説明

塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体

特許請求の範囲に記載の塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体は、アルミニウム金属を、ハロゲン化水素酸と有機酸との混合物中に溶解するか、またはアルミニウム金属を先ずハロゲン化水素酸中に溶解し、次いで有機酸を加えて、アルミニウム金属とハロゲン化水素酸及び有機酸とを反応させることによって得られる。こうして有機酸の配位子が組み込まれて変性された塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体は、発汗抑制有効成分として向上した効果を示す。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
塩化物の形の塩基性アルミニウムハロゲン化物は、発汗抑制剤や収斂剤などの化粧料組成物中に有効成分として使用される。かなりより効果の高いアルミニウム塩化物6水和物は、それの皮膚刺激作用の故に、上記の用途からは除かれている。またこれは、ハイパーヒドロシス(多汗症)の場合にも治療目的で使用される。上記のアルミニウム塩化物間の相違は、塩基性の塩はオリゴマーおよびポリマー性アルミニウム種を形成する点にあり(S.Schoenherr, H. Goerz, D. Mueller und W. Gessner; in Z.anorg.allg.Chem. 476, 188-194 (1991)参照)、これは、発刊抑制剤の効果を低減させる。
【0002】
それゆえ、良好な皮膚適合性を保持しながら塩基性アルミニウム塩化物の作用を高めるための試みが長年行われてきた。欧州特許出願公開第0 308 937号明細書、欧州特許出願公開第0 183 171号明細書、米国特許第4 359 456号明細書、欧州特許出願公開第0 191 628号明細書には、熱処理に付した塩基性アルミニウムハロゲン化物、好ましくは塩化物が記載されている。得られる溶液は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって、それの重合体分布に関して分析されている。これらの熱処理されたサンプルは、ポリマー性化学種の分解を示し、それにより発汗抑制剤において高められた作用を発揮する。しかし、様々なポリマー性化学種の分布は、可逆性平衡であり、それゆえ、プロトン性溶剤中ではその活性化は時間とともに失われることも文献から公知である。
【0003】
より有効な発汗抑制有効成分を合成するための更に別の方法としては、塩基性アルミニウムハロゲン化物(好ましくは塩化物)、ジルコニウム塩及びグリシンの組み合わせからなる混合コンパウンドが開示されている。様々な調製方法が、米国特許第4 871 525号明細書、米国特許第4 775 528号明細書及び独国特許出願公開第25 37 359号明細書に記載されている。
【0004】
ジルコニウム−アルミニウム混合塩の作用の更なる改善が、欧州特許出願公開第0 653 203号明細書、国際公開第02/34223号パンフレット、国際公開第0234223号パンフレット、欧州特許出願公開第0 455 489号明細書及び欧州特許出願公開第0 444 564号明細書に記載されている。しかし、このジルコニウム−アルミニウム塩の欠点は、入手可能なジルコニウム原料が高価であるということである。
【0005】
欧州特許出願公開第1 364 651号明細書は、皮膚を収縮させる効果を有する薬学的調合物の製造のための、塩基性アルミニウム水和物と、有機配位子を含む三価のアルミニウム塩との混合物の使用を開示している。発汗抑制有効成分としての使用はそこには記載されてはいないし、また当業者が、このような発汗抑制作用をその明細書から導き出すこともできない。CTFAデータベースには、乳酸とアルミニウムクロロハイドレートからなる錯体のナトリウム塩(コラセル(Choracel))、及びそれの化粧用収斂剤としての作用が知られている。しかし、この材料は、真のアルミニウム−乳酸錯体ではなく、アルミニウムクロロハイドレートと乳酸との混合物である。アルミニウム塩、場合によってはジルコニウム塩、及びヒドロキシ酸からなる更に別の錯体が、米国特許第3 542 919号明細書、米国特許第3 553 316号明細書及び米国特許第3 991 176号明細書に記載されている。しかし、これらの材料の製造においては、ヒドロキシ酸は、完成したアルミニウム塩に加えられ、本発明のようにアルミニウム塩の製造の最中に既に加えることはしていない。その結果、この技術水準におけるヒドロキシ酸の添加は、ポリマー性画分の分布に影響を及ぼし得ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、塩基性アルミニウム塩化物の発汗抑制有効成分としての作用を、ポリマー性アルミニウム構造の形成を低めることで高めることにある。この課題は、塩基性アルミニウムハロゲン化物中に有機酸を錯体配位子として組み入れることによって達成された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の対象は、アルミニウム金属を、ハロゲン化水素酸と有機酸との混合物中に溶解させるか、またはアルミニウム金属を先ずハロゲン化水素酸中に溶解し、次いで有機酸を加えることによって、アルミニウム金属とハロゲン化水素酸及び有機酸とを反応させることによって得られる塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体である。
【0008】
この際、第一の態様、すなわちハロゲン化水素酸と有機酸との混合物中にアルミニウム金属を溶解することが好ましい。
【0009】
ハロゲン化水素酸としては、水溶液の形のHBr、特にHClが挙げられる。ハロゲン化水素酸の濃度は、好ましくは1〜10重量%、特に5重量%である。
【0010】
有機酸としては、特に、炭素原子数が1〜5のものが挙げられる。これらの有機酸は、モノ−、ジ−またはトリカルボン酸であることができるが、アミノカルボン酸またはヒドロキシカルボン酸も挙げることができ、後者のものが好ましい。このような酸の例は、グリコール酸、乳酸、タートロン酸、酒石酸、リンゴ酸及びグリシンである。
【0011】
ハロゲン化水素酸と有機酸との比率は、これらの両方の酸の各々について10〜90モル%であることができる。20〜50モル%のハロゲン化水素酸と50〜80モル%の有機酸との混合物が好ましい。この際、ハロゲン化水素酸の濃度は上述した通りである。
【0012】
このような酸混合物中に、次いでアルミニウム金属を溶解する。この際、アルミニウム金属は、粉末、粗粉、顆粒または棒状物の形であることができる。反応は、好ましくは、20〜100℃、特に50〜100℃の温度で行われる。反応は、Al:ハロゲンの所望の原子比またはAl:有機酸のアニオンの所望の原子比が反応液中に得られるまで進行する。
【0013】
このようにして得られる塩基性アルミニウムハロゲン化物の水溶液は、直接、発汗抑制有効成分として使用することができる。しかし、所定の配位子比を錯体中で得るために、アルミニウム金属と酸混合物との反応の後に、更に追加のハロゲン化水素酸及び/または有機酸を加えることができる。
【0014】
更に、緩衝物質を加えることによって、塩基性アルミニウム錯体の水溶液を、約4〜5のpH値に調節することも有利である。緩衝物質としては、特にα−アミノ酸、例えばグリシンなどが挙げられる。
【0015】
こうして得られる塩基性アルミニウム錯体の水溶液は、Alポリマーの割合が明らかに減少していると同時に、Alモノマー及びAlオリゴマーの割合が増加しているという点に特徴がある。これらの溶液は、発汗抑制有効成分として直接二次加工することができる。しかし、この本発明による塩基性アルミニウム錯体を、他の慣用の発汗抑制有効成分、例えばAl−ジルコニウム−グリシン−クロロ錯体や、Zr、Hf、TiもしくはSnを含む他の金属錯体と混合することもできる。この態様においても、緩衝物質、例えばグリシンなどのアミノ酸を加えて、4〜5のpH値に調節することが有利であり得る。
【実施例】
【0016】
例1
冷却器が取り付けられている長さ60cm及び直径9cmのジャケット加熱式カラム様容器中に、各々重さが約11gの小さい棒状物の形の約2.5kgのアルミニウム片を仕込み、そして希塩酸で酸洗いした。次いで、塩酸とグリコール酸との1:1混合物を入れた。この溶液の充填及び約100℃への加熱の後に、アルミニウム金属を水素の発生の下に腐食させた。この反応の進行は、溶液のアルミニウム及び塩化物含有量を測定することによって監視した。アルミニウム:塩素の原子比が3.3:1になった時に、溶液を抜いて反応を停止させた。こうして得られたアルミニウム錯体を、例3及び6に記載の有効成分に使用した。
例2
冷却器が取り付けられている長さ60cm及び直径9cmのジャケット加熱式カラム様容器中に、各々重さが約11gの小さな棒状物の形の約2.5kgのアルミニウム片を仕込み、そして希塩酸で酸洗いした。次いで、塩酸と乳酸との1:1混合物を入れた。この溶液の充填及び約100℃への加熱の後、アルミニウム金属を水素の発生の下に腐食させた。この反応の進行は、この溶液のアルミニウム及び塩化物含有量を測定することによって監視した。アルミニウム:塩素の原子比が3.3:1になった時に、溶液を抜いて反応を停止させた。こうして得られたアルミニウム錯体を、例4、5及び7に記載の有効成分に使用した。
例3
例1で製造したアルミニウム錯体を、塩酸、水及びグリシンと混合して、表1に記載の組成物を得た。
【0017】
【表1】

【0018】
例4
例2で製造したアルミニウム錯体を、塩酸及び水と混合して、表2に記載の組成物を得た。
【0019】
【表2】

【0020】
例5
例2で製造したアルミニウム錯体を、塩酸、水及び乳酸塩と混合して、表3に記載の組成物を得た。
【0021】
【表3】

【0022】
上記の例に記載した三種の錯体を、GPC測定によってそれらの分子量分布について検査した。分離塔としてはRP−1システムを使用した。溶離液としては、HNO3/水を使用し、屈折率の変化を検出した。
【0023】
基準物質は、商業標準の塩基性アルミニウム塩化物及びアルミニウム塩化物−六水和物である。
【0024】
塩基性アルミニウム塩化物は、次の保持時間において四つの顕著なピークを最大で示す。
【0025】
【表4】

【0026】
モノマー性アルミニウム塩化物−六水和物は、クロマトグラムでは、一つのピークを8.1分において示すのみである。従って、ポリマー性アルミニウム種は、分離塔の排除体積中を移動し、それ故最初に溶離、検出される。次いで、該新規有効成分の特徴付けのために、ピーク1〜4の面積を比較した。結果を表5にまとめる。
【0027】
【表5】

【0028】
上記表から明らかに示されるように、該新規有効成分においては、高分子量及び中程度の分子量を有するAl−ポリマーの割合が明らかに低減され、そしてこれと同時にAl−モノマー及びAl−オリゴマーの割合が大きく増加する。これと並行して、最大ピークは低分子量側にシフトする。
【0029】
【表6】

【0030】
例6
例1に記載の該新規アルミニウム錯体を、ジルコニウム塩と一緒に二次加工して発汗抑制作用混合物とした。
【0031】
【表7】

【0032】
先ず、塩基性ジルコニウム炭酸塩を塩酸中に溶解し、グリシンを加え、そしてこうして得られた混合物を、攪拌しながら、例1の新規発汗抑制作用Al−錯体に加えた。
【0033】
得られた有効成分組み合わせ物を、それの分子量分布に関してGPCによって分析した。分離塔としては、RP1−システムを使用した。溶離液としては、HNO3/水を使用し、屈折率の変化を検出した。基準物質としては、商業標準のジルコニウム−アルミニウム−グリシン−テトラクロロハイドレートを利用した。
【0034】
【表8】

【0035】
表8は、本発明による錯体配位子を有する該新規有効成分錯体が、高分子量ポリマーの低減された割合を示し、他方、Al−オリゴマー及びモノマー種は明らかに増加することを示している。
例7
例2に記載の新規アルミニウム錯体をジルコニウム塩と一緒に二次加工して、発汗抑制作用混合物とした。
【0036】
【表9】

【0037】
先ず、塩基性ジルコニウム炭酸塩を塩酸中に溶解し、グリシンを加え、そしてこうして得られた混合物を、攪拌しながら、例1の該新規発汗抑制作用Al−錯体に加えた。
【0038】
得られた有効成分組み合わせ物を、それの分子量分布に関してGPCにより分析した。分離塔としては、RP1システムを使用した。溶離液としては、HNO3/水を使用し、屈折率の変化を検出した。基準物質としては、商業標準のジルコニウム−アルミニウム−グリシン−テトラクロロハイドレートを利用した。
【0039】
【表10】

【0040】
表10は、本発明の錯体配位子を有する新規有効成分錯体が、高分子量ポリマーの低減された割合を示し、他方、Al−オリゴマー及びモノマー種は明らかに増加することを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム金属を、ハロゲン化水素酸と有機酸との混合物中に溶解するか、またはアルミニウム金属を先ずハロゲン化水素酸中に溶解し、次いで有機酸を加えて、アルミニウム金属とハロゲン化水素酸及び有機酸とを反応させることによって得られる、塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体。
【請求項2】
ハロゲン化水素酸としての塩酸との反応によって得られる、請求項1の塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体。
【請求項3】
有機酸としてのヒドロキシカルボン酸との反応によって得られる、請求項1の塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体。
【請求項4】
有機酸としてのグリコール酸または乳酸との反応によって得られる、請求項1の塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体。
【請求項5】
20〜100℃の温度での反応によって得られる、請求項1の塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体。
【請求項6】
アルミニウム金属を、ハロゲン化水素酸と有機酸との混合物と反応させ、次いで、ハロゲン化水素酸及び/または有機酸を加えることによって得られる、塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体。
【請求項7】
請求項1の塩基性アルミニウムハロゲン化物錯体と、慣用の発汗抑制有効成分との混合物。

【公表番号】特表2007−530482(P2007−530482A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504335(P2007−504335)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003003
【国際公開番号】WO2005/092795
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(597109656)クラリアント・プロドゥクテ・(ドイチュラント)・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (115)
【Fターム(参考)】