、逆に混合粉体の完全混練体の押出圧力を測定すると、ポリ塩化ビニル系樹脂粒子同士の絡み合いが多くなるために押出圧力が大きくなる。混合粉体を測定したときの押出圧力をP、完全混練体を測定したときの押出圧力をP100、成形体を測定したときの押出圧力をPとすると、成形体の押出圧力比Bは、下記式(2)で算出することができる。測定条件は、バレル温度135℃、予熱時間5分、押出速度5mm/分であり、先端の金型は、長さ10mm、直径1mmのキャピラリーを有したものを用いた。
〔式2〕B=(P−P)/(P100−P)×100
この押出圧力比を30〜100%とする理由は、30%未満であると、硬質塩化ビニル系樹脂管の機械的強度が不充分となって得られる硬質塩化ビニル系樹脂管を低温で穿孔した場合に、亀裂が発生するためであり、50〜100%とすることが好ましい。
【0011】
本発明において使用する塩化ビニル樹脂としては、特に限定されず、例えば塩化ビニルモノマーの単独重合体、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーと塩化ビニルモノマーとの共重合体等を挙げることができる。これらは単独または二種以上で使用することができる。
前記不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、ブチルビニルエーテルやセチル
ビニルエーテル等のビニルエーテル類、メチル(メタ)アクリレートやエチル(メタ)アクリレートやブチルアクリレート等の(メタ)アクリルエステル類、スチレンやα−メチルスチレン等の芳香族ビニル類、N−フェニルマレイミドやN−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換イミド類の単独または二種以上を挙げることができる。
【0012】
塩化ビニル系樹脂には、必要に応じて熱安定剤、滑剤、可塑剤、顔料等を添加できる。
【0013】
熱安定剤としては、例えば鉛系安定剤、有機錫系安定剤、金属石鹸系安定剤等を使用できる。鉛系安定剤としては、例えば三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛等を挙げることができる。有機錫系安定剤としては、例えば、有機酸メルカプト、有機錫マレート、有機錫ラウレートを挙げることができる。これらの熱安定剤を単独または二種以上で使用することができる。
【0014】
滑剤としては、例えばポリエチレン系やパラフィン系のワックス類、各種エステルワックス類、ステアリン酸やリシノール酸等の有機酸類、ステアリルアルコール等の有機アルコール類、ジメチルビスアミド等のアミド系滑剤の単独または二種以上を使用できる。
可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘブチルフタレート(DHP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、ジブチルペンシルフタレート(BBP)等のフタル酸エステル、ジ−2−エチルヘキシルアジベート(DOA)、ジイソノニルアジベート(DINA)、ジイソデシルアジベート(DIDA)等のアジピン酸エステル等を使用できる。可塑剤の添加量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し10重量部以下が好ましい。
顔料としては、例えば酸化チタン、カーボンブラックの他、アゾ系、ベンダイミダゾロン系、ジアリライド系、キナクリンドン系、イソインドリノン系、バット系、フタロシアニン系、ジオキサン系等の有機顔料、群青、コバルトブルー、べんがら、チタンイエロー、黄鉛等の無機顔料を挙げることができる。
【0015】
以下の実施例及び比較例において、穿孔割れ発生率は次のようにして測定した。
得られた樹脂管を長さ50cmに切断し、冬季を模擬して−5℃にて24時間養生し、下水管の管壁を穿孔する際の荷重を模擬して、養生後、間隔15cmを隔てて挾圧して外径に対し7%偏平化させ、偏平間の中心箇所をVU65用ホルソーで穿孔した。樹脂管20個について穿孔を行い、亀裂、欠けが発生した比率を算出した。
【実施例1】
【0016】
平均重合度1000のポリ塩化ビニル単独重合体100重量部(TS−1000R 徳山積水工業社製)に、平均粒子径が1μm以下の炭酸カルシウム(A)(μパウダー3S
白石カルシウム工業社製)を1重量部、熱安定剤(堺化学社製TL7000)を1重量部、滑剤(三井化学社製ハイワックス220MP)を0.5重量部、酸化チタン顔料(テイカ社製JR−403)を0.3重量部を添加し、ミキサーで混合して混合粉体を得た。
得られた混合粉体を押出機(積水工機社製SLM90E)により押出成形し、JIS K 6741の種類VU、呼び径100の寸法及び許容差に準拠した硬質塩化ビニル系樹脂管を得た。
得られた硬質塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は100%、押出圧力比は63%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、0%であった。
【実施例2】
【0017】
実施例1に対し、樹脂組成は同じとし、押出条件を変えて塩化ビニル系樹脂管の混練面積率を96%、押出圧力比を57%とした以外、実施例1と同じとした。
穿孔割れ発生率を測定したところ、5%であった。
【実施例3】
【0018】
実施例1に対し、炭酸カルシウム(A)の添加量を3重量部とした以外、実施例1と同じとした。
得られた塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は99%、押出圧力比は70%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、0%であった。
【実施例4】
【0019】
実施例1に対し、炭酸カルシウム(A)の添加量を5重量部とした以外、実施例1と同じとした。
得られた塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は100%、押出圧力比は52%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、10%であった。
【実施例5】
【0020】
実施例4に対し、炭酸カルシウム(A)の添加量を同じ5重量部としたが、押出条件を調整して塩化ビニル系樹脂管の混練面積率を98%、押出圧力比を68%とした。
穿孔割れ発生率を測定したところ、5%であった。
【実施例6】
【0021】
実施例1に対し、炭酸カルシウム(A)の添加量を8重量部とした以外、実施例1と同じとした。
得られた塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は100%、押出圧力比は58%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、15%であった。
【0022】
〔比較例1〕
実施例1に対し、樹脂組成は同じとしたが、押出条件を変えて塩化ビニル系樹脂管の混練面積率を80%、押出圧力比を58%とした以外、実施例1と同じとした。
穿孔割れ発生率を測定したところ、100%であった。
【0023】
〔比較例2〕
実施例1に対し、樹脂組成は同じとしたが、押出条件を変えて塩化ビニル系樹脂管の混練面積率を99%、押出圧力比を21%とした以外、実施例1と同じとした。
穿孔割れ発生率を測定したところ、100%であった。
【0024】
〔比較例3〕
実施例1に対し、炭酸炭酸カルシウムとして平均粒径が1μmを越える炭酸カルシウム(B)(ホワイトン305 白石カルシウム社製)1重量部を使用した以外、実施例1に同じとした。
塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は88%、押出圧力比は28%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、100%であった。
【0025】
〔比較例4〕
比較例3に対し、押出条件を調整して塩化ビニル系樹脂管の混練面積率を100%、押出圧力比を60%とした。
穿孔割れ発生率を測定したところ、100%であった。
【0026】
〔比較例5〕
実施例1に対し、炭酸炭酸カルシウムとして平均粒径が1μmを越える炭酸カルシウム(B)(ホワイトン305 白石カルシウム社製)を5重量部使用した以外、実施例1に
同じとした。
塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は98%、押出圧力比は73%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、100%であった。
【0027】
〔比較例6〕
実施例1に対し、炭酸炭酸カルシウムとして、平均粒径1μm以下の炭酸カルシウム(A)1重量部と平均粒径1μmを越える炭酸カルシウム(B)1重量部との混成物(平均粒径1μm超)を使用した以外、実施例1に同じとした。
塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は98%、押出圧力比は68%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、100%であった。
【0028】
〔比較例7〕
実施例1に対し、炭酸炭酸カルシウムとして、平均粒径1μm以下の炭酸カルシウム(A)5重量部と平均粒径1μmを越える炭酸カルシウム(B)2重量部との混成物(平均粒径1μm超)を使用した以外、実施例1に同じとした。
塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は100%、押出圧力比は56%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、100%であった。
【0029】
〔比較例8〕
実施例1に対し、炭酸カルシウムとして、平均粒径1μm以下の炭酸カルシウム(A)2重量部と平均粒径1μmを越える炭酸カルシウム(B)5重量部との混成物(平均粒径1μm超)を使用した以外、実施例1に同じとした。
塩化ビニル系樹脂管の混練面積率は97%、押出圧力比は65%であった。
穿孔割れ発生率を測定したところ、100%であった。
【0030】
表1は上記実施例並びに比較例の混練面積率、押出圧力比、穿孔割れ発生率を総括的に示している。
【表1】

【0031】
実施例では、炭酸カルシウムに平均粒径1μm以下のものを使用しており、実施例6のように、炭酸カルシウムの多量添加ほぼ8重量%のもとでも樹脂管の混練面積率を90%以上で押出圧力比を30%以上としているから、樹脂管の穿孔割れ発生率を15%以下というように充分に低くできることが確認できる。
比較例4や5から、混練面積率を90%以上で押出圧力比を30%以上としても、炭酸カルシウムに平均粒径1μmを越えるものを使用すると、冬季では、樹脂管の穿孔時、割れ発生を防止できないことが確認できる。
比較例6〜8から、混練面積率を90%以上で押出圧力比を30%以上とし、炭酸カルシウムの一部に平均粒径1μm以下のものを使用しても、炭酸カルシウムに粒子径1を越えるものを混合し炭酸カルシウムの平均粒径が1μmを越えると、冬季では、樹脂管の穿孔時、割れ発生を防止できないことが確認できる。
比較例1や2から、炭酸カルシウムに平均粒径1μm以下のものを使用しても、混練面積率が90%未満(比較例1)または押出圧力比が30%未満(比較例2)であると、冬季では、樹脂管の穿孔時、割れ発生を防止できないことが確認できる。
これらの結果から、塩化ビニル系樹脂100重量部に平均粒径1μm以下の炭酸カルシウムが0.1〜10重量部添加されてなる塩化ビニル系樹脂組成物で成形され、その成形体の混練面積率が90〜100%、キャピラリーフローテスターの押出圧力比が30〜100%、好ましくは50〜100%である本発明の塩化ビニル樹脂管では、地中埋設下水管として使用し、気温の低い環境のもとで穿孔などの加工を施しても、亀裂の発生をよく防止できることが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂100重量部に平均粒径1μm以下の炭酸カルシウムが0.1〜10重量部添加されてなる塩化ビニル系樹脂組成物で成形され、その成形体の混練面積率(塩化ビニル系樹脂の混合粉体の加熱プレス体の場合を0%,該混合粉体の完全混練体の場合を100%とする。)が90〜100%、キャピラリーフローテスターの押出圧力比(塩化ビニル系樹脂の混合粉体の加熱プレス体の場合を0%,該混合粉体の完全混練体の場合を100%とする)が30〜100%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂管。

【公開番号】特開2006−250215(P2006−250215A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66008(P2005−66008)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】