説明

塩水の脱塩処理システムおよび塩水の脱塩処理方法

【課題】塩水を効率良く脱塩処理し、淡水の回収率を向上させること。
【解決手段】塩水の脱塩処理システム1は、複数の脱塩処理装置10が多段に接続されて構成される。各脱塩処理装置10は、ゲストガスのクラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で塩水または前段の脱塩処理装置10で生成した脱塩水とゲストガスとを接触させてクラスレートを生成するクラスレート生成槽20と、クラスレートの生成に伴い生成した濃縮塩水を排出してクラスレートと濃縮塩水とを固液分離し、その後クラスレートを分解して脱塩水を生成するクラスレート分離・洗浄槽30とを備え、クラスレート分離・洗浄槽30は、後段の脱塩処理装置10から排出された濃縮塩水を用いて、固液分離したクラスレートを洗浄しつつ加温して分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩水を脱塩処理して淡水を得る塩水の脱塩処理システムおよび塩水の脱塩処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、クラスレートハイドレート(以下、単に「クラスレート」と呼ぶ。)の生成を利用して海水を淡水化する技術が提案されている(例えば、非特許文献1,2を参照)。ここで、海水の淡水化(脱塩処理)では、先ず、ゲストガスがクラスレートを生成する温度および圧力の下で海水とゲストガスとを接触させて、クラスレートを生成する。そして、生成したクラスレートと、このクラスレートの生成に伴い生成した濃縮塩水とを固液分離した後、クラスレートを分解する。
【0003】
また、特許文献1には、ハイドレート生成槽を多段に接続し、海水を繰り返し脱塩処理する構成が開示されている。ここで、特許文献1では、クラスレートと固液分離された濃縮塩水は、ドレンとして系外に排出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−319805号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本エネルギー学会大会講演要旨集,ハイドレート生成による塩水の淡水化に関する研究,吉岡裕之,P52-P53
【非特許文献2】Solar Engineering,Conceptual design of otec plants producing desalinated water with the gas hydrate method.,SYED M A,P625〜P631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、固液分離したクラスレートをそのまま分解してしまうと、クラスレートと分離しきれずに周囲に残存する濃縮塩水によって、得られる脱塩水の塩分濃度が高くなってしまい、効率良く脱塩処理が行えない場合がある。このため、クラスレートと濃縮塩水とを固液分離した後、クラスレートを分解する前には、クラスレートを洗浄する工程が必要である。このクラスレートの洗浄は、一般に、回収された淡水を用いて行われており、淡水の回収率を低下させるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑み為されたものであって、塩水を効率良く脱塩処理し、淡水の回収率を向上させることができる塩水の脱塩処理システムおよび塩水の脱塩処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる塩水の脱塩処理システムは、複数の脱塩処理装置が多段に接続されて構成され、塩水に対する脱塩処理を前段の脱塩処理装置から順番に繰り返し行うことで前記塩水の塩分濃度を段階的に低下させて淡水を得る塩水の脱塩処理システムであって、前記脱塩処理装置は、所定のゲストガスのクラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で前記塩水または前段の脱塩処理装置で生成した脱塩水と前記ゲストガスとを接触させてクラスレートを生成するクラスレート生成部と、前記クラスレートの生成に伴い生成した濃縮塩水を排出して前記クラスレートと前記濃縮塩水とを固液分離し、その後前記クラスレートを分解して脱塩水を生成する脱塩水生成部と、を備え、前記脱塩水生成部は、後段の脱塩処理装置から排出された濃縮塩水を用いて、前記固液分離した前記クラスレートを洗浄しつつ分解することを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる塩水の脱塩処理方法は、所定のゲストガスのクラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で塩水と前記ゲストガスとを接触させてクラスレートを生成し、該クラスレートの生成に伴い生成した濃縮塩水を排出して前記クラスレートと前記濃縮塩水とを固液分離した後、前記クラスレートを分解して脱塩水を生成する脱塩処理を繰り返し行うことで前記塩水の塩分濃度を段階的に低下させて淡水を得る脱塩処理方法であって、前記クラスレートを分解する際、後段の前記脱塩処理の過程で排出された前記濃縮塩水を用いて、前記クラスレートを洗浄しつつ分解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定のゲストガスのクラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で塩水とゲストガスとを接触させてクラスレートを生成し、このクラスレートの生成に伴い生成した濃縮塩水を排出してクラスレートと濃縮塩水とを固液分離した後、クラスレートを分解する際に、繰り返し行う脱塩処理の過程で排出された濃縮塩水であってクラスレートと固液分離された濃縮塩水よりも塩分濃度の低い濃縮塩水を用い、クラスレートを洗浄しつつ加温して分解することができる。したがって、塩水を効率良く脱塩処理し、淡水の回収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施の形態における塩水の脱塩処理システムの全体構成を示す模式図である。
【図2】図2は、脱塩処理装置の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、クラスレート生成工程を説明する説明図である。
【図4】図4は、クラスレート分離工程を説明する説明図である。
【図5】図5は、クラスレート分離工程を説明する説明図である。
【図6】図6は、クラスレート洗浄工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明を実施するための形態について説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0013】
図1は、本実施の形態における塩水の脱塩処理システム1の全体構成を示す模式図である。図1に示すように、塩水の脱塩処理システム1は、塩水(海水)を脱塩処理(淡水化処理)するための複数(n個)の脱塩処理装置10(10−1-〜10−n)が多段に接続されて構成される。これらn個の脱塩処理装置10はそれぞれ同様の構成を有し、最前段の脱塩処理装置10−1から順番に海水タンク11の塩水(海水)を繰り返し脱塩処理することで塩水の脱塩処理方法を実施し、塩水(海水)の塩分濃度を段階的に低下させて最終的に塩分濃度が十分に低い淡水を得る。
【0014】
最前段の脱塩処理装置10−1は、塩水ライン14−1を介して海水タンク11と接続され、脱塩処理装置10−2〜10−nは、それぞれ塩水ライン14−2〜14−nを介して前段の脱塩処理装置10と接続されている。また、脱塩処理装置10−1は、濃縮塩水ライン15を介して濃縮塩水タンク12と接続されている。また、脱塩処理装置10−1〜10−(n−1)は、洗浄水ライン16−1〜16−(n−1)を介して後段の脱塩処理装置10と接続され、脱塩処理装置10−nは、洗浄水ライン16−nを介して淡水タンク13と接続されている。そして、脱塩処理装置10−nは、淡水ライン17を介して淡水タンク13と接続されている。
【0015】
この塩水の脱塩処理システム1では、先ず、海水タンク11に貯留されている例えば塩分濃度4%の塩水(海水)SWが、塩水ライン14−1を介して最前段の脱塩処理装置10−1に供給される。ここで、海水タンク11には、前処理によって濁質分が除去された塩水(海水)が貯留される。脱塩処理装置10−1は、供給された塩水(海水)SWを脱塩処理し、塩分濃度が4%よりも低い脱塩水(脱塩処理された塩水:塩分濃度C1%)PW−1を生成する。この脱塩処理装置10−1での脱塩処理によって生成した脱塩水PW−1は、塩水ライン14−2を介して不図示の脱塩水タンクに貯留された後、後段の脱塩処理装置10−2に供給される。一方、脱塩処理に伴い生成した濃縮塩水DW−1(塩分濃度C1´%)は、濃縮塩水ライン15を介して濃縮塩水タンク12に排出される。
【0016】
続いて、脱塩処理装置10−2は、前段の脱塩処理装置10−1から供給された脱塩水をさらに脱塩処理し、脱塩水(塩分濃度C2%)PW−2を生成する。この脱塩処理装置10−2での脱塩処理によって生成した脱塩水PW−2は、塩水ライン14−3を介して不図示の脱塩水タンクに貯留された後、後段の脱塩処理装置10−3に供給される。一方、脱塩処理装置10−2での脱塩処理に伴い生成した濃縮塩水(塩分濃度C´2%)DW−2は、洗浄水ライン16−1を介して不図示の洗浄水タンクに排出・貯留された後に前段の脱塩処理装置10−1に供給され、詳細を後述するように、脱塩処理装置10−1での脱塩処理時に洗浄水として利用されるようになっている。なお、脱塩処理装置10−2での脱塩処理時には、後段の脱塩処理装置10−3での脱塩処理に伴い生成され、不図示の洗浄水タンクに貯留された濃縮塩水(塩分濃度C´3%)DW−3が洗浄水ライン16−2を介して供給されるようになっており、洗浄水として利用される。
【0017】
その後、脱塩処理装置10−3以降の後段の脱塩処理装置10が、順次同様にして前段の脱塩処理装置10から供給された脱塩水を脱塩処理する。また、この脱塩処理時において、後段の脱塩処理装置10から供給された濃縮塩水が洗浄水として利用される。
【0018】
そして、最後段の脱塩処理装置10−nには、前段の脱塩処理装置10−(n−1)での脱塩処理によって生成される脱塩水(塩分濃度Cn-1%)PW−(n−1)が、不図示の脱塩水タンクから塩水ライン14−nを介して供給される。この最後段の脱塩処理装置10−nは、供給された脱塩水を脱塩処理し、上水のレベル(例えば塩分濃度0.1%)の淡水WWを生成する。生成した淡水WWは、淡水ライン17を介して淡水タンク13に導入されて貯留される。また、脱塩処理装置10−nでの脱塩処理に伴い生成する濃縮塩水(塩分濃度C´n%)DW−nは、洗浄水ライン16−(n−1)を介して不図示の洗浄水タンクに排出・貯留された後、前段の脱塩処理装置10−(n−1)に供給される。なお、脱塩処理装置10−nでの脱塩処理時には、洗浄水ライン16−nを介して淡水タンク13に貯留されている所定量(少量)の淡水WWが供給される。すなわち、塩水の脱塩処理システム1での淡水WWの収量のうちの一部(少量)が、脱塩処理装置10−nでの脱塩処理において洗浄水として利用される。
【0019】
このように、本実施の形態の塩水の脱塩処理システム1において、最前段の脱塩処理装置10−1には、塩水ライン14−1によって海水タンク11の塩水(海水)SWが供給され、脱塩処理装置10−2〜10−nには、塩水ライン14−2〜14−nによって前段の脱塩処理装置10からの脱塩水PW−1〜PW−(n−1)が供給される。また、脱塩処理装置10−1〜10−(n−1)には、洗浄水ライン16−1〜16−(n−1)によって後段の脱塩処理装置10から排出された濃縮塩水DW−2〜DW−nが供給され、脱塩処理装置10−nには、洗浄水ライン16−nによって淡水タンク13の淡水WWが供給される。ここで、各脱塩処理装置10−1〜10−nで生成される脱塩水PW−1〜PW−(n−1)および淡水WWの塩分濃度は、脱塩水PW−1の塩分濃度(C1%)>脱塩水PW−2の塩分濃度(C2%)>脱塩水PW−3の塩分濃度(C3%)>・・・>脱塩水PW−(n−1)の塩分濃度(Cn-1%)>淡水WWの塩分濃度(0.1%)である。また、脱塩処理装置10−2〜10−nでの脱塩処理時に生成されて前段の脱塩処理装置10−1〜10−(n−1)での脱塩処理時に洗浄水として利用される濃縮塩水DW−2〜DW−nの塩分濃度、および脱塩処理装置10−nでの脱塩処理時に洗浄水として利用される淡水WWの塩分濃度は、濃縮塩水DW−2の塩分濃度(C´2)>濃縮塩水DW−3の塩分濃度(C´3)>濃縮塩水DW−4の塩分濃度(C´4)>・・・>濃縮塩水DW−nの塩分濃度(C´n)>淡水WWの塩分濃度(0.1%)である。
【0020】
図2は、脱塩処理装置10(10−1〜10−n)の構成を示す模式図である。図2に示すように、脱塩処理装置10は、クラスレート生成部としてのクラスレート生成槽20と、脱塩水生成部としてのクラスレート分離・洗浄槽30とが移送ライン40を介して接続されて構成される。
【0021】
クラスレート生成槽20には、図1に示した塩水ライン14−1〜14−nを介し、海水タンク11の塩水(海水)SW、または、前段の脱塩処理装置10で生成され、前段側の不図示の脱塩水タンクに貯留された脱塩水PW−1〜PW−(n−1)が導入される。また、クラスレート生成槽20は、ゲストガスを貯蔵する不図示のゲストガスタンクとゲストガスライン50を介して接続されており、このゲストガスタンクのゲストガスGがクラスレート生成槽20に導入される。ゲストガスは、適宜選ぶこととしてよいが、例えば、二酸化炭素ガス(CO2)、キセノンガス(Xe)、HFC等の代替フロン等が挙げられる。
【0022】
また、クラスレート生成槽20は、クラスレート生成槽20に導入された塩水(海水)または脱塩水を攪拌するための攪拌装置21と、このクラスレート生成槽20に導入された塩水(海水)または脱塩水を冷却するための冷却コイル22とを備える。このクラスレート生成槽20は、断熱性を有する。
【0023】
一方、クラスレート分離・洗浄槽30には、移送ライン40を介してクラスレート生成槽20から後述するクラスレートを含む濃縮塩水が導入されるとともに、洗浄水ライン16−1〜16−nを介し、後段の脱塩処理装置10での脱塩処理に伴い生成され、後段側の不図示の洗浄水タンクに貯留された濃縮塩水DW−2〜DW−n、または、淡水タンク13の淡水WWが、洗浄水として導入される。そして、このクラスレート分離・洗浄槽30においてクラスレートを洗浄し、固液分離することで生成した脱塩水PW−1〜PW−(n−1)または淡水WWが、塩水ライン14−2〜14−nを介して後段側の不図示の脱塩水タンクに貯留され、または、淡水ライン17を介して淡水タンク13に貯留される。また、クラスレートと固液分離された濃縮塩水DW−1〜DW−nは、濃縮塩水ライン15を介して濃縮塩水タンク12に排出され、または、洗浄水ライン16−1〜16−(n−1)を介して前段側の不図示の洗浄水タンクに排出されて貯留される。
【0024】
このクラスレート分離・洗浄槽30は、多孔質板31を備え、この多孔質板31によって内部空間が上下2つの空間E11,E13に仕切られて構成される。以下、上側の空間E11を「上側空間E11」と呼び、下側の空間E13を「下側空間E13」と呼ぶ。
【0025】
ここで、クラスレート生成槽20との間に配管される移送ライン40は、クラスレート分離・洗浄槽30の上部に接続され、クラスレート生成槽20とクラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11との間を連通する。また、濃縮塩水タンク12との間に配管される濃縮塩水ライン15および前段の脱塩処理装置10との間に配管される洗浄水ライン16−1〜16−(n−1)は、クラスレート分離・洗浄槽30の底部に接続され、クラスレート分離・洗浄槽30の下側空間E13と濃縮塩水タンク12との間、または、クラスレート分離・洗浄槽30の下側空間E13と前段の脱塩処理装置10(詳細には、前段の脱塩処理装置10のクラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11)との間を連通する。なお、クラスレート分離・洗浄槽30の下側空間E13と前段の脱塩処理装置10のクラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11との間の洗浄水ライン16−1〜16−(n−1)には、不図示の洗浄水タンクが設けられる。そして、後段の脱塩処理装置10との間に配管される塩水ライン14−2〜14−nおよび淡水タンク13との間に配管される淡水ライン17は、クラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11と後段の脱塩処理装置10(詳細には、後段の脱塩処理装置10のクラスレート生成槽20)との間、または、クラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11と淡水タンク13との間を連通し、そのクラスレート分離・洗浄槽30側の端部が多孔質板31の上面近傍に配置されている。なお、クラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11と後段の脱塩処理装置10のクラスレート生成槽20との間の塩水ライン14−2〜14−nには、不図示の脱塩水タンクが設けられる。
【0026】
また、脱塩処理装置10は、塩水ライン14に設けられ、海水タンク11の塩水(海水)SWまたは前段側の不図示の脱塩水タンクの脱塩水PW−1〜PW−(n−1)を高圧化してクラスレート生成槽20に圧送・導入する圧力ポンプ60と、アウトガスライン71を介してクラスレート生成槽20と接続されたゲストガスホルダ73と、海水タンク11または前段側の不図示の脱塩水タンクとクラスレート生成槽20との間の塩水ライン14−1〜14−n、後段側の不図示の洗浄水タンクまたは淡水タンク13とクラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11との間の洗浄水ライン16−1〜16−n、クラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11と後段側の不図示の脱塩水タンクまたは淡水タンク13との間の塩水ライン14−2〜14−nおよび淡水ライン17、クラスレート分離・洗浄槽30の下側空間E13と濃縮塩水タンク12または前段側の不図示の洗浄水タンクとの間の濃縮塩水ライン15および洗浄水ライン16−1〜16−(n−1)、移送ライン40、ゲストガスライン50、およびアウトガスライン71の各ラインにそれぞれ設けられた制御弁81〜87と、脱塩処理装置10の各部を制御して装置全体の動作を統括制御する制御部90とを備える。
【0027】
以上のように構成される各脱塩処理装置10(10−1〜10−n)は、クラスレートを生成し、生成したクラスレートとこのクラスレートの生成に伴い生成した濃縮塩水とを固液分離した後、クラスレートを分解することで脱塩処理を行う。ここで、クラスレートとは、水分子が作る籠型構造(ケージ)によってゲスト分子が包接された氷状の固体結晶であり、低温かつ高圧の条件下で生成する。具体的な温度および圧力の条件は、ゲストガスの種類によって異なる。例えば、二酸化炭素ガスを用いる場合、温度が0℃〜3℃程度、圧力が2MPa〜3MPa程度の条件下でクラスレートが生成する。一方、キセノンガスを用いる場合、温度が0℃〜5℃程度、圧力が0.2MPa程度の条件下でクラスレートが生成する。このクラスレートの生成に必要な所定の温度(クラスレート生成温度)およびクラスレートの生成に必要な所定の圧力(クラスレート生成圧力)の下で、海水タンク11の塩水(海水)または前段の脱塩処理装置10で生成された脱塩水とゲストガスとを接触させると、水分子のケージにゲストガスが取り込まれてクラスレートが生成する。また、クラスレートの生成に伴い、処理前の塩水(海水)または脱塩水よりも塩分濃度の高い濃縮塩水が生成する。このクラスレートを濃縮塩水と固液分離し、クラスレートを分解すると、処理前の塩水(海水)または脱塩水よりも塩分濃度の低い脱塩水が生成される。
【0028】
この脱塩処理を実現するため、各脱塩処理装置10は、クラスレート生成工程、クラスレート分離工程、およびクラスレート洗浄工程の各工程を行う。以下、各工程について順次説明する。なお、以下説明する各工程での脱塩処理装置10の動作は、制御部90が装置各部を制御することで実現される。
【0029】
(クラスレート生成工程)
クラスレート生成工程では、クラスレート生成槽20において、ゲストガスのクラスレート生成条件下、具体的には、クラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で塩水(海水)または脱塩水とゲストガスとを接触させて、クラスレートを生成する。
【0030】
図3は、クラスレート生成工程を説明する説明図であり、クラスレート生成槽20を含む脱塩処理装置10の一部の構成を示している。クラスレート生成工程では、先ず、塩水ライン14−1〜14−nを介して海水タンク11の塩水(海水)SWまたは前段の脱塩処理装置10からの脱塩水PW−1〜PW−(n−1)をクラスレート生成槽20に導入するとともに、ゲストガスライン50を介して不図示のゲストガスタンクのゲストガスGをクラスレート生成槽20に導入することで、クラスレート生成槽20内の圧力をクラスレート生成圧力に調整する。
【0031】
具体的には、制御部90は、制御弁85,86,87を閉止した状態で制御弁81を開放する。そして、制御部90は、圧力ポンプ60を駆動して海水タンク11の塩水(海水)SWまたは前段の脱塩処理装置10で生成されて不図示の脱塩水タンクに貯留された脱塩水PW−1〜PW−(n−1)を圧送し、所定量の塩水(海水)または脱塩水をクラスレート生成槽20に導入する。その後、制御部90は、制御弁81を閉止する。また、制御部90は、制御弁86を開放してクラスレート生成槽20へのゲストガスGの導入を開始する。ここで、ゲストガスライン50は、クラスレート生成槽20へのゲストガスGの導入位置が、クラスレート生成槽20に導入される所定量の塩水(海水)または脱塩水の液面の高さより低くなるように接続されている。これにより、クラスレート生成槽20に導入されたゲストガスは、クラスレート生成槽20に導入された塩水(海水)または脱塩水内に気泡として放出される。
【0032】
次に、制御部90は、冷却コイル22を駆動してクラスレート生成槽20内の塩水(海水)または脱塩水を冷却し、クラスレート生成温度に調整しながら、攪拌装置21を駆動してクラスレート生成槽20内の塩水(海水)または脱塩水とゲストガスとを混合する。
【0033】
また、このクラスレート生成工程において、制御部90は、制御弁87を適宜開閉することで、クラスレート生成槽20の内部の圧力をクラスレート生成圧力に維持する。制御弁87を開放した際にクラスレート生成槽20から排出されたゲストガスは、アウトガスライン71を介してゲストガスホルダ73に導入されて回収される。
【0034】
この結果、クラスレート生成槽20では、図3に示すように、塩水(海水)または脱塩水とゲストガスとがクラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で接触し、固体結晶のクラスレート100が生成する。そして、生成したクラスレート100が、このクラスレート100の生成によって濃縮された濃縮塩水中に浮遊する。
【0035】
以上のようにしてクラスレート生成工程を実施したならば、制御部90は、制御弁86を閉止してクラスレート生成槽20へのゲストガスの導入を停止するとともに、制御弁85を開放し、クラスレート生成槽20内のクラスレート100とこのクラスレート100の生成によって濃縮された濃縮塩水との混合液MWを移送ライン40を介してクラスレート分離・洗浄槽30に移送する。その後、制御部90は、制御弁85を閉止する。また、制御部90は、制御弁87を開放してクラスレート生成槽20内に残存するゲストガスを排出し、アウトガスライン71を介してゲストガスホルダ73に導入して回収する。なお、ゲストガスホルダ73に回収されたゲストガスは、各脱塩処理装置10での別の脱塩処理で再利用される。
【0036】
(クラスレート分離工程)
図4および図5は、クラスレート分離工程を説明する説明図であり、クラスレート分離・洗浄槽30を含む脱塩処理装置10の一部の構成を示している。クラスレート分離工程では、移送ライン40を介してクラスレート生成槽20から移送された混合液MWをクラスレート分離・洗浄槽30の上側空間E11に導入し、この混合液のクラスレート100および濃縮塩水を多孔質板31によって重力により自然ろ過する。このクラスレート分離工程では、制御部90は、制御弁84を開放する。この結果、図4に示すように、クラスレート100が上側空間E11に残る一方、濃縮塩水は、多孔質板31を透過して下側空間E13へと流れ、最終的に、図5に示すように、クラスレート100が濃縮塩水と固液分離される。下側空間E13へと流れた濃縮塩水DW−1〜DW−nは、濃縮塩水ライン15または洗浄水ライン16−1〜16−(n−1)を介して濃縮塩水タンク12または前段側の不図示の洗浄水タンクに導入される。
【0037】
なお、ここでは、自然ろ過によってクラスレートと濃縮塩水とを固液分離することとしたが、下側空間E13を減圧することで上側空間E11内のクラスレートおよび濃縮塩水を減圧ろ過し、これらを固液分離するようにしてもよい。あるいは、上側空間E11を加圧することで上側空間E11内のクラスレートおよび濃縮塩水を加圧ろ過し、これらを固液分離するようにしてもよい。
【0038】
(クラスレート洗浄工程)
前段のクラスレート分離工程では、濃縮塩水の表面張力によってクラスレートと濃縮塩水とを完全に固液分離できない場合がある。特に、クラスレートおよび濃縮塩水を自然ろ過する場合、これらを完全に固液分離するのは困難である。クラスレート洗浄工程では、多孔質板31上のクラスレートを洗浄しつつ分解することで、脱塩水または淡水を生成する。図6は、クラスレート洗浄工程を説明する説明図であり、クラスレート分離・洗浄槽30を含む脱塩処理装置10の一部の構成を示している。
【0039】
図6に示すように、このクラスレート洗浄工程では、制御部90は、制御弁82を開放し、後段の脱塩処理装置10で生成されて不図示の洗浄水タンクに貯留された濃縮塩水DW−2〜DW−nまたは淡水タンク13の淡水WWを洗浄水ライン16−1〜16−nに設けられた不図示のポンプによって上側空間E11に導入する。これにより、多孔質板31上のクラスレート100が洗浄されてクラスレート100の周囲に残存する濃縮塩水が洗い流される。すなわち、クラスレート100の周囲の濃縮塩水が導入された濃縮塩水DW−2〜DW−nまたは淡水WWによって押し流されることで多孔質板31を透過して下側空間E13に流出し、その結果、クラスレート100の周囲の濃縮塩水が、この濃縮塩水よりも塩分濃度の低い濃縮塩水DW−2〜DW−nまたは淡水WWと置き換えられる。また、ここで導入される濃縮塩水や淡水は、後段の脱塩処理装置10で脱塩処理されて不図示の洗浄水タンクや淡水タンク13に貯留されていたものであり、常温程度の温度となっている。したがって、導入された濃縮塩水または淡水により、低温であるクラスレート生成温度で生成したクラスレート100が加温されて分解し、脱塩水または淡水が生成する。制御部90は、制御弁83を開放し、生成した脱塩水PW−1〜PW−(n−1)または淡水WWを、塩水ライン14−2〜14−nまたは淡水ライン17に設けられた不図示のポンプによって不図示の脱塩水タンクまたは淡水タンク13に導入する。
【0040】
洗浄水として導入する濃縮塩水DW−2〜DW−nまたは淡水WWの量は、クラスレートを洗浄し、分解するのに必要な量として予め設定しておく。なお、不図示の洗浄水タンクの濃縮塩水は、洗浄水として用いる量を残してクラスレート生成工程の前にクラスレート生成槽20に導入することで、海水タンク11の塩水(海水)または前段の脱塩処理装置10からの脱塩水とともに再度脱塩処理するようにしてもよい。これによれば、淡水の回収率をより一層向上させることが可能となる。
【0041】
以上説明したように、実施の形態1によれば、塩水(海水)または前段の脱塩処理装置10からの脱塩水とゲストガスとをクラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で接触させてクラスレートを生成し、クラスレートと濃縮塩水とを固液分離した後で、クラスレートを洗浄して周囲に残存する濃縮塩水を洗い流しつつ、クラスレートを加温して分解することができる。このとき、最後段の脱塩処理装置10−nでは淡水タンク13の淡水を洗浄水として用いるものの、この脱塩処理装置10−n以外の各脱塩処理装置10では、その脱塩処理装置10より後段の脱塩処理装置10で生成されて排出された濃縮塩水を洗浄水として用いることができる。ここで、後段の脱塩処理装置10からの濃縮塩水は、クラスレートの周囲に残存する濃縮塩水、すなわち、その脱塩処理装置10での脱塩処理に伴い生成される濃縮塩水よりも塩分濃度が低く、洗浄効果がある。これによれば、各脱塩処理装置10から排出される濃縮塩水を無駄なく利用してクラスレートを洗浄することができる。したがって、塩水を効率良く脱塩処理し、淡水の回収率を向上させることができる。
【0042】
なお、上記した実施の形態では、最後段の脱塩処理装置10−nを除く各脱塩処理装置10での脱塩処理において、1つ後ろの脱塩処理装置10で生成した濃縮塩水を洗浄水として利用することとした。これに対し、洗浄水として用いる濃縮塩水は、その脱塩処理装置10での脱塩処理に伴い生成する濃縮塩水よりも塩分濃度の低いものであればよく、1つ後ろの脱塩処理装置10で生成した濃縮塩水に限らず、後段のいずれかの脱塩処理装置10で生成したものであればよい。このとき、離れた脱塩処理装置10で生成された濃縮塩水ほど塩分濃度が低い。このため、より離れた脱塩処理装置10で生成された濃縮塩水を洗浄水として用いるほど、クラスレートの洗浄効果をより向上させることができる。これによれば、脱塩処理をより効率良く行うことができるので、塩水の脱塩処理システム1の段数(脱塩処理装置10の数)を減らすことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明の塩水の脱塩処理システムおよび塩水の脱塩処理方法は、塩水を効率良く脱塩処理し、淡水の回収率を向上させるのに適している。
【符号の説明】
【0044】
1 塩水の脱塩処理システム
10(10−1〜10−n) 脱塩処理装置
11 海水タンク
12 濃縮塩水タンク
13 淡水タンク
14−1〜14−n 塩水ライン
15 濃縮塩水ライン
16−1〜16−n 洗浄水ライン
17 淡水ライン
20 クラスレート生成槽
21 攪拌装置
22 冷却コイル
30 クラスレート分離・洗浄槽
31 多孔質板
40 移送ライン
50 ゲストガスライン
60 圧力ポンプ
71 アウトガスライン
73 ゲストガスホルダ
81〜87 制御弁
90 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の脱塩処理装置が多段に接続されて構成され、塩水に対する脱塩処理を前段の脱塩処理装置から順番に繰り返し行うことで前記塩水の塩分濃度を段階的に低下させて淡水を得る塩水の脱塩処理システムであって、
前記脱塩処理装置は、
所定のゲストガスのクラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で前記塩水または前段の脱塩処理装置で生成した脱塩水と前記ゲストガスとを接触させてクラスレートを生成するクラスレート生成部と、
前記クラスレートの生成に伴い生成した濃縮塩水を排出して前記クラスレートと前記濃縮塩水とを固液分離し、その後前記クラスレートを分解して脱塩水を生成する脱塩水生成部と、
を備え、
前記脱塩水生成部は、後段の脱塩処理装置から排出された濃縮塩水を用いて、前記固液分離した前記クラスレートを洗浄しつつ分解することを特徴とする塩水の脱塩処理システム。
【請求項2】
所定のゲストガスのクラスレート生成温度およびクラスレート生成圧力の下で塩水と前記ゲストガスとを接触させてクラスレートを生成し、該クラスレートの生成に伴い生成した濃縮塩水を排出して前記クラスレートと前記濃縮塩水とを固液分離した後、前記クラスレートを分解して脱塩水を生成する脱塩処理を繰り返し行うことで前記塩水の塩分濃度を段階的に低下させて淡水を得る脱塩処理方法であって、
前記クラスレートを分解する際、後段の前記脱塩処理の過程で排出された前記濃縮塩水を用いて、前記クラスレートを洗浄しつつ分解することを特徴とする塩水の脱塩処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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