説明

塩基性モノマーの精製方法

【課題】 簡略で効率的なプロセスで、工業的に安定的に塩基性モノマーを蒸留して精製する方法を提供することである。
【解決手段】 蒸留に供する塩基性モノマーの蒸留留分に水分濃度0.1容量%以下の酸素含有ガスを共存させて蒸留する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は塩基性モノマーの精製方法に関し、詳しくはアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの精製方法に関し、さらに詳しくはアルキル(メタ)アクリレートとアルキルアミノアルコールとのエステル交換反応により得られるアルキルアミノ(メタ)アクリレートの精製方法に関する。
【0002】本願明細書では、アルキルアミノアクリレートまたはアルキルアミノアルキルメタクリレートを併せてアルキルアミノ(メタ)アクリレートと称する。
【0003】ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等は、そのまま、またはアミノ基を3級もしくは4級アンモニウム塩としたものは繊維の染色性改良剤、プラスチックの帯電防止剤、塗料における顔料分散剤、紫外線硬化助剤として、あるいは単独重合または他の不飽和化合物との共重合により生じた重合体は繊維処理剤、トナーバインダー、塗料、潤滑油添加剤、紙力増強剤、接着剤、イオン交換樹脂さらにはカチオン性高分子凝集剤などとして用いられるものであって、幅広い分野で有用である。
【0004】
【従来の技術】塩基性モノマーの一つであるアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法は、アルキル(メタ)アクリレートとアルキルアミノアルコールとのエステル交換反応による方法等で既に公知である。例えばアルキル(メタ)アクリレートとアルキルアミノアルコールとのエステル交換反応によりアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートを合成する場合、エステル交換触媒として、アルカリ金属アルコラート、マグネシウムアルコラート、チタンアルコラート、ジブチルスズオキサイド等の錫化合物またはアセチルアセトン等のアセチルアセトン金属錯体化合物を用いることが、特開昭59−98036号公報、特開昭50−19716号公報、欧州公開特許298867号公報、特公昭46−39848号公報、特開昭52−153913号公報、特開昭53−65816号公報、ドイツ特許2805702号公報、特開昭53−141214号公報等で知られている。
【0005】一般にこれらの触媒は水により失活しやすいことが知られており、これを防止するため触媒投入前に反応系内(原料中)の水分を脱水操作により除去する方法、触媒を反応系内に連続的に加える方法、触媒の使用量を多くする方法等が採用されている。
【0006】また、得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレートの精製は一般に蒸留操作により行われており、例えば特開平3−112949号公報には、反応後触媒を除去した後に、蒸留雰囲気を空気、5%ON(酸素5%含有窒素ガス)あるいは窒素雰囲気が採用されていることが記載されている。また、上記公報には、アルキルアミノアクリレートはメタクリレートに比べ極めて重合しやすく、空気あるいは5%ON雰囲気中での減圧蒸留では蒸留塔内、コンデンサー内、特に、蒸留塔釜及び加熱器での重合が激しいこと、重合防止剤の投入効果が満足できるものではないことが記載されている。さらに、上記公報には、これを防止する目的で窒素雰囲気で減圧蒸留することが開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、塩基性モノマーの工業的精製方法において窒素雰囲気での蒸留は、ややもすると塩基性モノマーの重合性原料、塩基性モノマー等が重合するなどの危険があるため、安定的な運転に問題があり、また窒素を吹き込むため経費が高くなるという問題点も有している。
【0008】また微量水分を除去した後でも、何らかの原因で経時的に触媒が失活するという問題点を有している。
【0009】さらに、アルキルアミノアクリレート等の塩基性モノマーは、メタクリレート等のモノマーに比べ極めて重合しやすく、空気あるいは5%ON雰囲気中での減圧蒸留では蒸留塔内、コンデンサー内、特に、蒸留塔釜及び加熱器での重合が激しいため、単に重合防止剤の投入するだけでは、工業的に安定的に精製できない問題点があった。
【0010】本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたものであり、簡略で効率的なプロセスで、工業的に安定的に塩基性モノマーを蒸留して精製する方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者は、原料を反応して得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレート等の塩基性モノマーを精製する際、特にアルキルアミノアクリレートを蒸留する際に、発生する重合について鋭意検討した結果、重合と考えている現象以外に、実際はアルキルアミノアクリレートあるいはエステル化の際副生されるアルキルアミノアルコキシプロピオネート類が加水分解を起こし、アルキルアミノ基とカルボキシル基で3級アンモニウム塩を生成していることを見出した。また、この塩は重合物と同じく粘着性を有し、特に蒸留塔釜および加熱器での発生がおおいため、あたかも重合していると見られていた。このため多量の重合防止剤の投入においても加水分解現象であるため止められるものではないことを見出した。
【0012】また本発明者らは、その加水分解の原因の一つとして、反応時及び減圧蒸留時の雰囲気ガス中の水分であることを見出した。空気は工業的製法において通常コンプレッサー等で圧縮した圧縮空気が用いられたり、減圧蒸留などの減圧下での操作の場合外気を吸引させる方法が採用されるが、空気中の水分は、気温、湿度等で変化はするものの、通常0℃で相対湿度100%の場合で0.6容量%;20℃で相対湿度100%の場合で2.3容量%;30℃で相対湿度100%の場合で4.2容量%の水分を含有している。20℃で相対湿度30〜60%としても0.69〜1.38容量%の水分を有している。また5%ON雰囲気中では(窒素中の水分が0とした場合)0.03〜0.07容量%の水分を有していることになる。
【0013】本発明者は、この様な知見に鑑みて、塩基性モノマーを蒸留して精製する際に、蒸留に供する液に導入する酸素含有ガス中の水分を抑えることにより、上記問題点を解決でき、安定的で且つ安価にアルキルアミノ(メタ)アクリレート等の塩基性モノマーが製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】すなわち、本発明は、塩基性モノマーを蒸留して精製する蒸留工程において、前記塩基性モノマーの蒸留留分に水分濃度0.1%以下の酸素含有ガスを共存させて蒸留する工程を有することを特徴とする塩基性モノマーの精製方法に関する。
【0015】前記蒸留工程は、前記酸素含有ガスを、蒸留に供する液の液相部に導入する工程であることが好ましい。
【0016】また本発明は、前記塩基性モノマーが、 一般式(1)
【0017】
【化11】


【0018】(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートである場合に特に有用である。
【0019】また本発明は、前記蒸留工程が、一般式(2)
【0020】
【化12】


【0021】(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R5は炭素数1〜4のアルキル基である)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、一般式(3)
【0022】
【化13】


【0023】(式中、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させて、前記一般式(1)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを得る工程である場合に有用である。
【0024】該工程で使用する反応蒸留装置における酸素含有ガスの吹き込み位置を反応液抜き出し口の上部に位置させることが好ましい。
【0025】また本発明は、前記蒸留工程が、前記一般式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、前記一般式(3)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させて、 前記一般式(1)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを得、得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む缶出液の蒸留工程である場合に有用である。
【0026】また本発明は、前記蒸留工程が、前記一般式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、前記一般式(3)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させて、 前記一般式(1)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを得、得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む缶出液を蒸留してアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む留出液を得、得られた留出液の蒸留工程である場合に有用である。
【0027】
【発明の実施の形態】本発明の方法に用いられる塩基性モノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジブチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジブチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルアクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート等のアルキルアミノ(メタ)アクリレート類;N−(ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(ジエチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(ジブチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、N−(ジエチルアミノエチル)メタクリルアミド、N−(ジブチルアミノエチル)メタクリルアミド、N−(ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、N−(ジエチルアミノプロピル)アクリルアミド、N−(ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、t−ブチルアミノエチルアクリルアミド、t−ブチルアミノエチルメタクリルアミド等のN−(アルキルアミノアルキル)(メタ)アクリルアミド類;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジブチルメタクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−t−ブチルメタクリルアミド等のN,N−アルキル(メタ)アクリルアミド類等が挙げられるが、アルキルアミノ(メタ)アクリレートの場合に特に有効である。
【0028】通常アルキルアミノ(メタ)アクリレートとしては、前記一般式(1)で表される。
【0029】本発明は、アルキルアミノ(メタ)アクリレート等の塩基性モノマーを蒸留して精製する蒸留工程において、前記塩基性モノマーの蒸留留分に水分濃度0.1%以下の酸素含有ガスを共存させて蒸留する工程を有することを特徴とする塩基性モノマーの精製方法に関する。
【0030】前記酸素含有ガスとしては、空気、酸素等を不活性ガスで希釈したガスが用いられ、不活性ガスとしては窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。希釈した場合の酸素濃度に特に制限はないが、好ましくは0.01容量%以上でありさらに好ましくは0.1容量%である。使用する酸素含有ガスとしては空気、空気を窒素で希釈したガス等が、安価で取り扱いやすい点で好ましい。
【0031】前記酸素含有ガス中の水分濃度は0.000001〜0.1容量%、好ましくは0.00001〜0.015容量%、さらに好ましくは0.00005〜0.005容量%の範囲である。水分が0.000001容量%よりも少なければより好ましいが高価となってしまい工業的な使用は難しい。水分量が多いと触媒の失活や生成したアルキルアミノ(メタ)アクリレート等の塩基性モノマーの加水分解を引き起こすおそれがある。
【0032】前記酸素含有ガスの導入量としては、使用する酸素含有ガスの種類及び塩基性モノマーにより異なるが、気相部で燃焼範囲に入らないガス量が好ましく、さらに好ましくは蒸留における塔頂蒸気に対し酸素として0.01容量%から2容量%である。
【0033】前記酸素含有ガスを、蒸留に供する液の液相部に導入することが効率的で好ましい。
【0034】前記蒸留時等に際しては、通常、塩基性モノマー、その重合性未反応原料もしくは副生成物等の重合を防止するため、重合禁止剤を添加してもよい。
【0035】前記酸素含有ガスと併用する重合禁止剤としては、フェノチアジン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチルカテコール、フェニル−β−ナフチルアミン、パラフェニレンジアミン等で、これらの化合物の1種あるいは2種以上が使用される。これらの使用量は全仕込重量に対して0.005〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%の範囲で使用される。
【0036】以下に、塩基性モノマーが前記アルキルアミノ(メタ)アクリレートである場合を例に、本発明をさらに詳細に説明する(反応蒸留工程)前記アルキルアミノ(メタ)アクリレートの製法としては、特に限定されないが、例えば前記一般式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、一般式(3)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させてエステル交換反応させる反応蒸留工程(A)を有する製法が挙げられ、その反応蒸留工程(A)に本発明の方法は好適に用いることができる。
【0037】前記反応蒸留工程(A)におけるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリート等を挙げる事ができる。特にメチル、エチル、n−ブチル(メタ)アクリレート使用が好ましい。
【0038】前記反応蒸留工程(A)におけるアルキルアミノアルコールとしては、例えばジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジプロピルアミノエタノール、ジブチルアミノエタノール、ジペンチルアミノエタノール、ジヘキシルアミノエタノール、ジオクチルアミノエタノール、メチルエチルアミノエタノール、メチルプロピルアミノエタノール、メチルブチルアミノエタノール、メチルヘキシルアミノエタノール、エチルプロピルアミノエタノール、エチルブチルアミノエタノール、エチルペンチルアミノエタノール、エチルオクチルアミノエタノール、プロピルブチルアミノエタノール、ジメチルアミノプロパノール、ジエチルアミノプロパノール、ジプロピルアミノプロパノール、ジブチルアミノプロパノール、ブチルペンチルアミノプロパノール等を挙げることができる。
【0039】前記反応蒸留工程(A)では、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルの使用量は使用アルキルアミノアルコール1モルに対して、1.2〜10モル、好ましくは1.5〜5モルの範囲である。そのときの(メタ)アクリル酸のアルキルエステルは反応開始時に一括に仕込んでも良いが、一部を分割して添加してもかまわない。
【0040】前記反応蒸留工程(A)では、アルキルアミノアルコールは反応系内に添加する方法であるため、反応開始時に仕込む必要はないが、一部を反応開始時に仕込んでもかまわない。この場合のアルキルアミノアルコールのモル濃度は反応系内の25モル%以下、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲である。そのときのアルキルアミノアルコールの添加時間は、使用する原料及び量、圧力、温度、触媒等によって変わる。添加開始は、通常反応開始と同時に始めて良く、反応系内のアルキルアミノアルコール濃度が25モル%以下、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下に保つように添加する。
【0041】前記反応蒸留工程(A)には触媒を用いてもよく、該触媒としては公知の物であればどれでもよくチタンアルコラート、アルミニウムアルコラート、マグネシウムアルコラート、有機錫化合物、ジルコニウム化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、タリウム化合物等を挙げることができる。とくにジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドのような有機錫化合物が選択率の面から好ましい。触媒の使用量はアルキル(メタ)アクリートとアルキルアミノアルコールの総量に対して、0.01〜10重量%の範囲であり、より好ましくは0.02〜5重量%の範囲である。
【0042】前記反応蒸留工程(A)における反応温度は40〜150℃、好ましくは60〜140℃の範囲で行なう事ができる。反応は通常常圧で行なうが、必要に応じ減圧又は加圧下でも行なう事ができる。
【0043】前記反応蒸留工程(A)において溶媒は用いる必要は無いが、使用する事も可能である。溶媒を用いる場合は、エステル交換反応で生成するアルキルアルコールと共沸混合物を生成する不活性溶媒、例えばヘキサン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサンなどの存在下に反応を行なう事ができる。
【0044】前記反応蒸留工程(A)において、目的物を高収率で得るためには、エステル交換反応で生成するアルキルアルコールを反応系外へ除外することが望ましい。具体的には未反応の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、又は溶媒との共沸蒸留により系外へ除去することができる。
【0045】また反応蒸留工程(A)における酸素含有ガスの吹き込み位置としては、反応蒸留に供する液の液相部が好ましく、さらに好ましくは液相部のバブリングによる攪拌効果および沈降しやすい触媒が沈降することによる反応蒸留釜の抜き出し口の閉塞を防止する目的で、反応蒸留釜から液を抜き出すために抜き出し口バルブの上部に吹き込み部を設置することである。
【0046】反応蒸留工程(A)において前記酸素含有ガスと併用してもよい重合禁止剤としては、フェノチアジン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチルカテコール、フェニル−β−ナフチルアミン、パラフェニレンジアミン等で、これらの化合物の1種あるいは2種以上が使用される。
【0047】これらの使用量は全仕込重量に対して0.005〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%の範囲で使用される。
【0048】(粗蒸留工程)また本発明は、前記一般式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、前記一般式(3)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させて、前記一般式(1)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを得、得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む缶出液を蒸留する粗蒸留工程にも有用である。
【0049】前記粗蒸留工程は、反応中および/または反応終了後に、通常、反応液を減圧下に、まず未反応のアルキル(メタ)アクリレートおよびアルキルアミノアルコールを留出せしめ、ついで粗製の目的物であるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを留出させ留出液として得、一方高沸点副生成物、触媒等を缶出液として得る工程である。
【0050】前記粗蒸留工程の蒸留方法に特に制約は無いが、バッチ式蒸留(蒸発)法、蒸留(蒸発)装置を2つ以上用いた連続式蒸留法が採用される。
【0051】前記粗蒸留工程の場合も、液相部への前記酸素含有ガスの導入が有効である。
【0052】前記酸素含有ガスとしては、使用した触媒の失活防止および生成したアルキルアミノ(メタ)アクリレートの加水分解を防止する目的で、前記反応時の酸素含有ガスが好ましく採用される。酸素含有ガスの液相部への吹き込み量は気相部で燃焼範囲に入らないガス量が好ましく、さらに好ましくは反応蒸留における塔頂蒸気に対し酸素として0.01容量%から2容量%である。
【0053】前記酸素含有ガスと併用してもよい重合禁止剤としては、フェノチアジン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチルカテコール、フェニル−β−ナフチルアミン、パラフェニレンジアミン等で、これらの化合物の1種あるいは2種以上が使用される。
【0054】これらの使用量は塔頂留出重量に対して0.001〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%の範囲で使用される。
【0055】(精留工程)また本発明は、前記一般式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、前記一般式(3)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させて、前記一般式(1)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを得、得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む缶出液を蒸留し、留出分として得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む留出液を蒸留する精留工程にも有用である。
【0056】前記精留工程は、反応蒸留後の留出液として得られる目的物であるアルキルアミノ(メタ)アクリレートの他に未反応の原料および高沸点不純物を含有しているため、さらに蒸留精製により高純度品を得る工程である。
【0057】その際の蒸留の方法としてはバッチ蒸留、蒸留装置を2つ以上有し軽沸蒸留工程、精製工程を行う連続蒸留等が採用される。
【0058】その際の蒸留精製工程にも前記酸素含有ガスの蒸留に供する液の液相部への吹き込みが好ましく採用される。
【0059】また、使用する蒸留塔の冷却器中に重合防止剤を投入してもよい。
【0060】前記酸素含有ガスと併用してもよい重合禁止剤としては、フェノチアジン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチルカテコール、フェニル−β−ナフチルアミン、パラフェニレンジアミン等で、これらの化合物の1種あるいは2種以上が使用される。
【0061】これらの使用量は全仕込重量に対して0.005〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%の範囲で使用される。
【0062】前記精留工程の缶出液中には、なお若干のアルキルアミノ(メタ)アクリレートが含有されている。そこで、さらに薄膜蒸留塔などでアルキルアミノ(メタ)アクリレートを回収することが望ましい。
【0063】本発明は、その際のアルキルアミノ(メタ)アクリレート回収工程にも、蒸留時の重合防止として採用できる。
【0064】さらにその際、前記重合防止剤の蒸留塔冷却器への投入等を併用することもできる。
【0065】また前記粗蒸留工程および精留工程は、熱重合反応の抑制という点から130℃以下で行うことが望ましい。
【0066】
【実施例】実施例1吹き込みガスに水分量0.001容量%の空気(以下、低水分空気1と呼ぶことがある)を用いて下記の操作を行った。
【0067】(反応蒸留工程)攪拌機、温度計、空気吹き込み管及び分留塔を備えた内容積3Lフラスコにジメチルアミノエタノール159.9部(1.8モル)、アクリル酸メチル1549.5部(18.0モル)、触媒としてジブチルスズオキサイド16.0部、重合禁止剤として、フェノチアジン8.7部を込み、低水分空気1を塔頂蒸気に対し0.5vol%で反応液相部に吹き込みを行い、常圧で攪拌しながら加熱した。還流開始後、反応系内のジメチルアミノエタール濃度が10モル%を越さないように、ジメチルアミノエタノール641.7部(7.2モル)を添加した。添加時間は4時間であった。生成したメタノールは、分留塔の塔頂温度を62〜70℃に維持して還留比0.5〜5.0でメタノール/メチルアクリレート共沸物として留出させた。反応は8時間で終了し反応液の分析を行ったところ、ジメチルアミノエタノールの転化率95%、選択率98%であった。
【0068】前記反応蒸留工程で得られた留出液を、蒸留装置(φ32mmオルダーショウ)を用いて常圧下で蒸留を行った。蒸留装置の塔底より低水分空気1を上昇蒸気に対し0.5容量%液相部に吹き込み、還流比1.5、塔頂温度62℃でメタノール/メチルアクリレートの共沸点留出成分を取り出し、塔底よりメチルアクリレートを取り出した。この液は再び反応で使用した。
【0069】(粗蒸留工程)前記反応蒸留工程で得られた缶出液を、攪拌機、温度計、空気吹き込み管及び蒸留装置を備えた内容積3Lフラスコにいれ、低水分空気1を塔頂の蒸気に対し0.5容量%で蒸留に供する液の液相部に導入し、圧力を常圧〜100mmHg、釜内温度75〜90℃で、アクリル酸メチルを主に含有する液を留出せしめ、更に圧力を100〜20mmHg、釜内温度80〜110℃で留出させ、アクリル酸ジメチルアミノエチルエステルを73重量%含有する留出液を得た。
【0070】缶底からはジブチルスズオキシドおよびフェノチアジンを含有した液を得た。この液は次の反応に触媒溶液として用いた。アクリル酸メチルを主に含有する液は再び反応で使用した。
【0071】(精留工程1)前記粗蒸留工程で留出液として得られたジメチルアミノエチルアクリレートを73重量%含有する液を蒸留装置を用いて、40mmHgの減圧下で蒸留を行った。低水分空気1を蒸留に供する液の液相部に上昇蒸気に対し0.5容量%で蒸留装置内に導入し、塔頂温度50℃でメチルアクリレートやジメチルアミノエタノールを取り出し、塔底からジメチルアミノエチルアクリレートを93重量%含有する缶出液を得た。塔頂から留出した原料は再び反応で使用した。
【0072】(精留工程2)前記精留工程1で缶出液として得られたジメチルアミノエチルアクリレートを93重量%含有する液を蒸留装置を用いて、低水分空気1を塔頂蒸気量に対し0.5vol%で蒸留に供する液の液相部に吹き込み、25mmHgの減圧下で蒸留を行った。塔頂温度76〜79℃でジメチルアミノエチルアクリレートを留出液として取り出し、塔底からジメチルアミノエチルアクリレート20重量%と高沸点不純物80重量%とを含有する缶出液を得た。
【0073】精留工程2で得たジメチルアミノエチルアクリレートを20重量%含有する缶出液を薄層蒸留装置を用いて、25mmHgの減圧下で蒸留を行った。塔頂温度76〜79℃でジメチルアミノエチルアクリレート50重量%含有する液を留出させ、塔底からジメチルアミノエチルアクリレート5重量%と高沸点不純物95%とを含有する液を得た。留出させた液は再び蒸留工程2に供給した。
【0074】上記のようにして得られたジメチルアミノエチルアクリレートの収量は402.8部で、純度は99.9重量%であった。収率は、仕込みジメチルアミノエチルアルコール基準で、93.6モル%であった。
【0075】各工程で容器として使用したフラスコにはすべて粘着性塩の発生は認められなかった。
【0076】実施例2実施例1において、水分量0.01容量%、酸素濃度7容量%/窒素93容量%のガスを用いた以外は同様に操作した。
【0077】ジメチルアミノエチルアクリレートの収量は401.9部で、純度は99.9重量%であった。収率は、仕込みジメチルアミノエチルアルコール基準で、93.5モル%であった。各工程で容器として使用したフラスコにはすべて粘着性塩の発生は認められなかった。
【0078】実施例3実施例1において、低水分空気1のかわりに、水分量0.1容量%、酸素濃度5容量%/窒素95容量%のガスを用いた以外は同様に操作した。
【0079】ジメチルアミノエチルアクリレートの収量は401.1部で、純度は99.9重量%であった。収率は、仕込みジメチルアミノエチルアルコール基準で、93.2モル%であった。各工程で容器として使用したフラスコのうち、粗蒸留工程および精留工程2で使用した加熱後のフラスコ内には粘着性の付着物が若干発生していた。
【0080】比較例1実施例1において、低水分空気1のかわりに、水分量1.1容量%(20℃、相対湿度47%)の空気を用いた以外は同様に操作した。
【0081】ジメチルアミノエチルアクリレートの収量は400.3部で、純度は99.8重量%であった。収率は、仕込みジメチルアミノエチルアルコール基準で、93.0モル%であった。
【0082】反応蒸留工程後の容器として使用したフラスコ内、並びに粗蒸留工程および精留工程に容器として使用した加熱後のフラスコ内には、粘着性の付着物が発生していた。
【0083】比較例2実施例1において、低水分空気1のかわりに、水分量0.2容量%の酸素濃度5容量%/窒素95容量%のガスを用いた以外は同様に操作した。
【0084】ジメチルアミノエチルアクリレートの収量は400.3部で、純度は99.8重量%であった。収率は、仕込みジメチルアミノエチルアルコール基準で、93.0モル%であった。
【0085】粗蒸留工程後のフラスコ内、および精留工程2の加熱フラスコ内に粘着性の付着物が発生していた。
【0086】実施例4吹き込みガスに水分量0.00005容量%の空気(以下、低水分空気2と呼ぶことがある)を用いて下記の操作を行った。
【0087】(反応蒸留工程)攪拌機、温度計、分留塔およびフラスコ底部からの抜き出し口を備えた内容積3Lフラスコにジメチルアミノエタノール159.9部(1.8モル)、アクリル酸メチル1549.5部(18.0モル)、触媒としてジブチルスズオキサイド16.0部、重合禁止剤として、フェノチアジン8.7部を込み、低水分空気2を塔頂蒸気に対し0.5vol%でフラスコ底部の抜き出し口より吹き込みを行い、常圧で攪拌しながら加熱した。
【0088】還流開始後、反応系内のジメチルアミノエタール濃度が10モル%を越さないように、ジメチルアミノエタノール641.7部(7.2モル)を添加した。添加時間は4時間であった。生成したメタノールは、分留塔の塔頂温度を62〜70℃に維持して還留比0.5〜5.0でメタノール/メチルアクリレート共沸物として留出させた。
【0089】反応は8時間で終了し反応液の分析を行ったところ、ジメチルアミノエタノールの転化率95%、選択率98%であった。触媒はすべて溶解し、フラスコ抜き出し口の詰まりは認められなかった。また、粘着性物質の発生も認められなかった。
【0090】比較例3実施例4の反応装置において、空気吹き込み管をもうけ、低水分空気2の吹き込み部をフラスコ底部の抜き出し口から空気吹き込み管に変え、同様に反応をおこなったところ、反応初期より触媒がフラスコ抜き出し口に沈降し、反応の進行と共に溶解したが、反応が8時間で終了しても完全には溶解していない部分があった。反応液をフラスコ抜き出し口より抜き出そうとしたが、つまりがあり、抜き出せなかった。反応液の分析を行ったところ、ジメチルアミノエタノールの転化率93%、選択率90%であった。
【0091】
【発明の効果】本発明を用いれば、(1)極めて重合しやすい塩基性モノマーの重合性原料、副生成物、塩基性モノマー等が重合することなく工業的に安定的に蒸留精製できる(2)蒸留時の蒸留塔内、コンデンサー内等の装置内、特に、蒸留塔釜及び加熱器での、塩基性モノマー等の重合が効果的に防止できる。
【0092】(3)また使用する触媒が経時的に失活するという触媒への悪影響がない。
【0093】(4)また減圧装置等の装置が必要でなく、簡略で安価なプロセスが可能となる。
【0094】等の効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 塩基性モノマーを蒸留して精製する蒸留工程において、前記塩基性モノマーの蒸留留出分に水分濃度0.1容量%以下の酸素含有ガスを共存させて蒸留する工程を有することを特徴とする塩基性モノマーの精製方法。
【請求項2】 前記蒸留工程が、前記酸素含有ガスを、蒸留に供する液の液相部に導入する工程である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】 前記塩基性モノマーが、 一般式(1):
【化1】


(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートである請求項1または2記載の精製方法。
【請求項4】 前記蒸留工程が、一般式(2):
【化2】


(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R5は炭素数1〜4のアルキル基である)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、一般式(3):
【化3】


(式中、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させて、 一般式(1):
【化4】


(R1は水素原子またはメチル基であり、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを得る蒸留工程である請求項1または2に記載の精製方法。
【請求項5】 使用する反応蒸留装置における酸素含有ガスの吹き込み位置を反応蒸留液抜き出し口の上部に位置させる請求項4記載の精製方法。
【請求項6】 前記蒸留工程が、一般式(2):
【化5】


(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R5は炭素数1〜4のアルキル基である)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、一般式(3):
【化6】


(式中、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させて、 一般式(1):
【化7】


(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを得、得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む缶出液の蒸留工程である請求項1または2のいずれかに記載の精製方法。
【請求項7】 前記蒸留工程が、一般式(2):
【化8】


(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R5は炭素数1〜4のアルキル基である)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、一般式(3):
【化9】


(式中、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノアルコールとを反応蒸留させて、 一般式(1):
【化10】


(式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は炭素数1〜8のアルキル基であり、R4は炭素数1〜4のアルキレン基である)で表されるアルキルアミノ(メタ)アクリレートを得、得られたアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む缶出液を蒸留してアルキルアミノ(メタ)アクリレートを含む留出液を得、得られた留出液の蒸留工程である請求項1または2のいずれかに記載の精製方法。

【公開番号】特開平11−189574
【公開日】平成11年(1999)7月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−357310
【出願日】平成9年(1997)12月25日
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)