説明

塩害土壌の改良方法

【課題】土壌中の塩化物イオンを、迅速に、かつ、確実に、除去できる塩害土壌の改良方法の提供
【解決手段】塩害土壌の含水比を100%以上に保ち、網状の陰極と網状の陽極をそれぞれ塩害土壌の下面と上面に配置し、直流電流を通電することにより、塩害土壌を改良する塩害土壌の改良方法。直流電流を通電する際に、含水比を100%以上に保った土壌を攪拌してから、直流電流を通電してもよい。土壌の下面に陰極を配置し、上面に陽極を配置して直流電流を通電し、上面の上澄み液を入れ替えてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩害土壌の改良方法に関する。主に、海水で浸食された田畑の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日、東北地方を大地震と津波がおそい、甚大な被害が出た。殊に、東北地方はわが国で有数の米や野菜の生産地であり、津波により田畑が海水に浸食され、大きな問題となっている。海水に含まれる塩化物イオンが稲の発育を阻害するためと考えられる。
【0003】
海水で浸食された田畑の再生方法としては、田畑を真水で洗う方法が知られている(非特許文献1)。しかしながら、この方法では、田畑を再生するのに、3年から5年もかかる上、その都度、攪拌作業を繰り返して行う必要があり、大きな労力を要し、コストも嵩む方法であった。
【0004】
海水で浸食された田畑の再生に膨大な時間がかかる理由は定かではないが、田畑の土が塩化物イオンを強固に吸着するため、水洗いしただけでは拭い去れないためと考えられる。
【0005】
海水に浸食された田畑に石灰等をまく方法も検討されているが、塩化物イオンの移動を助長するに過ぎず、抜本的な対策ではなかった。
【0006】
塩化物イオンを固定化する物質を散布する方法も考えられるが、田畑から塩化物イオンが除去されるわけではなく、一時的な不溶化に過ぎない。この場合にも、再び塩化物イオンが再溶出する可能性があり、抜本的な対策とはならない。
【0007】
そのため、もっと迅速に、確実に、田畑を再生できる方法が求められている。
【0008】
塩類土壌の除塩方法として、適宜の高さと適宜の長さを持つ電極壁を地中に適宜の間隔で並列させて複数形成し、そして向かい合う電極壁の一方をアノード、他方をカソードとしてそれぞれに所定の電圧を印加し、これにより両電極壁間に生じる電場で土壌中の塩類のイオンを各々の極性に応じた電極壁側に移動させて集積させ、この集積した塩類のイオンを除去する方法が記載されている(特許文献1、2)。
【0009】
しかし、含水状態も管理することにより、通電による除塩のばらつきが少なくなり、除塩されない部分が生じにくいことについて、記載がない。
【0010】
本発明者らは、前記の課題に鑑み、海水で浸食された田畑を、ある一定の含水率に保ち、直流電流により通電することで塩化物イオンを迅速に除去できるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】http://www.agri.pref.hokkaido.jp/center/kenkyuseika/gaiyosho/h03gaiyo/1990061.htm
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−336842号公報
【特許文献2】特開平9−176615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、迅速に、確実に、塩害土壌を改良する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、塩害土壌の含水比を100%以上に保ち、網状の陰極と網状の陽極をそれぞれ塩害土壌の下面と上面に配置し、直流電流を通電することにより、塩害土壌を改良する塩害土壌の改良方法であり、直流電流を通電する際に、含水比を100%以上に保った土壌を攪拌してから、直流電流を通電することを特徴とする該塩害土壌の改良方法であり、塩害土壌の下面に陰極を配置し、上面に陽極を配置して直流電流を通電し、上面の上澄み液を入れ替えることを特徴とする該塩害土壌の改良方法であり、0.5アンペア以上で通電することを特徴とする該塩害土壌の改良方法であり、積算の通電期間が1〜28日であることを特徴とする該塩害土壌の改良方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塩害土壌の改良方法を採用することにより、土壌中の塩化物イオン、例えば、海水由来の塩化物イオンを、迅速に、かつ、確実に、除去できる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。ここでは、塩害土壌の改良方法として、海水で浸食された田畑の再生方法を例示する。
【0017】
本発明では、田畑を含水比100%以上に保ち、直流電流により通電することを特徴とする。ここで、含水比とは、水の質量を固体(土壌)の質量で除して、固体(土壌)に含まれる水分の割合を示したものである。含水比はJIS A 1203:2009により算出する。
【0018】
含水比は100%以上が好ましく、150%以上がより好ましく、200%以上が最も好ましい。含水比が100%未満では、効率良く除塩することが難しい。即ち、除塩に長い時間を必要とする。含水比は500%以下が好ましく、300%以下がより好ましい。
【0019】
田畑に直流電流を通電する際、電極として、網状の陰極と網状の陽極を用いる。網状の陰極と網状の陽極を塩害土壌の下面と上面にそれぞれ配置する。田畑に直流電流を通電する際、田畑の下面(いわゆる底面)に陰極を配置し、上面に陽極を配置して通電することが好ましい。陰極と陽極は、上下面に向かい合うように配置することが好ましい。陰極は田畑を10〜30cm地中に深く掘り下げた底面に配置するのが好ましく、15〜25cm地中に深く掘り下げた底面に配置するのがより好ましい。
【0020】
上面に配置する陽極は、田畑上面に配置しても良いが、上澄み液に浮かばせておくことが好ましい。これは、含水比を100%以上に保つと、必然的に上澄み液が田畑上面に発生するためである。
【0021】
陰極や陽極は、メッシュ状又はラス状といった網状の電極を適用することで、面と面で通電することができ、効率良く除塩を行うことができる。ラスとは、土木・建築における木摺として用いられる金網の1種である。網の格子のサイズについて、効率が良い除塩の観点から、1辺の長さは50cm以下が好ましく、30cm以下がより好ましい。網の格子のサイズについて、1辺の長さは1cm以上が好ましく、5cm以上がより好ましい。
【0022】
田畑の底面に陰極を配置し、上面に陽極を配置して通電することにより、土に含まれた塩化物イオンが上面の上澄み液に移動して濃縮される。そこで、上澄み液を入れ替えることにより、効率良く除塩ができる。
【0023】
直流電流を通電する際の電流は、特に限定されるものではないが、短期間で除塩を完了する観点から、0.5アンペア以上が好ましく、1アンペア以上がより好ましい。ただし、安全性を重視する場合には、低い電流値で長い時間をかけて通電することもできる。直流電流を通電する際の電流は、10アンペア以下が好ましく、5アンペア以下がより好ましい。
【0024】
通電期間は、塩化物イオン濃度や田畑の面積にも影響されるため、一義的に定まるものではないが、通常、積算で1〜28日が好ましく、3〜14日がより好ましい。積算の通電期間が1日未満では、十分な除塩効果が得られない場合があり、28日を越えて通電しても更なる効果の増進が期待できず、安全面の確保が困難な場合がある。
【0025】
本発明の海水で浸食された田畑の再生方法を行う際、夏季を中心として気温が高い時期に行うことが、効率良い除塩の観点から好ましい。具体的には、平均気温が10℃以上の時期に行うことが望ましい。
【0026】
本発明の塩害土壌の改良方法は、海水で浸食された田畑の再生方法に制限するものではない。しかし、本発明の塩害土壌の改良方法は、海水で浸食された田畑の再生方法に適用することが好ましい。
【0027】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
実験例1
27℃で実験した。海水で浸食された1mの田圃を再生した。田圃の底面を掘り下げ、格子サイズが10cmのラスを地中深さ20cmの位置に設置した。ラスを設置後、底面を原状に埋め戻した。含水比が200%となるように真水を加え、田圃を攪拌した。攪拌後の田圃の土に含まれる塩化物イオンの量は3450g/mであった。上澄み液にラスを浸して設置し、底面のラスを陰極とし、上面のラスを陽極として直流電流を通電した。通電中は真水を田圃の端から10L/m・hrの割合で上澄み液に加え、その反対側から、ポンプで揚水させて排水させ、上澄み液が連続的に入れ替わるようにした。電流を1アンペアとし、通電期間を表1に示すように変化させ、通電後の田圃の土の塩化物イオン含有量を測定した。土のサンプリングは深さ15cmの位置から採取した。比較のために、通電を行わなかった場合の結果も併記した。結果を表1に示す。
【0029】
(測定方法)
塩化物イオン含有量:JIS A 1144により測定した。試料濾液はJIS A 1144附属書Aより採取した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、通電することにより、めざましく効率よく除塩できることがわかる。通電期間が長くなる程、除塩できることもわかる。
【0032】
実験例2
通電期間を7日とし、電流を表2に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0033】
【表2】

【0034】
表2より、電流値が高い程、効率良く除塩できることがわかる。
【0035】
実験例3
通電期間を7日とし、電流を1アンペアとし、土の含水比を表3に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
【0036】
【表3】



【0037】
表3より、土の含水比を100%以上に保つことにより、効率よく除塩できることがわかる。含水比が高くなる程、効率よく除塩できることもわかる。
【0038】
実験例4
通電期間を7日とし、底面の設置した陰極のラスの深さを表4に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記する。
【0039】
【表4】


【0040】
表4より、底面の陰極の設置深さが10cm以上であれば、効率よく除塩できることがわかる。陰極の設置深さは20cm程度が効率よく除塩できることもわかる。
【0041】
実験例5
通電期間を7日とし、底面に設置した陰極のラスの格子サイズを表5に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表5に併記する。
【0042】
【表5】

【0043】
表5より、底面の陰極のラスの格子サイズが50cm以下であれば効率よく除塩できることがわかる。格子サイズが小さい程、効率よく除塩できることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の塩害土壌の改良方法を適用することにより、例えば、迅速に、かつ、確実に、塩害土壌を除塩できる等の効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩害土壌の含水比を100%以上に保ち、網状の陰極と網状の陽極をそれぞれ塩害土壌の下面と上面に配置し、直流電流を通電することにより、塩害土壌を改良する塩害土壌の改良方法。
【請求項2】
直流電流を通電する際に、含水比を100%以上に保った土壌を攪拌してから、直流電流を通電することを特徴とする請求項1に記載の塩害土壌の改良方法。
【請求項3】
塩害土壌の下面に陰極を配置し、上面に陽極を配置して直流電流を通電し、上面の上澄み液を入れ替えることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩害土壌の改良方法。
【請求項4】
0.5アンペア以上で通電することを特徴とする請求項1〜3に記載の塩害土壌の改良方法。
【請求項5】
積算の通電期間が1〜28日であることを特徴とする請求項1〜4に記載の塩害土壌の改良方法。

【公開番号】特開2013−76035(P2013−76035A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218087(P2011−218087)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】