説明

塩基発生剤の製造方法

【課題】高感度の塩基発生剤を、小さな環境負荷で、安価に、高い収率で製造できる塩基発生剤の製造方法を提供する。
【解決手段】 下記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に、有機溶剤中、塩基存在下で、下記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を反応させる工程を有することを特徴とする、下記一般式(1)で表される塩基発生剤の製造方法。


(式中の記号は、明細書に記載の通りである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波の照射及び加熱により塩基を発生する塩基発生剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂組成物は、例えば、電子部品、光学製品、光学部品の成形材料、層形成材料又は接着剤などに用いられ、特に、電磁波によるパターニング工程を経て形成される製品又は部材に好適に利用されてきている。
【0003】
例えば、高分子材料であるポリイミドは、耐熱性、寸法安定性、絶縁特性といった性能が有機物の中でもトップクラスの性能を示すため、電子部品の絶縁材料等へ広く適用され、半導体素子の中のチップコーティング膜や、フレキシブルプリント配線板の基材などとして盛んに利用されてきている。
しかし、一般にポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく、加工が困難なため、ポリイミドを所望の形状にパターニングする方法として、溶媒溶解性に優れるポリイミド前駆体の状態で露光と現像によるパターニングを行い、その後、熱処理等によりイミド化を行いポリイミドのパターンを得るという方法がある。
【0004】
ポリイミド前駆体のパターニング手法の一つとして、ポリイミド前駆体のポリアミック酸に、光塩基発生剤を混合し、露光後加熱することで露光によって発生した塩基の作用によって環化を進行させ、現像液に対する溶解性を低下させることで、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後にイミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法が報告されている(特許文献1)。
【0005】
光塩基発生剤を用いた感光性樹脂組成物としては、その他に、エポキシ系化合物を用いた例がある(例えば、特許文献2)。光塩基発生剤に光を照射することによってエポキシ系化合物を含む層中でアミン類を発生させることで、アミン類が開始剤あるいは触媒として作用し、露光部だけエポキシ系化合物を硬化させることができ、パターン形成を行うことができる。
【0006】
光塩基発生剤を用いた感光性樹脂組成物は、既存の高分子前駆体に、光塩基発生剤を一定比率で混合するだけで感光性高分子前駆体を得ることができるため、樹脂組成物を製造するプロセスが簡便である。特に、従来用いる前駆体化合物の構造が制約されたポリイミド前駆体にとっては、種々の構造のポリイミド前駆体に適用できるため汎用性が高いという利点がある。しかし、従来の光塩基発生剤は感度が低いため、電磁波の照射量が多くなってしまうという問題があった。電磁波の照射量が多くなってしまうと、単位時間の処理量(スループット)が低下する問題もあった。
【0007】
感度が高い光塩基発生剤として、本発明者らは、ヒドロキシ桂皮酸アミド誘導体からなる光塩基発生剤を開発した(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−227154号公報
【特許文献2】特開2003−212856号公報
【特許文献3】国際公開第2009/123122号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に記載されたヒドロキシ桂皮酸アミド誘導体からなる塩基発生剤は、これまで、縮合剤として1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)やN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いて、カルボン酸と塩基性化合物を縮合して製造していた。しかしながら、EDCは工業的に用いるには高価であるという問題があり、DCCは縮合剤由来の固形の廃棄物が大量に生成されるため、目的物との分離が困難であるとともに環境負荷が大きいという問題があった。加えて、前記方法により製造する場合、得られる塩基発生剤の収率は十分なものではないという問題があった。したがって、環境負荷が小さく、安価に製造でき、より収率の高い製造方法が求められていた。
【0010】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その主目的は、高感度の塩基発生剤を、小さな環境負荷で、安価に、高い収率で製造できる塩基発生剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、出発物質として、ベンズアルデヒド誘導体とホスホネート誘導体を用いることにより、前記縮合剤を用いることなく塩基発生剤を製造することができるとの知見を得た。
更に、本発明者らは、塩基存在下でベンズアルデヒド誘導体とホスホネート誘導体を反応させることにより、塩基発生剤が高収率で得られることを見出した。
【0012】
本発明の下記一般式(1)で表される塩基発生剤の製造方法は、下記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に、有機溶剤中、塩基存在下で、下記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を反応させる工程を有することを特徴とする。
【0013】
【化1】

(一般式(A)、一般式(B)及び一般式(1)において、Rは、水素原子、或いは、加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護可能な保護基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、アジド基又は有機基であり、同一であっても異なっていても良い。R、R、R及びRは、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良く、ヘテロ原子の結合を含んでいても良い。R及びRは、それぞれ独立に有機基であり、同一であっても異なっていても良い。Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、又は有機基である。R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基であり、同一であっても異なっていても良い。R及びR10は、それらが結合して環状構造を形成していても良く、ヘテロ原子の結合を含んでいても良い。但し、R及びR10のうち少なくとも1つは有機基である。)
【0014】
本発明で製造される塩基発生剤の製造方法においては、前記塩基が、金属アルコキシドであることが、工業的に入手が容易であり、塩基性が強く、塩基発生剤の収率が高い点から好ましく、中でも、求核性の低いカリウム−t−ブトキシドであることが、塩基発生剤の収率が高い点からより好ましい。
【0015】
本発明で製造される塩基発生剤の製造方法においては、前記有機溶媒が、炭素数1〜3のアルコール、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル及びジメチルスルホキシドよりなる群から選択される1種以上の溶媒であることが、環境負荷が小さく、安価に製造でき、塩基発生剤の収率が高い点から好ましい。
【0016】
本発明で製造される塩基発生剤の製造方法においては、前記一般式(B)におけるR及びRが、それぞれ独立に、アルキル基であることが、環境負荷が小さく、安価に製造でき、塩基発生剤の収率が高い点から好ましく、中でも、R及びRが、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る製造方法によれば、高感度の塩基発生剤を、小さな環境負荷で、安価に、高い収率で製造できる塩基発生剤の製造方法を提供することができる。原料となるベンズアルデヒド誘導体やホスホネート誘導体は、化成品を購入出来るかあるいは少ない工程数で得ることができるため、本発明の製造方法は、工業生産性の高い製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。
なお、本発明において、電磁波とは、波長を特定した場合を除き、可視及び非可視領域の波長の電磁波だけでなく、電子線のような粒子線、及び、電磁波と粒子線を総称する放射線又は電離放射線が含まれる。本明細書では、電磁波の照射を露光ともいう。なお、波長365nm、405nm、436nmの電磁波をそれぞれ、i線、h線、g線とも表記することがある。
【0019】
(塩基発生剤の製造方法)
本発明の下記一般式(1)で表される塩基発生剤の製造方法は、下記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に、有機溶剤中、塩基存在下で、下記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を反応させる工程を有することを特徴とする。
【0020】
【化2】

(一般式(A)、一般式(B)及び一般式(1)において、Rは、水素原子、或いは、加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護可能な保護基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、アジド基又は有機基であり、同一であっても異なっていても良い。R、R、R及びRは、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良く、ヘテロ原子の結合を含んでいても良い。R及びRは、それぞれ独立に有機基であり、同一であっても異なっていても良い。Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、又は有機基である。R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基であり、同一であっても異なっていても良い。R及びR10は、それらが結合して環状構造を形成していても良く、ヘテロ原子の結合を含んでいても良い。但し、R及びR10のうち少なくとも1つは有機基である。)
【0021】
本発明に係る塩基発生剤の製造方法は、上記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に、有機溶媒中、塩基存在下で、上記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を反応させる工程を有することにより、小さな環境負荷で、安価に、且つ、高収率で優れた感度を有する塩基発生剤を製造することができる。
【0022】
上記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に、有機溶媒中、塩基存在下で、上記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を反応させる工程を有することにより、環境負荷が低く、安価に、且つ、高収率で優れた感度を有する塩基発生剤を製造することができるのは、未解明ではあるが、次のように推定される。
【0023】
一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を用いると、脱水縮合反応を用いなくてもあらかじめ塩基性化合物を導入することができる。このため、従来のようなカルボン酸と塩基性化合物の脱水縮合反応は不要となり、高価な1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)や、反応時に大量の固形物を生成するN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等の縮合剤が不要となる。更に本発明の製造方法により生じるリン化合物は水溶性であるため除去が容易で、環境負荷が低く、安価に製造できる。
また、一般式(B)で表されるホスホネート誘導体から生じるホスホナートカルボアニオンは、前記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に対して反応性が高く、位置選択性が高い。このため、一般式(1)で表されるようなトランス体が優位に生成され、高収率で優れた感度を有する塩基発生剤を製造することができるものと推定される。
【0024】
本発明で製造される上記式(1)で表される塩基発生剤は、光塩基発生剤の1種であり、電磁波が照射されるだけでも塩基を発生するが、適宜加熱をすることにより、塩基の発生が促進される。本発明で製造される塩基発生剤は、電磁波の照射と加熱を組み合わせることにより、少ない電磁波照射量で、効率的に塩基を発生することが可能であり、従来の光塩基発生剤と比べて高い感度を有する。
【0025】
本発明の製造方法により製造される上記式(1)で表される塩基発生剤は、電磁波が照射されることにより、下記式で示されるように、式(1)中の(−CH=CR−C(=O)−)部分がトランス体からシス体へと異性化し、さらに、場合により加熱及び/又は電磁波の照射によって保護基Rが脱保護されると共に、環化し、塩基(NHR10)を生成する。
【0026】
【化3】

【0027】
上記塩基発生剤は、種々の高分子前駆体と組み合わせることにより、容易に感光性樹脂組成物を調製することができる。上記の反応により発生した塩基の触媒作用によって、高分子前駆体が最終生成物となる際の反応が開始される温度を下げたり、高分子前駆体が最終生成物となる硬化反応を開始することができる。
【0028】
[一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体、一般式(B)で表されるホスホネート誘導体、一般式(1)で表される塩基発生剤]
上記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体と上記一般式(1)で表される塩基発生剤におけるR〜Rは同じであり、上記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体と上記一般式(1)で表される塩基発生剤におけるR〜R10同じであるため、R〜R10について、以下順に説明する。
【0029】
<R
上記一般式(A)及び上記一般式(1)において、Rは、水素原子、或いは、加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護可能な保護基である。ここで、“脱保護可能な”とは、−ORから−OHに変化する可能性があることを表す。Rが水素原子の場合には、本発明に係る塩基発生剤は、環化することで、フェノール性水酸基を消失し、溶解性が変化し、塩基性水溶液等の場合には溶解性が低下する。前記塩基発生剤を感光性樹脂組成物として用いる場合、例えば、感光性樹脂組成物に含まれる高分子前駆体がポリイミド前駆体やポリベンゾオキサゾール前駆体である場合、当該前駆体の最終生成物への反応による溶解性の低下を更に補助する機能を有し、露光部と未露光部の溶解性コントラストを大きくすることが可能となる。
【0030】
また、Rが加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護可能な保護基である場合、加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護されて、水酸基を生成する。Rは、本発明で製造される塩基発生剤において脱保護以外の分解が起こらない条件下で、例えば式(1)中に存在するアミド基が分解しない条件下で、加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護可能なフェノール性水酸基の保護基であれば、特に限定されず用いることができる。例えば、アミド基は、三臭化ホウ素や三塩化アルミニウム等の強ルイス酸や硫酸、塩酸、硝酸等の強酸等が存在する強酸性下における加熱や、水酸化ナトリウム等の強塩基が存在する強塩基性下における加熱により分解する。従って、このような強酸性又は強塩基性条件下での加熱でしか脱保護されない保護基は、本発明の塩基発生剤に用いられる保護基としては不適切である。Rは、溶解性や相溶性の向上或いは合成時の反応性の変化などを目的として、当該塩基発生剤と組み合わせて用いられる化合物の種類や、塩基発生剤の適用方法や合成方法により適宜選択されるものである。
【0031】
加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護可能な保護基としてのRは、シリル基、シラノール基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、又は1価の有機基から選択することができる。
【0032】
としては、下記式(2−1)〜下記式(2−6)で表される有機基よりなる群から選択される1種以上であることが、式(1)中に存在するアミド基が分解しない条件下で、加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護可能な点から好ましい。
【0033】
【化4】

(式(2−1)中、R20、R21、R22はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または1価の有機基であり、R23は1価の有機基であり、R20、R21、R22、R23はそれぞれ互いに結合して環状構造を示していても良い。式(2−2)中、R24は、1価の有機基である。式(2−3)中、R25、R26、R27はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、または1価の有機基である。式(2−4)中、R28は、1価の有機基である。式(2−5)中、R29は、置換基を有していても良い芳香環である。式(2−6)中、R30は、1価の有機基である。)
【0034】
上記式(2−1)で表される有機基は、例えば以下のように、フェノール性水酸基とビニルエーテル化合物との反応により得ることができる。
【0035】
【化5】

(式中、R20、R21、R22、及びR23はそれぞれ式(2−1)と同じである。)
【0036】
上記式(2−1)で表される有機基のR20、R21、R22、R23は、上記反応により得る場合には、用いられるビニルエーテル化合物の構造によって決まる。前記塩基発生剤を感光性樹脂組成物に用いる場合には、上記式(2−1)で表される有機基は、当該塩基発生剤と組み合わせて用いられる高分子前駆体などの化合物の種類や、適用方法により適宜選択されれば良く、特に限定されるものではない。
20、R21、R22は、水素原子、または、置換または無置換のアルキル基、アリル基、アリール基が好ましい。特に原料入手の容易性から、水素原子であることが好ましい。また、1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素原子を有する置換基は化合物の安定性の点から含まないことが好ましい。
【0037】
上記式(2−1)で表される有機基のR23は、炭素数が1以上の1価の有機基である。R23は、炭化水素原子骨格を有する基が例示される。炭化水素原子骨格を有する基は、ヘテロ原子等の炭化水素原子以外の結合や置換基を含んでいてもよいし、そのようなヘテロ原子の部分が芳香環に組み込まれて複素環となっていても良い。炭化水素原子骨格を有する基としては、例えば、直鎖、分岐鎖、又は環状の飽和又は不飽和炭化水素原子基、直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和ハロゲン原子化アルキル基、或いは、フェニル、ナフチル等の芳香族基、さらには、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素原子骨格中にエーテル結合を含有する基(例えば、−(R−O)−R’、ここでR及びR’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素原子、nは1以上の整数;−R”−(O−R”’)、ここでR”及びR”’は置換又は無置換の飽和又は不飽和炭化水素原子、mは1以上の整数、−(O−R”’)はR”の末端とは異なる炭素に結合している;などが挙げられる。)、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素原子骨格中にチオエーテル結合を含有する基、直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和の炭化水素原子骨格上にシアノ基、シリル基、ニトロ基、アセチル基、アセトキシ基等のヘテロ原子又はヘテロ原子を含有する基が結合してなるさまざまな基が挙げられる。また、上記式(2−1)で表される有機基のR23は、R20やR21と連結して環状構造を有していても良い。R23も、1級、2級、3級のアミノ基や、水酸基などの活性水素原子を有する置換基は化合物の安定性の点から含まないことが好ましい。
【0038】
下記式(2−1)で表される有機基は、加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護するが、脱保護する温度は、一般に上記式中のR23において、ビニルエーテル化合物のエーテル結合の酸素原子と直接結合している炭素が、第3級炭素原子(以下、単に「3級炭素」という場合がある)<第2級炭素原子(以下、単に「2級炭素」という場合がある)<第1級炭素原子(以下、単に「1級炭素」という場合がある)の置換基の順で高くなる傾向がある。一方、保護するためのビニルエーテル化合物と水酸基の反応は、一般に上記式中のR23において、酸素原子と結合する炭素が1級炭素<2級炭素<3級炭素の置換基の順で高い反応率を示す傾向がある。そのため、当該塩基発生剤と組み合わせる化合物と使用方法により、脱保護するための加熱温度が選択され、その加熱温度から保護基を適宜選択することが好ましい。
なお、本発明において、エーテル酸素に結合する炭素原子(式(2−1)のR23において酸素原子と結合している炭素原子)、又は式(2−1)の有機基を誘導するビニルエーテル化合物のビニル基に結合したエーテル酸素に結合するもう一方の炭素原子について、第1級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が0個又は1個の場合をいい、第2級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が2個の場合をいい、第3級炭素原子とは、結合している他の炭素原子が3個の場合をいう。
【0039】
前記式(2−1)中のR23は、炭素数が1〜18であることが、分解物の揮発性の点から好ましく、炭素数が3〜10であることが更に好ましい。
【0040】
前記式(2−1)のR23としては特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、エチニル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、シクロヘキシロキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキシプロピル基、ブトキシプロピル基、シクロヘキシロキシプロピル基、2−テトラヒドロピラニル基等が挙げられる。また、前記式(2−1)においてR23が、R20やR21と連結して環状構造となり、2−テトラヒドロピラニル基等の環状エーテルとなったもの等が挙げられる。
【0041】
上記式(2−2)で表される有機基は、例えば、フェノール性水酸基と所謂カーボネート系保護基との反応により得ることができる。カーボネート系保護基としては、例えば、tert−ブトキシカルボニル基(Boc−)、ベンジルオキシカルボニル基(Z−)、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc−)、1,1−ジオキソベンゾ[b]チオフェン−2−イルメトキシカルボニル基(Bsmoc−)、2−(4−ニトロフェニルスルホニル)エトキシカルボニル基(Nsc−)、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基(Z(OMe−))、アリルオキシカルボニル基(Alloc−)、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基(Troc−)等が挙げられる。
【0042】
前記式(2−2)のR24としては特に限定されないが、例えば、tert−ブチル基、ベンジル基、9−フルオレニルメチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、アリル基、p−メトキシベンジル基、1,1−ジオキソベンゾ[b]チオフェン−2−イルメチル基、2−(4−ニトロフェニルスルホニル)エチル基、o−ニトロベンジル基等が挙げられる。o−ニトロベンジル基の場合には、電磁波照射により脱保護が可能である。
【0043】
上記式(2−3)で表される有機基は、例えば、フェノール性水酸基とシリルエーテル系保護基との反応により得ることができる。
シリルエーテル系保護基としては例えば、トリメチルシリル基(TMS−)、tert−ブチルジメチルシリル基(TBDMS−)、tert−ブチルジフェニルシリル基(TBDPS−)、トリイソプロピルシリル基(TIPS−)等が挙げられる。
【0044】
前記式(2−3)のR25、R26、R27としては特に限定されないが、例えば、メチル基、tert−ブチル基、イソプロピル基等のアルキル基、フェニル基のアリール基が好適に用いられる。
【0045】
上記式(2−4)で表される有機基は、例えば、フェノール性水酸基と酸塩化物または酸無水物により得ることができる。
式(2−4)で表されるエステル系保護基としては、例えば、アセチル基(Ac−)、ピバロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0046】
前記式(2−4)のR28としては特に限定されないが、例えば、メチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等が好適に用いられる。
【0047】
上記式(2−5)で表される有機基は、例えば、Williamson反応を用いてフェノール性水酸基とハロゲン原子化物により得ることができる。
式(2−5)で表されるエーテル系保護基としては、例えば、置換基を有していても良いベンジル基等が挙げられる。
【0048】
前記式(2−5)のR29は置換基を有していても良い芳香環であり、特に限定されないが、置換基を有していても良いフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。特に、式(2−5)で表される有機基が、o−ニトロベンジル基の場合、すなわち、R29が2−ニトロフェニル基の場合には、電磁波照射により脱保護が可能である。
【0049】
上記式(2−6)で表される有機基は、例えば、フェノール性水酸基とイソシアネートとの反応により得ることができる。カルバメート系保護基としては、例えば、ベンジルイソシアネート等が挙げられる。
前記式(2−6)のR30としては特に限定されないが、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
【0050】
<R、R、R及びR
上記一般式(A)及び一般式(1)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、アジド基又は有機基であり、同一であっても異なっていても良い。R、R、R及びRは、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良く、ヘテロ原子の結合を含んでいても良い。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが挙げられる。
有機基としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に制限がなく、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及び飽和又は不飽和ハロゲン原子化アルキル基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、カルボキシル基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、ヒドロキシイミノ基、エポキシ基、オキセタン基、チイラン基、グリシジルエーテル基、グリシジルエステル基、(メタ)アクリロイル基(−CO−CR=CH;ここでRは水素又はメチル基)等が挙げられる。これらの有機基は、当該有機基中にヘテロ原子等の炭化水素原子基以外の結合や置換基を含んでよく、これらは、直鎖状でも分岐状でも良い。
【0051】
前記R〜Rの有機基中の炭化水素原子基以外の結合としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に限定されず、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合、アゾ結合等が挙げられる。
耐熱性の点から、有機基中の炭化水素原子基以外の結合としては、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(−N=C(−R)−、−C(=NR)−:ここでRは水素原子又は1価の有機基)、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合が好ましい。
【0052】
前記R〜Rの有機基中の炭化水素原子基以外の置換基としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に限定されず、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、ヒドロキシイミノ基、飽和又は不飽和アルキルエーテル基、飽和又は不飽和アルキルチオエーテル基、アリールエーテル基、及びアリールチオエーテル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、グリシジルエステル基、オキセタン基、チイラン基、(メタ)アクリロイル基(−CO−CR=CH;ここでRは水素又はメチル基)、アミノ基(−NH2, −NHR, −NRR’:ここで、R及びR’はそれぞれ独立に炭化水素原子基)、アンモニオ基、アジド基(−N−N≡N)等が挙げられる。上記置換基に含まれる水素原子は、炭化水素原子基によって置換されていても良い。また、上記置換基に含まれる炭化水素原子基は、直鎖、分岐、及び環状のいずれでも良い。
中でも、R〜Rの有機基中の炭化水素原子基以外の置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、ヒドロキシイミノ基、飽和又は不飽和アルキルエーテル基、飽和又は不飽和アルキルチオエーテル基、アリールエーテル基、及びアリールチオエーテル基、エポキシ基、グリシジルエーテル基、グリシジルエステル基、オキセタン基、チイラン基、(メタ)アクリロイル基(−CO−CR=CH;ここでRは水素又はメチル基)、が好ましい。
【0053】
また、R〜Rは、それらのうち2つ以上が結合して環状構造になっていても良い。
環状構造は、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素原子、複素環、及び縮合環、並びに当該脂環式炭化水素原子、複素環、及び縮合環よりなる群から選ばれる2種以上が組み合されてなる構造であっても良い。例えば、R〜Rは、それらの2つ以上が結合して、R〜Rが結合しているベンゼン環の原子を共有してナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン等の縮合環を形成していても良い。
【0054】
本発明においては置換基R〜Rに、置換基を1つ以上導入することが好ましい。すなわち、R、R、R及びRの少なくとも1つが、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、アジド基又は1価の有機基であることが好ましい。置換基R〜Rに、上記のような置換基を少なくとも1つ導入することにより、吸収する光の波長を調整することが可能であり、置換基を導入することで所望の波長を吸収させるようにすることもできる。芳香族環の共役鎖を伸ばすような置換基を導入することにより、吸収波長を長波長にシフトすることができる。また、溶解性を向上させることもできる。本発明の製造方法により製造される塩基発生剤を感光性樹脂組成物に用いる場合には、組み合わせる高分子前駆体との相溶性が向上するようにすることもできる。これにより、組み合わせる高分子前駆体の吸収波長も考慮しながら、感光性樹脂組成物の感度を向上させることが可能である。
【0055】
所望の波長に対して吸収波長をシフトさせる為に、どのような置換基を導入したら良いかという指針として、Interpretation of the Ultraviolet Spectra of Natural Products(A.I.Scott 1964)や、有機化合物のスペクトルによる同定法第5版(R.M.Silverstein 1993)に記載の表を参考にすることができる。
【0056】
〜Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜20のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数4〜23のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数4〜23のシクロアルケニル基;フェノキシメチル基、2−フェノキシエチル基、4−フェノキシブチル基等の炭素数7〜26のアリールオキシアルキル基(−ROAr基);ベンジル基、3−フェニルプロピル基等の炭素数7〜20のアラルキル基;シアノメチル基、β−シアノエチル基等のシアノ基をもつ炭素数2〜21のアルキル基;ヒドロキシメチル基等の水酸基をもつ炭素数1〜20のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、アセトアミド基、ベンゼンスルホナミド基(CSONH−)等の炭素数2〜21のアミド基、メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜20のアルキルチオ基(−SR基)、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数1〜20のアシル基、メトキシカルボニル基、アセトキシ基等の炭素数2〜21のエステル基(−COOR基及び−OCOR基)、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、トリル基等の炭素数6〜20のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換した炭素数6〜20のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換したベンジル基、シアノ基、及びメチルチオ基(−SCH)、エポキシ基、グリシジルエーテル基、グリシジルエステル基、オキセタン基、チイラン基、(メタ)アクリロイル基(−CO−CR=CH;ここでRは水素又はメチル基)であることが好ましい。また、上記のアルキル部分は直鎖でも分岐状でも環状でも良い。
また、R〜Rとしては、それらの2つ以上が結合して、R〜Rが結合しているベンゼン環の原子を共有してナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン等の縮合環を形成している場合も、吸収波長が長波長化する点から好ましい。
【0057】
また、本発明で製造される塩基発生剤において、R、R、R及びRの少なくとも1つが水酸基である場合、R、R、R及びRに水酸基を含まない化合物と比べ、塩基性水溶液等に対する溶解性の向上、および吸収波長の長波長化が可能な点から好ましい。また、特にRがフェノール性水酸基である場合、シス体に異性化した化合物が環化する際の反応サイトが増えるため、環化しやすくなる点から好ましい。
【0058】
また、R〜Rのうち、RとR、RとR、RとR、並びに、RとR及びRとRのいずれかに下記式(3)の部分構造を有することも、感度に優れる点から好ましい。
【0059】
【化6】

(式(3)において、Xは、2つの酸素原子と結合可能な連結基である。)
【0060】
該−O−X−O−部位は、ベンゼン環の3位〜6位のうち隣り合う位置に吸収波長を長波長にシフトさせる効果のあるアルコキシ基に類似の置換基が導入され、この2つの置換基が結合した構造である。そのため、このような置換基を有する塩基発生剤は、該ベンゼン環の3位〜6位のうち隣り合う位置にアルコキシ基をそれぞれ導入した場合と比べ、−O−X−O−と結合することで、酸素原子が固定され効率よく吸収波長を長波長化し、少ない電磁波照射量で塩基性化合物を発生でき、感度を高めることができると推定される。
【0061】
上記化学式(3)の部分構造におけるXは、2つの酸素原子と結合可能な連結基であれば特に限定されない。
本発明においては、得られる塩基発生剤の高感度化の観点から、上記Xはヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和脂肪族、或いは芳香族炭化水素原子基、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよいケイ素数1〜20の直鎖、分岐又は環状のケイ素−ケイ素二重結合を含んでいてもよいケイ化水素原子基、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、カーボネート結合、及びスルホニル結合、並びにこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる連結基であることが好ましい。
【0062】
上記Xにおける直鎖、分岐、又は環状の飽和脂肪族炭化水素原子基は、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい。当該飽和脂肪族炭化水素原子基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキシレン基、デシレン基、ドデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基等のアルキレン基;エチリデン基、プロピリデン基;シクロヘキシレン基、ノルボナレン基、アダマンタレン基等のシクロアルキレン基等が挙げられる。
上記Xにおける直鎖、分岐、又は環状の不飽和脂肪族炭化水素原子基は、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい。当該不飽和脂肪族炭化水素原子基としては、例えば、ビニレン基等が挙げられる。
また、上記飽和脂肪族炭化水素原子基、及び不飽和脂肪族炭化水素原子基が有していてもよい置換基としては、上記R〜Rの有機基中の炭化水素原子基以外の置換基と同様であってよい。
また、上記飽和脂肪族炭化水素原子基、及び不飽和脂肪族炭化水素原子基がヘテロ原子を含む場合としては、飽和脂肪族炭化水素原子基、又は不飽和脂肪族炭化水素原子基に、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、カーボネート結合、スルホニル結合等を含む場合が挙げられる。
上記Xにおける芳香族炭化水素原子基は、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい。当該芳香族炭化水素原子基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
また、上記芳香族炭化水素原子基が有していてもよい置換基としては、上記飽和脂肪族炭化水素原子基が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
また、上記芳香族炭化水素原子基が、ヘテロ原子を含む場合(複素環)、その具体例としては、フラン、チオフェン等が挙げられる。
【0063】
上記Xにおける直鎖、分岐、又は環状のケイ化水素原子基は、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい。また、ケイ素−ケイ素二重結合を含んでいてもよい。
ここで、本発明において、ケイ化水素原子基とは、2価の場合が−(SiH−、1価の場合が−(SiH−Hのケイ素と水素原子のみからなる基であり、nは1以上の自然数である。
【0064】
当該ケイ化水素原子基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、1価の有機基等が挙げられる。これらの置換基は、上記R〜Rにおいて説明したのと同様であってよい。
また、当該ケイ化水素原子基がヘテロ原子を含む場合、Xが含む結合としては、上記飽和脂肪族炭化水素原子基において例示したものを挙げることができる。
【0065】
中でも、更に、前記化学式(3)で表される部分構造が、下記化学式(3’)で表される部分構造であることが好ましい。
【0066】
【化7】

【0067】
(化学式(3’)中、Zは、炭素原子、ケイ素原子、炭素−炭素二重結合(−C=C−)、又はケイ素−ケイ素二重結合(−Si=Si−)である。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、ニトロソ基、メルカプト基、シラノール基、置換基を有していてもよい1価のケイ化水素原子基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基又は1価の有機基であり、同一であっても異なっていても良い。R及びRは、それらが結合して環状構造を形成していても良く、ヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。nは1〜10の整数を表す。)
【0068】
及びRが結合して形成する環状構造としては、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素原子、複素環、及び芳香族炭化水素原子、並びに当該脂環式炭化水素原子、複素環、及び芳香族炭化水素原子よりなる群から選ばれる2種以上が組み合されてなる構造であってもよい。
例えば、Zが炭素原子である場合に、n個のR及びRのうちのいずれか2個が結合して脂環式炭化水素原子や複素環を形成してもよい。また、Zが炭素−炭素二重結合である場合に、R及びRはZの炭素−炭素二重結合とともに環状構造を形成し、芳香族環を形成していてもよい。
【0069】
Zがケイ素原子である場合に、n個のR及びRがそれぞれ有機基であって、炭素原子同士が結合して環状構造を形成していてもよい。n個のR及びRがそれぞれ置換基を有していてもよいケイ化水素原子基であって、ケイ素原子同士が結合して環状構造を形成していてもよい。また、当該環状構造は酸素等のヘテロ原子の結合を含んでいてもよい。
また、Zがケイ素−ケイ素二重結合である場合に、R及びRはZのケイ素−ケイ素二重結合とともに炭素原子及び/又はケイ素原子により環状構造を形成していてもよく、当該環状構造は、更に、ケイ素−ケイ素二重結合を含んでいても良い。
また、R及びRのうちのハロゲン原子及び1価の有機基は、上記R〜Rにおいて説明したのと同様であってよい。
nは1〜10の整数を表し、好ましくは1〜6の整数、更に好ましくは1〜3である。
【0070】
以下に、上記式(3’)で表される部分構造を有する例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0071】
【化8】

【0072】
また、R、R、R及びRのいずれかが、下記式(4)で表される部分構造を有することも、感度が高く、且つ、有機溶剤に対する溶解性や組み合わせる高分子前駆体との親和性に優れる点から好ましい。式(4)で表される部分構造は、アルコキシ基に類似の置換基であるため、吸収波長を長波長にシフトさせる効果があり、少ない電磁波照射量で塩基性化合物を発生でき、感度を高めることができると推定される。また、式(4)で表される部分構造は、繰り返し構造であるRO部位を有するため、溶解性や親和性が良好になると推定される。
【0073】
【化9】

(式(4)において、Rは、2つの酸素原子と結合可能な連結基である。Rは、水素原子、シリル基、シラノール基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、又は1価の有機基である。nは1以上の整数である。)
【0074】
上記式(4)の部分構造は、R、R、R及びRの少なくとも1つに含まれれば良い。典型的には、R、R、R及びRのいずれかの位置において、上記式(4)の部分構造が置換基として直接ベンゼン環に結合している構造が挙げられる。R、R、R及びRのいずれかが有機基であって、その有機基の一部として上記化学式(4)の部分構造を有していても良い。R〜Rの2つ以上が結合して、シクロヘキシル基等の脂環式炭化水素原子構造を形成している場合や、R〜Rの2つ以上が結合してそれらが結合しているベンゼン環の原子を共有してナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン、フルオレン等の縮合環を形成している場合に、当該環状構造に上記式(4)の部分構造を置換基として有していても良い。
【0075】
上記化学式(4)の部分構造におけるRは、2つの酸素原子と結合可能な連結基であれば特に限定されない。また、繰り返し単位に含まれるn個のRは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。
本発明においては、高感度化の観点から、上記Rはヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和脂肪族、或いは芳香族炭化水素原子基、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよいケイ素数1〜20の直鎖、分岐又は環状のケイ素−ケイ素二重結合を含んでいてもよいケイ化水素原子基、カルボニル結合、チオカルボニル結合、スルホニル結合、スルフィニル結合、及びアゾ結合よりなる群から選ばれる連結基であることが好ましい。
耐熱性の点から、上記Rはヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和脂肪族、或いは芳香族炭化水素原子基、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよいケイ素数1〜20の直鎖、分岐又は環状のケイ素−ケイ素二重結合を含んでいてもよいケイ化水素原子基、カルボニル結合、チオカルボニル結合、スルホニル結合、及びスルフィニル結合よりなる群から選ばれる連結基であることが好ましい。これらは、上記式(3’)におけるZと同様のものを用いることができる。
【0076】
中でも、Rとしては、ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和脂肪族、或いは芳香族炭化水素原子基であることが好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の直鎖、分岐又は環状の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素原子基であることが好ましい。中でも、置換基を有していてもよい炭素数1〜6の直鎖、分岐又は環状の飽和脂肪族炭化水素原子基であることが好ましく、更に置換基を有していてもよい炭素数1〜3の直鎖、分岐又は環状の飽和脂肪族炭化水素原子基であることが好ましい。
【0077】
ORの繰り返し数であるnは、1以上の整数である。nは、Rの構造や分子量によって適宜調整されることが好ましいが、中でも1〜20が好ましく、更に1〜10が好ましい。
【0078】
は、水素原子、シリル基、シラノール基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、又は1価の有機基であるが、1価の有機基としては、上記R〜Rで挙げた1価の有機基と同様のものを用いることができる。
中でも、感度と溶剤溶解性の点から、Rとしては、1価の有機基が好ましい。
【0079】
、R、R及びRとしては、例えば、加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化して水酸基、カルボキシル基、又はアミノ基となる置換基や、加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化してイソシアナト基又はチオイソシアナト基となる置換基や、加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化してアルキニル基となる置換基を有していても良い。
【0080】
加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化して水酸基となる置換基としては、水酸基の末端の水素が上記式(2−1)〜上記式(2−6)で表わされる有機基よりなる群から選択される1種以上で置換された構造を有することが、合成が容易な点から好ましい。
上記式(2−1)〜上記式(2−6)内の各置換基は、前記Rの中で説明したものと同様のものとすることができる。
【0081】
また、加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化してカルボキシル基となる置換基としては、カルボキシル基の末端の水素が上記式(2−1)で表わされる有機基、上記式(2−3)で表わされる有機基、及び有機基よりなる群から選択される1種以上で置換された構造を有することが、合成が容易な点から好ましい。カルボキシル基の末端の水素が有機基により置換された構造は、エステル基(−COOR41;ここで、R41は有機基である)である。中でも、カルボキシル基の末端の水素が、上記式(2−1)又は上記式(2−3)で表わされる有機基で置換された構造を有することが、合成が容易な点から好ましい。
【0082】
カルボキシル基の末端の水素が有機基により置換された構造、エステル基(−COOR41)としては、Williamson反応を用いて、カルボキシル基と水酸基の反応により得ることができる。
上記エステル基のR41としては特に限定されないが、例えば、メチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等が好適に用いられる。
【0083】
また、加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化してアミノ基(−NH)となる置換基としては、アミノ基(−NH)の末端の1つの水素が上記式(2−2)で表わされる有機基で置換された構造を有することが、合成が容易な点から好ましい。
【0084】
また、加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化してイソシアナト基又はチオイソシアナト基となる置換基としては、公知のイソシアナト基をブロック化する反応や、転移によりイソシアナト基を形成する反応を利用して得ることができる。
加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化してイソシアナト基又はチオイソシアナト基となる置換基としては、下記式(5−1)〜下記式(5−6)で表わされる置換基よりなる群から選択される1種以上の構造を含むことが、合成が容易な点から好ましい。下記式(5−1)〜下記式(5−6)で表わされる置換基は、加熱及び/又は電磁波の照射により解離又は転移して、イソシアナト基又はチオイソシアナト基となる。
【0085】
【化10】

(式(5−1)中、Qは酸素原子又は硫黄原子であり、R42は有機基である。式(5−2)中、Ewはそれぞれ独立に電子吸引性基であり、Qは酸素原子又は硫黄原子である。式(5−3)中、Qは酸素原子又は硫黄原子であり、R43及びR44はそれぞれ独立に水素原子又は有機基である。式(5−4)中、Qは酸素原子又は硫黄原子であり、nは3〜7である。)
【0086】
上記式(5−1)で表される置換基は、イソシアナト基又はチオイソシアナト基と、アルコールやフェノール等の水酸基含有化合物との反応により得ることができる。
式(5−1)のR42としては特に限定されないが、例えば、メチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等が好適に用いられる。
【0087】
上記式(5−2)で表される置換基は、イソシアナト基又はチオイソシアナト基と、活性メチレン基を有する化合物との反応により得ることができる。ここで活性メチレン基とは、反応活性を有するメチレン基(−CH−)をいい、2つの電子吸引性基で挟まれたメチレン基を意味する。ここでの電子吸引性基とは、カルボニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ホスホノ基などが挙げられる。
活性メチレン基を有する化合物としては、例えば、マロン酸ジメチルやマロン酸ジエチル等のマロン酸エステル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のアセト酢酸エステル、アセチルアセトン、マロノニトリル、シアノ酢酸エチル、ニトロ酢酸エチル、p−トリススルホニル酢酸エチル、フェニルスルフィニル酢酸 エチル、ホスホノ酢酸トリメチル等を用いることができる。中でも、マロン酸エステル、アセト酢酸エステルが反応性の点から好ましい。
【0088】
式(5−2)のEwは、活性メチレン基を有する化合物における残基であり、特に限定されない。例えば、エステル基(−COOR)、アシル基(−COR)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)、スルホニル基(−S(=O)R)、スルフィニル基(−S(=O)R)、ホスホ基(−P(=O)(OR)))等(ここで、Rは有機基)が挙げられる。
【0089】
上記式(5−3)で表される置換基は、イソシアナト基又はチオイソシアナト基と、ホルマルドオキシム、アセタルドオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、2−ブタノンオキシム又はジエチルグリオキシムなどのオキシムとの反応により得ることができる。
式(5−3)のR43及びR44としては特に限定されないが、例えば、メチル基、tert−ブチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基等が好適に用いられる。
【0090】
上記式(5−4)で表される置換基は、イソシアナト基又はチオイソシアナト基と、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタムとの反応により得ることができる。
【0091】
上記式(5−5)で表される置換基は、下記式のように、触媒を用いてイソシアナト基を二量化させてカルボジイミド化することにより得ることができる。上記式(5−5)で表される置換基は、加熱により解離し、イソシアナト基を生成する。本発明においては、末端にイソシアナト基を有する塩基発生剤を準備し、当該塩基発生剤を、触媒を用いて二量化することにより得ることができる。ここで触媒としては、例えば、公知のリン系触媒がいずれも好適に用いられ、例えば1−フェニル−2−ホスホリン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホリン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホリン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホリン−1−オキシド、あるいはこれらの3−ホスホリン異性体などのホスホリンオキシドが挙げられる。
【0092】
【化11】

(式中、Rは有機基である。)
【0093】
上記式(5−6)で表される置換基は、カルボキシル基に、例えばジフェニルリン酸アジド等の酸アジドを反応することにより得ることができる。上記式(5−6)で表される置換基は、加熱により、クルチウス転移が起こり、イソシアナト基を生成する。本発明においては、末端にカルボキシル基を有する塩基発生剤を準備し、当該塩基発生剤のカルボキシル基に、ジフェニルリン酸アジド等の酸アジドを反応することにより得ることができる。
【0094】
また、加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化してアルキニル基となる置換基としては、公知のアルキニル基をブロック化する反応を利用して得ることができる。
アルキニル基をブロック化する反応としては、例えば、上記式(2−3)で表されるシリル基でブロック化する反応等が挙げられる。
【0095】
加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化する官能基は、R、R、R及びRのいずれかの位置において、置換基として直接ベンゼン環に結合していても良いし、適宜連結基を介してベンゼン環に結合していても良い。
【0096】
〜Rの2つ以上が結合して、シクロヘキシル基等の脂環式炭化水素構造を形成している場合や、R〜Rの2つ以上が結合してそれらが結合しているベンゼン環の原子を共有してナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン、フルオレン等の縮合環を形成している場合に、当該環状構造に、加熱及び/又は電磁波の照射により構造の一部が変化する官能基を有していても良い。
【0097】
<R,R
上記一般式(B)において、R及びRはそれぞれ独立に有機基であり、同一であっても異なっていても良い。
及びRにおける有機基は、本発明の製造方法により製造される一般式(1)で表される塩基発生剤の構造には反映されないものであり、環境負荷や反応収率の点から適宜選択されればよい。例えば、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及び飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。これらの有機基は、当該有機基中にヘテロ原子等の炭化水素原子基以外の結合や置換基を含んでよく、これらは、直鎖状でも分岐状でも良い。
及びRとしては、置換基を有しない飽和アルキル基を用いることが、中でも、炭素数1〜18の飽和アルキル基を用いることが、一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体と、一般式(B)で表されるホスホネート誘導体の反応において、トランス体が優位に生成され、塩基発生剤の反応収率が向上する点から好ましい。
また、R及びRとしては、より分子量の小さい有機基を用いることが、前記反応において副生するリン化合物の量を減らすことが可能となり、環境負荷をより小さくすることができる点から好ましい。
以上のことから、R及びRにおける有機基は、炭素数1〜6の飽和アルキル基、中でも特に、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0098】
<R
上記一般式(A)及び一般式(1)において、Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、又は1価の有機基であり、同一であっても異なっていても良い。
としては、高感度を達成しやすい点から、水素であることが好ましい。
【0099】
本発明において、特に一般式(1)中のRが、水素原子ではなく、上記特定の官能基である場合には、Rが水素原子の場合と比べて、本発明で製造される塩基発生剤は、有機溶剤に対する溶解性を更に向上させたり、高分子前駆体との親和性を向上させることが可能である。例えば、Rが、アルキル基やアリール基等の有機基である場合、有機溶剤に対する溶解性が向上する。また、例えばRがフッ素等のハロゲン原子である場合、フッ素等のハロゲン原子を含有する高分子前駆体との親和性が向上する。また、例えばRがシリル基やシラノール基を有する場合、ポリシロキサン前駆体との親和性が向上する。このように、Rを所望の有機溶剤や高分子前駆体に合わせて適宜置換基を導入することにより、所望の有機溶剤に対する溶解性や、所望の高分子前駆体との親和性を向上することが可能である。
【0100】
ハロゲン原子、1価の有機基としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に制限がなく、前記R〜Rに挙げたものと同様のものを用いることができる。また、前記Rの有機基中の炭化水素原子基以外の結合、炭化水素原子基以外の置換基も、前記R〜Rに挙げたものと同様のものを用いることができる。
【0101】
が、置換基である場合には、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜20のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数4〜23のシクロアルキル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数4〜23のシクロアルケニル基;フェノキシメチル基、2−フェノキシエチル基、4−フェノキシブチル基等の炭素数7〜26のアリールオキシアルキル基(−ROAr基);ベンジル基、3−フェニルプロピル基等の炭素数7〜20のアラルキル基;シアノメチル基、β−シアノエチル基等のシアノ基をもつ炭素数2〜21のアルキル基;ヒドロキシメチル基等の水酸基をもつ炭素数1〜20のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、アセトアミド基、ベンゼンスルホナミド基(CSONH−)等の炭素数2〜21のアミド基、メチルチオ基、エチルチオ基等の炭素数1〜20のアルキルチオ基(−SR基)、アセチル基、ベンゾイル基等の炭素数1〜20のアシル基、メトキシカルボニル基、アセトキシ基等の炭素数2〜21のエステル基(−COOR基及び−OCOR基)、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、トリル基等の炭素数6〜20のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換した炭素数6〜20のアリール基、電子供与性基及び/又は電子吸引性基が置換したベンジル基、シアノ基、及びメチルチオ基(−SCH)であることが好ましい。また、上記のアルキル部分は直鎖でも分岐状でも環状でも良い。
【0102】
<R及びR10
上記一般式(B)及び一般式(1)において、R及びR10は、それぞれ、独立に水素原子又は有機基であるが、R及びR10のうち少なくとも1つは有機基である。
有機基としては、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、及び飽和又は不飽和ハロゲン原子化アルキル基等が挙げられる。これらの有機基は、当該有機基中にヘテロ原子等の炭化水素原子基以外の結合や置換基を含んでよく、これらは、直鎖状でも分岐状でも良い。
及びR10における有機基は、通常、1価の有機基であるが、後述する環状構造を形成する場合や、生成するNHR10がジアミン等のアミド結合を形成可能なNH基を2つ以上有する塩基性物質の場合等には、2価以上の有機基となり得る。
【0103】
また、R及びR10は、それらが結合して環状構造になっていても良い。
環状構造は、飽和又は不飽和の脂環式炭化水素原子、複素環、及び縮合環、並びに当該脂環式炭化水素原子、複素環、及び縮合環よりなる群から選ばれる2種以上が組み合されてなる構造であっても良い。
【0104】
前記R及びR10の有機基中の炭化水素原子基以外の結合としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に限定されず、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(−N=C(−R)−、−C(=NR)−、ここでRは水素原子又は1価の有機基)、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合、アゾ結合等が挙げられる。耐熱性の点から、有機基中の炭化水素原子基以外の結合としては、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、チオカルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、イミノ結合(−N=C(−R)−、−C(=NR)−:ここでRは水素原子又は1価の有機基)、カーボネート結合、スルホニル結合、スルフィニル結合が好ましい。
【0105】
前記R及びR10の有機基中の炭化水素原子基以外の置換基としては、本発明の効果が損なわれない限り、特に限定されず、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、ヒドロキシイミノ基、飽和又は不飽和アルキルエーテル基、飽和又は不飽和アルキルチオエーテル基、アリールエーテル基、及びアリールチオエーテル基、アミノ基(−NH2, −NHR, −NRR’:ここで、R及びR’はそれぞれ独立に炭化水素原子基)等が挙げられる。上記置換基に含まれる水素原子は、炭化水素原子基によって置換されていても良い。また、上記置換基に含まれる炭化水素原子基は、直鎖、分岐、及び環状のいずれでも良い。
前記R及びR10の有機基中の炭化水素原子基以外の置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シアノ基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、チオカルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、カルボキシル基、カルボキシラート基、アシル基、アシルオキシ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、ヒドロキシイミノ基、飽和又は不飽和アルキルエーテル基、飽和又は不飽和アルキルチオエーテル基、アリールエーテル基、及びアリールチオエーテル基が好ましい。
【0106】
本発明の製造方法により製造される一般式(1)で表される塩基発生剤より生ずる塩基はNHR10であるため、1級アミン、2級アミン、又は複素環式化合物が挙げられる。また当該塩基には、それぞれ、脂肪族アミン及び芳香族アミンがある。なお、ここでの複素環式化合物は、NHR10が環状構造を有し且つ芳香族性を有しているものをいう。芳香族複素環式化合物ではない、非芳香族複素環式化合物は、ここでは脂環式アミンとして脂肪族アミンに含まれる。
【0107】
更に、一般式(1)で表される塩基発生剤より生ずる塩基は、アミド結合を形成可能なNH基を1つだけ有するモノアミン等の塩基性化合物だけでなく、ジアミン、トリアミン、テトラアミン等のアミド結合を形成可能なNH基を2つ以上有する塩基性化合物であってもよい。このような塩基性化合物を発生させる塩基発生剤は、一般式(B)で表される構造のR及び/又はR10の1つ以上の末端に、更にN(C=O)CHR(P=O)(OR)(OR)構造を有するホスホネート誘導体を用いて製造することができる。更に、このような構造を有するホスホネート誘導体は、後述する一般式(B)で表されるホスホネート誘導体の合成方法において、化学式(7)で表される塩基性化合物として、ジアミン、トリアミン、テトラアミン等のアミド結合を形成可能なNH基を2つ以上有する塩基性化合物を用いることにより合成することができる。
【0108】
脂肪族1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ペンチルアミン、イソアミルアミン、tert−ペンチルアミン、シクロペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、シクロヘプタンアミン、オクチルアミン、2−オクタンアミン、2,4,4−トリメチルペンタン−2−アミン、シクロオクチルアミン等が挙げられる。
【0109】
芳香族1級アミンとしては、アニリン、2−アミノフェノール、3−アミノフェノール、及び4−アミノフェノール等が挙げられる。
【0110】
脂肪族2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、エチルメチルアミン、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、アゼパン、アゾカン、メチルアジリジン、ジメチルアジリジン、メチルアゼチジン、ジメチルアゼチジン、トリメチルアゼチジン、メチルピロリジン、ジメチルピロリジン、トリメチルピロリジン、テトラメチルピロリジン、メチルピペリジン、ジメチルピペリジン、トリメチルピペリジン、テトラメチルピペリジン、ペンタメチルピペリジン等が挙げられ、中でも脂環式アミンが好ましい。
【0111】
芳香族2級アミンとしては、メチルアニリン、ジフェニルアミン、及びN−フェニル−1−ナフチルアミンが挙げられる。また、アミド結合を形成可能なNH基を有する芳香族複素環式化合物としては、塩基性の点から分子内にイミノ結合(−N=C(−R)−、−C(=NR)−、ここでRは水素原子又は1価の有機基)を有することが好ましく、イミダゾール、プリン、トリアゾール、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0112】
ジアミン以上のアミンとしてはエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン等の直鎖状脂肪族アルキレンジアミン;1−ブチル−1,2−エタンジアミン、1,1−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1−エチル−1,4−ブタンジアミン、1,2−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,4−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン等の分岐状脂肪族アルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の一般式NH(CHCHNH)Hで示されるポリエチレンアミン類;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルアミン、メンセンジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン;ベンゼントリアミン、メラミン、2,4,6−トリアミノピリミジン等のトリアミン;2,4,5,6−テトラアミノピリミジン等のテトラアミンを挙げることができる。
【0113】
及びR10の位置に導入される置換基によって、一般式(A)で表される塩基発生剤から生成する塩基の熱物性や塩基性度が異なる。
当該塩基発生剤を感光性樹脂組成物として用いる場合、高分子前駆体から最終生成物への反応に対する反応開始温度を低下させる等の触媒作用は、塩基性の大きい塩基の方が触媒としての効果が大きく、より少量の添加で、より低い温度での最終生成物への反応が可能となる。一般に1級アミンよりは2級アミンの方が塩基性は高く、その触媒効果が大きい。
また、芳香族アミンよりも脂肪族アミンの方が、塩基性が強いため好ましい。
【0114】
また、一般式(A)で表される塩基発生剤から生成する塩基が、2級アミン及び/又は複素環式化合物である場合には、当該塩基発生剤の感度が高くなる点から好ましい。これは、2級アミンや複素環式化合物を用いることで、アミド結合部位の活性水素原子がなくなり、このことにより、電子密度が変化し、異性化の感度が向上するからではないかと推定される。
【0115】
また、脱離する塩基の熱物性、及び塩基性度の点から、R及びR10の有機基は、それぞれ独立に炭素数1〜20が好ましく、更に炭素数1〜12が好ましく、特に炭素数1〜8であることが好ましい。
【0116】
一般式(1)で表される塩基発生剤は、幾何異性体が存在するが、トランス体のみを用いることが好ましい。しかし、合成および精製工程、並びに、保管時等において幾何異性体であるシス体が混ざる可能性もあり、この場合トランス体とシス体の混合物を用いても良いが、溶解性コントラストを高められる点から、シス体の割合が10%未満であることが好ましい。
【0117】
また、一般式(1)で表される塩基発生剤から生ずる塩基は、アミド結合を形成可能なNH基を1つ有するものであることが、合成後の生成の容易性の点から好ましい。中でも特に、感光性樹脂組成物としてポリイミド前駆体やポリベンゾオキサゾール前駆体と組み合わせた場合には、アミド結合を形成可能なNH基を1つ有するものであることが好ましい。
【0118】
一方、感光性樹脂組成物としてエポキシ系化合物と組み合わせる場合には、一般式(1)で表される塩基発生剤から生ずる塩基は、アミド結合を形成可能なNH基を2つ以上有するものであるものも、硬化促進剤としてだけでなく硬化剤としても機能することが可能な点から好適に用いることができる。
【0119】
前記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体は、所望の構造の誘導体が市販で入手可能ならば、市販品を用いることができる。当該ベンズアルデヒド誘導体は、適宜合成して得てもよい。Rが保護基の場合、前述のように得ることができる。また、R〜Rに各置換基を有するアルデヒドは、例えば、対応する置換基を有するフェノールにDuff反応やVilsmeier−Haack反応を行う、またはジヒドロキシベンズアルデヒドにWilliamson反応などの一般的なエーテル合成手法を用いることで合成できる。その他置換基の導入は、適宜公知の方法を用いて行うことができる。
【0120】
前記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体は、例えば以下のように合成することができるが、この方法に限定されるものではない。
テトラヒドロフラン等の有機溶媒に、下記化学式(6)で表される置換基Rを導入したクロロアセチルクロリド誘導体、及び炭酸カリウム等の塩基を加えた混液に、下記化学式(7)で表される塩基性化合物を少量ずつ加え反応させることにより、下記化学式(8)で表される化合物を得ることができる。
上記反応において用いられる化学式(7)で表される塩基性化合物の使用量は、化学式(6)で表されるクロロアセチルクロリド誘導体に対して、0.8〜1.0モル当量であることが好ましく、更に0.9〜1.0モル当量であることが、副生成物の生成を抑制し、化学式(8)で表される化合物の反応収率を向上させる点から好ましい。
上記反応における反応温度は、特に制限はないが、通常0〜20℃程度であり、副反応を抑制する点から0〜12℃であることが好ましい。また、上記反応の反応圧力に特に制限はないが、常圧〜0.1MPaが望ましく、常圧がさらに望ましい。また上記反応における反応時間は、合成量や反応温度等により変動する場合があるので一概には言えないが、通常0.5〜5時間、好ましくは0.5〜4時間の範囲に設定される。なお、有機溶媒及び塩基としては、後述するような有機溶媒及び塩基を用いることができる。
【0121】
次に、下記化学式(9)で表されるリン酸トリエステルに前記反応により得られた化学式(8)で表される化合物を少量ずつ加え反応させることにより前記化学式(B)で表されるホスホネート誘導体を得ることができる。なお、下記化学式(9)中、複数ある−OR基のうち、いずれかひとつが化学式(8)と反応するものであり、残りの2つのRは、それぞれ前記化学式(B)におけるR及びRに対応する。
上記反応において用いられる化学式(9)で表されるリン酸トリエステルの使用量は、化学式(8)で表される化合物に対して、1.0〜2.0モル当量であることが好ましく、更に1.0〜1.5モル当量であることが、副生成物の生成を抑制し、化学式(B)で表されるホスホネート誘導体の反応収率を向上させる点から好ましい。
上記反応における反応温度は特に制限はないが、通常100〜155℃程度であり、反応収率を向上させる点から140〜155℃であることが好ましい。また、上記反応の反応圧力に特に制限はないが、常圧〜0.1MPaが望ましく、常圧がさらに望ましい。また上記反応における反応時間は、合成量や反応温度等により変動する場合があるので一概には言えないが、通常1〜7時間、好ましくは2〜5時間の範囲に設定される。
【0122】
【化12】

(化学式(6)、(7)及び(8)中、R、R及びR10は、前記一般式(B)及び一般式(1)におけるRと同じである。化学式(9)におけるRはそれぞれ独立に、前記前記一般式(B)及び一般式(1)におけるR及びRと同様であり、複数あるRは同一であっても異なっていてもよい。)
【0123】
本発明に係る塩基発生剤の製造方法において用いられる一般式(B)で表されるホスホネート誘導体の使用量は、一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に対して、1.0〜2.0モル当量であることが好ましく、更に1.0〜1.5モル当量であることが、副生成物の生成を抑制し、一般式(1)で表される塩基発生剤の反応収率を向上させる点から好ましい。
【0124】
[有機溶媒]
一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体と、一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を反応させる工程は、有機溶媒中で行われる。
前記有機溶媒は、一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体、後述する塩基、及び、一般式(B)で表されるホスホネート誘導体が溶解するような溶媒中で反応させることが、反応収率を向上させる点から好ましい。このような有機溶媒としては、中でも、炭素数1〜4のアルコール、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル及びジメチルスルホキシドよりなる群から選択される1種以上の溶媒であることが反応収率を向上させる点から、より好ましい。
有機溶媒の使用量としては、特に限定されないが、通常、一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体の質量に対して、5倍から30倍程度の量が用いられる。
【0125】
[塩基]
本発明に係る塩基発生剤の製造方法において、一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体と、一般式(B)で表されるホスホネート誘導体の反応は、塩基存在下で行われる。当該塩基は、前記ホスホネート誘導体のα位の水素を引き抜き、前記ベンズアルデヒド誘導体との反応を進行させるものと推測される。
本発明において用いられる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムの他、金属アルコキシド、金属アミド等が挙げられる。中でも、求核性の低い強塩基を用いることが、副反応を抑え、塩基発生剤の収率を向上させる観点から好ましく、例えば、カリウム−t−ブトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、リチウム−t−ブトキシド、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムヘキサメチルジシラジド、リチウムテトラメチルピペリジド等が好適に用いられる。求核性の低い強塩基の中でも、カリウム−t−ブトキシドを用いることがより好ましい。
【0126】
前記塩基の添加量は、特に限定されないが、一般式(B)で表されるホスホネート誘導体に対して1.0〜3.0モル当量であることが好ましく、さらに1.5〜2.5モル当量であることが塩基発生剤の反応収率を向上する点から好ましい。
【0127】
[その他の反応条件]
上記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に、有機溶媒中、塩基存在下で、上記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を反応させることができれば、手順は特に限定されない。例えば、当該工程においては、溶媒中に、まず、上記塩基及び上記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を溶解し、次に上記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体を添加することが挙げられる。
【0128】
上記反応工程における反応温度は、特に制限はないが、10℃〜50℃程度であることが望ましい。このような範囲の温度では、反応が遅くならず、良好な収率で生成物を得ることができる。
また、これらの反応の反応圧力に特に制限はないが、常圧〜0.1MPaが望ましく、常圧がさらに望ましい。
また当該工程における反応時間は、上記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体及び塩基の使用量や反応温度等により変動する場合があるので一概には言えないが、通常1〜48時間、好ましくは3〜24時間の範囲に設定される。
【0129】
なお、本発明の製造方法で製造された一般式(1)で表される塩基発生剤は、その後、更に置換基を導入する反応が行われても良い。例えば、予め導入しておいた水酸基等の官能基に、エピクロロヒドリンを反応させてエポキシ基等の反応性官能基を導入したり、保護基を導入しても良い。
【実施例】
【0130】
(製造例1:ホスホネート誘導体(1)の合成)
1000mLフラスコ中、テトラヒドロフラン500mL、下記化合物(10)73g、炭酸カリウム48.7gの混液に、氷冷下、下記化合物(11)50gを少量ずつ添加した。添加終了後、水280mLを加えた。酢酸エチル200mLを加え、水層を分離した。水層に酢酸エチルを加え目的物を抽出する操作を数回繰り返し、先の酢酸エチルと合わせた。酢酸エチルを飽和炭酸水素ナトリウム溶液、0.1mol/L塩酸水で洗浄した。酢酸エチルを減圧回収した。酢酸エチルを加え、無水硫酸ナトリウムで脱水した後酢酸エチルを減圧回収し下記化合物(12)得た(収率52.3%)。
次に300mLフラスコ中、下記化合物(13)74.0gをおよそ150℃に保ち、前記化合物(12)49.6gを少量ずつ加えた。約2時間反応の後、過剰の化合物(13)を減圧回収し、下記化学式(14)で表されるホスホネート誘導体(1)(前記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体に該当)を得た(収率90.9%)。
【0131】
【化13】

【0132】
(実施例1:塩基発生剤の合成)
試験管中、前記ホスホネート誘導体(1) 4.63g、トルエン10mL及びカリウム−t−ブトキシド3.5gを混合し、10分間攪拌した。下記化合物(15)2.0gを加え室温で19.5時間、40℃で5.5時間反応した。途中、適宜トルエンを追加した。反応後、トルエンを減圧回収し、ジメチルホルムアミド15mLを加え溶解した。この溶液を水30mL中に加え、酢酸1mLを加えた後、氷冷し、析出した結晶をろ過し、下記化学式(16)で表される塩基発生剤を得た(収率77.3%)。なお、固形の廃棄物は生じなかった。
得られた塩基発生剤は、NMR(日本電子製、JNM−EX270)及びLC−MS(Waters社製、micromass ZQ)により構造を確認した。
【0133】
【化14】

【0134】
(実施例2:塩基発生剤の合成)
試験管中、前記ホスホネート誘導体(1) 4.63g、ジメチルホルムアミド10mL及びカリウム−t−ブトキシド3.5gを混合し、10分間攪拌した。前記化合物(15)2.0gを加え室温で19.5時間、40℃で5.5時間反応した。反応液を水20mL中に加え、酢酸1mLを加えた後、氷冷し、析出した結晶をろ過し、前記化学式(16)で表される塩基発生剤を得た(収率81.4%)。なお、固形の廃棄物は生じなかった。
高速液体クロマトグラフィーにより塩基発生剤の合成を確認した。
【0135】
(実施例3:塩基発生剤の合成)
試験管中、前記ホスホネート誘導体(1) 4.63g、テトラヒドロフラン10mL及びカリウム−t−ブトキシド3.5gを混合し、10分間攪拌した。前記化合物(15)2.0gを加え室温で19.5時間、40℃で5.5時間反応した。反応中、適宜テトラヒドロフランを追加した。反応液を水60mL中に加え、酢酸1mLを加えた後、氷冷し、析出した結晶をろ過し、前記化学式(16)で表される塩基発生剤を得た(収率78.4%)。なお、固形の廃棄物は生じなかった。
高速液体クロマトグラフィーにより塩基発生剤の合成を確認した。
【0136】
(実施例4:塩基発生剤の合成)
試験管中、前記ホスホネート誘導体(1) 4.63g、アセトニトリル10mL及びカリウム−t−ブトキシド3.5gを混合し、10分間攪拌した。前記化合物(15)2.0gを加え室温で19.5時間、40℃で5.5時間反応した。反応中、適宜アセトニトリルを追加した。反応液を水80mL中に加え、酢酸1mLを加えた後、氷冷し、析出した結晶をろ過し、前記化学式(16)で表される塩基発生剤を得た(収率78.2%)。なお、固形の廃棄物は生じなかった。
高速液体クロマトグラフィーにより塩基発生剤の合成を確認した。
【0137】
(実施例5:塩基発生剤の合成)
試験管中、前記ホスホネート誘導体(1) 4.63g、ジメチルスルホキシド10mL及びカリウム−t−ブトキシド3.5gを混合し、10分間攪拌した。前記化合物(15)2.0gを加え室温で19.5時間、40℃で5.5時間反応した。反応中、適宜ジメチルスルホキシドを追加した。反応液を水40mL中に加え、酢酸1mLを加えた後、氷冷し、析出した結晶をろ過し、前記化学式(16)で表される塩基発生剤を得た(収率81.4%)。なお、固形の廃棄物は生じなかった。
高速液体クロマトグラフィーにより塩基発生剤の合成を確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表されるベンズアルデヒド誘導体に、有機溶剤中、塩基存在下で、下記一般式(B)で表されるホスホネート誘導体を反応させる工程を有することを特徴とする、下記一般式(1)で表される塩基発生剤の製造方法。
【化1】

(一般式(A)、一般式(B)及び一般式(1)において、Rは、水素原子、或いは、加熱及び/又は電磁波の照射により脱保護可能な保護基である。R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、アミノ基、アンモニオ基、アジド基又は有機基であり、同一であっても異なっていても良い。R、R、R及びRは、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良く、ヘテロ原子の結合を含んでいても良い。R及びRは、それぞれ独立に有機基であり、同一であっても異なっていても良い。Rは、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、スルフィド基、シリル基、シラノール基、ニトロ基、ニトロソ基、スルフィノ基、スルホ基、スルホナト基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基、ホスホナト基、又は有機基である。R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基であり、同一であっても異なっていても良い。R及びR10は、それらが結合して環状構造を形成していても良く、ヘテロ原子の結合を含んでいても良い。但し、R及びR10のうち少なくとも1つは有機基である。)
【請求項2】
前記塩基が、金属アルコキシドであることを特徴とする、請求項1に記載の塩基発生剤の製造方法。
【請求項3】
前記塩基が、カリウム−t−ブトキシドであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塩基発生剤の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、炭素数1〜3のアルコール、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル及びジメチルスルホキシドよりなる群から選択される1種以上の溶媒であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の塩基発生剤の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(B)におけるR及びRが、それぞれ独立に、アルキル基である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の塩基発生剤の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(B)におけるR及びRが、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基である、請求項5に記載の塩基発生剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−184169(P2012−184169A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46316(P2011−46316)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)