説明

塩素濃度の自動管理方法および自動管理装置

【課題】塩素濃度検出用電極の校正機構がなくても正確な塩素濃度の継続的管理を行なえる塩素濃度の自動管理装置を提供する。
【解決手段】自動管理装置Mは、自動化された吸光光度法により処理液循環系Lから採取したサンプリング液の遊離残留塩素濃度などを時間を空けて測定する塩素濃度計Aと、上記サンプリング液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計Bと、上記塩素濃度計Aで測定した遊離残留塩素濃度などの濃度変化と上記酸化還元電位計Bで測定した酸化還元電位などの変化とを対応させて遊離残留塩素濃度などの予測制御係数を算出し、この予測制御係数と最新の酸化還元電位とにより予測される制御用塩素濃度を算出し、この制御用塩素濃度に基づき制御信号を算出して出力する制御部Cと、この制御部Cからの制御信号により処理液循環系の遊離残留塩素濃度などを調整する塩素濃度調整部Dとを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動化された吸光光度法による塩素濃度計と酸化還元電位計とを用いて処理液循環系の塩素濃度を連続的に自動管理する塩素濃度の自動管理方法および自動管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公衆浴場の浴槽やプール等の水槽の水は、その水質を維持管理するために、固形の塩素剤(サラシ粉)や次亜塩素酸ソーダ(NaClO)を人手により投入して、遊離塩素濃度を人手により計測し、規定された値に維持管理している。しかし、人手計測、人手投入では、常に一定濃度に管理することは難しく、投入不足や過剰投入になりやすい。
【0003】
最近では、ポーラログラフ法の残留塩素センサを用いた連続フィードバック制御による自動管理方法が行なわれる例があるが、定期的に電極の校正を人手で行なう必要があり、大変手間がかかる。
【0004】
また、水を電解処理して滅菌作用を付与するための電解槽を有し、プール等の水槽に、電解槽で電解処理した水を供給して滅菌するための水処理装置であって、水槽の水の残留塩素濃度を求めるための、第1および第2の2台の残留塩素濃度検出手段と、第1の残留塩素濃度検出手段を用いて継続的に水槽の水の残留塩素濃度を求めるとともに、電解槽で水を電解処理して生成させる、塩素を含む滅菌作用を有する成分の、水槽への供給レートを、上記で求めた水の残留塩素濃度の結果に基づいて調整するための残留塩素濃度制御手段と、第2の残留塩素濃度検出手段を用いて定期的または不定期に水槽の水の残留塩素濃度を求め、その結果を、第1の残留塩素濃度検出手段によって求めた残留塩素濃度と比較して、両者にずれが生じた場合には第1の残留塩素濃度検出手段を校正するための校正制御手段とを備える水処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
第1の残留塩素濃度検出手段は、水の残留塩素濃度の変化を、電極間を流れる電流値の変化として出力するとともに、この出力を、電極間のスパン調整によって校正する機能を有する残留塩素センサであり、校正制御手段は、この残留塩素センサの出力電流値から求めた残留塩素濃度が、第2の残留塩素濃度検出手段によって求めた残留塩素濃度と一致するように、電極間のスパン調整を行うようにしている。また、第2の残留塩素濃度検出手段は、水の残留塩素濃度の変化を、DPD試薬の変色に伴う吸光光度の変化として出力するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3999967号公報(第11−12頁、図6−9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記第1の残留塩素濃度検出手段は、水の残留塩素濃度の変化を、電極間を流れる電流値の変化として出力するとともに、この出力を、電極間のスパン調整によって校正する機能を有する残留塩素センサであり、この残留塩素センサにより、残留塩素濃度を常時測定する必要がある。
【0008】
さらに、上記校正制御手段は、上記残留塩素センサの出力電流値から求めた残留塩素濃度が、第2の残留塩素濃度検出手段によって求めた残留塩素濃度と一致するように、電極間のスパン調整を行うので、面倒な塩素濃度検出用電極の校正機構が必要となる。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、塩素濃度検出用電極の校正機構がなくても正確な塩素濃度の継続的管理を行なうことができる塩素濃度の自動管理方法および自動管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された発明は、自動化された吸光光度法により処理液循環系から採取したサンプリング液の塩素濃度を時間を置いて測定するとともに、サンプリング液の酸化還元電位を連続的に測定し、上記吸光光度法による測定間は、上記吸光光度法による測定で得られた塩素濃度の濃度変化に対応する上記酸化還元電位の変化を利用して最適に制御するために予測される制御用塩素濃度を算出し、この制御用塩素濃度に基づき処理液循環系の塩素濃度を連続制御する塩素濃度の自動管理方法である。
【0011】
請求項2に記載された発明は、自動化されたジエチル−p−フェニレンジアミン試薬による吸光光度法により処理液循環系から採取したサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を時間を空けて測定する塩素濃度計と、上記サンプリング液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計と、上記吸光光度法による塩素濃度計で測定したサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の濃度変化と上記酸化還元電位計で測定したサンプリング液の酸化還元電位をこのサンプリング液の液温度等により補正した補正酸化還元電位値の変化とを対応させて遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の予測制御係数を算出し、この予測制御係数と最新の酸化還元電位とにより最適に制御するために予測される制御用塩素濃度を算出し、この制御用塩素濃度に基づき、処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を予め設定された設定値にフィードバック制御する制御信号を算出して出力する制御部と、この制御部から出力された制御信号により処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を調整する塩素濃度調整部とを具備した塩素濃度の自動管理装置である。
【0012】
請求項3に記載された発明は、請求項2記載の塩素濃度の自動管理装置において、自動化されたジエチル−p−フェニレンジアミン試薬による吸光光度法の塩素濃度計が、複数の処理液循環系に対して1つが設けられ、この塩素濃度計に複数の処理液循環系から順次切換えて供給された複数のサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を順次測定し、酸化還元電位計は、複数の処理液循環系に対してそれぞれ設けられ、複数のサンプリング液の酸化還元電位をそれぞれ測定するものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、自動化された吸光光度法により正確な塩素濃度を測定できるとともに、吸光光度法による測定間は、吸光光度法による測定で得られた塩素濃度の濃度変化に対応する酸化還元電位の変化を利用して最適に制御するために予測される制御用塩素濃度を算出し、この制御用塩素濃度に基づき処理液循環系の塩素濃度を連続制御するので、塩素濃度検出用電極の校正機構がなくても、吸光光度法により正確な塩素濃度を継続的に管理できる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、自動化された吸光光度法による塩素濃度計により時間を空けて正確な遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を測定できるとともに、この塩素濃度計による測定間は、制御部が、上記正確な遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の濃度変化と、酸化還元電位計で測定した酸化還元電位を液温度等により補正した補正酸化還元電位値の変化とを対応させて遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の予測制御係数を算出し、この予測制御係数と最新の酸化還元電位とにより最適に制御するために予測される制御用塩素濃度を算出し、この制御用塩素濃度に基づき、処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を予め設定された設定値にフィードバック制御する制御信号を算出して出力するので、塩素濃度検出用電極の校正機構がなくても吸光光度法により正確な遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の継続的管理を行なうことができる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、高価な自動化された吸光光度法による塩素濃度計の1つを、複数の処理液循環系に対して有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る塩素濃度の自動管理方法および自動管理装置の一実施の形態を示す回路図である。
【図2】同上自動管理装置が適用されるシステム全体の回路図である。
【図3】同上自動管理装置の制御手順を示すフローチャートである。
【図4】同上自動管理装置の他の実施の形態を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図1乃至図3に示された一実施の形態、図4に示された他の実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図2に示されるように、浴槽、プールなどの処理液槽Tから引き出された配管は、循環ポンプPおよび濾過器Fを経て、処理液槽Tに戻されて、処理液循環系Lを構成している。処理液循環系Lからサンプリング液を採取するための検水管Liが引き出され、塩素濃度としての遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度(遊離残留塩素と結合残留塩素とを合わせた全残留塩素の濃度を単に「残留塩素濃度」という)を自動管理する自動管理装置Mに引き込まれている。この自動管理装置Mからは次亜塩素酸ソーダを処理液循環系に供給するための次亜塩注入管Loが引き出され、処理液循環系Lに引き込まれている。
【0019】
図1に示されるように、遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の自動管理装置Mは、自動化されたジエチル−p−フェニレンジアミン試薬による吸光光度法により処理液循環系から採取したサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を時間を空けて測定する塩素濃度計Aと、上記サンプリング液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計Bと、上記吸光光度法による測定間は、上記吸光光度法による測定で得られた遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の濃度変化に対応する上記酸化還元電位の変化を利用して最適に制御するために予測される制御用塩素濃度を算出し、この制御用塩素濃度に基づき処理液循環系Lの遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を連続制御する制御信号を算出し出力する制御部Cと、この制御部Cから出力された制御信号により処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を調整する塩素濃度調整部Dとを具備している。
【0020】
すなわち、上記制御部Cは、上記吸光光度法による塩素濃度計Aで時間を空けて測定したサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の濃度変化と、上記酸化還元電位計Bで測定したサンプリング液の酸化還元電位を予測用測定値としてこの予測用酸化還元電位を上記サンプリング液の液温度等により補正した補正酸化還元電位値の変化とを対応させて、遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の予測制御係数を算出し、上記吸光光度法による塩素濃度計Aで遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を測定する時以外は、この予測制御係数と上記酸化還元電位計Bで測定した最新の予測用酸化還元電位とによって最適に制御するために予測される制御用塩素濃度を算出し、この制御用塩素濃度に基づき、処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を予め設定された設定値となるようにフィードバック制御する制御信号を算出し出力するものである。
【0021】
吸光光度法による塩素濃度計Aは、ジエチル−p−フェニレンジアミン法(いわゆるDPD法)を自動化した遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の測定器であり、このDPD法は、厚労省が定める遊離残留塩素の濃度、または遊離残留塩素と結合残留塩素とを合わせた全残留塩素の濃度の測定法で、公衆浴場の浴槽水、プールや水道水などの遊離残留塩素または全残留塩素の濃度を測定する公定法であり、ジエチル−p−フェニレンジアミン試薬(いわゆるDPD試薬)をサンプリング液に混ぜて発色させた上で、そのサンプリング液の吸光光度を測定して遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を自動測定する。
【0022】
すなわち、上記自動管理装置Mは、遊離残留塩素のみの濃度を自動管理することができるとともに、DPD試薬を変えることにより、またはDPD試薬を追加することにより、残留塩素および結合残留塩素の濃度を自動管理することもできる。
【0023】
塩素濃度計Aの吸光光度測定部A1は、吸光度セル1の下部内に撹拌機2が設けられ、前記検水管Liがサンプル水電磁弁3を経て吸光度セル1の下部に接続され、吸光度セル1の左右に発光器4と受光器5とが相対して配置され、さらに、吸光度セル1に対してDPD試薬用定量ポンプ6によりDPD試薬7を供給する管路が接続され、また、吸光度セル1に対してリン酸緩衝液用定量ポンプ8によりpHの変動を抑制するリン酸緩衝液9を供給する管路が接続されている。
【0024】
そして、この自動化された吸光光度法による塩素濃度計Aは、吸光度セル1内にDPD試薬用定量ポンプ6によりDPD試薬7を供給して発色させるとともにリン酸緩衝液用定量ポンプ8によりリン酸緩衝液9を供給し、撹拌機2によりDPD試薬7およびリン酸緩衝液9をサンプリング液と攪拌して発色状態を安定させ、発光器4から、DPD試薬で遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度に応じて発色されたサンプリング液を透過して受光器5に到達した光の強度からサンプリング液の吸光光度を測定して、遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を自動測定するので、高精度の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度に関する測定値が得られるものの、一定量のサンプリング液をいったん貯留して撹拌機2によりDPD試薬を均一に攪拌するバッチ式のため、連続測定には適さず、遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度が急速に変化する場合に対応できない。
【0025】
一方、酸化還元電位計Bの測定部B1は、酸化還元電位を測定するための2つの電極(以下、ORP電極という)10がORP電極用ホルダ11の内部に設けられ、前記検水管Liがサンプル水調整弁12を経てORP電極用ホルダ11の下部に接続されている。
【0026】
そして、ORP電極10は、比較極および測定極の2つの電極間の電位差により酸化還元電位、すなわち物質の酸化力または還元力を測定可能な電位差(電圧)を測定する電極である。+は酸化力を表わす。一定電圧をかけた電極間に流れる電流値により塩素濃度を測定するポーラログラフ法の電極と比べてシンプルであり安価であるが、酸化還元力を測定するための電極であり、塩素濃度を正確に測定するには、他の影響を受けやすく、単体での塩素濃度計としては難がある。一方、このORP電極10で得られる酸化還元電位は、塩素濃度により変化することから、塩素濃度の変化の度合により塩素濃度値を推定でき、液温度やpH等を考慮することにより、より正確な濃度変化を予測することは、十分可能である。pHや電極の経時変化などの急激な変化をしない要因は、酸化還元電位測定値に含めて取り扱って影響はない。
【0027】
塩素濃度調整部Dは、次亜塩素酸ソーダ13を次亜塩注入用定量ポンプ14により注入用逆止弁15を介して処理液循環系Lに注入するものであり、制御部Cから出力された制御信号により次亜塩注入用定量ポンプ14のポンプ吐出量が制御され、このポンプ吐出量に応じて処理液循環系Lへの次亜塩注入量が決定される。
【0028】
制御部Cでは、塩素濃度計Aの吸光光度測定部A1で得られた吸光光度データから遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を算出する塩素濃度演算部17と、酸化還元電位計BのORP電極変換器18とが、コントローラ19に接続され、塩素濃度演算部17で算出された遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度(DPD塩素濃度という)と、酸化還元電位計BのORP電極変換器18で変換された酸化還元電位(ORP値という)とが、コントローラ19に入力される。塩素濃度演算部17で得られたDPD塩素濃度は、塩素濃度演算部17に接続された記録計20で記録される。
【0029】
検水管Liには、サンプリング液の液温度を検出する温度センサ21が接続され、この温度センサ21で得られたデータ取得ラインは、制御部Cのコントローラ19に接続されている。なお、処理液循環系の液温度が一定に制御される場合は、その液温度を制御部Cのコントローラ19に入力しておけば良く、塩素濃度管理のための温度センサは不要となる。
【0030】
制御部Cのコントローラ19は、上記吸光光度法による塩素濃度計Aで測定したサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度(DPD塩素濃度)の濃度変化と、上記酸化還元電位計Bで測定したサンプリング液の酸化還元電位(ORP値)をこのサンプリング液の液温度等により補正した補正酸化還元電位値(補正ORP値という)の変化とを対応させて、遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の予測制御係数(予測制御係数という)を算出し、この予測制御係数と最新のORP値とにより最適に制御するために予測される制御用塩素濃度(制御用塩素濃度という)を算出し、この制御用塩素濃度に基づき、処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を予め設定された設定値にフィードバック制御する制御信号を算出し出力する機能を備えている。
【0031】
すなわち、制御部Cのコントローラ19は、算出された制御用塩素濃度と、予め設定入力されたDPD塩素濃度の設定値とを比較して、その差がなくなるように次亜塩注入用定量ポンプ14のポンプ吐出量(処理液循環系Lへの次亜塩注入量)をフィードバック制御する制御信号を算出して出力する算出・制御機能を備えている。
【0032】
このように、本自動管理装置Mを用いた自動管理方法は、測定精度を確保できるDPD塩素濃度をベースにして、ポンプ制御などの連続制御に適するORP値を補助的に用い、このORP値に液温度等の補正をしてDPD塩素濃度予測用の補正ORP値を算出し、この補正ORP値の変化とDPD塩素濃度の濃度変化とを対応させて補正ORP値のDPD塩素濃度への予測修正係数である予測制御係数を算出し、この予測制御係数を最新のORP値に適用することで制御用塩素濃度を算出し、バッチ式測定法によるため連続測定ができないDPD法の非測定時のデータをこの制御用塩素濃度により補い、ポンプ吐出量などを連続制御する。
【0033】
次に、図3は、補完用塩素濃度を算出する算出フローを示す。この図3中の丸数字は、制御手順を示すステップ番号である。
【0034】
(ステップ1)
自動化された吸光光度法による塩素濃度計Aにより、正確なDPD塩素濃度a1(mg/L)を測定する。このDPD塩素濃度a1(mg/L)は、記録計20によって記録する。
【0035】
(ステップ2)
上記吸光光度法による塩素濃度計Aにより測定したDPD塩素濃度a1(mg/L)と、DPD塩素濃度設定値との差から、次亜塩注入用定量ポンプ14の吐出量を制御する制御信号をコントローラ19により算出して出力する。例えば、DPD塩素濃度a1(mg/L)が、DPD塩素濃度設定値を下回る場合は、その程度に応じて次亜塩注入用定量ポンプ14の吐出量を増加させ、次亜塩注入用定量ポンプ14から注入用逆止弁15を経て処理液循環系Lに注入される次亜塩素酸ソーダ13の注入量を増加させ、逆に、DPD塩素濃度a1(mg/L)が、その設定値を上回る場合は、その程度に応じて次亜塩注入用定量ポンプ14の吐出量を低下させ、場合によっては停止させる。
【0036】
(ステップ3)
前回の吸光光度法による塩素濃度計Aの測定が行なわれてから、一定時間経過したか否かを常に判断し、一定時間ごと例えば1時間ごとに吸光光度法による塩素濃度計Aの測定を実行する。吸光光度法による塩素濃度計Aの測定を行なう間は、ステップ4以下の制御手順に入る。
【0037】
(ステップ4)
吸光光度法による塩素濃度計Aの測定を行なわないときは、酸化還元電位計BによりDPD塩素濃度予測用のORP値b(mV)を測定する。
【0038】
(ステップ5)
温度センサ21により検出されたDPD塩素濃度予測用の液温度t(K)を測定する。
【0039】
(ステップ6)
ステップ1〜3の吸光光度法による塩素濃度計Aの測定により、DPD塩素濃度a1(mg/L)を新しく測定したか否かを判断する。
【0040】
(ステップ7)
ステップ6の吸光光度法による測定でDPD塩素濃度a1(mg/L)を新しく測定した場合は、得られた最新のDPD塩素濃度a1(mg/L)の濃度変化に対応して、DPD塩素濃度予測用のORP値b(mV)および液温度t(K)等によって補正された予測用補正ORP値がどの程度変化したかを算出し、このDPD塩素濃度a1(mg/L)の濃度変化と補正ORP値の変化との対応関係から、予測制御係数Xを算出する。
【0041】
例えば、最新のDPD塩素濃度a1(mg/L) の濃度変化と、そのときのDPD塩素濃度予測用のORP値b(mV)を液温度t(K)等で補正した補正ORP値の変化とを対応させて、補正ORP値の変化値に予測制御係数Xを掛けることでDPD塩素濃度a1(mg/L)の濃度変化を予測できるような予測制御係数Xを算出する。
【0042】
この予測制御係数Xは、複数回のデータの平均により決定することが望ましい。
【0043】
(ステップ8)
最新のDPD塩素濃度予測用のORP値b(mV)に、上記予測制御係数Xを適用して、予測される制御用塩素濃度a2(mg/L)を算出する。例えば、最新のORP値b(mV)に予測制御係数Xを掛けることで予測される制御用塩素濃度a2(mg/L)を算出する。液温度t(K)等が変化している場合は、ORP値b(mV)を液温度等で補正した値に、上記予測制御係数Xを適用する。
【0044】
(ステップ9)
ステップ8で得られた制御用塩素濃度a2(mg/L)と、DPD塩素濃度設定値との差から、次亜塩注入用定量ポンプ14の吐出量を制御する制御信号をコントローラ19により算出して出力する。例えば、制御用塩素濃度a2(mg/L)が、DPD塩素濃度設定値を下回る場合は、その程度に応じて次亜塩注入用定量ポンプ14の吐出量を増加させ、次亜塩注入用定量ポンプ14から注入用逆止弁15を経て処理液循環系Lに注入される次亜塩素酸ソーダ13の注入量を増加させる。
【0045】
上記予測制御係数Xは、実際に測定されたDPD塩素濃度a1(mg/L)と制御用塩素濃度a2(mg/L)との差が小さくなるように、オートチューニング機能を持たせることにより、最適の制御が可能となる。
【0046】
このように、図1乃至図3に示された実施の形態によれば、吸光光度法により正確なDPD塩素濃度a1を測定できるとともに、吸光光度法による測定間は、吸光光度法による測定で得られたDPD塩素濃度a1の濃度変化に対応するORP値bの変化を利用して制御用塩素濃度a2を算出し、この制御用塩素濃度a2に基づき処理液循環系Lの遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を連続制御するので、従来のような塩素濃度検出用電極の校正機構がなくても、吸光光度法により正確な遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を継続的に管理できる。
【0047】
すなわち、吸光光度法による塩素濃度計Aにより時間を空けて正確なDPD塩素濃度a1を測定できるとともに、この塩素濃度計Aによる測定を行えない間は、制御部Cのコントローラ19は、上記正確なDPD塩素濃度a1の濃度変化と、酸化還元電位計Bで測定したサンプリング液のORP値bを液温度tにより補正したDPD塩素濃度予測用補正ORP値の変化とを対応させて、予測制御係数Xを算出し、この予測制御係数Xと最新のORP値bとにより予測される制御用塩素濃度a2を算出し、この制御用塩素濃度a2に基づき、制御部Cのコントローラ19は、処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を予め設定された設定値にフィードバック制御する制御信号を算出して出力するので、塩素濃度検出用電極の校正機構がなくても吸光光度法により正確な遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の継続的管理を行なうことができる。要するに、人手で電極間のスパン調整をしなければならない手間のかかるポーラログラフ電極と異なり、シンプルで安価なORP電極10による連続測定で、信頼性の高いDPD塩素濃度を高精度に自動的に補完できる。
【0048】
次に、図4は、他の実施の形態を示す。
【0049】
図4に示されるように、浴槽、プールなどの複数の処理液槽T1,T2,T3から引き出されたそれぞれの配管は、それぞれの循環ポンプP1,P2,P3およびそれぞれの濾過器F1,F2,F3を経て、それぞれの処理液槽T1,T2,T3に戻されて、それぞれの処理液循環系L1,L2,L3を構成している。それぞれの処理液循環系L1,L2,L3からそれぞれのサンプリング液を採取するための検水管Liが引き出され、それぞれの遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を自動管理する自動管理装置M1,M2,M3に引き込まれている。それぞれの自動管理装置M1,M2,M3からは次亜塩素酸ソーダをそれぞれの処理液循環系L1,L2,L3に供給するための次亜塩注入管Loが引き出され、それぞれの処理液循環系L1,L2,L3に引き込まれている。
【0050】
吸光光度法による塩素濃度計Aの吸光光度測定部A1および塩素濃度演算部17(図1参照)は、複数の処理液循環系L1,L2,L3に対して1つの自動管理装置M1のみに設けられている。
【0051】
処理液循環系L2,L3のサンプリング液採取用の検水管Liからそれぞれの検水管Li2,Li3が引き出され、これらの検水管Li2,Li3が、それぞれのサンプル水電磁弁23,24を経て自動管理装置M1の吸光光度測定部A1とサンプル水電磁弁3との間の管路に接続されている。
【0052】
そして、サンプル水電磁弁3を開き、サンプル水電磁弁23,24を閉じることで、処理液循環系L1のサンプル水を吸光光度測定部A1に供給し、また、サンプル水電磁弁23を開き、サンプル水電磁弁3,24を閉じることで、処理液循環系L2のサンプル水を吸光光度測定部A1に供給し、また、サンプル水電磁弁24を開き、サンプル水電磁弁3,23を閉じることで、処理液循環系L3のサンプル水を吸光光度測定部A1に供給する。このようにして、複数の処理液循環系L1,L2,L3の処理液を共通の吸光光度測定部A1に順次切換えて供給し、この吸光光度測定部A1と塩素濃度演算部17(図1参照)とにより、複数の処理液循環系L1,L2,L3の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度(DPD塩素濃度という)を順次測定する。
【0053】
一方、酸化還元電位計Bの測定部B1,B2,B3およびこれらに対応するORP電極変換器18(図1参照)は、複数の処理液循環系L1,L2,L3に対するそれぞれの自動管理装置M1,M2,M3に設けられ、それぞれの処理液循環系L1,L2,L3の酸化還元電位(ORP値という)をそれぞれ測定する。
【0054】
この図4に示されるように、測定対象の処理液槽T1,T2,T3が複数の場合は、吸光光度測定部A1への検水ラインをサンプル水電磁弁3,23,24を介して接続し、1台の塩素濃度計Aで濃度を測定する。この塩素濃度計Aは、バッチ式測定のため複数の処理液循環系L1,L2,L3の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を順次測定することに適している。一方、酸化還元電位計Bの測定部B1,B2,B3は各槽T1,T2,T3の処理液循環系L1,L2,L3にそれぞれ設置してリアルタイムの制御を行なうことに適している。
【0055】
この図4に示された実施の形態によれば、高価な自動化された吸光光度法による塩素濃度計Aの1つを、複数の処理液循環系L1,L2,L3に対して有効に利用でき、コストが安く済むとともに、安価な酸化還元電位計Bにより、複数の処理液循環系L1,L2,L3のORP値bの変化を常時監視して、吸光光度法による測定で得られたDPD塩素濃度a1の濃度変化に対応するORP値bの変化を利用して制御用塩素濃度a2を算出し、この制御用塩素濃度a2に基づき処理液循環系L1,L2,L3の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を連続制御するので、従来のような塩素濃度検出用電極の校正機構がなくても、吸光光度法により正確な遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を継続的に管理できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の自動管理装置Mの製造および販売などに関する産業において利用できる。
【符号の説明】
【0057】
A 自動化された吸光光度法による塩素濃度計
B 酸化還元電位計
C 制御部
D 塩素濃度調整部
L,L1,L2,L3 処理液循環系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動化された吸光光度法により処理液循環系から採取したサンプリング液の塩素濃度を時間を置いて測定するとともに、サンプリング液の酸化還元電位を連続的に測定し、
上記吸光光度法による測定間は、上記吸光光度法による測定で得られた塩素濃度の濃度変化に対応する上記酸化還元電位の変化を利用して最適に制御するために予測される制御用塩素濃度を算出し、
この制御用塩素濃度に基づき処理液循環系の塩素濃度を連続制御する
ことを特徴とする塩素濃度の自動管理方法。
【請求項2】
自動化されたジエチル−p−フェニレンジアミン試薬による吸光光度法により処理液循環系から採取したサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を時間を空けて測定する塩素濃度計と、
上記サンプリング液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計と、
上記吸光光度法による塩素濃度計で測定したサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の濃度変化と上記酸化還元電位計で測定したサンプリング液の酸化還元電位をこのサンプリング液の液温度により補正した補正酸化還元電位値の変化とを対応させて遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度の予測制御係数を算出し、この予測制御係数と最新の酸化還元電位とにより最適に制御するために予測される制御用塩素濃度を算出し、この制御用塩素濃度に基づき、処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を予め設定された設定値にフィードバック制御する制御信号を算出して出力する制御部と、
この制御部から出力された制御信号により処理液循環系の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を調整する塩素濃度調整部と
を具備したことを特徴とする塩素濃度の自動管理装置。
【請求項3】
自動化されたジエチル−p−フェニレンジアミン試薬による吸光光度法の塩素濃度計は、複数の処理液循環系に対して1つが設けられ、この塩素濃度計に複数の処理液循環系から順次切換えて供給された複数のサンプリング液の遊離残留塩素濃度または残留塩素濃度を順次測定し、
酸化還元電位計は、複数の処理液循環系に対してそれぞれ設けられ、複数のサンプリング液の酸化還元電位をそれぞれ測定する
ことを特徴とする請求項2記載の塩素濃度の自動管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−169859(P2011−169859A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36227(P2010−36227)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000226002)株式会社ニクニ (25)
【Fターム(参考)】