説明

塩類添加乳飲料及び飲料の風味改善方法

【課題】乳製品含量が少ないにもかかわらず、乳様の濃厚感が付与された飲料を提供すること。
【解決手段】乳製品及び添加された塩類を含む飲料であって、添加された塩類の含有量が飲料全量に対して0.0005〜0.1質量%であることを特徴とする飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳製品を含有する飲料であって、乳製品のコク味及び旨みが強化された飲料及び飲料の風味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳製品を含む飲料には栄養価値、乳由来の豊かな風味、濃厚感などの生理学的、官能的特性が求められている。これらの特性の内、濃厚感を高める目的で乳製品を使用する場合には、単純に乳製品の添加量を増やすという方法が考えられるが、コスト高になること、乳脂肪などが増加することにより保存安定性が低下すること、また、乳固形分3%以上の製品を製造する場合は、乳飲料製造業の許可が必要となるなど、乳製品の使用量には自ら制約がある。
乳製品の使用量を増加させずに濃厚感を付与する方法としては、フレーバーの使用、増粘多糖類の添加、糖類の添加、食物繊維の添加、デキストリンの添加などが提案されている(例えば特許文献1及び2)。
しかしながら、これらの添加によっても、制約された使用量の乳製品を含む飲料に乳製品特有の濃厚感を付与するには不十分であり、更なる改良が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−41118号公報
【特許文献2】特表2004−520851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするところは、乳製品を含有する飲料において、乳製品含量が少ないにもかかわらず、乳様の濃厚感が付与された飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、検討を行った結果、乳製品を含む飲料に塩類を添加することで、乳製品特有の風味を損なわずにコク味及び旨味を付与できることを見出した。また、乳製品及びデキストリンを含む飲料に塩類を添加することで、さらにコク味及び旨味が増強されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は下記の飲料及び飲料の風味改善方法を提供するものである。
1.乳製品及び添加された塩類を含む飲料であって、添加された塩類の含有量が飲料全量に対して0.0005〜0.1質量%であることを特徴とする飲料。
2.乳製品の含有量が、乳固形分として飲料全量に対して5質量%未満である上記1記載の飲料。
3.塩類が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1又は2記載の飲料。
4.塩類が、塩化ナトリウムである上記1又は2記載の飲料。
5.さらにデキストリンを含む、上記1〜4のいずれか1項記載の飲料。
6.デキストリン含量が飲料全量に対して0.3〜10質量%である、上記5記載の飲料。
7.デキストリンのDE値が20以下である、上記5又は6記載の飲料。
8.コーヒー又は紅茶である上記1〜7のいずれか1項記載の飲料。
9.乳製品、又は乳製品及びデキストリンを含む飲料に塩類を添加することを特徴とする飲料の風味改善方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、乳製品を含有する飲料のコク味、旨味を共に強化し、飲料の風味を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に使用する乳製品とは、生乳を原料として製造される製品であれば特に限定されず、乳脂肪分、乳タンパク、乳糖や、微量のミネラル、リン脂質、ビタミン、有機酸等を含む製品が挙げられる。本発明の飲料に原材料として使用される好ましい乳製品の例としては、牛乳、脱脂乳、生クリーム、バター、脱脂粉乳、全粉乳、加糖全脂練乳、加糖脱脂練乳、濃縮乳等が挙げられる。
本発明に使用する塩類とは、飲食可能な塩類であればよく、例えば、無機酸(例えば、塩酸、硫酸、リン酸、炭酸等)や有機酸(例えば、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸等)のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩などが挙げられる。嗜好の観点からいえば塩化ナトリウム、塩化カリウムが好適であり、塩化ナトリウムが特に好ましい。これらの塩類は、単独あるいは組合わせて使用することができる。
なお、飲料に使用するほとんどの乳製品原料は、乳製品由来の塩化ナトリウムを含んでいるため、最終的に乳製品を使用して製造された飲料製品も塩化ナトリウムを含んでいる。しかしながら、この程度の塩化ナトリウムの含有量では本発明の効果を発揮することは出来ない。
【0008】
本発明で使用するデキストリンは、澱粉の加水分解物である。典型的には、澱粉を酸又は酵素により、あるいはその両者により加水分解し、中和または酵素失活によって加水分解を止めた後、精製、濃縮、必要に応じて乾燥して得られる澱粉分解物である。特に好ましいデキストリンは、加水分解の程度を表すDE値が20以下、さらに好ましくは15以下のものである。DE値が20以下のデキストリンは、平均分子量が大きくなり、その粘度特性により、飲料に含まれる乳製品由来のコク味及び旨味を増強することが出来るためである。
本発明の飲料は、前記乳製品及び添加された塩類を含む飲料、好ましくはさらにデキストリンを含む飲料であれば特に制限は無く、酸性飲料、低酸性飲料、炭酸飲料、非炭酸飲料、ドリンクゼリー等あらゆる形態の飲料を含む。具体的な飲料の例としてはコーヒー、紅茶、乳性飲料、ココア等が挙げられる。
本発明の乳製品を含む飲料は、飲用乳の表示に関する公正競争規約で定める乳固形分が3%以上の乳飲料、乳固形分が3%に満たない飲料のいずれでもよいが、乳固形分が5質量%未満、好ましくは4質量%未満、さらに好ましくは3質量%未満であれば本発明の効果をより顕著に発揮することができる。
【0009】
本発明は、上述の乳製品を含む飲料に塩類が添加されていること、すなわち、乳製品由来の塩類の他に添加された塩類を含有することを特徴とするものである。
本発明者らは乳製品を含む飲料に0.0005〜0.1質量%の塩類を添加することで、該飲料に乳様の濃厚感を付与できることを見出した。塩類の添加量が飲料全量に対して0.0005質量%より少なければ乳様の濃厚感を付与するには至らず、0.1質量%より多ければ、塩味が強調されて、本発明の目的からはずれたものになってしまう。
前記乳製品を含む飲料への塩類の添加は、それ自身乳製品由来のコク味及び旨味付与に効果的であるが、さらにデキストリンを加えることにより、その効果を一層増強させることができる。すなわち、デキストリンは、飲料に使用される他の糖質と比較して分子量が大きく、この粘度特性により、乳製品及び塩類を含む飲料のコク味及び旨味をさらに強化することができる。その添加量は飲料全量に対して好ましくは0.3〜10質量%、より好ましくは0.5〜5.0質量%である。0.3質量%より少なければ乳製品由来のコク味及び旨味の強化が不十分であり、また10重量%以上であれば、過度にコク味が付与されて糊っぽくなり、食感の悪いものになってしまうためである。
【0010】
本発明の飲料は、通常の飲料に乳製品及び塩類(例えば、食塩)を添加し、好ましくはさらにデキストリンを添加する点を除き、一般的な飲料の製法と同様の製法で製造することができる。さらに詳しくは、従来の製造工程に従って、例えばコーヒー飲料であれば、熱水にて抽出したコーヒー液を冷却後、ろ過を行い、得られたろ過液と砂糖、デキストリン等の糖質、及び食塩、牛乳や脱脂粉乳などの乳製品、重曹、乳化剤などの常用の成分とを混合、調合し、これを容器に充填し、さらに殺菌処理した後、冷却して、目的とする飲料を製造できる。
【実施例】
【0011】
実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
表1の乳飲料処方(単位:g)(飲料全量に対する乳固形分含有量4.2質量%)に従い、コーヒー豆を10倍の熱水にて85℃5分間抽出し、冷却後ろ過しコーヒー抽出液を調製した。抽出液に他の原料をあわせ60℃まで加温したものを200kg/cm2の圧力でホモゲナイズ処理した。出来上がった乳飲料を缶詰後、レトルト殺菌機にて、125℃20分間の条件で殺菌し、比較例1〜2と本発明1〜6の製品試料を得た。
【0012】
【表1】

*松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#2
【0013】
得られた比較例1〜2及び本発明1〜6の製品試料を、パネラー5名に試飲させ官能評価を行った。各パネラーが、比較例1のコク味と旨味の強さを1としたときのコク味及び旨味についてそれぞれの強さの順に加点して順位付けをし、それらを平均して順位を決定した(すなわち、数値が大きいほど順位が高いことを示す)。この乳飲料官能試験結果を表2に示す。
【0014】
【表2】

表2の結果より、本発明で得られた乳飲料(本発明品1〜6)は、塩化ナトリウムを配合していない比較例1〜2と比較し、コク味も旨味も強化されていることが判った。
また、デキストリンを配合することにより、雑味のない、より自然な濃厚感が得られた。
【0015】
実施例2
表3の乳飲料処方(単位:g)(飲料全量に対する乳固形分含有量4.2質量%)に従い、製造工程は実施例1と同様にし、比較例3〜7と本発明7〜11の製品試料を得た。
【0016】
【表3】

*1:松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#6
*2:松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#3
*3:松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#4
*4:松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#2
*5:松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#100
得られた比較例3〜7と本発明7〜11の製品試料を、パネラー5名に試飲させ官能評価を行った。すなわち、比較例3のコク味と旨味の強さをそれぞれ1としたときのコク味及び旨味について実施例1と同様に評価した。この乳飲料官能試験結果を表4に示す。
【0017】
【表4】

表4の結果より、本発明で得られた乳飲料(本発明品7〜11)は、食塩を配合していない比較例3〜7と比較し、コク味も旨味もバランス良く強化されていることが判った。
【0018】
実施例3
表5のコーヒー飲料処方(単位:g)(飲料全量に対する乳固形分含有量2.6質量%)に従い、製造工程は実施例1と同様にし、比較例8〜10と本発明12〜15の製品試料を製造した。
【0019】
【表5】

*:松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#2
得られた比較例8〜10と本発明12〜15の製品試料を、パネラー5名に試飲させ官能試験を行った。すなわち、比較例8のコク味、旨味、塩味の強さをそれぞれ1として、実施例1と同様に評価した。このコーヒー飲料官能試験結果を表6に示す。
【0020】
【表6】

表6の結果より、本発明のコーヒー飲料試料(本発明品12〜15)は、比較例8〜10と比較し、コク味、旨味共に強化されていることが判った。また比較例10はコク味、旨味共に強化されているが、わずかに塩味が感じられ、全体的な味のバランスがくずれたものとなった。
【0021】
実施例4
表7のミルクティー処方(単位:g)(飲料全量に対する乳固形分含有量2.8質量%)に従い茶葉を30倍で85℃5分の熱水で抽出し、冷却後ろ過し紅茶抽出液を調製した後、実施例1と同様に比較例11と本発明16〜19の製品試料を製造した。











【0022】
【表7】

*松谷化学工業株式会社製商品名パインデックス#2
得られた比較例11と本発明16〜19のミルクティーを、パネラー5名に試飲させ官能試験を行った。すなわち、比較例11のコク味、旨味、塩味の強さをそれぞれ1として、実施例1と同様に評価した。このミルクティー官能試験結果を表8に示す。
【0023】
【表8】

表8の結果より、本発明で得られた塩類添加ミルクティー試料(本発明品16〜19)は、塩類無添加の比較例11と比較し、コク味、旨味共に強化されていることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳製品及び添加された塩類を含む飲料であって、添加された塩類の含有量が飲料全量に対して0.0005〜0.1質量%であることを特徴とする飲料。
【請求項2】
乳製品の含有量が、乳固形分として飲料全量に対して5質量%未満である請求項1記載の飲料。
【請求項3】
塩類が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の飲料。
【請求項4】
塩類が、塩化ナトリウムである請求項1又は2記載の飲料。
【請求項5】
さらにデキストリンを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の飲料。
【請求項6】
デキストリン含量が飲料全量に対して0.3〜10質量%である、請求項5記載の飲料。
【請求項7】
デキストリンのDE値が20以下である、請求項5又は6記載の飲料。
【請求項8】
コーヒー又は紅茶である請求項1〜7のいずれか1項記載の飲料。
【請求項9】
乳製品、又は乳製品及びデキストリンを含む飲料に塩類を添加することを特徴とする飲料の風味改善方法。

【公開番号】特開2007−215451(P2007−215451A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38040(P2006−38040)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】