説明

塩溶液噴霧装置

【課題】試験片の表面に塩溶液粒子を均一に噴霧することができ、付着量の制御もできる塩溶液噴霧装置を提供する。
【解決手段】金属からなる試験片13の表面に塩溶液を噴霧するための溶液噴霧室12を形成する装置本体11と、溶液噴霧室12に気液噴出口を下向きにして設けられた溶液噴霧器15とを備えた塩溶液噴霧装置において、溶液噴霧室12に空気を溶液噴霧器15の上方から送風する送風機25と、送風機25から溶液噴霧室12に送風された空気を溶液噴霧器15の下方位置に搬送された試験片載置台17の下方位置から排気する排気装置28とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩水噴霧試験、キャス(CASS:Copper-Accelerated Acetic Acid Salt Spray)試験などの腐食促進試験を実施するときに用いられる塩溶液噴霧装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩溶液の試験片への塗布方法の一つであるJIS Z 2371に規定されている塩水噴霧試験での試験片への塩溶液の付着方法は、噴霧した塩溶液を自由落下させて、試験片に付着させる方法である。この方式では噴霧下の試験片は同一の付着量となり、試験片一枚毎に付着塩溶液量を変えることはできない。
試験片一枚毎に付着塩溶液量を変えられる塩溶液の付着方法としては、特許文献1に記載されているようにノズルを用いて塩溶液粒子を吹き付ける方式がある。これは、試験片載置台の上に載置された複数個の試験片を槽内に設けられた塩溶液吐出機構の下方位置に試験片移送機構により移送し、該試験片の表面に向けて塩溶液粒子を加圧空気と共に塩溶液吐出機構から吐出して塩溶液を噴霧するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−85144号公報(0011−0013、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような塩溶液噴霧装置によると、試験片載置台の上に載置された複数個の試験片に対して塩溶液粒子を一度に噴霧することが可能であるが、試験精度を高めるためには、各試験片の表面に塩溶液粒子を均一に噴霧する必要がある。しかしながら、塩溶液粒子と共に塩溶液吐出機構から吐出された加圧空気が試験片の表面に当たると、加圧空気が別の試験片の方向に反射する。このため、この別の試験片の表面に向かって流れていた加圧空気の流れが、反射した加圧空気によって乱されてしまう。この結果、各試験片の表面に塩溶液粒子を均一に噴霧することや付着量の制御が難しいという問題があった。
【0005】
また、塩溶液粒子を均一に噴霧しても、噴霧中に液が蒸発してしまうと噴霧した塩溶液の濃度にバラツキができてしまうという問題も生じた。
本発明は上述した問題点を解決すべくなされたものであり、その目的は、試験片の表面に塩溶液粒子を均一に噴霧することができ、付着量の制御もできる塩溶液噴霧装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、金属からなる試験片の表面に塩溶液を噴霧する塩溶液噴霧装置であって、前記試験片の表面に塩溶液を噴霧するための溶液噴霧室を形成する装置本体と、該装置本体により形成された溶液噴霧室内に気液噴出口を下向きにして設けられた溶液噴霧器と、前記溶液噴霧室に空気を前記溶液噴霧器の上方から送風する送風機と、該送風機から前記溶液噴霧室に送風された空気を前記溶液噴霧器の下方に位置する試験片の下方位置から排気する排気装置とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の塩溶液噴霧装置において、前記溶液噴霧室を加湿する加湿器をさらに備えたことを特徴とする。
本発明の請求項3に係る発明は、請求項2に記載の塩溶液噴霧装置において、前記溶液噴霧室の湿度を計測する湿度計と、該湿度計により計測された湿度を基に前記加湿器を制御する制御装置とをさらに備えたことを特徴とする。
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の塩溶液噴霧装置において、前記溶液噴霧器の溶液噴霧量と溶液噴霧圧に応じて前記送風機の送風空気量を制御すると共に前記送風機の送風空気量に応じて前記排気装置の排気空気量を制御する制御装置をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、試験片の表面に当って流れ方向が変化した加圧空気によって塩溶液粒子が乱されてしまうことを抑制でき、溶液噴霧器から噴霧された塩溶液粒子を送風機から送風された空気の流れに乗って試験片の表面に付着させることができるので、試験片の表面に塩溶液粒子を均一に噴霧することができる。また、塩溶液粒子の付着量や粒子径等を試験条件に応じて精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る塩溶液噴霧装置を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る塩溶液噴霧装置を用いて塩水噴霧試験などの腐食促進試験を行う場合の手順を示す図である。
【図3】溶液噴霧器に塩溶液を供給する塩溶液供給ポンプの周波数と試験片表面に付着した塩分量との関係を示す図である。
【図4】溶液噴霧器の移動ピッチと試験片表面に付着した塩分量との関係を示す図である。
【図5】溶液噴霧器の溶液噴出速度と試験片表面に付着した塩分量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る塩溶液噴霧装置を示す図であって、この塩溶液噴霧装置10は装置本体11、溶液噴霧器15、試験片搬送機構16、溶液タンク19、流量センサ22、圧力センサ23、送風機25、排気装置28、加湿器31、湿度計32および制御装置33,34を備えている。
【0011】
装置本体11は所定の濃度に調整された塩溶液を所定の雰囲気温度(例えば35℃)で噴霧するための溶液噴霧室12を形成するものである。また、装置本体11は、溶液噴霧室12に金属からなる試験片13を搬入したり溶液噴霧室12から試験片13を搬出したりするための試験片搬入出口14を装置本体11の側面部に有してもよい。なお、試験片13は手で所定の位置においてもかまわない。以下、試験片の搬入搬出装置を設けた場合を例にとり説明する。
【0012】
溶液噴霧器15は試験片13の表面に微粒子状の塩溶液を加圧空気と共に噴霧するものであって、気液噴出口を下向きにして溶液噴霧室12に設けられている。
試験片搬送機構16は複数個の試験片を載置可能な試験片載置台17を介して試験片13を溶液噴霧器15の下方位置に搬送するものであって、例えば多数の試験片搬送ローラ18から構成されている。
【0013】
溶液タンク19は試験片13の表面に噴霧される塩溶液を貯留するものであって、この溶液タンク19に貯留された塩溶液は塩溶液供給ポンプ20および塩溶液供給ライン21を経て溶液噴霧器15に供給されるようになっている。
流量センサ22は塩溶液供給ライン21を流通する塩溶液の流量を検出するものであって、この流量センサ22で検出された塩溶液の流量は溶液噴霧器15の塩溶液噴霧量情報として制御装置34に供給されている。
【0014】
圧力センサ23は加圧空気供給ライン24から溶液噴霧器15に供給される加圧空気の圧力を検出するものであって、この圧力センサ23により検出された加圧空気の圧力は溶液噴霧器15の塩溶液噴霧圧情報として制御装置34に供給されている。
送風機25は装置本体11により形成された溶液噴霧室12に空気を溶液噴霧器15の上方から送風するものであって、例えばファン26と、このファン26で発生した空気流を整流する整流器27とから構成されている。
【0015】
排気装置28は送風機25から溶液噴霧室12に送風された空気を試験片搬送機構16により溶液噴霧器15の下方位置に搬送された試験片載置台17の下方位置から排気するものであって、例えばファン29と、このファン29の上方に配置された整流器30とから構成されている。
加湿器31は装置本体11により形成された溶液噴霧室12を加湿するものであって、溶液噴霧器15から噴霧された塩溶液粒子が飛翔に蒸発しない湿度(例えば湿度100%)となるように溶液噴霧室12を加湿するように構成されている。
湿度計32は溶液噴霧室12の湿度を計測するものであって、この湿度計32から出力された信号は溶液噴霧室12の湿度情報として制御装置33に供給されている。
【0016】
制御装置33は加湿器31を制御するものであって、湿度計32により計測された溶液噴霧室12の湿度に基づいて加湿器31を制御するように構成されている。
制御装置34は流量センサ22および圧力センサ23から出力された信号に基づいて送風機25の送風空気量と排気装置28の排気空気量を制御するものであって、送風機25の送風空気量は溶液噴霧器15の溶液噴霧量と溶液噴霧圧に応じて制御され、排気装置28の排気空気量は送風機25の送風空気量に応じて制御されるようになっている。
なお、溶液噴霧器15は図示しない噴霧器駆動機構により試験片13に対して水平面内で互いに直交するXY方向に駆動されるようになっている。
【0017】
図2は本発明の一実施形態に係る塩溶液噴霧装置を用いて試験片の表面に塩溶液を噴霧する場合の手順を示す図であって、上述した塩溶液噴霧装置10を用いて試験片13の表面に塩溶液を噴霧する場合には、図2(a)に示すように、複数個の試験片13を試験片載置台17の上面に載置する。そして、試験片載置台17の上面に載置された複数個の試験片13を試験片搬送機構16により溶液噴霧器15の下方位置に搬送するとともに、溶液噴霧室12の湿度を所定の湿度(例えば溶液噴霧器15から噴霧された塩溶液粒子が蒸発しない程度の湿度)に加湿器31により加湿する。
【0018】
試験片載置台17の上面に載置された複数個の試験片13を溶液噴霧器15の下方位置に搬送したならば、送風機25を作動させて溶液噴霧器15の上方から空気を溶液噴霧室12に送風すると共に、排気装置28を作動させて溶液噴霧室12に送風された空気を試験片載置台17の下方位置から排気する。そして、図2(b)に示すように、この状態で溶液噴霧器15の下端部から塩溶液粒子を加圧空気と共に試験片13の表面に向けて噴出する。このとき、送風機25から送風された空気は、図2(b)に示すように、溶液噴霧器15が設けられた溶液噴霧室12の内部を上方から下方に流れる空気流35を形成する。
【0019】
従って、上述した本発明の一実施形態では、試験片13の表面に当って流れ方向が変化した加圧空気によって塩溶液粒子が乱されてしまうことを抑制でき、溶液噴霧器15から噴霧された塩溶液粒子を送風機25から送風された空気の流れに乗って試験片13の表面に付着させることができるので、試験片載置台17の上に載置された各試験片13の表面に塩溶液粒子を均一に噴霧することができる。
【0020】
また、上述した本発明の一実施形態では、溶液噴霧室12を加湿する加湿器31を備えたことで、溶液噴霧室12の湿度を溶液噴霧器15から噴霧された塩溶液粒子が蒸発しない程度まで加湿することができる。
また、溶液噴霧室12の湿度を計測する湿度計32と、湿度計32により計測された湿度に基づいて加湿器31を制御する制御装置33を備えたことで、加湿器31の加湿量などを予め定めた最適値に調整することができる。
【0021】
さらに、送風機25の送風空気量を溶液噴霧器15の溶液噴霧量と溶液噴霧圧に応じて制御すると共に排気装置28の排気空気量は送風機25の送風空気量に応じて制御する制御装置34を備えたことで、溶液噴霧器15の上方から溶液噴霧室12に送風される送風空気量を溶液噴霧器15から噴霧される塩溶液の塩分濃度や噴霧量に応じて最適値に調整できると共に溶液噴霧器15の下方位置に搬送された試験片載置台17の下方から排気される排気空気量を送風機25の送風空気量に応じて調整することができ、従って、溶液噴霧器15の下方位置に搬送された試験片13の表面全体に微粒子状の塩溶液を均一に撒布することができる。
塩溶液供給ポンプ20の周波数を0〜80Hz、塗り重ねピッチ(溶液噴霧器15の移動ピッチ)を10〜40mm、溶液噴霧器15の移動速度を10〜40m/minの範囲で変更して試験片13の表面に3.5質量%の塩化ナトリウム溶液を噴霧したときに試験片表面に付着した塩分量を調べた結果を図3〜図5に示す。
【0022】
図3〜図5に示すように、塩溶液供給ポンプ20の周波数を上げると試験片13の表面に付着する塩分量が直線的に増加することがわかり、また、塗り重ねピッチを大きくすると試験片13の表面に付着する塩分量が直線的に減少することがわかる。さらに、溶液噴霧器15の移動速度を早くすると試験片13の表面に付着する塩分量が直線的に減少することがわかる。
なお、上述した本発明の一実施形態では、複数個の試験片を載置可能な試験片載置台を介して試験片を溶液噴霧器の下方位置に搬送する試験片搬送機構として、多数の試験片搬送ローラからなるものを例示したが、これに限られるものではなく、試験片搬送機構を例えば複数の搬送コンベヤから構成してもよい。
【符号の説明】
【0023】
10…塩溶液噴霧装置
11…装置本体
12…溶液噴霧室
13…試験片
15…溶液噴霧器
16…試験片搬送機構
17…試験片載置台
19…溶液タンク
20…塩溶液供給ポンプ
21…塩溶液供給ライン
22…流量センサ
23…圧力センサ
24…加圧空気供給ライン
25…送風機
28…排気装置
31…加湿器
32…湿度計
33,34…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる試験片の表面に塩溶液を噴霧する塩溶液噴霧装置であって、前記試験片の表面に塩溶液を噴霧するための溶液噴霧室を形成する装置本体と、該装置本体により形成された溶液噴霧室内に気液噴出口を下向きにして設けられた溶液噴霧器と、前記溶液噴霧室に空気を前記溶液噴霧器の上方から送風する送風機と、該送風機から前記溶液噴霧室に送風された空気を前記溶液噴霧器の下方に位置する試験片の下方位置から排気する排気装置とを備えたことを特徴とする塩溶液噴霧装置。
【請求項2】
前記溶液噴霧室を加湿する加湿器をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の塩溶液噴霧装置。
【請求項3】
前記溶液噴霧室の湿度を計測する湿度計と、該湿度計により計測された湿度を基に前記加湿器を制御する制御装置とをさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の塩溶液噴霧装置。
【請求項4】
前記溶液噴霧器の溶液噴霧量と溶液噴霧圧に応じて前記送風機の送風空気量を制御すると共に前記送風機の送風空気量に応じて前記排気装置の排気空気量を制御する制御装置をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塩溶液噴霧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−93185(P2012−93185A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239900(P2010−239900)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000107583)スガ試験機株式会社 (28)
【Fターム(参考)】