説明

塩素ガス検知材

【課題】サンプリング時間の長短に関わり無く検出感度を可及的に一定に維持できる塩素ガス検知材を提供すること。
【解決手段】4−ヘキシロキシアニリン、酸化防止剤、及び保湿剤を担持シートに展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気中に含まれている塩素ガスを呈色反応を利用して光学的に測定するための検知材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化力を有する塩素やオゾン等の気体(以下、酸化性ガスという)は、洗浄剤やエッチング液として工業材料や殺菌剤として広い分野で大量に使用されていて、作業の過程でその一部が大気中に揮散して環境に放出しやすい。そして酸化性ガスは、人体に有害であるため、環境中における許容濃度は、例えば塩化水素ガスに例を採ると0.5ppm程度に制限されている。
【0003】
そしてこれら酸性ガスの濃度は、通常、ガルバニセル法を用いた電気化学式センサーにより検出され、環境中の濃度が監視されている。しかしながら精密機械工業や電子工業のように極わずかな錆や腐蝕を嫌う分野においては、環境基準をはるかに下回る濃度で管理できることが求められているが、ガルバニセル法を用いた電気化学式ガスセンサーは、その検出限界がppmオーダであるため、上述のような品質管理上必要なサブppmオーダでは高い精度で検出が不可能であるという問題がある。
【0004】
一方、サブppbオーダの酸性ガスの検知には、呈色反応を利用した化学的な測定方法も一部では利用されているものの、試薬などの流体を取り扱う必要があるため、測定作業が面倒であるばかりでなく、熟練を要するという問題がある。
このような問題を解消するため、本出願人は、特許文献1に見られるように、p−n−ブトキシアニリンと、紫外線吸収材と、保湿剤としての多価アルコールを多孔質担体に展開してなる酸化性ガス検知シートを提案した。
【特許文献1】特開平7-12733号号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この検知シートによれば保湿剤に吸収されている水分によりp−n−ブトキシアニリンと被検出対象ガスとの反応を促進して、低い濃度の酸化性ガスを検出することができるものの、p−n−ブトキシアニリンが揮散しやすく、サンプリングガスを長時間晒した場合には、p−n−ブトキシアニリンが減少して測定精度が低下し、またオゾンに対しても高い感度を有するため、オゾンの存在したでは誤差が生じるという不都合がある。
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、オゾンに対する高い選択性を有し、かつサンプリング時間の長短に関わり無く検出感度を可及的に一定に維持できる塩素ガス検知材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような問題を解消するために本発明においては、4−ヘキシロキシアニリン、酸化防止剤、及び保湿剤を担体に展開するようにした。
【発明の効果】
【0007】
4−ヘキシロキシアニリンは、塩素に対してp−n−ブトキシアニリンと同等の光学的の濃度の変化を起こす一方、揮散性が低いため、検出感度が長期間にわたって一定に維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
そこで以下に本発明の詳細を実施例に基づいて説明する。
4−ヘキシロキシアニリン(CH3(CH2)5OC6H4NH2)0.25wt%、酸化防止剤、例えば2,6ージーtert−ブチル−p−クレゾール1wt%、及び保湿剤、例えばグリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール15mlを、全量が100mlとなるように易蒸発性有機溶媒、この実施例ではメタノールに溶解して発色液を調製する。
【0009】
この発色液を、担持材、たとえばセルロースを素材とするろ紙に含浸させ、必要に応じて加温しながら有機溶媒を揮散させる。なお、被検ガスとの反応を促進させるため、予めシリカゲルやアルミナ等の微粉末が混入された担持用のシート材を用いるか、シリカゲルやアルミナ等の微粉末を発色液に混入してシート材に担持させるのが望ましい。
【0010】
これにより、担持材1平方メートル当たり4−ヘキシロキシアニリンを0.18g、酸化防止剤を0.92g及び保湿剤が展開された検知材が得られる。
【0011】
この検知材は、テープに裁断されて自動測定装置の検知テープや、また紙片に裁断して検知バッジの検知材として使用することができる。
【0012】
特に検知材をテープに加工すると、図1(イ)に示したようにテープ1をカセット2に収容して、テープ搬送機構3により発光素子4と受光素子5を備えたサンプリングヘッド6に一定時間毎に搬送することが可能で、酸化性ガス、例えば塩素の濃度を自動的に測定することができる。このサンプリングヘッド6は、サンプリングパイプ7を介して被測定環境に連通されていて、パイプ8を介して吸引ポンプに接続された吸引ヘッド9と共同してテープ1を封止するように構成されている。
【0013】
このような構成により、吸引ポンプを一定時間作動させてサンプリングを実行することにより、所定量の流体がテープ1を通過し、塩素ガスの濃度に比例した反応痕がテープ1に形成される。発光素子4と受光素子5により反応痕の相対的光学濃度を検出することにより濃度を測定することができる。
【0014】
このようにサンプリングガスがテープを透過する際、4−ヘキシロキシアニリンを揮散させようとするが、p−n−ブトキシアニリン(分子量165.23)に比較して分子量が、193.29と大きいため、揮散量が極めてすくない。
【0015】
なお、上述の実施例においては被測定流体を、シート材を通過させて反応させているが、同図(ロ)に示したようにテープ1の一方の面を封止するキャップ体10に、一側に流入口11を、他端に流出口12を形成し、かつ前述の発光素子と受光素子とを設けて構成されたサンプリングヘッドを用いて、シート材の一方の面を被測定流体が流れるようにしても同様に測定することができる。
【0016】
図2は、発色液中の4−ヘキシロキシアニリンの含有量0.025wt%乃至1.25wt%まで変化させて製作した検知テープ(つまり、担持材1平方メートル当たり4−ヘキシロキシアニリンを0.18g乃至9g)を用い、オゾン2ppm(符号A)、及び塩素0.6ppm(符号B)をそれぞれ測定した場合の相対検出出力を示すもので、この測定結果から本発明の検知テープは、酸化性ガスであるオゾンが存在する環境においても塩素を高い選択性で検出することができ、かつ4−ヘキシロキシアニリンの含有量に対する感度の依存性が低いことが判明した。
【0017】
なお、担持材1平方メートル当たり4−ヘキシロキシアニリンの量を0.18g未満とすると、Cl2に対する感度が低下するという不都合が、また9gを超えてもCl2に対する感度の一層の向上がない割りにオゾン(O3)の干渉性が増大するという不都合がある。
【0018】
また、図3は、本発明の検知テープ(図中符号A)とブトキシアニリンを使用した従来の検知テープ(符号B)を用いて、0.6ppmの塩素を含む標準ガスによりフィールドテストを実行したところ、本発明の検知材は、90日後でもほぼ同等の検出感度を有しているのに対して、ブトキシアニリンを使用した従来の検知テープは、90日後には検出感度が30%程度低下した。
このことから本発明の塩素検知材は、特に吸引操作によりサンプリングガスにさらされる場合にでも長期間にわたって一定の感度を維持できることが判明した。
【0019】
なお、上述の実施例では、通気性を備えたシートに薬剤を展開して自動測定装置による測定に供するようにしているが、薬剤に対して非活性で、かつ薬剤を保持できる担体、たとえばシリカゲル、アルミナ、高分子シートに展開して、表面にサンプリングガスを流すようにしても同様の作用を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図(イ)、(ロ)は、それぞれ塩素検知材をテープに整形して使用する測定装置の一実施例を示す図と、サンプリングヘッドの他の実施例を示す図である。
【図2】4−ヘキシロキシアニリンの含有量に対するオゾンと塩素との測定結果を示す線図である。
【図3】本発明の検知テープ、及び従来の検知テープのサンプリング時間に対する検出感度の変化を示す線図である。
【符号の説明】
【0021】
1 テープ(検知材)、 3 テープ搬送機構、 4 発光素子、 5 受光素子、 6 サンプリングヘッド、 7 サンプリングパイプ、 9 吸引ヘッド、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ヘキシロキシアニリン、酸化防止剤、及び保湿剤を担体に展開してなる塩素ガス検知材。
【請求項2】
前記担体がシートであり、4−ヘキシロキシアニリンが、1平方メートルあたり0.18g乃至9gである請求項1に記載の塩素ガス検知材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−112914(P2006−112914A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300268(P2004−300268)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】