説明

塩化物イオン捕捉部材および塩化物イオン捕捉封止部材

【課題】塩化物イオンを捕捉し、腐食を抑制する。
【解決手段】塩化物イオンと反応して配管内または装置内に存在する水または水蒸気に難溶である塩化物イオンの塩を生成する金属銀を含み、水または水蒸気が存在する場所に、水または水蒸気に接触するように、塩化物イオンを含むガスケット2と共にガスケット2よりも水または水蒸気側に設けられる塩化物イオン捕捉部材1aにより解決される。塩化物イオン捕捉部材1aは、ガスケット2の内周に接触し、かつガスケット2の周方向全域に亘って設けられ、環状であって周方向に連続している部材として構成されている。塩化物イオン捕捉部材1aは、表面が粗面であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止部材、すなわち、プラントの配管または装置の継ぎ目に配置され、配管内または装置内に存在する流体を配管内または装置内に封止するための部材から塩化物イオンがプラント配管内または装置内へ溶出することを低減する技術に属する。
【背景技術】
【0002】
プラントの配管内または装置内を流れる流体中の塩化物イオンは、プラント各所、例えばボイラ(蒸気発生器)やタービンなどの耐久性を低下させるおそれがある。これは、プラントを構成する配管や装置の金属の表面に形成されている不動態が、塩化物イオンにより溶解度の高い錯体へ変化することによって金属表面から溶出し、不動態皮膜が破れることによる。この塩化物イオンの作用を、配管を流れる流体に薬品を注入することによって抑制する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、蒸気発電プラントにおいて、プラントの系内の蒸気または給水中の塩化ナトリウム濃度を測定し、濃度に応じて系内にモリブデン酸ナトリウム溶液を注入して配管、機器の腐食を防ぐ技術が開示されている。この技術は、モリブデン酸ナトリウムが、金属表面の不動態皮膜を強固にし、さらに、不動態皮膜が破れた部分の再生を助ける力を利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−210410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし従来技術は、耐久性を低下させる原因となる塩化物イオンの濃度を低減するものではない。一方、プラントの配管または装置の継ぎ目には、配管または装置内に存在する流体の漏れを防ぐために封止部材が設置される。この封止部材として、フッ素樹脂、ゴムなどの有機物の素材から構成された有機系封止部材が使用される場合がある。この有機系封止部材にはごくわずかの塩化物イオンを含むものがあり、このような有機系封止部材が使用されると、封止部材から流体中にごくわずかの塩化物イオンが溶出する場合がある。このような場合であっても、塩化物イオンを捕捉し、配管または装置内に存在する流体中の塩化物イオンの濃度をできるだけ低くすることができれば、腐食を抑制することができる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、塩化物イオンを捕捉し、腐食を抑制することができる塩化物イオン捕捉部材および塩化物イオン捕捉封止部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る塩化物イオン捕捉部材は、塩化物イオンと反応して配管内または装置内に存在する流体に難溶である塩化物イオンの塩を生成する塩生成物質を含み、かつ、前記流体が存在する場所に、前記流体と接触するように、塩化物イオンを含む封止部材と共に、前記封止部材よりも前記流体側に設けられることを特徴とする。塩生成物質が、塩化物イオンと反応して配管内または装置内に存在する流体に難溶である塩化物イオンの塩を生成することで、封止部材から溶出した塩化物イオンの少なくとも一部が、固体の塩化物イオンの塩となり、流体中に溶解せずに析出する。その結果、塩化物イオンを捕捉し、腐食を抑制することができる。また、塩化物イオン捕捉部材が、封止部材よりも流体側に設けられているので、封止部材から溶出される塩化物イオンを、塩化物イオンが流体に溶出し拡散する前に捕捉することができる。
【0008】
また、本発明に係る塩化物イオン捕捉部材は、前記流体は加熱された水または水蒸気であり、前記塩生成物質は金属銀であることを特徴とする。金属銀は、塩化物イオンと反応して生成する塩化銀(AgCl)が水または水蒸気に対して難溶であるために、塩化物イオンを捕捉して腐食を抑制することができる。また、金属銀は延性があるために、フランジの締め付けの際に変形して封止部材が流体と接触することを抑制し、封止部材から流体へ塩化物イオンが溶出することを抑制できる。
【0009】
また、本発明に係る塩化物イオン捕捉部材は、前記封止部材の内周に接触し、かつ前記封止部材の周方向全域に亘って設けられていることを特徴とする。塩化物イオン捕捉部材が、封止部材の内周に接触していることで、塩化物イオン捕捉部材と封止部材の内周との最短距離が0となり、封止部材から溶出される塩化物イオンを塩化物イオン捕捉部材が速やかに捕捉することができる。また、塩化物イオン捕捉部材が封止部材の周方向全域に亘って設けられていることで、断片である塩化物イオン捕捉部材を封止部材の内周付近に配置する場合と比較して、配管内または装置内に存在する流体と接触する封止部材の面積が小さくなり、封止部材が塩化物イオン捕捉部材に含まれる塩生成物質と接触する面積が大きくなるので、塩生成物質と反応する塩化物イオンの量を多くすることができる。また、塩化物イオン捕捉部材を配管内または装置内に簡易に設置することができる。
【0010】
また、本発明に係る塩化物イオン捕捉部材は、環状であって周方向に連続していることを特徴とする。これにより、塩化物イオン捕捉部材を配管または装置の継ぎ目に設置する作業を迅速にできる。
【0011】
また、本発明に係る塩化物イオン捕捉部材は、表面が粗面であることを特徴とする。これにより、塩化物イオン捕捉部材の単位体積当たりの表面積が増加するので、塩化物イオン捕捉部材の単位体積当たりの塩化物イオン捕捉能を向上させることができる。
【0012】
また、本発明に係る塩化物イオン捕捉部材は、前記流体が存在する場所に設置される前に、表面に形成された皮膜が除去されることを特徴とする。これにより、反応性に富んだ塩生成物質が表面に現れ、塩化物イオン捕捉部材の塩化物イオン捕捉能を高めることができる。
【0013】
また、本発明に係る塩化物イオン捕捉部材は、加圧水型原子炉の2次系に設置されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る塩化物イオン捕捉封止部材は、前記塩化物イオン捕捉部材と、前記塩化物イオン捕捉部材と組み合わされ、前記塩化物イオン捕捉部材と共に前記配管または前記装置の継ぎ目に設けられる封止部材と、を含むことを特徴とする。これにより、塩化物イオンを捕捉し、腐食を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る塩化物イオン捕捉部材および塩化物イオン捕捉封止部材は、塩化物イオンを捕捉し、より確実に腐食を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、塩化物イオン捕捉部材が設けられる加圧水型原子炉の2次系の概略図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る塩化物イオン捕捉部材の斜視図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る塩化物イオン捕捉部材を配管に取り付けた状態における、配管軸方向を含む断面図である。
【図4−1】図4−1は、実施形態2に係る塩化物イオン捕捉部材の上面図である。
【図4−2】図4−2は、図4−1のA−A断面矢視図である。
【図5−1】図5−1は、実施形態3に係る塩化物イオン捕捉部材の上面図である。
【図5−2】図5−2は、図5−1のB−B断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下実施形態という。)の説明により本発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0018】
〔実施形態1〕
本実施形態の塩化物イオン捕捉部材1aが設置される場所は、加圧水型原子炉の2次系の配管または装置の継ぎ目である。詳しくは、浄化処理のされていない水または水蒸気が存在する配管または装置の継ぎ目に、ガスケット2(封止部材)と共に設けられる。配管または装置の継ぎ目には、配管と配管との継ぎ目、配管と装置との継ぎ目、装置と別の装置との継ぎ目、装置の部材同士の継ぎ目が含まれる。
【0019】
図1に従い、加圧水型原子炉の2次系100について概略を説明する。図1では、原子炉を含む1次系は省略してある。原子炉で加熱され、蒸気発生器(SG)101に供給された1次系の冷却水と熱交換することにより蒸気発生器(SG)101で蒸気が発生する。この蒸気は、高圧タービン102に供給されてこれを駆動した後、低圧タービン103へ導入される。次に、低圧タービン103を回転させて圧力および温度が低下した蒸気は、復水器104で冷却され水へと戻される。
【0020】
次いで、復水器104からの水は、浄化装置(例えば脱塩塔)105において脱塩処理等された後、脱気器106において脱気される。脱気された水は、給水加熱器107で加熱されてから蒸気発生器101へと再び戻される。給水加熱器107には、高圧タービン102から一部抽気された水蒸気が配管108を通じて導入されており、この蒸気が脱気された水を加熱し、その後配管110を流れ、脱気器106で浄化装置105を通過した水と合流する。また、高圧タービン102からのドレンは、配管109を流れて脱気器106で浄化装置105を通過した水と合流する。合流後の水は、配管111を通って給水加熱器107で加熱され、配管112を通って蒸気発生器101に導入される。配管108、109、110、111、112は浄化処理のされていない水または水蒸気(流体)が存在する配管に該当し、浄化装置105を除くすべての装置は、浄化処理のされていない水または水蒸気が存在する装置に該当する。本実施形態の塩化物イオン捕捉部材はこれらの配管または装置の継ぎ目に設けられる。以下、浄化処理のされていない水または水蒸気が存在する配管を配管4と総称し、配管4に設けられる塩化物イオン捕捉部材1aについて説明するが、塩化物イオン捕捉部材1aは浄化処理のされていない水または水蒸気が存在する装置の継ぎ目に設けられるものであってもよい。
【0021】
なお、塩化物イオン捕捉部材は、浄化処理がされている水または水蒸気の存在する配管または装置の継ぎ目にも設けることができる。また、加圧水型原子炉の2次系100に限られず、沸騰水型原子炉、火力発電の蒸気タービンプラント、その他、流体中の塩化物イオンの濃度を低く保持する必要のあるプラントの配管または装置の継ぎ目に設けることができる。
【0022】
図2を用いて本実施形態の塩化物イオン捕捉部材1aを説明する。塩化物イオン捕捉部材1aは、塩化物イオンを含むガスケット2と共に配管4の継ぎ目に設けられる。
【0023】
ガスケット2が「塩化物イオンを含む」とは、実際に溶出試験などによりガスケット2から塩化物イオンが検出される場合の他、ガスケット2に塩化物イオンが微量に含まれることがガスケット2の製造工程を考慮することにより判断できるが、溶出試験などでは塩化物イオンが検出限界以下であるために検出されない場合も含まれる。
【0024】
塩化物イオン捕捉部材1aは、塩化物イオンと反応して配管4内に存在する流体に難溶である塩化物イオンの塩を生成する、塩生成物質を含む。ここで、本実施形態では、配管4内に存在する流体は、加熱された水または水蒸気であり、塩化物イオン捕捉部材1aは、金属銀で構成されている。すなわち、塩化物イオン捕捉部材1aは、塩生成物質として金属銀を含んで構成されている。金属銀は安価であるために、ガスケット2の設置箇所が多い場合でも、安価に塩化物イオン捕捉部材1aを設置することができる。塩化物イオン捕捉部材1aは、高純度の金属銀で構成されていることが、塩化物イオンの捕捉を効率的に行う点で望ましい。しかし、塩化物イオン捕捉部材1aは、有機物または無機物中に、金属銀が混合されて構成されているものであってもよい。
【0025】
塩生成物質が「塩化物イオンと反応する」とは、プラントの運転条件下で反応するという意味である。したがって、塩生成物質が常に塩化物イオンと反応する必要はなく、例えば、流体が、特定範囲の温度、特定範囲のph、特定範囲の酸素溶存量であるなどの、特定条件にある場合にのみ反応する塩生成物質であってもよい。
【0026】
また、塩生成物質が塩化物イオンと反応するとは、塩化物イオンと塩生成物質とが直接反応する場合の他、塩生成物質が間接的に塩化物イオンと反応する場合を含み、塩生成物質が、プラントの運転条件下で他の物質に変換され、変換された他の物質が塩化物イオンと反応する場合であってもよい。また、塩生成物質と塩化物イオンとの反応に、塩生成物質および塩化物イオン以外の物質が関与していてもよい。例えば、流体中の溶存酸素、二酸化炭素等が関与していてもよい。また、塩生成物質が反応する塩化物イオンは、ガスケット2から溶出した塩化物イオンに限定されない。
【0027】
金属銀を塩生成物質として用いた塩化物イオン捕捉部材1aの場合、金属銀は塩化物イオンと反応し、塩化物イオンの塩として塩化銀(AgCl)を生成する。金属銀が、塩化物イオンと反応して、配管4内に存在する水または水蒸気(配管内または装置内に存在する流体)に難溶である塩化銀を生成することで、ガスケット2から溶出した塩化物イオンの少なくとも一部が、固体の塩化銀として金属銀の表面に析出し、流体中に溶解せずに捕捉される。
【0028】
塩生成物質が塩化物イオンと反応することにより生成された塩化物イオンの塩(以下生成塩と記すときもある)の少なくとも一部が、配管4内に存在する流体に溶解せず固体として存在している場合、生成塩は流体に難溶であるといえる。この場合、塩化物イオンの少なくとも一部が固体の塩として塩化物イオン捕捉部材に捕捉されていることとなる。したがって、塩化物イオン捕捉部材の表面に生成塩が析出しているならば、生成塩は流体に対して「難溶である」といえる。
【0029】
塩生成物質が塩化物イオンと反応することにより生成された塩化物イオンの塩は、溶解度積が、例えば25℃において5×10−4mol/L以下、例えば25℃において1×10−5mol/L以下、例えば25℃において5×10−9mol/L以下、例えば1×10−10mol/L以下であってよい。塩化銀(AgCl)は、流体が水または水蒸気である場合には、低温から600℃付近の高温までに亘って、水または水蒸気に対して難溶であるといえる。
【0030】
塩化物イオン捕捉部材1aは、水または水蒸気が存在する場所に、水または水蒸気と接触するように、塩化物イオンを含むガスケット2(封止部材)と共にガスケット2よりも水または水蒸気側(流体側)に設けられる。塩化物イオン捕捉部材1aが、ガスケット2よりも水または水蒸気側に設けられているので、ガスケット2から溶出される塩化物イオンを、塩化物イオンが流体に溶出し拡散する前に捕捉することができる。
【0031】
塩生成物質は、無機物に限られず、有機物であってもよいが、延性を持つという点で、金属であることが好ましい。塩化物イオン捕捉部材1aは、金属銀であるために延性を有している。塩化物イオン捕捉部材1aが延性を有していると、配管4同士を連結するためにフランジを締め付ける際には、連結される配管4同士の間であってガスケット2よりも水または水蒸気側に配置された塩化物イオン捕捉部材1aが、配管4の連結面に沿って変形し、前記連結面に密着する。これによって、配管4と塩化物イオン捕捉部材1aとの間からの流体の浸入が低減される結果、ガスケットと流体との接触を抑制できるので、ガスケット2から流体へ塩化物イオンが溶出することを抑制できる。
【0032】
塩化物イオン捕捉部材1aは、ガスケット2の内周に接触し、かつガスケット2の周方向全域に亘って設けられている。塩化物イオン捕捉部材1aが、ガスケット2の内周に接触していることで、塩化物イオン捕捉部材1aとガスケット2の内周との最短距離が0となり、ガスケット2から溶出される塩化物イオンを塩化物イオン捕捉部材1aが速やかに捕捉することができる。
【0033】
また、塩化物イオン捕捉部材1aがガスケット2の周方向全域に亘って設けられていることで、断片である塩化物イオン捕捉部材をガスケット2の内周付近に配置する場合と比較して、配管4内に存在する水または水蒸気と接触するガスケット2の面積が小さくなり、塩化物イオン捕捉部材1aの塩生成物質である金属銀と接触するガスケット2の面積が大きくなる。その結果、金属銀と反応する塩化物イオンの量を多くすることができる。また、塩化物イオン捕捉部材1aを配管4の継ぎ目に簡易に設置することができる。
【0034】
なお、塩化物イオン捕捉部材は、ガスケット2の内周に接触しない形態であってもよい。すなわちガスケット2の内周と塩化物イオン捕捉部材との間に隙間があってもよい。また、ガスケット2の周方向全域に亘って設けられていなくともよく、例えば、塩化物イオン捕捉部材が環状ではなく、断片として構成されており、この断片が配管4の継ぎ目に、ガスケット2よりも流体側となるように配置されてもよい。
【0035】
塩化物イオン捕捉部材1aは環状であって周方向に連続した部材として構成されている。詳しくは、塩化物イオン捕捉部材1aは、例えば、ワイヤのような、長手方向に垂直な断面が略円形、好ましくは円形の線形部材を、ガスケット2の内周に沿った形状に曲げて加工し、線状部材の両端を溶接などにより繋げ、繋ぎ目を無くしたものである。
【0036】
塩化物イオン捕捉部材1aを環状であって周方向に連続した部材として構成したことで、塩化物イオン捕捉部材1aを配管4の継ぎ目に設置する作業および配管4の継ぎ目から取り外す作業を迅速にできる。また、断面が略円形の線状部材は、汎用品であって簡単に入手することができるため、断面が略円形の線状部材を材料とすると、簡単に、また安価に塩化物イオン捕捉部材1aを製造できる。線状部材を材料とする他、塩化物イオン捕捉部材は、板状の材料から環状の部材を打ち抜いて製造してもよい。
【0037】
以上のように構成された塩化物イオン捕捉部材1aは、ガスケット2と共に配管4の継ぎ目(水または水蒸気が存在する部分)に設置する前に、表面に形成された酸化銀や硫化銀の皮膜を除去する。水または水蒸気が存在する場所に設置する前に表面に形成された皮膜を除去することで、反応性に富んだ金属銀が表面に現れる。これにより、塩化物イオン捕捉部材1aの塩化物イオン捕捉能を高めることができる。除去の方法として、やすり、研磨剤により機械的に皮膜を除去する方法、アンモニアなどに浸すなどして、化学的に皮膜を除去する方法が挙げられる。機械的に皮膜を除去する場合に、表面を平滑にせずに粗面にすれば、塩化物イオン捕捉部材1aの表面積を増大させることができるため、単位体積当たりにおける塩化物イオン捕捉部材1aの塩化物イオン捕捉量を増加させることができる。
【0038】
塩化物イオン捕捉部材1aと共に配管4の継ぎ目に設置されるガスケット2は、汎用のものであってもよいし、塩化物イオン捕捉部材1aの表面に沿うように、凹凸を形成したもの、例えば、周の接線方向に垂直な断面が略円形である塩化物イオン捕捉部材1aの場合、塩化物イオン捕捉部材1aの側面の凸曲面に嵌まり合う凹曲面を形成したものであってもよい。ガスケット2に、塩化物イオン捕捉部材1aの表面に沿うように凹凸を形成すると、ガスケット2の内周から塩化物イオン捕捉部材1aまでの距離がどの内周の位置からでも同じとなり、まんべんなく塩化物イオンを捕捉することができる。塩化物イオン捕捉部材1aとガスケット2とは、対となって塩化物イオン捕捉ガスケット3a(塩化物イオン捕捉封止部材)を構成する。
【0039】
図3を用いて、塩化物イオン捕捉部材1aをガスケット2と共に配管4の継ぎ目に設置した状態を説明する。塩化物イオン捕捉部材1aは、配管4の継ぎ目のフランジ6a、6bを貫通するボルト5を締める前は、断面が略円形である。しかし、ボルト5を締めると、フランジ6aおよびフランジ6bにより、ボルト5の軸方向にガスケット2および塩化物イオン捕捉部材1aに対して圧力が加えられ、ガスケット2および塩化物イオン捕捉部材1aは変形する。断面が略円状であった塩化物イオン捕捉部材1aは、断面が扁平となり、フランジ6aおよびフランジ6bに接触する面積が増大する。その結果、配管4内を流れる水または水蒸気がガスケット2に接触するのを塩化物イオン捕捉部材1aが抑制するため、ガスケット2からの塩化物イオンは、水または水蒸気に溶出する前に塩化物イオン捕捉部材1aにより捕捉される。
【0040】
塩化物イオン捕捉部材1aは、ガスケット2の内周の厚さ方向の一部のみに接触するように設けられているが、塩化物イオン捕捉部材は、ガスケット2の内周の厚さ方向のすべてに接触するように設けることもできる。この場合は、ボルトによりフランジを締め付ける前に、配管4内を流れる水または水蒸気がガスケット2に接触することが塩化物イオン捕捉部材により抑制されており、より効果的に塩化物イオン捕捉部材により塩化物イオンを捕捉することができる。
【0041】
ガスケット2と共に配管4内に設置された塩化物イオン捕捉部材1aは、定期的に、または塩化物イオン捕捉部材1aの塩析出量検査などの結果を踏まえて、新たな別の塩化物イオン捕捉部材1aへ交換してもよい。
【0042】
〔実施形態2〕
図4−1および図4−2に示した実施形態2に係る塩化物イオン捕捉部材1bは、表面が粗面である。なお、表面が粗面である他は、塩化物イオン捕捉部材1aと同様であるのでその他の説明を省略する。塩化物イオン捕捉部材1bは、図4−2に詳しく示したように、断面が星印状で、突出部および陥没部のある形状である。塩化物イオン捕捉部材1bを、このように表面が粗面となるように構成することで、単位体積当たりの表面積が増加するので、塩化物イオン捕捉部材1bに含まれる金属銀(塩生成物質)の単位体積当たりの塩化物イオン捕捉能を向上させることができる。なお、本実施形態でも、実施形態1と同様に、ガスケット2と、塩化物イオン捕捉部材1bとで塩化物イオン捕捉ガスケット3b(塩化物イオン捕捉封止部材)が構成されている。
【0043】
〔実施形態3〕
図5−1および図5−2に示した実施形態3に係る塩化物イオン捕捉部材1cは、コイルを環状に繋げたものである。コイルは、同一の長さのワイヤと比較して表面積が大きいため、塩化物イオン捕捉部材1cに含まれる金属銀(塩生成物質)の単位体積当たりの塩化物イオン捕捉能を向上させることができる。コイルで形成されている他は、塩化物イオン捕捉部材1aと同様であるのでその他の説明を省略する。なお、本実施形態でも、実施形態1と同様に、ガスケット2と、塩化物イオン捕捉部材1cとで塩化物イオン捕捉ガスケット3c(塩化物イオン捕捉封止部材)が構成されている。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明に係る塩化物イオン捕捉部材および塩化物イオン捕捉封止部材は、封止部材から塩化物イオンがプラント配管内または装置内へ溶出することを低減させることに有用である。
【符号の説明】
【0045】
1a、1b、1c 塩化物イオン捕捉部材
2 ガスケット(封止部材)
3a、3b、3c 塩化物イオン捕捉ガスケット(塩化物イオン捕捉封止部材)
4 配管
5 ボルト
6a、6b フランジ
101 蒸気発生器
102 高圧タービン
103 低圧タービン
104 復水器
105 浄化装置
106 脱気器
107 給水加熱器
108、109、110、111、112 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオンと反応して配管内または装置内に存在する流体に難溶である塩化物イオンの塩を生成する塩生成物質を含み、かつ、前記流体が存在する場所に、前記流体と接触するように、塩化物イオンを含む封止部材と共に前記封止部材よりも前記流体側に設けられることを特徴とする、塩化物イオン捕捉部材。
【請求項2】
前記流体は加熱された水または水蒸気であり、前記塩生成物質は金属銀であることを特徴とする、請求項1に記載の塩化物イオン捕捉部材。
【請求項3】
前記封止部材の内周に接触し、かつ前記封止部材の周方向全域に亘って設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の塩化物イオン捕捉部材。
【請求項4】
環状であって周方向に連続していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塩化物イオン捕捉部材。
【請求項5】
表面が粗面であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の塩化物イオン捕捉部材。
【請求項6】
前記流体が存在する場所に設置される前に、表面に形成された皮膜が除去されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の塩化物イオン捕捉部材。
【請求項7】
加圧水型原子炉の2次系に設置されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の塩化物イオン捕捉部材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の塩化物イオン捕捉部材と、
前記塩化物イオン捕捉部材と組み合わされて、前記塩化物イオン捕捉部材と共に前記配管または前記装置の継ぎ目に設けられる封止部材と、
を含むことを特徴とする、塩化物イオン捕捉封止部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公開番号】特開2010−275589(P2010−275589A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129467(P2009−129467)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】